JP5553166B2 - 制振構造物 - Google Patents
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例えば1つめの例として、特許文献1に示す動的制振装置は、建築物上部と下部を分断することによりマスダンパ効果で制振する手法であり、この手法は中間免震にも部類される。
この動的制振装置の原理は、中間免震とすることで構造物全体の固有周期を長くすることにより、通常着目する地震周期領域でのビルの振動が、節の無い1次モードではなく中間免震部付近を節とする2次モードで振動するように設計したものであり、振動の2次モードが1次モードより振幅が小さいことを利用して制振する手法である。
しかし、一般の複数周期の混入した振動で2次モードが卓越して表れなければ、上記動的制振装置は、単に固有周期を長周期側にシフトしたに過ぎず、逆に長周期地震の影響が顕著に表れる可能性がある。また、この動的制振装置は強風に対しても有効とされているが、強風による振動では卓越モードが顕著に表れるため、地震動で意図したような2次モードでは振動せず1次モードでの振動となり、逆に振幅を増大させる可能性がある。これらの理由は、2次モードが卓越する構造となっていないことによる。
前記特許文献3及び特許文献4に示す制振構造物では、地震振動、風振動の主体となる水平方向が剛となる構造を用いているため、従来の高層構造物より小振幅高周波振動となる。この水平方向の振動の実態は縦剪断振動である。そして、縦剪断振動から円弧振動への内部共振により高次モードが卓越した多節振動となるため、低剛性の円弧方向でのダンピングで構造物全体の減衰を得ている。
第2に、減衰量自体の大きさの改善である。特異構造では、内部共振により円弧方向が高次モード振動となった場合の層間変位により減衰を得るが、内部共振で得たエネルギー量は構造物全体の振動を減衰させるエネルギーとしては不足である。従って、遷移した高次円弧振動の減衰は速いが、十分に円弧方向にエネルギー遷移していない縦剪断振動の減衰は大きくはないため、定常的には縦剪断振動だけが残ることが考えられる。
摂動構造の制振構造物は、水平方向の振動である縦剪断振動の擾乱により、上下に隣り合う層が、高次円弧振動に類似した運動を互いに逆方向に行う振動モード(以下、このような層の振動モードを「摂動モード」と称する)となる。縦剪断振動の摂動モードは高次円弧振動モードに類似しているため、摂動モードで振動することにより瞬時に高次円弧振動を励振できる。そして、両振動モードの類似性から層間変位も大きくなるため高次円弧振動へのエネルギー遷移量も大きなものとなり、励振された高次円弧振動のエネルギーは構造物全体のエネルギーに匹敵する量となる。従って、特異構造の構造物のように、内部共振を用いずとも瞬時に構造物全体のエネルギーに匹敵する高次円弧振動を得ることができ、これに伴い高減衰を得ることが出来る。
本発明の制振構造物は、水平面上に配置される第1層、および前記第1層上に順に重ねて配置される第2層から第n層までを含む複数の層と、それぞれの前記層の下端に自身が支持する上層構造物の重心を含む鉛直線に関して対称に配置され、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように前記水平面に対して斜め方向に運動する一対のアイソレータと、を備える制振構造物であって、少なくとも1つの前記一対のアイソレータおよび前記一対のアイソレータが支持する前記上層構造物において、前記一対のアイソレータに作用する力の延長線が前記上層構造物の重心を含む前記鉛直線と交わる位置である剛心の高さと前記上層構造物の前記水平面を基準とした風圧中心の高さとが一致し、前記風圧中心の高さと前記上層構造物の重心の高さとが異なるように構成されていることを特徴としている。
また、上記の制振構造物において、上下方向に隣り合う前記層は、互いに密度が異なることがより好ましい。
また、上記の制振構造物において、上下方向に隣り合う前記層のうち、密度が大きいほうの前記層の方が体積が大きく形成されていることがより好ましい。
また、上記の制振構造物において、少なくとも一つの前記層には、前記層の側面に両端部の開口が形成された貫通孔が形成されていることがより好ましい。
また、上記の制振構造物において、前記第n層は、第(n−1)層よりも軽く構成されていることがより好ましい。
以下、本発明に係る制振構造物の第1実施形態を、図1から図13を参照しながら説明する。本実施形態では、制振構造物が高層構造物である場合を例にとって説明する。高層構造物の全体構成を説明する場合には、高層構造物が5つの層を有するとしている。なお、それぞれの層は、1つの階により構成されていると考えてもよいし、複数の階を重ねて配置したブロックと解釈してもよい。
図1に示すように、本実施形態の高層構造物1は、水平面G上に配置される第1層21、および第1層21上に順に重ねて配置される第2層22から第5層25までを含む複数の層2と、それぞれの層2の下端に配置された一対のアイソレータ3と、を備えている。
図1には、高層構造物1が、第1層21から第5層25までの5つの層2を有している場合を示しているが、高層構造物1は一般的に、第1層21から第n層2nまでのn個の層を有していて、5つの層2には限定されない。
なお、それぞれの層を区別して示す時には、第1層21、第2層22、‥、第5層25と添え字を付けて記載し、それぞれの層を区別せずにまとめて示す時には、層2と添え字を付けずに記載する。後述する第kアイソレータ3k、上層構造物6k、重心7k等についても同様に記載する。
本実施形態では、それぞれの層2は、同一の直方体状に形成されている。層2の高さは、hとなっている。
それぞれの層2は、鉛直方向X1に見たときに重なるように配置されている。
それぞれの層2のうち、第1層21から数えて奇数番目の層2である第1層21、第3層23および第5層25が、密度が小さいことで軽くなっていて、第1層21から数えて偶数番目の層2である第2層22および第4層24が、密度が大きいことで重くなっている。本実施形態では、偶数番目の層2の密度と奇数番目の層2の密度との比が、2:1となっている。
なお、説明を分かりやすくするために「密度」で定義しているが、層2は構造物の一部である以上、内部が完全に詰まっていなく、層2の内部に空洞部分が形成されていてもよい。
さらに、本実施形態では、鉛直方向X1において最も上方の層2である第n層2nは、この第n層2nより1つ下方の層2である第(n−1)層n−1よりも軽く構成されている。すなわち、上方から、軽い層2、重い層2、軽い層2、‥、の順で重さの異なる層2が交互に配置されている。
一対の第kアイソレータ3kは、自身が支持する上層構造物6kの重心7kを含む鉛直線A1に関して対称に配置されるとともに、上層構造物6kが鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面Gに対して斜め方向に運動するように構成されている。第kアイソレータ3kの水平面Gに対する傾斜角度θkについては、後で詳細に説明する。
ここで言う上層構造物6kとは、一対の第kアイソレータ3kが直接的に支持する第k層2kから、一対の第kアイソレータ3kが間接的に支持する第(k+1)層2k+1から第n層2nまでの層2のことを意味する。例えば、図1に示すように、高層構造物1全体の層2の数であるnが5である場合には、一対の第3アイソレータ33の上層構造物63は、第3層23、第4層24および第5層25のことを意味する。
特許文献3〜5に示す従来の多層構造物では、特異構造をその基本としていた。しかし、この特異構造は風、地震に共通のものであり、風に対して剛性が高くなる(剛な)アイソレータの特異配置は、地震に対しても基本的に剛性が高くなる。一方、地震に対して剛性が低い(柔な)摂動構造は、風に対しても剛性が低い。これは、特異構造、摂動構造以外の一般的なRC構造、SRC構造、免震構造などについても言えることである。本来、多層構造物としては、風には剛性が高く、地震には剛性が低いことが望ましいと考えられる。
このように、風および地震に対して多層構造物の応答が一致してしまうのを改善し、風には剛性が高くなる特異構造として、地震には剛性が低くなるように摂動構造を用いることとしている。これを実現するため、多層構造物の層特性を均一とせず、上下方向に隣り合う層同士は互いに構造が異なることとした。
なお、ここで言う「構造が異なる」とは、層の鉛直線に垂直な平面による断面積、後述する見付面積、および密度等の少なくとも一つが異なることを意味する。
このように、いずれも風圧中心と重心とが一致した構造物を対象としているため、風と地震のトレードオフが存在していると考えられる。
図2(a)、図2(b)は、比較例として示す従来の特異構造での風応答、地震応答である。この高層構造物Y1では、上層構造物6の風圧中心8、重心7および剛心9が一致していて、上層構造物6は、風による風荷重F0に対して小変位かつ無回転で、地震による振動D0に対しても小振幅振動かつ無回転である。
図3(a)、図3(b)は、本実施形態の高層構造物1に用いられる風特異構造における風応答、地震応答である。この高層構造物1では、風圧中心8と剛心9とが一致していて、重心7は風圧中心8から分離している。高層構造物1は、風に対しては小変位かつ無回転で、地震に対しては回転する。
図4(a)、図4(b)は、比較例として示す地震特異構造での風応答、地震応答である。この高層構造物Y2では、重心7と剛心9とが一致していて、重心7は風圧中心8から分離している。高層構造物Y2は、風に対しては回転し、地震に対しては小振幅振動かつ無回転である。
以上より、風特異構造を用いて重心7と風圧中心8とを分離することにより、風に強く、地震には回転が生じて層間変位が大きくなり大きな減衰を得ることができることが解る。
図1に示すように、高層構造物1に縦剪断振動を与える風は水平方向X2に吹く風であり、以下では水平方向X2の一方である向きX21に風が吹くとする。
風圧中心8は、風荷重の荷重点に相当する。
第k層2kに水平方向X2に加わる風荷重Fkは、風圧に見付面積を乗じた値となる。風荷重Fkが作用する位置の水平面Gからの高さである風荷重高さをZkとすると、上層構造物6kの風圧中心8kの位置の水平面Gからの高さである高さCkは、(8)式により求めることができる。
図1に、風特異構造として設計した本実施形態の高層構造物1の重心7、風圧中心8および剛心9を示す。上層構造物6kの重心7kは、それぞれの第k層2kの中心軸線に一致する鉛直線A1上に位置している。ただし、鉛直線A1上には、重心7kだけでなく剛心9kが位置するため、説明の便宜上、重心7kおよび剛心9kの位置を水平方向X2にずらし、風圧中心8kとともにまとめて示している。
本実施形態では、それぞれの層2は、互いに同一の形状に形成され、第2層22および第4層24が第1層21、第3層23および第5層25より2倍重くなっている。
第4層24および第5層25の高さはともにhだが、第4層24の方が第5層25より重いので、上層構造物64の重心74は第5層25の下端より下方に位置している。同様に、重心73は第4層24の下端から(h/2)の高さに、重心71は第3層23の下端から(h/2)の高さにそれぞれ位置し、重心72は第4層24の下端より下方に位置している。
風圧中心8kの高さCkは、(1)式より高さC1が(5/2)h、高さC2が3h、‥等となる。
このように、重心71、73、75は、風圧中心81、83、85にそれぞれ一致するが、重心72、74は、風圧中心82、84よりそれぞれ鉛直方向X1の下方になり、振子構造となる。
図5(a)および図5(b)に、高層構造物1が風圧を受けた場合の変形プロセスを示す。高層構造物1は風特異構造で設計されているため、風圧を受けると、円弧方向には回転せず、図5(a)に示すように水平方向に平行移動する。それぞれの層2の変位は、剛性が高い円弧垂直方向剛性に依存しているので微小である。ただし、層2により密度が異なるので、層2における水平方向X2の変位量は、奇数番目の層2と偶数番目の層2で異なる。この結果、図5(a)に示したように、風荷重を受けた時の全ての層2の平均的な主軸A2は、静止時の主軸である鉛直線A1に対して移動して、この移動した主軸A2に対して各層2は水平方向X2に交互変位する。
層2の変位が大きくなると、アイソレータ3の円弧方向の変位が大きくなり、層2は回転運動を伴うようになる。ただし、高層構造物1は風特異構造なので、風荷重Fは高層構造物1全体にトルクは与えない。従って、図5(b)に示すように、それぞれの層2は内力的作用によって回転するため、上下方向に隣り合う層2において層2は互いに逆方向に回転する。以上より、図5(b)に示す状態が、風特異構造の基本モードである。
以上より、従来の摂動構造とは逆回転原理が若干異なることが解る。すなわち、摂動構造では振子構造、倒立振子構造を交互に積層して、初期プロセスから層2の回転が起動していた。これに対して、分離構造では初期プロセスの主力は差分変位であり、差分変位の増大に伴って円弧軌道に従う内力回転が誘導され、これにより上下方向に隣り合う層2に逆回転が生じる。
なお、分離構造には、本実施形態の重軽構造以外にも、後述する軽層ダンパ構造、吹き抜け構造および大小構造が含まれる。
図7(a)に示すように、高層構造物1は風特異構造で設計されているため、風応答は、従来の特異構造と同様に微小水平変位のみである。ただし、比較的軽い奇数番目の層2は比較的重い偶数番目の層2の約2倍の変位となり、これにより層間変位が得られるため減衰も得やすい。
一方で、図7(b)に示すように、第1層21〜第5層25、第3層23〜第5層25、および第5層25は、重心7と剛心9とを一致させた地震特異構造となっているので微小変位のみだが、第2層22〜第4層24、第4層24は振子構造なので回転を伴う。
なお、図7(a)および図7(b)から解るように、風応答、地震応答のいずれにおいても、重い層2が軽い層2より小変位であり、外乱に対して鈍感である。これより、重い層2の方が良好な応答をすると考えられる。
また、地震に対しては、上述したように、上層構造物64が回転して上下に隣り合う第4層24と第5層25とが互いに逆方向に回転するため、振動を減衰しやすくすることができる。
それぞれの層2は、互いに同一の形状に形成されるとともに、上下方向に隣り合う第4層24と第5層25とは、互いに密度が異なる。このため、それぞれの層2の外形を等しくしながらも、風圧中心84の高さと重心74の高さとを容易に異ならせることができる。
また、最上層である第5層25は第4層24よりも軽く構成されているため、これら2つの層2が振子構造となり、高層構造物1の最上部を構成する2つの層2を安定させることができる。
また、本実施形態では、それぞれの層2は、鉛直方向X1に見たときに重なるように配置されているとし、それぞれの層2の鉛直方向X1に見たときの形状が矩形であるとした。しかし、鉛直方向X1に見たときにそれぞれの層2の形状が同一であればその形状は矩形に限定されることなく、円形や、三角形などでもよい。
本発明の高層構造物は、上記第1実施形態以外にも、以下の実施形態に説明するように様々な構成とすることができる。
次に、本発明の第2実施形態について図8および図9を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
前記第1実施形態の高層構造物1について説明したように、比較的重い層2の方が良好な応答をすることが解る。この場合、軽い層2は、高層構造物1全体の中では質量ダンパという位置付けとする構造も考えられる。本発明では、前述の重軽構造のうち、重い層2の形状を軽い層2の形状より大きく確保した構造を、軽層ダンパ構造と称し、本実施形態では、軽層ダンパ構造の高層構造物について説明する。
本実施形態では、奇数番目の層22である第1層221、第3層223および第5層225は、互いに同一の形状である直方体状に形成されている。偶数番目の層22である第22層22および第4層224は、互いに同一の形状である直方体状に形成されている。さらに、鉛直方向X1に見たときに奇数番目の層22と偶数番目の層22とが同一の形状になるとともに、偶数番目の層22の高さと奇数番目の層22の高さとの比が、3:1となるように構成されている。奇数番目の層22が1つの階により構成され、かつ、偶数番目の層22が3つの階により構成されているとしてもよいし、奇数番目の層22が複数の階により構成された1つのブロックであり、かつ、偶数番目の層22がこのブロックを3つ重ねて構成されているとしてもよい。このように、本実施形態では、偶数番目の層22が奇数番目の層22より体積が大きく形成されている。
偶数番目の層22の密度と奇数番目の層22の密度との比は、2:1となっている。
この結果、偶数番目の層22の質量と奇数番目の層22の質量との比は、6:1となっている。
さらに、偶数番目の層22をより大きく構成することで、それぞれの層22が揺れる場合であっても振動振幅が小さくなる偶数番目の層22の居住空間を広く確保することができる。
次に、本発明の第3実施形態について図10および図11を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
前記第2実施形態の軽層ダンパ構造の高層構造物21で説明したように、奇数番目の層22に居住空間を確保しないのであれば、奇数番目の軽い層を、たとえば層の壁面の一部を用いないことにより、層が受ける風圧を軽減させた吹き抜け構造としてもよい。
前述の重軽構造および軽層ダンパ構造が基本的に風圧中心8ではなく重心7を設計パラメータとしているのに対し、吹き抜け構造では風圧中心8を設計パラメータとしている点で大きく異なる。
本実施形態では、第1層321、第3層323、‥等の奇数番目の層32は、同一の直方体状に形成されている。
第2層322、第4層324、‥等の偶数番目の層32は、奇数番目の層32より高さの低い直方体状に形成されている。第2層322には、第2層322の側面に両端部の開口が形成された貫通孔332が形成されている。第4層324にも第2層322と同様に、貫通孔334が形成されている。
貫通孔33は、例えば、層32を、壁を用いることなく、梁と柱のみで構成することにより形成することができる。
偶数番目の層32では、貫通孔33を通して風が吹き抜けることで、層32が受ける風圧を軽減させている。
このように、奇数番目の層32に比べて偶数番目の層32は、風の影響を受けにくいうえに軽く構成されている。
ここで、高層構造物31を、上方から軽い層32、重い層32、軽い層32、‥、の順で交互に配置すると、軽い層32の貫通孔33という吹き抜け部分では風圧を受けないため風圧中心8は重心7より下方になり、第2層322〜第5層325、第4層324〜第5層325は倒立振子構造になる。従って、前述の特許文献6に記載したアイソレータの上方配置など特別な接続形態を用いない限り、重力下では一般には不安定となるので注意が必要である。よって、一般には、層32の総数が偶数であるか奇数であるかに関わらず、最上層である第n層32nが重い層32で、第(n−1)層32n―1が軽い層32となる構造の方が好適である。
風が吹き抜ける偶数番目の層32では、層32が受ける風圧がゼロとなる(もしくは非常に小さい)ことを考慮すると、風圧中心82と風圧中心83、風圧中心84と風圧中心85は、それぞれが(ほぼ)一致する。さらに、剛心92と剛心93、剛心94と剛心95は、それぞれが(ほぼ)一致する。
図11(a)に示すように、高層構造物31の風応答は、軽い層32(吹き抜け層)では風圧ゼロとなる(もしくは非常に小さい)ため、吹き抜け層である第2層322および第4層324は変位ゼロ(もしくは非常に小さい)で、重い層32である第1層321、第3層323および第5層325のみ微小変位する。従って、前述した重軽構造、軽層ダンパ構造、および後述の大小構造と比べて層間変位は一番大きい。
また、図11(b)に示すように、地震応答では、重い層32である第1層321、第3層323および第5層325は微小変位し、軽い層32(吹き抜け層)である第2層322および第4層324は微小回転する。地震応答でも風応答と基本モードは同一のため、やはり吹き抜け構造の層間変位は分離構造の中で一番大きい。
また、軽層ダンパ構造と比較して居住区である重い層32の変位が大きいため、この観点からは劣ると考えられるが、その反面、他の分離構造より大きな層間変位が得られるため優れている。
次に、本発明の第4実施形態について図12および図13を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
前述の重軽構造、軽層ダンパ構造では重心7を設計パラメータとし、吹き抜け構造では風圧中心8を設計パラメータとしたが、本実施形態の高層構造物が用いる大小構造は、重心7および風圧中心8の両者を同時に設計パラメータとしている。大小構造では、各層の密度は等しく設定している。さらに、鉛直方向X1に見たときの層の大きさを、例えば、第1層より第2層を大きくし、第2層より第3層を小さくし、第3層より第4層を大きくし、‥、と大小関係が交互となるように繰り返して設定する。
本実施形態の高層構造物41は、前記第1実施形態の高層構造物1における第1層21から第n層2nに代えて、第1層421から第n層42nまでの層42を備えている。なお、図12および図13には、説明の便宜のため高層構造物41全体の層42の数が5である場合を示している。
それぞれの層42は同一の密度に形成されているとともに、四角柱状に形成されて互いの鉛直方向X1の長さ(高さ)が互いに等しく設定されている。
奇数番目の層42である第1層421、第3層423、‥、は鉛直方向X1に垂直な断面形状がそれぞれ同一の矩形に形成されている。偶数番目の層42である第2層422および第4層424は鉛直方向X1に垂直な断面形状がそれぞれ同一の矩形に形成されている。さらに、偶数番目の層42の断面形状の矩形と奇数番目の層42の断面形状の矩形とは相似形状で、その相似比は、2:1となっている。
鉛直方向X1に垂直な平面による断面積を奇数番目の層42より偶数番目の層42の方を大きく設定することで、奇数番目の層42より偶数番目の層42が体積が大きく(重く)なっている。
従って、このように構成することにより、風圧中心82の高さと重心72の高さ、および、風圧中心84の高さと重心74の高さにそれぞれ差ができる。
ただし、鉛直上方から、重い層42、軽い層42、重い層42、‥、の順に配置すると風圧中心8は重心7より下方になり、第2層422〜第5層425、第4層424〜第5層425は倒立振子構造になる。従って、前述の特許文献6に記載したアイソレータの上方配置など特別な接続形態を用いない限り、重力下では一般には不安定となるので注意が必要である。よって、一般には、層42の総数が偶数であるか奇数であるかに関わらず、最上層である第n層42nが軽い層42で、第(n−1)層42n―1が重い層42となる構造の方が好適である。
図12を見て解るように、本実施形態の大小構造の高層構造物41は、五重塔などの日本古来の多重塔に非常に類似した構造になっている。
軽い層42は重い層42と比べて見付面積は1/2になるが質量も1/4となり、重い層42と比較して単位質量あたりの風圧が大きくなるため、図13(a)に示すように、軽い層42は重い層42の約2倍の変位となる。
また、地震応答では、軽い層42は、軽い層42より上層構造(この軽い層42を含み第n層42nまでの上層構造物)の剛心9と重心7が一致するので微小変位のみである。一方で、重い層42は、重い層42より上層構造の剛心9が重心7より上となる振子構造なので、軽い層42より小さな微小変位と別途微小回転する。
軽い層42は重い層42の約2倍の変位となり、これより層間変位が得られるため減衰も得やすい。以上より、大小構造では、重軽構造と同様に、風応答、地震応答ともに重い層42の方が優れた構造となっている。
本実施形態では、奇数番目の層42および偶数番目の層42が、互いに高さが等しい四角柱状に形成されているとともに、鉛直方向X1に垂直な断面形状が互いに異なるとした。しかし、奇数番目の層42および偶数番目の層42は、互いに高さが等しく、かつ、鉛直方向に垂直な平面による断面積が異なっていれば、前述の断面形状は円形でも多角形でもよい。
また、本実施形態では、重い層42の高さが軽い層42の高さより高くなるように構成してもよい。
たとえば、前記第1実施形態から第4実施形態では、高層構造物中の1つの上層構造物6に対して、剛心9の高さと風圧中心8の高さとが一致するとともに、剛心9の高さと重心7の高さとが異なるように構成されていれば、すなわち、風特異構造に設計されていればよい。
また、それぞれの層の下端に、アイソレータ3とともに、上層構造物6の円弧軌道の方向の振動エネルギーを吸収するように配置されたダンパが備えられていてもよい。
以下の設計方手法は、前述の高層構造物1、21、31、41のいずれに対しても用いることができるが、以下では重軽構造である高層構造物1を例にとって説明する。
無重力かつアイソレータ3の円弧方向剛性がゼロの場合には、円弧中心10kと風圧中心8kとは一致するが、重力下あるいはアイソレータ3の円弧方向剛性がゼロでない場合には、円弧中心10kは風圧中心8kより上方に位置する。
図15に、第kアイソレータ3kの水平面Gに対する傾斜角度θkを補正する概念を示す。これは、前述の特許文献4の特異構造と比較して、重心が風圧中心に入れ替わったことのみ異なる。風特異構造の振動においても、その理想的な仮想変位は水平振動であり、水平方向X2の仮想の変位をδkとした場合、アイソレータ3の円弧垂直方向剛性をKv、円弧方向剛性をKhとすると、図15(a)に示すように、円弧方向の変位成分はδkcosθk、円弧垂直方向の変位成分はδksinθkとなる。また、図15(b)に示すように、第kアイソレータ3kが及ぼす力は、円弧方向の成分がKhδkcosθk、円弧垂直方向の成分がKvδksinθkとなる。
鉛直線A1に平行な直線に対して第kアイソレータ3kから上層構造物6kの風圧中心8kに向かう角度をαkとする。傾斜角度θkが、補正角度βkだけ合力の方向が補正されて角度αkとなる。
一対の第kアイソレータ3k間の水平距離をwk、一対の第kアイソレータ3kから風圧中心8kの高さCkまでの鉛直距離をLkとすると、第kアイソレータ3kの傾斜角度θkは(10)式のようになる。
図16は、第kアイソレータ3kの傾斜角度θkを算出する手順を示すフローチャートである。この算出例では、イタレーション法により計算を行っている。
前述の特許文献4に示されるように、縦剪断型の風特異構造は横剪断型の風特異構造より角度が大きいことは予め解っているので、計算速度を向上させるために傾斜角度θkは90°から減少させて計算する。
次に、ステップS2において、(4)式により角度αkを求めステップS3に移行する。
変化量Δθは、計算を行う者が、計算精度や計算時間等を考慮して、0.1°や0.01°等と適宜設定するものである。
次に、ステップS6において、2ステップ前のステップS4で求めた誤差ekの値が、それ以前のステップS4で求めた誤差ekの値から符号が反転したという条件の真偽を判断する。すなわち、以前求めた誤差ekの値が正の数であり、かつ2ステップ前に求めた誤差ekの値が負の数である場合、又は以前求めた誤差ekの値が負の数であり、かつ2ステップ前に求めた誤差ekの値が正の数である場合に、誤差ekの符号が反転したと判断する。
この条件が真である場合(True)は、ステップS7に移行する。なお、2ステップ前のステップS4が初めて行われたステップS4である場合、ステップS6の条件が偽である場合(False)、及び上記のステップS5における条件が偽である場合(False)、のいずれかの場合にはステップS3に移行する。
シミュレーションに用いた高層構造物1は、アスペクト比(=構造物高さ/構造物幅)が5の5つの層2からなる構造物であって、各層2とも水平方向X2が20m、鉛直方向X1が20mとした。アイソレータ3はそれぞれの層2の下端に一対配置されているとし、重い層2の質量と軽い層2の質量との比を2:1とした。そして、アイソレータ3における(Kh/Kv)の値を1/1000とし、周囲の環境を、無重力、もしくは重力による影響が小さいとした。なお、層2の質量の比は地震特異構造には関係するが、風特異構造には関係ない。従って、参考までに示したに過ぎない。
シミュレーションの結果を表1に示す。
このように、重力の影響を考慮しないで傾斜角度θkを求めることで、簡単に傾斜角度θkを算出することができる。
アイソレータ3が2対以上の場合、一般には、それぞれの対の円弧中心10は一致しない。2対以上のアイソレータ3の円弧中心10を一致させる一手法としては、以下のような手法が挙げられる。
まず、一番外側のアイソレータ3の傾斜角度θkを(11)式により求める。
次に、内側のアイソレータ3の対は、一番外側以外のアイソレータ3の円弧中心10と一致するよう傾斜角度θkを決め、そのアイソレータ3の円弧方向剛性をKhを(10)式を満たすように調整する。
これまでは、分離構造の高層構造物が無重力下で用いられる場合について説明した。分離構造の高層構造物を重力下で用いるためには、重力補償を用いることがより好ましい。重力補償には、第1の重力補償および第2の重力補償の2種類がある。それぞれの重力補償については後で詳しく述べるが、第1の重力補償は、風特異構造の上層構造物6が重力の影響で円弧中心10回りに振り子回転する影響を補償するものである。また、第2の重力補償とは、上層構造物6の重心7が水平方向X2に移動した場合に生じる回転トルクの影響を補償するものである。
ただし、層2の下端にアイソレータ3が2対以上配置されている場合には、一般に、重力補償後でもそれぞれのアイソレータ3の対の円弧中心10は一致しない。従って、アイソレータ3が2対以上配置されている場合には、第1の重力補償を考慮する必要は無い。以上より、重力補償の必要の有無は、下表のようにまとめられる。
上層構造物6に作用する重力は、上層構造物6の円弧方向の振動となって表れるため、第1の重力補償は、円弧方向剛性を補正することで対処可能である。図17および図18に第1の重力補償の考え方を示す。図17に示すように、上層構造物6kを円弧中心10回りの重力振子に置換し、図18に示すように、上層構造物6kを重力振子と同周期の無重力下での円弧方向剛性による振子に置換している。
円弧中心10kは鉛直線A1上に位置している。
なお、ここで言うi=1,2,3,…,Nとは、変数iは1からNまでの自然数の値をとることを意味する。
(13)式と(14)式より、第1重力補償項Kgは次式のようになる。
重力下では、重心7が移動することにより発生する回転トルクを補償する必要がある。回転トルクは第kアイソレータ3kへの荷重となって表れる。第k層2kが重心移動した場合の荷重の状態を、第kアイソレータ3kが一対の場合を図19に、第kアイソレータ3kが複数対の場合を図20にそれぞれ示す。一対又は複数対の第kアイソレータ3kは、上層構造物6kの重心を含む鉛直線A1に関して対称に配置されているとする。
ここで、重心7の水平方向X2の変位をδ、第k層2kの質量をMk、重力加速度をgとする。
第kアイソレータ3kが複数対の場合、鉛直線A1に対する各サイドのN個で発生する回転トルクの和が重心移動により発生するトルクMkgδに等しくなる。そして、N個の各トルクは、重心7からの距離の二乗に比例する。言い換えれば、N個の第kアイソレータ3kが発生するそれぞれの力は、重心7からの距離に比例する。
ここで、i番目の第kアイソレータ3kに作用する荷重に対する加重係数iλkを次式のように定義する。
ここで、第(k−1)層2k−1と第k層2kとの水平方向X2の変位をδk、変位により第kアイソレータ3kに作用する荷重をPkとする。
このとき、水平面Gに対する第k層2kの重心7kの水平方向X2の変位Δkは、次式のようになる。
アイソレータ3に加わる風圧による荷重Pkは、下方の層2になるに従って、上方の層2の重心移動の影響が累積される。
それぞれの層2に一対のアイソレータ3が配置されている場合の荷重Pkは、(20)式のようになる。
図22(a)は前述と同様である。図22(b)に示すように、第kアイソレータ3kに作用する荷重Pkは、円弧方向の荷重成分がPksinθk、円弧垂直方向の荷重成分がPkcosθkとなる。これらを合成して、図22(c)において、合力の円弧方向成分をfkh、合力の円弧垂直方向成分をfkvとすると、次式のようになる。
一方で前述した吹き抜け構造では、重い層32と軽い層32との高さの比が3:1となるように構成されているが、軽い層32では風圧がゼロ(もしくは非常に小さい)としている。従って、一例として、この場合の比率g23は、次式のようになる。
前述した大小構造では、偶数番目の層42の断面形状と奇数番目の層42の断面形状との相似比が2:1となるように構成されているため、風荷重比も2:1となる。従って、一例として、この場合の比率g23は、次式のようになる。
比率hkjを用いて(22)式及び(23)式を書き直すと(32)式及び(33)式のようになる。ただし、Kmは、第2重力補償項である。
複数対のアイソレータ3が配置されている場合は、(20)式による荷重Pkの値に(17)式による加重係数iλkを用いて表すことができる。
i番目の第kアイソレータ3kに作用する荷重iPkは、次式のようになる。
第kアイソレータ3kが一対の場合の傾斜角度θk、角度αkおよび補正角度βkに対応させて、第kアイソレータ3kがN対の場合のi番目の第kアイソレータ3kについて、傾斜角度をiθk、角度をiαk、補正角度をiβkとする。
モデルを簡単にするために、アイソレータ3によらず、円弧垂直方向剛性をKv、円弧方向剛性をKhは、それぞれ一定とする。また、一般には、それぞれの対となるアイソレータ3の円弧中心10は一致しないため、円弧方向剛性Kgは無視できるものとする。
このとき、i番目の第kアイソレータ3kに作用する合力の円弧方向成分をifkh、合力の円弧垂直方向成分をifkvとすると、次式のようになる。
比率gkjは、前述した高層構造物の分離構造により異なるが、前述のアイソレータ3が一対配置されている場合と同様に、(28)式から(31)式のように、重軽構造等のそれぞれの構造に対する比率gkjを求めればよい。
比率hkjを用いて(38)式及び(39)式を書き直すと、(44)式から(46)式のようになる。
図23から図25は、第kアイソレータ3kの傾斜角度θkを算出する手順を示すフローチャートである。
この手順では、重力の影響を考慮しない場合に比べて第1重力補償項Kgおよび第2重力補償項Kmの計算が加わっている。
上方の層2の重心移動の影響が下方の層2に累積されるため、図23のフローチャートのOuter Loopでは最上層の第n層2nから下層へ順次計算している。また、縦剪断型の風特異構造は横剪断型の風特異構造より角度が大きいことは予め解っているので、計算速度を向上させるために、Inner Loopでは傾斜角度θkは90°から減少させて計算する。
次に、ステップS12において、(21)式により角度αkを求めステップS13に移行する。
なお、第1重力補償項Kgの計算では、風特異構造の円弧中心10kが地震特異構造(第k層2kから第n層2nまでの重心7k)より下になる場合(鉛直距離dk≦0)には、重力振子を構成し得ないので計算しない。これは、Inner Loopにおいて傾斜角度θkを90°から減少させて計算しているため、傾斜角度θkが角度αk以上となる場合(θk≧αk)において起こり得る。
第2重力補償項Kmの計算では、現時点の計算ループのサフィックスをk(k<n)とした場合、(34)式において比率hkj(n≧j>k)という過去ループの傾斜角度θj(n≧j>k)に基づく値を必要とする。従って、(26)式における過去ループ部分をメモリに蓄積しておき比率hkjの計算に用いる。
また、ステップS31において、変数kに代入された値より変数nに代入された値が大きいという条件が偽である場合(False)は、ステップS35において次式により第2重力補償項Kmの値を求め、サブルーチンを終了して図23に示すステップS16に移行する。
次に、ステップS18において、2ステップ前のステップS16で今回求めた誤差ekの値が先に求めた誤差ekの値(ステップS16が既に2回以上行われた場合の、最後に行ったステップS16の1回前に行ったステップS16で求めた誤差ekの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。すなわち、先に求めた誤差ekの値が正の数でありかつ今回求めた誤差ekの値が負の数である場合、又は先に求めた誤差ekの値が負の数でありかつ今回求めた誤差ekの値が正の数である場合に、誤差ekの符号が反転したと判断する。
この条件が真である場合(True)は、ステップS19に移行する。なお、2ステップ前のステップS16が初めて行われたステップS16である場合、ステップS18の条件が偽である場合(False)、及び上記のステップS17における条件が偽である場合(False)、のいずれかの場合にはステップS13に移行する。
シミュレーションに用いた高層構造物1は、アスペクト比(=構造物高さ/構造物幅)が5の5つの層2からなる構造物であって、各層2とも水平方向X2が20m、鉛直方向X1が20mとした。偶数番目の層2の密度は奇数番目の層2の密度の2倍とし、偶数番目の層2の密度を鉄の0.0286倍の密度として、第2層22および第4層24の質量を1.79×106(kg)とした。また、奇数番目の層2の密度を鉄の0.0143倍の密度として、第1層21、第3層23および第5層25の質量を8.97×105(kg)とした。重力加速度は9.8066(m/s2)とした。また、アイソレータ3はそれぞれの層2の下端に一対配置されているとし、円弧方向剛性Khは2.0×106(N/m)、円弧垂直方向剛性Kvは2.0×109(N/m)で、円弧方向剛性Kh/円弧垂直方向剛性Kv=1/1000とした。
シミュレーションの結果を表3に示す。
なお、アイソレータ3を3対以上備える場合であっても、以下の手順のループ数が増えるだけで、傾斜角度iθkを同様に算出することができる。
図26から図28は、傾斜角度iθkを算出する手順を示すフローチャートである。
上方の層2の重心移動の影響が下方の層2に累積されるため、図26のフローチャートのOuter Loopでは最上層の第n層2nから下層へ順次計算している。また、縦剪断型の風特異構造は横剪断型の風特異構造より角度が大きいことは予め解っているので、計算速度を向上させるために、Inner Loopでは傾斜角度iθkは90°から減少させて計算する。そして、後述する誤差1ek、2ekの全ての符号が同時に反転した場合に、傾斜角度iθkが求まる。
次に、ステップS45において、図27に示す、傾斜角度1θk、2θkに代入された値に対する第kアイソレータ3kの後述する式による誤差1ek、2ekをそれぞれ求めるiek計算関数を行う。
このiek計算関数のサブルーチンの概要を説明すると、まず、ステップS61において後工程をアイソレータ3の対の数である2回繰り返すように設定する。次に、ステップS62において、図28に示すiKm計算関数のサブルーチンを行い、各第kアイソレータ3kに対応する第2重力補償項1Km、2Kmを求める。
第2重力補償項iKmの計算では、現時点の計算ループのサフィックスをk(k<n)とした場合、(46)式において比率hkj(n≧j>k)という過去ループの傾斜角度iθj(n≧j>k)に基づく値を必要とする。従って、(42)式における過去ループ部分をメモリに蓄積しておき比率hkjの計算に用いる。
そして、ステップS63において、以下の式により誤差1ek、2ekを求め、図26のステップS46に移行する。
なお、ステップS45からステップS46に移行してきた時のみ傾斜角度1θkに(90−Δ1θk)の値を代入し、後述するステップS50からステップS46に移行してきた時は、傾斜角度1θkに代入された値から変化量Δ1θkを減じた上で傾斜角度1θkに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
なお、ステップS46からステップS47に移行してきた時のみ傾斜角度2θkに(90−Δ2θk)の値を代入し、後述するステップS49からステップS47に移行してきた時は、傾斜角度2θkに代入された値から変化量Δ2θkを減じた上で傾斜角度2θkに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
次に、ステップS50において、2ステップ前のステップS48で求めた誤差1ekの値が先に求めた誤差1ekの値(2ステップ前のステップS48が初めて行われたステップS48である場合にはステップS45で求めた誤差1ekの値、これ以外の場合は最後に行ったステップS48の1回前に行ったステップS48で求めた誤差1ekの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS51に移行し、この条件が偽である場合(False)は、ステップS46に移行する。
次に、ステップS52において、上記のステップS51で得られた傾斜角度1θk及び2θkによる次式の値をメモリに記憶し、ステップS42に移行する。
シミュレーションに用いた高層構造物1は、アスペクト比(=構造物高さ/構造物幅)が5の5つの層2からなる構造物であって、各層2とも水平方向X2が20m、鉛直方向X1が20mとした。偶数番目の層2の密度は奇数番目の層2の密度の2倍とし、偶数番目の層2の密度を鉄の0.0286倍の密度として、第2層22および第4層24の質量を1.79×106(kg)とした。また、奇数番目の層2の密度を鉄の0.0143倍の密度として、第1層21、第3層23および第5層25の質量を8.97×105(kg)とした。重力加速度は9.8066(m/s2)とした。
また、アイソレータ3はそれぞれの層2の下端に2対配置されているとし、層2の中心を対称の軸として、外側から1番目のアイソレータ3の対が互いに20m離間し、外側から2番目のアイソレータ3の対が互いに10m離間しているとした。
円弧方向剛性Khは2.0×106(N/m)、円弧垂直方向剛性Kvは2.0×109(N/m)で、円弧方向剛性Kh/円弧垂直方向剛性Kv=1/1000とした。
本発明は、多層の構造物を多節振動により制振することを軸としている。従って、一般的には塔状構造物に有効な構造であり、層数の多い高層構造物で特にその現象が顕著となる。ただし、これはアスペクト比が大きい構造物(幅に対して高さが高い構造物)に有効ということとは等価ではなく、例えば、ビル幅の広い高層構造物ではアスペクト比は小さいが、層数が多いため顕著な多節振動を行う。
本発明は、日本古来の五重塔に代表されるような塔構造にも適用可能である。図12に示す高層構造物42の形状はまさしく多重塔構造であり、大層(大きな層)で塔の層数を判断するなら二重塔に相当する。当然、五重塔にも拡張可能である。
分離構造では、風に対する特異配置、すなわち風特異構造を用いているため風に強い。これは、風荷重を高剛性である円弧垂直方向剛性で、全ての荷重を受け止める構造となっているからである。
分離構造では構造上、風に対しても地震に対しても層間変位が生じ、層間変位が大きくなると、上下に隣り合う層が互いに逆方向に回転する。従って、摂動構造と同様に、低剛性である円弧方向の変位が得られやすいため、この円弧方向にダンパを挿入することにより高減衰を得ることができる。
また、前述の特許文献4に記載された特異配置の制振構造物のように、低剛性である円弧方向の剛性を調節して水平方向の固有振動数、すなわち縦剪断振動の固有振動数と一致させると、水平方向の振動エネルギーは円弧方向に遷移する。そして、特許文献4に記載されているように、低剛性である円弧方向にダンパを挿入することにより、さらに大きな高減衰を得ることができる。
本発明の分離構造は、特許文献3から5に記載された制振構造物の制振性能を継承している。従って、高次モード卓越により、卓越周期は通常の剛構造ビルより短周期である。従って、中間免震などは卓越周期が長周期地震で懸念される領域にあり長周期地震に弱いと考えられるのに対し、高次卓越は長周期地震帯域では縮退した低次モードであるため長周期地震にも強い。
2、22、32、42 層
3 アイソレータ
6 上層構造物
7 重心
33 貫通孔
A1 鉛直線
G 水平面
X1 鉛直方向
Claims (9)
- 水平面上に配置される第1層、および前記第1層上に順に重ねて配置される第2層から第n層までを含む複数の層と、
それぞれの前記層の下端に自身が支持する上層構造物の重心を含む鉛直線に関して対称に配置され、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように前記水平面に対して斜め方向に運動する一対のアイソレータと、
を備える制振構造物であって、
少なくとも1つの前記一対のアイソレータおよび前記一対のアイソレータが支持する前記上層構造物において、
前記一対のアイソレータに作用する力の延長線が前記上層構造物の重心を含む前記鉛直線と交わる位置である剛心の高さと前記上層構造物の前記水平面を基準とした風圧中心の高さとが一致し、
前記風圧中心の高さと前記上層構造物の重心の高さとが異なるように構成されていることを特徴とする制振構造物。 - 上下方向に隣り合う前記層は、互いに構造が異なることを特徴とする請求項1に記載の制振構造物。
- 上下方向に隣り合う前記層は、互いに密度が異なることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。
- 上下方向に隣り合う前記層のうち、密度が大きいほうの前記層の方が体積が大きく形成されていることを特徴とする請求項3に記載の制振構造物。
- それぞれの前記層は、
上方および下方に隣り合う前記層に対して、鉛直方向の長さがそれぞれ等しく設定されるとともに、鉛直方向に垂直な平面による断面積がそれぞれ異なることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。 - 少なくとも一つの前記層には、
前記層の側面に両端部の開口が形成された貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。 - 前記第n層は、第(n−1)層よりも軽く構成されていることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の制振構造物。
- 前記第1層から数えてk番目の前記層を第k層としたときに、
前記第1層から前記第n層までのそれぞれの前記層に対して、前記第k層の下端に配置された前記アイソレータの前記水平面に対する傾斜角度θkは(1)式の解として得られる値に設定され、
風圧中心の高さCkが(2)式により求められることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の制振構造物。
- 前記第1層から数えてk番目の前記層を第k層としたときに、
前記第1層から前記第n層までのそれぞれの前記層に対して、前記第k層の下端に配置された前記アイソレータの前記水平面に対する傾斜角度θkは(4)式から(6)式を用いて求められる(3)式の解として得られる値に設定され、
風圧中心の高さCkが(7)式により求められることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の制振構造物。
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