JP4968682B2 - 振動低減機構およびその諸元設定方法 - Google Patents
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Description
また、従来一般のTMDは建物の頂部に設置することが効果的であるので、屋上等に設置スペースを確保する必要があるし、それを設置するうえでは建築計画上の制約を受けることも多い。
なお、回転慣性質量とは、2点間の相対加速度に比例した力を生じる質量効果であり、慣性接続要素と呼称されることもある。
しかも本発明は、回転慣性質量ダンパーの設置位置には制約がなく、任意の層に設置すれば充分であって各層に設置する必要はないし、従来のTMDのように構造物の頂部に設置する必要もなく、任意の特定層にのみ設置することで多層構造物全体に対して大きな振動低減効果が得られるものであり、したがって設置スペースを確保する上での制約は少なく、設置箇所数が少ないことからコストも安くて済む。
勿論、低減対象の振動数への同調は錘の質量や付加バネの値を調整することで自由にかつ幅広く行うことができ、構造物全体の固有1次モードのみならず固有2次モードやさらに高次モードの振動、あるいは共振が問題となっている特定振動数を対象とする振動低減効果も得られる。
本実施形態の振動低減機構の基本原理は、従来一般のTMDと同様に、構造物に対して付加バネを介して付加質量を設置し、それら付加バネと付加質量とにより定まる固有振動数を構造物の固有振動数に同調させて振動低減効果を得るというものであるが、本実施形態においては単なる付加質量に代えて錘の回転により生じる回転慣性質量を利用するものである。
すなわち、本実施形態の振動低減機構は、図1に示すように構造物(図示例は3階建ての建物)の任意の層に、層間変位が生じた際に作動して錘を回転させることにより所定の回転慣性質量Ψ0を生じる回転慣性質量ダンパー1を設置するとともに、その回転慣性質量ダンパー1に対して付加バネ2を直列に設置することを主眼とする。
なお、この振動低減機構には付加減衰3も必要であり、その付加減衰3は図示しているように付加バネ2に並列に設置するか、または回転慣性質量ダンパー1に対して並列に設置すれば良い。あるいは、回転慣性質量ダンパー1に付加減衰3を並列に組み込み一体化したものもあるので、それを用いる場合には他に格別の付加減衰を設置する必要はない。
x=αθ
の関係があるとき、摩擦等による回転ロスを無視すると、この回転慣性質量ダンパー1の変位方向の慣性力(制御力)Pは次式で表される。
勿論、回転慣性質量Ψ0の大きさは、錘の質量とその径寸法および径方向の質量分布により決定されるものであり、錘の質量が大きいほど、径寸法が大きいほど、質量が内周部よりも外周部に分布しているほど回転慣性質量Ψ0は大きくなるから、それらを適正に設定することによって回転慣性質量Ψ0を所望の大きさに設定することができ、所望の振動低減効果を得られる。
すなわち、一般に質量mとバネkによる振動系における固有角振動数ωは
ω2=k/m
なる関係で定まるのと同様に、本実施形態のような回転慣性質量ダンパー1と付加バネ2とによる振動系においては、その固有角振動数Ωは回転慣性質量Ψ0および付加バネ2のバネ定数k0から
Ω2=k0/Ψ0
なる関係で定まる。したがって、その固有角振動数Ωをたとえば構造物全体の固有1次角振動数ω1に一致させれば、つまり
Ω2=k0/Ψ0=ω1 2
の関係が成り立つようにΨ0およびk0の値を設定すれば、従来のTMDを設置した場合と同様に構造物全体の固有1次モードの振動に対する応答を大きく低減させることができ、特に風揺れに対する充分な低減効果が得られる。
Ω2=k0/Ψ0=ω2 2
となるようにΨ0およびk0の値を設定すれば、固有2次モードの振動に対する応答を大きく低減させることができる。
同様に、必要であればさらに高次の固有角振動数に同調させたり、機械振動のような特定の振動数を対象とする場合にはその振動数に同調させることにより、目的とする振動数との共振による応答増大を有効に防止することができる。
なお、付加減衰があることにより、上記の固有角振動数Ωは厳密には構造物の固有振動数と一致しないが、ほぼ同じになるため、両者を一致させると表記している。
そのため、必要であれば回転慣性質量ダンパー1に過大な力が作用して破損するようなことを防止するために、付加バネ2の負担力にリミッターをかけることも考えられる。そのためのリミッター機構としては、たとえば付加バネ2が許容限度を超える負担力を受けた際には降伏するようにしたり、あるいは付加バネ2にすべり機構を直列に配置しておくことが考えられる。また、回転慣性質量ダンパー1に作用する相対加速度が許容限度を超えた場合には錘が空回りして回転慣性質量Ψ0が過大にならないようにしても同様のリミッター効果が得られる。
また、以上で説明したように回転慣性質量ダンパー1を層間変位により作動させて水平振動を対象として振動低減効果を得ることに代え、回転慣性質量ダンパー1を上下方向の振動に対して作動するように設置すれば、同様の原理で上下振動に対する振動低減効果を得ることができる。
図1に示した3階建ての建物は図2(a)に示すような3質点系の振動モデルとして考えることができる。そのモデルに対して、時刻tにおける変位加振入力x(t)を
x(t)=x0・eiωt
として想定し、質点j(j=1〜3)の加振方向変位をxj、加振点変位をx0とすると、質点jの静止座標系(絶対変位)の釣合式は、
xj=xjeiωt
であり、また、各層の固有角振動数ω0が
ω0 2=k1/m1(=k2/m2=k3/m3)
であり、
h1=c1/(2m1ω0)
ξ=ω/ω0
とすると、
上式から求まる|xj/x0|(複素数の絶対値)が加振入力に対する各質点の応答倍率を示し、その応答倍率は変位、速度、加速度のいずれについても同じものとなる。
f=3m1ω2x0
である。
この図から、この系の固有1次角振動数ω1は各層の固有角振動数ω0に対して、ω1≒0.445ω0であり、同様に固有2次角振動数ω2はω2≒1.25ω0であり、固有3次角振動数ω3はω3≒1.80ω0であり、それぞれの振動数の近傍においてピークが生じるものとなる。
図1(a)に示したように最下層(1階)に振動低減機構を設置した場合、その振動モデルは図3(a)に示すものとなる。
このモデルにおいて、質点jの加振方向変位をxj、回転慣性質量ダンパーと付加バネとの接合部の変位をxcとし、各質点jの静止座標系(絶対変位)の釣合式で表示すると
ω0 2=k1/m1
h0=c0/(2Ψ0ω0)
( ̄k0)=k0/k1
( ̄Ψ0)=Ψ0/m1
ξ=ω/ω0
とおく。なお、( ̄k0)はk0の上部に ̄(バー)がつくことを表し、( ̄Ψ0)はΨ0の上部に ̄がつくことを表す。
Ω2=k0/Ψ0=ω1 2
となるように回転慣性質量ダンパーおよび付加バネの諸元を設定した場合、具体的には、
ω1≒0.445ω0
ω0 2=k1/m1
の関係から、
Ω2=ω1 2≒0.2ω0 2=0.2k1/m1
となるように設定し、かつ
回転慣性質量比 ( ̄Ψ0)=Ψ0/m1=0.2
付加バネのバネ比 ( ̄k0)=k0/k1=0.04
付加減衰定数 h0=c0/(2Ψ0ω0)=0.03
とした場合における頂部質点(および底部質点)の応答倍率を図3(b)に示し、固定端の反力比率を(c)に示す。
これらの図から、回転慣性質量ダンパーと付加バネからなる振動低減機構を最下層にのみ設置しただけでも、その固有角振動数Ωを構造物全体の固有1次角振動数ω1に同調させることにより、1次モードの振動に対する頂部の最大応答変位を約75%も低減させることができ、かつ固定端反力を大幅に低減できることがわかる。
Ω2=k0/Ψ0=ω2 2
となるように回転慣性質量ダンパーおよび付加バネの諸元を設定し、かつ付加バネを大きくして、
付加バネのバネ比 ( ̄k0)=k0/k1=0.4
付加減衰定数 h0=c0/(2Ψ0ω0)=0.1
とした場合における応答倍率を(d)に示し、固定端への反力比率を(e)に示す。
この場合は、1次モードの振動に対する効果はなく、目的とする2次モードの振動に対する応答倍率と反力比率とを効果的に低減できることがわかる。
上記と同様の振動低減機構を中間層(2階)に設置し、1次モードに同調させた場合の結果を図4に示す。この場合は、最下層に設置する場合に比べ応答倍率やダンパー反力がやや増加するものの、最大応答を約68%も低減させることができ、中間層に設置することでも充分に有効であることがわかる。
上記と同様の振動低減機構を最上層(3階)に設置し、1次モードに同調させた場合の結果を図5に示す。この場合は、最下層や中間層に設置する場合に比べ応答倍率やダンパー反力の低減効果がやや低下するものの、最大応答を約50%も低減させることができるので充分に有効である。
振動低減機構を最下階に設置して1次モードに同調させた場合において、図6(a)に示すように、風荷重や機械振動などが建物の頂部に作用する場合、その加振入力を
f(t)=f0・eiωt
として想定すると、質点の釣合式は
2 付加バネ
3 付加減衰
Claims (2)
- 多層構造物の振動を低減する機構であって、
多層構造物の任意の層に、層間変形によって作動して錘の回転により回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに、該回転慣性質量ダンパーと直列に付加バネを設置し、回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数を前記多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数に同調させてなることを特徴とする振動低減機構。 - 多層構造物の振動を低減する機構の諸元設定方法であって、
多層構造物の任意の層に、層間変形によって作動して錘の回転により回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに、該回転慣性質量ダンパーと直列に付加バネを設置し、回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数を前記多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数に同調させるように回転慣性質量ダンパーと付加バネの諸元を設定することを特徴とする振動低減機構の諸元設定方法。
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