JP5252189B2 - 多層構造物 - Google Patents
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ここで、アイソレータの合力とは、アイソレータに作用する円弧方向の力と円弧垂直方向の力との和のことである。
また、上層構造物とは、あるアイソレータが直接支持する階から最上階までの全ての階のことである。
なおここで言う、k=1,…,nとは、1階から最上階のn階までに対応するように、変数kに代入された値を1,2,3,…,n−1,nと1ずつ増やしていくことを意味する。
なおここで言う、i=1,…,Nとは、アイソレータの対の数Nに対応するように、変数iに代入された値を1,2,3,…,N−1,Nと1ずつ増やしていくことを意味する。
このように、各式に二つの解がある場合にアイソレータの傾斜角度θkとして、値が大きいほうの解を用いれば、構造物が小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
本発明では、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜めに設置されて斜め方向に運動するアイソレータを複数備える多層構造物において、各アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向いているので、重心回りの回転モーメントが発生しない。このため、上層構造物に水平方向の力が作用しても、上層構造物はロッキングせず、アイソレータに大きな引張力が作用することはない。
なお、ここで言う階4とは、多層構造物5を構成する各層のことを意味する。また、上記の上層構造物とは、k階からn階までの階4のことを意味する。
以下ではk階の構成について検討する。
図2に示すように、水平面に対して傾斜角度θkで設置されたアイソレータ1が水平方向にδkだけ変位した場合、円弧方向の変位成分はδkcosθk、円弧垂直方向の変位成分はδksinθkとなるので(図2(a)参照)、アイソレータ1の円弧方向の剛性をKh、円弧垂直方向の剛性をKvとした場合、アイソレータ1が上層構造物に作用する円弧方向の力はKhδkcosθk、円弧垂直方向の力はKvδksinθkとなる(図2(b)参照)。
因って、補正角度をβkとすると、鉛直面に対してアイソレータ1から上層構造物の重心3に向かう角度αkは次のように表すことができる。
次に、ステップS12において、(11)式により角度αkを求めステップS13に移行する。
次に、ステップS14において、傾斜角度θkに対して次式により得られる誤差ekを求め、ステップS15に移行する。
次に、ステップS16において、2ステップ前のステップS14で今回求めた誤差ekの値が先に求めた誤差ekの値(ステップS14が既に2回以上行われた場合の、最後に行ったステップS14の1回前に行ったステップS14で求めた誤差ekの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。すなわち、先に求めた誤差ekの値が正の数でありかつ今回求めた誤差ekの値が負の数である場合、又は先に求めた誤差ekの値が負の数でありかつ今回求めた誤差ekの値が正の数である場合に、誤差ekの符号が反転したと判断する。
この条件が真である場合(True)は、ステップS17に移行する。なお、2ステップ前のステップS14が初めて行われたステップS14である場合、ステップS16の条件が偽である場合(False)、及び上記のステップS15における条件が偽である場合(False)、のいずれかの場合にはステップS13に移行する。
こうしてn階から1階までの各階のアイソレータ1の傾斜角度θkを求めた後、ステップS11に移行し、変数kに代入された値から1を減ずると変数kに代入された値は0となる。この時、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断すると偽(False)となり、全ての処理を終了する。
また、アイソレータが複数対の場合、アイソレータの位置が左右対称でない場合、アイソレータの個数が左右均等でない場合にも、上記と同様の工程にてアイソレータの取り付け角度が算出可能である。
シミュレーションに用いた多層構造物5は、アスペクト比(=建物高さ/建物幅)が5の10層構造物であって、各階とも幅20m、高さ10mとした。また、アイソレータ1は各層間の両端部に一対介装され、円弧方向剛性Kh/円弧垂直方向剛性Kv=1/1000とし、重力については、アイソレータ1の円弧垂直方向剛性に対して無視できるほど小さいと仮定し、重力の影響を考慮しなかった。
また、多層構造物5の振動は、水平振動に円弧方向の振動が重畳された多節振動であって、アイソレータ1の傾斜角度θkとして、値が大きいほうの解を用いた場合、円弧垂直方向の高剛性に依存する高周波振動(縦剪断振動、図4(a)参照)となり、アイソレータ1の傾斜角度θkとして、値が小さいほうの解を用いた場合、円弧方向の低剛性に依存する低周波振動(横剪断振動、図4(b)参照)となる。
従って、アイソレータ1の傾斜角度θkとして、値が大きいほうの解を用いれば、高周波振動が卓越し、構造物は小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
次に、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して重力の影響を考慮した場合について説明する。
重力による影響を表す重力補償には2種類あり、その第1の重力補償として、多層構造物の各階が重力を受けることにより変化する円弧方向振動を補償するものがある。また、第2の重力補償として、多層構造物の各階の重心の位置が水平方向に移動することにより生じる回転トルクの影響を補償するものがある。
以下では、まず第1の重力補償の方法について説明する。
図6に1つの階4の重心の位置が水平方向に移動した場合のアイソレータ1に作用する荷重の影響を、アイソレータ1が一対の場合を図6(a)に、アイソレータ1が複数対の場合を図6(b)に示す。なお、各階4における一対又は複数対のアイソレータ1は上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されているとする。
ここで、水平方向の重心の変位をδ、1つの階4の質量をM、重力加速度をgとする。
この場合は、階4の片側に設置されたN個のアイソレータのトルクの和が、階4が水平方向に変位することにより階4が発生するトルクMgδに等しい。そして、片側に設置されたN個のアイソレータ1に作用する各トルクは階4の重心からの距離の2乗に比例する。言い換えれば、階4の片側に設置されたN個のアイソレータ1に作用する各荷重は距離に比例する。ここで、i番目のアイソレータ1に作用する荷重に対する加重係数iλを次式のように定義する。
図7は、水平方向の外力が各階4に加えられた多層構造物5の状態を示す説明図である。なお、アイソレータ1をそれぞれ区別して説明する場合には便宜的に、k階(k=1,…,n)の下部を支持するアイソレータ1を第kアイソレータ1のように記載する。
なおここで言う、k=1,…,nとは、1階から最上階のn階までに対応するように、変数kに代入された値を1,2,3,…,n−1,nと1ずつ増やしていくことを意味する。
図7において、アイソレータ1の円弧方向の剛性をKh、円弧垂直方向の剛性をKv、k階の重心に水平方向に加わる外力をFk、(k−1)階とk階間の水平方向の変位をδk、k階の質量をMk、各階のアイソレータ1の水平距離は均一としてw、重力加速度をg、一対の第kアイソレータ1の水平面に対する傾斜角度(取り付け角度)をθk、変位により第kアイソレータ1に作用する荷重をPk、最上階のn階の天面から第kアイソレータ1までの鉛直距離をLkとする。
このとき、地面に対するk階の重心の水平方向の変位Δkは、次式のようになる。
図8(a)に示すように、水平面に対する傾斜角度θkで設置された第kアイソレータ1が水平方向にδkだけ変位した場合、円弧方向の変位成分はδkcosθk、円弧垂直方向の変位成分はδksinθkとなる。また、図8(b)に示すように、第kアイソレータ1に作用する荷重Pkは、円弧方向の荷重成分がPksinθk、円弧垂直方向の荷重成分がPkcosθkとなる。
因って8(c)に示すように、鉛直面に対して第kアイソレータ1から上層構造物の重心3に向かう角度αk、合力の円弧方向成分をfkh、合力の円弧垂直方向成分をfkvとすると、次式のようになる。なお、Kgは(17)式より求められる1重力補償項である。
図9から図11は、傾斜角度θkを算出する工程を示すフローチャートである。
なお、ステップS11からステップS13までの算出工程は、上述した重力の影響を考慮しない場合の工程と同一なので説明を省略する。
次に、ステップS22において、図11に示すKm計算関数を行い第2重力補償項Kmを求める。
また、ステップS41において、変数kに代入された値より変数nに代入された値が大きいという条件が偽である場合(False)は、ステップS45において次式により第2重力補償項Kmの値を求め、サブルーチンを終了して図9に示すステップS23に移行する。
なお、ステップS17の後のステップS24で、ステップS17で求められた傾斜角度θkによる(33)式の値をメモリに記憶しておく。
(31)式の解を表2に示す。なお、表2中には、表1で示した重力の影響を考慮しない場合の大きいほうの傾斜角度θkも併せて載せている。
次に、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して重力の影響を考慮した場合で、第2の重力補償の方法について各階に設置されたアイソレータが複数対の場合を説明する。なお、アイソレータの設置数以外は上記の第2実施形態と同一なので、重複する説明については省略する。
また上述したように、アイソレータが複数対の場合には第1の重力補償は考慮する必要は無い。
この場合、図6(b)に示すように各階において、片側にN個ずつ合計2N個のアイソレータ1が、上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されている。ここで、対をなすアイソレータ1を、外側から順に1番目、2番目、…、N番目と呼ぶことにする。
k階において、鉛直面に対してi番目のアイソレータ1から上層構造物の重心3に向かう角度をiαk、i番目のアイソレータ1の傾斜角度をiθk、角度iαkから傾斜角度iθkを減じた値である補正角度をiβkとする。また、円弧方向の剛性をKh、円弧垂直方向の剛性をKvはアイソレータ1によらず一定とする。
これにより、i番目のアイソレータ1に作用する合力の円弧方向成分をifkh、合力の円弧垂直方向成分をifkvとすると、次式のようになる。
以上より、k階におけるi番目のアイソレータ1の補正角度iβkを次式のように求めることができる。
図12から図14は、傾斜角度iθkを算出する工程を示すフローチャートである。
次に、ステップS55において、図13に示す、傾斜角度1θk、2θkに代入された値に対するアイソレータの後述する式による誤差1ek、2ekをそれぞれ求めるiek計算関数を行う。
このiek計算関数のサブルーチンの概要を説明すると、まず、ステップS71において後工程をアイソレータの対の数である2回繰り返すように設定する。次に、ステップS72において、図14に示すiKm計算関数を行い、各アイソレータに対応する第2重力補償項1Km、2Kmを求める。そして、ステップS73において、以下の式により誤差1ek、2ekを求め、図12のステップS56に移行する。
なお、ステップS55からステップS56に移行してきた時のみ傾斜角度1θkに(90−Δ1θk)の値を代入し、後述するステップS60からステップS56に移行してきた時は、傾斜角度1θkに代入された値から変化量Δ1θを減じた上で傾斜角度1θkに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
なお、ステップS56からステップS57に移行してきた時のみ傾斜角度2θkに(90−Δ2θk)の値を代入し、後述するステップS59からステップS57に移行してきた時は、傾斜角度2θkに代入された値から変化量Δ2θを減じた上で傾斜角度2θkに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
次に、ステップS60において、2ステップ前のステップS58で求めた誤差1ekの値が先に求めた誤差1ekの値(2ステップ前のステップS58が初めて行われたステップS58である場合にはステップS55で求めた誤差1ekの値、これ以外の場合は最後に行ったステップS58の1回前に行ったステップS58で求めた誤差1ekの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS61に移行し、この条件が偽である場合(False)は、ステップS56に移行する。
次に、ステップS62において、上記のステップS61で得られた傾斜角度1θk及び2θkによる次式の値をメモリに記憶し、ステップS52に移行する。
なお、表4中には、重力の影響を考慮しない場合の計算結果も併せて載せている。
(1)アイソレータの傾斜角度として解が二つある場合に値が大きいほうの解を用いると、高次モードが卓越しその卓越周期は通常の剛構造のビルより短周期である。従って、長周期地震動で懸念される帯域に卓越周期があるため長周期地震動に弱いとされる中間免震などに比べて、本発明に係る多層構造物は長周期地震動にも強い。
(2)一般に卓越モードで振動する風振動に対しても多節振動による小振幅振動となるため、風振動にも強い。
(3)重力の影響を考慮しない場合において求めたアイソレータの傾斜角度に設置すると、重力の影響を受ける多層構造物の振動を低減させることができる。特に、重力の影響を受けない無重力の環境で建てられた多層構造物の振動をより効果的に低減させることができる。
(4)重力の影響を第1の重力補償及び第2の重力補償の2種類に分け、重力の影響を受ける多層構造物の振動を効果的に低減させるアイソレータの傾斜角度を求めることができる。特に、多層構造物の各階の重心の位置が水平方向に移動することにより生じる回転トルクの影響を補償する第2の重力補償が効果的である。
(5)上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されたアイソレータが一対の場合でも複数対の場合でも、多層構造物の振動を効果的に低減させるアイソレータの傾斜角度を求めることができる。
(6)水平方向には高剛性だが、円弧方向には低剛性である。ここで、円弧方向の剛性を調節して水平方向の固有振動数と一致させると、水平方向の振動エネルギーは円弧方向に遷移する。剛性が低い構造物にダンパーを装着したほうが減衰定数が大きくなり早く減衰することから、低剛性である円弧方向にダンパーを設置することにより、高い減衰性を確保することができる。
また、これまでアイソレータが1階から最上階のn階までの各階に設置されているとして説明してきたが、アイソレータは1つ以上の階に設置されていればよい。より詳しくは、n階建て(最上階の階数がnであることを意味する)の多層構造物の各階が、nの約数であるp個のブロックに等分され、各ブロックの最も1階側の階のみにアイソレータがそれぞれ設置されている多層構造物について検討する。
そして(21)式は次式のようになる。
以上のように、上記多層構造物によれば、振動を効果的に低減させながらも、アイソレータの設置に要するコストを抑えることができる。
また、傾斜角度をθkとして、(66)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする多層構造物が好ましい。
この多層構造物によれば、構造物が小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
また、アイソレータが配置されている階に複数対のアイソレータが設置されている場合には、第3実施形態と同様に考えて、1階からn階で構成された多層構造物であって、階全体を階数nの約数であるpで等分して複数のブロックに分け、各ブロックの最も1階側の階のみに、支持する上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置され鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面に対して斜め方向に運動する複数対のアイソレータを、この複数対のアイソレータに作用する合力の方向が支持する上層構造物の重心に向くようにそれぞれ備え、水平面に対する各アイソレータの傾斜角度iθkは、(68)式から(70)式を用いて求められる(67)式の解として得られる多層構造物を採用してもよい。
これにより、i番目のアイソレータに作用する合力の円弧方向成分をifkh、合力の円弧垂直方向成分をifkvとすると、次式のようになる。
以上のように、上記多層構造物によれば、振動を効果的に低減させながらも、アイソレータの設置に要する製造コストを抑えることができる。
また、傾斜角度をiθkとして、(81)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする多層構造物が好ましい。
この多層構造物によれば、構造物が小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
話を簡単にするため、まず無重力の場合について示す。円弧方向剛性ゼロでの振動は、図15(a)に示すように高周波(縦剪断)のみの周波数の水平振動となる。円弧方向剛性を徐々に大きくすると、低周波振動である円弧振動(横剪断振動)が構造物の層数に相当する次数分表れ、図15(b)では10階としているため10次モードまで存在する。高周波振動の主体は縦剪断振動であり、縦剪断共振周波数の近傍にある円弧振動の次数モードも励振される。従って、円弧方向剛性を徐々に大きくするに従い、図15(b)のように10次モード卓越から、図15(c)のように5次モード卓越へと移行する。すなわち、小振幅の縦剪断振動に、大振幅の円弧振動が重畳されるため、あたかも高次モードが卓越した振動のように振舞う。
重力の影響を考慮した場合でも同じ理由で説明できる。重力下では前述した第1の重力補償、及び第2の重力補償の影響で図15(a)のような水平振動は存在しない。しかし、重力の影響は間接的に円弧方向振動となって表れるため、無重力下と同様なメカニズムで高次モード卓越振動を行う。
2 円弧中心
3 重心
4 階
5 多層構造物
Claims (7)
- 鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜め方向に運動する複数のアイソレータを備える多層構造物において、
前記各アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向いていることを特徴とする多層構造物。 - 前記傾斜角度θkとして、前記(1)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする請求項2に記載の多層構造物。
- 水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度θkは、(3)式から(5)式を用いて求められる(2)式の解として得られることを特徴とする請求項1に記載の多層構造物。
但し、Kh:アイソレータの円弧方向剛性、Kv:アイソレータの円弧垂直方向剛性、w:上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されたアイソレータ間の水平距離、g:重力加速度、mk:上層構造物の質量、LGk:上層構造物の重心とアイソレータの円弧中心との間の鉛直距離、LOk:アイソレータの円弧中心とアイソレータとの間の鉛直距離、Kg:第1重力補償項、Km:第2重力補償項、k階(k=1,…,n)の質量Mk、アイソレータの傾斜角度θk、最上階の天面からアイソレータまでの鉛直距離Lk。 - 前記傾斜角度をθkとして、前記(2)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする請求項4に記載の多層構造物。
- 前記傾斜角度をiθkとして、前記(6)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする請求項6に記載の多層構造物。
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