JP5034252B2 - 固体高分子型燃料電池用電極触媒層およびその製造方法 - Google Patents
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Description
燃料電池の実用化に向けての課題は、出力密度、ガス利用率、耐久性の向上、コスト削減等が挙げられる。出力密度、ガス利用率を向上させる為には、触媒電極中の酸化還元反応サイトへの燃料ガス、プロトンの供給が十分であり、かつその反応サイトの表面積をより大きくする必要がある。コスト削減の為に最も要求されているのは、電極に触媒として使用されている白金の使用量の低減である。
酸化極では水素ガスの酸化、還元極では水素イオンの還元がそれぞれ起こる。この酸化還元反応は、電極内部において電子伝導体であるカーボン粒子と、プロトン伝導体の両方に接し、かつ導入ガスが吸着しうる触媒の表面でのみ起こる。
酸化還元反応が起こるこの部分は、三相界面と呼ばれている。この三相界面の面積が大きく、かつ三相界面へのプロトン、燃料ガスの供給パスを満足させることが、単セルの出力密度、ガス利用率の向上へとつながる。このためには触媒層中のガスの拡散性や発生した水の排水性、プロトン伝導性高分子の含水率などを向上させる必要がある。
また、三相界面ではないところに存在する白金触媒粒子は、電極の酸化還元反応に寄与しないため、全く機能しないことになる。白金使用量を低減させる為には、この機能しない白金の量をできるだけ減らし、使用した白金の有効利用率を高める必要がある。
プロトン供給量を向上させるため、触媒層中のプロトン伝導性高分子の含量を多くすることも行われてきたが、逆に触媒層の空孔率が低下し、ガスの拡散性が低下するという現象も確認された。
白金の利用率は、カーボン粒子上に担持された触媒がプロトン伝導体と接していないことや、触媒がプロトン伝導体で覆われていること、また触媒層中の空隙率が低いためガスの拡散性が低いこと等の理由から、現状低い値となっている。このような理由から、触媒層の構造、組成を最適化することは非常に重要な課題である。
例えば、特許文献1によると、触媒層における触媒担持カーボンとプロトン伝導性高分子の比率を膜厚方向で変化させることで、触媒の利用率、出力密度を向上させることが可能になる。
また、特許文献2によると、触媒層における撥水剤の含有量を膜厚方向で変化させることで生成水の排水性の向上および触媒層の乾燥防止などが可能になる。
また、特許文献3によると、触媒層における触媒担持カーボンの触媒担持量を面方向に変化させることで、一酸化炭素の触媒への吸着がある部分に偏って起こることを防止することができる。
また、塗布法には上記のような傾斜構造を有するものを作製する際に、2塗り、3度塗りなどを行う必要があることや、塗液の流動による傾斜組成のバラツキなどがみられるという問題点があった。
このようにして作製した触媒層は、従来行われてきた加圧スプレー法による触媒層と比較して、触媒担持カーボン粒子の凝集が少なく、空隙率の高い形態をつくり、かつ傾斜構造を作製する際に塗液の流動、粒子の凝集などによる組成のバラツキのない製造方法を提供することができる。しかも、複数の噴出口を基板材料の面から上方へ一定の距離離れた位置で、前記X,Y方向に沿い間隔をおいて複数マトリクス状に配置することにより、大面積の塗布や、組成を段階的に変化させた触媒層を作製することが可能になる。
また、成膜後の触媒層の空孔率を制御するためにグリセリンを添加したり界面活性剤を用いることもできる。
白金担持量が45wt%である白金担持カーボン触媒と市販のプロトン伝導性高分子(ナフィオン)溶液を溶媒中で混合し、遊星型ボールミル(FRITSCH社製 Pulverisette7)で分散処理を行った。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。出発原料の組成比は白金担持カーボン触媒とナフィオンは重量比で3:1、2:1、1:1の3種類のものを調整した。溶媒は水、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ルを体積比で1:1:1とした。また、固形分含有量は10wt%とした。作製したインキを静電噴霧法によりカーボンペーパー上に噴霧することで触媒層を作製した。このとき噴霧口1の数は図2においてn=3、k=3とし、計9つ用いた。このとき、Y方向1番目の位置にある噴出口1には、X方向の位置にかかわらず白金担持カーボン触媒とナフィオンの重量比が3:1の混合液を供給した。Y方向2番目の位置にある噴出口1には、X方向の位置にかかわらず白金担持カーボン触媒とナフィオンの重量比が2:1の混合液を供給した。Y方向3番目の位置にある噴出口1には、X方向の位置にかかわらず白金担持カーボン触媒とナフィオンの重量比が1:1の混合液を供給した。さらに基板材料4をY方向に一定速度で移動させ、基板材料4のいずれの面もカーボンペーパー上白金担持カーボン触媒とナフィオンの重量比が3:1の触媒層、2:1の触媒層、1:1の触媒層が順に積層された試料を得た。触媒層の厚さは、触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように調節した。静電噴霧の負荷電圧は20kV、基材とノズル間の距離は10cmとした。また、定速供給機器としてシリンジポンプを用い、供給速度を15μl/minとした。得られた触媒層について、触媒層のみの空孔率を細孔分布測定装置で測定したところ、空孔率は80%であった。
白金担持カーボン触媒と市販のプロトン伝導性高分子(ナフィオン)溶液を溶媒中で混合し、遊星型ボールミル(FRITSCH社製 Pulverisette7)で分散処理を行った。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。出発原料の組成比は白金担持カーボン触媒とナフィオンは重量比で2:1とした。このとき、白金担持カーボン触媒における白金の担持量は20wt%、30wt%、40wt%の3種類のものを用いた。溶媒は水、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ルを体積比で1:1:1とした。また、固形分含有量は10wt%とした。作製したインキを静電噴霧法によりカーボンペーパー上に噴霧することで触媒層を作製した。このとき噴霧口1の数は図2においてn=3、k=3とし、計9つ用いた。このとき、Y方向1番目の位置にある噴出口1には、X方向の位置にかかわらず白金担持カーボン触媒の白金担持量が40wt%の混合液を供給した。Y方向2番目の位置にある噴出口1には、X方向の位置にかかわらず白金担持カーボン触媒の白金担持量が30wt%の混合液を供給した。Y方向3番目の位置にある噴出口1には、X方向の位置にかかわらず白金担持カーボン触媒の白金担持量が20wt%の混合液を供給した。さらに基板材料4をY方向に一定速度で移動させ、基板材料4のいずれの面もカーボンペーパー上白金担持カーボン触媒の白金担持量が40wt%の触媒層、30wt%の触媒層、20wt%の触媒層が順に積層された試料を得た。触媒層の厚さは、触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように調節した。静電噴霧の負荷電圧は20kV、基材とノズル間の距離は10cmとした。また、定速供給機器としてシリンジポンプを用い、供給速度を15μl/minとした。得られた触媒層について、触媒層のみの空孔率を細孔分布測定装置で測定したところ、空孔率は80%であった。
実施例1記載と同様、出発原料の組成比が白金担持カーボン触媒とナフィオンの重量比で3:1、2:1、1:1の3種類の混合液を調製し、高圧スプレー法を用いて触媒層を作製した。得られた触媒層は基材面のいずれの場所においてもカーボンペーパー上に白金担持カーボン触媒とナフィオンの重量比が3:1の触媒層、2:1の触媒層、1:1の触媒層が順に積層されていた。触媒層の厚さは、触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように調節した。得られた触媒層について、触媒層のみの空孔率を細孔分布測定装置で測定したところ、空孔率は70%であった。
実施例2記載と同様な出発原料における白金担持カーボン触媒の白金担持量が重量比で40wt%、30wt%、20wt%である3種類の混合液を調製し、高圧スプレー法を用いて触媒層を作製した。得られた触媒層は基材面のいずれの場所においてもカーボンペーパー上に白金担持カーボン触媒とナフィオンの重量比が40wt%の触媒層、30wt%の触媒層、20wt%の触媒層が順に積層されていた。触媒層の厚さは、触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように調節した。得られた触媒層について、触媒層のみの空孔率を細孔分布測定装置で測定したところ、空孔率は70%であった。
実施例1、2、比較例1、2においてカーボンペーパー4上に作製した触媒層を用いて膜・電極接合体10を作製した。作製した電極を5cm2の正方形に打ち抜き、酸化極1、還元極2とした。この2つの電極でプロトン伝導性高分子膜3を挟持した状態で130℃、60kgf/cm2、30分の条件でホットプレスを行い、膜・電極接合体を得た。図3に膜・電極接合体の模式図を示す。プロトン伝導性高分子膜にはデュポン株式会社製Nafion112を用いた。
作製した膜・電極接合体の発電性能測定を行った。測定セルとして、膜・電極接合体を、ガス流路を有するセパレータで挟持させ、ボルトで両極を締め付けたものを用いた。評価条件はセル温度80℃、ガスは酸化極が水素、還元極は酸素とした。流量は酸化極が200mL/min.還元極が100mL/min.とした。また、ガスの相対湿度は100%とした。性能の比較は、電圧が0.7Vのときの電流密度で行った。またこのときの内部抵抗を交流インピーダンス法により測定した。交流インピーダンス測定では、オーミック抵抗と電極反応抵抗の二種類の抵抗成分が確認された。
表1は、実施例1および2、比較例1で作製した触媒インキおよびそれを用いて作製した触媒層、またそれを用いて作製した膜・電極接合体の評価結果を示す。
Claims (13)
- プロトン伝導性固体高分子膜または多孔質カーボンシートからなる基板材料をのせた基材と噴出口との間に電圧を印加した状態で、触媒担持カーボン、プロトン伝導性高分子、分散媒からなる混合液を前記噴出口から前記基板材料に噴霧する手法を用いる固体高分子型燃料電池用触媒層の製造方法において、
前記基材と反対に位置する前記基板材料の面で互いに直交する方向をX,Y方向としたときに、
前記噴出口は、前記基板材料の面上の異なる複数の場所に臨むように前記基板材料の面から上方へ一定の距離離れた位置で、前記X,Y方向に沿い間隔をおいて複数マトリクス状に配置され、
前記複数の噴出口または前記基板材料の少なくとも一方を、前記XまたはY方向に沿って移動しつつ、前記各噴出口から前記混合液を噴霧する、
ことを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒層の製造方法。 - 前記複数の噴出口に供給される混合液の組成が少なくとも2種類以上あり、
前記組成の種類が異なる混合液を前記複数の噴出口から前記基板材料上の異なる複数の場所に噴霧することで、前記XまたはY方向に沿って組成が変化した触媒層を得ることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。 - 前記複数の噴出口に供給される混合液の組成が少なくとも2種類以上あり、
前記組成の種類が異なる混合液を前記複数の噴出口から前記基板材料上に噴霧することで、前記基板材料の面と直交する膜厚方向に沿って組成が変化した触媒層を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。 - 前記複数の噴出口に供給される混合液の組成が少なくとも2種類以上あり、
前記組成の種類が異なる混合液を前記複数の噴出口から前記基板材料上に噴霧することで、前記基板材料の面と直交する膜厚方向に沿って組成が変化した触媒層を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。 - 前記各噴出口に供給される混合液の触媒担持カーボンとプロトン伝導性高分子の混合比が異なることを特徴とする請求項1〜4に何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。
- 前記各噴出口に供給される混合液のカーボンに担持されている触媒量が異なることを特徴とする請求項1〜5に何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。
- 前記各噴出口に供給される混合液の撥水剤の含有量が異なることを特徴とする請求項1〜6に何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。
- 多孔質カーボンシート上に作製した触媒層でプロトン伝導性固体高分子膜が挟持されているまたはプロトン伝導性高分子膜の両面に作製した触媒層を多孔質カーボンシートで挟持されている膜・電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池において、
少なくとも一方の触媒層が、請求項1〜7の何れかに記載の製造方法により製造された触媒層からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池。 - 前記の固体高分子型燃料電池において、少なくとも一方の触媒層における触媒担持カーボンとプロトン伝導性高分子の混合比が前記触媒層の厚さ方向である膜厚方向で変化しており、触媒担持カーボンの比率が多孔質カーボンシート側で高く、プロトン伝導性高分子膜側で低いことを特徴とする請求項8に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記の固体高分子型燃料電池において、少なくとも一方の触媒層における空孔率が前記触媒層の厚さ方向である膜厚方向で変化しており、空孔率が多孔質カーボンシート側で高く、プロトン伝導性高分子膜側で低いことを特徴とする請求項8または9に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記の固体高分子型燃料電池において、少なくとも一方の触媒層における触媒担持カーボンの担持量が前記触媒層の厚さ方向である膜厚方向で変化しており、触媒担持カーボンの担持量が多孔質カーボンシート側で多く、プロトン伝導性高分子膜側で少ないことを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記固体高分子型燃料電池において、少なくとも一方の触媒層における撥水剤の含有量が前記触媒層の厚さ方向である膜厚方向で変化しており、その量が多孔質カーボンシート側で多く、プロトン伝導性高分子膜側で少ないことを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記固体高分子型燃料電池において、少なくとも一方の触媒層における触媒担持カーボンの担持量が前記触媒層の延在方向である面方向で変化しており、その量がガスの注入口側で少なく、ガスの排気口側で多いことを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
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