以下、本発明に係る車両の電動モータ出力制御装置を適用した車両の一実施形態を図面を参照して説明する。図1はその車両の構成を示す概要図である。この車両Mは、前輪駆動車であり、車体前部に搭載した駆動源であるエンジン11の駆動力が前輪に伝達される形式のものである。なお車両Mは前輪駆動車でなく、他の駆動方式の車両例えば後輪駆動車、四輪駆動車でもよいし、電動モータを駆動源とする車両でもよい。
車両Mは、車両Mを駆動させる駆動系10と車両Mを制動させる制動系20を備えている。駆動系10は、エンジン11、変速機12、ディファレンシャル13、左右駆動軸14a,14b、アクセルペダル15およびエンジン制御ECU16を備えており、それらの制御は本実施形態では詳述しない。
制動系20は、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置から構成されている。この液圧ブレーキ装置20は、倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力(すなわちブレーキペダル21の操作状態)に応じた基礎液圧である液圧(油圧)のブレーキ液(油)を生成して各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24と、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrとの間に設けられてブレーキペダル21の踏込状態に関係なく制御液圧を形成して制御対象輪に付与可能であるブレーキアクチュエータ25と、ブレーキアクチュエータ25を制御するブレーキ制御ECU26(車両の制動制御装置である)と、を備えている。ブレーキペダル21がブレーキ操作部材である。なお、ブレーキ制御ECU26は、エンジン制御ECU16と互いに通信可能に接続されている。
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに基礎液圧または制御液圧が供給されると、各ピストンが摩擦部材である一対のブレーキパッドBPfl,BPfr,BPrl,BPrrを押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転する回転部材であるディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。なお、本実施形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。
次に、図2を参照してブレーキアクチュエータ25の構成を詳述する。このブレーキアクチュエータ25は、一般的によく知られているものであり、液圧制御弁41,51、ABS制御弁を構成する電磁弁である増圧弁42,43,52,53および減圧弁45,46,55,56、調圧リザーバ44,54、ポンプ47,57、電動モータ33などから構成されている。
本実施形態の液圧ブレーキ装置20のブレーキ配管系はX配管方式にて構成されており、ブレーキアクチュエータ25は図2に示すようにマスタシリンダ23の第1および第2液圧室23a、23bに接続されている第1および第2油経路LrおよびLfを備えている。第1油経路Lrは、第1液圧室23aと左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWCrl,WCfrとをそれぞれ連通するものであり、第2油経路Lfは、第2液圧室23bと左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通するものである。
ブレーキアクチュエータ25の第1油経路Lrには、差圧制御弁から構成される液圧制御弁41が備えられている。この液圧制御弁41は、ブレーキ制御ECU26により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁41は非通電して通常連通状態とされているが、通電して差圧状態(閉じる側)にすることによりホイールシリンダWCrl,WCfr側の油経路Lr2をマスタシリンダ23側の油経路Lr1よりも所定の制御差圧分高い圧力に保持することができる。この制御差圧はブレーキ制御ECU26により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
第1油経路Lr2は2つに分岐しており、一方にはABS制御の加圧モード時においてホイールシリンダWCrlへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁42が備えられ、他方にはABS制御の加圧モード時においてホイールシリンダWCfrへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁43が備えられている。これら増圧弁42,43は、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。増圧弁42,43は、非通電にて連通状態にあり、通電して遮断状態となる常開型開閉電磁弁である。そして、これら増圧弁42,43が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧、または/およびポンプ47の駆動と液圧制御弁41の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダWCrl,WCfrに加えることができる。また、増圧弁42,43は減圧弁45,46およびポンプ47とともにABS制御を実行することができる。
なお、ABS制御が実行されていない通常ブレーキ(ABS非作動時)の際には、これら増圧弁42,43は常時連通状態に制御されている。
また、増圧弁42,43と各ホイールシリンダWCrl,WCfrとの間における油経路Lr2は、油経路Lr3を介して調圧リザーバ44に連通されている。油経路Lr3には、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる減圧弁45,46がそれぞれ配設されている。減圧弁45,46は、非通電にて遮断状態にあり、通電して連通状態となる常閉型開閉電磁弁である。これらの減圧弁45,46は通常ブレーキ状態では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ44へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWCrl,WCfrにおけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
ポンプ47は、ブレーキ制御ECU26の指令により電動モータ33によって駆動されるものである。ポンプ47は、マスタシリンダ23とホイールシリンダWCrl,WCfrとの間に介在する増圧弁42,43のマスタシリンダ23の側にブレーキ液を吐出するものである。
また、ポンプ47は、横滑り防止制御、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの、ホイールシリンダWCfl〜WCrrの何れかに自動的に液圧を付与する制御を実行する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁41に制御差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lr1,Lr5および調圧リザーバ44を介して吸い込んで油経路Lr4,Lr2および連通状態である増圧弁42,43を介して各ホイールシリンダWCrl,WCfrに吐出して制御液圧を付与している。
また、油経路Lr1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキ制御ECU26に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lf1に設けるようにしてもよい。
さらに、ブレーキアクチュエータ25の第2油経路Lfは第1油経路Lrと同様に油経路Lf1〜Lf5から構成されている。
このように、ブレーキアクチュエータ25は、運転者のブレーキペダル21の操作状態(踏込状態)に応じた液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与し、運転者のブレーキペダル21の操作状態(踏込状態)に関係なくホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrへの液圧を制御することが可能でもある。
また、ブレーキ制御ECU26は、図1に示すように、車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srr、ヨーレートセンサ27、加速度センサ28およびステアリングセンサ29aと接続されている。
車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの付近にそれぞれ設けられており、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転速度(車輪速度)に応じた周波数のパルス信号をブレーキ制御ECU26に出力している。ヨーレートセンサ27は、車両Mのヨーレートを検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。加速度センサ28は、車両Mの前後方向や左右方向の加速度を検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。ステアリングセンサ29aは、ステアリング29の中立位置からの回転角度を検出し、実ステアリング角度θ(実舵角対応値)を示す信号をブレーキ制御ECU26に出力するようになっている。
また、ブレーキ制御ECU26は、図1に示すように、ブレーキペダル21のオン・オフ状態を検出するストップスイッチ21aに接続されている。
ブレーキ制御ECU26は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図3〜図6のフローチャートに対応したプログラムを実行して、車両の安定化制御、例えば、横滑り防止制御を実施する。
次に、上記のように構成した車両の電動モータ出力制御装置による制御のうち横滑り防止制御について図3から図6のフローチャートを参照して説明する。ブレーキ制御ECU26は、図示しない車両Mのイグニションスイッチがオン状態になると、図3のフローチャートに対応したプログラムを実行する。ブレーキ制御ECU26が起動されると、ブレーキ制御ECU26は、メモリクリア、フラグリセット等の初期化処理を行い(ステップ102)、以降の処理(ステップ104からステップ118)を所定時間T0(例えば5msec)毎に繰り返し実行する。
ブレーキ制御ECU26は、上記各車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrからの車輪速度信号に基づき、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度VW**を演算し(ステップ104)、この車輪速度の微分値である各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪加速度dVW**を演算する(ステップ106)。なお、**は、各輪に対応する添え字であって、fl,fr,rl,rrのいずれかである。以下の説明及び図面において同じである。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ104で求めた各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度VW**に基づき、例えばそれらのうち最大速度VWmaxに基づき、車両速度VBを演算する(ステップ108)。なお、左右前輪Wfl,Wfrまたは左右後輪Wrl,Wrrの各車輪速を平均した値を車両速度VBとして算出するようにしてもよい。そして、ブレーキ制御ECU26は、ステップ108で演算した車両速度VBと、各車輪Wfl〜Wrrの車輪速度VWfl〜VWrrとに基づき、各車輪Wfl〜Wrrのスリップ量ΔVW**を演算する(ステップ110)。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ112において、ヨーレートセンサ27からのヨーレートの方向及び大きさを表す信号を車両Mに発生する実際のヨーレートである実ヨーレートRωとして取得する。なお、実ヨーレートRωを左右前輪Wfl,Wfr(または左右後輪Wrl,Wrr)の車輪速度に基づいて算出するようにしてもよい。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ114において、目標ヨーレートTωを算出する。具体的には、ブレーキ制御ECU26は、まず、ステアリングセンサ29aから入力された実ステアリング角度θを示す信号から車両Mのステアリング角度θを算出する。そして、その算出したステアリング角度θから操舵輪の切れ角ξ(車両の操舵角)を下記数1により導出する。
(数1)
操舵輪の切れ角ξ=C×ステアリング角度θ
さらに、ブレーキ制御ECU26は、下記数2によって車両速度VB、車両の操舵角ξおよびスタビリティファクタAに基づいて目標ヨーレートTωを算出する。
なお、Cはステアリング角度θに対する操舵輪の切れ角ξの比例定数(例えばステアリングギヤ比)である。また、操舵輪の切れ角ξとは、車両Mが直進する方向に対する操舵輪の操舵方向の角度のことをいう。また、Lは車両Mのホイールベースである。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ116において、先に取得された実ヨーレートRωとステップ114にて算出された目標ヨーレートTωとを減算してヨーレート偏差Δω(Δω=Tω−Rω)を算出する。
そして、ブレーキ制御ECU26は、ステップ118において、予め設定された閾値Tus,Tosとステップ116にて算出されたヨーレート偏差Δωを比較して、その比較結果に基づいて必要に応じて車両の安定化制御を実施する。ヨーレート偏差Δωが、車両の挙動を示す値の一例である。
すなわち、ブレーキ制御ECU26は、図4に示す車両安定化制御ルーチンを実行し、ヨーレート偏差Δωが閾値Tos以上であり閾値Tus以下である場合には、車両Mは安定した状態にあるので、ステップ202,204にてそれぞれ「NO」と判定してプログラムをステップ206に進めて、車両Mの安定化制御を実施しない。その後、プログラムをステップ212に進めて一旦終了する。
また、ヨーレート偏差Δωが閾値Tusより大きい場合には、車両Mはアンダステア状態にあり車両Mは安定した状態にないので、ブレーキ制御ECU26は、ステップ202にて「YES」と判定してプログラムをステップ208に進めて、車両Mの安定化制御すなわちアンダステア抑制制御を実施する。車両のアンダステア状態やオーバステア状態が所定の車両挙動の一例である。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ208において、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を個別に制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、所定の車輪に制動力を付与して車両Mに内向きモーメントを発生させる。ステップ208は、ポンプ47,57を駆動させて車両の何れかのホイールシリンダWC**に自動的に液圧を付与する制御(車両安定化制御)を実行する液圧付与制御手段である。
例えば、左旋回中に前輪が横滑りしそうな場合、これを抑制するために左右前輪Wfr,Wflおよび右後輪Wrrにのみ制動力を付与する制御が実施される。このとき、電動モータ33が通電されて、ポンプ47,57が作動するように制御される。液圧制御弁41,51は励磁されて差圧状態とされる。右後輪Wrrの車輪には液圧を付与しないようにその車輪に対応した増圧弁53が励磁されるとともに減圧弁56が非励磁されて閉状態とされ、左右前輪Wfr,Wflおよび右後輪Wrrに対応した増圧弁43,52,42および減圧弁46,55,45が非励磁されてそれぞれ開状態・閉状態とされる。
また、ブレーキ制御ECU26は、エンジン制御ECU16に指令を送り、スロットルバルブ11bの開度を制御し出力トルクを制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、スロットルを閉じ出力トルクを抑える。その後、プログラムをステップ212に進めて一旦終了する。
また、ヨーレート偏差Δωが閾値Tosより小さい場合には、車両Mはオーバステア状態にあり車両Mは安定した状態にないので、ブレーキ制御ECU26は、ステップ202,204にて「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ210に進めて、車両Mの安定化制御すなわちオーバステア抑制制御を実施する。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ210において、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を個別に制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、外側の車輪に制動力を付与して車両Mに外向きモーメントを発生させる。ステップ210は、ポンプ47,57を駆動させて車両の何れかのホイールシリンダWC**に自動的に液圧を付与する制御(車両安定化制御)を実行する液圧付与制御手段である。
例えば、左旋回中に後輪が横滑りしそうな場合、これを抑制するために右前輪Wfrにのみ制動力を付与する制御が実施される。このとき、電動モータ33が通電されて、ポンプ47,57が作動するように制御される。液圧制御弁41は励磁されて差圧状態とされる。右前輪Wfr以外の車輪には液圧を付与しないようにそれらの車輪に対応した増圧弁42,52,53が励磁されるとともに減圧弁45,55,56が非励磁されて閉状態とされ、右前輪Wfrに対応した増圧弁43および減圧弁46が非励磁されてそれぞれ開状態・閉状態とされる。その後、プログラムをステップ212に進めて一旦終了する。
ここで、上述したステップ208,210で実施される、ポンプ47,57を駆動する電動モータ33および増圧弁42,43,52,53の駆動制御について図5を参照して詳述する。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ302において、車両の状態に基づいて目標増圧レートΔPtを算出して設定する。例えば、車両がアンダステアやオーバステアである場合、ブレーキ制御ECU26は、アンダステア抑制制御やオーバステア抑制制御を実行する際に、車両速度が高い場合には多量のブレーキ液が必要であるため目標増圧レートΔPtを高く設定し、車両速度が低い場合には多量のブレーキ液は必要でないため目標増圧レートΔPtを低く設定する。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、電動モータ33の出力値である回転数(モータ出力値またはモータ回転数)を最大にした場合における目標増圧レートΔPtに対応した弁デューティ比aを算出する。弁デューティ比aは、増圧弁42(または43,52,53)をPWM制御する場合におけるオン時間/(オン時間+オフ時間)で算出される値である。弁デューティ比aは0から100%の範囲で設定される値である。
例えば、ブレーキ制御ECU26は、図7に示す、モータ回転数毎の増圧レート−弁デューティ比特性を示すマップを用いて弁デューティ比aを導出する。このマップは、モータ回転数が最大回転数(最大出力値)Nmaxである場合の増圧レートΔPと弁デューティ比との関係を示す特性f(Nmax)、およびモータ回転数が最小回転数(最小出力値)Nminである場合の増圧レートΔPと弁デューティ比との関係を示す特性f(Nmin)、ならびに最大回転数と最小回転数との間であって所定回転数ごとのモータ回転数(モータ出力値)である場合の増圧レートΔPと弁デューティ比との関係を示す複数の特性f(Nx)を有している。それら特性f(Nx)のなかには、後述する特性f(N1)、特性f(N2)、特性f(Nref)が含まれている。
各特性においては、弁デューティ比が大きくなるほど増圧弁42(または43,52,53)の単位時間あたりのブレーキ液の流量が多くなるので、弁デューティ比が大きくなるほどホイールシリンダWC**に対する増圧レートΔPが大きくなる関係である。また、モータ回転数が高くなるほどポンプ47,57の吐出量が多くなるので、弁デューティ比が同じ場合にはモータ回転数が高くなるほど増圧レートΔPが大きくなる。なお、モータ回転数が最大回転数である場合の弁デューティ比が100%のときの増圧レートΔPはΔP1であり、弁デューティ比が0%のときの増圧レートΔPは0である。その他の特性においても、弁デューティ比が0%のときの増圧レートΔPは0である。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、特性f(Nmax)を使用してステップ302で算出した目標増圧レートΔPtに対応した弁デューティ比aを算出する。
次に、ブレーキ制御ECU26は、ステップ306において、車両の状態や車両を取り巻く状況に基づいてモータ出力値(モータ回転数)を決定する。特に、所定条件が成立する場合には、モータ回転数を低下させる。所定条件は、例えば、車両を取り巻く状況が所定の関係を満足する場合(例えば走行路面の摩擦係数が所定値より小さい場合)などである。
具体的には、ブレーキ制御ECU26は、図6に示すフローチャート(モータ出力値決定サブルーチン)に沿ってモータ出力値を決定する。ブレーキ制御ECU26は、ステップ402において、路面摩擦係数μを算出する。具体的には、ブレーキ制御ECU26は、上記ステップ108で算出した車両速度を微分して前後加速度を算出し、その前後加速度と加速度センサによって検出された横加速度に基づいて路面摩擦係数μを近似的に(前後加速度2 +横加速度2)1/2 として算出する。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ404において、上限車速閾値A1および電動モータ33の下限出力値B2を路面摩擦係数μに基づいて決定する。すなわち、ブレーキ制御ECU26は、図8(a)および(b)に示すマップを使用して、路面摩擦係数μから上限車速閾値A1および下限出力値B2を算出する。図8(a)に示すマップは、上限車速閾値A1と路面摩擦係数μとの相関関係を示している。路面摩擦係数μが小さくなるにしたがって上限車速閾値A1が大きくなるように設定されている。図8(b)に示すマップは、下限出力値B2と路面摩擦係数μとの相関関係を示している。路面摩擦係数μが小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さくなるように設定されている。
そして、ブレーキ制御ECU26は、ステップ406において、先に決定された上限車速閾値A1および下限出力値B2から、図9に示す車両速度とモータ出力値との相関関係を示すマップを変更する。図9に示すマップは、車両速度とモータ出力値との相関関係を示すものである。車両速度が上限車速閾値A1以上である場合、モータ出力値は一定値である上限出力値B1に設定される。車両速度が下限車速閾値A2以下である場合、モータ出力値は上限出力値B1より小さい一定値である下限出力値B2に設定される。車両速度が上限車速閾値A1未満であり下限車速閾値A2より大きい場合、車両速度が小さくになるにしたがってモータ出力値は小さくなるように設定される。
ブレーキ制御ECU26は、このマップの上限車速閾値A1および下限出力値B2を、先にステップ404で決定された値に変更する。これにより、路面摩擦係数μが小さくなるにしたがって上限車速閾値A1が大きく設定されるので、路面摩擦係数μが小さい路面を車両が走行する場合、車両速度が比較的早くても電動モータ33の出力を低減することができる。また、路面摩擦係数μが小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さく設定されるので、その出力を十分低く抑制することができ、電動モータ33等の作動音が気になりやすい速度が比較的遅い場合でも十分な静粛効果を得ることができる。
そして、ブレーキ制御ECU26は、ステップ408において、車両速度を取得する。ブレーキ制御ECU26は、ステップ410において、変更済みの車両速度とモータ出力値との相関関係を示すマップを使用して、取得した車両速度からモータ出力値を算出する。
すなわち、取得した車両速度が所定の閾値(上限車速閾値A1)より大きい場合には、算出されたモータ出力値は低下された値でないが、取得した車両速度が所定の閾値(上限車速閾値A1)以下である場合には、算出されたモータ出力値は低下された値である。このように算出されたモータ出力値に応じて、後述する電動モータ33の制御が実行される。すなわち、取得した車両速度が所定の閾値(上限車速閾値A1)より大きい場合には、電動モータ33の出力が低下されないが、取得した車両速度が所定の閾値(上限車速閾値A1)以下である場合には、電動モータ33の出力が低下される。
そして、ブレーキ制御ECU26は、プログラムをステップ314に進めて一旦終了する。
なお、プログラムの開始時には、モータ回転数は最大回転数Nmaxに設定されている。また、モータ回転数を変更する必要がない場合には、前回決定した値(または初期時に設定された値)を維持する。
次に、ブレーキ制御ECU26は、ステップ308において、ステップ306で決定されたモータ回転数が前回決定されたモータ回転数より低下したか否かを判定する。なお、今回決定された値が前回の値より所定値以上低下した場合、モータ回転数が低下したと判定するようにしてもよい。
ブレーキ制御ECU26は、決定されたモータ回転数が低下していないと判定した場合、プログラムをステップ314に進めて、電動モータ33をステップ306で決定したモータ回転数(例えば、制御開始時は最大回転数Nmax)となるように制御するとともに、液圧付与対象の増圧弁をステップ304で算出した弁デューティ比aとなるように制御する。
具体的には、ブレーキ制御ECU26は、ステップ314において、ステップ306で算出したモータ回転数となるように電動モータ33の駆動をPWM制御する。電動モータ33のモータ回転数は、PWM制御をする際の再オン電圧に対応した値である。再オン電圧が、高く設定されている場合にはモータ回転数は大きく、低く設定されている場合にはモータ回転数は小さい。再オン電圧は、電動モータ33に供給される電源電圧(例えばバッテリ電圧:12V)より小さい値に設定される電圧である。電動モータ33へ電圧を印加するオン状態から印加しないオフ状態に切り替えたときに発生する回生電圧が再オン電圧まで降下すると、再びオン状態に切り替えられるようになっている。
すなわち、電動モータ33のPWM制御においては、オフ状態の継続時間であるオフ時間が予め設定された目標時間(例えば40ms)となるように、オン状態の継続時間であるオン時間をフィードバック制御するようになっている。例えば、オン時間が20msであり、その次のオフ時間が50msであれば、オフ時間が目標時間40msより長いので、オン時間を10msに短縮してオフ時間も短縮する。オフ時間が目標時間より短い場合は、逆にオン時間を長くする。
また、例えば、左旋回中において後輪の横滑りを抑制するために右前輪Wfrにのみ制動力を付与する制御が実行される場合を例に挙げて、増圧弁の制御について説明する。このとき、液圧制御弁41は励磁されて差圧状態とされる。右前輪Wfr以外の車輪には液圧を付与しないようにそれらの車輪に対応した増圧弁42,52,53が励磁されるとともに減圧弁45,55,56が非励磁されて閉状態とされる。そして、右前輪Wfrに対応した増圧弁43が上記算出された弁デューティ比aにてPWM制御されるとともに、右前輪Wfrに対応した減圧弁46が非励磁されて閉状態とされる。
そして、ブレーキ制御ECU26は、プログラムをステップ316に進めて一旦終了する。
一方、ブレーキ制御ECU26は、決定されたモータ回転数が低下していると判定した場合、ステップ310以降において、さらに弁デューティ比が変更可能である場合とそうでない場合とに分けて、それぞれの場合について弁デューティ比およびモータ回転数(モータ出力値)を算出する。
弁デューティ比が変更できる場合について図10を参照して説明する。ブレーキ制御ECU26は、ステップ310において、弁デューティ比が変更可能であるか否かを判定する。ここで、先にステップ306で決定されたモータ回転数がN1であるとする。
具体的には、ブレーキ制御ECU26は、先にステップ306で決定されたモータ回転数N1に対応した特性f(N1)を図7のマップを用いて選択する。このとき、図7の各特性のなかで一致するものがあれば、その一致した特性を特性f(N1)として選択し、一致するものがなければ、その特性に近い特性を用いて導出してもよい。また、目標増圧レートΔPtと100%の弁デューティ比とで規定される増圧レート−弁デューティ比特性である参照特性f(Nref)を図7のマップを用いて選択する。この参照特性を示すモータ回転数が参照回転数Nrefである。モータ回転数N1は参照回転数Nrefより大きい値である。
そして、ブレーキ制御ECU26は、特性f(N1)の傾きと、参照特性f(Nref)の傾きとを比較する。その結果、ブレーキ制御ECU26は、ステップ306で決定されたモータ回転数に対応した特性f(N1)の傾きが参照特性f(Nref)の傾きより大きいので、弁デューティ比が変更可能であると判定する。特性f(N1)と目標増圧レートΔPtから、目標増圧レートΔPtに対応した弁デューティ比b1を算出できるからである。
したがって、ブレーキ制御ECU26は、ステップ310で「YES」と判定し、プログラムをステップ312に進めて、新たな弁デューティ比を算出する。具体的には、ブレーキ制御ECU26は、先にステップ306で決定されたモータ回転数(N1)における増圧レート−弁デューティ比特性f(N1)と、目標増圧レートΔPtとから、決定されたモータ回転数(N1)における目標増圧レートΔPtに対応した弁デューティ比(例えばb1)を算出する。
この算出された弁デューティ比b1は、モータ回転数が最大回転数Nmaxにおける特性f(Nmax)と目標増圧レートΔPtとから決定される弁デューティ比aより大きい値である。すなわち、モータ回転数が小さい値になった場合に、弁デューティ比を大きくして増圧弁の流量を増大させることによって、目標増圧レートΔPtをモータ回転数が低下する前の値に維持する。
また、上述した方法においては、モータ回転数の低下分が大きいほど算出される弁デューティ比が大きい値となるように、モータ回転数の低下度合いに応じて、増圧弁から流出される単位時間あたりのブレーキ液の流量を増大させることが好ましい。
そして、ブレーキ制御ECU26は、プログラムをステップ314に進めて、電動モータ33をステップ306で決定したモータ回転数(N1)となるように制御するとともに、液圧付与対象の増圧弁をステップ312で算出した弁デューティ比b1となるように制御する。
具体的には、ブレーキ制御ECU26は、ステップ314において、ステップ306で算出したモータ回転数N1となるように電動モータ33の駆動をPWM制御する。このとき、再オン電圧はモータ回転数N1に対応した値に変更される。また、例えば、左旋回中において後輪の横滑りを抑制するために右前輪Wfrにのみ制動力を付与する制御が実行される場合では、右前輪Wfrに対応した増圧弁43が上記算出された弁デューティ比b1にてPWM制御される。
そして、ブレーキ制御ECU26は、プログラムをステップ316に進めて一旦終了する。
このように、ステップ306,314の処理が、液圧付与制御手段が液圧を付与する場合に、上記所定条件が成立すると、電動モータ33の回転数を低下させるモータ駆動制御手段である。また、ステップ312,314の処理が、モータ駆動制御手段が電動モータ33の回転数を低下させる場合、増圧弁43を駆動制御して流出される単位時間あたりのブレーキ液の流量を増大させる弁制御手段である。
また、弁デューティ比が変更できない場合について図11を参照して説明する。ここで、先にステップ306で決定されたモータ回転数が参照回転数Nrefより小さい値であるN2であるとする。
具体的には、ブレーキ制御ECU26は、先にステップ306で決定されたモータ回転数N2に対応した特性f(N2)を図7のマップを用いて選択する。また、目標増圧レートΔPtと100%の弁デューティ比とで規定される増圧レート−弁デューティ比特性である参照特性f(Nref)を図7のマップを用いて選択する。
そして、ブレーキ制御ECU26は、特性f(N2)の傾きと、参照特性f(Nref)の傾きとを比較する。その結果、ブレーキ制御ECU26は、ステップ306で決定されたモータ回転数に対応した特性f(N2)の傾きが参照特性f(Nref)の傾きより小さいので、弁デューティ比が変更可能でないと判定する。特性f(N2)と目標増圧レートΔPtから、目標増圧レートΔPtに対応した弁デューティ比を算出できないからである。
したがって、ブレーキ制御ECU26は、ステップ310で「NO」と判定し、ステップ318で弁デューティ比は100%であると算出するとともに、ステップ320で新たなモータ回転数(モータ出力値)を算出する。
ブレーキ制御ECU26は、ステップ320において、先にステップ302で算出した目標増圧レートと100%の弁デューティ比とで規定される増圧レート−弁デューティ比特性である参照特性f(Nref)に対応したモータ回転数を新たに算出する。このモータ回転数はNrefである。このように、弁制御手段が単位時間あたりのブレーキ液の流量を増圧弁の最大流量に増大させる場合(弁デューティ比を100%とする場合)、電動モータ33の回転数をN2からNrefに増大させている。これにより、弁デューティ比が100%のときに増圧レートが目標増圧レートΔPtとなるようにモータ回転数を確保することができるので、決定されたモータ回転数N2より大きい回転数Nrefではあるが、モータ回転数を低下させることによる静粛性とホイールシリンダWC**の増圧応答性とを少なくとも確保することができる。
そして、ブレーキ制御ECU26は、プログラムをステップ314に進めて、電動モータ33をステップ320で算出したモータ回転数(Nref)となるように制御するとともに、液圧付与対象の増圧弁をステップ318で算出した弁デューティ比100%となるように制御する。
具体的には、ブレーキ制御ECU26は、ステップ314において、ステップ320で算出したモータ回転数Nrefとなるように電動モータ33の駆動をPWM制御する。このとき、再オン電圧はモータ回転数Nrefに対応した値に変更される。また、例えば、左旋回中において後輪の横滑りを抑制するために右前輪Wfrにのみ制動力を付与する制御が実行される場合では、右前輪Wfrに対応した増圧弁43が上記算出された弁デューティ比100%にてPWM制御される、すなわち100%開状態に制御される。
そして、ブレーキ制御ECU26は、プログラムをステップ316に進めて一旦終了する。
上述したステップ208,210の処理が、所定の車両挙動が発生した場合、運転者のブレーキペダル21の操作が無い場合にも、電動モータ33の出力によりポンプ47,57を駆動させて車両MのいずれかのホイールシリンダWC**に、車両の挙動を示す値に対応した液圧を付与する液圧付与制御手段である。上述したステップ308の処理が、車両の速度を取得する車両速度取得手段である。上述したステップ402〜410、314が、液圧付与制御手段が液圧を付与する際、車両の速度が所定の閾値(上限車速閾値A1)以下の場合に、電動モータ33の出力を低下させるモータ駆動制御手段である。上述したステップ312,314の処理が、モータ駆動制御手段が電動モータ33の回転数を低下させる場合、電磁弁である増圧弁42,43,52または53を駆動制御して流出される単位時間あたりのブレーキ液の流量を増大させる弁制御手段である。
上述した説明から明らかなように、本実施形態においては、所定の車両挙動が発生した場合、車両の運転者のブレーキペダル21に対する操作が無い場合にも、出力時に作動音が発生する電動モータ33によってポンプ47,57を駆動させ、車両MのいずれかのホイールシリンダWC**に液圧を付与する液圧付与制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ208,210)が液圧を付与する際、車両速度取得手段(ステップ408)によって取得した車両の速度が、所定の閾値(上限車速閾値A1)以下の場合に、モータ駆動制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ402〜410、314)が電動モータ33の出力を低下させる。これにより、車両速度(車速)が所定の閾値より低速である場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、電動モータ33の回転数(出力)を適切かつ十分に低減することにより、静粛性を向上させることができる。また、低速走行時には、例えば横滑り防止制御などの制御に十分高い液圧を必要としないので、電動モータ33の回転数(出力)を低減して作動音低減を優先することができる。
また、液圧付与制御手段(ステップ208,210)が液圧を付与する際に、車両速度取得手段(ステップ408)によって取得した車両の速度が、運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、モータ駆動制御手段(ステップ402〜410、314)が電動モータ33の出力を低下させる。これにより、車両速度(車速)が運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、電動モータ33の回転数(出力)を適切かつ十分に低減することにより、静粛性を向上させることができる。
また、モータ駆動制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ402〜410、314)は、車両速度が所定の閾値(上限車速閾値A1)以下の場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合には、車両速度が小さくなるにしたがって電動モータ33の出力が小さくなるように電動モータ33を制御するので、車両速度(車速)が上限車速閾値A1より低速である場合、電動モータ33の回転数(出力)を車速に応じて適切かつ十分に低減することができる。
また、所定の閾値(上限車速閾値A1)すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度は車両が走行する路面の摩擦係数μが大きくなるにしたがって小さい値に変更されるので、車速が低速である場合、路面の摩擦係数も考慮して電動モータ33の回転数(出力)をより適切に低減することにより、静粛性を向上させることができる。すなわち、路面摩擦係数μが大きいほど暗騒音(例えばロードノイズ)が大きいので、電動モータ33の回転数を高くしても電動モータ33およびポンプ47,57の作動音が暗騒音に紛れて、運転者がその作動音を騒音として感じにくい。一方、路面摩擦係数μが小さいほど暗騒音(例えばロードノイズ)は小さいので、電動モータ33の回転数を低く抑制し、電動モータ33およびポンプ47,57の作動音が比較的小さい暗騒音に紛れるようにして、運転者がその作動音を騒音として感じにくくすることができる。
また、弁制御手段(ステップ312,314)は、モータ駆動制御手段が電動モータ33の回転数を低下させる場合、電磁弁である増圧弁42,43,52または53を駆動制御して流出される単位時間あたりのブレーキ液の流量を増大させる。これにより、電動モータ33の回転数の低下による増圧レート(ホイールシリンダに対する増圧レート)の低下を、電磁弁の制御による流量増大によって補うことができる。したがって、実際の増圧レートを、電動モータ33の回転数が低下される前の目標増圧レートから乖離させないように制御することができるので、電動モータの回転数を低下させてもホイールシリンダに対する増圧応答性を適切に得ることができる。
また、モータ駆動制御手段(ブレーキ制御ECU26、ステップ402〜410、314)は、電動モータ33の出力を運転者が電動モータ33の作動音を識別不能な値に低下させるので、静粛性を向上させることができる。
また、液圧付与制御手段(ステップ208,210)は、車両の運転者のブレーキペダル21に対する操作とは独立して自動的にホイールシリンダWC**に液圧を付与するので、車両Mの何れかのホイールシリンダWC**に自動的に液圧を付与する制御、例えば横滑り防止制御時において、電動モータ33の出力を低下させ静粛性を向上させることができる。
なお、上述した実施形態においては、図9に示すマップの上限車速閾値A1および電動モータ33の下限出力値B2の両方を変更するようにしたが、上限車速閾値A1のみを変更するようにしてもよい。
また、上述した実施形態においては、電動モータ33等の作動音が気になりやすい速度が比較的遅い場合(下限車速閾値A2以下である場合)でも、路面摩擦係数μが小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さく設定されるので、その出力を十分低く抑制することができ、十分な静粛効果を得ることができる。
また、上述した実施形態においては、上限車速閾値A1は車両が走行する路面の摩擦係数μに応じて変更するようにしたが、電動モータ33の制御目標値と実制御値との偏差に応じて変更するようにしてもよい。この場合、ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、図8(a)および(b)に示すマップの代わりに、図12(a)および(b)に示すマップを使用して、電動モータ33の制御目標値と実制御値との偏差から上限車速閾値A1および下限出力値B2を算出する。
図12(a)に示すマップにおいて、前記偏差が大きくなるにしたがって上限車速閾値A1が小さくなるように設定されている。図12(b)に示すマップにおいて、偏差が小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さくなるように設定されている。
これにより、車速が低速である場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、電動モータ33の制御目標値と実制御値との偏差も考慮して電動モータ33の回転数(出力)をより適切に低減することにより、静粛性を向上させることができる。すなわち、偏差が大きいほど車両の安定度が低く運転者の注意は運転や車両の挙動状態に向けられるため運転者が電動モータ33およびポンプ47,57の作動音に気付きにくいので、電動モータ33の回転数(出力)を高くする。一方、偏差が小さいほど車両の安定度が高く運転者が電動モータ33およびポンプ47,57の作動音に気付きやすいので、電動モータ33の回転数(出力)を低くする。
また、上述した実施形態においては、上限車速閾値A1は車両が走行する路面の摩擦係数μに応じて変更するようにしたが、車両が走行する路面の悪路指数に応じて変更するようにしてもよい。この場合、ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、図8(a)および(b)に示すマップの代わりに、図13(a)および(b)に示すマップを使用して、悪路指数から上限車速閾値A1および下限出力値B2を算出する。なお、悪路指数は、車両(車体または車輪)に発生する上下加速度の大きさに基づいて算出するようにすればよい。上下加速度の大きさが大きいほど悪路指数は大きい。
図13(a)に示すマップにおいて、前記悪路指数が大きくなるにしたがって上限車速閾値A1が小さくなるように設定されている。図13(b)に示すマップにおいて、悪路指数が小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さくなるように設定されている。
これにより、車速が低速である場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、路面の悪路指数も考慮して、電動モータ33の回転数(出力)をより適切に低減することにより、静粛性を向上させることができる。すなわち、悪路指数が大きいほど暗騒音(ロードノイズ、振動音)が大きくなるので、運転者が電動モータ33およびポンプ47,57の作動音に気付きにくいので、電動モータ33の回転数(出力)を高くする。一方、悪路指数が小さいほど車両の安定度が高く運転者が電動モータ33およびポンプ47,57の作動音に気付きやすいので、電動モータ33の回転数(出力)を低くする。
また、上述した実施形態においては、上限車速閾値A1は車両が走行する路面の摩擦係数μに応じて変更するようにしたが、車両のエンジン回転数に応じて変更するようにしてもよい。この場合、ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、図8(a)および(b)に示すマップの代わりに、図14(a)および(b)に示すマップを使用して、エンジン回転数から上限車速閾値A1および下限出力値B2を算出する。
図14(a)に示すマップにおいて、エンジン回転数が大きくなるにしたがって上限車速閾値A1が小さくなるように設定されている。図14(b)に示すマップにおいて、エンジン回転数が小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さくなるように設定されている。
これにより、車速が低速である場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、エンジン回転数も考慮して電動モータ33の回転数(出力)をより適切に低減することにより、静粛性を向上させることができる。すなわち、エンジン回転数が大きいほど暗騒音(例えばエンジン音)が大きいので、電動モータ33の回転数を高くしても電動モータ33およびポンプ47,57の作動音が暗騒音に紛れて、運転者がその作動音を騒音として感じにくい。一方、エンジン回転数が小さいほど暗騒音(例えばエンジン音)は小さいので、電動モータ33の回転数を低く抑制し、電動モータ33およびポンプ47,57の作動音が比較的小さい暗騒音に紛れるようにして、運転者がその作動音を騒音として感じにくくすることができる。
また、上述した実施形態においては、上限車速閾値A1は車両が走行する路面の摩擦係数μに応じて変更するようにしたが、車両のステアリング29の操作速度に応じて変更するようにしてもよい。この場合、ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、図8(a)および(b)に示すマップの代わりに、図15(a)および(b)に示すマップを使用して、ステアリング29の操作速度から上限車速閾値A1および下限出力値B2を算出する。
図15(a)に示すマップにおいて、ステアリング29の操作速度が大きくなるにしたがって上限車速閾値A1が小さくなるように設定されている。図13(b)に示すマップにおいて、ステアリング29の操作速度が小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さくなるように設定されている。
これにより、車速が低速である場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、ステアリング29の操作速度も考慮して、電動モータ33の回転数(出力)をより適切に低減することにより、静粛性を向上させることができる。すなわち、ステアリング29の操作速度が大きいほど車両の安定度が低く運転者の注意は運転や車両の挙動状態に向けられるため運転者が電動モータ33およびポンプ47,57の作動音に気付きにくいので、電動モータ33の回転数(出力)を高くする。一方、ステアリング29の操作速度が小さいほど車両の安定度が高く運転者が電動モータ33およびポンプ47,57の作動音に気付きやすいので、電動モータ33の回転数(出力)を低くする。
また、上述した実施形態においては、上限車速閾値A1は車両が走行する路面の摩擦係数μに応じて変更するようにしたが、車両のステレオの音量に応じて変更するようにしてもよい。この場合、ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、図8(a)および(b)に示すマップの代わりに、図16(a)および(b)に示すマップを使用して、ステレオの音量から上限車速閾値A1および下限出力値B2を算出する。
図16(a)に示すマップにおいて、ステレオの音量が大きくなるにしたがって上限車速閾値A1が小さくなるように設定されている。図16(b)に示すマップにおいて、ステレオの音量が小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さくなるように設定されている。
これにより、車速が低速である場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、ステレオの音量も考慮して電動モータ33の回転数(出力)をより適切に低減することにより、静粛性を向上させることができる。すなわち、ステレオの音量が大きいほど電動モータ33の回転数を高くしても電動モータ33およびポンプ47,57の作動音がステレオ音に紛れて、運転者がその作動音を騒音として感じにくい。一方、ステレオの音量が小さいほど電動モータ33の回転数を低く抑制し、電動モータ33およびポンプ47,57の作動音が比較的小さいステレオ音に紛れるようにして、運転者がその作動音を騒音として感じにくくすることができる。
また、上述した実施形態においては、上限車速閾値A1は車両が走行する路面の摩擦係数μに応じて変更するようにしたが、雨の有無に応じて変更するようにしてもよい。この場合、ブレーキ制御ECU26は、ステップ304において、図8(a)および(b)に示すマップと同様なマップを使用して、雨の有無または雨量から上限車速閾値A1および下限出力値B2を算出する。この場合、雨が無いまたは雨量が小さくなるにしたがって上限車速閾値A1が大きくなるように設定されている。雨が無いまたは雨量が小さくなるにしたがって下限出力値B2が小さくなるように設定されている。
これにより、車速が低速である場合すなわち運転者が電動モータ33の作動音を識別可能な速度の場合、雨の有無または雨量も考慮して電動モータ33の回転数(出力)をより適切に低減することにより、静粛性を向上させることができる。すなわち、雨がありまたは雨量が大きいほど暗騒音(例えば雨音、ロードノイズ)が大きいので、電動モータ33の回転数を高くしても電動モータ33およびポンプ47,57の作動音が暗騒音に紛れて、運転者がその作動音を騒音として感じにくい。一方、雨がなしまたは雨量が小さいほど暗騒音(例えば雨音、ロードノイズ)は小さいので、電動モータ33の回転数を低く抑制し、電動モータ33およびポンプ47,57の作動音が比較的小さい暗騒音に紛れるようにして、運転者がその作動音を騒音として感じにくくすることができる。
上記実施形態は、FF車にX配管しているが、FR車に前後配管してもよい。上記実施形態は、倍力装置としてバキュームブースタを用いても、ポンプにより発生した液圧をアキュムレータに蓄圧し、この液圧を利用して倍力する倍力装置を用いてもよい。また、本発明を、ブレーキ・バイ・ワイヤ式の液圧ブレーキ装置に適用してもよい。
上記実施形態においては、ポンプを駆動させて車両の何れかのホイールシリンダに自動的に液圧を付与する制御として、横滑り防止制御を例に挙げて説明したが、他の自動加圧制御としてABS制御や、トラクションコントロール、坂道発進補助制御などにも本発明を適用することができる。
10…駆動系、11…エンジン、12…自動変速機、13…ディファレンシャル、15…アクセルペダル、15a…アクセル開度センサ、16…エンジン制御ECU、20…制動系;液圧ブレーキ装置、21…ブレーキペダル、21a…ストップスイッチ、22…負圧式ブースタ、23…マスタシリンダ、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、26…ブレーキ制御ECU(液圧付与制御手段(ステップ118,208,210)、車両速度取得手段(ステップ408)、モータ駆動制御手段(ステップ302〜306,314、402〜410)、弁制御手段(ステップ312,314))、27…ヨーレートセンサ、28…加速度センサ、29…ステアリング、29a…ステアリングセンサ、33…電動モータ、41,51……液圧制御弁、42,43,52,53…増圧弁、45,46,55,56…減圧弁、44,54…調圧リザーバ、47,57…ポンプ、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速度センサ。