JP2008240331A - 塔状構造物の制振構造およびその諸元設定方法 - Google Patents

塔状構造物の制振構造およびその諸元設定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来一般のTMDのように大きな付加質量や充分な設置スペースを必要とせずに風や地震の揺れに対する塔状構造物の共振特性を大幅に改善する。
【解決手段】塔本体1と、その内部に自立状態で設置されて塔本体と独立に挙動するコア部2とにより構成され、コア部の曲げ剛性が塔本体の曲げ剛性よりも小さく設定されるとともに、それら塔本体とコア部とが任意の位置においてダンパー3を介して連結される塔状構造物に対し、上記のダンパーと並列に付加バネ4を設置し、その付加バネおよびコア部の質量と曲げ剛性とによって定まる振動数が塔本体の固有振動数にほぼ同調するように各諸元を最適に設定する。
【選択図】図1

Description

本発明は、たとえば通信塔や超高層建物等の塔状構造物に適用する制振構造およびその諸元設定方法に関する。
この種の塔状構造物はアスペクト比(幅に対する高さの比率)が大きいことから曲げ変形が卓越して地震だけでなく風に対しても揺れやすいものとなり、そのため転倒モーメントによって基礎に作用する変動軸力の処理や風揺れに対する居住性の低下の問題等、解決すべき課題が多い。
それを解決するための構造として、塔状構造物の頂部に付加質量を設置するという所謂チューンド・マス・ダンパー(Tuned Mass Danper:TMD)が知られているが、風のみならず地震のような過渡応答にも効果を発揮するためには構造物全体の5%以上もの付加質量の設置を必要とし、構造物への負荷や設置スペースを考慮すると現実的ではない。
また、たとえば特許文献1〜2に示されているように、塔状構造物を塔本体とコア部とにより分離してそれらの間にダンパーを介装するといういわゆる連結制振構造も知られている。これは塔本体とコア部の振動性状(固有振動数や固有モード)の違いを利用してダンパーを作動させることにより応答低減を図るものである。
特開2001−234645号公報 特開2000−136651号公報
特許文献1に示されるような連結制振構造は、TMDのように大きな付加質量を必要とせずに風のみならず地震時にも有効ではあるものの、TMDに比較すれば共振特性を充分に改善できるものではない。また、特許文献2に示されるような連結制振装置は、もっぱら地震時を対象として、定点定理に基づき連結ダンパーを最適化することでTMDと同様の効果をもつものの、引っ張りにしか抵抗しないケーブルを引き回して剛性調整することは長大な設置スペースを要し、現実的でない。
上記事情に鑑み、本発明は従来一般のTMDのように大きな付加質量や充分な設置スペースを必要とせずに塔状構造物の共振特性を劇的に改善でき、風のみならず地震にも有効に機能する優れた制振構造およびその諸元設定方法を提供することを目的とする。
本発明の制振構造およびその諸元設定方法は、塔本体と、その内部に自立状態で設置されて前記塔本体と独立に挙動するコア部とにより構成され、該コア部の曲げ剛性が前記塔本体の曲げ剛性よりも小さく設定されるとともに、それら塔本体とコア部とが任意の位置においてダンパーを介して連結されてなる塔状構造物に適用されるものであって、前記ダンパーと並列に付加バネを設置するとともに、該付加バネおよび前記コア部の質量と曲げ剛性とによって定まる振動数が、前記塔本体の固有振動数にほぼ同調するように、該付加バネを設定するようにしたものである。
本発明の制振構造は、塔本体とは独立に自立状態で設置したコア部の質量があたかもTMDにおける付加質量として機能し、それにより風や交通振動のような小振幅だけでなく地震時の大振幅に対しても充分な応答低減効果が得られる。そして、従来一般のTMDのように付加質量としての格別の錘を必要としないのでその錘の重量が構造物への負荷になることはないし、全体の10〜20%にもなるコア部の質量を有効に利用できることから充分なる制振効果が得られる。
また、ダンパーおよび付加バネは任意の特定箇所に限定的に設置すれば充分であるので建築計画上の制約が少ないし設置コストも安く、さらに塔状構造物の構造形式や規模、形態に応じて付加バネの値を調整することのみで最適設計を容易に行うことができる。
本発明の一実施形態を図1〜図3を参照して説明する。本実施形態の塔状構造物は通信塔であって、基本的にはその主体である塔本体1と塔本体の内側中心部に配置されたコア部2とからなる。
塔本体1は数百メートルの高さを有し、その頂部にはアンテナ1aが設置され、中間部には通信機器を設置しかつ展望台としても使用することのできる機械室1bが設置されている。
コア部2はエレベータや階段を設置するための円形断面の筒状のもので、その頂部は上記の機械室1bの内側を挿通してそれらの間には相対変位を許容するためのクリアランスが確保されている。なお、コア部2は円形断面に限らず矩形断面でも良く、いずれにしてもその面積は塔本体1の1/10程度とすることが良い。
塔本体1は鉄骨造のラーメン架構やトラス架構からなり、コア部2は耐震壁やブレース架構等により補剛された鉄筋コンクリート造とされているが、それら塔本体1およびコア部2はいずれも地盤あるいは共通の基礎から独立に自立状態で立設されており、それらは構造的には分離されていて独立に挙動するものとされている。
すなわち、それら塔本体1およびコア部2の剪断剛性はこの種の構造物に要求される強度を満足するように充分に大きく設定されているが、いずれもアスペクト比が充分に大きいことから剪断変形よりも曲げ変形が支配的になり、かつ塔本体1よりもコア部2の方がアスペクト比が大きい(より細長い)ことから、コア部2の曲げ剛性は塔本体1のそれよりも小さい(柔らかい)ものとなる。したがってコア部2は塔本体1よりも相対的に曲げ剛性が小さく、風荷重や地震荷重を受けた際にはコア部2は塔本体1と独立に振動することにより、それらの間には水平方向の相対変位が生じることになる。
上記のように構造的に分離されて独立に挙動する塔本体1とコア部2とは、コア部2の頂部が塔本体1の機械室1bに対してダンパー3を介して連結されているとともに、そのダンパー3には並列に付加バネ4も設置されており、塔本体1とコア部2とが水平方向に相対変位した際にはそれらダンパー3と付加バネ4とが作動するようになっている。
ダンパー3は特許文献1〜2に示される連結制振構造において使用されているものと同様のもので良く、たとえばオイルダンパー等の粘性系のものや、摩擦ダンパー等の履歴系のものが好適に採用可能である。また、バネと減衰性能を併せもつ粘弾性ダンパーを用いても良い。
付加バネ4としては適宜の弾性要素が任意に採用可能であるが、本実施形態ではその付加バネ4を以下のようにコア部2の質量とその曲げ剛性、および塔本体1の固有振動数との関連において最適に設定するものとしている。
すなわち、本実施形態においては、付加バネ4およびコア部2の質量と曲げ剛性とによって定まる振動数が、塔本体1の固有振動数にほぼ同調するように付加バネ4を最適に設定するものとしている。付加バネ4をそのように設定することにより、コア部2の有効質量があたかも従来一般のTMDにおける付加質量のように挙動するものとなり、それにより従来一般のTMDのように格別の付加質量を設置することなく、TMDを設置した場合と等価の優れた制振効果が得られるものとなる。
以下、付加バネ4の諸元設定手法について具体的に説明する。図1に示した制振構造は図2(a)に示すようにモデル化でき、さらに(b)に示すように塔本体1およびコア部2をそれぞれ1質点系とした振動モデルとしてモデル化できる。
塔本体1の質量m、剛性k,減衰cとし、コア部2の質量m、剛性k,減衰cとし、塔本体1とコア部2の間に介装したダンパー3の減衰c,付加バネ4のバネ定数k(以下、単に付加バネkと記す)とする。この塔状構造物の振動はコア部2よりも塔本体1が支配的になるので、その塔本体1の固有1次角振動数ωとし、塔本体1の減衰定数h,コア部2の減衰定数hとすると、それらの間には次の関係がある。
Figure 2008240331
塔本体1の頂部に風荷重が加振力として作用するとして加振力f(t)を次式により想定し、図2(b)に示す振動モデルにおいて塔本体1の加振方向変位をx、コア部2の加振方向変位をxとすると、それらの静止座標系(絶対変位)での釣り合い式は次式となる。
Figure 2008240331
変位xを角振動数ωの正弦波振動xとし、また各諸元を次式で表す。
Figure 2008240331
振動方程式は次式となる。
Figure 2008240331
上式においてf/kは加振力f(t)が塔本体1に対して静的に作用したときの変位を表し、したがって加振力f(t)による塔本体1の応答倍率(静的変位f/kに対する動的変位振幅xの比)は次式で求められる。なお、次式は複素数表示しているのでその絶対値が実際の応答倍率となる。
Figure 2008240331
(1)式において共振点(ξ=ω/ω=1)での応答を低減するためには分母を大きくすれば良く、そのためには第2項における分母(破線で囲んだ式)を小さくすれば良く、減衰の影響が小さいことからその分母における虚部の影響は無視し、実部を最小値0とすれば次式となる。
Figure 2008240331
(2)式における左辺は「コア部2の剛性kと付加バネkを加算した剛性と、コア部2の質量mとにより定まる角振動数」を表し、したがって(2)式はその角振動数を「塔本体1の剛性kと質量mにより定まる固有1次角振動数ω」に同調(合致)させることを意味しており、そのような同調を行うことによって塔本体1の応答が共振点近傍において大きく低減し得ることを意味している。つまり、「付加バネkおよびコア部2の質量mと剛性kとによって定まる振動数」を、塔本体1の固有振動数に同調するように付加バネkを設定することにより、塔本体1の共振点近傍における応答を効果的に低減できることになる。
但し、上記の同調とは必ずしも厳密に合致させることに限るものではなく、現実的には(2)式を基本としつつ諸条件を考慮して付加バネkを最適に設定すれば良く、たとえば、付加減衰を考慮する場合には付加バネkを(2)式で求められる値よりもやや小さく設定することが好ましい。以下にその場合の具体例に示す。
図1に示す塔状構造物が600m級の通信塔であって、塔本体1がコンクリート充填鋼管柱や鋼管柱を主体とするトラス構造であり、コア部2はコアウォールを主体とする鉄筋コンクリート造であり、コア部2の重量mが塔本体1の重量mの20%、コア部2の剛性kが塔本体の剛性kの5%、ダンパー3の減衰cが塔本体1に対し3%、付加バネkが塔本体1の剛性kの10.5%とする。つまり、本制振構造に関わる各諸元が
=0.2m
=0.05k
=2×0.03mω
=0.105k
であるとする。
その場合において、塔本体1およびコア部2の減衰定数h,hがいずれも2%の場合には、図3(a)に示すように塔本体1単独では応答倍率が25倍にもなり、塔本体1とコア部2とを剛結しても若干低下するに過ぎないが、塔本体1とコア部2とを上記のダンパー3および付加バネ4により連結すれば応答倍率は4倍程度まで激減(最大応答が84%低減)し、コア部2の応答倍率も8倍程度に過ぎない。
また、塔本体1およびコア部2の減衰定数h,hがいずれも1%の場合には、図3(b)に示すように塔本体1単独では応答倍率が50倍、塔本体1とコア部2とを剛結しても40倍以上であるが、上記のダンパー3および付加バネ4により連結すれば応答倍率は(a)の場合と同等であり、したがって応答低減効果はより大きくなる(最大応答が92%低減)。
したがって上記のような諸元設定が応答低減効果を得るうえでほぼ最適であるといえ、その場合における各諸元を(2)式に代入すれば
Figure 2008240331
となる。
つまり、コア部2の剛性kと付加バネkを加算した剛性(k+k)の値を、(2)式で求められる値よりも22.5%だけ小さく設定した場合に最適な応答低減効果が得られることになる。
以上で説明した本実施形態の制振構造の効果を以下に列挙する。
本制振構造は、塔本体1とは独立に自立状態で設置したコア部2の質量をあたかもTMDにおける付加質量のごとく利用するので、従来一般のTMDのように付加質量として格別の錘を必要とせず、その錘の重量が構造物への負荷になることがない。
そのため、従来のTMDでは付加質量を構造物の1〜2%程度とすることが限界で充分な制振効果が得られないものであったが、本制振構造では全体の10〜20%にもなるコア部2の質量を有効に利用でき、風や交通振動のような小振幅だけでなく地震時の大振幅に対しても充分な応答低減効果が得られる。
特に、構造物の共振による応答増大を防止する機構であるから、共振点近傍での応答変位や反力を大きく低減することができ、地下基礎部への負担軽減や浮き上がり防止効果も得られる。また、塔本体1の応答変位を低減することで、頂部のアンテナ傾斜角も小さくなり、通信の安定性が向上し、展望台等における居住性も向上する。
塔状構造物のコア部2のアスペクト比は塔本体1に比べて自ずと大きくなり、したがってコア部2の水平剛性は塔本体1に比較して自ずと小さくなって上記のようにコア部2全体がTMDにおける付加質量として自ずと有効に機能するものとなるが、コア部2の剛性が塔本体1に比べてあまり小さくない場合には付加バネ4の値を調整することで同様に充分な制振効果が得られ、塔状構造物の構造形式や規模、形態に応じた最適設計を容易に行うことができる。
しかも、ダンパー3および付加バネ4は特定箇所(たとえば上記実施形態のようにコア部2の頂部のみ)に限定的に設置すれば充分であり、したがって従来のTMDに比べれば格別の錘を必要としないこととも相まって建築計画上の制約が少なく設置コストが安くなる。
なお、ダンパー3および付加バネ4はコア部2と塔本体1との相対変位が大きい位置に設置することが好ましく、したがって上記実施形態のようにコア部2の頂部を塔本体1に対して連結する位置に設置することが最も効果的であるが、その連結位置は頂部に限定されることなく任意であるし、1次モード以外の高次の振動モードを抑制するため高さ方向に位置を変えて複数箇所において連結することでも良い。
また、上記実施形態は通信塔への適用例であるが、本発明は文字どおりの塔(タワー)に限らず塔状の形態の構造物全般に適用可能である。
図4は超高層建物への適用例を示すもので、平面形状が略正方形状とされた建物本体部11を上記実施形態における塔本体1に相当するものとして設けて、その中心部にコア部12を自立状態で独立に立設し、建物本体部11の頂部に設けた屋根トラス13とコア部12の頂部との間にダンパー3と付加バネ4を介装してその諸元を上記実施形態と同様に設定したものである。なお、コア部12の周囲には相対変位を許容するためのクリアランスを確保する必要があるが、そこにはエキスパンションジョイントを設置すれば良い。
このような超高層建物に適用した場合も、コア部12のアスペクト比は建物本体部11よりも自ずと大きくなるからその剛性は相対的に小さくなり、したがって風荷重や地震荷重により双方が相対変位した際にはダンパー3と付加バネ4が有効に作動してコア部12全体の質量があたかもTMDにおける付加質量として機能し、建物本体部11の共振特性を大幅に改善することが可能である。
本発明の制振構造の一実施形態を示す概要図である。 同、モデル図である。 同、応答低減効果を示す図である。 同、他の実施形態を示す概要図である。
符号の説明
1 塔本体
1a アンテナ
1b 機械室(展望台)
2 コア部
3 ダンパー
4 付加バネ
11 建物本体部(塔本体)
12 コア部
13 屋根トラス

Claims (2)

  1. 塔本体と、その内部に自立状態で設置されて前記塔本体と独立に挙動するコア部とにより構成され、該コア部の曲げ剛性が前記塔本体の曲げ剛性よりも小さく設定されるとともに、それら塔本体とコア部とが任意の位置においてダンパーを介して連結されてなる塔状構造物に適用される制振構造であって、
    前記ダンパーと並列に付加バネを設置するとともに、該付加バネおよび前記コア部の質量と曲げ剛性とによって定まる振動数が、前記塔本体の固有振動数にほぼ同調するように、該付加バネを設定してなることを特徴とする塔状構造物の制振構造。
  2. 塔本体と、その内部に自立状態で設置されて前記塔本体と独立に挙動するコア部とにより構成され、該コア部の曲げ剛性が前記塔本体の曲げ剛性よりも小さく設定されるとともに、それら塔本体とコア部とが任意の位置においてダンパーを介して連結されてなる塔状構造物に適用される制振構造における諸元設定方法であって、
    前記ダンパーと並列に付加バネを設置するとともに、該付加バネおよび前記コア部の質量と曲げ剛性とによって定まる振動数が、前記塔本体の固有振動数にほぼ同調するように、該付加バネを設定することを特徴とする塔状構造物の制振構造における諸元設定方法。
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