以下、本発明に係る車両の運動制御装置を適用した車両の一実施形態を図面を参照して説明する。図1はその車両の構成を示す概要図である。この車両Mは、前輪駆動車であり、車体前部に搭載した駆動源であるエンジン11の駆動力が前輪に伝達される形式のものである。なお車両Mは前輪駆動車でなく、他の駆動方式の車両例えば後輪駆動車、四輪駆動車でもよいし、電動モータを駆動源とする車両でもよい。
車両Mは、車両Mを駆動させる駆動系10と車両Mを制動させる制動系20を備えている。駆動系10は、エンジン11、変速機12、ディファレンシャル13、左右駆動軸14a,14b、アクセルペダル15およびエンジン制御ECU16を備えており、それらの制御は本実施形態では詳述しない。
制動系20は、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置から構成されている。この液圧ブレーキ装置20は、倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力(すなわちブレーキペダル21の操作状態)に応じた基礎液圧である液圧(油圧)のブレーキ液(油)を生成して各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24と、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrとの間に設けられてブレーキペダル21の踏込状態に関係なく制御液圧を形成して制御対象輪に付与可能であるブレーキアクチュエータ25と、ブレーキアクチュエータ25を制御するブレーキ制御ECU26(車両の制動制御装置である)と、を備えている。なお、ブレーキ制御ECU26は、エンジン制御ECU16と互いに通信可能に接続されている。
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに基礎液圧または制御液圧が供給されると、各ピストンが摩擦部材である一対のブレーキパッドBPfl,BPfr,BPrl,BPrrを押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転する回転部材であるディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。なお、本実施形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。
次に、図2を参照してブレーキアクチュエータ25の構成を詳述する。このブレーキアクチュエータ25は、一般的によく知られているものであり、第1電磁弁である液圧制御弁41,51、ABS制御弁を構成する第2電磁弁である増圧弁42,43,52,53および減圧弁45,46,55,56、調圧リザーバ44,54、ポンプ47,57、モータ33などから構成されている。
本実施形態の液圧ブレーキ装置20のブレーキ配管系はX配管方式にて構成されており、ブレーキアクチュエータ25は図2に示すようにマスタシリンダ23の第1および第2液圧室23a、23bに接続されている第1および第2油経路LrおよびLfを備えている。第1油経路Lrは、第1液圧室23aと左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWCrl,WCfrとをそれぞれ連通するものであり、第2油経路Lfは、第2液圧室23bと左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通するものである。
ブレーキアクチュエータ25の第1油経路Lrには、差圧制御弁から構成される液圧制御弁41が備えられている。この液圧制御弁41は、ブレーキ制御ECU26により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁41は非通電して通常連通状態とされているが、通電して差圧状態(閉じる側)にすることによりホイールシリンダWCrl,WCfr側の油経路Lr2をマスタシリンダ23側の油経路Lr1よりも所定の制御差圧分高い圧力に保持することができる。この制御差圧はブレーキ制御ECU26により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
第1油経路Lr2は2つに分岐しており、一方にはABS制御の加圧モード時においてホイールシリンダWCrlへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁42が備えられ、他方にはABS制御の加圧モード時においてホイールシリンダWCfrへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁43が備えられている。これら増圧弁42,43は、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。増圧弁42,43は、非通電にて連通状態にあり、通電して遮断状態となる常開型開閉電磁弁である。そして、これら増圧弁42,43が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧、または/およびポンプ47の駆動と液圧制御弁41の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダWCrl,WCfrに加えることができる。また、増圧弁42,43は減圧弁45,46およびポンプ47とともにABS制御を実行することができる。
なお、ABS制御が実行されていない通常ブレーキ(ABS非作動時)の際には、これら増圧弁42,43は常時連通状態に制御されている。
また、増圧弁42,43と各ホイールシリンダWCrl,WCfrとの間における油経路Lr2は、油経路Lr3を介して調圧リザーバ44に連通されている。油経路Lr3には、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる減圧弁45,46がそれぞれ配設されている。減圧弁45,46は、非通電にて遮断状態にあり、通電して連通状態となる常閉型開閉電磁弁である。これらの減圧弁45,46は通常ブレーキ状態では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ44へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWCrl,WCfrにおけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
ポンプ47は、ブレーキ制御ECU26の指令によりモータ33によって駆動されるものである。ポンプ47は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWCrl,WCfr内のブレーキ液または調圧リザーバ44に貯められているブレーキ液を吸い込んで連通状態である液圧制御弁41を介してマスタシリンダ23に戻している。
また、ポンプ47は、ESC制御、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの、ホイールシリンダWCfl〜WCrrの何れかに自動的に液圧を付与する制御を実行する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁41に制御差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lr1,Lr5および調圧リザーバ44を介して吸い込んで油経路Lr4,Lr2および連通状態である増圧弁42,43を介して各ホイールシリンダWCrl,WCfrに吐出して制御液圧を付与している。
また、油経路Lr1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキ制御ECU26に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lf1に設けるようにしてもよい。
さらに、ブレーキアクチュエータ25の第2油経路Lfは第1油経路Lrと同様に油経路Lf1〜Lf5から構成されている。
このように、ブレーキアクチュエータ25は、運転者のブレーキペダル21の操作状態(踏込状態)に応じた液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与し、運転者のブレーキペダル21の操作状態(踏込状態)に関係なくホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrへの液圧を制御することが可能でもある。
また、ブレーキ制御ECU26は、図1に示すように、車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srr、ヨーレートセンサ27、加速度センサ28およびステアリングセンサ29aと接続されている。
車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの付近にそれぞれ設けられており、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転速度(車輪速度)に応じた周波数のパルス信号をブレーキ制御ECU26に出力している。ヨーレートセンサ27は、車両Mのヨーレートを検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。加速度センサ28は、車両Mの前後方向や左右方向の加速度を検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。ステアリングセンサ29aは、ステアリング29の中立位置からの回転角度を検出し、実ステアリング角度θ(実舵角対応値)を示す信号をブレーキ制御ECU26に出力するようになっている。
また、ブレーキ制御ECU26は、図1に示すように、ブレーキペダル21のオン・オフ状態を検出するストップスイッチ21aに接続されている。
ブレーキ制御ECU26は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図3〜図5のフローチャートに対応したプログラムを実行して、車両の安定化制御、例えば、横滑り防止制御を実施する。
次に、上記のように構成した車両の運動制御装置による制御のうちESCについて図3から図5のフローチャートを参照して説明する。ブレーキ制御ECU26は、図示しない車両Mのイグニションスイッチがオン状態になると、図3のフローチャートに対応したプログラムを実行する。ブレーキ制御ECU26が起動されると、ブレーキ制御ECU26は、メモリクリア、フラグリセット等の初期化処理を行い(ステップ102)、以降の処理(ステップ104からステップ118)を所定時間T0(例えば5msec)毎に繰り返し実行する。
ブレーキ制御ECU26は、上記各車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrからの車輪速度信号に基づき、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度VW**を演算し(ステップ104)、この車輪速度の微分値である各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪加速度dVW**を演算する(ステップ106)。なお、**は、各輪に対応する添え字であって、fl,fr,rl,rrのいずれかである。以下の説明及び図面において同じである。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ104で求めた各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度VW**に基づき、例えばそれらのうち最大速度VWmaxに基づき、車体速度VBを演算する(ステップ108)。なお、左右前輪Wfl,Wfrまたは左右後輪Wrl,Wrrの各車輪速を平均した値を車体速度VBとして算出するようにしてもよい。そして、ブレーキ制御ECU26は、ステップ108で演算した車体速度VBと、各車輪Wfl〜Wrrの車輪速度VWfl〜VWrrとに基づき、各車輪Wfl〜Wrrのスリップ量ΔVW**を演算する(ステップ110)。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ112において、ヨーレートセンサ27からのヨーレートの方向及び大きさを表す信号を車両Mに発生する実際のヨーレートである実ヨーレートRωとして取得する。なお、実ヨーレートRωを左右前輪Wfl,Wfr(または左右後輪Wrl,Wrr)の車輪速度に基づいて算出するようにしてもよい。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ114において、目標ヨーレートTωを算出する。具体的には、ブレーキ制御ECU26は、まず、ステアリングセンサ29aから入力された実ステアリング角度θを示す信号から車両Mのステアリング角度θを算出する。そして、その算出したステアリング角度θから操舵輪の切れ角ξ(車両の操舵角)を下記数1により導出する。
(数1)
操舵輪の切れ角ξ=C×ステアリング角度θ
さらに、ブレーキ制御ECU26は、下記数2によって車体速度VB、車両の操舵角ξおよびスタビリティファクタAに基づいて目標ヨーレートTωを算出する。
なお、Cはステアリング角度θに対する操舵輪の切れ角ξの比例定数(例えばステアリングギヤ比)である。また、操舵輪の切れ角ξとは、車両Mが直進する方向に対する操舵輪の操舵方向の角度のことをいう。また、Lは車両Mのホイールベースである。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ116において、先に取得された実ヨーレートRωとステップ114にて算出された目標ヨーレートTωとを減算してヨーレート偏差Δω(Δω=Tω−Rω)を算出する。
そして、ブレーキ制御ECU26は、ステップ118において、ヨーレート偏差Δωに基づいて必要に応じて車両の安定化制御やプリチャージ制御を実行する。すなわち、図4に示す車両安定化制御ルーチンを実行する。
ヨーレート偏差Δωが閾値Tos1以上であり閾値Tus1以下である場合、すなわち車両Mがオーバステア状態、アンダステア状態、オーバステア傾向、アンダステア傾向にない場合には、車両Mは安定した状態にあるので、ブレーキ制御ECU26は、ステップ202,204,206にてそれぞれ「NO」と判定してプログラムをステップ208に進めて、車両Mの安定化制御を実施しない。その後、プログラムをステップ216に進めて一旦終了する。閾値Tos1は、オーバステア側の第1の閾値であり、閾値Tus1は、アンダステア側の第1の閾値である。第1の閾値は、車両の旋回走行時に目標ヨーレートと実際のヨーレートとの偏差が横滑り傾向の発生を示す値である。横滑り傾向は、本実施形態においてはオーバステア傾向、アンダステア傾向である。
また、ヨーレート偏差Δωが閾値Tusより大きい場合には、車両Mはアンダステア状態にあり車両Mは安定した状態にないので、ブレーキ制御ECU26は、ステップ202にて「YES」と判定してプログラムをステップ212に進めて、車両Mの安定化制御すなわちアンダステア抑制制御を実施する。閾値Tusは、閾値Tus1よりアンダステアが強い側に大きい第2の閾値である。第2の閾値は、目標ヨーレートと実際のヨーレートとの偏差が横滑り傾向から横滑り状態に移行した場合を示す値である。横滑り状態は、本実施形態においてはオーバステア状態、アンダステア状態である。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ212において、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を個別に制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、内側の車輪に制動力を付与して車両Mに内向きモーメントを発生させる。ステップ212は、ポンプ47,57を駆動させて車両の何れかのホイールシリンダWC**に自動的に制御液圧を付与する制御(車両安定化制御、ESC)を実行する第2液圧制御手段である。すなわち、第2液圧制御手段は、車両の挙動を示す値が第1の閾値(閾値Tus1)より大きい第2の閾値(閾値Tus)を超えた場合に、電動モータ33によりポンプ47,57を駆動させて車両の何れかのホイールシリンダWC**に、初期液圧より大きくかつ横滑り状態を示す値に対応した制動力が車輪W**に作用する制御液圧を付与する。初期液圧は、車輪W**に制動力が作用しない程度の液圧のことであり、例えば後述する液込めの完了時の液圧のことである。
また、ブレーキ制御ECU26は、エンジン制御ECU16に指令を送り、スロットルバルブ11bの開度を制御し出力トルクを制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、スロットルを閉じ出力トルクを抑える。その後、プログラムをステップ216に進めて一旦終了する。
また、ヨーレート偏差Δωが閾値Tus1より大きくかつ閾値Tus(閾値Tus1より大きい値である第2の閾値である)より小さい場合には、車両Mはアンダステア状態に達していなく車両Mは安定した状態にあるがアンダステア状態となる手前のアンダステア傾向にある。そこで、ブレーキ制御ECU26は、ステップ202,204,206にて「NO」、「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ210に進めて、プリチャージ制御(後述する)を実施する。
また、ヨーレート偏差Δωが閾値Tosより小さい場合には、車両Mはオーバステア状態にあり車両Mは安定した状態にないので、ブレーキ制御ECU26は、ステップ202,204にて「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ214に進めて、車両Mの安定化制御すなわちオーバステア抑制制御を実施する。閾値Tosは、閾値Tos1よりオーバステアが強い側に大きい第2の閾値である。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ214において、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を個別に制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、外側の車輪に制動力を付与して車両Mに外向きモーメントを発生させる。ステップ214は、ポンプ47,57を駆動させて車両の何れかのホイールシリンダWC**に自動的に制御液圧を付与する制御(車両安定化制御、ESC)を実行する第2液圧制御手段である。すなわち、第2液圧制御手段は、車両の挙動を示す値が第1の閾値(閾値Tos1)より大きい第2の閾値(閾値Tos)を超えた場合に、電動モータ33によりポンプ47,57を駆動させて車両の何れかのホイールシリンダWC**に、初期液圧より大きくかつ横滑り状態を示す値(車両の挙動を示す値)に対応した制動力が車輪W**に作用する制御液圧を付与する。
また、ブレーキ制御ECU26は、エンジン制御ECU16に指令を送り、スロットルバルブ11bの開度を制御し出力トルクを制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、スロットルを開いて出力トルクを増大させる。その後、プログラムをステップ216に進めて一旦終了する。
また、ヨーレート偏差Δωが閾値Tos1より小さくかつ閾値Tos(閾値Tos1より小さい値)より大きい場合には、車両Mはオーバステア状態に達していなく車両Mは安定した状態にあるがオーバステア状態となる手前のオーバステア傾向にある。そこで、ブレーキ制御ECU26は、ステップ202,204,206にて「NO」、「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ210に進めて、第1液圧制御手段であるプリチャージ制御を実施する。
図5に示すプリチャージ制御ルーチンで実行されるプリチャージ制御について説明する。プリチャージ制御は、車両Mの旋回走行時に目標ヨーレートと実際ヨーレートとの偏差(ヨーレート偏差Δω)が横滑り傾向の発生を示す値が第1の閾値であるTus1(またはTos1)を超えた場合に、電動モータ33の出力によりポンプ47,57を駆動させて車両Mの何れかのホイールシリンダWC**に車両Mの車輪W**に制動力が作用しない程度の初期液圧を付与する制御である。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ302において、電動モータ33の出力値を決定する。この出力値は、図6に示すモータ出力値とステアリング29を操作する操作速度ΔStrとの関係を示す第1マップを使用して、ステアリング29の操作速度から算出される。ステアリング29の操作速度が小さくなるにしたがってポンプ47,57を駆動する電動モータ33の出力値は小さくなるように設定されている。換言すると、ステアリング29の操作速度が大きくなるにしたがってポンプ47,57を駆動する電動モータ33の出力値は大きくなるように設定されている。出力値の下限は、ポンプ47,57の必要最低限な出力に対応した値に規定されており、上限は、ポンプ47,57または電動モータ33の最大出力を考慮して規定されている。出力値の下限と上限との間においては、操作速度ΔStrと出力値とはリニアな関係にある。これによれば、操作速度に応じて一律な電動モータの出力を得ることができるので、制御応答性に応じた適切な液圧供給および運転者が感じる電動モータ作動音の適切な低減の両立をバランスよく達成することができる。
なお、上述した図6に示すマップ(下記図8および図9に示すマップも含む。)において、出力値の下限、出力値の上限、および出力値の下限と上限との間の関係について説明する。下限の範囲S1が短くなるにしたがってモータ出力の下限に対応する操作速度ΔStrの範囲が小さくなり、静粛性より制御応答性が優先される。換言すると、下限の範囲S1が長くなるにしたがってモータ出力の下限に対応する操作速度ΔStrの範囲が大きくなり、制御応答性より静粛性が優先される。
上限の範囲S2が短くなるにしたがってモータ出力の上限に対応する操作速度ΔStrの範囲が小さくなり、制御応答性より静粛性が優先される。換言すると、上限の範囲S2が長くなるにしたがってモータ出力の上限に対応する操作速度ΔStrの範囲が大きくなり、静粛性より制御応答性が優先される。
そして、出力値の下限と上限との間の範囲S3が短くなるにしたがって傾きが大きくなり、操作速度ΔStrの変化に対して出力値を大きく変化させることができる。一方、出力値の下限と上限との間の範囲S3が長くなるにしたがって傾きが小さくなり、操作速度ΔStrの変化に対して出力値をゆっくり変化させることができる。
なお、ステアリング29の操作速度ΔStrは、ステアリングセンサ29aから入力された実ステアリング角度θを示す信号を利用して(例えば微分するなどして)算出すればよい。
また、電動モータ33の出力値は、デューティ制御をする際の再オン電圧に対応した値である。再オン電圧が、高く設定されている場合には出力値は大きく、低く設定されている場合には出力値は小さい。再オン電圧は、電動モータ33に供給される電源電圧(例えばバッテリ電圧:12V)より小さい値に設定される電圧である。電動モータ33へ電圧を印加するオン状態から印加しないオフ状態に切り替えたときに発生する回生電圧が再オン電圧まで降下すると、再びオン状態に切り替えられるようになっている。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、ステップ302で決定した出力値となるように電動モータ33の駆動をデューティ制御する。電動モータ33のデューティ制御においては、オフ状態の継続時間であるオフ時間が予め設定された目標時間(例えば40ms)となるように、オン状態の継続時間であるオン時間をフィードバック制御するようになっている。例えば、オン時間が20msであり、その次のオフ時間が50msであれば、オフ時間が目標時間40msより長いので、オン時間を10msに短縮してオフ時間も短縮する。オフ時間が目標時間より短い場合は、逆にオン時間を長くする。
このように電動モータ33の駆動によってポンプ47が駆動されると、マスタシリンダ23から汲み出されたブレーキ液が増圧弁42,43を介してホイールシリンダWCrl,WCfrに供給されるとともに、液圧制御弁41を介してマスタシリンダ23に戻される。また、ポンプ57が駆動されると、マスタシリンダ23から汲み出されたブレーキ液が増圧弁52,53を介してホイールシリンダWCfl,WCrrに供給されるとともに、液圧制御弁51を介してマスタシリンダ23に戻される。
しかし、このままだと、ホイールシリンダWCrl,WCfr,WCfl,WCrrの液圧は上昇に時間がかかる。その液圧を早期に上昇させるために、ブレーキ制御ECU26は、制御予定輪を含む油経路の液圧制御弁を通電して開状態から差圧状態にしたり(ステップ310)、その制御予定輪のホイールシリンダ圧のみを加圧モードとするとともに非制御予定輪のホイールシリンダ圧を保持モードとしたり(ステップ312)する。
ステップ310においては、第1液圧制御手段にて初期液圧を付与する場合に、マスタシリンダ23とホイールシリンダWC**との間に介在する液圧制御弁41または51を閉じる側に制御する(第1電磁弁制御手段)。
ステップ312においては、第1液圧制御手段によって初期液圧を付与するホイールシリンダWC**(制御対象輪のホイールシリンダ)と液圧制御弁41または51との間に介在する増圧弁42,43,52,または53を開状態に制御することにより、当該ホイールシリンダWC**の液圧を加圧する加圧モードに制御する。また、第1液圧制御手段によって液圧を付与しないホイールシリンダWC**(非制御対象輪のホイールシリンダ)と液圧制御弁41または51との間に介在する増圧弁42,43,52,または53を閉状態に制御することにより、当該ホイールシリンダWC**の液圧を保持する保持モードに制御する(第2電磁弁制御手段)。
プリチャージ制御に介入開始時点においては、ポンプ47,57を駆動させた上で、制御予定輪のホイールシリンダを含む油経路の液圧制御弁を通電して開状態から差圧状態にしたり、その制御予定輪のホイールシリンダのみを加圧モードとするとともに非制御予定輪のホイールシリンダを保持モードとしたりしても、当該油経路の液込め例えばピストンとブレーキパッドBP**とのクリアランス、ブレーキパッドBP**とディスクロータDR**とのクリアランスのガタ詰めがまず行われる。そして、その液込めが終了して初めて油経路内の液圧ひいては制御予定輪のホイールシリンダ圧が上昇し始める。すなわち、液込めが終了すると、ホイールシリンダ圧が上昇し始めて制動力が発生するので、液込めが終了するまでの時間を適切に制御する必要がある。
したがって、ブレーキ制御ECU26は、ステップ306において、加速度センサ28から車両の横加速度を取得する(横加速度取得手段)。そして、ブレーキ制御ECU26は、ステップ308において、図7に示す第2マップを使用してその取得した横加速度に対応した時間Taを算出するとともに、プリチャージ制御における電動モータ33の駆動を開始した時点からタイマのカウントを開始し、そのタイマが時間Taを経過したか否かを判定することにより、液込めが完了したか否かを判定している。タイマが時間Taを越えない場合には、液込めは完了していないと判定し(ステップ308で「NO」)、タイマが時間Taを越えた場合には、液込めは完了していると判定する(ステップ308で「YES」)。時間Taは、ホイールシリンダ(W/C)圧が上昇し始める時間である。車両の横加速度Gyに対する時間Taの対応関係は、図7に示すように、第2マップで表されるものである。この対応関係は、例えば実験によって算出されるものである。車両Mの横加速度Gyが大きくなるにしたがって時間Taは大きくなるように設定されている。
この対応関係は、ホイールシリンダWC**に対応した上記ブレーキに発生するノックバック現象を考慮して決定されるのが望ましい。ノックバック現象とは、例えば車両の旋回時にディスクロータDR**が倒れキャリパのピストンを押して(戻して)ピストンとブレーキパッドBP**とのクリアランスが大きくなる現象である。そのクリアランスは、横加速度Gyが大きいほど大きくなる。クリアランスが大きいほど、プリチャージ制御における電動モータ33の駆動を開始した時点からホイールシリンダ(W/C)圧が上昇し始める時点までの時間が長いので、車両の横加速度Gyに対する時間Taの対応関係は、図7に示すようになる。
そして、プリチャージ制御に介入を開始した以降であって液込めが完了するまでは(ステップ308で「NO」)、ブレーキ制御ECU26は、制御予定輪のホイールシリンダ(例えば右前輪のホイールシリンダWCfr)を含む油経路(例えばLr)の液圧制御弁(例えば41)を通電して開状態から差圧状態にし(ステップ310)、その制御予定輪のホイールシリンダ(例えば右前輪のホイールシリンダWCfr)のみを加圧モードとするとともに非制御予定輪のホイールシリンダ(例えば左後輪のホイールシリンダWCrl)を保持モードとする(ステップ312)。その後、プログラムをステップ314に進めて一旦終了する。
液込めが完了すると(ステップ308で「YES」)、ブレーキ制御ECU26は、制御予定輪のホイールシリンダ(例えば右前輪のホイールシリンダWCfr)を含む油経路(例えばLr)の液圧制御弁(例えば41)を非通電して差圧状態から開状態にする(ステップ316)。その後、プログラムをステップ314に進めて一旦終了する。これにより、ホイールシリンダ圧が上昇し始めて制動力が発生する前に、液込めを確実に終了させることができる。
上述したステップ302,316が、初期液圧を付与した時の電動モータ33の出力を、旋回走行時における車両Mのステアリング29を操作する操作速度が遅くなるにしたがって小さくする電動モータ制御手段である。
上述した説明から明らかなように、本実施形態においては、第1液圧制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ210)が、車両Mの旋回走行時に目標ヨーレートと実際ヨーレートとの偏差が横滑り傾向の発生を示す第1の閾値を超えた場合に、電動モータ33の出力によりポンプ47,57を駆動させて車両Mの何れかのホイールシリンダWC**に車両Mの車輪W**に制動力が作用しない程度の初期液圧を付与し、第2液圧制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ212,214)が、偏差が横滑り傾向から横滑り状態に移行した場合を示す第2の閾値を超えた場合に、電動モータ33によりポンプ47,57を駆動させて車両Mの何れかのホイールシリンダWC**に、初期液圧より大きくかつ横滑り状態を示す値に対応した制動力が車輪W**に作用する液圧を付与する。そして、電動モータ制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ302,316)が、初期液圧を付与した時の電動モータ33の出力を、旋回走行時における車両Mのステアリング29を操作する操作速度が遅くなるにしたがって小さくする。
これにより、ステアリング29の操作速度が遅い場合、すなわち運転者が運転に余裕がある場合には、電動モータ33の駆動による作動音を十分抑制することができるので、運転者がその作動音に気付きにくく騒音として感じるのを抑制することができる。また、ステアリング29の操作速度が速い場合、すなわち運転者が運転に余裕がない場合には、電動モータ33の回転数を高く維持するが、運転者がその作動音に気付きにくくすることができ、しかもホイールシリンダWC**にブレーキ液を充填することができる。したがって、運転者による車両Mのステアリング29の操作状況に応じて電動モータ33を制御することにより、運転者が感じる作動音の適切な低減と液圧の適切な供給の両立を図ることができる。
また、第1液圧制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ210)にて初期液圧を付与する場合に、第1電磁弁制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ310)が、マスタシリンダ23とホイールシリンダWC**との間に介在する液圧制御弁41,51を閉じる側に制御する。これにより、ホイールシリンダ23へ繋がる油路Lr,Lfへの液込め効果を向上させることにより、第2液圧制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ212,214)がホイールシリンダWC**に自動的に液圧を付与する制御(例えばアンダステア抑制制御またはオーバステア抑制制御)を実行するにあたってその制御のレスポンスを向上させることができる。
また、第2電磁弁制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ312)が、第1液圧制御手段によって初期液圧を付与するホイールシリンダWC**(制御対象輪のホイールシリンダ)と液圧制御弁41または51との間に介在する増圧弁42,43,52,または53を開状態に制御することにより、当該ホイールシリンダWC**の液圧を加圧する加圧モードに制御する。また、第1液圧制御手段によって液圧を付与しないホイールシリンダWC**(非制御対象輪のホイールシリンダ)と液圧制御弁41または51との間に介在する増圧弁42,43,52,または53を閉状態に制御することにより、当該ホイールシリンダWC**の液圧を保持する保持モードに制御する。これにより、第1液圧制御手段によって液圧を付与しないホイールシリンダに液圧を供給するのを規制するので、第1液圧制御手段によって液圧を付与するホイールシリンダWC**へ繋がる油路Lr,Lfへの液込め効果をより向上させることができる。
また、第1電磁弁制御手段(ステップ310)は、予め決定されている、横加速度と当該横加速度に対応するホイールシリンダWC**の液圧が上昇し始める時間との対応関係に基づいて取得した、取得された横加速度に応じた時間が経過するまで、液圧制御弁41,51に対する閉じる側の制御を継続する(ステップ308,310)。これにより、車両に作用する横加速度に応じて適切な、ホイールシリンダへ繋がる油路Lr,Lfへの液込め効果を得ることができる。
また、第2電磁弁制御手段(ステップ312)は、予め決定されている、横加速度と当該横加速度に対応するホイールシリンダWC**の液圧が上昇し始める時間との対応関係に基づいて取得した、取得された横加速度に応じた時間が経過するまで、増圧弁42,43,52,または53に対する加圧モードおよび保持モードの制御を継続する(ステップ308,312)。これにより、車両Mに作用する横加速度に応じてより適切な、ホイールシリンダWC**へ繋がる油路Lr,Lfへの液込め効果を得ることができる。
また、第2液圧制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ212,214)が、車両Mの旋回走行時に目標ヨーレートと実際ヨーレートとの偏差が横滑り傾向から横滑り状態を示す第2の閾値を超えた場合に、電動モータ33によりポンプ47,57を駆動させて車両Mの何れかのホイールシリンダWC**に、初期液圧より大きくかつ横滑り状態を示す値に対応した制動力が車輪W**に作用する制御液圧を付与する。これにより、ホイールシリンダWC**に制御液圧を付与する前の初期液圧を付与する段階から電動モータ33の出力を適切に制御することができる。
また、上記第1液圧制御手段および第2液圧制御手段は、車両Mの運転者のブレーキペダル21に対する操作とは独立して自動的に初期液圧および制御液圧を付与するので、車両Mの何れかのホイールシリンダWC**に自動的に液圧を付与する制御、例えば横滑り防止制御時において、初期液圧を付与した時の電動モータ33の出力を、旋回走行時における車両のステアリング29を操作する操作速度が遅くなるにしたがって小さくすることができる。
また、上記対応関係は、ホイールシリンダWC**に対応したブレーキに発生するノックバック現象を考慮して決定されているので、ノックバック現象が発生しても、第2液圧制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ118)が自動的に液圧を付与する制御(例えば車両安定化制御)を実行するにあたってその現象の影響を確実に回避することができる。
なお、上述した実施形態の車両安定化制御の実施においては、車両の挙動を示す値としてヨーレート偏差Δωを使用するようにしたが、その他の車両の挙動を示す値を使用するようにしてもよい。例えば、ステアリング操作(操舵)より車両Mのヨーレートが増大する場合に、車両安定化制御を実施するようにしてもよい。この場合、ステアリング操作の増大量に対するヨーレートの増大量の比率を車両の挙動を示す値として使用し、その比率を第1および第2閾値と比較すればよい。また、車両Mの横加速度が所定値以上でありかつ横加速度より車両Mのヨーレートが増大する場合に、車両安定化制御を実施するようにしてもよい。この場合、横加速度の増大量に対するヨーレートの増大量の比率を車両の挙動を示す値として使用し、その比率を第1および第2閾値と比較すればよい。さらに、急操舵でありかつ車両Mにある程度横加速度が発生する場合に、車両安定化制御を実施するようにしてもよい。この場合、操舵速度と横加速度が所定の関係を満足することを条件に、ヨーレート偏差を第1および第2閾値と比較すればよい。所定の関係は、操舵速度と横加速度との関係を示すマップにおいて所定の領域内にあることである。
また、上述した電動モータの出力値の決定においては、図6に示す第1マップを使用した。すなわち出力値の下限と上限との間において、操作速度ΔStrと出力値とがリニアな関係にあるマップを使用した。これに代えて、図8に示す第1マップを使用するようにしてもよい。このマップにおいては、モータ出力値と操作速度ΔStrとの関係を示し、操作速度ΔStrが大きくなるほど出力値が大きくなることは図6のマップと同じであるが、出力値の下限と上限との間においては、操作速度ΔStrと出力値とはリニアな関係でなく、操作速度ΔStrが小さいときは出力値の変化率は小さいが操作速度ΔStrが大きくなるほど出力値変化率が大きくなる関係にある。すなわち、図6に示す直線(図7にて破線で示す。)と比較して下方に凸な曲線で示す関係となる。これによれば、図6に示すマップを使用する場合と比較して、操作速度ΔStrが小さい場合にモータ出力値の変化が小さくなり、大きい場合に出力値の変化が大きくなるので、制御応答性に応じた適切な液圧供給より運転者が感じる電動モータ作動音の適切な低減を優先することができる。
さらに、上述した電動モータの出力値の決定においては、図9に示す第1マップを使用するようにしてもよい。このマップにおいては、モータ出力値と操作速度ΔStrとの関係を示し、操作速度ΔStrが大きくなるほど出力値が大きくなることは図6のマップと同じであるが、出力値の下限と上限との間においては、操作速度ΔStrと出力値とはリニアな関係でなく、操作速度ΔStrが小さいときは出力値の変化率は大きいが操作速度ΔStrが大きくなるほど出力値変化率が小さくなる関係にある。すなわち、図6に示す直線(図8にて破線で示す。)と比較して上方に凸な曲線で示す関係となる。これによれば、図6に示すマップを使用する場合と比較して、操作速度ΔStrが小さい場合にモータ出力値の変化が大きくなり、大きい場合に出力値の変化が小さくなるので、運転者が感じる電動モータ作動音の適切な低減より制御応答性に応じた適切な液圧供給を優先することができる。
なお、上述した図6,8,9に示すマップはブレーキ制御ECU26に記憶されるものである。いずれのマップを使用するかは、車種毎に予め設定されており、それに基づいてブレーキ制御ECU26に予め記憶されている。例えば、遮音性の高い車種に適用する場合は、制御応答性を優先させればよいので図9に示すマップを予め記憶させればよい。また、遮音性の低い車種に適用する場合は、制御応答性を満足させつつ静粛性を優先させたいので図8に示すマップを予め記憶させればよい。
さらに、上記実施の形態において、路面摩擦係数μをさらに考慮した場合について説明する。路面摩擦係数μが大きい場合には、グリップ力が大きいため車両Mがスピンなどするとその挙動は大きく、その大きい挙動を高応答性にて抑制するためホイールシリンダWC**へ大きな制御量(すなわち電動モータ33の大きな出力)が必要となる。さらに、車両挙動が大きい場合には、運転者は運転に集中せざるを得ないため運転者の余裕は少なくなり、運転者は大きな出力時の電動モータ33の大きな作動音に気付きにくく騒音として感じにくい。一方、路面摩擦係数μが小さい場合には、グリップ力が小さいため車両Mがスピンなどしてもその挙動は小さく、ホイールシリンダWC**へ大きな制御量(すなわち電動モータ33の大きな出力)を供給しなくても、その車両挙動を高応答性にて抑制することができる。さらに、車両挙動が小さい場合には、運転者は比較的余裕があるため、運転者は大きな出力時の電動モータ33の大きな作動音に気付きやすく騒音として感じやすい。
これに対し、電動モータ制御手段(ブレーキ制御ECU26)は、初期液圧を付与した時の電動モータ33の出力を車両Mが走行している路面の摩擦係数も考慮して決定し、該路面摩擦係数μが高くなるにしたがって当該電動モータ33の出力を大きくする。具体的には、上記ステップ302の処理に代えて、図10に示す電動モータ出力値決定ルーチンが実行される。ブレーキ制御ECU26は、ステップ400で本ルーチンが開始される度に、加速度センサ28から横加速度Gyを取得する(ステップ402)。次に、ブレーキ制御ECU26は、その取得した横加速度Gyと予め記憶されている図11に示すマップから路面摩擦係数μを算出する(ステップ404)。なお、図11に示すマップは、車両Mに作用する横加速度Gyと路面摩擦係数μとの関係を示すものであり、その車両Mに固有のものであり、実験、シミュレータなどで得ることができる。
そして、ブレーキ制御ECU26は、その算出した路面摩擦係数μに応じた、操作速度ΔStrとモータ出力値の関係(関数)を、予め記憶されている図12に示すマップのなかから選択し、その選択した関数を使用してステアリング29の操作速度ΔStrに応じたモータ出力値を算出する(ステップ406)
また、図12に示すマップは、路面摩擦係数μ毎の操作速度ΔStrとモータ出力値との関係を示す関数を複数有している。図12では高μの一例を破線で、低μの一例を一点破線で示し、一般的な通常の摩擦係数μを実線で示している。図12では、出力値の下限は高μ低μともに同一であり、上限は高μの方が低μより大きい値に設定され、下限と上限の間も高μの方が低μより大きい値に設定されている。図12では、路面摩擦係数μが高くなるにしたがって電動モータ33の出力値が大きくなるようになっている。なお、図12において、路面摩擦係数に対するモータ出力値の大小関係は、基本的には操作速度ΔStrが同一である場合が前提となる。図13においても同様である。
これにより、路面摩擦係数μが大きい場合には、制御応答性を電動モータ33の作動音の静粛性より優先し、路面摩擦係数μが小さい場合には、電動モータ33の作動音の静粛性を制御応答性より優先することができる。したがって、運転者による車両のステアリングの操作状況に加えて路面摩擦係数に応じて電動モータ33を制御することにより、運転者が感じる作動音の適切な低減と液圧の適切な供給の両立を図ることができる。
また、路面摩擦係数μが大きい場合には、制御応答性を電動モータ33の作動音の静粛性より優先し、大きい制御液圧を供給可能となるので、路面摩擦係数μが小さい場合と比較して大きい場合に発生しやすいノックバックの発生を抑制することができる。
なお、前述した図12に示すマップに代えて、図13に示すマップを使用するようにしてもよい。図13に示すマップは、図12と同様に路面摩擦係数μが高くなるにしたがって電動モータ33の出力値が大きくなるようになっているが、下限は高μの方が低μより大きい値に設定される点が異なる。上限は高μの方が低μより大きい値に設定され、下限と上限の間も高μの方が低μより大きい値に設定されている点は図12と同様である。図13でも高μの一例を破線で、低μの一例を一点破線で示し、一般的な通常の摩擦係数μを実線で示している。
図13に示すマップは、路面摩擦係数μの変動に伴ってモータ出力値の下限が変動するため、モータ作動の最低音量が変動するので、遮音性の低い車両(車種)には適さないが、遮音性の高い車両(車種)では最低音量が変動しても制御応答性を向上させることができる。したがって、図13のマップは、遮音性に高い車種向きであり、ブレーキ制御ECU26に予め記憶すればよい。一方、図12に示すマップは、路面摩擦係数μの変動があってもモータ出力値の下限が変動しないため、モータ作動の最低音量が変動しないので、遮音性の低い車両(車種)に採用して静粛性と制御応答性を両立させることができる。したがって、図12のマップは、遮音性の高くない車種向きであり、ブレーキ制御ECU26に予め記憶すればよい。
上記実施形態は、FF車にX配管しているが、FR車に前後配管してもよい。上記実施形態は、倍力装置としてバキュームブースタを用いても、ポンプにより発生した液圧をアキュムレータに蓄圧し、この液圧を利用して倍力する倍力装置を用いてもよい。また、本発明を、ブレーキ・バイ・ワイヤ式の液圧ブレーキ装置に適用してもよい。
上記実施形態においては、ポンプを駆動させて車両の何れかのホイールシリンダに自動的に液圧を付与する制御として、横滑り防止制御を例に挙げて説明したが、他の自動加圧制御としてABS制御や、トラクションコントロール、坂道発進補助制御などにも本発明を適用することができる。
10…駆動系、11…エンジン、12…自動変速機、13…ディファレンシャル、15…アクセルペダル、15a…アクセル開度センサ、16…エンジン制御ECU、20…制動系;液圧ブレーキ装置、21…ブレーキペダル、21a…ストップスイッチ、22…負圧式ブースタ、23…マスタシリンダ、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、26…ブレーキ制御ECU(第2液圧制御手段(ステップ118,212,214)、第1液圧制御手段(ステップ210)、電動モータ制御手段(ステップ302,304)、第1電磁弁制御手段(ステップ310)、第2電磁弁制御手段(ステップ312)、横加速度取得手段(ステップ306))、27…ヨーレートセンサ、28…加速度センサ、29…ステアリング、29a…ステアリングセンサ、33…電動モータ、41,51……液圧制御弁、42,43,52,53…増圧弁、45,46,55,56…減圧弁、44,54…調圧リザーバ、47,57…ポンプ、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ、M…車両。