JP5252189B2 - 多層構造物 - Google Patents

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本発明は、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜め方向に運動するアイソレータを備える多層構造物に関する。
建築構造物の免震手法として、水平方向にせん断変形する積層ゴムを用いる手法があるが、高層ビルでは、水平方向のせん断より曲げが卓越することや、建物に転倒モーメントが作用した際に積層ゴムに大きな引張力が作用して積層ゴムが破断するおそれがあるため、積層ゴムを利用した免震手法を高層ビルに適用することは難しい。そこで、特許文献1では、高層ビルの最下部に、水平面に対して斜めに積層ゴムを設置し、積層ゴムを鉛直下向きに凸な円弧軌道に沿って運動させる免震手法が提案されている。この免震手法は、固有周期を長周期化する際に生じる免震部位の過大変位を抑制するために用いられており、免震性能とのトレードオフがあるため、免震部位の変位が比較的小さな低層建物に効果的である。
一方、建物にダンパーを設置して建物の揺れを低減しようとする制振手法がある。鉛などの金属を用いた履歴ダンパーや粘弾性体を利用した粘弾性ダンパーなどが多用され、局所的な変形抑制に効果的であるが、これらのダンパーは建物全体の共振特性を大きく変えることが無く、建物の揺れを低減させる際の補助的なものである。そこで、特許文献2では、建物上部と下部とを分断して、その間に積層ゴムを介装する中間免震手法が提案されている。中間免震手法は、建物の周期が、節の無い1次モードではなく、中間免震層を節とする2次モードで振動するように設計するものであり、2次モードが1次モードに比べて振幅が小さいことを利用している。
特開平10−68247号公報 特公平6−60538号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載された免震手法を高層建物に適用し、十分な免震効果を得ようとした場合、建物の根元に設置した積層ゴムの変形が過大になるという問題がある。特に、上記特許文献1に記載された免震手法では、水平面に対して斜めに設置した積層ゴムが、その上の構造体の重量によって、中央部付近で大きくはらんで破断するおそれがある。
また、上記特許文献2に記載された制振手法では、単に建物の固有周期を長周期側にシフトしたに過ぎず、複数の周期成分が混在する振動に対して2次モードが卓越する構造となっていないため、逆に長周期地震動の影響が顕著に現れる可能性がある。また、強風に対しても有効とされているが、強風による振動では卓越モードが顕著に現れるため、地震動で意図したような2次モードでは振動せず1次モードでの振動となり、逆に応答を増大させるおそれがある。
そこで、本発明者は、特願2006−140264において、斜め方向に運動するアイソレータが、鉛直下向きに凸の円弧軌道に沿って運動するように設置され、地震や風による振動が抑制される多層構造物において、前記アイソレータによる円弧軌道の円弧中心が当該アイソレータよりも上方にある上層構造物の重心位置に来るように、前記アイソレータの運動方向の傾斜角度を設定する手法を提案した。この手法によれば、上層構造物に水平方向の力が作用しても、重心回りの回転モーメントは発生しないので、建物は小振幅且つ高周波で振動する。
しかし、上記発明は、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して円弧方向剛性および重力の影響が非常に小さな場合には有効であるが、これらの影響は一般には無視し得ないと考えられる。
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜めに設置されたアイソレータを備える多層構造物において、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して円弧方向剛性および重力の影響が無視し得ない場合の構造物の振動低減策を示すことを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜め方向に運動する複数のアイソレータを備える多層構造物において、前記各アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向いていることを特徴としている。
ここで、アイソレータの合力とは、アイソレータに作用する円弧方向の力と円弧垂直方向の力との和のことである。
また、上層構造物とは、あるアイソレータが直接支持する階から最上階までの全ての階のことである。
本発明では、アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向いているので、重心回りの回転モーメントが発生しない。このため、上層構造物はロッキングせず、アイソレータに大きな引張力が作用することはない。
ここで、前記アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向くためには、次の(1)式の解θを、水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度とすればよい。
Figure 0005252189
但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、w:上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置された一対のアイソレータ間の水平距離、L:最上階の天面からアイソレータまでの鉛直距離。
また、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して重力の影響を無視し得なく、多層構造物の各階に設置されるアイソレータが一対の場合には、各階の重力補償を考慮して、次の(3)式から(5)式を用いて求められる(2)式の解θを、水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度とすればよい。
Figure 0005252189
但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、w:上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されたアイソレータ間の水平距離、g:重力加速度、m:上層構造物の質量、LGk:上層構造物の重心とアイソレータの円弧中心との間の鉛直距離、LOk:アイソレータの円弧中心とアイソレータとの間の鉛直距離、K:第1重力補償項、K:第2重力補償項、k階(k=1,…,n)の質量M、アイソレータの傾斜角度θ、最上階の天面からアイソレータまでの鉛直距離L
なおここで言う、k=1,…,nとは、1階から最上階のn階までに対応するように、変数kに代入された値を1,2,3,…,n−1,nと1ずつ増やしていくことを意味する。
また、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して重力の影響を無視し得なく、多層構造物の各階に設置されるアイソレータが複数対の場合には、各階の重力補償を考慮して、次の(7)式から(9)式を用いて求められる(6)式の解θを、水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度とすればよい。
Figure 0005252189
但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、g:重力加速度、2N:各階のアイソレータの個数、上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されたi(i=1,…,N)番目のアイソレータのトルクの加重係数λ、アイソレータ間の水平距離w、第2重力補償項、k階(k=1,…,n)の質量M、最上階の天面からアイソレータまでの鉛直距離L、i番目のアイソレータの傾斜角度θ
なおここで言う、i=1,…,Nとは、アイソレータの対の数Nに対応するように、変数iに代入された値を1,2,3,…,N−1,Nと1ずつ増やしていくことを意味する。
なお、前記(1)式は二つの解を有する場合があり、水平面に対するアイソレータの傾斜角度θとして、値が小さいほうの解を用いた場合、多層構造物は、円弧方向の低剛性に依存する低周波で振動し、値が大きいほうの解を用いた場合、円弧垂直方向の高剛性に依存する高周波で振動する。また、前記(2)式及び(6)式はそれぞれ二つの解を有する場合があり、この場合に値が大きいほうの解を用いると、円弧垂直方向の高剛性に依存する高周波で振動する。
このように、各式に二つの解がある場合にアイソレータの傾斜角度θとして、値が大きいほうの解を用いれば、構造物が小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
本発明では、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜めに設置されたアイソレータを備える多層構造物において、アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向くようにアイソレータの傾斜角度を設定するので、重心回りの回転モーメントが発生せず、上層構造物がロッキングすることはない。この際、高周波振動が卓越するように、水平面に対するアイソレータの傾斜角度を設定すれば、構造物は小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
(第1の実施形態)
本発明では、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜めに設置されて斜め方向に運動するアイソレータを複数備える多層構造物において、各アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向いているので、重心回りの回転モーメントが発生しない。このため、上層構造物に水平方向の力が作用しても、上層構造物はロッキングせず、アイソレータに大きな引張力が作用することはない。
アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向くようにするためには、水平面に対するアイソレータの傾斜角度θの設定がポイントになる。
アイソレータ1の円弧中心2と、当該アイソレータ1が支持する上層構造物の重心3との位置関係を図1に示す。基準面上に配置される階4を1階とし、1階から数えてk番目の階4をk階と呼ぶこととし、この多層構造物5の最上階をn階とする。
なお、ここで言う階4とは、多層構造物5を構成する各層のことを意味する。また、上記の上層構造物とは、k階からn階までの階4のことを意味する。
以下ではk階の構成について検討する。
図2に示すように、水平面に対して傾斜角度θで設置されたアイソレータ1が水平方向にδだけ変位した場合、円弧方向の変位成分はδcosθ、円弧垂直方向の変位成分はδsinθとなるので(図2(a)参照)、アイソレータ1の円弧方向の剛性をK、円弧垂直方向の剛性をKとした場合、アイソレータ1が上層構造物に作用する円弧方向の力はKδcosθ、円弧垂直方向の力はKδsinθとなる(図2(b)参照)。
因って、補正角度をβとすると、鉛直面に対してアイソレータ1から上層構造物の重心3に向かう角度αは次のように表すことができる。
Figure 0005252189
一方、上層構造物の重心3を含む鉛直面に関して対称に配置された一対のアイソレータ間の水平距離をw、最上階であるn階の天面からアイソレータまでの鉛直距離をLとすると、角度αは次のようにも表すことができる。
Figure 0005252189
(10)式と(11)式よりαを消去すると、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
Figure 0005252189
ここで、重力の影響を考慮しない場合の値が大きいほうの傾斜角度θを算出する工程を、各階に設置されるアイソレータが一対の場合について説明する。図3は、各階のアイソレータの傾斜角度θを算出する工程を示すフローチャートであり、算出はイタレーション法により行う。
まず、ステップS11において変数kに、多層構造物5全体の階数nの値を代入する。そして、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS12に移行する。なお、これ以降の工程でステップS11を行う時は、変数kに代入された値から1を減じた上で変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断することとなる。また、この条件が偽である場合(False)は、全ての処理を終了する。
次に、ステップS12において、(11)式により角度αを求めステップS13に移行する。
次に、ステップS13において傾斜角度θに90(角度90°のこと)を代入する。そして、傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS14に移行し、この条件が偽である場合(False)は、異常であると判断して全ての処理を終了する。なお、ステップS12からステップS13に移行してきた時のみ傾斜角度θに90を代入し、ステップS12以外の工程からステップS13に移行してきた時は、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じた上で傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
次に、ステップS14において、傾斜角度θに対して次式により得られる誤差eを求め、ステップS15に移行する。
Figure 0005252189
次に、ステップS15において、傾斜角度θに代入された値が90より小さいという条件の真偽を判断する。そして、この条件が真である場合(True)は、ステップS16に移行する。
次に、ステップS16において、2ステップ前のステップS14で今回求めた誤差eの値が先に求めた誤差eの値(ステップS14が既に2回以上行われた場合の、最後に行ったステップS14の1回前に行ったステップS14で求めた誤差eの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。すなわち、先に求めた誤差eの値が正の数でありかつ今回求めた誤差eの値が負の数である場合、又は先に求めた誤差eの値が負の数でありかつ今回求めた誤差eの値が正の数である場合に、誤差eの符号が反転したと判断する。
この条件が真である場合(True)は、ステップS17に移行する。なお、2ステップ前のステップS14が初めて行われたステップS14である場合、ステップS16の条件が偽である場合(False)、及び上記のステップS15における条件が偽である場合(False)、のいずれかの場合にはステップS13に移行する。
次に、ステップS17において、上記の工程で得られた傾斜角度θをk階のアイソレータ1の取り付け角度とし、ステップS11に移行する。
こうしてn階から1階までの各階のアイソレータ1の傾斜角度θを求めた後、ステップS11に移行し、変数kに代入された値から1を減ずると変数kに代入された値は0となる。この時、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断すると偽(False)となり、全ての処理を終了する。
なお、値が小さいほうの傾斜角度θを求める場合は、ステップS17で値が大きいほうの傾斜角度θを求めた後にステップS11に移行しないで以下の工程で計算を行う。すなわち、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じながら傾斜角度θに代入された値が0より大きい間は上記のステップS13からステップS16まで(ステップS16において誤差eの符号が反転した場合はステップS17まで)を繰り返し、誤差eの符号が反転するような傾斜角度θを求める。そして、傾斜角度θが0以下になったときにステップS11に移行すればよい。
また、アイソレータが複数対の場合、アイソレータの位置が左右対称でない場合、アイソレータの個数が左右均等でない場合にも、上記と同様の工程にてアイソレータの取り付け角度が算出可能である。
一般に、重力の影響が無視できて、重力の影響を考慮しない場合には(12)式の解は2つ存在する。次に、この2つの解について一例を用いて説明する。
シミュレーションに用いた多層構造物5は、アスペクト比(=建物高さ/建物幅)が5の10層構造物であって、各階とも幅20m、高さ10mとした。また、アイソレータ1は各層間の両端部に一対介装され、円弧方向剛性K/円弧垂直方向剛性K=1/1000とし、重力については、アイソレータ1の円弧垂直方向剛性に対して無視できるほど小さいと仮定し、重力の影響を考慮しなかった。
(12)式の解を表1に、表1の値をアイソレータ1の傾斜角度θとした際の多層構造物5の振動モードを図4に示す。本実施形態で求めた傾斜角度θにアイソレータ1を設置すると重力の影響を受ける多層構造物5の振動を低減させることができる。特に、重力の影響を受けない無重力の環境で建てられた多層構造物5の振動をより効果的に低減させることができる。
また、多層構造物5の振動は、水平振動に円弧方向の振動が重畳された多節振動であって、アイソレータ1の傾斜角度θとして、値が大きいほうの解を用いた場合、円弧垂直方向の高剛性に依存する高周波振動(縦剪断振動、図4(a)参照)となり、アイソレータ1の傾斜角度θとして、値が小さいほうの解を用いた場合、円弧方向の低剛性に依存する低周波振動(横剪断振動、図4(b)参照)となる。
従って、アイソレータ1の傾斜角度θとして、値が大きいほうの解を用いれば、高周波振動が卓越し、構造物は小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
Figure 0005252189
(第2の実施形態)
次に、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して重力の影響を考慮した場合について説明する。
重力による影響を表す重力補償には2種類あり、その第1の重力補償として、多層構造物の各階が重力を受けることにより変化する円弧方向振動を補償するものがある。また、第2の重力補償として、多層構造物の各階の重心の位置が水平方向に移動することにより生じる回転トルクの影響を補償するものがある。
以下では、まず第1の重力補償の方法について説明する。
図5(a)に示すように、多層構造物5を円弧中心2回りの重力振子に置換し、上層構造物(k階から最上階のn階まで)の質量をm、円弧中心2回りの上層構造物の慣性モーメントをIOk、上層構造物の重心3と円弧中心2との間の鉛直距離をLGk、重力加速度をgとすると、重力振子の周期Tは次式のように表せる。
Figure 0005252189
一方、図5(b)に示すように、上記重力振子と同周期の無重力下での円弧方向剛性による振子の周期Tは、円弧方向剛性をK、アイソレータ1の個数を2N、上層構造物の重心3を含む鉛直面に関して対称に配置された外側からi(i=1,…,N)番目の一対のアイソレータ1間の水平距離をw、アイソレータ1の円弧中心2とアイソレータ1との間の鉛直距離をLOkとすると、次式のように表すことができる。
Figure 0005252189
(14)式と(15)式より、第1重力補償項Kは次式のようになる。
Figure 0005252189
ただし、多層構造物5の各階に設置されるアイソレータ1が複数対の場合には、複数対の円弧中心2がすべて一致する場合にのみ影響が生じるものであり、一般にはアイソレータ1が複数対の場合には第1の重力補償は考慮する必要は無い。アイソレータ1が一対の場合には(16)式は次式のようになる。
Figure 0005252189
次に、第2の重力補償の方法について説明する。この第2の重力補償は、前述したように多層構造物5の各階4の重心の位置が水平方向に移動することにより生じるトルクの影響を補償したものであり、回転トルクによりアイソレータ1に荷重が作用する。
図6に1つの階4の重心の位置が水平方向に移動した場合のアイソレータ1に作用する荷重の影響を、アイソレータ1が一対の場合を図6(a)に、アイソレータ1が複数対の場合を図6(b)に示す。なお、各階4における一対又は複数対のアイソレータ1は上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されているとする。
ここで、水平方向の重心の変位をδ、1つの階4の質量をM、重力加速度をgとする。
図6(a)に示す、各階4に設置されたアイソレータ1が一対の場合で、一対のアイソレータ1間の水平距離をwとする。階4が水平方向に変位することにより階4が発生するトルクはMgδであり、階4は変位した方向側のアイソレータ1に鉛直方向下向きにMgδ/wの荷重Pを、変位した方向とは反対側のアイソレータ1に鉛直方向上向きにMgδ/wの荷重Pを作用させる。また、一対のアイソレータ1はこの荷重Pを受けるためにこの荷重Pと等しい力を発生させる。
一方、図6(b)に示す、各階4に設置されたアイソレータ1が複数対の場合で、外側からi(i=1,…,N)番目のアイソレータ1の水平距離をwとする。なおここで言う、i=1,…,Nとは、アイソレータの対の数Nに対応するように、変数iに代入された値を1,2,3,…,N−1,Nと1ずつ増やしていくことを意味する。
この場合は、階4の片側に設置されたN個のアイソレータのトルクの和が、階4が水平方向に変位することにより階4が発生するトルクMgδに等しい。そして、片側に設置されたN個のアイソレータ1に作用する各トルクは階4の重心からの距離の2乗に比例する。言い換えれば、階4の片側に設置されたN個のアイソレータ1に作用する各荷重は距離に比例する。ここで、i番目のアイソレータ1に作用する荷重に対する加重係数λを次式のように定義する。
Figure 0005252189
このとき、各アイソレータ1に作用する荷重Pは次のように表すことができる。
Figure 0005252189
次に、第2の重力補償の方法について、各階に設置されたアイソレータが一対の場合を説明する。
図7は、水平方向の外力が各階4に加えられた多層構造物5の状態を示す説明図である。なお、アイソレータ1をそれぞれ区別して説明する場合には便宜的に、k階(k=1,…,n)の下部を支持するアイソレータ1を第kアイソレータ1のように記載する。
なおここで言う、k=1,…,nとは、1階から最上階のn階までに対応するように、変数kに代入された値を1,2,3,…,n−1,nと1ずつ増やしていくことを意味する。
図7において、アイソレータ1の円弧方向の剛性をK、円弧垂直方向の剛性をK、k階の重心に水平方向に加わる外力をF、(k−1)階とk階間の水平方向の変位をδ、k階の質量をM、各階のアイソレータ1の水平距離は均一としてw、重力加速度をg、一対の第kアイソレータ1の水平面に対する傾斜角度(取り付け角度)をθ、変位により第kアイソレータ1に作用する荷重をP、最上階のn階の天面から第kアイソレータ1までの鉛直距離をLとする。
このとき、地面に対するk階の重心の水平方向の変位Δは、次式のようになる。
Figure 0005252189
第kアイソレータ1に作用する荷重Pは、k階からn階までの変位の影響が累積される。従って、k階の荷重Pは次式のようになる。
Figure 0005252189
ここで、前述したことと同様に、k階及び第kアイソレータに作用する力について検討する。
図8(a)に示すように、水平面に対する傾斜角度θで設置された第kアイソレータ1が水平方向にδだけ変位した場合、円弧方向の変位成分はδcosθ、円弧垂直方向の変位成分はδsinθとなる。また、図8(b)に示すように、第kアイソレータ1に作用する荷重Pは、円弧方向の荷重成分がPsinθ、円弧垂直方向の荷重成分がPcosθとなる。
因って8(c)に示すように、鉛直面に対して第kアイソレータ1から上層構造物の重心3に向かう角度α、合力の円弧方向成分をfkh、合力の円弧垂直方向成分をfkvとすると、次式のようになる。なお、Kは(17)式より求められる1重力補償項である。
Figure 0005252189
k階に設置された一対の第kアイソレータ1のそれぞれに作用する合力の円弧方向成分fkh及び合力の円弧垂直方向成分をfkvの水平方向成分の和は、k階から最上階であるn階までに作用する外力の合計に等しいので、次式が成り立つ。
Figure 0005252189
ここで、外力Fは全て等しい値をとるとして外力Fとする。また、変位の比hjkを次式のように定義する。
Figure 0005252189
ただし、hkkは1となる。hjkを用いて(22)式及び(23)式を書き直すと次式のようになる。
Figure 0005252189
ただし、Kは第2重力補償項である。以上より、図8におけるk階の補正角度βを次式のように求めることができる。
Figure 0005252189
こうして、(24)式及び(30)式により、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
Figure 0005252189
ここで、重力の影響を考慮する場合の傾斜角度θを算出する工程を、各階に設置されるアイソレータが一対の場合について説明する。
図9から図11は、傾斜角度θを算出する工程を示すフローチャートである。
なお、ステップS11からステップS13までの算出工程は、上述した重力の影響を考慮しない場合の工程と同一なので説明を省略する。
ステップS13に続いて行われるステップS21において図10に示すK計算関数を行い第1重力補償項Kの値を求め、ステップS22に移行する。
次に、ステップS22において、図11に示すK計算関数を行い第2重力補償項Kを求める。
計算関数のサブルーチンは、まず、ステップS41において、変数kに代入された値より変数nに代入された値(多層構造物5全体の階数)が大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)はステップS42に移行する。
また、ステップS41において、変数kに代入された値より変数nに代入された値が大きいという条件が偽である場合(False)は、ステップS45において次式により第2重力補償項Kの値を求め、サブルーチンを終了して図9に示すステップS23に移行する。
Figure 0005252189
ステップS41における条件が真である場合(True)に行われるステップS42では、次式による値を求めステップS43に移行する。
Figure 0005252189
次に、ステップS43において、後述するステップS24で計算しメモリに記憶された次式による値(変数jには、(k+1)からnまで1ずつ増える値が代入される)を用いて、(26)式による変位の比hjkをそれぞれ求め、ステップS44に移行する。
Figure 0005252189
次に、ステップS44において、(29)式により第2重力補償項Kの値を求め、サブルーチンを終了して図9に示すステップS23に移行する。
次に、ステップS23おいて、傾斜角度θに対して次式により得られる誤差eを求め、ステップS15に移行する。
Figure 0005252189
続いて行われるステップS15以降の算出工程は、上述した重力の影響を考慮しない場合の工程と同一なので説明を省略する。
なお、ステップS17の後のステップS24で、ステップS17で求められた傾斜角度θによる(33)式の値をメモリに記憶しておく。
ここで、上記の重力の影響を考慮しない場合と同じ条件を用いて、重力の影響を考慮した場合のアイソレータ1の傾斜角度θをシミュレーションで求めた結果を表2示す。具体的な条件は、多層構造物は、アスペクト比(=建物高さ/建物幅)が5の10層構造物であって、各階とも幅20m、高さ10mとした。また、アイソレータ1は各層間の両端部に一対介装され、各階4の質量は(鉄の0.02倍の比重として)6.28×10(kg)、重力加速度は9.8066(m/s)とした。また、円弧方向剛性は3.5×10(N/m)、円弧垂直方向剛性は3.5×10(N/m)で、円弧方向剛性K/円弧垂直方向剛性K=1/1000とした。
(31)式の解を表2に示す。なお、表2中には、表1で示した重力の影響を考慮しない場合の大きいほうの傾斜角度θも併せて載せている。
Figure 0005252189
なお、参考までに第1の重力補償と第2の重力補償の効果を比較するため、第1の重力補償で用いられる第1重力補償項K、及び第2の重力補償で用いられる第2重力補償項Kをそれぞれアイソレータの円弧方向剛性Kで除した値を表3に示す。この結果から、第2の重力補償による重心移動の影響は非常に大きく、特に下方の階ではアイソレータの円弧方向剛性より大きな影響を及ぼすことが解る。一方、第1の重力補償による円弧方向振動の影響は非常に小さく、場合によっては無視しても差し支えないとも考えられる。
Figure 0005252189
(第3の実施形態)
次に、アイソレータの円弧垂直方向剛性に対して重力の影響を考慮した場合で、第2の重力補償の方法について各階に設置されたアイソレータが複数対の場合を説明する。なお、アイソレータの設置数以外は上記の第2実施形態と同一なので、重複する説明については省略する。
また上述したように、アイソレータが複数対の場合には第1の重力補償は考慮する必要は無い。
この場合、図6(b)に示すように各階において、片側にN個ずつ合計2N個のアイソレータ1が、上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されている。ここで、対をなすアイソレータ1を、外側から順に1番目、2番目、…、N番目と呼ぶことにする。
k階において、i番目(i=1,…,N)のアイソレータ1に作用する荷重は、(18)式、(19)式及び(21)式により次式のようになる。
Figure 0005252189
これ以降は、第2実施形態と同様の算出手順となる。
k階において、鉛直面に対してi番目のアイソレータ1から上層構造物の重心3に向かう角度をα、i番目のアイソレータ1の傾斜角度をθ、角度αから傾斜角度θを減じた値である補正角度をβとする。また、円弧方向の剛性をK、円弧垂直方向の剛性をKはアイソレータ1によらず一定とする。
これにより、i番目のアイソレータ1に作用する合力の円弧方向成分をkh、合力の円弧垂直方向成分をkvとすると、次式のようになる。
Figure 0005252189
各階が剛体だと仮定すると、各アイソレータ1の水平方向の変位は等しくなる。また、k階に設置された2N個のアイソレータ1のそれぞれに作用する合力の円弧方向成分kh及び合力の円弧垂直方向成分をkvの水平方向成分の和は、k階から最上階であるn階までに作用する外力の合計に等しいので、次式が成り立つ。
Figure 0005252189
ここで、外力Fは全て等しい値をとるとして外力Fとする。また、変位の比hjkを次式のように定義する。
Figure 0005252189
ただし、hkkは1となる。hjkを用いて(37)式及び(38)式を書き直すと次式のようになる。
Figure 0005252189
ただし、は第2重力補償項である。上述のように第2重力補償項は、多層構造物の各階の重心の位置が水平方向に移動することにより生じる回転トルクの影響を補償する項である。しかし、各階に一対のアイソレータが設置されている場合は第2重力補償項は(29)式で表され、各階に複数対のアイソレータが設置されている場合は第2重力補償項は(44)式で表される。また、別の言い方をすれば、各階に複数対のアイソレータが設置されている(44)式で表される場合が一般的な式であり、アイソレータが一対の場合(iが1の値しか取らない場合)が特殊な式である。
以上より、k階におけるi番目のアイソレータ1の補正角度βを次式のように求めることができる。
Figure 0005252189
そして、(39)式及び(45)式により、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
Figure 0005252189
ここで、重力の影響を考慮する場合の傾斜角度θを算出する工程を、アイソレータが2対の場合について説明する。この場合、アイソレータの対の数であるNは2となる。
図12から図14は、傾斜角度θを算出する工程を示すフローチャートである。
まず、ステップS51において、(18)式におけるN=2の場合の次式により加重係数λを求め、ステップS52に移行する。
Figure 0005252189
次に、ステップS52において変数kに、多層構造物5全体の階数nの値を代入する。そして、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS53に移行する。なお、これ以降の工程でステップS52を行う時は、変数kに代入された値から1を減じた上で変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断することとなる。また、この条件が偽である場合(False)は、全ての処理を終了する。
次に、ステップS53において、(39)式におけるi=1、2の場合に相当する次式により角度ααを求めステップS54に移行する。
Figure 0005252189
次に、ステップS54において、外側から1番目、2番目のアイソレータ1の傾斜角度θ及びθに90(角度90°のこと)を代入し、ステップS55に移行する。
次に、ステップS55において、図13に示す、傾斜角度θθに代入された値に対するアイソレータの後述する式による誤差をそれぞれ求める計算関数を行う。
この計算関数のサブルーチンの概要を説明すると、まず、ステップS71において後工程をアイソレータの対の数である2回繰り返すように設定する。次に、ステップS72において、図14に示す計算関数を行い、各アイソレータに対応する第2重力補償項を求める。そして、ステップS73において、以下の式により誤差を求め、図12のステップS56に移行する。
Figure 0005252189
次に、ステップS56において、外側に配置された1番目のアイソレータ1の傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入してから、傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS57に移行し、この条件が偽である場合(False)は、異常であると判断して全ての処理を終了する。
なお、ステップS55からステップS56に移行してきた時のみ傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入し、後述するステップS60からステップS56に移行してきた時は、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じた上で傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
次に、ステップS57において、内側に配置された2番目のアイソレータ1の傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入してから、傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS58に移行し、この条件が偽である場合(False)は、異常であると判断して全ての処理を終了する。
なお、ステップS56からステップS57に移行してきた時のみ傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入し、後述するステップS59からステップS57に移行してきた時は、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じた上で傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
次に、ステップS58において、上述したように傾斜角度θθに代入された各値に対する各アイソレータの誤差を求める計算関数を行い、ステップS59に移行する。
次に、ステップS59において、直前のステップS58で求めた誤差の値が先に求めた誤差の値(直前のステップS58が初めて行われたステップS58である場合にはステップS55で求めた誤差の値、これ以外の場合は最後に行ったステップS58の1回前に行ったステップS58で求めた誤差の値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS60に移行し、この条件が偽である場合(False)は、ステップS57に移行する。
次に、ステップS60において、2ステップ前のステップS58で求めた誤差の値が先に求めた誤差の値(2ステップ前のステップS58が初めて行われたステップS58である場合にはステップS55で求めた誤差の値、これ以外の場合は最後に行ったステップS58の1回前に行ったステップS58で求めた誤差の値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS61に移行し、この条件が偽である場合(False)は、ステップS56に移行する。
次に、ステップS61において、上記の工程で得られた誤差及びの符号を反転させる傾斜角度θ及びθをk階の1番目及び2番目のアイソレータ1のそれぞれの傾斜角度とし、ステップS62に移行する。
次に、ステップS62において、上記のステップS61で得られた傾斜角度θ及びθによる次式の値をメモリに記憶し、ステップS52に移行する。
Figure 0005252189
ここで、重力の影響を考慮し、各階にアイソレータ1が2対配置されている場合のアイソレータ1の傾斜角度θをシミュレーションで求めた結果を表4示す。具体的な条件は、多層構造物は、アスペクト比(=建物高さ/建物幅)が5の10層構造物であって、各階とも幅20m、高さ10mとした。また、アイソレータ1は各層間の両端部に一対介装され、各階4の質量は(鉄の0.02倍の比重として)6.28×10(kg)、重力加速度は9.8066(m/s)とした。各階4の下部を支持するアイソレータ1は上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置され、1番目のアイソレータ1間の水平距離wが20(m)、2番目のアイソレータ1間の水平距離wが10(m)とした。そして、円弧方向剛性は3.5×10(N/m)、円弧垂直方向剛性は3.5×10(N/m)で、円弧方向剛性K/円弧垂直方向剛性K=1/1000とした。
なお、表4中には、重力の影響を考慮しない場合の計算結果も併せて載せている。
Figure 0005252189
以下、本発明に係る多層構造物の効果について列記する。
(1)アイソレータの傾斜角度として解が二つある場合に値が大きいほうの解を用いると、高次モードが卓越しその卓越周期は通常の剛構造のビルより短周期である。従って、長周期地震動で懸念される帯域に卓越周期があるため長周期地震動に弱いとされる中間免震などに比べて、本発明に係る多層構造物は長周期地震動にも強い。
(2)一般に卓越モードで振動する風振動に対しても多節振動による小振幅振動となるため、風振動にも強い。
(3)重力の影響を考慮しない場合において求めたアイソレータの傾斜角度に設置すると、重力の影響を受ける多層構造物の振動を低減させることができる。特に、重力の影響を受けない無重力の環境で建てられた多層構造物の振動をより効果的に低減させることができる。
(4)重力の影響を第1の重力補償及び第2の重力補償の2種類に分け、重力の影響を受ける多層構造物の振動を効果的に低減させるアイソレータの傾斜角度を求めることができる。特に、多層構造物の各階の重心の位置が水平方向に移動することにより生じる回転トルクの影響を補償する第2の重力補償が効果的である。
(5)上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されたアイソレータが一対の場合でも複数対の場合でも、多層構造物の振動を効果的に低減させるアイソレータの傾斜角度を求めることができる。
(6)水平方向には高剛性だが、円弧方向には低剛性である。ここで、円弧方向の剛性を調節して水平方向の固有振動数と一致させると、水平方向の振動エネルギーは円弧方向に遷移する。剛性が低い構造物にダンパーを装着したほうが減衰定数が大きくなり早く減衰することから、低剛性である円弧方向にダンパーを設置することにより、高い減衰性を確保することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本発明は、多層構造の建物を多節振動により制振することを軸としており、一般的には塔状構造物に有効な構造であり、層数の多い高層建物で特にその現象が顕著となるため、上記実施形態では、複数層の塔状構造物を例にして説明しているが、本発明は、塔状でない構造物であってもよい。また、本発明は、アスペクト比が大きい構造物に有効ということではなく、例えば幅の広い高層ビルのように、アスペクト比は小さいが層数が多い構造物にも有効である。
(第4の実施形態)
また、これまでアイソレータが1階から最上階のn階までの各階に設置されているとして説明してきたが、アイソレータは1つ以上の階に設置されていればよい。より詳しくは、n階建て(最上階の階数がnであることを意味する)の多層構造物の各階が、nの約数であるp個のブロックに等分され、各ブロックの最も1階側の階のみにアイソレータがそれぞれ設置されている多層構造物について検討する。
アイソレータが配置されている階に一対のアイソレータが設置されている場合には、第2実施形態と同様に考えて、1階からn階で構成された多層構造物であって、階全体を階数nの約数であるpで等分して複数のブロックに分け、各ブロックの最も1階側の階のみに、支持する上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置され鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面に対して斜め方向に運動する一対のアイソレータを、この一対のアイソレータに作用する合力の方向が支持する上層構造物の重心に向くようにそれぞれ備え、水平面に対する各アイソレータの傾斜角度θは、(53)式から(55)式を用いて求められる(52)式の解として得られる多層構造物を採用してもよい。
Figure 0005252189
但し、各ブロックを1階から数えて第1ブロック、第2ブロック、…、第pブロックと呼ぶこととする。このとき、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、w:アイソレータ間の水平距離、g:重力加速度、m:上層構造物(第kブロックから第pブロックまで)の質量、LGk:上層構造物の重心とアイソレータの円弧中心との間の鉛直距離、LOk:第kブロックのアイソレータの円弧中心とアイソレータとの間の鉛直距離、K:第1重力補償項、K:第2重力補償項、θ:第kブロックに設置されたアイソレータの傾斜角度、L:第kブロックに設置されたアイソレータから最上階の天面までの鉛直距離、B:第kブロックの質量、とする。
この場合、基本的な考えは上記第2実施形態と同一だが、上記第2実施形態で説明した、Fは第kブロックの重心に水平方向に加わる外力、δは第(k−1)ブロックと第kブロック間の変位、Pは第kブロックに設置されたアイソレータに作用する荷重、Δは地面に対する第kブロックの重心の変位を意味する変数に置き換えられる。
そして(21)式は次式のようになる。
Figure 0005252189
また、鉛直面に対して第kブロックに設置されたアイソレータから上層構造物の重心に向かう角度α、合力の円弧方向成分をfkh、合力の円弧垂直方向成分をfkvとすると、次式のようになる。なお、Kは(17)式より求められる第1重力補償項である。
Figure 0005252189
各ブロックに設置された一対のアイソレータのそれぞれに作用する合力の円弧方向成分fkh及び合力の円弧垂直方向成分をfkvの水平方向成分の和は、第kブロックから最上階を含む第pブロックまでに作用する外力の合計に等しいので、次式が成り立つ。
Figure 0005252189
ここで、外力Fは全て等しい値をとるとして外力Fとする。また、変位の比hjkを次式のように定義する。
Figure 0005252189
ただし、hkkは1となる。hjkを用いて(57)式及び(58)式を書き直すと次式のようになる。
Figure 0005252189
ただし、Kは第2重力補償項である。以上より、図8に示す第kブロックに設置されたアイソレータの補正角度βを次式のように求めることができる。
Figure 0005252189
こうして、(59)式及び(65)式により、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
Figure 0005252189
なお、傾斜角度θを算出する工程は、上記第2実施形態と同様になる。
以上のように、上記多層構造物によれば、振動を効果的に低減させながらも、アイソレータの設置に要するコストを抑えることができる。
また、傾斜角度をθとして、(66)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする多層構造物が好ましい。
この多層構造物によれば、構造物が小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
(第5の実施形態)
また、アイソレータが配置されている階に複数対のアイソレータが設置されている場合には、第3実施形態と同様に考えて、1階からn階で構成された多層構造物であって、階全体を階数nの約数であるpで等分して複数のブロックに分け、各ブロックの最も1階側の階のみに、支持する上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置され鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面に対して斜め方向に運動する複数対のアイソレータを、この複数対のアイソレータに作用する合力の方向が支持する上層構造物の重心に向くようにそれぞれ備え、水平面に対する各アイソレータの傾斜角度θは、(68)式から(70)式を用いて求められる(67)式の解として得られる多層構造物を採用してもよい。
Figure 0005252189
但し、各ブロックを1階から数えて第1ブロック、第2ブロック、…、第pブロックと呼ぶこととする。このとき、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、g:重力加速度、2N:アイソレータが配置されている階のアイソレータの個数、λ:外側からi(i=1,…,N)番目のアイソレータのトルクの加重係数、w:外側からi番目のアイソレータ間の水平距離、:外側からi番目のアイソレータの第2重力補償項、L:第kブロックに設置されたアイソレータから最上階の天面までの鉛直距離、B:第kブロックの質量、θ:第kブロックに設置された外側からi番目のアイソレータの傾斜角度、とする。
この場合、基本的な考えは上記第3実施形態と同一だが、本実施形態では第kブロック(k=1,…,p)において、外側からi番目(i=1,…,N)のアイソレータに作用する荷重は次式のようになる。
Figure 0005252189
第kブロックにおいて、鉛直面に対してi番目のアイソレータから上層構造物の重心に向かう角度をα、i番目のアイソレータの取り付け角度をθαからθを減じた値である補正角度をβとする。また、円弧方向の剛性をK、円弧垂直方向の剛性をKはアイソレータによらず一定とする。
これにより、i番目のアイソレータに作用する合力の円弧方向成分をkh、合力の円弧垂直方向成分をkvとすると、次式のようになる。
Figure 0005252189
各ブロックが剛体だと仮定すると、各アイソレータの水平方向の変位は等しくなる。また、第kブロックに設置された2N個のアイソレータのそれぞれに作用する合力の円弧方向成分kh及び合力の円弧垂直方向成分をkvの水平方向成分の和は、第kブロックから最上階であるn階を含む第pブロックまでに作用する外力の合計に等しいので、次式が成り立つ。
Figure 0005252189
ここで、外力Fは全て等しい値をとるとして外力Fとする。また、変位の比jkを次式のように定義する。
Figure 0005252189
ただし、hkkは1となる。hjkを用いて(72)式及び(73)式を書き直すと次式のようになる。
Figure 0005252189
ただし、は第2重力補償項である。以上より、第kブロックに設置されたi番目のアイソレータの補正角度βを次式のように求めることができる。
Figure 0005252189
そして、(74)式及び(80)式により、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
Figure 0005252189
なお、傾斜角度θを算出する工程は、上記第3実施形態と同様になる。
以上のように、上記多層構造物によれば、振動を効果的に低減させながらも、アイソレータの設置に要する製造コストを抑えることができる。
また、傾斜角度をθとして、(81)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする多層構造物が好ましい。
この多層構造物によれば、構造物が小振幅且つ高周波で振動するため、長周期地震動や風振動に対しても強い構造物を実現することができる。
ここで、本発明の多層構造物が行う高次モード卓越振動の定常振動メカニズムについて、10階の多層構造物を例として示す。
話を簡単にするため、まず無重力の場合について示す。円弧方向剛性ゼロでの振動は、図15(a)に示すように高周波(縦剪断)のみの周波数の水平振動となる。円弧方向剛性を徐々に大きくすると、低周波振動である円弧振動(横剪断振動)が構造物の層数に相当する次数分表れ、図15(b)では10階としているため10次モードまで存在する。高周波振動の主体は縦剪断振動であり、縦剪断共振周波数の近傍にある円弧振動の次数モードも励振される。従って、円弧方向剛性を徐々に大きくするに従い、図15(b)のように10次モード卓越から、図15(c)のように5次モード卓越へと移行する。すなわち、小振幅の縦剪断振動に、大振幅の円弧振動が重畳されるため、あたかも高次モードが卓越した振動のように振舞う。
重力の影響を考慮した場合でも同じ理由で説明できる。重力下では前述した第1の重力補償、及び第2の重力補償の影響で図15(a)のような水平振動は存在しない。しかし、重力の影響は間接的に円弧方向振動となって表れるため、無重力下と同様なメカニズムで高次モード卓越振動を行う。
アイソレータの円弧中心と、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心との位置関係を示した模式図である。 重力の影響を考慮しない場合において、(a)はアイソレータの仮想変位、(b)はアイソレータに作用する合力をそれぞれ説明するための図である。 重力の影響を考慮しない場合の傾斜角度θを算出する工程を示すフローチャートである。 (12)式の解をアイソレータの傾斜角度とした場合の多層構造物の振動モードを示し、(a)は大きいほうの解を用いた場合、(b)は小さいほうの解を用いた場合である。 (a)は円弧中心回りの重力振子の図、(b)は重力振子と等価な円弧方向剛性を示した図である。 1つの階が重心移動した場合のアイソレータに与える影響を示し、(a)は設置されたアイソレータが一対の場合、(b)は複数対の場合の説明図である。 多層構造物の各階が水平方向に変位した状態を示した模式図である。 重力の影響を考慮する場合において、(a)はアイソレータの仮想変位、(b)はアイソレータに作用する荷重、(c)はアイソレータに作用する合力をそれぞれ説明するための図である。 重力の影響を考慮し、各階に設置されるアイソレータが一対の場合の傾斜角度θを算出する主工程を示すフローチャートである。 重力の影響を考慮し、各階に設置されるアイソレータが一対の場合のK計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。 重力の影響を考慮し、各階に設置されるアイソレータが一対の場合のK計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。 重力の影響を考慮し、各階に設置されるアイソレータが2対の場合の傾斜角度θを算出する主工程を示すフローチャートである。 重力の影響を考慮し、各階に設置されるアイソレータが2対の場合の計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。 重力の影響を考慮し、各階に設置されるアイソレータが2対の場合の計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。 多層構造物の振動モードを示す説明図である。
符号の説明
1 アイソレータ
2 円弧中心
3 重心
4 階
5 多層構造物

Claims (7)

  1. 鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、水平面に対して斜め方向に運動する複数のアイソレータを備える多層構造物において、
    前記各アイソレータに作用する合力の方向が、当該アイソレータが支持する上層構造物の重心に向いていることを特徴とする多層構造物。
  2. 水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度θは、(1)式の解として得られることを特徴とする請求項1に記載の多層構造物。
    Figure 0005252189

    但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、w:上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置された一対のアイソレータ間の水平距離、L:最上階の天面からアイソレータまでの鉛直距離。
  3. 前記傾斜角度θとして、前記(1)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする請求項2に記載の多層構造物。
  4. 水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度θは、(3)式から(5)式を用いて求められる(2)式の解として得られることを特徴とする請求項1に記載の多層構造物。
    Figure 0005252189

    但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、w:上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されたアイソレータ間の水平距離、g:重力加速度、m:上層構造物の質量、LGk:上層構造物の重心とアイソレータの円弧中心との間の鉛直距離、LOk:アイソレータの円弧中心とアイソレータとの間の鉛直距離、K:第1重力補償項、K:第2重力補償項、k階(k=1,…,n)の質量M、アイソレータの傾斜角度θ、最上階の天面からアイソレータまでの鉛直距離L
  5. 前記傾斜角度をθとして、前記(2)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする請求項4に記載の多層構造物。
  6. 水平面に対する前記アイソレータの傾斜角度θは、(7)式から(9)式を用いて求められる(6)式の解として得られることを特徴とする請求項1に記載の多層構造物。
    Figure 0005252189

    但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、g:重力加速度、2N:各階のアイソレータの個数、上層構造物の重心を含む鉛直面に関して対称に配置されたi(i=1,…,N)番目のアイソレータのトルクの加重係数λ、アイソレータ間の水平距離w、第2重力補償項、k階(k=1,…,n)の質量M、最上階の天面からアイソレータまでの鉛直距離L、i番目のアイソレータの傾斜角度θ
  7. 前記傾斜角度をθとして、前記(6)式の解が二つある場合には値が大きいほうの解を用いることを特徴とする請求項6に記載の多層構造物。
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