JP5146754B2 - 制振構造物 - Google Patents
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Description
また、制振構造物の他の例として、特許文献2に示すように固有周期の異なる構造物を連結したものが提案されている。
また、上記特許文献2に示す制振構造物では、連結することにより1つの構造物としているため、異なる周期の振動による振動の減衰効果は期待できない。連結構造にすることにより、連結部の曲げ剛性が上昇したり連結部でのダンパの減衰性能が向上したりするが、高層ビルで問題となる共振特性が大きく変わることはない。
本発明の制振構造物は、1階からn階までで構成される制振構造物であって、階全体を階数nの約数pで等分して複数のブロックに分け、前記1階を含む第1ブロックから前記n階を含む第pブロックまでの各前記ブロックの最も1階側の階のみに、自身が支持する上層構造物の重心を含む鉛直線に関して対称に配置され鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面に対して斜め方向に運動する少なくとも一対のアイソレータをそれぞれ備え、各前記ブロックに配置される前記少なくとも一対のアイソレータは、各前記ブロック毎に、1つの前記ブロックに備えられた前記少なくとも一対の各アイソレータに作用する合力が支持する前記上層構造物の重心の上方の所定の場所に向く前記アイソレータの第1の配置、1つの前記ブロックに備えられた前記少なくとも一対の各アイソレータに作用する合力が支持する前記上層構造物の重心の下方の所定の場所に向く前記アイソレータの第2の配置、及び、1つの前記ブロックに備えられた前記少なくとも一対の各アイソレータに作用する合力が支持する前記上層構造物の重心に向く前記アイソレータの第3の配置、のいずれか1つの仕様により配置され、前記アイソレータの第1の配置と前記アイソレータの第2の配置は、少なくとも1つの前記ブロックに配置される前記少なくとも一対のアイソレータに対してそれぞれ用いられることを特徴としている。
なお、ここで言う上層構造物とは、あるアイソレータが直接支持するブロックから最上階のn階を含む第pブロックまでの全てのブロックのことを意味する。
また、本発明の制振構造物においては、ダンパ等の能動的な減衰要因は備えられていない。しかし、アイソレータが例えば滑り方式あるいは転がり方式による場合には円弧軌道の方向(以下、「円弧方向」と称する)の摩擦が受動的な減衰要因となり、アイソレータが積層ゴム方式の場合には積層ゴムの円弧方向の運動における履歴特性による減衰(履歴減衰、あるいはヒステリシスによる減衰)が受動的な減衰要因となる。このように、新たに能動的な減衰要因を設けなくても既に制振構造物のアイソレータに受動的な減衰要因が存在していると考えることができる。
まず、本発明の制振構造物が水平方向の振動を受けた場合、第1の配置でアイソレータが配されているブロックと第2の配置でアイソレータが配されているブロックでは上層構造物の重心とアイソレータに作用する合力の向きの位置関係が異なるので、それぞれの上層構造物は重心を中心として互いに逆向きに回転する。そして、制振構造物にはアイソレータの第1の配置のブロックとアイソレータの第2の配置のブロックとが少なくとも1つそれぞれ備えられているので、このアイソレータの第1の配置のブロックとアイソレータの第2の配置のブロックとの間の円弧方向の変位を大きくすることができる。
従って、アイソレータの第1の配置のブロックとアイソレータの第2の配置のブロックとの間に配置された各ブロックの受動的な減衰要因により上層構造物の円弧方向の振動エネルギーを消費し、制振構造物の振動を効果的に減衰させることができる。なお、以下ではこの振動を減衰させる第1の効果を「大きなブロック間変位による効果」と称する。
本発明の制振構造物では、自身に作用する合力が支持する上層構造物の重心から上方又は下方にずれた第1の配置又は第2の配置のアイソレータを水平方向に振動させることにより、アイソレータの円弧方向の剛性だけでなく、より高い剛性を有する円弧垂直方向の剛性を利用して上層構造物をその重心回りに回転させることが可能となる。従って、アイソレータが水平方向の振動を受けてからそのアイソレータの上層構造物を回転させて一定の変位を生じさせるまでに要する時間を短縮させ、この上層構造物の変位により受動的な減衰要因で振動エネルギーを消費することで、水平方向の振動を受けてからより短時間で制振構造物の振動を減衰させることができる。なお、以下ではこの振動を減衰させる第2の効果を「速応性による効果」と称する。
なお、以下ではこの振動を減衰させる第3の効果を「重ね合わせによる効果」と称する。また、この重ね合わせによる効果は、制振構造物に受動的な減衰要因が存在しない場合でも生じる効果である。
以上説明したように、これらの3つの効果、すなわち、大きなブロック間変位による効果、速応性による効果、重ね合わせによる効果が一体となって、制振構造物の振動を効果的に減衰させることができる。
この発明によれば、ブロック間での円弧軌道の方向の変位が大きくなる第1の配置のアイソレータを備えたブロックと第2の配置のアイソレータを備えたブロックとが隣合う所をより多く設けることが可能となる。従って、各ブロックの受動的な減衰要因により各ブロックの振動エネルギーを消費し制振構造物の振動をより効果的に減衰させることができる。
そして、アイソレータの第1配置のブロックにおいて、少なくとも一対の各アイソレータに作用する合力が向く場所が支持する上層構造物の重心から上方に離間するほど縦剪断1次モードの振動周波数が大きくなり、振動している間における制振構造物の剛性を高くすることができる。
この発明によれば、第1の配置のアイソレータに作用する合力は上層構造物の重心の上方を向いているので、このアイソレータが支持する上層構造物が傾くのを防止し、制振構造物を安定させることができる。
なお、ここで言うk=1,2,3,…,pとは、変数kは1からpまでの自然数の値をとることを意味する。
なお、ここで言うi=1,2,3,…,Nとは、変数iは1からNまでの自然数の値をとることを意味する。
この発明によれば、ダンパが備えられる場所には以下に示す3つの特徴がある。
第1に、大きなブロック間変位による効果によりブロック間の円弧方向の変位が大きくなる。第2に、ダンパが振動エネルギーを吸収する円弧方向はアイソレータの剛性が低くなっている。そして第3に、制振構造物が最も卓越した振動である縦剪断1次モードで振動するときにアイソレータの第1配置のブロックの振幅が小さくなってアイソレータの第1配置のブロックの慣性モーメントの影響が小さくなり、制振構造物の振動の周波数が大きくなる。
これら3つの特徴を全て備えた場所にダンパが配置されているので、ダンパによりブロックの振動を効果的に減衰させることができる。
以下、本発明に係る制振構造物の第1実施形態を、図1から図13を参照しながら説明する。
図1に示すように、本発明の制振構造物1は1階からn階までで構成され、階全体が階数nの約数pで等分されてp個のブロック2に分けられ、地面である水平面Gの上に設置されている。ここで、制振構造物1が2つ以上のブロック2に分けられるように、約数pは1より大きいことが好ましい。
なお、各ブロックを区別せずに示す時には「ブロック2」と表示する。また、各ブロックを区別して示す時には添え字を付け、1階を含むブロックからk番目(k=1,2,3,…,p)のブロックを、「第kブロック2k」と表示する。これ以降、制振構造物1の各要素についても同様に、各要素が配置されているブロック2を区別して示す時にはその要素の符号に添え字を付けて示す。また、ここで言うk=1,2,3,…,pとは、変数kは1からpまでの自然数の値をとることを意味する。
このように、制振構造物1は、第1ブロック21から最上階のn階を含む第pブロック2pまでで構成され、各ブロック2は(n/p)層の階3を有している。
そして、制振構造物1は、第pブロック2pから第1ブロック21の方向に重力が作用するように配置されている。
ここで、各アイソレータをブロック2を区別せずに示す時には「アイソレータ4」と表示する。また、各アイソレータをブロック2を区別して示す時には添え字を付け、第kブロック2kに配置されたアイソレータを、「第kアイソレータ4k」と表示する。
例えば、制振構造物1が1階から30階までで構成されている場合には、階数30の約数pは、1、2、3、5、6、10、15又は30となる。よって、約数pとして10を選んだ場合には、階全体を10で等分して3層分の階3を1つのブロック2として制振構造物1を10個のブロック2に分けることになる。なお、約数pとして30を選べば1つの階3で1つのブロック2を構成することになり、各階3に一対のアイソレータ4が備えられていることになる。
各アイソレータ4は、上層構造物5の重心を含む鉛直線Cに関して対称に、鉛直下向きに凸の円弧方向を描くように水平面Gに対して斜め方向に運動するように配置されている。
また、本実施形態の制振構造物1においては、ダンパ等の能動的な減衰要因は備えられていない。しかし、アイソレータ4が例えば滑り方式あるいは転がり方式による場合には円弧軌道の方向(以下、「円弧方向」と称する)の摩擦が受動的な減衰要因となり、アイソレータ4が積層ゴム方式の場合には積層ゴムの円弧方向の運動における履歴特性による減衰(履歴減衰、あるいはヒステリシスによる減衰)が受動的な減衰要因となる。このように、新たに能動的な減衰要因を設けなくても既に制振構造物1のアイソレータ4に受動的な減衰要因が存在していると考えることができる。
図2は、各仕様で配置されたアイソレータ4で支持された上層構造物5が、後で詳しく述べるように地震や風等の影響を受けて水平方向に振動する場合を示したものである。
なお、アイソレータ4の配置の仕様を明確にするために、アイソレータ4を簡略して矩形で描く場合には、第1の配置のアイソレータ4の中心部を白色で、第2の配置のアイソレータ4の中心部を黒色で、第3の配置のアイソレータ4の中心部をハッチング(灰色)で、それぞれ示す。
また、図2の各場合に限り上層構造物5を1つの剛体として考える。
また、図2(a)に示すように、第1の配置のアイソレータ4で支持された上層構造物5に振動方向D1に力を加えると、一対のアイソレータ4に作用する合力はアイソレータ4と上層構造物5の重心11の上方に配置された合力指向点13を結ぶ線上にそれぞれ加わり、上層構造物5には重心11を中心として第1の回転方向E1の回転トルクが作用する。そして、図2(b)も図2(a)と同様に考えることができ、第2の配置のアイソレータ4が配置された上層構造物5に振動方向D1に力を加えると、上層構造物5には重心11を中心として第1の回転方向E1とは逆の第2の回転方向E2の回転トルクが作用する。
本実施形態の制振構造物1において、第kブロック2kに第1の配置のアイソレータ4が、第(k+1)ブロック2k+1に第2の配置のアイソレータ4がそれぞれ配された場合(すなわち、第1ブロック21がアイソレータ4の第1の配置なのでkは奇数となる)について説明する。
図3において、合力指向点13k及び合力指向点13k+1は第kアイソレータ4k及び第(k+1)アイソレータ4k+1に作用する合力がそれぞれ向く点であり、円弧中心14k及び円弧中心14k+1は第kアイソレータ4k及び第(k+1)アイソレータ4k+1が円弧軌道を描くようにそれぞれ配置された円弧の中心である。なお、合力指向点13及び円弧中心14の位置を示す印を、第1の配置のアイソレータ4に関するものは印の中心部を白色で、第2の配置のアイソレータ4に関するものは印の中心部を黒色でそれぞれ示す。
図中の鉛直距離Lkは最上階であるn階の頂部から第kアイソレータ4kまでの鉛直距離である。各ブロック2は同一の構造で構成されていて、距離hは、隣合うブロック2に配置された一対のアイソレータ4が支持する上層構造物5の重心11間の距離である。なお、各階3が箱状である場合には、頂部とは階3の天面のことである。
この時、距離hは次式のように表すことができる。
なお、アイソレータ4の第1配置の補正係数εkの絶対値とアイソレータ4の第2配置の補正係数εkの絶対値とは等しくならなくてもよい。一般的には、アイソレータ4の第1配置の補正係数εkの絶対値がアイソレータ4の第2配置の補正係数εkの絶対値以上である方が、制振構造物1は安定するので好ましい。
重力による影響を表す重力補償には2種類あり、その第1の重力補償として、制振構造物1の各ブロック2が重力を受けることにより変化する円弧方向振動を補償するものがある。また、第2の重力補償として、制振構造物1の各ブロック2の重心の位置が水平方向に移動することにより生じる回転トルクの影響を補償するものがある。
以下では、まず第1の重力補償を行う方法について説明する。
図5に1つのブロック2の重心の位置が水平方向に移動した場合のアイソレータ4に作用する荷重の影響を、アイソレータ4が一対の場合を図5(a)に、アイソレータ4が複数対の場合を図5(b)に示す。なお、各ブロック2における一対又は複数対のアイソレータ1は上層構造物5の重心を含む鉛直線Cに関して対称に配置されているとする。
ここで、水平方向の重心の変位をδ、1つのブロック2の質量をB、重力加速度をgとする。
この場合は、ブロック2の片側に設置されたN個のアイソレータ4のトルクの和が、ブロック2が水平方向に変位することによりブロック2が発生するトルクBgδに等しい。そして、ブロック2の片側に設置されたN個のアイソレータ4に作用する各トルクはブロック2の重心からの距離の2乗に比例する。言い換えれば、ブロック2の片側に設置されたN個のアイソレータ4に作用する各荷重は距離に比例する。ここで、i番目のアイソレータ4に作用する荷重に対する加重係数iλを次式のように定義する。
図6は、水平方向の外力が各ブロック2に加えられた制振構造物1の状態を示す説明図である。
ここで、アイソレータ4の円弧方向の剛性をKh、円弧垂直方向の剛性をKv、第kブロック2kの重心に水平方向に加わる外力をFk、第(k−1)ブロック2k−1と第kブロック2k間の水平方向の変位をδk、第kブロック2kの質量をBk、各ブロック2のアイソレータ1の水平距離は均一としてw、重力加速度をg、一対の第kアイソレータ4kの水平面に対する傾斜角度(取り付け角度)をθk、変位により第kアイソレータ4kに作用する荷重をPk、最上階のn階の頂部から第kアイソレータ4kまでの鉛直距離をLkとする。
このとき、地面に対する第kブロック2kの重心の水平方向の変位Δkは、次式のようになる。
図7(a)に示すように、水平面Gに対する傾斜角度θkで設置された第kアイソレータ4kが水平方向にδkだけ変位した場合、円弧方向の変位成分はδkcosθk、円弧垂直方向の変位成分はδksinθkとなる。また、図7(b)に示すように、第kアイソレータ4kに作用する荷重Pkは、円弧方向の荷重成分がPksinθk、円弧垂直方向の荷重成分がPkcosθkとなる。
従って図7(c)及び図7(d)のいずれの場合においても、鉛直線Cに対して第kアイソレータ4kから上層構造物5kの合力指向点13kに向かう角度αk、合力の円弧方向成分をfkh、合力の円弧垂直方向成分をfkvとすると、次式のようになる。
図8から図10は、各ブロック2のアイソレータの傾斜角度θkを算出する工程を示すフローチャートであり、算出はイタレーション法により行う。
次に、ステップS12において、(18)式により角度αkを求めステップS13に移行する。
そして、ステップS15において、図10に示すKm計算関数のサブルーチンを行い第2重力補償項Kmを求める。
また、ステップS31において、変数kに代入された値より変数pに代入された値が大きいという条件が偽である場合(False)は、ステップS35において次式により第2重力補償項Kmの値を求め、サブルーチンを終了して図8に示すステップS16に移行する。
次に、ステップS18において、2ステップ前のステップS16で今回求めた誤差ekの値が先に求めた誤差ekの値(ステップS16が既に2回以上行われた場合の、最後に行ったステップS16の1回前に行ったステップS16で求めた誤差ekの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。すなわち、先に求めた誤差ekの値が正の数でありかつ今回求めた誤差ekの値が負の数である場合、又は先に求めた誤差ekの値が負の数でありかつ今回求めた誤差ekの値が正の数である場合に、誤差ekの符号が反転したと判断する。
この条件が真である場合(True)は、ステップS19に移行する。なお、2ステップ前のステップS16が初めて行われたステップS16である場合、ステップS18の条件が偽である場合(False)、及び上記のステップS17における条件が偽である場合(False)、のいずれかの場合にはステップS13に移行する。
シミュレーションに用いた制振構造物1は、アスペクト比(=建物高さ/建物幅)が5の10層のブロック2からなる構造物であって、各ブロック2とも幅40m、高さ20mとした。なお、1つのブロック2の高さが20mとは、通常の建築構造物において4階〜5階を1つのブロック2としている。
また、アイソレータ4は各ブロック2間の両端部に一対介装され、各ブロック2の質量は(鉄の0.02倍の比重として)5.024×106(kg)、重力加速度は9.8066(m/s2)とした。また、円弧方向剛性は1.0×106(N/m)、円弧垂直方向剛性は7.0×109(N/m)で、円弧方向剛性Kh/円弧垂直方向剛性Kv=1/7000とした。
また、補正係数εkは、アイソレータの第1配置のブロックにおいては0.25、アイソレータの第2配置のブロックにおいては−0.20とした。
まず、図11(a)に示すように、図11(b)に示す制振構造物1の各ブロック2のアイソレータの配置のみを全て第3配置に変更した場合について説明する。この場合には、各アイソレータ4に作用する合力はそれぞれ重心11を向いている。
隣合うブロック2に配置された一対のアイソレータ4が支持する上層構造物5の重心11間が距離hなので、各ブロック2の高さは2h、制振構造物1の建物高さは20hとなる。
この場合、鉛直距離L1は20h、補正係数ε1は0.25なので、(10)式より以下のようになる。
この場合、鉛直距離L2は18h、補正係数ε2は−0.2なので、(10)式より以下のようになる。
同様にして、第3ブロック23の合力指向点133から第10ブロック210の合力指向点1310までが図11(b)のように構成されている。
ここで、(27)式の傾斜角度θkの解をシミュレーションで算出した結果を表1に示す。
図12に示すように周波数が大きいところでは、縦剪断(高周波)の1次モードとなる。図13(c)に示すように、この縦剪断1次モードは主な振動モードの一つで、重心を含む鉛直線Cに対する振幅はアイソレータの第2の配置のブロック2よりアイソレータの第1の配置のブロック2が小さく、アイソレータの第2の配置(中心部が黒色のアイソレータ4)のブロック2のみが振動しているように見える。
また、図12に示すように周波数の小さいところでは、低周波振動である円弧振動(横剪断振動)が構造物のブロック数に相当する次数分表れるが、本実施形態では円弧振動7次モードと円弧振動10次モードが主な振動モードとなる。この2つの振動モードは、図13(a)及び図13(b)にそれぞれ示すように、振動の形態が縦剪断1次モードに類似しているので振幅ゲインが大きくなる。この円弧振動7次モードは図13(a)に示すように、縦剪断1次モードとは逆にアイソレータの第1の配置(中心部が白色のアイソレータ4)のブロック2のみが振動しているように見える。
このように、本実施形態では、作用する合力が重心11を向かず合力指向点13に向かう第1配置及び第2配置のアイソレータ4が配置されているので、水平方向の振動は振動モードが類似した3つの卓越した振動に分解される。
なお、構造物に第1配置及び第2配置のアイソレータ4が配置されていればその構造物のブロック2の数によらず、このように水平方向の振動の振動モードが類似した3つの卓越した振動に分解される。
まず、本発明の制振構造物1が水平方向の振動を受けた場合、第1の配置でアイソレータ4が配されているブロック2と第2の配置でアイソレータ4が配されているブロック2では上層構造物5の重心11とアイソレータ4に作用する合力の向きの位置関係が異なるので、それぞれの上層構造物5は重心11を中心として互いに逆向きに回転する。そして、制振構造物1にはアイソレータ4の第1の配置のブロック2とアイソレータ4の第2の配置のブロック2とが少なくとも1つそれぞれ備えられているので、このアイソレータ4の第1の配置のブロック2とアイソレータ4の第2の配置のブロック2との間の円弧方向の変位を大きくすることができる。
従って、アイソレータ4の第1の配置のブロック2とアイソレータ4の第2の配置のブロック2との間に配置された各ブロック2の受動的な減衰要因により上層構造物5の円弧方向の振動エネルギーを消費し、制振構造物1の振動を効果的に減衰させることができる。なお、以下ではこの振動を減衰させる第1の効果を「大きなブロック間変位による効果」と称する。
本発明の制振構造物1では、自身に作用する合力が支持する上層構造物5の重心11から上方又は下方にずれた第1の配置又は第2の配置のアイソレータ4を水平方向に振動させることにより、アイソレータ4の円弧方向の剛性だけでなく、より高い剛性を有する円弧垂直方向の剛性を利用して上層構造物5をその重心11回りに回転させることが可能となる。従って、アイソレータが水平方向の振動を受けてからそのアイソレータ4の上層構造物5を回転させて一定の変位を生じさせるまでに要する時間を短縮させ、この上層構造物5の変位により受動的な減衰要因で振動エネルギーを消費することで、水平方向の振動を受けてからより短時間で制振構造物1の振動を減衰させることができる。なお、以下ではこの振動を減衰させる第2の効果を「速応性による効果」と称する。
なお、以下ではこの振動を減衰させる第3の効果を「重ね合わせによる効果」と称する。また、この重ね合わせによる効果は、制振構造物1に受動的な減衰要因が存在しない場合でも生じる効果である。
以上説明したように、これらの3つの効果、すなわち、大きなブロック間変位による効果、速応性による効果、重ね合わせによる効果が一体となって、制振構造物1の振動を効果的に減衰させることができる。
そして、アイソレータ4の第1配置のブロック2において、少なくとも一対の各アイソレータ4に作用する合力が向く場所が支持する上層構造物5の重心11から上方に離間するほど縦剪断1次モードの振動周波数が大きくなり、振動している間における制振構造物1の剛性を高くすることができる。
第1の配置のアイソレータ4に作用する合力は上層構造物5の重心11の上方を向いているので、この第1アイソレータ41が支持する上層構造物5が傾くのを防止し、制振構造物1を安定させることができる。
次に、本発明に係る第2実施形態の制振構造物について説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の制振構造物1では、上記実施形態において重力の影響が小さいと考え、重力の影響を考慮しない場合について説明する。
重力加速度gを0とすると、(13)式より第1重力補償項Kgが0、(25)式より第2重力補償項Kmが0となる。このため、(27)式は下記のようになる。
ここで、(34)式による傾斜角度θkの解をシミュレーションで算出した一例を表2に示す。シミュレーションに用いた制振構造物の具体的な条件は、重力加速度gを0とした以外は上記第1実施形態と同一である。
次に、本発明に係る第3実施形態の制振構造物について説明するが、前記第1実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の制振構造物は、図5(b)に示すように、各ブロック2には、支持する上層構造物5の重心を含む鉛直線Cに関して対称にN対のアイソレータ4が配置されている。そして、各アイソレータ4は上記第1実施形態と同様に「1−2型」で配置されている。
また上述したように、アイソレータ4が複数対配置されているので、第1の重力補償は考慮する必要は無い。
すなわち、第kブロック2kにおいて、鉛直線Cに対して外側からi番目の第kアイソレータ4kから上層構造物5kの合力指向点13kに向かう角度をiαk、i番目の第kアイソレータ4kの傾斜角度をiθk、角度iαkから傾斜角度iθkを減じた値である補正角度をiβkとする。また、円弧方向の剛性をKh、円弧垂直方向の剛性をKvはアイソレータ4によらず一定とする。
これにより、i番目の第kアイソレータ4kに作用する合力の円弧方向成分をifkh、合力の円弧垂直方向成分をifkvとすると、次式のようになる。
図15から図17は、傾斜角度iθkを算出する工程を示すフローチャートである。
次に、ステップS45において、図16に示す、傾斜角度1θk、2θkに代入された値に対する第kアイソレータ4kの後述する式による誤差1ek、2ekをそれぞれ求めるiek計算関数を行う。
このiek計算関数のサブルーチンの概要を説明すると、まず、ステップS61において後工程をアイソレータ4の対の数である2回繰り返すように設定する。次に、ステップS62において、図17に示すiKm計算関数のサブルーチンを行い、各第kアイソレータ4kに対応する第2重力補償項1Km、2Kmを求める。そして、ステップS63において、以下の式により誤差1ek、2ekを求め、図15のステップS46に移行する。
なお、ステップS45からステップS46に移行してきた時のみ傾斜角度1θkに(90−Δ1θk)の値を代入し、後述するステップS50からステップS46に移行してきた時は、傾斜角度1θkに代入された値から変化量Δ1θkを減じた上で傾斜角度1θkに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
なお、ステップS46からステップS47に移行してきた時のみ傾斜角度2θkに(90−Δ2θk)の値を代入し、後述するステップS49からステップS47に移行してきた時は、傾斜角度2θkに代入された値から変化量Δ2θkを減じた上で傾斜角度2θkに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
次に、ステップS50において、2ステップ前のステップS48で求めた誤差1ekの値が先に求めた誤差1ekの値(2ステップ前のステップS48が初めて行われたステップS48である場合にはステップS45で求めた誤差1ekの値、これ以外の場合は最後に行ったステップS48の1回前に行ったステップS48で求めた誤差1ekの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS51に移行し、この条件が偽である場合(False)は、ステップS46に移行する。
次に、ステップS52において、上記のステップS51で得られた傾斜角度1θk及び2θkによる次式の値をメモリに記憶し、ステップS42に移行する。
シミュレーションに用いた制振構造物の具体的な条件は、アスペクト比(=建物高さ/建物幅)が5の10層のブロック2からなる構造物であって、各ブロック2とも幅40m、高さ20mとした。なお、1つのブロック2の高さが20mとは、通常の建築構造物において4階〜5階を1つのブロック2としている。
また、アイソレータ4は各ブロック2間の両端部に2対介装され、アイソレータ4間の水平距離は外側から1番目が20m、外側から2番目が10mとした。そして、各ブロック2の質量は(鉄の0.02倍の比重として)5.024×106(kg)、重力加速度は9.8066(m/s2)とした。また、円弧方向剛性は1.0×106(N/m)、円弧垂直方向剛性は7.0×109(N/m)で、円弧方向剛性Kh/円弧垂直方向剛性Kv=1/7000とした。
補正係数εkは、アイソレータの第1配置のブロックにおいては0.25、アイソレータの第2配置のブロックにおいては−0.20とした。
例えば、上記第1実施形態から第3実施形態では制振構造物1の各アイソレータ4を「1−2型」で配置させた。しかし、各アイソレータ4の配置はこれに限られることなく以下のようなものであってもよい。
すなわち、各アイソレータ4が第1ブロック21から第pブロック2pにかけて第2の配置と第1の配置とを組にして繰り返すように配置されている「2−1型」、各アイソレータ4が第1ブロック21から第pブロック2pにかけて第1の配置、第2の配置、第2の配置及び第1の配置を組にして繰り返すように配置されている「1−2−2−1型」、各アイソレータ4が第1ブロック21から第pブロック2pにかけて第1の配置、第3の配置、第2の配置及び第3の配置を組にして繰り返すように配置されている「1−3−2−3型」等で、各アイソレータ4を配置させてもよい。
図18(b)は「1−2型」、図18(c)は「2−1型」、図18(d)は「1−2−2−1型」、図18(e)は「1−3−2−3型」をそれぞれ示している。
そして比較例として、図18(a)は制振構造物の全てのアイソレータ4が第3の配置の場合、図18(f)は制振構造物の全てのアイソレータ4が第1の配置の場合をそれぞれ示した。
図18(b)及び図18(c)に示すように、「1−2型」及び「2−1型」は、隣合うブロック2同士の一方が第1の配置、他方が第2の配置となるように構成されている。このため、これらの制振構造物の振動モードは円弧振動10次モードに類似するが、アイソレータ4の剛性の高い円弧垂直方向に依存する振う動なので縦剪断1次モードの高周波振動となる。
そして、図18(d)及び図18(e)に示す「1−2−2−1型」及び「1−3−2−3型」は、2つのブロック2毎に回転方向が逆なるので、振動モードは円弧振動5次モードに類似するが、やはり実態は円弧垂直方向に依存する振動なので縦剪断1次モードの高周波振動となる。これらの場合、「1−2型」及び「2−1型」程ブロック2間の変位は大きくならないため、振動の減衰性能は「1−2型」及び「2−1型」より劣る。
また、図18(f)に示すように、全てのアイソレータ4が第1の配置の場合には、構造物の高さの中央部付近で大きく撓むうえに、ブロック2間の変位が大きくならないので好ましくない。
このダンパ6が備えられる場所には以下に示す3つの特徴がある。
第1に、大きなブロック間変位による効果によりブロック2間の円弧方向の変位が大きくなる。第2に、ダンパ6が振動エネルギーを吸収する円弧方向はアイソレータ4の剛性が低くなっている。そして第3に、制振構造物1が最も卓越した振動である縦剪断1次モードで振動するときにアイソレータ4の第1配置のブロック2の振幅が小さくなってアイソレータ4の第1配置のブロック2の慣性モーメントの影響が小さくなり、制振構造物1の振動の周波数が大きくなる。
これら3つの特徴を全て備えた場所にダンパ6が配置されているので、ダンパ6によりブロック2の振動を効果的に減衰させることができる。
2 ブロック
3 階
4 アイソレータ
5 上層構造物
6 ダンパ
11 重心
13 合力指向点
14 円弧中心
C 鉛直線
Claims (6)
- 1階からn階までで構成される制振構造物であって、
階全体を階数nの約数pで等分して複数のブロックに分け、前記1階を含む第1ブロックから前記n階を含む第pブロックまでの各前記ブロックの最も1階側の階のみに、自身が支持する上層構造物の重心を含む鉛直線に関して対称に配置され鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面に対して斜め方向に運動する少なくとも一対のアイソレータをそれぞれ備え、
各前記ブロックに配置される前記少なくとも一対のアイソレータは、各前記ブロック毎に、1つの前記ブロックに備えられた前記少なくとも一対の各アイソレータに作用する合力が支持する前記上層構造物の重心の上方の所定の場所に向く前記アイソレータの第1の配置、1つの前記ブロックに備えられた前記少なくとも一対の各アイソレータに作用する合力が支持する前記上層構造物の重心の下方の所定の場所に向く前記アイソレータの第2の配置、及び、1つの前記ブロックに備えられた前記少なくとも一対の各アイソレータに作用する合力が支持する前記上層構造物の重心に向く前記アイソレータの第3の配置、のいずれか1つの仕様により配置され、
前記アイソレータの第1の配置と前記アイソレータの第2の配置は、少なくとも1つの前記ブロックに配置される前記少なくとも一対のアイソレータに対してそれぞれ用いられることを特徴とする制振構造物。 - 請求項1に記載の制振構造物において、
前記第1の配置の前記アイソレータと前記第2の配置の前記アイソレータとが、全ての前記ブロックにわたり交互になるように配置されていることを特徴とする制振構造物。 - 請求項1又は請求項2に記載の制振構造物において、
前記第1ブロックには、前記第1の配置の前記アイソレータが配置されていることを特徴とする制振構造物。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の制振構造物において
前記各ブロックには一対のアイソレータが備えられ、
前記1階を含む第1ブロックから数えてk番目の第kブロックに配置された前記一対のアイソレータに作用する合力が、隣合う前記ブロックに配置された前記一対のアイソレータが支持する前記上層構造物の重心間の距離hに補正係数εkを乗じた距離だけ前記第kブロックの前記上層構造物の重心から上方に移動した場所にそれぞれ向くように設定され、水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度θkは、(2)式から(4)式を用いて求められる(1)式の解として得られることを特徴とする制振構造物。
但し、Kh:アイソレータの円弧方向剛性、Kv:アイソレータの円弧垂直方向剛性、w:一対のアイソレータ間の水平距離、g:重力加速度、Bk:第kブロック(k=1,2,3,…,p)の質量、bk:第kブロックの上層構造物(第kブロックから第pブロックまで)の質量、θk:第kブロックに配置されたアイソレータの傾斜角度、h:隣合うブロックの上層構造物の重心間の距離、LGk:第kブロックの上層構造物の重心と第kブロックに配置された一対のアイソレータの円弧中心との間の鉛直距離、LOk:第kブロックに配置された一対のアイソレータの円弧中心とこの一対のアイソレータとの間の鉛直距離、Lk:最上階の頂部から第kブロックに配置されたアイソレータまでの鉛直距離、εk:第kブロックに配置されたアイソレータの補正係数(アイソレータの第1配置のブロックでは正の一定値、アイソレータの第2配置のブロックでは負の一定値、アイソレータの第3配置のブロックでは0の値をとる)、Kg:第1重力補償項、Km:第2重力補償項。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の制振構造物において
前記各ブロックには複数対のアイソレータが備えられ、
前記1階を含む第1ブロックから数えてk番目の第kブロックに配置された前記複数対のアイソレータに作用する合力が、隣合う前記ブロックに配置された前記複数対のアイソレータが支持する前記上層構造物の重心間の距離hに補正係数εkを乗じた距離だけ前記第kブロックの前記上層構造物の重心から上方に移動した場所にそれぞれ向くように設定され、前記第kブロックの外側からi番目に配置された前記アイソレータの水平面に対する傾斜角度iθkは、(6)式から(8)式を用いて求められる(5)式の解として得られることを特徴とすることを特徴とする制振構造物。
但し、Kh:アイソレータの円弧方向剛性、Kv:アイソレータの円弧垂直方向剛性、2N:各ブロックに配置されたアイソレータの個数、iw:外側からi番目(i=1,2,3,…,N)に配置された一対のアイソレータ間の水平距離、g:重力加速度、Bk:第kブロック(k=1,2,3,…,p)の質量、iθk:第kブロックに配置された外側からi番目のアイソレータの傾斜角度、h:隣合うブロックの上層構造物の重心間の距離、Lk:最上階の頂部から第kブロックに配置されたアイソレータまでの鉛直距離、εk:第kブロックに配置されたアイソレータの補正係数(アイソレータの第1配置のブロックでは正の一定値、アイソレータの第2配置のブロックでは負の一定値、アイソレータの第3配置のブロックでは0の値をとる)、iλ:外側からi番目に配置されたアイソレータのトルクの加重係数、iKm:外側からi番目に配置されたアイソレータの第2重力補償項。 - 請求項1から請求項5のいずれかに記載の制振構造物において
各前記ブロックの最も1階側の階のみに、さらに、前記上層構造物の前記円弧軌道の方向の振動エネルギーを吸収するダンパをそれぞれ備えることを特徴とする制振構造物。
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