以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による振動抑制装置1を、これを適用した建物Bとともに概略的に示している。建物Bは、基礎Fに立設された高層の建築物であり、その上層部SUと下層部SLの間には、振動抑制装置1の複数の免震装置2(4つのみ図示)が設けられている。なお、図1では、便宜上、免震装置2などの一部の部品の符号を省略している。
図2に示すように、各免震装置2は、積層ゴムタイプのものであり、上下一対の円板状のフランジ3、3と、両フランジ3、3の間に交互に積層され、一体に設けられたドーナツ板状の複数の内部ゴム4及び内部鋼板5と、内部ゴム4及び内部鋼板5の径方向の中央部に一体に設けられた円柱状の鉛プラグ6と、内部ゴム4及び内部鋼板5の外表を覆う円筒状の被覆ゴム7を有している。なお、図2では、便宜上、内部ゴム4及び内部鋼板5の一部の符号と、両者4、5及び被覆ゴム7の断面のハッチングを省略している。免震装置2において、内部ゴム4、内部鋼板5及び被覆ゴム7は、中層部SMの振動周期を調整するためのばね要素を構成している。また、鉛プラグ6は、中層部SMの層間変位を抑制するための履歴減衰要素を構成しており、建物Bの振動時、その鉛が塑性変形することによって、変位に依存した履歴減衰が付与される。
各フランジ3の縁部には、上下方向に貫通する複数の取付孔3aが形成されており、各取付孔3aには、ボルト(図示せず)が挿入されている。上側のフランジ3の取付孔3aに挿入されたボルトは、建物Bの上層部SUの下端部に設けられた第1連結部E1(図1参照)に、ナット(図示せず)を用いて結合されており、下側のフランジ3の取付孔3aに挿入されたボルトは、建物Bの下層部SLの上端部に設けられた第2連結部E2に、ナット(図示せず)を用いて結合されており、それにより、免震装置2は、上層部SU及び下層部SLに取り付けられている。以上の構成により、上層部SUは、複数の免震装置2に支持されており、建物Bの中層部SMは、複数の免震装置2で構成されている。
建物Bの振動時、以上の構成の免震装置2によって、上層部SUの振動周期が下層部SLの振動周期に対して長周期化されることで、下層部SLから上層部SUへの振動エネルギの伝達が抑制される。また、免震装置2の鉛プラグ6によって、中層部SMの層間変位が抑制される。
また、振動抑制装置1は、図3及び図4に示すマスダンパ11をさらに備えている。マスダンパ11は、下層部SLの各層(各階)に設けられており、下層部SLは、複数の柱PL、PRと複数の梁BU、BDを組み合わせたラーメン構造を有している。また、マスダンパ11は、本出願人による特許第5314201号の図3などに記載されたマスダンパと同様に構成されているので、以下、その構成及び動作について簡単に説明する。
図4に示すように、マスダンパ11は、内筒12、ボールねじ13、回転マス14、及び制限機構15を有している。内筒12は、円筒状の鋼材で構成されている。内筒12の一端部は開口しており、他端部は、自在継ぎ手を介して第1フランジ16に取り付けられている。
また、ボールねじ13は、ねじ軸13aと、ねじ軸13aに多数のボール13bを介して回転可能に螺合するナット13cを有している。ねじ軸13aの一端部は、上述した内筒12の開口に収容されており、ねじ軸13aの他端部は、自在継ぎ手を介して第2フランジ17に取り付けられている。また、ナット13cは、軸受け18を介して、内筒12に回転可能に支持されている。
回転マス14は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、回転マス14は、内筒12及びボールねじ13を覆っており、軸受け19を介して、内筒12に回転可能に支持されている。回転マス14と内筒12の間には、一対のリング状のシール20、20が設けられている。これらのシール20、20、回転マス14及び内筒12によって形成された空間には、シリコンオイルで構成された粘性体21が充填されている。
以上のように構成されたマスダンパ11では、内筒12及びねじ軸13aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ13で回転運動に変換された状態で、制限機構15を介して回転マス14に伝達されることによって、回転マス14が回転する。
制限機構15は、リング状の回転滑り材15aと、複数のねじ15b及びばね15c(2つのみ図示)で構成されている。マスダンパ11の軸線方向に作用する荷重(以下「軸荷重」という)が、ねじ15bの締付度合に応じて定まる制限荷重に達するまでは、回転マス14は、ナット13cと一体に回転する。一方、マスダンパ11の軸荷重が制限荷重に達すると、回転滑り材15aとナット13c又は回転マス14との間に滑りが発生する。
また、図3に示すように、第1フランジ16は、連結鋼管22を介して、上梁BUと右柱PR(又は前柱)との接合部に固定された第1連結部材EN1に取り付けられており、第2フランジ17は、下梁BDと左柱PL(又は後柱)との接合部に固定された第2連結部材EN2に取り付けられている。これにより、マスダンパ11は、上梁BU及び下梁BDにブレース状に斜めに連結されている。
以上の構成の建物B及び振動抑制装置1をモデル化すると、例えば図5のように表される。同図に示すように、上層部SUには、免震装置やダンパなどの振動抑制装置は設けられておらず、上層部SUは、中層部SMの免震装置2に支持されている。また、下層部SLには、その各層に、マスダンパ11が設けられている。
次に、図6〜図10を参照しながら、基礎Fに所定の地震波を入力したと仮定した場合における建物Bの応答をシミュレーション解析することにより得られた結果について説明する。このシミュレーション解析では、解析モデルを等価剪断マスばねモデルとし、応答解析を、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの非線形性を考慮した弾塑性解析とした。図6は、シミュレーション解析に用いた建物Bの層数(階数)や各層の高さ(層高)、各層の重量などの諸元データを示している。
図6に示すように、シミュレーション解析に用いた建物Bは、20階建てのものであり、その10層に、免震装置2が設けられている。すなわち、建物Bの1層から9層が下層部SLに相当し、10層が中層部SMに相当するとともに、11層〜20層が上層部SUに相当する。また、建物Bの構造減衰を、剛性比例型で2%とし、上層部SU及び下層部SLの1次固有周期はそれぞれ、1.5秒及び1.04秒である。さらに、図6に示す建物Bの各層の初期剛性K1、第1剛性低下率α1(=K2/K1)、第2剛性低下率α2(=K3/K1)、第1降伏荷重Qy1及び第2降伏荷重Qy2の関係は、図7のように表される。
なお、このシミュレーション解析では、後述するように、上層部SUの固有周期Tuに対する中層部SMの固有周期Tmの比(Tm/Tu)である周期比γや、上層部SUの総重量Wuに対する履歴減衰要素(鉛プラグ6)の降伏荷重Qdの比(Qd/Wu)である降伏剪断力係数αyが、複数の所定値にそれぞれ設定される。このため、図6では、中層部SMに相当する10層の初期剛性K1や、第1剛性低下率α1、第1降伏荷重Qy1の具体的な数値は、省略されている。
また、図6に示す回転慣性質量mdは、回転マス14の回転慣性質量である。この場合、回転慣性質量mdは、次のようにして算出される。すなわち、まず、制御する建物Bの振動モード(以下「対象振動モード」という)を、下層部SLの複数の層の各々に対して設定するとともに、設定した対象振動モードにおける建物Bの固有振動数ω(i)を算出する(手順1)。ここで、添え字iは対象振動モードの次数を表す。次いで、算出された固有振動数ω(i)と、これに対応する層の層剛性k(n)を用い、次式(1)によって、回転慣性質量md(n)を算出する(手順2)。ここで、添え字nは層数(階数)を表す。
md(n)=k(n)/ω(i)2 ……(1)
下層部SLの複数の層の各々に対して設定された複数の対象振動モードが互いに同じ1つの振動モードであるときには、上記の手順2を複数の各々の層に対して行えばよい。
一方、複数の対象振動モードを互いに異なる複数の振動モードにそれぞれ設定するときには、まず、複数の層の任意の1つ(複数の対象振動モードの任意の1つ)における建物Bの固有振動数ω(i)を算出するとともに、上記の手順2によって、回転慣性質量md(n)を算出する。次いで、算出された回転慣性質量md(n)を有するマスダンパ11が対応する層に設けられた建物Bの他の層(他の対象振動モード)における固有振動数ω(i)を算出する(手順3)。次に、算出された固有振動数ω(i)を用い、上記の手順2によって、回転慣性質量md(n)を算出する(手順4)。以上の手順3及び4を、下層部SLの複数の層の各々に設けられる複数のマスダンパ11の回転慣性質量md(n)がすべて算出されるまで、繰り返す。
以上のように、複数の対象振動モードが互いに異なる振動モードであるときには、マスダンパ11による建物Bの固有振動数ω(i)への影響を考慮して、回転慣性質量md(n)の算出が行われる。この場合、各層のマスダンパ11の回転慣性質量mdの算出の順序は、任意であり、当該算出を、上層部SUから下層部SLに向かって行ってもよく、これとは逆に、下層部SLから上層部SUに向かって行ってもよい。上記のシミュレーション解析では、下層部SLの1層〜9層の対象振動モードは、1次〜9次モードにそれぞれ設定されている。なお、対象振動モードの次数は任意であり、また、複数の層の対象振動モードを互いに同じ振動モードに設定してもよいことは、もちろんである。
なお、上述した算出手法に代えて、設定された複数の対象振動モードが互いに異なる振動モードであるときにも、手順1及び2によって、各層のマスダンパ11の回転慣性質量mdを算出してもよい。あるいは、完全モード制御(1次モード以外の次数の刺激係数を完全に0にする方法)や、完全モード制御の解を部分的に利用する疑似モード制御、対象とするいくつかのモードを任意に選択して制御する部分モード制御などを用いて、回転慣性質量mdを算出してもよい。
ここで、完全モード制御は、「古橋剛、石丸辰治:慣性接続要素によるモード分離、慣性接続要素による応答制御に関する研究その1、日本建築学会構造系論文集の第576号の第55頁〜第62頁」や、「古橋剛、石丸辰治:慣性接続要素による多質点振動系の応答制御、慣性接続要素による応答制御に関する研究その2、日本建築学会構造系論文集の第601号の第83頁〜第90頁」に記載されている。また、疑似モード制御は、「石丸辰治、秦一平、古橋剛:疑似モード制御によるD.M.同調システムの簡易設計法、日本建築学会構造系論文集の第76巻、第661号の第509頁〜第517頁」に記載されている。部分モード制御は、「登坂遼太郎、玉木龍、古橋剛、石丸辰治:D.M.を用いたモード制御に関する基礎的研究その1、部分モード制御システムの提案、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)の第823頁〜第824頁」や、「玉木龍、登坂遼太郎、古橋剛、石丸辰治:D.M.を用いたモード制御に関する基礎的研究その2、高層免震建築物における部分モード制御設計、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)の第825頁〜第826頁」に記載されている。
また、図8(a)は、シミュレーション解析により得られた、周期比γと、上層部SUにおける最大応答層間変位DMU及び最大応答加速度AMU(最上階を除く)との関係を示しており、図8(b)は、γと、中層部SMにおける最大応答層間変位DMM及び最大応答加速度AMMとの関係を、図8(c)は、γと、下層部SLにおける最大応答相対変位DML及び最大応答加速度AMLとの関係を、それぞれ示している。ここで、上層部SUにおける最大応答層間変位DMUは、上層部SUにおける層間変位の最大値であり、最大応答加速度AMUは、上層部SUにおける応答加速度の最大値である。
同様に、中層部SMにおける最大応答層間変位DMMは、中層部SMにおける層間変位の最大値であり、最大応答加速度AMMは、中層部SMにおける応答加速度の最大値である。また、下層部SLにおける最大応答相対変位DMLは、下層部SLにおける相対変位の最大値であり、最大応答加速度AMLは、下層部SLにおける応答加速度の最大値である。さらに、周期比γは、前述したように上層部SUの固有周期Tuに対する中層部SMの固有周期Tmの比(Tm/Tu)である。
以下、上層部SUの最大応答層間変位DMU、中層部SMの最大応答層間変位DMM、及び下層部SLの最大応答相対変位DMLをそれぞれ、「上層部最大層間変位DMU」「中層部最大層間変位DMM」及び「下層部最大相対変位DML」という。また、上層部SU〜下層部SLの最大応答加速度AMU〜AMLをそれぞれ、「上層部最大加速度AMU」「中層部最大加速度AMM」及び「下層部最大加速度AML」という。上層部最大層間変位DMU、中層部最大層間変位DMM及び下層部最大相対変位DMLの単位はいずれもcmであり、上層部最大加速度AMU〜下層部最大加速度AMLの単位はいずれもcm/s2である。このことは、後述する他の図面でも同様である。なお、図8では、周期比γを0.0〜10.0の範囲で示している。
また、図8に示すデータは、免震装置2の履歴減衰要素(鉛プラグ6)の降伏剪断力係数αyを0.04に設定(固定)するとともに、入力地震波として、EL CENTRO−NS(地震名:1940年Imperial Valley、観測点:EL CENTRO、成分:南北、最大加速度:5.1 m/s2、継続時間:53.8 sec)を用いてシミュレーション解析することで得られたものである。上記の降伏剪断力係数αyは、前述したように上層部SUの総重量Wuに対する履歴減衰要素の降伏荷重Qdの比(Qd/Wu)である。
図8に示すように、上層部最大層間変位DMU、上層部最大加速度AMU及び下層部最大相対変位DMLは、周期比γに対するそれらの傾向が互いに同じになっている。具体的には、上層部最大層間変位DMU、上層部最大加速度AMU及び下層部最大相対変位DMLは、周期比γが2.0よりも小さい範囲では、比較的大きく、γが大きいほど、非常に大きな傾きでより小さくなり、γが2.0以上の範囲では、ほぼ一定になっている。また、周期比γが2.0〜6.0の範囲では、上層部最大層間変位DMUは約1.25cmであり、上層部最大加速度AMU及び下層部最大相対変位DMLはそれぞれ、約200cm/s2及び約10cmである。
一方、中層部最大層間変位DMM、中層部最大加速度AMM及び下層部最大加速度AMLは、その周期比γに対する傾向が、上記の上層部最大層間変位DMUなどと異なっている。具体的には、中層部最大層間変位DMMは、周期比γが2.0よりも小さい範囲では、γが大きいほど、非常に大きな傾きでより大きくなり、2.0よりも大きい範囲では、γが大きいほど、γ<2.0の場合よりも小さい傾きで、より大きくなる。また、中層部最大層間変位DMMは、周期比γが2.0〜6.0の範囲では、約15cm〜30cmである。
中層部最大加速度AMMは、周期比γが2.0よりも小さい範囲では、γが大きいほど、非常に大きな傾きでより大きくなり、2.0〜約4.0の範囲では、γが大きいほど、より小さくなり、約4.0よりも大きい範囲では、ほぼ一定になっている。また、中層部最大加速度AMMは、周期比γが2.0〜6.0の範囲では、約350cm/s2〜200cm/s2である。下層部最大加速度AMLは、周期比γの大きさにかかわらず、ほぼ一定になっており、約450cm/s2である。
上述した図8に示すデータに基づき、本発明の実施例1では、上層部最大層間変位DMU、中層部最大層間変位DMM、下層部最大相対変位DML、上層部最大加速度AMU、中層部最大加速度AMM、及び下層部最大加速度AMLをいずれも良好に抑制するために、免震装置2のばね要素(内部ゴム4、内部鋼板5及び被覆ゴム7)の剛性kmは、周期比γが2.0〜6.0の範囲内の任意の所定値、例えば4.0になるように、次式(2)によって設定されている。ここで、muは、上層部SUの総質量であり、Tuは、前述したように上層部SUの固有周期である。
km=4・π2・mu/(γ2・Tu2) ……(2)
また、図9(a)は、シミュレーション解析により得られた、降伏剪断力係数αyと、上層部最大層間変位DMU及び上層部最大加速度AMUとの関係を示しており、図9(b)は、αyと、中層部最大層間変位DMM及び中層部最大加速度AMMとの関係を、図9(c)は、αyと、下層部最大相対変位DML及び下層部最大加速度AMLとの関係を、それぞれ示している。また、図9に示すデータは、周期比γを2.67に設定(固定)するとともに、入力地震波として、KOKUJI(地震名:告示波(極めて稀に発生する地震)、最大加速度:3.7 m/s2、継続時間:120.0 sec、位相:兵庫県南部地震において神戸海洋気象台で観測された南北成分の位相)を用いてシミュレーション解析することで得られたものである。なお、図9では、降伏剪断力係数αyを0.00〜0.10の範囲で示している。
図9に示すように、上層部最大層間変位DMU及び上層部最大加速度AMUは、その降伏剪断力係数αyに対する傾向が互いに同じになっている。具体的には、上層部最大層間変位DMU及び上層部最大加速度AMUは、降伏剪断力係数αyが0.03よりも小さい範囲では、基本的にはほぼ一定であり、0.03〜0.05の範囲では、αyが大きいほど、より小さくなり、0.05よりも大きい範囲では、αyが大きいほど、より大きくなる。降伏剪断力係数αyが0.03〜0.05の範囲では、上層部最大層間変位DMUは約1.5cm〜1cmであり、上層部最大加速度AMUは約200cm/s2である。
一方、中層部最大層間変位DMM、中層部最大加速度AMM、下層部最大相対変位DML及び下層部最大加速度AMLは、その降伏剪断力係数αyに対する傾向が、上記の上層部最大層間変位DMUなどと異なっている。具体的には、中層部最大層間変位DMMは、降伏剪断力係数αyが0.03よりも小さい範囲では、比較的大きく、αyが大きいほど、非常に大きな傾きでより小さくなり、αyが0.03よりも大きい範囲では、αyが大きいほど、非常に小さい傾きでより大きくなっている。また、中層部最大層間変位DMMは、降伏剪断力係数αyが0.03〜0.05の範囲では、約25cmである。
中層部最大加速度AMM及び下層部最大加速度AMLは、降伏剪断力係数αyが0.03よりも小さい範囲では、αyが大きいほど、より大きくなり、0.03〜0.05の範囲では、αyが大きいほど、より小さくなる。また、降伏剪断力係数αyが0.05よりも大きい範囲では、中層部最大加速度AMMは、αyが大きいほど、より大きくなり、下層部最大加速度AMLは、αyが大きいほど、より小さくなる。また、降伏剪断力係数αyが0.03〜0.05の範囲では、中層部最大加速度AMMは、約300〜200cm/s2であり、下層部最大加速度AMLは、約450〜500cm/s2である。
下層部最大相対変位DMLは、降伏剪断力係数αyが0.03よりも小さい範囲では、αyが大きいほど、より小さくなり、αyが0.03〜0.05の範囲では、αyが大きいほど、より大きくなり、0.05よりも大きい範囲では、ほぼ一定になっている。また、下層部最大相対変位DMLは、降伏剪断力係数αyが0.03〜0.05の範囲では、約10〜15cmである。
上述した図9に示すデータに基づき、本発明の実施例2では、上層部最大層間変位DMU、中層部最大層間変位DMM、下層部最大相対変位DML、上層部最大加速度AMU、中層部最大加速度AMM、及び下層部最大加速度AMLをいずれも良好に抑制するために、免震装置2の履歴減衰要素(鉛プラグ6)の降伏荷重Qdは、降伏剪断力係数αyが0.03〜0.05の範囲内の任意の所定値、例えば0.04になるように、次式(3)によって設定されている。ここで、Wuは、前述したように上層部SUの総重量である。
Qd=αy・Wu ……(3)
また、図10(a)及び(b)は、第1実施形態に関する実施例3についてシミュレーション解析することで得られた建物Bの各層の最大応答相対変位及び最大応答加速度を、比較例1及び2とともにそれぞれ示している。以下、最大応答相対変位及び最大応答加速度をそれぞれ、「相対変位」及び「応答加速度」という。図10では、実施例3によるデータを●で示しており、比較例1及び2によるデータを、○及び×でそれぞれ示している。この実施例3では、ばね要素の剛性kmは、周期比γが2.67になるように、前記式(2)により設定されるとともに、履歴減衰要素の降伏荷重Qdは、降伏剪断力係数αyが0.03になるように、上記式(3)により設定されている。
また、比較例1は、下層部SLにマスダンパ11が設けられていない場合(免震装置2のみが設けられている場合)の例であり、比較例2は、マスダンパ11に代えて、オイルダンパが下層部SLに設けられた場合の例である。比較例2におけるオイルダンパは、その減衰定数が0.10に設定されている。なお、実施例3、比較例1及び2のいずれについても、建物Bの諸元データを前述した図6に示すように設定し、前記EL CENTRO−NSを入力地震波として用いた。
図10に示すように、実施例3(●)によれば、1層及び2層の相対変位が、比較例2(×)のそれらよりも、わずかに大きくなっているものの、比較例1(○)及び2と比較して、上層部SU(11層〜20層)、中層部SM(10層)及び下層部SL(1層〜9層)の全体として、相対変位が小さくなっていることが分かる。また、実施例3によれば、1層及び16層の応答加速度が、比較例1及び2のそれらよりも、わずかに大きくなっており、また、2層の応答加速度が、比較例2よりもわずかに大きくなっているものの、比較例1及び2と比較して、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの全体として、応答加速度が小さくなっていることが分かる。
以上のように、第1実施形態によれば、免震装置2が建物Bの中層部SMに、マスダンパ11が下層部SLに、それぞれ設けられている。建物Bの振動時、これらの免震装置2及びマスダンパ11が協働することによって、下層部SL及び中層部SMの応答変位と、下層部SL及び上層部SUの応答加速度とを良好に抑制でき、ひいては、中層部SMに免震装置2が設けられた建物Bの振動を全体的に良好に抑制することができる。
また、免震装置2が、中層部SMの振動周期を調整するためのばね要素(内部ゴム4、内部鋼板5及び被覆ゴム7)に加え、中層部SMの層間変位を抑制するための履歴減衰要素(鉛プラグ6)を有するので、建物Bの振動を全体的により良好に抑制することができる。
さらに、第1実施形態に関する実施例1によれば、免震装置2のばね要素の剛性kmは、周期比γ(上層部SUの固有周期Tuに対する中層部SMの固有周期Tmの比)が2.0〜6.0の範囲内になるように、前記式(2)によって設定されている。これにより、図8を参照して説明したように、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの応答変位ならびに応答加速度をより良好に抑制でき、ひいては、建物Bの振動を全体的にさらに良好に抑制することができる。
また、第1実施形態に関する実施例2によれば、免震装置2の履歴減衰要素の降伏荷重Qdは、上層部SUの総重量Wuとの比(Qd/Wu)である降伏剪断力係数αyが0.03〜0.05の範囲内になるように、設定されている。これにより、図9を参照して説明したように、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの応答変位ならびに応答加速度をより良好に抑制でき、ひいては、建物Bの振動を全体的にさらに良好に抑制することができる。
次に、図11〜図13を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と比較して、免震装置30の構成のみが異なっている。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
免震装置30は、いずれも複数の第1免震装置31及び第2免震装置41を有しており(図12には1つのみ図示)、これらの第1及び第2免震装置31、41は、第1実施形態の免震装置2と同様、建物Bの上層部SUと下層部SL(図1参照)の間に設けられている。図11に示すように、各第1免震装置31は、免震装置2と同様、積層ゴムタイプのものであり、上下一対の矩形板状のフランジ32、32と、両フランジ32、32の間に交互に積層され、一体に設けられた円板状の複数の内部ゴム33及び内部鋼板34と、内部ゴム33及び内部鋼板34の外表を覆う円筒状の被覆ゴム35を有している。なお、図11では、便宜上、内部ゴム33及び内部鋼板34の一部の符号と、両者33、34及び被覆ゴム35の断面のハッチングを省略している。第1免震装置31において、内部ゴム33、内部鋼板34及び被覆ゴム35は、ばね要素を構成している。以上の構成から明らかなように、第1免震装置31は、第1実施形態の免震装置2の鉛プラグ6(履歴減衰要素)を除いたものである。
各フランジ32の4つの角部の各々には、上下方向に貫通する3つの取付孔32aが形成されており、各取付孔32aには、ボルト(図示せず)が挿入されている。このボルトは、第1実施形態と同様、建物Bの上層部SUの下端部に設けられた第1連結部E1と、建物Bの下層部SLの上端部に設けられた第2連結部E2(図1参照)とに、ナット(図示せず)を用いて結合されており、それにより、第1免震装置31は、上層部SU及び下層部SLに取り付けられている。
図12及び図13に示すように、各第2免震装置41は、オイルダンパで構成されており、円筒状のシリンダ42と、シリンダ42に軸線方向に移動可能に部分的に収容されたロッド43と、ロッド43の軸線方向の中央部に一体に設けられるとともに、シリンダ42内に摺動可能に収容されたピストン44などで構成されている。免震装置30において、第2免震装置41は粘性減衰要素を構成している。
シリンダ42は、互いに対向する一対の端壁42a、42bと、両者42a、42bの間に一体に設けられた周壁42cで構成されている。これらの端壁42a、42b及び周壁42cによって画成された油室は、ピストン44によって端壁42a側の第1油室42dと端壁42b側の第2油室42eに区画されており、両油室42d、42eには、オイルOIが充填されている。
また、一対の端壁42a、42bの各々の径方向の中央には、軸線方向に貫通するロッド案内孔42fが形成されており、ロッド案内孔42fには、シール(図示せず)が設けられている。さらに、端壁42aには、軸線方向に突出する凸部42gが一体に設けられており、凸部42gの内側には、収容部42hが画成されている。さらに、凸部42gには、第2免震装置41を建物Bに取り付けるための取付孔42iが形成されている。
前記ロッド43は、上記のロッド案内孔42f、42fに、シールを介して挿入され、軸線方向に延びており、シリンダ42に対して軸線方向に移動可能である。また、ロッド43は、その一端部が上記の収容部42hに収容され、一端部以外の大部分が第1及び第2油室42d、42eに収容されており、他端部がシリンダ42から突出している。また、ロッド43の他端部に一体に設けられた連結部45には、第2免震装置41を建物Bに取り付けるための取付孔45aが形成されている。
ピストン44は、円柱状に形成されており、その周面には、シール(図示せず)が設けられている。また、ピストン4の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1調圧弁46及び第2調圧弁47が設けられている。第1調圧弁46は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、建物Bの振動に伴うピストン44の移動によって第1油室42d内のオイルOIの圧力が所定値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室42d、42eが互いに連通することによって、第1油室42d内のオイルOIの圧力が所定値以下に保持される。第2調圧弁47は、第1調圧弁46と同様に構成されており、建物Bの振動に伴うピストン44の移動によって第2油室42e内のオイルOIの圧力が上記の所定値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室42d、42eが互いに連通することによって、第2油室42e内のオイルOIの圧力が所定値以下に保持される。
また、凸部42g及び連結部45には、第1取付具A1及び第2取付具A2がそれぞれ取り付けられている。凸部42gへの第1取付具A1の取付、及び連結部45への第2取付具A2の取付は、次のようにして行われる。すなわち、各取付具には、上下一対の板状の被取付部が設けられており、各被取付部には、上下方向に貫通する取付孔(図示せず)が形成されている。これらの被取付部の間に、凸部42g(連結部45)を挟み込むとともに、取付孔42i(45a)と、対応する取付具の取付孔とを互いに連通させる。その状態で、ボルト(図示せず)を取付孔42i(45a)及び取付孔に挿入するとともに、このボルトにナット(図示せず)を締め付けることによって、第1取付具A1(第2取付具A2)が凸部42g(連結部45)に取り付けられる。以上の構成により、凸部42g及び連結部45は、第1及び第2取付具A1、A2に対し、上下方向に延びる軸線を中心としてそれぞれ回動可能である。
また、第1及び第2取付具A1、A2は、第1連結部材en1及び第2連結部材en2にそれぞれ取り付けられている。第1連結部材en1は、例えばH形鋼で構成されており、上層部SUの下端部に設けられた梁buに取り付けられており、梁buから下方に若干、延びている。第2連結部材en2は、例えばH形鋼で構成されており、下層部SLの上端部に設けられた梁bdに取り付けられており、梁bdから上方に若干、延びている。以上の構成により、第2免震装置41は、第1取付具A1及び第1連結部en1を介して上層部SUに連結されるとともに、第2取付具A2及び第2連結部en2を介して下層部SLに連結されており、両者SU、SLの間に配置されるとともに、左右方向(又は前後方向)に延びている。
以上の構成により、上層部SUは、複数の第1及び第2免震装置31、41から成る免震装置30に支持されており、建物Bの中層部SMは、免震装置30で構成されている。また、建物Bの振動時、第1免震装置31によって、上層部SUの振動周期が下層部SLの振動周期に対して長周期化されることで、下層部SLから上層部SUへの振動エネルギの伝達が抑制される。さらに、第2免震装置41による粘性減衰効果によって、中層部SMの層間変位が抑制される。
次に、図14〜図16を参照しながら、第2実施形態による振動抑制装置に関し、基礎Fに所定の地震波を入力したと仮定した場合における建物Bの挙動をシミュレーション解析することにより得られた結果について説明する。このシミュレーション解析を行うに当たり、建物Bの諸元データやマスダンパ11の回転慣性質量mdなどの基本的な条件を、第1実施形態と同様に設定し(図6など参照)、解析モデルを等価剪断マスばねモデルとするとともに、応答解析を、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの非線形性を考慮した弾塑性解析とした。
図14(a)は、上記のシミュレーション解析により得られた、周期比γと、上層部最大層間変位DMU及び上層部最大加速度AMUとの関係を示しており、図14(b)は、γと、中層部最大層間変位DMM及び中層部最大加速度AMMとの関係を、図14(c)は、γと、下層部最大相対変位DML及び下層部最大加速度AMLとの関係を、それぞれ示している。周期比γなどの各種のパラメータの定義については、第1実施形態で説明したとおりである。また、図14に示すデータは、粘性減衰要素(第2免震装置41)の減衰定数hdを0.30に設定(固定)するとともに、前記KOKUJIを入力地震波として用いてシミュレーション解析することで、得られたものである。なお、図14では、周期比γを0.0〜10.0の範囲で示している。
図14に示すように、上層部最大層間変位DMU、上層部最大加速度AMU、中層部最大加速度AMM及び下層部最大相対変位DMLは、それらの周期比γに対する傾向が互いに同じになっている。具体的には、上層部最大層間変位DMU、上層部最大加速度AMU、中層部最大加速度AMM及び下層部最大相対変位DMLは、周期比γが2.0よりも小さい範囲では、比較的大きく、γが大きいほど、非常に大きな傾きでより小さくなり、2.0以上の範囲では、ほぼ一定になっている。また、周期比γが2.0〜6.0の範囲では、上層部最大層間変位DMUは約1.0cmであり、上層部最大加速度AMUは約150cm/s2、中層部最大加速度AMM及び下層部最大相対変位DMLはそれぞれ、約100cm/s2及び約10cmである。
一方、中層部最大層間変位DMM及び下層部最大加速度AMLは、その周期比γに対する傾向が、上記の上層部最大層間変位DMUなどと異なっている。具体的には、中層部最大層間変位DMMは、周期比γが2.0よりも小さい範囲では、γが大きいほど、非常に大きな傾きでより大きくなり、2.0〜6.0の範囲では、γの増大に応じて増減を繰り返し、6.0よりも大きい範囲では、γが大きいほど、より大きくなる。また、中層部最大層間変位DMMは、周期比γが2.0〜6.0の範囲では、約25cm〜30cmである。下層部最大加速度AMLは、周期比γに応じて若干、増減するものの、ほぼ一定になっており、γが2.0〜6.0の範囲では、約300cm/s2である。
上述した図14に示すデータに基づき、本発明の実施例4では、上層部最大層間変位DMU、中層部最大層間変位DMM、下層部最大相対変位DML、上層部最大加速度AMU、中層部最大加速度AMM、及び下層部最大加速度AMLをいずれも良好に抑制するために、第1免震装置31のばね要素(内部ゴム33、内部鋼板34及び被覆ゴム35)の剛性km’は、周期比γが2.0〜6.0の範囲内の任意の所定値、例えば4.0になるように、前記式(2)のkmをkm’に置き換えた式によって設定されている。
また、図15(a)は、シミュレーション解析により得られた、減衰定数hdと、上層部最大層間変位DMU及び上層部最大加速度AMUとの関係を示しており、図15(b)は、hdと、中層部最大層間変位DMM及び中層部最大加速度AMMとの関係を、図15(c)は、hdと、下層部最大相対変位DML及び下層部最大加速度AMLとの関係を、それぞれ示している。また、図15に示すデータは、周期比γを2.67に設定(固定)するとともに、KOKUJIを入力地震波として用いてシミュレーション解析することで得られたものである。なお、図15では、減衰定数hdを0.00〜0.10の範囲で示している。
図15に示すように、上層部最大層間変位DMU及び上層部最大加速度AMUは、それらの減衰定数hdに対する傾向が互いに同じになっており、減衰定数hdが0.20よりも小さい範囲では、hdが大きいほど、より小さくなり、hdが0.20以上の範囲では、hdが大きいほど、より大きくなる。減衰定数hdが0.20〜0.60の範囲では、上層部最大層間変位DMUは約1.0〜1.25cmであり、上層部最大加速度AMUは約150cm/s2〜200cm/s2である。
中層部最大層間変位DMM、中層部最大加速度AMM、下層部最大相対変位DML及び下層部最大加速度AMLは、それらの減衰定数hdに対する傾向が、上記の上層部最大層間変位DMUなどと異なっている。具体的には、中層部最大層間変位DMMは、基本的には、減衰定数hdが大きいほど、より小さくなる傾向にあり、hdが0.20よりも小さい範囲では、比較的大きく、hdが大きいほど、そのhdに対する傾きが小さくなる。また、中層部最大層間変位DMMは、減衰定数hdが0.20〜0.60の範囲では、約35cm〜25cmである。中層部最大加速度AMMは、減衰定数hdが0.1よりも小さい範囲では、hdが大きいほど、より小さくなり、0.1〜0.3の範囲では、一定であり、0.3よりも大きい範囲では、hdが大きいほど、非常に小さい傾きでより大きくなる。また、中層部最大加速度AMMは、減衰定数hdが0.20〜0.60の範囲では、約100〜150cm/s2である。
下層部最大相対変位DML及び下層部最大加速度AMLは、減衰定数hdに対する傾向が互いにほぼ同じになっている。下層部最大相対変位DMLは、減衰定数hdが約0.30以下の範囲では、hdが大きいほど、より小さくなり、約0.30よりも大きい範囲では、概ね一定になっている。また、下層部最大相対変位DMLは、減衰定数hdが0.20〜0.60の範囲では、約15cm〜10cmである。下層部最大加速度AMLは、減衰定数hdが約0.40以下の範囲では、hdが大きいほど、より小さくなり、約0.40よりも大きい範囲では、一定になっている。また、下層部最大加速度AMLは、減衰定数hdが0.20〜0.60の範囲では、約350cm/s2〜300cm/s2である。
上述した図15に示すデータに基づき、本発明の実施例5では、上層部最大層間変位DMU、中層部最大層間変位DMM、下層部最大相対変位DML、上層部最大加速度AMU、中層部最大加速度AMM、及び下層部最大加速度AMLをいずれも良好に抑制するために、粘性減衰要素(第2免震装置41)の粘性減衰係数cdは、減衰定数hdが0.20〜0.60の範囲内の任意の所定値、例えば0.40になるように、次式(4)によって設定されている。
cd=2・hd・ωm・mu ……(4)
ここで、ωmは、中層部SMの固有振動数(=ω(10))であり、muは、前述したように上層部SUの総質量である。
また、図16(a)及び(b)は、第2実施形態に関する実施例6についてシミュレーション解析することで得られた建物Bの各層の相対変位及び応答加速度を、比較例1及び2とともにそれぞれ示している。図16では、実施例6によるデータを●で示しており、比較例1及び2によるデータを、○及び×でそれぞれ示している。この実施例6では、ばね要素の剛性km’は、周期比γが2.67になるように設定されるとともに、粘性減衰要素の粘性減衰係数cdは、減衰定数hdが0.20になるように設定されている。
また、比較例1及び2は、前述した図10に示す比較例1及び2とそれぞれ同様であり、比較例1は、下層部SLにマスダンパ11が設けられていない場合の例であり、比較例2は、マスダンパ11に代えて、減衰定数が0.10に設定されたオイルダンパが下層部SLに設けられた場合の例である。なお、実施例6、比較例1及び2のいずれについても、建物Bの諸元データを、前述した図6に示すように設定し、前記EL CENTRO−NSを入力地震波として用いた。
図16に示すように、実施例6(●)によれば、1層及び2層の相対変位が、比較例2(×)のそれらよりも、わずかに大きくなっているものの、比較例1(○)及び2と比較して、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの全体として、相対変位が小さくなっていることが分かる。また、実施例6によれば、2層の応答加速度が、比較例2のそれよりもわずかに大きくなっているものの、比較例1及び2と比較して、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの全体として、応答加速度が小さくなっていることが分かる。
以上のように、第2実施形態によれば、免震装置30が建物Bの中層部SMに、マスダンパ11が下層部SLに、それぞれ設けられている。建物Bの振動時、これらの免震装置30及びマスダンパ11が協働することによって、下層部SL及び中層部SMの応答変位と、下層部SL及び上層部SUの応答加速度とを良好に抑制でき、ひいては、中層部SMに免震装置30が設けられた建物Bの振動を全体的に良好に抑制することができる。
また、免震装置30が、中層部SMの振動周期を調整するためのばね要素(内部ゴム33、内部鋼板34及び被覆ゴム35)に加え、中層部SMの層間変位を抑制するための粘性減衰要素(第2免震装置41)を有するので、建物Bの振動を全体的により良好に抑制することができる。
さらに、第2実施形態に関する実施例4によれば、免震装置30のばね要素の剛性km’は、周期比γが2.0〜6.0の範囲内になるように設定されている。これにより、図14を参照して説明したように、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの応答変位ならびに応答加速度をより良好に抑制でき、ひいては、建物Bの振動を全体的にさらに良好に抑制することができる。
また、第2実施形態に関する実施例5によれば、免震装置30の粘性減衰要素の粘性減衰係数cdは、粘性減衰要素の減衰定数hdが0.20〜0.60の範囲内になるように、前記式(4)によって設定されている。これにより、図15を参照して説明したように、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの応答変位ならびに応答加速度をより良好に抑制でき、ひいては、建物Bの振動を全体的にさらに良好に抑制することができる。
次に、本発明の第3実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と比較して、免震装置の構成のみが異なっている。図示しないものの、この免震装置は、第1実施形態の複数の免震装置2と、第2実施形態の複数の第2免震装置41を有している。第3実施形態の免震装置では、内部ゴム4、内部鋼板5及び被覆ゴム7が、ばね要素を構成し、鉛プラグ6が履歴減衰要素を構成するとともに、第2免震装置41が粘性減衰要素を構成している。
図17(a)及び(b)は、第3実施形態に関する実施例7についてシミュレーション解析することで得られた建物Bの各層の相対変位及び応答加速度を、比較例1及び2とともにそれぞれ示している。このシミュレーション解析を行うに当たり、建物Bの諸元データやマスダンパ11の回転慣性質量mdなどの基本的な条件を、第1実施形態と同様に設定し(図6など参照)、解析モデルを等価剪断マスばねモデルとするとともに、応答解析を、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの非線形性を考慮した弾塑性解析とした。
図17では、実施例7によるデータを●で示しており、比較例1及び2によるデータを、○及び×でそれぞれ示している。この実施例7では、ばね要素の剛性kmは、周期比γが2.67になるように、設定され、履歴減衰要素の降伏荷重Qdは、降伏剪断力係数αyが0.03になるように、設定されるとともに、粘性減衰要素の粘性減衰係数cdは、粘性減衰要素の減衰定数hdが0.20になるように、設定されている。
また、比較例1及び2は、前述した図10に示す比較例1及び2とそれぞれ同様であり、比較例1は、下層部SLにマスダンパ11が設けられていない場合の例であり、比較例2は、マスダンパ11に代えて、減衰定数が0.10に設定されたオイルダンパが下層部SLに設けられた場合の例である。なお、実施例7、比較例1及び2のいずれについても、建物Bの諸元データは、前述した図6に示すように設定されており、前記EL CENTRO−NSを入力地震波として用いた。
図17に示すように、実施例7(●)によれば、1層〜3層の相対変位が、比較例2(×)のそれらよりも、わずかに大きくなっているものの、比較例1(○)及び2と比較して、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの全体として、相対変位が小さくなっていることが分かる。また、実施例7によれば、1層の応答加速度が比較例1よりも、2層の応答加速度が比較例2よりも、それぞれわずかに大きくなっているものの、比較例1及び2と比較して、上層部SU、中層部SM及び下層部SLの全体として、応答加速度が小さくなっていることが分かる。
以上のように、第3実施形態によれば、免震装置2及び第2免震装置41が建物Bの中層部SMに、マスダンパ11が下層部SLに、それぞれ設けられている。建物Bの振動時、これらの免震装置2、41及びマスダンパ11が協働することによって、下層部SL及び中層部SMの応答変位と、下層部SL及び上層部SUの応答加速度とを良好に抑制でき、ひいては、中層部SMに免震装置2が設けられた建物Bの振動を全体的に良好に抑制することができる。
また、免震装置が、中層部SMの振動周期を調整するためのばね要素(内部ゴム4、内部鋼板5及び被覆ゴム7)に加え、中層部SMの層間変位を抑制するための履歴減衰要素(鉛プラグ6)及び粘性減衰要素(第2免震装置41)の双方を有するので、建物Bの振動を全体的により良好に抑制することができる。
なお、本発明は、説明した第1〜第3実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態で説明した免震装置2、30と組み合わせて、次のような免震装置を用いてもよい。例えば、マスダンパ11や、ボールベアリングを用いた直動機構を十字に組み合わせた支持装置を有する免震装置(直動転がり支承)、積層ゴムと低摩擦の滑り材を組み合わせた免震装置(滑り支承免震装置、いずれも本出願人のウェブサイトを参照)などを用いてもよい。また、第1及び第3実施形態では、免震装置2を用いているが、第2実施形態の第1免震装置31と、履歴ダンパ(鋼材や鉛の弾塑性材の変形に伴うヒステリシスを活用し振動エネルギを消費するもの)を組み合わせたものを用いてもよい。
さらに、第2及び第3実施形態では、本発明における粘性減衰要素に相当する第2免震装置41として、オイルダンパを用いているが、マスダンパ11や、磁性流体や電気粘性流体などを用いた粘性ダンパ、ゴムなどの粘弾性を利用した粘弾性ダンパなどを用いてもよい。また、本発明における免震装置として、第1実施形態では、ばね要素及び履歴減衰要素を有するものを、第2実施形態では、ばね要素及び粘性減衰要素を有するものを、第3実施形態では、ばね要素、履歴減衰要素及び粘性減衰要素を有するものを、それぞれ用いているが、ばね要素のみを有し、履歴減衰要素及び粘性減衰要素をいずれも有さないもの(例えば第1免震装置31)を用いてもよく、あるいは、マスダンパ11のみを用いてもよい。
さらに、実施形態では、本発明における慣性質量体として回転マスを有するマスダンパ11を用いているが、本出願人による特許第5161395号や、特許第5191579号などに開示された作動流体を慣性質量体として有するマスダンパを用いてもよい。また、実施形態では、マスダンパ11の粘性体21を、シリコンオイルで構成しているが、他の適当な粘性体、例えばポリイソブチレンなどの合成樹脂から成る粘性体で構成してもよい。さらに、実施形態では、マスダンパ11に、制限機構15及び粘性体21が設けられているが、両者15、21の一方を省略してもよい。
また、実施形態では、マスダンパ11を上下の梁BU、BDに、ブレース状に斜めに連結しているが、本出願人による特許第5023129号の図2などに記載されているように、上下一対の支持部材を介して連結し、水平に延びるように設けてもよい。あるいは、本出願人による特許第5314201号の図1などに記載されているように、2つのマスダンパを、V字状(又は逆V字状)の支持部材を介して、上下の梁に連結してもよい。さらに、実施形態では、マスダンパ11を隣り合う上下の梁BU、BDに連結し、2層間の層間変位を抑制しているが、互いの間に1つ以上の梁が設けられた上下の梁に連結し、3層以上の間の層間変位を抑制してもよい。また、実施形態では、マスダンパ11を、下層部SLの各層に設けているが、下層部SLの適当な任意の層にのみ設けてもよく、例えば、1層〜3層にのみ設けたり、2層置きに、2層、5層及び8層にのみ設けたりしてもよい。
さらに、実施形態では、10層を中層部SMとして採用しているが、他の適当な層を採用してもよい。また、実施形態は、本発明による振動抑制装置を高層の建物Bに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の適当な構造物、例えば鉄塔などにも適用可能である。また、以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。