JP4929669B2 - 積層ポリエステルフィルム - Google Patents

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Description

本発明は、各種記録媒体、特に蒸着磁気記録媒体用ベースとして用いた際の磁気テープ特性が良好な積層ポリエステルフィルムに関する。
ポリエステルフィルムは、強度、耐熱性、透明性、耐薬品性などの優れた特性を有するため、多方面の用途に使用されているが、さらに機能性を付与することによって、光記録、光磁気記録、磁気記録の各種記録媒体用のベースフィルムとして特によく利用されている。近年、各方式において記録密度あるいは記録容量の飛躍的向上が進んでおり、ベースフィルムへの要求特性も日増しに高まっている。
例えば、光記録媒体はベース上に感光層を設けたいわゆる光ディスクと呼ばれるもので、従来のCD−Rと称されるものから、高密度、大容量記録可能で追記型のDVD−R、さらに書換型で超高密度記録可能なDVRが開発、検討されている。具体的には、レーザー光の熱エネルギーを利用した相変化型では感熱色素に液晶化合物を利用したものが検討されている。あるいは、光による直接の変化を利用したフォトンモード型が検討されており、感光材料には、光そのものを吸収、スペクトル変化するフォトクロミック化合物の利用が提案されている。また、波長の異なるレーザーで書き込み、消去させるリライタブル型や、最近発売された短波長・高エネルギーの青紫色レーザーを利用した超高密度記録型も検討されている。
感光層と磁性層を併設した光磁気記録媒体は、MRヘッドと呼ばれる磁気抵抗型ヘッドにより情報を再生する磁気記録媒体である。記録容量向上のため、磁性層の光透過性と平滑性を高める工夫が検討されている。
磁気記録媒体は、ベース上に金属薄膜を蒸着加工して磁性層を設けた蒸着型と塗布加工して磁性層を設けた塗布型に大別される。いずれも、磁性層のさらなる薄膜化による記録密度の向上が検討されている。
以上各用途のうち、ポリエステルフィルムの利用が最も進んでいる蒸着磁気記録媒体について、以下に詳述する。
1995年に実用化された民生用デジタルビデオテープは、厚さ6〜7μmのポリエステルベースフィルム上に磁性層としてコバルト(Co)の強磁性金属薄膜を真空蒸着により設け、その表面にダイヤモンド状カーボン膜をコーティングして成るものである。デジタルビデオ(DV)ミニカセットを使用したカメラ一体型ビデオの場合には基本仕様(SD仕様)で1時間の録画時間をもつ。
このデジタルビデオカセット(DVC)は、家庭用では世界初であり、以下に示したような数多くの長所を有しているため、市場の評価が高い。
a.小型ボディながら、膨大な情報が記録できる
b.信号が劣化しないから、何年たっても画質・音質が劣化しない
c.雑音の妨害を受けないから高画質・高音質が楽しめる
d.ダビングを繰り返しても映像が劣化しない
また1998年にはSD仕様で1時間20分の録画時間をもつDVミニカセットテープが実用化され、そのベースフィルムには厚さ4〜5μmのポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムが用いられており、このテープも長時間の録画時間を持ち、市場の評価は高い。
例えば、民生用DVCテープでは、ベースフィルム片面側に強磁性金属薄膜を蒸着形成させるが、膜厚が100〜300nmと薄く、ベースフィルムの表面特性が磁気テープ特性(電磁変換特性、ドロップアウト等)に大きく影響する。特に近年では、記録密度向上のため蒸着膜厚の薄膜化が進められており、従来にも増してベースフィルム表面平滑性が強く望まれている。その一方、ベースフィルムの製膜および蒸着加工時の搬送性、あるいはフィルムロール製品への巻き取り性という観点からは表面が粗い方が好ましい。
このような二律背反する特性を同時に満たすベースフィルムとして、下記(1)(2)に示されるポリエステルベースフィルム等が使用されている。
(1)粒径10〜300nmの微細粒子を含有し、該微細粒子により高さ5〜90nmの微細表面突起が形成されたポリエステルフィルムと、該フィルムの少なくとも片面に密着された厚さ50nm以下の有極性高分子を主体とする不連続被膜とからなり、該微細表面突起の高さが該不連続被膜の高さよりも高いポリエステルフィルム(例えば特許文献1)
(2)ポリエステルフイルムの一方の片側表面AのRa値が2〜4nm、Rz値が10〜40nmであり、他方の片側表面BのRa値が5〜15nm、Rz値が50〜250nmであり、表面Bの外側には塗布により形成された易滑被覆層がなく、また高さ540nm以上の突起個数が2〜20個/100cm であるポリエステルフィルムであって、表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けて使用されることを特徴とするフィルム(例えば特許文献2)
しかし近年、急速なDVC普及により市場の価格低下要求が強まっており、1回の蒸着操作でより多量のデジタルビデオテープが製造できるように、テープ加工速度の増速化による蒸着加工効率の向上が検討されている。しかし、増速化の場合、蒸着効率を保つためには蒸着加工温度を上げる必要があるが、その分ベースフィルムが受ける熱履歴は大きくなり、ベース材料であるポリエステルの熱分解物が冷却キャンや工程ロールに付着し、これが冷却効率の低下を引き起こしたり、蒸着磁性層に転写することによって磁気テープ特性が低下しやすくなる等、加工工程上の問題が起こりやすい。また、ポリエステル中には低分子量物が内在しているが、長期保管時にこの低分子量物が析出し、フィルムロールの状態で蒸着加工面側に転写、あるいは工程ロールを通して蒸着磁性層に転写することによってテープ特性が低下しやすい。低温保管とすることでこの問題は避けられるが、保管コストの増大、加工前に低温から常温へ移行する時の水分付着により蒸着時に工程ロールに貼り付きやすくなる等の問題がある。
上記の問題解決を図るべく、以下(3)〜(5)に示すようなベースフィルムが提案されている。
(3)層A及び層Bが積層されてなり、片側表面AのSRa値が2〜4nm、SRz値が10〜40nmであり、層B中には片側表面Bに表面突起を形成するための微細粒子が含まれ、該微細粒子の平均粒径が50〜500nmであり、層B中の含有率が0.01〜1.0重量%であり、表面Bの外側には塗布により形成された易滑被覆層が1〜10nmの厚みで設けられているポリエステルフィルムであって、表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けて使用されることを特徴とするフィルム(例えば特許文献3)
(4)ポリエステルフィルムの片側表面Aの表面粗さRa値が2〜5nmであり、そのポリエステルフィルムを10−4Paの高真空下、200℃の温度で5秒の熱処理を施した際の表面Aとは反対側の表面Bの表面突起周りの長径が0.1μm以上のポリエステルオリゴマーの析出量が2万個/mm2以下であり、表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けて使用されることを特徴とする磁気記録媒体用ポリエステリフィルム(例えば特許文献4)
(5)ポリエステル層Aと、該層Aの片面に積層した、環状3量体の含有量が0.8重量%以下であり、ポリマーの末端カルボキシル基濃度が35eq/10g以下であり、かつ平均粒径が50〜1,000nmでかつ層A中の不活性粒子Aの平均粒径よりも大きい不活性粒子Bを0.001〜1重量%含有するポリエステル層Bよりなる積層ポリエステルフィルム(例えば特許文献5)
しかしながら、(3)、(4)のようなベースフィルムは、表面Bの外側に塗布による易渇被覆層を設けており、熱分解物や低分子量物の析出、転写をある程度は抑制しているが、内在する低分子量物の量は従来と変わらないため抑制効果の点では不十分である。また、(5)のようなベースフィルムは、熱分解物や低分子量物の析出、転写を抑制せしめる点については有効であるが、B層のポリマー原料として固層重合やエステルワックス添加などの手法を用いている点に問題がある。すなわち、固層重合した場合、固有粘度が上昇することは避け得ず、2層積層時に固有粘度の差の大きい原料を用いた場合、積層ムラによってフィルム製造時に破断しやすく、またテープ加工時のスリット性が低下しやすいという問題もある。また、加工後のテープがカールしやすく結果的に磁気テープ特性が低下しやすい。さらにエステルワックスを添加した場合、経時でブリードアウトして加工時に工程ロールや冷却キャンを汚染しやすく、結果として磁気テープ特性が低下することがある。
従来のベースフィルムでは以上の諸問題を抱えることにより、市場の要求を満たすことができなかった。
特公平6−51401号公報 特開平10−172127号公報 特開2002−140812号公報 特開2002−208131号公報 特開2002−248723号公報
本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、各種記録媒体、特に蒸着磁気記録媒体用ベースとして用いた際の磁気テープ特性が良好な積層フィルムを提供することにある。
上記目的を達成するための本発明は、少なくとも2層のポリエステル層を有する積層フィルムであって、一方の表面を構成するポリエステル層Aの中心線平均表面粗さRaAと、他方の表面を構成するポリエステル層Bの中心線平均表面粗さRaBとの比率RaA/RaBが0.05〜0.7であり、ポリエステル層Aの環状化合物の含有量が0.8重量%より大きく、ポリエステル層Bの環状化合物の含有量が0.重量%以下であり、ポリエステル層Bのカルボキシル末端基濃度が35eq/106gより大きく、かつポリエステル層Bの固有粘度が0.62〜0.65であり、ポリエステル層Bとポリエステル層Aの固有粘度の差が0.06以下であり、ポリエステルA層側が磁性層を設ける側である磁気テープ用積層ポリエステルフィルムであることを特徴とする。

本発明によれば、以下に説明するとおり、常温保管後もオリゴマー個数が少なく、磁気テープ高速加工時に冷却キャンや搬送ロールの汚れが少なく、かつ加工後の磁気テープの特性に優れた(電磁変換特性が良好で、ドロップアウトが少ない)積層ポリエステルフィルムを得ることができる。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルをポリマーとして含んでいる。好ましくは、このポリエステルの含有量は全体の70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらには90重量%以上であることが最も好ましい。
本発明において、ポリエステルとは、ジオールとジカルボン酸とから縮重合によって得られるポリマーである。さらに、ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等で代表されるものであり、またジオールは、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等で代表されるものである。このようなポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(ポリエチレンナフタレート)等を使用することができる。
もちろん、これらのポリエステルは、ホモポリエステルであっても、コポリエステルであってもよく、コポリエステルの共重合成分としては、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分を用いることもできる。
本発明においては、ポリエチレンテレフタレートが強度、耐熱性、耐水性および耐薬品性等に優れているため、特に好ましく用いられる。
また、上記ポリエステルの固有粘度は特に限定されないが、25℃のオルソクロロフェノール中で測定したときに0.4〜0.8が好ましく、より好ましくは0.5〜0.75、さらには0.55〜0.7の範囲内であるものが、好適に使用できる。
また、得られるポリエステルの色調や耐熱性を向上させる目的で、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、スズ化合物等を添加してもよい。
さらに、本発明の目的を阻害しない範囲内で、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、耐光剤、耐候剤、充填剤、核剤、分散剤、カップリング剤等の添加剤を含有しても差支えない。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、少なくとも2層のポリエステル層から成る積層フィルムにおいて、一方の面を構成するポリエステル層Aの中心線平均表面粗さRaと、反対面側のポリエステル層Bの中心線平均表面粗さRaとの比率Ra/Raが0.05〜0.7であって、ポリエステル層Bの環状化合物の含有量が0.8重量%以下であり、かつポリエステル層Bとポリエステル層Aの固有粘度の差が0.1未満であることを特徴としているが、各要件について以下に詳述する。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、少なくとも2層の積層構成を有し、一方の表面を構成するポリエステル層Aの中心線平均表面粗さRaと、他方の表面を構成するポリエステル層Bの中心線平均表面粗さRaとの比率Ra/Raが0.05〜0.7であることが重要である。すなわち、一方の面を相対的に平滑な磁性層加工面とし、反対面を相対的に粗い走行面とすることで、製膜・加工時のフィルム搬送性、加工後の磁気テープ特性とテープ搬送性を両立せしめることが可能となる。比率Ra/Raが上記範囲外の場合にはフィルム・テープ搬送性、および磁気テープ特性が低下しやすい。また、比率Ra/Raの好ましい範囲は0.1〜0.6であり、さらには0.1〜0.55がより好ましい。
本発明におけるRa、Raの好ましい範囲は各々0.7〜7nm、2〜20nmであり、より好ましくは各々1〜5nm、3〜18nmである。なお、Ra、Raについては、後述の易滑被覆層がフィルム表面に積層されている場合は、易滑被覆層の表面を測定した値を意味する。
なお、本発明において2層以上の積層体とする方法としては、溶融製膜中の共押出により複合化する方法、あるいはそれぞれ別々に製膜した後、ラミネートする方法のいずれでもよいが、コストなどの点で前者の方法がより好ましい。
A層/B層の厚み比率は、B層を基準として2/1〜30/1が好ましく、より好ましくは3/1〜25/1である。厚み比率がこの範囲から外れた場合には、フィルム・テープ搬送性、磁気テープ特性が低下しやすく、またコストの点で不利となりやすい。
本発明の積層ポリエステルフィルムの全厚みは、特に限定されないが、通常3〜12μm、より好ましくは4〜10μm、さらには4〜8μmの範囲にあることが、製膜性、寸法安定性、実用面での取扱性などの点で好ましい。また、ポリエステル層Bの厚みの好ましい範囲は130〜1,400nm、さらには150〜1,200nmがより好ましい。130nm未満の場合、特に不活性粒子が含まれていると、それが脱落しやすくなり、脱落した粒子がポリエステル層A側に転写して磁気テープ特性が低下しやすい。一方、1,400nmを超える場合には、ポリエステル層Bの表面が粗くなりすぎて、磁性層を蒸着加工後にロール状で放置した際にポリエステル層Bの外側表面形状が磁性層面側に転写、表面うねり状となって磁気テープ特性が低下しやすい。
本発明の積層ポリエステルフィルムはポリエステル層Bの環状化合物の含有量が0.8重量%以下であることが重要である。含有量の好ましい範囲としては0.7重量%以下、さらには0.6重量%以下である。環状化合物が0.8重量%より多い場合には、蒸着加工時に冷却キャンや工程ロールが汚れやすく、あるいは常温保管時にポリエステル層Bから析出した低分子量物によって磁気テープ特性が低下しやすい。なお、上記の環状化合物は環状三量体であることが多い。
また、ポリエステル層Aの環状化合物の含有量は0.8重量%より大きいことが好ましい。ポリエステル層Aにおける含有量が0.8重量%以下の場合、フィルム製造時に工程中のロール、特に延伸ロールでキズが入りやすく、これが磁気テープ特性の低下を引き起こすことがある。
さらに本発明においては、ポリエステル層Bとポリエステル層Aの固有粘度の差が0.1未満であることが必要であり、好ましい範囲としては0.08以下、さらには0.06以下である。固有粘度の差が0.1以上である場合には、スリット後のテープがカールしてヘッドタッチ性あるいは搬送性が低下することによって磁気テープ特性が低下しやすい。
また、本発明においては、ポリエステル層Bのカルボキシル末端基濃度が35eq/10gより大きいことが好ましく、より好ましくは35.5eq/10g以上、さらには36eq/10g以上であることが最も好ましい。カルボキシル末端基濃度が35eq/10g以下の場合、フィルムが滑りやすくなって工程中の搬送ロールとの密着性が低下し、スリット性が低下してロール巻き姿が低下しやすくなる。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステル層Bに不活性粒子を含有せしめることが好ましいが、その平均粒子径は30〜1,000nmが好ましく、より好ましくは40〜800nm、さらには50〜500nmが最も好ましい。また、ポリエステル層Bに対する含有量は0.005〜1.5重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜1重量%、さらには0.05〜0.8重量であることが好ましい。上記範囲の下限未満の場合、ポリエステル層Bの外側表面が平滑すぎてフィルム・テープ搬送性が低下し、ハンドリング性やフィルムロール製品の巻き形状の安定性が低下しやすい。 一方、上記範囲の上限を超える場合には、逆に粗くなりすぎて、磁性層を蒸着加工後にロール状で放置した際にポリエステル層Bの外側表面形状が磁性層面側に転写、表面うねり状となって磁気テープ特性が低下しやすい。
本発明おいては、上記したように不活性粒子の粒径と含有量とを適宜コントロールすることにより、ポリエステル層Aの中心線平均表面粗さRaと、反対面側のポリエステル層Bの中心線平均表面粗さRaとの比率Ra/Raを0.05〜0.7とし、またポリエステル層Bの中心線平均表面粗さRaを2〜20nmの範囲とすることが可能となる。
不活性粒子として使用される粒子の好ましい例としては、無機系ではシリカ、コロイダルシリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ−アルミナ複合体(アルミナシリカ)など、有機系では、架橋ポリスチレン、ポリアクリル、架橋ジビニルベンゼン、シリコーンの単独重合体もしくは共重合体などを用いることができる。上記のうちでは、磁性層を蒸着加工後にロール状で放置した際の磁性層面側への影響の点で有機系粒子が好ましく、架橋ポリスチレン、シリコーンが特に好ましいものである。
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、走行面側としてのポリエステル層Bには不活性粒子を含有せしめることが好ましいが、磁性層加工面側のポリエステル層A中には実質的に不活性粒子を含有していないことが好ましく、同時にポリエステル層Aの外側表面に微細粒子を含有した易滑被覆層Cを設けることが、フィルム間でのブロッキング防止効果と磁気テープ特性とを両立できるため好ましい態様である。この場合、微細粒子を含有した易滑被覆層Cを設けることは、ポリエステル層Aの中心線平均表面粗さRaと、反対面側のポリエステル層Bの中心線平均表面粗さRaとの比率Ra/Raを0.05〜0.7とし、また、前述のとおりポリエステル層Aの中心線平均表面粗さRaを0.7〜7nmとするのに有効な手段となる。
該微細粒子としては、平均粒子径3〜100nmさらには5〜70nmが好ましく、フィルム表面における存在密度としては5×10〜5×10個/mmさらには1×10〜1×10個/mmが好ましい。平均粒径が3nmより小さい場合にはブロッキング防止効果が低下したり、あるいは微細粒子同士の凝集が生じやすくなって、粒子の脱落や必要以上の粗大突起の形成を引き起こすことがあり、100nmより大きい場合には磁気テープ特性が低下しやすい。また、存在密度については5×10個/mm未満では、微細粒子同士の間隔が広くなりすぎて実質的なブロッキング防止効果が薄れやすく、一方、5×10個/mmより多い場合には、凝集によって粒子の脱落や必要以上の大きさの突起形成を引き起こしやすい。また、易滑被覆層Cの厚みは2〜20nm、さらには4〜15nmであることが好ましい。厚みが2nm未満であると、微細粒子が脱落しやすくなり、冷却キャンや工程中の搬送ロールに付着し、これが冷却効率の低下を引き起こしたり、蒸着磁性層に転写することによって磁気テープ特性が低下しやすくなる。また、フィルム・テープ搬送性も低下しやすい。一方、厚みが20nmを超える場合、磁性層加工面側であるポリエステル層Aの表面粗さが大きくなり、磁気テープ特性が低下しやすくなる。
易滑被覆層C中に使用される微細粒子としては、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、シリコーン、ポリエポキシ、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン/プロピレン、架橋ジビニルベンゼン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリル酸アミド、アクリル−スチレン、スチレン−ブタジエンなどの単独または共重合体、あるいはこれらの各種変成体などの有機系微細粒子、炭酸カルシウム、球形シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ等の無機系微細粒子、あるいは上記無機系粒子を核として、有機高分子で被覆した複合微細粒子が使用できるが、これらに限定されない。有機系微細粒子としては末端基がエポキシ、アミン、カルボン酸、水酸基等で変成された自己架橋性のものも好ましい。また、微細粒子の球形比が1.0〜1.3であることが好ましい。
易滑被膜層C中にバインダーとして使用する樹脂としては、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子から構成されていることが好ましい。易滑被覆層Cに用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、トラガントゴム、アラビアゴム、カゼイン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。なかでも、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体の高分子ブレンド体が特に好ましい。水溶性ポリエステル共重合体としては、ジカルボン酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸成分のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70重量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。セルロース誘導体はポリエステル分解物が析出することを防ぐために寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロース誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性を増大させるために寄与する。なお、水溶性ポリエステル共重合体のガラス転移点は40℃以上、さらには50℃以上であることが好ましい。フィルム製膜工程、あるいは磁性層加工工程ともにフィルムは熱を受けるため、ガラス転移点が40℃未満の樹脂を用いた場合には易滑被覆層Cによってフィルムが工程内の搬送ロールに貼り付きやすく、かえってシワ発生などの原因になることがある。
さらに本発明においては、易滑被覆層C中にシリコーンを含有せしめることが好ましいが、シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより易滑被覆層C表面の易滑性が向上し、冷却キャン、搬送ロールによる耐削れ性が確保され、同時にフィルム搬送性も向上する。またフィルムをロール状に巻き取ったときフィルム間でのブロッキングが防止される。なお、フッ素系化合物を易滑剤として用いてもよい。
また、本発明においては、ポリエステル層Bの外側表面に被覆層Dを設けることも好ましい。これにより、磁気テープ高速加工時に冷却キャンや搬送ロールの汚れをより少なくでき、さらに磁気テープ特性やフィルム間でのブロッキング防止効果が期待できる。被覆層Dを構成する成分としては、例えば、易滑被覆層C中に使用するバインダー樹脂を適用することが好ましい。
本発明における、易滑被覆層C、被覆層Dの形成方法は、易滑被覆層C、被覆層D形成塗液をポリエステルフィルムに塗布、乾燥して設ける方法が好ましい。易滑被覆層C、被覆層D形成塗液の塗布方法としては、例えば、リバース(ロール)コート、グラビアコート、ナイフコート、エアーナイフコート、ロールコート、ブレードコート、ビードコート、回転スクリーンコート、スロットオリフィスコート、ロッドコート、バーコート、ダイコート、スプレーコート、カーテンコート、ダイスロットコート、チャンプレックスコート、ブラシコート、ツーコート、メータリングブレード式のサイズプレスコート、ビルブレードコート、ショートドウェルコート、ゲートロールコート、グラビアリバースコート、エクストルージョンコート、押出コートなどの方法を用いることができる。
また、易滑被覆層C、被覆層D形成塗液の塗布工程としては、ポリエステルフィルムの製膜工程内で塗布する方法(インラインコート)、製膜後のフィルム上に塗布、乾燥する方法(オフラインコート)のいずれの方法であってもよいが、均一塗布、薄膜塗布および経済性等の点で、インラインコートがより優れた方法である。さらに、インラインコートでは、ポリエステルフィルムを例に挙げれば、ポリエステルフィルムの配向、結晶化が完了する以前に塗布を行うことが好ましく、例えば逐次二軸延伸製膜工程では、縦延伸後のフィルムに塗布し、横延伸、熱固定を経る間に、易滑層とフィルム本体との密着向上を得る方法が一般的である。また、コート前のフィルムには塗布性改良を目的として、予めその表面にコロナ放電処理、プラズマ処理などの前処理を施しておくことも可能である。
また、該易滑被覆層C、被覆層D形成塗液の液媒体は水系、溶剤系あるいは両者混合系のいずれの液媒体でもよいが、インラインコート法による場合には、取扱性や防爆などの安全性の点で水系または水を主体とした両者混合系の液媒体が好ましく用いられる。また、塗液には、フィルムへの濡れ性を向上させるために界面活性剤(アニオン型、ノニオン型)を添加してもよい。
次に本発明のポリエステルフィルムに使用されるポリエステル原料、およびポリエステルフィルムの製造方法について説明する。
本発明で用いられるポリエステル原料は、通常用いられる種々のエステル化反応、エステル交換反応およびそれに引き続く重縮合反応により製造することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸またはジメチルテレフタレートとエチレングリコールとを、エステル化またはエステル交換せしめ、しかる後減圧下に重縮合せしめる方法で製造できる。ここで、触媒などとして、例えば、Mn、Mg、Ca、Ti、Ge、Sb、Coなどの元素を含む化合物やリン化合物を使用することができる。また、安定剤、顔料、染料、核剤、充填剤などを使用してもよい。
かくして得られたポリエステルを、シートカット法、ストランドカット法などにより粒子状(チップ形状)に成形する。チップの形状は任意でよいが、あまりに小さすぎて微粉末状となったものは熱処理工程やその後の成形工程(特に押出工程)でのトラブルの原因となる。また形状が大きい場合には、環状化合物を減少させる意味では特に問題にはならないが、操作性の点からは問題が生じやすい。これらの観点から、ポリエステルチップの大きさは、等価球直径で1mm〜50mmが好ましく、より好ましくは2mm〜20mmである。なお、ここで等価球直径とは粒子と同じ体積を有する球の直径である。
上記の方法で得られたポリエステルチップは、環状化合物の含有量を低減せしめる手段を講じていないため、そのままポリエステル層Aに使用することができる。
本発明において、ポリエステル層Bの環状化合物の含有量を0.8重量%以下とし、かつポリエステル層Bとポリエステル層Aの固有粘度の差を0.1未満とするためには、以下の手法を用いることが好ましい。すなわち、上記の方法で得られたポリエステルチップを、水分量が1,000ppm以下、酸素濃度が1,000ppm以下である不活性ガス雰囲気中であって、かつ実質的に不活性ガス非流通下に、その融点ないしその融点より80℃低い範囲の温度で加熱処理したものをポリエステル層Bに使用することが好ましい。
また、この方法はカルボキシル末端基濃度を35eq/10gより大きくするためにも有効な手法である。
上記において、雰囲気中の水分量が1,000ppmを超えると環状化合物は減少するものの、同時にポリエステルが加水分解し、得られるポリエステルの固有粘度が低下しやすい。より好ましい水分量は500ppm以下であり、最も好ましくは400ppm以下である。一方、好ましい水分量の下限は1ppmである。なぜならば、水分量が1ppm未満の場合には、不活性ガスの純度を高めるために工程が複雑になるばかりでなく、環状化合物の減少速度が低下する傾向にある。また、酸素濃度が1,000ppmを超える場合には、ポリエステルの劣化が生じやすい。より好ましい酸素濃度は500ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。
加熱処理温度は、使用するポリエステルの融点ないし融点より80℃低い範囲までの温度が好ましく、通常のポリエチレンテレフタレートについては、好ましくは190℃以上260℃以下、特に好ましくは200℃以上250℃以下である。熱処理温度が190℃より低い場合には環状化合物の減少速度が小さくなる傾向にあり、260℃を超える場合には、ポリマーが溶解し、加熱処理を行っても環状化合物が減少しにくくなる。
熱処理の時間は通常2時間以上60時間以下が好ましく、より好ましくは3時間以上40時間以下である。2時間未満の場合には環状化合物の減少効果が小さく、また60時間より長い場合には環状化合物の減少速度が小さくなり、逆に熱劣化などの問題が大きくなってくる。
本発明でいう不活性ガスはポリエステルに対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。
また、本発明においては、加熱処理槽内を前記の不活性ガスによって微加圧状態にしてポリエステルを加熱処理することが好ましい。加熱処理時の圧力は1.05〜5.0kg/cm、より好ましくは1.10〜2.0kg/cmである。槽内の圧力が1.05kg/cm未満の場合は槽内のポリエステル粒子の移動にともない、大気中の酸素および水分が混入し固有粘度の低下を引きおこしたり、酸化分解や加水分解をひきおこしやすくなる。また5.0kg/cmを超えると設備的に高価となりコスト競争力が低下しやすい。
本発明に使用する加熱処理装置としては、ポリエステルを均一に加熱できるものが好ましい。具体的には静置式乾燥機、回転式乾燥機、流動式乾燥機や種々の攪拌翼を有する乾燥機などを用いることができる。
また、本発明においては加熱処理を実施する前にポリエステルの水分は適度に除去しておくことが好ましい。さらには、加熱処理時にポリエステルチップ同士の融着を防止するため、予めポリマーを一部結晶化させておくことがより好ましい。
次に、ポリエステルフィルムの製造方法の一例を説明する。
磁性層加工面側のA層形成のため、乾燥したポリエステルのチップを押出機Aに供給し、走行面側のB層形成のためポリエステルのチップと平均粒子径30〜1,000nmの不活性粒子を0.005〜1.5重量%となるように混合したものを押出機Bに供給し、溶融してTダイ複合口金内に導入して口金内でA層/B層の2層に積層されるよう合流せしめた後、シート状に共押出して溶融積層シートとする。A層/B層の厚み比率はB層を基準にして2/1〜30/1が好ましい。
この溶融積層シートを、表面温度10〜60℃に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸積層フィルムを作製する。該未延伸積層フィルムを70〜120℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に2〜5倍延伸し、20〜30℃のロール群で冷却する。
続いて長手方向に延伸した積層ポリエステルフィルム表面にそのまま、あるいは必要に応じてコロナ放電処理を施した後、易滑被覆層形成塗液を塗布する。このときA層側に易滑被覆層C、B層側には被覆層Dが設けられるように塗布する。この易滑被覆層形成塗液を塗布された積層ポリエステルフィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き90〜150℃に加熱した雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に2〜5倍に延伸する。
延伸倍率は、縦、横それぞれ2〜5倍とするが、その面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は6〜20倍であることが好ましい。面積倍率が6倍未満であると得られるフィルム強度が不十分となり、逆に面積倍率が20倍を超えると延伸時に破れを生じ易くなる傾向がある。
このようにして得られた二軸延伸積層ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させて平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて150〜230℃で1〜30秒間の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却して巻き取ることにより、本発明の積層ポリエステルフィルムを得ることができる。なお、上記熱処理工程中では、必要に応じて横方向あるいは縦方向に1〜12%の弛緩処理(リラックス)を施してもよい。また、二軸延伸は上述の逐次延伸の他に同時二軸延伸でもよく、同時二軸延伸の場合のインラインコートは、溶融シートをドラム上に密着冷却固化した未延伸フィルム表面に必要に応じてコロナ放電処理を施した後、易滑層形成塗液を塗布し、延伸すればよい。また二軸延伸後に縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。
本発明の実施例で用いた評価方法、評価基準は以下のとおりである。
(1)ポリマーの極限粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。フィルムについてはポリエステル層A、ポリエステル層Bから削り出した試料を用いた。
(2)ポリエステル層中の粒子の平均粒径、含有量
a.粒子粉体から求める場合
顕微鏡試験台上に不活性粒子粉体を、この粒子ができるだけ重ならないように散在せしめ、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率1万〜10万倍で観察し、少なくとも100個の粒子について面積円相当径を求め、この数平均値をもって平均粒径とした。
b.フィルム中から求める場合
積層フィルムの小片を樹脂または氷で固定し、ミクロトームを用いてフィルム長手方向に平行に切断した超薄切片を作製する。次に、フィルム断面をTEMを用いて倍率1万〜10万倍で観察し、任意に場所を変えて少なくとも100個の粒子の透過円相当径を測定し、その平均値を算出して求めた。凝集粒子の場合は凝集体について等価円相当径の平均値から求めた。
粒子の含有量は、ポリエステルは溶解し、粒子は溶解させない溶媒(オルソクロロフェノールを使用。その他、例えば、メタクロロフェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、またはこれらの混合溶媒なども使用可能。)を選択し、粒子をポリエステルから遠心分離して重量を測定して算出した。なお、粒子の重量の全体重量に対する比率(重量%)をもって粒子含有量とした。場合によっては赤外分光法の併用も有効である。
(3)易滑被覆層C中の微細粒子の粒径、存在密度
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてフィルムの易滑被覆層C積層面を任意の箇所について3万〜30万倍の倍率で任意の箇所を撮影したSEM写真から、少なくとも100個の微細粒子について粒子ごとに最大径と最小径を測定し、個々の粒子の粒径を最大径と最小径の平均として求めた。さらに、それら測定対象とした粒子の粒径の平均値を算出して平均粒径とした。また、存在密度については1万〜10万倍の倍率で任意の箇所を5枚撮影したSEM写真から、1枚当たり少なくとも200個の粒子の個数を数え、写真5枚での平均値から単位面積あたりの粒子数を算出して存在密度とした。
(4)易滑被覆層C、被覆層Dの厚み
フィルムの小片を樹脂で固定し、フィルムの長手方向に平行に切断したフィルム断面の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)により2万〜20万倍で観察、任意の箇所を5枚撮影したTEM写真から、易滑被覆層C、被覆層Dの厚みを求めた。
(5)フィルム表面粗さ(Ra)
卓上プローブ顕微鏡“ナノピクス”の測定ヘッドNPX100[NPX1MAP001]およびコントローラNanopics1000[NPX1EBP001](いずれもセイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて測定し、任意の箇所で測定した5点の平均値をRaとした。なお、測定面積は、磁性層加工面側は40μm角、走行面側は100μm角とした。その他の測定条件は次のとおりである。スキャン速度:380sec/FRAME、スキャン回数:512本、振幅度合い:磁性層加工面側はLLモード、走行面側はHHモード。
(6)ポリエステル層中の環状化合物の定量
ポリエステル層A、Bから削り出した試料10mgを1mlの1,1,2,2−テトラクロルエタンにガラスアンプル中で200℃、10分間加熱して溶解し、冷却後内容物をクロロホルムで稀釈して25mlとし、得られた溶液を東洋曹達(株)の高速液体クロマトグラフHLC−802URを用いてクロロホルムを展開溶剤として分析して求めた。
(7)ポリエステル層B中のカルボキシル末端基濃度
ポリエステル層Bから削り出した試料をオルソクレゾール/クロロホルム(重量比7/3)に95℃で溶解し、アルカリ溶媒中で電位差測定して求めた。
(8)オリゴマー析出特性(オリゴマー個数)
フィルムロールを乾燥剤を入れてアルミ蒸着フィルム内に梱包した後、恒温恒湿機内で温度25℃で10日間、および6ヶ月間保管した後のオリゴマー個数をカウントした。なお、梱包内部の相対湿度は20%以下であった。保管前、保管後の各フィルムロールからサンプルを切出し、その磁性層加工面側(A層)表面をSEMで2,000〜20,000倍に拡大観察し、保管後の表面のみに析出した長径0.1μm以上の異物をオリゴマーと見なした。任意に5枚撮影した写真の平均値から、1mm当たりの個数に換算してオリゴマー個数とした。
(9)ロール、冷却キャン汚れ
25℃で10日間、および6ヶ月間保管したフィルムロールを用い、ベースフィルムの表面へ強磁性金属薄膜を真空蒸着する際のロール、冷却キャンの汚れ状態を下記基準で判定し、この汚れ状況から、ベースフィルムからのポリエステル低分子量や分解物の析出の多寡を判断した。◎および○の場合が工程上およびテープ特性上問題ないものである。
この真空蒸着工程において、ベースフィルムの巻長(ロール、冷却キャンの汚れ判定までに通過したフィルムの長さ)は20,000m、フィルム走行速度は110m/分、冷却キャンの温度はマイナス25度に設定し、コバルト−酸素薄膜を110nmの膜厚で形成させた。
全く汚れなし ・・・◎
全面に均一に薄く汚れあり(青味) ・・・○
全面に均一に汚れあり(白味) ・・・△
全面あるいは部分的に粉状物が付着・・・×
(9)テープのカール性
25℃で10日間保管したフィルムロールを用いて作製したDVCテープについて、スリット後のDVCテープ(幅6.35mm)を5cm長さに切出したものを平滑なガラス板上に置き、テープ幅方向について中央部または端部の浮き上がり高さ(ガラス板から頂点までの距離)を測定して下記基準で判定した。◎および○の場合がテープ特性上問題ないものである。
全くカールなし(浮き上がり高さ0mm)・・・◎
ゆるいカールあり(浮き上がり高さ0より大、1mm未満)・・・○
ややきついカールあり(浮き上がり高さ1〜2mm)・・・△
きついカールあり(浮き上がり高さ2mmより大)・・・×
(10)テープ特性
市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダーのLPモードを用いて静かな室内で録画、再生し、ドロップアウト個数を求めることにより行った。ドロップアウト個数の測定は、25℃で10日間、および6ヶ月間保管したフィルムロールを用い、後述の方法で作製したDVCテープを市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダーで録画し、1分間の再生をして画面に現れたブロック状のモザイク個数を数えることによって行った。テープ製造後、150回繰返し走行後のドロップアウト(DO)個数を測定した。DO個数の少ないものほど良好である。
次に実施例に基づき、本発明を説明する。
以下、特に説明のない限り「部」は「重量部」を表す。
(実施例1)
(1)ポリエステル原料の製造
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール70部、酢酸カルシウム0.09部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02部および三酸化アンチモン0.03部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧にし、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、その後吐出ノズルより水中に押し出しカッターによって径約5mm長さ約7mmの円柱状のポリエチレンテレフタレート(以降、PETという)のチップ(A1)とした。このPETチップの等価球直径は6.4mm、固有粘度は0.63、環状化合物の量は1.05重量%、カルボキシル末端基濃度は37.2eq/10gであった。
得られたPETチップA1を150℃で減圧下に乾燥し、ついで窒素ガスで系内1.20kg/cm2の微加圧状態にした。反応系内の酸素濃度は50ppm、水分濃度は10ppmであった。該圧力で系内を保持し(非流通)、温度220℃で24時間熱処理を実施しPETチップB1を得た。得られたPETチップの固有粘度は0.66、環状化合物の量は0.38重量%、カルボキシル末端基濃度は35.2eq/10gであった。
(2)ポリエステルフィルムの製造方法
A層を形成するため、上記(1)の方法で製造したPETチップA1を180℃で3時間乾燥した後、押出機Aに供給し、常法により285℃で溶融してTダイ複合口金に導入した。
一方、B層を形成するため、上記(1)の方法で製造したPETチップB1をベースに、さらに平均粒径350nmの架橋ポリスチレン粒子を0.33重量%含有させたチップ原料を180℃で3時間減圧乾燥した後に、押出機B側に供給し、常法により285℃で溶融して同様にTダイ複合口金に導入した。
次いで、該口金内での積層比をA層/B層=12/1として合流せしめた後、シート状に共押出して溶融積層シートとした(上記の積層比12/1は二軸延伸フィルム(最終フィルム)におけるA層/B層の厚み比に一致する。以下、同様)。そして、該溶融シートを、表面温度25℃に保たれた冷却ドラム上にB層が該ドラム側に来るよう静電荷法で密着冷却固化させて未延伸積層フィルムを得た。続いて、該未延伸積層フィルムを常法に従い105℃に加熱されたロール群を用いて縦方向(以降、MDという。)に3.0倍延伸し、25℃のロール群で冷却して一軸延伸フィルムとした。さらに続いて該一軸延伸フィルムのA層側表面に下記組成の易滑被覆層C形成塗液(水溶液)をメタリングバーを用いたバーコート方式にて塗布した。
[易滑被覆層C形成塗液]
水溶性ポリエステル 0.10重量%
メチルセルロース 0.30重量%
平均粒子径18nmのコロイダルシリカ 0.03重量%
この易滑被覆層C形成塗液を塗布された一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の予熱ゾーンに導き105℃で予熱・乾燥後、引き続き連続的に110℃の加熱ゾーンで横方向(以降、TDという。)に4.2倍延伸した。さらに引き続いてテンター内の熱処理ゾーンで210℃の熱処理を施して結晶配向を完了させ、均一に徐冷後に巻き取り、ベース厚み6.3μm、易滑層の厚み1.9nmの構成としたポリエステルフィルムを中間製品として得た。さらに、スリッターで620mm幅にスリットし、20,000m長さのフィルムロール状物とした。
該ポリエステルフィルムのA層側に真空蒸着法によりコバルトを蒸着させ、膜厚110nmの強磁性金属薄膜層を形成させた。次にスパッタリング法によりダイヤモンド状カーボン膜を10nmの厚みで形成させ、さらにフッ素系潤滑剤層を6nmの厚みで設けた。続いて、B層上にカーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を400nmの厚さで設け、スリッターにより6.35mmの幅にスリットし、蒸着磁気記録媒体(DVCテープ)を作製した。
得られたPETフィルムの特性は表1、表2に示したとおりオリゴマー個数が少なく、蒸着工程でのロール、冷却キャンの汚れも少なかった。またDVCテープの特性は表2に示したとおり、テープが全くカールせず、またDO個数が保管6ヶ月経過後も0個であり、カール性、磁気テープ特性とも非常に良好であった。すなわち、蒸着磁気録媒体としての特性、並びに蒸着磁気記録媒体への加工性が極めて良好であった。
(実施例2)
ポリエステル原料の製造において、重縮合反応時間を1.5時間としたこと以外は実施例1と同様にしてPETチップA2(固有粘度0.59、環状化合物1.30重量%、カルボキシル末端基濃度40.3eq/10g)を得た。さらに、ポリエステルフィルムの製造においてPETチップA1の代わりにPETチップA2を用いたこと、およびポリエステル層Bに含有せしめる粒子として架橋ポリスチレンの代わりに架橋ジビニルベンゼンを用いたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造した。その結果、得られたPETフィルムおよびDVCテープは表1、表2に示したとおり各特性に優れるものであった。
(実施例3)
ポリエステル原料の製造において、熱処理時間を12時間としたこと以外は実施例1と同様にしてPETチップB2(固有粘度0.64、環状化合物0.46重量%、カルボキシル末端基濃度36.3eq/10g)を得た。さらに、ポリエステルフィルムの製造においてPETチップB1の代わりにPETチップB2を用いたこと、ポリエステル層Bに含有せしめる粒子を平均粒子径180nmの球状シリカ粒子0.40重量%としたこと、および口金内での積層比をA層/B層=9/1の厚み比としたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造した。その結果、得られたPETフィルムおよびDVCテープは表1、表2に示したとおり各特性に優れるものであった。
(実施例4)
ポリエステルフィルムの製造においてポリエステル層Bに含有せしめる粒子を平均粒子径300nmのアルミナシリカ粒子0.45重量%としたこと、口金内での積層比をA層/B層=7/1の厚み比としたこと、および易滑被覆層Cのコロイダルシリカを平均粒子径10nmのアクリル酸エステル系有機粒子とし、含有量を0.015重量%に変更したこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造した。その結果、得られたPETフィルムおよびDVCテープは表1、表2に示したとおり各特性に優れていた。
(実施例5)
ポリエステルフィルムの製造において一軸延伸フィルムのB層側表面にさらに下記組成の被覆層D形成塗液(水溶液)をメタリングバーを用いたバーコート方式にて塗布したこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造した。
[被覆層D形成塗液]
水溶性ポリエステル 0.10重量%
メチルセルロース 0.30重量%
その結果、得られたPETフィルムおよびDVCテープは表1、表2に示したとおり各特性に優れるものであった。
(比較例1)
ポリエステルフィルムの製造においてPETチップB1の代わりにPETチップA1を用いたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造した。得られたPETフィルムの特性は、表1、表2に示したとおり、オリゴマー個数が多く、蒸着工程でのロール、冷却キャンの汚れも見られた。また、DVCテープの特性としては表2に示したとおりDO個数が多く磁気特性が不良であった。すなわち、蒸着磁気記録媒体への加工性、並びに蒸着磁気録媒体としての特性に劣っていた。
(比較例2)
ポリエステル原料の製造において、実施例1と同様にして得られたPETチップA1を150℃で減圧下に乾燥した後、0.5mmHgの高減圧下、220℃で18時間固相重合してPETチップB3(固有粘度0.80、環状化合物0.31重量%、カルボキシル末端基濃度26.5eq/10g)を得た。このPETチップB3をPETチップB1の代わりに用いたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造した。得られたPETフィルムおよびDVCテープの特性は、表1、表2に示したとおりであって、オリゴマー個数が少なく、蒸着工程でのロール、冷却キャンの汚れが見られないものの、テープのカール性や磁気テープ特性(DO個数)に劣っており、蒸着磁気録媒体としての特性に劣るものであった。
(比較例3)
ポリエステルフィルムの製造においてポリエステル層Bに含有せしめる粒子を平均粒子径600nmの球状シリカ粒子0.30重量%としたこと、および口金内での積層比をA層/B層=6/1の厚み比としたこと、および易滑被覆層Cのコロイダルシリカを平均粒子径6nmのものとし、含有量を0.008重量%に変更したこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造した。得られたPETフィルムおよびDVCテープの特性は、表1、表2のとおりであって、オリゴマー個数が少なく、蒸着工程でのロール、冷却キャンの汚れが見られず、テープのカール性も良好なものの、磁気テープ特性(DO個数)に劣っており、蒸着磁気録媒体としての特性に劣るものであった。
(比較例4)
ポリエステルフィルムの製造においてポリエステル層Bに含有せしめる粒子を平均粒子径150nmの球状シリカ粒子0.15重量%としたこと、および口金内での積層比をA層/B層=15/1の厚み比としたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。得られたPETフィルムおよびDVCテープの特性は、表1、表2に示したとおりであって、比較例3と同様に磁気記録媒体としての特性(DO個数)に劣るものであった。
Figure 0004929669
Figure 0004929669
本発明の積層ポリエステルフィルムは、特に蒸着磁気記録媒体とした場合の特性が良好であり、該用途のベース基材として好適に使用することができる。また、蒸着磁気記録媒体だけでなく、塗布型磁気記録媒体、光記録媒体、光磁気記録媒体などの各種記録媒体用のベース記材としても好適に利用可能であるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。

Claims (7)

  1. 少なくとも2層のポリエステル層を有する積層フィルムであって、一方の表面を構成するポリエステル層Aの中心線平均表面粗さRaAと、他方の表面を構成するポリエステル層Bの中心線平均表面粗さRaBとの比率RaA/RaBが0.05〜0.7であり、ポリエステル層Aの環状化合物の含有量が0.8重量%より大きく、ポリエステル層Bの環状化合物の含有量が0.重量%以下であり、ポリエステル層Bのカルボキシル末端基濃度が35eq/106gより大きく、かつポリエステル層Bの固有粘度が0.62〜0.65であり、ポリエステル層Bとポリエステル層Aの固有粘度の差が0.06以下であり、ポリエステルA層側が磁性層を設ける側である磁気テープ用積層ポリエステルフィルム。
  2. RaAが0.7〜7nmであり、RaBが2〜20nmであり、ポリエステル層Bが不活性粒子を含有している、請求項1に記載の磁気テープ用積層ポリエステルフィルム。
  3. 有機粒子が不活性粒子として含まれている、請求項に記載の磁気テープ用積層ポリエステルフィルム。
  4. ポリエステル層Aの外側表面に微細粒子を含有する易滑被覆層Cが設けられている、請求項1〜のいずれかに記載の磁気テープ用積層ポリエステルフィルム。
  5. ポリエステル層Bの外側表面に被覆層Dが設けられている、請求項1〜のいずれかに記載の磁気テープ用積層ポリエステルフィルム。
  6. ポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートである、請求項1〜のいずれかに記載の磁気テープ用積層ポリエステルフィルム。
  7. デジタル記録方式の磁気テープ用ベースフィルムとして用いられる、請求項1〜のいずれかに記載の磁気テープ用積層ポリエステルフィルム。
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