JP5316850B2 - 免震構造 - Google Patents
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Description
この種の免震構造では免震層における水平変形が50cm程度とかなり大きなものとなることから、特許文献1においては過大な水平変位を拘束するための装置を設置しているが、いずれにしても水平変位に対応するために免震ピットに大きな免震クリアランスを確保する必要があるし、配管類に変形対応のジョイントを設ける必要もある。また、地面や隣接建物と接続する部分(渡り廊下やエキスパンションジョイント)においては免震層の変形に対応したディテールが求められ、そのためにかなりのコストアップの要因となるし、敷地いっぱいに建物を構築する場合にも免震クリアランスを確保する分だけ建物をセットバックする必要がある。以上のことが新築建物に対する免震構造の採用や既存建物に対する免震化の採用を阻む大きな要因となっており、必ずしも広く普及するに至っていない。
つまり、従来の免震構造では、加速度を充分に低減すると変位が大きくなってしまい、変位を抑制すると加速度が増大してしまうという裏腹の関係にあって、加速度と変位の双方を同時に抑制することができないものであった。
したがって本発明によれば、居住性に大きく影響する上部構造体の加速度を従来一般の免震構造と同等にしながら、免震クリアランスに大きく影響する免震層の変位を大幅に低減することが可能であり、また免震層のせん断力も従来一般の免震構造と同等に維持することができるという格別顕著な効果を奏する。
すなわち、本発明では免震層6において専ら変位を抑制するとともに、上部構造体3の低層部にいわばバッファとなる柔層7をさらに設けてそこで専ら加速度を抑制するシステムであり、それにより変位と加速度の双方をいずれもほどよく低減できるものである。
柔層7の層剛性は免震層6よりは充分に高剛性であるが上部構造体3の他の層の層剛性よりは低剛性とし、具体的には免震層6の層剛性の5倍以上(10倍程度までとすることが現実的である)とし、上部構造体3の他の層の層剛性の1/2以下とすることが好適である。これにより、柔層7における層間変位は上層階の他の層の層間変位と比較して充分に大きくなる(換言すると上層階の他の層の層間変位は全層にわたり柔層7の層間変位に比較して小さくなる)。
なお、柔層7は上部構造体3の低層部に設ければ良く、したがって柔層7を免震層6の直上に設けることでも良いが、図示例のように地下1階建ての建物では免震層6を地下1階の下部に設け、地下1階を充分に高剛性としたうえで地上1階を柔層7にしても良い。
ψ1=(0.2〜1.0)M
とすることが好適である。
c1=2h(2πf1)M=4πhf1M=(5〜20)f1M
として設定することが好適である。
従来一般の免震構造では減衰定数h=0.15〜0.2程度とすることが一般的であるが、本実施形態では上記のように設定することによりその数倍の減衰となる。
ψ2=(0.5〜1.0)ψ1
とすることが好適である。
c2=(1〜3)c1
とすることが好適である。
また、付加減衰5,9としてはオイルダンパーが好適に採用可能であり、それには負担力が過大にならないようにリリーフ機構(リリーフ弁によりピストン内圧力を頭打ちにしてダンパーの負担力をリリーフ荷重で頭打ちにする機能)を設けることが好ましい。いずれにしても、従来型免震構造においてオイルダンパーを設置する場合にはそのストロークは500〜600mm程度は必要であるが、本実施形態の免震構造では従来型免震構造と比較して変形量が極めて小さいのでオイルダンパーのストロークは200mm程度で済む。
上部構造体3の質量M=10,000ton、柔層7よりも下層(図示例のような地下階もしくは基礎)の質量m=1,000ton、免震装置2としての積層ゴムの剛性k=48kN/mm、柔層7の層剛性K=240kN/mmの場合において、免震層6に設ける回転慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ1=5,000ton、免震層6に設ける付加減衰5の減衰係数c1=420kN/kine、柔層7に設ける回転慣性質量ダンパー8の慣性質量ψ2=5,000ton、柔層7に設ける付加減衰9の減衰係数c2=920kN/kine(14MNでリリーフ)とする。この場合の1次固有周期はf1=3.78秒である。
解析モデルは基礎固定で等価せん断型の振動モデルとし、入力地震動は
(A)建築センター波L2を1.5倍したもの(最大加速度356×1.5=534gal。継続時間120秒)
(B)HACHINOHE NS を75kineに基準化したもの(最大加速度495gal。継続時間40秒)
の2波とする。
応答解析は架構の非線形を無視した弾性応答解析とする。
なお、図中では、従来型免震構造(比較例1)と従来型の変位抑制型免震構造(比較例2)に対し、本発明による上記設計例の免震構造を「柔層積層型免震構造」として示している。
また、縦軸の1FLは免震層6の上部基礎レベルを示し、2FLは柔層7の床レベルを示す(柔層のない比較例1,2においては両者は実質的に同レベルである)。
また、免震構造の性能において、免震クリアランスに大きく影響するのは免震層(1FL)の変位であり、居住性に大きく影響するのは上部構造体(2FL)の加速度であり、免震層に作用する力は免震層(1FL)のせん断力であるので、各図にはそれらの比較対象部を破線で囲んで示してある。
・従来型免震構造(比較例1)では、(b)に示すように加速度低減効果は大きいものの(a)に示すように免震層の変位が大きく出てしまう。
・従来型の変位抑制型免震構造(比較例2)では、(a)に示すように従来型免震構造に較べて変位を大幅に低減できるが、(b),(c)に示すように加速度および免震層のせん断力が大きくなり、免震効果が低減してしまう。
・それに対し、本発明の柔層積層型免震構造では、従来型免震構造における加速度低減効果と、従来型の変位抑制型免震構造における変位低減効果の双方が得られる。
すなわち、免震クリアランスに大きく影響する免震層(1FL)の変位は(a)に示すように従来型免震構造(比較例1)に較べて大きく低下して、従来型の変位抑制型免震構造(比較例2)と同等である。
居住性に大きく影響する上部構造体(2FL)の加速度は(b)に示すように従来型免震構造(比較例1)と同等であって、従来型の変位抑制型免震構造(比較例2)のように上部構造体における加速度が増大しない。
免震層のせん断力も(c)に示すように従来型免震構造(比較例1)と同等であって、従来型の変位抑制型免震構造(比較例2)のようにせん断力が増大しない。
なお、2FLでの変位と1FLでの加速度は従来型の変位抑制型免震構造よりも若干増大するが、免震クリアランスや居住性には大きく影響しないので特に問題にはならない。
図5(a)に示されるように、2FL加速度については、本発明では共振域(0.26Hz近傍で0.4Hz以下)において従来型免震構造(比較例1)よりも充分に低減できるし、従来型の変位抑制型免震構造(比較例2)よりもさらに低減でき、したがって長周期成分が卓越する地震動では加速度特性が従来型のいずれの免震構造より優れることが分かる。なお、短周期成分が卓越する地震動では従来型免震構造よりも加速度が大きくなってしまうが、従来型の変位抑制型免震構造よりは優位である。
図5(b)に示されるように、1FL層間変位については、本発明ではほぼ全振動数域において従来型免震構造(比較例1)および従来型の変位抑制型免震構造(比較例2)のいずれに対しても優位であることが分かる。変位に大きく影響するのは低振動数成分(長周期成分)であるが、この領域では従来型の変位抑制型免震構造とほぼ同程度なので、長周期成分が卓越する地震動では少なくともそれと同程度ないしやや優位である。
(1)居住性に大きく影響する上部構造体の加速度は従来型免震構造と同等にしながら、免震クリアランスに大きく影響する免震層の変位を従来型免震構造の場合と比較して1/2〜1/3と大幅に低減できる。従来型の変位抑制型免震構造では免震層の変位を抑制できるが上部構造体の加速度は逆に従来型免震構造より大幅に大きくなってしまうが、本発明によればそのような問題はなく、変位と加速度の双方を同時に低減できる。
また、免震層の変位を従来型の変位抑制型免震構造と同等に低減しつつ、免震層のせん断力を従来型免震構造と同等にすることができるので、基礎や杭の設計が容易になる。
以上のことから本発明の免震構造は、従来型免震構造と従来型の変位抑制型免震構造の双方の「いいとこどり」ができるものであるといえる。
(3)免震層の応答変位が小さくなるので、建物に接続される設備配管類の稼働しろも小さくて良い。フレキシブルジョイントのコストは可動寸法が大きいほど高くなるので、従来よりローコストに調達できる。また、免震建物と地面などを接続するエクスパンションジョイントについてもローコスト化が図れる。
(4)免震層の応答変位が小さいので、ここに設置されるダンパーのストロークも小さくでき、付加減衰として設置するダンパーのコストを低減できる。
(5)柔層の層間変位は充分に小さくでき、そこでの層間変形角も充分に小さくできる。たとえば階高5mで層間変位が5cm以下の場合、層間変形角は1/100以下である。これは、上部構造体の各層よりも層間変位は大きいものの極大地震時の変形としては問題ないレベルであり、内外装や設備配管類やエレベータ等も追随できる範囲内である。なお、層間変形角1/100というのは高層評定建物のレベル2地震時の設計目標性能として用いられているものであり、これをクリアできれば変位の問題はないといえる。
(7)本発明は建物全体の免震構造としてではなく、建物内の一部(たとえば免震床やラック倉庫)を免震化する部分免震にも適用でき、そこに設置する対象物の加速度と変位をともに低減できる。これにより建物内の柱や壁などとの間に確保するべき空き寸法(免震クリアランス)を小さくでき、それが制限される狭小な空間にも設置することが可能となる。
2 免震装置
3 上部構造体
4 回転慣性質量ダンパー
5 付加減衰
6 免震層
7 柔層
8 回転慣性質量ダンパー
9 付加減衰
Claims (6)
- 免震層に設置した免震装置により上部構造体を免震支持する免震構造において、
前記上部構造体の低層部に、該上部構造体の他の層の層剛性よりも低剛性、かつ前記免震層の層剛性よりも高剛性の柔層を配置し、
前記免震層に前記免震装置と並列に回転慣性質量ダンパーと付加減衰を設置し、
前記柔層に該柔層の層剛性と並列に回転慣性質量ダンパーと付加減衰を設置したことを特徴とする免震構造。 - 請求項1記載の免震構造において、
前記柔層の層剛性を、前記上部構造体の他の層の層剛性の1/2以下、かつ前記免震層の層剛性の5倍以上としたことを特徴とする免震構造。 - 請求項1または2記載の免震構造において、
前記免震層に設置する回転慣性質量ダンパーの慣性質量ψ1を、前記免震装置により免震支持する上部構造体の質量Mの0.2〜1.0倍としたことを特徴とする免震構造。 - 請求項1,2または3記載の免震構造において、
前記免震層に設置する付加減衰の減衰係数c1を、前記上部構造体の質量Mと、該上部構造体が前記免震装置により免震支持されることで定まる固有1次振動数f1に基づき、それら質量Mと固有1次振動数f1の積f1Mに対して5〜20倍としたことを特徴とする免震構造。 - 請求項1,2,3または4記載の免震構造において、
前記柔層に設置する回転慣性質量ダンパーの慣性質量ψ2を、前記免震層に設置する回転慣性質量ダンパーの慣性質量ψ1の0.5〜1.0倍としたことを特徴とする免震構造。 - 請求項1,2,3,4または5記載の免震構造において、
前記柔層に設置する付加減衰の減衰係数c2を、前記免震層に設置する付加減衰c1の1〜3倍としたことを特徴とする免震構造。
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