JP5022428B2 - 硬化肉盛用migアーク溶接ワイヤおよび硬化肉盛用migアーク溶接方法 - Google Patents
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Description
硬化肉盛溶接法には、被覆アーク溶接、ガスシールドアーク溶接、サブマージアーク溶接、エレクトロスラグ溶接等、種々のアーク溶接法が適用されている。このうち、ガスシールドアーク溶接法では、高炭素の溶接ワイヤを用いると、溶滴形成時に炭素と酸素の結合反応が発生し、気化爆発を起こしてヒュームやスパッタを多量に発生させるという問題が避けられない。このため、硬化肉盛溶接の作業場における作業環境は劣悪であり、このような作業環境の改善が求められている。
かかる構成によれば、フラックスの融点が上昇し、アークが安定しやすくなると共に、ワイヤの生産性が向上する。
かかる構成によれば、ワイヤの先端懸垂溶滴の部位(以下、適宜、先端懸垂溶滴部という)において、CO爆発が抑制され、スパッタやヒュームの発生が抑制される。
これらの成分を含有することで、焼入れ硬化性が高まり、溶接金属の硬度が高くなる。
まず、図1を参照して、本発明者らが完成するに至った本発明に係る硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤ(以下、適宜、溶接ワイヤという)および硬化肉盛用MIGアーク溶接方法(以下、適宜、アーク溶接方法という)の原理について説明する。
図1(a)に示すように、溶接ワイヤ10aを用いた溶接では、純Arガスを用いていることから、シールドガス中のCO2やO2がアーク11aの近傍で熱解離を起こす際に生じる吸熱反応が発生しないため、密度を高めるために収縮する力、いわゆる熱的ピンチ力が発生しない。そのため、溶滴を切断することができず、溶滴がワイヤ先端に細長く懸垂してしまい、細長い先端懸垂溶滴12aを生じることで、磁気吹きや溶融池近傍の陰極点移動の影響を強く受ける。これにより、スパッタ13aの多量発生や、ビード形状の不良および溶込み不足(硬化肉盛溶接金属14a参照)等が生じる。
以下、本発明の硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤおよび硬化肉盛用MIGアーク溶接方法について説明する。
本発明の溶接ワイヤは、シールドガスとして、純Arガスを用いる溶接に適用されるものであり、外皮として帯鋼または鋼管を用い、内部にフラックスを充填して伸線したフラックス入りワイヤの形態のものである。そして、フラックス中に、ワイヤ全質量換算で、C,Si,Mn,P,S,TiO2とZrO2とAl2O3との合計(TiO2+ZrO2+Al2O3)を所定量含有し、かつ前記Siと前記Mnとの合計(Si+Mn)を規定したものである。さらに、ワイヤに対する総フラックス質量比を規定したものである。そして、本発明の溶接ワイヤを用いて溶接した後の溶接金属のビッカース硬度が200以上となる。
以下、各構成について説明する。
溶接ワイヤは、外皮として帯鋼または鋼管を用い、内部にフラックスを充填して伸線したフラックス入りワイヤである。
純Arシールドガス環境における溶滴切断力が小さい状態において、ワイヤ先端に懸垂する溶滴を球状にして落下させるためには、溶滴自身の表面張力を有効に作用させるため、断面を連続的に溶融させないことが必要である。これを工業的に実現する手段として、外皮と内部フラックスの断面構造をもつフラックス入りワイヤの形態が必要であり、均一溶融のソリッドワイヤでは不可能である。ワイヤの製造方法は、帯鋼の長さ方向にフラックスを散布してから包み込むように円形断面に成形して伸線する方法や、太径の鋼管にフラックスを充填して伸線する方法があるが、本発明には、製造方法の相違は影響せず、いずれでも良い。さらに前者においては、シームを閉じていないものと、溶接して閉じているものとがあるが、これについても、いずれでも良い。また、外皮の成分については何ら規定する必要はないが、必要な溶接金属の硬度性能によって、ワイヤ全体として必要な合金成分量が決まり、軟鋼あるいはCr合金量が多い場合はSUS430鋼の外皮を用いることも可能である。また、表面に銅メッキを施す場合もあるが、めっきは断面溶融特性には影響を及ぼさないため、めっきの有無はどちらでも良い。
Cは、硬度の大きいマルテンサイト変態を起こさせることから、硬化肉盛溶接材料としては非常に有効な元素である。JIS規格上はビッカース硬度が200未満でも硬化肉盛とするものもあるが、一般的には、硬化肉盛溶接金属と呼べるのは、最低でもビッカース硬度で200以上であり、これを実現するには、ワイヤ中のC含有量は高いことが望ましい。また、フラックス中のC含有量が多くなると融点が上昇し、細長い先端懸垂溶滴を形成しにくくなる。これら溶接金属の硬度と純Arガス下でのアーク安定性確保の両立の点から、C含有量は、最低0.12質量%が必要である。なお、さらに望ましくは、0.20質量%以上である。一方、C含有量が高くなるにつれ、溶接金属の硬度が高くなるが、5.00質量%を超えると、フラックスが溶けずに溶接金属中に落下して欠陥となる可能性があり、かつワイヤの先端懸垂溶滴部においてCO爆発が頻繁に発生し、ヒュームやスパッタの発生の増大を抑制することができなくなる。したがって、C含有量は、5.00質量%以下とする。さらには、ヒュームやスパッタの抑制の観点から、2.00質量%以下に抑制することが望ましい。
Siは、溶融池と母材の濡れ性を向上させ、結果としてビード形状を平坦化させる作用がある。この作用が有効となるのには、最低0.50質量%が必要である。一方、Siは、ワイヤに含まれる酸素と結合し、ガラス質のSiO2スラグを発生させる。Si含有量が3.00質量%を超えると、スラグ発生量が過剰となると共に剥離性の劣化が著しくなり、溶接後の後処理の負荷が大きくなる。したがって、Si含有量は、3.00質量%以下にする必要がある。
Mnは、溶融池と母材の濡れ性を向上させ、結果としてビード形状を平坦化させる作用があると共に、焼入れ硬化性を高め、溶接金属の硬度を高める作用がある。これらの作用が有効となるのには、最低0.30質量%が必要である。一方、Mnは、ワイヤに含まれる酸素と結合し、強固で剥離性の悪いスラグを発生させる。Mn含有量が20.00質量%を超えると、スラグ発生量が過剰となると共に剥離性の劣化が著しくなり、溶接後の後処理の負荷が大きくなる。したがって、Mn含有量は、20.00質量%以下にする必要がある。
Pは、耐食性の向上、Sは、溶鉄の表面張力を下げて溶融池と母材の濡れ性を確保する長所があることが知られているものの、P、S共に、溶接時に凝固割れを起こしやすくしたり、靭性を劣化させたりする元素として有名である。ここで、強度と水素が原因である遅れ割れは、予熱・後熱で防止することが可能であるが、凝固割れは、熱管理では防止することができないため、組成面での防止配慮が必要である。そして、硬化肉盛溶接金属では、一般に靭性は要求されないものの、その高い炭素量等に起因して凝固割れが発生しやすい。また、硬化肉盛溶接金属は、一般に通常の継手溶接と異なり、硬化肉盛溶接法では、溶接速度が遅いことから、それほどP,Sの許容上限は厳しくないが、それぞれ、0.050質量%以下に抑制しておけば問題は無いため、P含有量、S含有量は、それぞれ、0.050質量%を上限とする。
少量のTiO2、ZrO2、Al2O3は、純Arガスによる安定なアーク、かつビード形状の平坦化には必須の重要な物質である。TiO2、ZrO2、Al2O3は、陽極側の安定なアーク発生源、および必要最低限の熱的ピンチ力を発生させる酸素の供給源としての役割を持つ。ワイヤ中のフラックスに、TiO2、ZrO2、Al2O3が含まれると、常にワイヤ先端に露出したフラックスからアークが発生し、ワイヤ上部へアーク発生点が這い上がる不安定現象を防止することができる。また、TiO2、ZrO2、Al2O3の熱分解時に発生する吸熱反応によって、陽極側のアーク断面積が収縮し、やはりワイヤ上部へアーク発生点が這い上がる不安定現象を防止することができる。なお、アーク発生点がワイヤ上部へ這い上がると、先端懸垂溶滴が細長く形成され、アークやビード形状が不安定になる。
なお、一般的には、TiO2は天然ルチル、合成ルチル、高純度酸化チタン、ZrO2はジルコンサンド、Al2O3はアルミナ等と呼称された粉末状の鉱石あるいは化合物として用いられる。
SiとMnは、単独でも範囲を規定したが、SiとMnとの合計での下限値が存在し、SiとMnとの合計が1.20質量%未満では、溶融池と母材の濡れ性を確保することができない。したがって、SiとMnとの合計は、1.20質量%以上が必須である。
<Cr:30.0質量%以下、Mo:2.0質量%以下、Ni:3.0質量%以下、B:1.0質量%以下、V:3.0質量%以下、W:3.0質量%以下のうちから選択される1種以上>
硬化肉盛溶接金属には、硬度を高めるために、必要に応じて、C,Si,Mnの他に、焼入れ硬化性の高い元素を添加する。硬化肉盛溶接金属は、一般的な鋼板同士を接合する継手溶接と異なり、溶接割れが許容される場合があるが、焼入れ硬化性の高い元素である、Cr,Mo,Ni,B,V,Wの1種以上を添加する場合には、Cr含有量が30.0質量%、Mo含有量が2.0質量%、Ni含有量が3.0質量%、B含有量が1.0質量%、V含有量が3.0質量%、W含有量が3.0質量%をそれぞれ超えると、激しい割れが避けられず、実用性が失われる。したがって、Cr,Mo,Ni,B,V,Wは、これらの含有量以下に抑制する。
その他、K,Ca,Na,Mg,F,Li,Al等をアーク感の微調整剤として、また、フラックス成分として、Cu,Co,N,Nb等を溶接金属のさらなる硬化剤として、フラックス中に少量含有させてもよい。
ワイヤに対する総フラックス質量比は、ワイヤ単位長さあたりのフラックスの質量であり、総フラックス質量比が小さいほど断面積における中心部のフラックス専有面積が小さいことを表す。純Arシールドガスにおいて適度にアークを安定化させるためには、フラックスと外皮鋼の2重構造が必要であるが、総フラックス質量比が5質量%未満では、実質的に2重構造の効果が消失し、ソリッドワイヤと同じく、全断面均一溶融を起こしてワイヤの先端懸垂溶滴が細長くなり、溶滴移行、ビード形状が共に不安定となる。また、多段階溶融をさせるためには、総フラックス質量比として5質量%以上が必要である。一方、30質量%を超えると、外皮鋼を薄くしなければならず、ワイヤとしての製造が困難になるだけでなく、電流が流れる外皮鋼の過熱が激しくなり、外皮鋼のみがアークより上部で溶融してしまうことで、やはり適正な多段階溶融が行われず、溶滴移行、ビード形状が共に不安定となる。したがって、ワイヤに対する総フラックス質量比は、30質量%以下にする必要がある。
JIS Z3326「硬化肉盛用アーク溶接フラックス入りワイヤ」において、溶着金属の呼び硬さは、200(Hv:250以下)、250(Hv:200〜300)、300(Hv:250〜350)等と分類されているが、硬度的に実用的とされ、かつ従来からヒュームやスパッタ等の問題が大きい250(Hv:200〜300)以上を対象とすることで本発明では特に効果が高い。したがって、Hvが200以上の溶接金属が得られる溶接ワイヤとする。なお、溶接ワイヤの成分と、使用するシールドガス組成を本発明の範囲とすることで、Hvが200以上の溶接金属を得ることができる。
Cは、フラックスの融点を上げ、細長い先端懸垂溶滴を防止する役割があるが、C源として特にグラファイトが、融点、ワイヤ生産性の点で好適である。Cの含有量は、0.12質量%以上であるが、中でもグラファイトが0.10質量%以上であると、アーク安定化の効果がさらに優れる。したがって、Cのうち、グラファイトが0.10質量%以上であることが望ましい。
TiO2+ZrO2+Al2O3、Cは、共に独立して規定しているが、これらの値を制限することがさらに望ましい。C含有量に対して、TiO2+ZrO2+Al2O3が多くなるほど、ワイヤの先端懸垂溶滴部においてCO爆発が活発に発生し、スパッタやヒュームが多くなる。しかし、(TiO2+ZrO2+Al2O3)/Cを、5.0以下にすると、ほぼこのような問題は無くなる。したがって、(TiO2+ZrO2+Al2O3)/Cは、5.0以下とすることが望ましい。
本発明のアーク溶接方法は、前記した成分組成を有する溶接ワイヤを使用するものである。そして、このアーク溶接方法においては、シールドガスとして、純Arガスを使用し、溶接後における溶接金属のビッカース硬度が200以上となるものである。
また、溶接の際の電流波形としては、パルス波形を用いることが望ましく、さらには、パルス波形のピーク電流が400〜450Aであることが望ましい。
以下、これらの詳細について説明する。なお、溶接金属のビッカース硬度については、前記溶接ワイヤで説明したとおりであるので、ここでは、説明を省略する。
前記したとおり、シールドガスを酸化性の無い不活性ガスとすることで、ヒュームやスパッタ、スラグの低減、ビード形状の平坦性、溶込み深さの低減といった画期的な効果をもたらすことができる。不活性ガスには、Arの他に、He,Ne,Kr,Xe,Rnが存在するが、いずれも非常に高価であり実用性に乏しく、技術的にも、原子量に関係した冷却能がアークに対して不適正なため、アーク安定性が悪い。したがって、本発明のアーク溶接方法に適用するシールドガスとしては、純Arを用いる。なお、本発明でいう純Arとは、一般の工業的な純度を許容するものであり、具体的には、JIS K1105「アルゴン」の1級、2級を共に適用することができる。
本発明のアーク溶接方法においては、純Arシールドガスを用いるが、溶接電流・電圧として、いわゆるパルス波形を用いると、低電流から高電流まで、低スパッタ、低ヒュームの効果が得られる。パルス波形を用いるパルス溶接法は、ピーク域と呼ばれる400A以上の高い電流域と、ベース域と呼ばれる150A以下の低電流域とを、100Hz以上の高い周波数で交互に繰返す溶接方法である。例えば、最も一般的であるワイヤ径が1.2mmφの場合、純Arシールドガスを用いた溶接では、溶滴離脱の規則性が、酸化性ガスを用いたMAG溶接よりも劣るので、溶滴を規則正しく離脱させることも重要である。パルス溶接法では、平均電流に係わらず、高い電流域の作用を常に用いてピンチ力を付与することにより、規則正しい溶滴離脱を実現することができるので好適である。
前記の通り、最も一般的なワイヤ径1.2mmφの場合、パルス波形におけるピーク電流は400A以上が一般的であるが、ピーク電流が450Aを超えると、アークの指向性が過剰となり、溶込みが深くなる。硬化肉盛溶接では、溶込みが深いと母材希釈により溶接金属の性質が影響を受けやすくなるため、好ましくない。一方、400A未満では、アーク安定化の効果が消失し、低スパッタ、低ヒュームの効果が弱くなる。したがって、ピーク電流は、400〜450Aが望ましい。なお、ワイヤ径が太くなると、溶融エネルギーが多く必要になるため、前記と同様の理由で、ワイヤ径1.4mmφの場合は440〜490A、1.6mmφの場合は480〜530Aが推奨範囲である。
その他の事項として、溶接機に関しては、一般的にはワイヤ(+)、母材(−)の逆極性と呼ばれる電流方向であるが、溶込みをさらに低減するために、逆極性と正極性とを適当な比率で交互に繰返す交流波形としても問題無い。
そして、本発明の溶接ワイヤおよびアーク溶接方法は、これらの数々の長所を同時に満足させることができる画期的なワイヤおよび溶接方法である。
本実施例では、炭素鋼板の一種であるSM490Aの鋼板の表面上に、試作した1.2mmφの各ワイヤを用いて、所定の溶接条件で1パス溶接を行い、以下の項目を確認した。図2に、各種の評価方法を説明するための模式図を示す。図2に示すように、アーク溶接により、母材50であるSM490Aの鋼板の表面に硬化肉盛溶接金属60を形成した。
ヒューム発生量は、JIS Z3930の吸引装置を用いて測定することにより算出した。そして、作業者が作業環境として快適と思われる値として、ヒューム発生量が0.50mg/min以下の場合を合格(○)、0.50mg/minを超える場合を不合格(×)と判定した。
スパッタ発生量は、周囲に飛散したスパッタ、および、シールドノズルに付着したスパッタを回収して合計し、質量を測定することにより算出した。そして、作業者が作業環境として快適と思われる値として、スパッタ発生量が1.0g/min以下の場合を合格(○)、1.0g/minを超える場合を不合格(×)と判定した。
スラグ発生量は、ビード表面に付着したスラグ、および、ビード表面から剥離したスラグを回収して合計し、質量を測定することにより算出した。そして、除去作業にかける労力を考慮し、作業者が作業環境として快適と思われる値として、スラグ発生量が1.0g/min以下の場合を合格(○)、1.0g/minを超える場合を不合格(×)と判定した。
ビード形状については、溶接方向に対して垂直にカットしたビードの断面の形状から、ビード高さ(H)とビード幅(W)を計測し、形状パラメータ(H/W)として計算し、この値に基づき評価を行った。そして、溶接後に平滑に研削する労力を考慮し、作業者が作業環境として快適と思われる値として、形状パラメータ(H/W)が0.50以下の場合を合格(○)、0.50を超える場合を不合格(×)と判定した。
溶込み深さについては、溶接方向に対して垂直にカットしたビードの断面をさらに酸でエッチングして、母材50の表面から、母材50へビードが溶込んだ最深部までの深さを溶込み深さDとして計算し、この値に基づき評価を行った。そして、溶込み不足の発生懸念が無い値を最低1.0mmとし、母材成分が溶接金属の硬度に及ぼす影響が無視できるほど小さいと考える値を最大3.0mmとして、この範囲に収まる場合を合格(○)、この範囲を外れる場合を不合格(×)と判定した。
内部欠陥については、超音波探傷試験にて、ビードの割れや融合不良の有無を計算することにより評価を行った。そして、割れや融合不良がない場合を合格(○)、割れや融合不良が存在した場合を不合格(×)と判定した。
溶接金属硬度については、溶接方向に対して垂直にカットしたビードの断面の中心近傍を無作為に3点選択してビッカース硬さを測定し、さらに、これらの平均値を算出し、この値に基づき評価を行った。そして、硬化肉盛溶接金属に定義しうる値として、ビッカース硬さの平均値が200以上の場合を合格(○)、200未満の場合を不合格(×)と判定した。
これらの結果を表4、5に示す。
No.23は、フラックス質量比が低すぎ、純Arガス雰囲気でのアーク安定化に必要な2重構造作用が消失してしまったため、アーク安定化が図れず、スパッタの飛散、ビード形状の劣化、溶込み不足が生じた。
No.24は、逆にフラックス質量比が高すぎて外皮が溶融しやすくなり、アーク発生点が這い上がってアークが不安定となった。したがって、スパッタの飛散、ビード形状の劣化、溶込み不足が生じた。
No.26も同じくC含有量が不足しており、アーク安定化が図れず、スパッタの飛散、ビード形状の劣化、溶込み不足が生じた。さらに、硬化肉盛溶接金属としての必要な硬度をも不足した。
No.27は、C含有量が過剰であり、ワイヤ内のフラックス柱が溶融しにくくなって溶接金属中にそのまま残り、未溶融欠陥が生じ、内部欠陥となった。また、CO生成に伴って、ヒュームやスパッタが多量に発生した。
No.29は、Si含有量が過剰であるため、酸化生成物のスラグが多量に発生した。
No.30は、Mn含有量が不足しており、濡れ性が不足したため、ビード形状が凸になって劣化した。また、焼入れ硬化性も不足したため、硬化肉盛溶接金属としての必要な硬度をも不足した。
No.31は、Mnが過剰であり、酸化生成物のスラグが多量に発生した。
No.33は、Pが過剰であり、No.34は、Sが過剰である。したがって、これらは溶接金属に凝固割れ欠陥が生じ、内部欠陥となった。
No.36は、TiO2が添加されているが、TiO2+ZrO2+Al2O3としては必要量に未達であり、やはり純Arガス雰囲気ではアーク安定化が図れず、スパッタの飛散、ビード形状の劣化、溶込み不足が生じた。
No.37は、TiO2+ZrO2+Al2O3が過剰である。そのため、分解酸素の供給量が過剰となり、ヒューム、スパッタ、スラグが多量に発生した。また、ビード形状の劣化が生じ、さらに、過剰な溶込み深さである過剰溶込みにもなった。
11a,11b,11c アーク
12a,12b,12c 先端懸垂溶滴
13a,13c スパッタ
14a,14b,14c 硬化肉盛溶接金属
15 ヒューム
50 母材
60 硬化肉盛溶接金属
101 硬化肉盛溶接金属
D 溶込み深さ
H ビード高さ
W ビード幅
Claims (7)
- シールドガスとして、純Arガスを用いる硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤであって、
前記ワイヤは、外皮として帯鋼または鋼管を用い、内部にフラックスを充填して伸線したフラックス入りワイヤであり、
前記フラックス中に、ワイヤ全質量換算で、C:0.12〜5.00質量%、Si:0.50〜3.00質量%、Mn:0.30〜20.00質量%、P:0.050質量%以下、S:0.050質量%以下、TiO2とZrO2とAl2O3との合計(TiO2+ZrO2+Al2O3):0.10〜1.20質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ前記Siと前記Mnとの合計(Si+Mn)が1.20質量%以上であり、
さらに、前記ワイヤに対する総フラックス質量比を、5〜30質量%とし、
溶接後における溶接金属のビッカース硬度が200以上となることを特徴とする硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤ。 - 前記Cのうち、0.10質量%以上がグラファイトであることを特徴とする請求項1に記載の硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤ。
- 前記TiO2とZrO2とAl2O3との合計の質量を、前記Cの質量で割った値{(TiO2+ZrO2+Al2O3)/C}が5.0以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤ。
- さらに、前記フラックス中に、Cr:30.0質量%以下、Mo:2.0質量%以下、Ni:3.0質量%以下、B:1.0質量%以下、V:3.0質量%以下、W:3.0質量%以下のうちから選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤ。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の硬化肉盛用MIGアーク溶接ワイヤを用いた硬化肉盛用MIGアーク溶接方法であって、
シールドガスとして、純Arガスを用い、溶接後における溶接金属のビッカース硬度が200以上となることを特徴とする硬化肉盛用MIGアーク溶接方法。 - 電流波形として、パルス波形を用いることを特徴とする請求項5に記載の硬化肉盛用MIGアーク溶接方法。
- 前記パルス波形のピーク電流が400〜450Aであることを特徴とする請求項6に記載の硬化肉盛用MIGアーク溶接方法。
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