JP2004262162A - 記録媒体用ポリエステルフィルム及び磁気記録テープ - Google Patents
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Abstract
【課題】蒸着速度を上げて磁気テープを製造しても冷却キャンが汚れず、フィルム製造から蒸着までのリードタイムが長時間となっても電磁変換特性に優れDOの少ないデジタルビデオテープを作製できる記録媒体のベースフィルム用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】平均粒径50〜500nmの微細粒子を0.01〜1.0重量%含有する層Bが片側表面に配された積層フィルム構造の記録媒体用ポリエステルフィルムであって、層B側の表面とは反対側の表面Aがデータ記録材薄膜が形成される面であり、表面Aにおける表面粗さRa値が0.5〜4nmであり、層Bを構成するポリエステルがチタン化合物をポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有しアンチモン化合物量が対ポリエステルのアンチモン原子換算で0〜2ppm、ゲルマニウム化合物量が対ポリエステルのゲルマニウム原子換算で0〜2ppmのポリエステルである。
【選択図】 なし
【解決手段】平均粒径50〜500nmの微細粒子を0.01〜1.0重量%含有する層Bが片側表面に配された積層フィルム構造の記録媒体用ポリエステルフィルムであって、層B側の表面とは反対側の表面Aがデータ記録材薄膜が形成される面であり、表面Aにおける表面粗さRa値が0.5〜4nmであり、層Bを構成するポリエステルがチタン化合物をポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有しアンチモン化合物量が対ポリエステルのアンチモン原子換算で0〜2ppm、ゲルマニウム化合物量が対ポリエステルのゲルマニウム原子換算で0〜2ppmのポリエステルである。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、記録媒体用ポリエステルフィルムに関する。特に、デジタルビデオカセットテープ用等、デジタルデータを記録する強磁性金属薄膜型磁気記録媒体用のベースフィルムとして好適なポリエステルフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
1995年に実用化された民生用デジタルビデオテープは、ベースフィルムの片側表面上に、Coの金属磁性薄膜を真空蒸着により設け、その表面にダイヤモンド状カーボン膜をコーティングし、更にその上に潤滑剤層をコーティングにより設け、さらに、ベースフィルムの反対面側に、ビデオテープレコーダー内でのテープの走行性、耐久性を確保するためにバックコート層を設けることにより製造されたものである。このデジタルビデオテープは、Hi8用ME(蒸着)テープに比べて表面性が更に平滑化したにもかかわらず、良好な耐久性をもつ。
【0003】
そのベースフィルムとしては、
▲1▼ポリエステルフィルムと、該フィルムの少なくとも片面に密着された不連続皮膜とからなり、その不連続皮膜中及び皮膜表面に微粒子が存在するポリエステルフィルム(例えば特許文献1参照)、
▲2▼熱可塑性樹脂からなる層Aと、微粒子が含有された熱可塑性樹脂からなる層Bとが積層された複合フィルム(例えば特許文献2参照)、
▲3▼平滑なポリエステルフィルムの非磁性面側表面に、滑剤主体の被覆層が形成されたフィルム(例えば特許文献3〜5参照)、
等が用いられている。このベースフィルムは、Hi8MEテープ用ベースフィルムに比べ、金属磁性膜形成面側の表面の粗度がさらに小さく設計されている。
【0004】
しかしながら、このように磁性面が非常に平滑な民生用デジタルビデオテープは、その磁性面の表面性の変動により電磁変換特性が非常に大きく変化し、また蒸着工程での冷却キャンに付着する異物の影響により、得られるテープのドロップアウト(DO)特性が非常に大きく変化する。
【0005】
すなわち、デジタルビデオテープ用の強磁性金属薄膜を真空蒸着により設けるためのベースフィルムとして前記▲1▼のフィルムを用いるとき、良好な高密度磁気記録特性が得られるが、ハンドリング性が不良で、大量生産には不適当である。前記▲2▼のフィルムから作成したテープはテープ磁性面の表面うねりのバラツキが大であり、電磁変換特性のバラツキが大となる問題がある。また、前記▲3▼のフィルムを用いる場合は、非磁性面側表面の滑剤主体の被覆層が蒸着工程、特に真空蒸着の冷却キャンで削れたり剥離しがちであり、それによりDOが多くなる欠点がある。
【0006】
真空蒸着工程で冷却キャンに付着する汚れが少なく、真空蒸着により得られた磁気テープの表面うねりが小さく、電磁変換特性の良好な磁気テープとすることができ、しかもハンドリング性が良好で、大量生産に適した磁気記録媒体用ポリエステルフィルムを与える事を目的として、特許文献6において、ポリエステルフイルムの一方の片側表面AのSRa値が2〜4nm、SRz値が10〜40nmであり、他方の片側表面BのSRa値が5〜15nm、SRz値が50〜250nmであり、表面Bの外側には塗布により形成された易滑被覆層がなく、また高さ540nm以上の突起個数が2〜20個/100cm2 であるポリエステルフィルムであって、表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けて使用されることを特徴とする磁気記録媒体用ポリエステルフィルムが提案されている。
【0007】
しかしながら、民生用デジタルビデオテープは非常に好評であり、世界市場により多くのテープを投入することが望まれており、1回の蒸着操作でより多量のデジタルビデオテープが製造できるように、ロールに巻かれるベースフィルムの長さが従来は12000m以下であったものを、15000m以上、更には20000m以上と、より長尺化することが行われてきている。
【0008】
また、磁気テープ製造時の蒸着速度の増速も行われており1日あたりのデジタルビデオテープの生産量は増加してきている。蒸着速度を増速するためには一定時間内により多量のCoの金属薄膜をベースフィルム表面に設けなけれならず、真空蒸着の際のベースフィルムから冷却キャンへ逃げる熱量を増やさねばならず、ベースフィルムの温度が上昇しがちである。そのために、特許文献6に開示されるベースフィルムを使用してより蒸着速度を増速して民生用デジタルビデオテープを製造した場合、該フィルムの表面Bよりポリエステルフィルムの分解物が析出し易くなり、分解物が蒸着面側に転写し、製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性が不良でドロップアウトが多くなり易いということが明らかになってきた。
【0009】
この表面Bよりのポリエステルの分解物の析出を防止するためのベースフィルムとして、
▲4▼表面Bの外側に厚みが1〜10nmの塗布により形成された被覆層を設けたポリエステルフィルム(例えば、特許文献7)、
▲5▼ポリエステル層Aと層Aの片面に積層した層Bとからなり、層Bのポリエステルが環状3量体の含有量が0.8重量%以下、カルボキシ濃度が35等量/t以下であるポリエステルフィルム(例えば、特許文献8)、
▲6▼ポリエステル層Aと層Aの片面に積層した層Bとからなり、層Bのポリエステルの固有粘度(IV)が0.55以上、カルボキシ濃度が36等量/t以上であるポリエステルフィルム(例えば、特許文献8)、
が提案されている。
【0010】
しかしながら、これら15000m以上の巻き長さの長尺ベースフィルムの場合、製造された直後のフィルムをデジタルビデオテープ用のベースフィルムに用いたときには、真空蒸着時にフィルム表面Bよりポリエステルフィルムの分解物の析出は少なく、製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性は良好でドロップアウトが少ない。しかし、フィルム製造後の時間経過と共にベースフィルム製品の巻きの中間から巻芯部にかけて顕著にポリエステルの低分子量体(オリゴマー)等の異物が表面B上に析出してくる。そのオリゴマー等の異物が表面A上に転写されるので、表面A上に真空蒸着により強磁性薄膜が形成されると製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性が不良となる。この問題は、フィルム製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上と長くなる場合、それをベースフィルムにして製造されたデジタルビデオテープはドロップアウトが多くなりがちという現象として顕在化することが判ってきた。
【0011】
【特許文献1】特公昭62−30105号公報
【特許文献2】特公平1−26338号公報
【特許文献3】特開昭57−195321号公報
【特許文献4】特公平1−49116号公報
【特許文献5】特公平4−33273号公報
【特許文献6】特開平10−172127号公報
【特許文献7】特開2002−140812号公報
【特許文献8】特開2002−248723号公報
【特許文献9】特開2002−248726号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明は、巻き長さが15000m以上の長尺ロール製品のポリエステルフィルムをベースフィルムとして用い、蒸着速度を上げて蒸着し、その際にベースフィルムへかかる熱負荷が増した場合でも、フィルム表面Bからのポリエステル分解物の析出がなく、冷却キャンが汚れず、またフィルム製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上と長くなってもフィルムロール製品の巻き初めから中央、巻芯の製品全長に渡り、オリゴマー等の異物の析出がなく、製造されるデジタルビデオテープの電磁変換特性が良好で、ドロップアウトが少ないデジタルビデオテープを製造することができる記録媒体用ポリエステルフィルムを提供する事を目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明は以下の特定事項からなる。
【0014】
すなわち、
1.平均粒径50〜500nmの微細粒子を0.01〜1.0重量%含有する層Bが片側表面に配された積層フィルム構造の記録媒体用ポリエステルフィルムであって、層B側の表面とは反対側の表面Aがデータ記録材薄膜が形成される面であり、該表面Aにおける表面粗さRa値が0.5〜4nmであり、層Bを構成するポリエステルが、チタン化合物をポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有し、アンチモン化合物の量がポリエステルに対するアンチモン原子換算で0〜2ppm、ゲルマニウム化合物の量がポリエステルに対するゲルマニウム原子換算で0〜2ppmであるポリエステルである記録媒体用ポリエステルフィルム、
2.層Bを構成するポリエステル中にリン化合物がポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppm含有され、そのポリエステル中のチタン化合物とリン化合物の比率が、原子換算の重量比率(Ti/P)で0.7〜10である上記1記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
【0015】
3.層B側のフィルム表面には、被覆層が存在しないか、あるいは、粒子を実質的に含有しない被覆層が存在する上記1〜2のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
4.ポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートである上記請求項1〜3のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
5.デジタル記録方式の磁気テープ用に用いられる上記1〜4のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
6.上記請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルムの表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けてなる磁気記録テープ、
とするものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明におけるポリエステルは、分子配向により高強度フィルムとなり得るポリエステルであればよいが、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。即ち、その構成成分の80%以上がエチレンテレフタレート、又は、エチレンナフタレートであるポリエチレンテレフタレート、又は、ポリエチレンナフタレートである。エチレンテレフタレート、エチレンナフタレート以外のポリエステル共重合体成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。さらに、上記のポリエステルは、他にポリエステルと非反応性のスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、該ポリエステルに実質的に不溶なポリアルキレングリコールなどの少なくとも一つを5重量%を越えない程度の少量ならば混合してもよい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、微細粒子を含有する層Bが片側表面に配された積層フィルム構造を有するものであり、例えば、A/B、A/C/B等の積層構造を有する。
【0018】
磁気記録媒体のベースフィルムに用いるときには、層B側の表面とは反対側の表面A上に強磁性金属薄膜層が真空蒸着により設けられる。その強磁性金属薄膜としては公知のものを使用でき、特に限定されないが、鉄、コバルト、ニッケル、またはそれらの合金の強磁性体からなるものが好ましい。金属薄膜層の厚さは一般に100〜300nmであればよい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムの表面AのRa値は0.5〜4nm、好ましくは1〜3nmである。そのRa値が0.5nm未満であると、表面A上に真空蒸着により形成される強磁性金属薄膜層が平滑すぎて、デジタルビデオテープレコーダー内の記録、再生時にビデオヘッドによりビデオテープの強磁性金属薄膜が磨耗してしまう。また、Ra値が4nmを超えると、該強磁性金属薄膜層が粗面すぎて、ビデオテープの出力特性が低下するので、磁気記録媒体用には適していない。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの層B側の表面Bには、層B中の微細粒子による表面突起が形成されており、該微細粒子の平均粒径は50〜500nmであり、層B中の含有率が0.01〜1.0重量%である。表面BのRa値は5〜20nm、さらには7〜15nmが好ましく、Rz値は100〜400nm、さらには150〜350nmが好ましい。
【0021】
微細粒子の平均粒径が50nm未満、また含有率が0.01重量%未満であると、平滑すぎて、ポリエステルフィルムの製造の際、特に製膜後のスリッターによるスリット工程で、フィルムを所定の幅にスリットしロール状に巻き製品化する時にしわが入りすぎ、ロール状に巻けなくなる。表面BのRz値が100nm未満であると同様の傾向があるので好ましくない。該微細粒子の平均粒径が500nmを超えると、また含有率が1.0重量%を超えると、ポリエステルフィルムに磁性金属を真空蒸着した後、ロール状に磁性金属層が設けられたフィルムを巻き放置した時に、その表面Bの粗さが磁性金属表面に転写され、磁性金属層の表面うねりが大きくなり、デジタルビデオテープの電磁変換特性が悪化し、ドロップアウトが増大する。表面BのRz値が400nmを超えても同様の傾向があるので好ましくない。
【0022】
表面BのRa値が5nmを下回ると、ポリエステルフィルムを製造し、15000m以上にスリットし製品として放置している期間に、ポリエステルフィルムの表面Bの微細粒子による突起形状が、特に、ボビン近くの巻芯部で、表面Aに転写し、表面Aにへこみ状の変形を与え、真空蒸着後、強磁性金属薄膜層にへこみ状の変形が残り、デジタルビデオテープの電磁変換特性が悪化し、ドロップアウトが増大するので好ましくない。表面BのRa値が20nmを上回ると、表面Bの粗さが増大し、ポリエステルフィルムを製造し、15000m以上にスリットし製品として放置している期間に、ポリエステルフィルムの表面Bの粗さが表面Aに転写し、表面Aの表面うねりが増大し、真空蒸着後、強磁性金属表面層の表面うねりが大きくなり、デジタルビデオテープの電磁変換特性が悪化し、ドロップアウトが増大するので好ましくない。
【0023】
層B中に含有させる微細粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、ポリスチレン、アルミナシリケート等が用いられるがこれらに限定されるものではない。微細粒子は複数種用いてもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
【0024】
層Bを構成するポリエステル中には、チタン化合物がポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有され、アンチモン化合物の存在量がポリエステルに対するアンチモン原子換算で0〜2ppmであり、ゲルマニウム化合物の存在量がポリエステルに対するゲルマニウム原子換算で0〜2ppmである。
【0025】
このポリエステル中にはアンチモン化合物もゲルマニウム化合物も実質的に存在しないことが好ましいが、存在する場合でも、各々がポリエステルに対する原子換算で2ppm以下とする。アンチモン化合物及び/又はゲルマニウム化合物の量が原子換算で2ppmを超える場合は次のような問題が生じてくる。即ち、ポリエステルフィルム上に磁性金属を高速度で真空蒸着させる際にベースフィルムの温度が上昇し、フィルム表面Bより、フィルム中ポリマ由来のアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物を含むポリエステル分解物が異物として析出しがちとなるので、蒸着後、巻きとった際に該異物が蒸着面側に転写したり、冷却キャンを汚したり、汚れ物が真空蒸着されたフィルムに付着していき蒸着面側に転写しビデオテープの電磁変換特性やドロップアウトをおこすというトラブルを生じがちとなる。また、製造後の時間経過と共にポリエステルの低分子量体(オリゴマー)がアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物と共に表面B上に異物として析出しがちとなり、その異物が表面A上に転写し、その上に真空蒸着により強磁性薄膜が形成されると製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性が不良となり、製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上のベースフィルムから製造されたデジタルビデオテープはドロップアウトが多くなりがちとなる。
【0026】
層Bを構成するポリエステルは、重合時の触媒としてチタン化合物触媒を用いて重合されたものであって、その触媒残渣に由来するチタン化合物の量がポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有される。さらに、リン化合物をポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppm含有され、そのチタン化合物とリン化合物の比率が、原子換算の重量比率でTi/P=0.7〜10であることが好ましい。
【0027】
チタン化合物触媒で重合されたポリエステルは、ポリエステル内で触媒が析出することにより生ずるポリエステル内異物が減少するので、層B用ポリマとして好ましい。触媒残渣として含まれるチタン化合物の量は一般的に極力少ない方が好ましいが、チタン化合物触媒による触媒効果を発揮させるためにはある程度以上の触媒量が必要であるので、少なくするにも限度がある。即ち、ポリエステルに対するチタン原子換算で2ppm未満であるとポリエステルが重合される時の時間が長くなりすぎポリエステルが熱劣化しポリエステル内に熱劣化物が生成されやすくなり、表面AのRa値が4.0nmを上まわりやすくなる。逆に、チタン原子換算で6ppmを上回るほどに触媒残渣のチタン化合物が多いとポリエステル内で触媒由来の異物が析出しやすくなりポリエステル内異物が増加しがちとなり、やはり表面AのRa値が4.0nmを上まわりやすくなる。
【0028】
また、このポリエステルにはリン化合物がポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppmの量で含有されていることが好ましい。リン化合物存在量が0.2ppmを下回るとポリエステルが重合される時、ポリエステルが熱劣化しポリエステル内にポリエステルオリゴマーが生成されやすくなり、ポリエステルフィルム製膜後、真空蒸着までのリードタイムが長くなるとフィルム表面Bにポリエステルオリゴマーが析出しがちとなり、好ましくない。リン化合物存在量が9ppmを上回るとリンがポリエステル内に析出しやすくなりポリエステル内異物が増加しがちとなり、表面AのRa値が4.0nmを上まわりやすくなり好ましくない。そのポリエステル中のチタン化合物とリン化合物の比率は、その原子換算の重量比率がTi/P=0.7〜10であることが好ましい。Ti/Pがこの範囲内であるとポリエステルの熱安定性が良好となり、ポリエステルが製膜されるとき、特にポリエステルチップを溶融押し出しする際の熱劣化を防止でき、ポリエステルフィルム内のオリゴマーの増加が抑止され好ましい。
【0029】
本発明のフィルムにおいて、層B以外の層を構成するポリエステルは、上記した層B用ポリエステルと同様でもよいし、また、他のポリエステルを用いてもよい。
【0030】
前記した層B用のポリエステルは、チタン化合物触媒を用いる次の重合方法によって製造することができる。具体例として、ポリエチレンテレフタレートの場合を例にとって説明するがこれに限定されるものではない。
【0031】
ポリエチレンテレフタレートは通常、次のいずれかの重合プロセスで製造される。すなわち、(1)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(2)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。ここでエステル化反応は無触媒でも反応進行するが触媒を添加してもよい。また、エステル交換反応においては、触媒を添加して反応を進行させ、またエステル交換反応が実質的に完結した後には、反応に用いた触媒を不活性化する目的でリン化合物を添加することが行われる。上記の反応は、回分式、半回分式あるいは連続式等のいずれの形式で行ってもよい。
【0032】
本発明で用いるポリエステルの場合は、上記(1)または(2)の一連の反応の任意の段階で、好ましくは上記(1)または(2)の一連の反応の前半段階で得られた低重合体に、必要に応じて各種の添加物を添加した後、チタン化合物触媒を重縮合触媒として添加して重縮合反応を行い、高分子量のポリエチレンテレフタレートを得るというものである。
【0033】
ポリエステルの重合工程において添加するチタン化合物触媒及びリン化合物は、ポリエステル反応系中にそのまま添加してもよいが、予めジオール系の溶媒を加えて調製した溶液又はスラリーを、反応系中に添加することが、ポリマー中での異物生成をより抑制されるために好ましい。その溶液又はスラリーは、チタン化合物触媒やリン化合物を、エチレングリコールやプロピレングリコール等のポリエステル形成性ジオール成分を含む溶媒と混合して溶液状又はスラリー状とした後、必要に応じて、チタン化合物触媒やリン化合物の合成時に用いたアルコール等の低沸点成分を除去することにより調製できる。それらチタン化合物触媒等の添加時期は、エステル化反応触媒やエステル交換反応触媒として添加する場合には、原料添加直後でもよいし、又は、原料と同伴させての添加でもよい。また、重縮合反応触媒として添加する場合には、実質的に重縮合反応開始前であればよく、エステル化反応やエステル交換反応の前に、あるいはそれらの反応終了後に、また、重縮合反応が開始される前に添加すればよい。この場合、チタン化合物とリン化合物が接触することによる触媒の失活を抑制するための手段としては、異なる反応槽に添加する方法や、同一の反応槽においてチタン化合物とリン化合物を添加する場合にはそれらの添加時期を1〜15分間ずらす方法や添加位置を離す方法がある。
【0034】
また、チタン化合物触媒を予めリン化合物と反応させた化合物を触媒として用いることもできる。この場合には次のような反応方法をとればよい。
(1)チタン化合物触媒を溶媒に混合してその一部または全部を溶媒中に溶解させた溶液に、リン化合物を原液で又は溶媒に溶解希釈させた液でもって滴下して反応させる。
(2)ヒドロキシカルボン酸系化合物や多価カルボン酸系化合物等のチタン化合物の配位子を用いる場合は、チタン化合物または配位子化合物を溶媒に混合してその一部または全部を溶媒中に溶解させた溶液に、配位子化合物またはチタン化合物を原液で又は溶媒に溶解希釈させた液でもって滴下する。さらに、この混合溶液にリン化合物を原液でまたは溶媒に溶解希釈させた液でもって滴下して反応させる。この反応方法の方が、熱安定性及び色調改善の観点から好ましい。
【0035】
上記の反応条件は0〜200℃の温度で1分以上、好ましくは20〜100℃の温度で2〜100分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力には特に制限はなく、常圧でもよい。また、ここで用いる溶媒としては、チタン化合物、リン化合物及びカルボニル基含有化合物の一部または全部を溶解し得るものから選択すればよいが、好ましくは、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ベンゼン、キシレンから選ばれる溶媒を用いる。
【0036】
本発明で用いるポリエステルを製造させる際に用いる重合用触媒のチタン化合物としては、置換基が下記一般式で表される官能基のうちの少なくとも1種を含むチタン化合物類(チタン酸化物も含む)が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
(式1〜式6中、R1〜R3はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基、水酸基、カルボニル基、アセチル基、カルボキシル基もしくはエステル基を、又はアミノ基を有する炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0039】
上記式1の官能基としては、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド、2−エチルヘキソキシド等のアルコキシ基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系化合物からなる官能基が挙げられる。また、上記式2の官能基としては、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系化合物、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系化合物からなる官能基が挙げられる。また、上記式3の官能基としては、フェノキシ、クレシレイト、サリチル酸等からなる官能基が挙げられる。
【0040】
また、上記式4の官能基としては、ラクテート、ステアレート等のアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系化合物、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸からなる官能基が挙げられる。また、上記式5の官能基としては、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等からなる官能基が挙げられる。
【0041】
中でも、式1の官能基及び/又は式4の官能基が含まれるチタン化合物触媒がポリマーの熱安定性及び色調の観点から好ましい。
【0042】
具体的なチタン化合物系の触媒としては、これら式1〜式6の置換基の2種以上を含んでなるチタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナートやチタントリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。また、チタン酸化物系の触媒としては、主たる金属元素がチタン及びケイ素からなる複合酸化物や超微粒子酸化チタンが挙げられる。
【0043】
これらチタン化合物触媒は、ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成されるポリエステルを製造させる重合工程において、以下の(1)〜(3)の反応(全て又は一部の素反応)を促進させるために実質的に寄与する触媒機能を発揮するものである。
(1)ジカルボン酸成分とジオール成分との反応であるエステル化反応、
(2)ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分とジオール成分との反応であるエステル交換反応、
(3)実質的にエステル反応またはエステル交換反応が終了し、得られたポリエチレンテレフタレート低重合体を脱ジオール反応にて高重合度化せしめる重縮合反応、
【0044】
また、ポリエステル中に所定量のリン化合物を含有させるためには、ポリエステルの製造工程でリン化合物を添加すればよい。このリン化合物としては、リン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系、ホスフィンオキサイド系、亜ホスホン酸系、亜ホスフィン酸系、ホスフィン系の化合物のいずれでもよく、それらの1種または2種を用いればよい。特にポリエステルの熱安定性及び色調改善の観点から、リン酸系及び/又はホスホン酸系の化合物であることが好ましい。
【0045】
また、得られるポリマーの色調やポリマーの耐熱性を向上させる目的で、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、コバルト化合物等を添加してもよい。
【0046】
ポリエステルフィルムの層B側の表面には、被覆層を設けなくてもよいが、設ける場合には、粒子を実質的に含有しない被覆層を設けることが好ましい。この被覆層は、ポリエステルフィルム上に磁性金属を高速度で真空蒸着させる時にベースフィルムの温度が上昇し、フィルム表面Bより、フィルム中ポリマからの分解物が析出し、蒸着後、巻きとった際に該分解物が蒸着面側に転写したり、冷却キャンを汚したり、汚れ物が真空蒸着されたフィルムに付着していき蒸着面側に転写しビデオテープの電磁変換特性やドロップアウトをおこすというトラブルの発生を、より低減させるために寄与する。その被覆層の厚みは0.3〜10nmが好ましい。厚みが0.3nmを下回ると、ポリエステルフィルムの分解物が被覆層をこえて析出することを防止する効果が小さくなる。厚みが10nmを超えると、被覆層が冷却キャンで削られ易く、冷却キャンを汚しがちとなるので、好ましくない。
【0047】
その被覆層は、冷却キャンとの間で易滑性であって削られにくく、かつ、ポリエステルフィルムからの分解物を通さない機能を有するものであり、主として、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子から構成され、好ましくは、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤とが加わった組成物から形成されることが好ましい。
【0048】
また、この被覆層を削られにくくするために、被覆層中には微細粒子を実質的に存在させないことが好ましい。即ち、被覆層の中に、被覆層厚みの3倍程度までの粒子径の微細粒子が被覆層内重量分率で20%程度含まれていても製膜工程では削れの問題は生じ難いが、蒸着時、冷却キャンとの間では削れて脱落しがちとなるので、また磁気テープ加工工程での各種搬送ロールで削れやすくなるので、層B側に設ける被覆層には微細粒子を実質的に存在させないのである。
【0049】
被覆層用に用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、トラガントゴム、アラビアゴム、カゼイン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0050】
なかでも、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体の高分子ブレンド体が特に好ましい。水溶性ポリエステル共重合体としては、ジカルボン酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸成分のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70重量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。セルロース誘導体はポリエステル分解物が析出することを防ぐために寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロ−ス誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性を増大させるために寄与する。
【0051】
シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより被覆層の易滑性が向上し、冷却キャンとの走行性、耐削れ性が確保される。またポリエステルフィルムを巻いたときのフィルム間のブロッキングが防止される。なおフッ素化合物を易滑剤として用いてもよい。
【0052】
シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が挙げられ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれるが、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が適用できる。シランカップリング剤はシリコーンが易滑剤層より遊離されることを防ぐために寄与し、さらに、被覆層とポリエステルとの接着性を向上させるためにも寄与する。
【0053】
本発明のフィルムにおける積層構造において、層Bの厚みは全体厚みの8〜25%が好ましく、より好ましくは10〜20%である。層Bの厚みが全体厚みの8%未満であると、層B中の微細粒子が脱落しやすくなり好ましくない。層Bの厚みが全体厚みの25%より大であると、層B中の微細粒子の形状が、他の層を通じて表面A上に突起状変形を作りやすくなるので好ましくない。
【0054】
次に本発明のフィルムの製法の一例について説明する。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムは、溶融、シート成形、二軸延伸、熱固定からなる通常のプラスチックフィルム製造工程において製造され得るが、その際、B層用ポリエステルとして、チタン化合物により重合され、触媒残渣としてチタン化合物をポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有し、リン化合物をポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppm含有し、アンチモン化合物の存在量がポリエステルに対するアンチモン原子換算で0〜2ppmであり、ゲルマニウム化合物の存在量がポリエステルに対するゲルマニウム原子換算で0〜2ppmであり、そのチタン化合物とリン化合物の比率が、原子換算の重量比率でTi/P=0.7〜10であるポリエステルを用い、このポリエステルに、平均粒径50〜500nmの微細粒子を0.01〜1.0重量%含有させること、共押出し技術の使用によりA/B等の積層構造にしてシートを押出すこと、さらに、必要に応じて層A側の表面や層B側の表面に、塗布による被覆層を形成することによって製膜することができる。より多層の積層構造にしてもよく、製法は本方法だけには限らない。
【0056】
A/B積層構造のフィルムの場合は、含有粒子を可能な限り除いた層A用の原料と、平均粒径が50〜500nmの微細粒子を含有率0.01〜1.0重量%含有させた層B用の原料(前記したポリエステルを使用)とを溶融共押出しし、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸フィルムシートを得、一軸延伸し、必要に応じて被覆層形成用の塗液をフィルム表面に塗布して乾燥し、その後に先の一軸延伸方向とは直交する方向に延伸配向させ、熱固定する製造方法により、本発明のフィルムを製造することができる。
【0057】
層A側の表面上に塗布する塗液としては、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子を溶解又は分散させた水性液に平均粒径5〜50nmの微細粒子を所定量添加させてなる塗液を用いることができる。
【0058】
層B側の表面上に塗布する塗液としては、前述した水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤を添加してなる水性液を用いることができる。水溶性高分子としては、前述したとおり、セルロース誘導体[A]と水溶性ポリエステル共重合体[B]とのブレンド体が特に望ましい。[A]/[B]/シリコーン/シランカップリング剤の重量比率としては、100/2〜200/0.1〜50/1〜40が好ましい。
【0059】
なお、層Aには、磁気テープの磁気ヘッドによる耐久性を更に増すための微細粒子を含ませてもよい。
【0060】
二軸延伸は例えば逐次二軸延伸法又は同時二軸延伸法で行うことができるが、所望するならば熱固定前にさらに縦あるいは横方向あるいは縦と横方向に再度延伸させ機械的強度を高めた、いわゆる強力化タイプとすることもできる。
【0061】
層A上に被覆層を形成するためには、前述した通り、1軸方向への延伸を終えた段階で所定組成・濃度の塗液を基層フィルム上に塗布する方法をとればよい。その塗布方法としては、ドクターブレード方式、グラビア方式、リバースロール方式、メタリングバー方式のいずれであってもよい。表面AのRaは被覆層の微粒子、成分、層A内部の微細粒子の調整により調整することができる。層B上の被覆層の形成に関しても同様の方法を用いればよく、被覆層厚みは、塗布液の固形分濃度、塗布液厚みの調整により所望値に調整することができる。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムは磁気記録媒体のベースフィルムとして、特にデジタルビデオテープ用途に使用すると優れた結果を得ることができ好適である。またデータストレージテープ用途に使用しても優れた結果を得ることができ好適である。また、光反応性のGe、Sb、Te等から成る映像データ記録用合金膜が形成され、映像データ等の記録が可能な光記録テープのベースフィルムとしても好適に用いることができる。
【0063】
本発明の磁気テープは本発明のポリエステルベースフィルムの表面A上にCo等の強磁性金属薄膜を真空蒸着により膜厚み50〜300nmと形成し、この金属薄膜上に10nm程度の厚みのダイヤモンド状カーボン膜をコーティングし、さらに潤滑剤を5nm程度の厚みに塗布し、他方、表面Bの被覆層の上に固体微粒子および結合材からなり必要に応じて各種添加剤を加えた溶液を塗布することによりバックコート層を0.3〜1.5μm程度の厚みで設け、そして所定の幅に裁断することにより製造することができる。
【0064】
【実施例】
本実施例で用いた測定法は次のとおりである。
【0065】
[測定法]
(1)フィルムの表面での表面粗さRa値、Rz値
原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。即ち、セイコーインスツルメント(株)製の卓上小型プローブ顕微鏡(“Nanopics”1000)を用い、ダンピングモードで、フィルムの表面を4μm角の範囲で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS・B0601・Ra、Rzに相当する算術平均粗さよりRa、十点平均粗さよりRzを求めた。面内方向の拡大倍率は1万〜5万倍、高さ方向の拡大倍率は100万倍程度とした。
【0066】
(2)微細粒子の平均粒径
電子顕微鏡(電顕)試験台上に微細粒子粉体を、この粒子ができるだけ重ならないように散在せしめ、電顕(好ましくは透過型電子顕微鏡)により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の粒子について面積円相当径を求め、この数平均値をもって平均粒径とした。
【0067】
なお、この粒径をフィルムから求める場合には下記のa)手法等により求められる。
a)フィルムの被膜表面A上に金スパッター装置により金薄膜蒸着層を20〜30nm(χnm)で設け、電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により倍率10万倍程度で観測し、少なくとも100個の粒子について面積円相当径を求め、この数平均値より2χnmを減じた値をもって粒径とする。
【0068】
(3)被覆層の厚み
被覆層厚みは、塗布液塗布時の塗布液厚みに固形分濃度を掛け、固形分密度、塗布後の延伸倍率で除して求める。なお、この被覆層の厚みをフィルムから求める場合には下記のa)手法等により求められる。
a)フィルムの少片を樹脂で固定し、フィルムの長手方向に平行に切断しフルム断面の超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡により10万倍程度以上の倍率で観察し、被覆層/フィルム、被覆層/樹脂界面の距離より被覆層厚みを求める。
【0069】
(4)フィルムのB層を構成するポリエステル内に含まれるチタン化合物、リン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物の量
蛍光X線(FLX)法により、蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)を用い、ポリエステルフィルムのB層中のポリエステルに含まれるTi,P、Sb、Geの量を定量した。なお、B層も他の層も同じポリエステルを用い、かつ、添加剤や被膜中にそれら元素が含まれない場合にはフィルム全体を試料にして測定すればよい。
(5)ポリエステルの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0070】
(6)磁気テープの特性
市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダー(DVC)を用いドロップアウト(DO)を観測することにより評価した。作成したDVCテープに市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダーで録画し、1分間の再生をして画面にあらわれたブロック状のモザイク個数を数えることによりDOの測定をした。なおDOは常温常湿(25℃、60%RH)でテープ製造後の初期特性を調べた。さらに100回繰返し走行後のDOも測定した。DOは小さい値の方が良い。
【0071】
次に実施例に基づき、本発明を説明する。
【0072】
[実施例1]
チタン化合物触媒によるポリエチレンテレフタレートの製造:
高純度テレフタル酸(三井化学(株)製)100kgとエチレングリコール(日本触媒(株)製)45kgのスラリーを、予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約123kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物123kgを重縮合槽に移送した。
【0073】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された重縮合反応槽に、酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してマグネシウム原子換算で30ppmとなるように加えた。更に5分間撹拌した後、クエン酸キレートチタン化合物の2重量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してチタン原子換算で5ppmとなるように添加し、5分後、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してリン原子換算で5ppmとなるように添加し、その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリマーのペレットとした。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間であった。
【0074】
得られたポリマーのIVは0.66、ポリマーの融点は259℃、溶液ヘイズは0.7%であった。また、ポリマーから測定したチタン触媒由来のチタン原子の含有量は5ppm、リン原子の含有量は5ppmであり、Ti/P=1であり、アンチモン原子の含有量もゲルマニウム原子の含有量も0ppmであることを確認した。
【0075】
なお、上記の重合工程において触媒として添加したクエン酸キレートチタン化合物は、次の方法で合成した生成物を用いた。
【0076】
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた3Lのフラスコ中に温水(371g)にクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.00モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を真空下で蒸留した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、そしてその撹拌されている溶液にNaOH(380g、3.04モル)の32重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、80モル)と混合し、そして真空下で加熱してイソプロパノール/水を除去したところ、わずかに曇った淡黄色のクエン酸キレートチタン化合物(Ti含有量3.85重量%)が得られた。
【0077】
ゲルマニウム触媒によるポリエチレンテレフタレートの製造:
ポリエチレンテレフタレート重合工程において添加する触媒として、通常のゲルマニウム系触媒を用い、通常の方法で重合して、IVが0.66のポリエチレンテレフタレート(ポリエステル中の元素含有利用は、チタンが0ppm、リンが10ppm、アンチモンが0ppm、ゲルマニウムが40ppm)を製造した。
【0078】
上記したゲルマニウム触媒で重合されたポリエチレンテレフタレート(実質的に不活性粒子を含有しない)に、平均粒径60nmのシリカを0.02重量%含有させた原料Aと、上記したチタン化合物触媒により重合されたポリエチレンテレフタレート(実質的に不活性粒子を含有しない)に、平均粒径320nmのポリスチレン球を0.50重量%含有させた原料Bとを、厚み比5:1の割合で共押出し、ロール延伸法で110℃で3.0倍に縦延伸した。
【0079】
縦延伸の後の工程で、A層の外側に下記組成・濃度の水溶液を、塗布厚み4.0μmで塗布した。
【0080】
A層外側への塗布水溶液:
メチルセルロース 0.10重量%
水溶性ポリエステル 0.30重量%
アミノエチルシランカップリング剤 0.01重量%
平均粒径 12nmの極微細シリカ 0.03重量%
【0081】
その後、ステンターにて横方向に98℃で3.3倍に延伸し、200℃で熱処理し、中間スプールに巻き、スリッターで小幅にスリットし、円筒コアーにロール状に巻取り、厚さ6.3μmのフィルムが長さ20000mでロール状に巻取られた複合ポリエステルフィルムとした。このロール状ポリエステルフィルムを温度調整を持たない倉庫に3ヶ月間保存後、このポリエステルフィルムの表面Aに真空蒸着によりコバルト−酸素薄膜を160nmの膜厚で強磁性金属薄膜層を形成した。なおコバルトの蒸着時におけるフィルム搬送速度は150m/分(従来の5割増しの速度)とした。次にコバルト−酸素薄膜層上に、スパッタリング法によりダイヤモンド状カーボン膜を10nmの厚みで形成させた。続いて、表面B上に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を400nm厚さで設け、スリッターにより幅6.35mmにスリットしリールに巻き取り磁気テープを作製した。
【0082】
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0083】
[実施例2]
実施例1のベースフィルム製造において、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレン−2,6−ナフタレートと変更し、A層外側の塗布液の塗布厚みを8.0μmと変更し、縦延伸温度、倍率を135℃で5.0倍と変更し、横延伸温度、倍率を135℃、6.0倍と変更し、更に160℃で1.2倍に横に延伸し、200℃での熱処理と変更し、その他は実施例1と同様にして、厚さ4.2μmのフィルムが長さ25000mで巻取られた複合ポリエステルフィルムロールを作製した。さらに実施例1と同様にして幅6.35mmの磁気テープを作製した。
【0084】
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は18nm、270nmであった。
【0085】
[実施例3]
実施例2のベースフィルム製造において、原料Aに含有させたシリカを除き、その他は実施例2と同様にして、フィルム厚さ4.2μm、巻き長さ25000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製した。さらに、実施例2と同様にして幅6.35mmの磁気テープを作製した。
【0086】
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は20nm、300nmであった。
【0087】
[実施例4]
実施例1のベースフィルム製造において、縦延伸の後の工程で、A層の外側への塗布の他に、B層の外側に下記組成・濃度の水溶液を塗布厚み1.0μmで塗布する工程を追加した。
【0088】
B層外側への塗布水溶液:
メチルセルロース 0.15重量%
水溶性ポリエステル 0.20重量%
アミノエチルシランカップリング剤 0.02重量%
ポリジメチルシロキサン 0.01重量%
【0089】
その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
得られた複合ポリエステルフィルムを実施例1と同一条件下に13ヶ月放置した後、実施例1と同様に磁気テープを作製してDOを評価した。DOは0個/分と磁気テープ特性は良好であった。
【0090】
[実施例5]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が0.1ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0091】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0092】
[実施例6]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が12ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0093】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0094】
[実施例7]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、重合触媒として用いたクエン酸キレートチタン化合物の添加量を、得られるポリマーに対するチタン原子換算量が3ppmとなるように変更し、さらに、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が8ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0095】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0096】
[比較例1]
実施例1のベースフィルム製造において、A層の外側への水溶液塗布の塗布厚みを0.5μmと変更した。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0097】
[比較例2]
実施例1のベースフィルム製造において、A層外側用の塗布水溶液のメチルセルロース濃度を0.19重量%と変更した。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0098】
[比較例3]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球を、粒径600nmのポリスチレン球に変更した。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は30nm、500nmであった。
【0099】
[比較例4]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球の代わりに、平均粒子径190nmのケイ酸アルミニウムを含有量1.5重量%で用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は28nm、220nmであった。
【0100】
[比較例5]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球の代わりに、粒径40nmのケイ酸アルミニウムを含有量0.50重量%で用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製しようとした。しかし、スリット時に巻きが大きく乱れてしまい、端面がきちっとそろったロール状製品が得られなかった。この後磁気テープを作製してもテープ作製収率が大幅に低下するので磁気テープ製造は中止した。
得られた複合ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は4nm、105nmであった。
【0101】
[比較例6]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球の含有量を0.005重量%と変更し、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製しようとした。しかし、スリット時に、長手方向のしわが幅方向の2/3程度まで入ったので、この後磁気テープを作製してもテープ作製収率が大幅に低下するので磁気テープ製造は中止した。
得られた複合ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は4nm、150nmであった。
【0102】
[比較例7]
実施例1で製造したチタン化合物触媒によるポリエチレンテレフタレートに、アンチモン触媒によるポリエチレンテレフタレートと実施例1で製造したゲルマニウム触媒によるポリエチレンテレフタレートとを混合したポリマー原料を、原料B用のポリエステルとして用いた。なお、この混合ポリマー原料中の元素含有量は表1に示すとおりであった。
【0103】
ここで、アンチモン触媒によるポリエチレンテレフタレートとしては、次の製造によるものを用いた。ポリエチレンテレフタレート重合工程において添加する触媒として、通常のアンチモン系触媒を用い、通常の方法で重合して、IVが0.66のポリエチレンテレフタレート(ポリエステル中の元素含有利用は、チタンが0ppm、リンが10ppm、アンチモンが80ppm、ゲルマニウムが0ppm)を製造した。
【0104】
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bを上記した混合原料に変更した以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0105】
[比較例8]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、重合触媒として用いたクエン酸キレートチタン化合物の添加量を、得られるポリマーに対するチタン原子換算量が1ppmとなるように変更し、さらに、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が1ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0106】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0107】
[比較例9]
実施例1のポリエステル製造において、重合触媒として用いたクエン酸キレートチタン化合物の添加量を、得られるポリマーに対するチタン原子換算量が10ppmとなるように変更し、さらに、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が6ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0108】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0109】
[比較例10]
実施例1のベースフィルム製造において、原料B用のポリエステルを、比較例7で用いたアンチモン触媒によるポリエステルに変えた。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0110】
[比較例11]
実施例1のベースフィルム製造において、原料B用のポリエステルを、実施例1で製造したゲルマニウム触媒によるポリエステルに変えた。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0111】
【表1】
【0112】
【発明の効果】
本発明のポリエステルフィルムによると、巻き長さ15000m以上の長尺ロール製品のポリエステルフィルムをベースフィルムとして用い、蒸着速度を上げて蒸着して磁気テープを製造しても、フィルム表面Bからのポリエステル分解物の析出がなく、冷却キャンが汚れず、またフィルム製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上と長くなっても、電磁変換特性が良好で、ドロップアウトが少ない磁気テープを製造することができる。特に、デジタルビデオテープのようなデジタルデータを記録する記録媒体用のベースフィルムとして有効である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、記録媒体用ポリエステルフィルムに関する。特に、デジタルビデオカセットテープ用等、デジタルデータを記録する強磁性金属薄膜型磁気記録媒体用のベースフィルムとして好適なポリエステルフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
1995年に実用化された民生用デジタルビデオテープは、ベースフィルムの片側表面上に、Coの金属磁性薄膜を真空蒸着により設け、その表面にダイヤモンド状カーボン膜をコーティングし、更にその上に潤滑剤層をコーティングにより設け、さらに、ベースフィルムの反対面側に、ビデオテープレコーダー内でのテープの走行性、耐久性を確保するためにバックコート層を設けることにより製造されたものである。このデジタルビデオテープは、Hi8用ME(蒸着)テープに比べて表面性が更に平滑化したにもかかわらず、良好な耐久性をもつ。
【0003】
そのベースフィルムとしては、
▲1▼ポリエステルフィルムと、該フィルムの少なくとも片面に密着された不連続皮膜とからなり、その不連続皮膜中及び皮膜表面に微粒子が存在するポリエステルフィルム(例えば特許文献1参照)、
▲2▼熱可塑性樹脂からなる層Aと、微粒子が含有された熱可塑性樹脂からなる層Bとが積層された複合フィルム(例えば特許文献2参照)、
▲3▼平滑なポリエステルフィルムの非磁性面側表面に、滑剤主体の被覆層が形成されたフィルム(例えば特許文献3〜5参照)、
等が用いられている。このベースフィルムは、Hi8MEテープ用ベースフィルムに比べ、金属磁性膜形成面側の表面の粗度がさらに小さく設計されている。
【0004】
しかしながら、このように磁性面が非常に平滑な民生用デジタルビデオテープは、その磁性面の表面性の変動により電磁変換特性が非常に大きく変化し、また蒸着工程での冷却キャンに付着する異物の影響により、得られるテープのドロップアウト(DO)特性が非常に大きく変化する。
【0005】
すなわち、デジタルビデオテープ用の強磁性金属薄膜を真空蒸着により設けるためのベースフィルムとして前記▲1▼のフィルムを用いるとき、良好な高密度磁気記録特性が得られるが、ハンドリング性が不良で、大量生産には不適当である。前記▲2▼のフィルムから作成したテープはテープ磁性面の表面うねりのバラツキが大であり、電磁変換特性のバラツキが大となる問題がある。また、前記▲3▼のフィルムを用いる場合は、非磁性面側表面の滑剤主体の被覆層が蒸着工程、特に真空蒸着の冷却キャンで削れたり剥離しがちであり、それによりDOが多くなる欠点がある。
【0006】
真空蒸着工程で冷却キャンに付着する汚れが少なく、真空蒸着により得られた磁気テープの表面うねりが小さく、電磁変換特性の良好な磁気テープとすることができ、しかもハンドリング性が良好で、大量生産に適した磁気記録媒体用ポリエステルフィルムを与える事を目的として、特許文献6において、ポリエステルフイルムの一方の片側表面AのSRa値が2〜4nm、SRz値が10〜40nmであり、他方の片側表面BのSRa値が5〜15nm、SRz値が50〜250nmであり、表面Bの外側には塗布により形成された易滑被覆層がなく、また高さ540nm以上の突起個数が2〜20個/100cm2 であるポリエステルフィルムであって、表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けて使用されることを特徴とする磁気記録媒体用ポリエステルフィルムが提案されている。
【0007】
しかしながら、民生用デジタルビデオテープは非常に好評であり、世界市場により多くのテープを投入することが望まれており、1回の蒸着操作でより多量のデジタルビデオテープが製造できるように、ロールに巻かれるベースフィルムの長さが従来は12000m以下であったものを、15000m以上、更には20000m以上と、より長尺化することが行われてきている。
【0008】
また、磁気テープ製造時の蒸着速度の増速も行われており1日あたりのデジタルビデオテープの生産量は増加してきている。蒸着速度を増速するためには一定時間内により多量のCoの金属薄膜をベースフィルム表面に設けなけれならず、真空蒸着の際のベースフィルムから冷却キャンへ逃げる熱量を増やさねばならず、ベースフィルムの温度が上昇しがちである。そのために、特許文献6に開示されるベースフィルムを使用してより蒸着速度を増速して民生用デジタルビデオテープを製造した場合、該フィルムの表面Bよりポリエステルフィルムの分解物が析出し易くなり、分解物が蒸着面側に転写し、製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性が不良でドロップアウトが多くなり易いということが明らかになってきた。
【0009】
この表面Bよりのポリエステルの分解物の析出を防止するためのベースフィルムとして、
▲4▼表面Bの外側に厚みが1〜10nmの塗布により形成された被覆層を設けたポリエステルフィルム(例えば、特許文献7)、
▲5▼ポリエステル層Aと層Aの片面に積層した層Bとからなり、層Bのポリエステルが環状3量体の含有量が0.8重量%以下、カルボキシ濃度が35等量/t以下であるポリエステルフィルム(例えば、特許文献8)、
▲6▼ポリエステル層Aと層Aの片面に積層した層Bとからなり、層Bのポリエステルの固有粘度(IV)が0.55以上、カルボキシ濃度が36等量/t以上であるポリエステルフィルム(例えば、特許文献8)、
が提案されている。
【0010】
しかしながら、これら15000m以上の巻き長さの長尺ベースフィルムの場合、製造された直後のフィルムをデジタルビデオテープ用のベースフィルムに用いたときには、真空蒸着時にフィルム表面Bよりポリエステルフィルムの分解物の析出は少なく、製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性は良好でドロップアウトが少ない。しかし、フィルム製造後の時間経過と共にベースフィルム製品の巻きの中間から巻芯部にかけて顕著にポリエステルの低分子量体(オリゴマー)等の異物が表面B上に析出してくる。そのオリゴマー等の異物が表面A上に転写されるので、表面A上に真空蒸着により強磁性薄膜が形成されると製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性が不良となる。この問題は、フィルム製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上と長くなる場合、それをベースフィルムにして製造されたデジタルビデオテープはドロップアウトが多くなりがちという現象として顕在化することが判ってきた。
【0011】
【特許文献1】特公昭62−30105号公報
【特許文献2】特公平1−26338号公報
【特許文献3】特開昭57−195321号公報
【特許文献4】特公平1−49116号公報
【特許文献5】特公平4−33273号公報
【特許文献6】特開平10−172127号公報
【特許文献7】特開2002−140812号公報
【特許文献8】特開2002−248723号公報
【特許文献9】特開2002−248726号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明は、巻き長さが15000m以上の長尺ロール製品のポリエステルフィルムをベースフィルムとして用い、蒸着速度を上げて蒸着し、その際にベースフィルムへかかる熱負荷が増した場合でも、フィルム表面Bからのポリエステル分解物の析出がなく、冷却キャンが汚れず、またフィルム製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上と長くなってもフィルムロール製品の巻き初めから中央、巻芯の製品全長に渡り、オリゴマー等の異物の析出がなく、製造されるデジタルビデオテープの電磁変換特性が良好で、ドロップアウトが少ないデジタルビデオテープを製造することができる記録媒体用ポリエステルフィルムを提供する事を目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明は以下の特定事項からなる。
【0014】
すなわち、
1.平均粒径50〜500nmの微細粒子を0.01〜1.0重量%含有する層Bが片側表面に配された積層フィルム構造の記録媒体用ポリエステルフィルムであって、層B側の表面とは反対側の表面Aがデータ記録材薄膜が形成される面であり、該表面Aにおける表面粗さRa値が0.5〜4nmであり、層Bを構成するポリエステルが、チタン化合物をポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有し、アンチモン化合物の量がポリエステルに対するアンチモン原子換算で0〜2ppm、ゲルマニウム化合物の量がポリエステルに対するゲルマニウム原子換算で0〜2ppmであるポリエステルである記録媒体用ポリエステルフィルム、
2.層Bを構成するポリエステル中にリン化合物がポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppm含有され、そのポリエステル中のチタン化合物とリン化合物の比率が、原子換算の重量比率(Ti/P)で0.7〜10である上記1記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
【0015】
3.層B側のフィルム表面には、被覆層が存在しないか、あるいは、粒子を実質的に含有しない被覆層が存在する上記1〜2のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
4.ポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートである上記請求項1〜3のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
5.デジタル記録方式の磁気テープ用に用いられる上記1〜4のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム、
6.上記請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルムの表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けてなる磁気記録テープ、
とするものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明におけるポリエステルは、分子配向により高強度フィルムとなり得るポリエステルであればよいが、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。即ち、その構成成分の80%以上がエチレンテレフタレート、又は、エチレンナフタレートであるポリエチレンテレフタレート、又は、ポリエチレンナフタレートである。エチレンテレフタレート、エチレンナフタレート以外のポリエステル共重合体成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。さらに、上記のポリエステルは、他にポリエステルと非反応性のスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、該ポリエステルに実質的に不溶なポリアルキレングリコールなどの少なくとも一つを5重量%を越えない程度の少量ならば混合してもよい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、微細粒子を含有する層Bが片側表面に配された積層フィルム構造を有するものであり、例えば、A/B、A/C/B等の積層構造を有する。
【0018】
磁気記録媒体のベースフィルムに用いるときには、層B側の表面とは反対側の表面A上に強磁性金属薄膜層が真空蒸着により設けられる。その強磁性金属薄膜としては公知のものを使用でき、特に限定されないが、鉄、コバルト、ニッケル、またはそれらの合金の強磁性体からなるものが好ましい。金属薄膜層の厚さは一般に100〜300nmであればよい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムの表面AのRa値は0.5〜4nm、好ましくは1〜3nmである。そのRa値が0.5nm未満であると、表面A上に真空蒸着により形成される強磁性金属薄膜層が平滑すぎて、デジタルビデオテープレコーダー内の記録、再生時にビデオヘッドによりビデオテープの強磁性金属薄膜が磨耗してしまう。また、Ra値が4nmを超えると、該強磁性金属薄膜層が粗面すぎて、ビデオテープの出力特性が低下するので、磁気記録媒体用には適していない。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの層B側の表面Bには、層B中の微細粒子による表面突起が形成されており、該微細粒子の平均粒径は50〜500nmであり、層B中の含有率が0.01〜1.0重量%である。表面BのRa値は5〜20nm、さらには7〜15nmが好ましく、Rz値は100〜400nm、さらには150〜350nmが好ましい。
【0021】
微細粒子の平均粒径が50nm未満、また含有率が0.01重量%未満であると、平滑すぎて、ポリエステルフィルムの製造の際、特に製膜後のスリッターによるスリット工程で、フィルムを所定の幅にスリットしロール状に巻き製品化する時にしわが入りすぎ、ロール状に巻けなくなる。表面BのRz値が100nm未満であると同様の傾向があるので好ましくない。該微細粒子の平均粒径が500nmを超えると、また含有率が1.0重量%を超えると、ポリエステルフィルムに磁性金属を真空蒸着した後、ロール状に磁性金属層が設けられたフィルムを巻き放置した時に、その表面Bの粗さが磁性金属表面に転写され、磁性金属層の表面うねりが大きくなり、デジタルビデオテープの電磁変換特性が悪化し、ドロップアウトが増大する。表面BのRz値が400nmを超えても同様の傾向があるので好ましくない。
【0022】
表面BのRa値が5nmを下回ると、ポリエステルフィルムを製造し、15000m以上にスリットし製品として放置している期間に、ポリエステルフィルムの表面Bの微細粒子による突起形状が、特に、ボビン近くの巻芯部で、表面Aに転写し、表面Aにへこみ状の変形を与え、真空蒸着後、強磁性金属薄膜層にへこみ状の変形が残り、デジタルビデオテープの電磁変換特性が悪化し、ドロップアウトが増大するので好ましくない。表面BのRa値が20nmを上回ると、表面Bの粗さが増大し、ポリエステルフィルムを製造し、15000m以上にスリットし製品として放置している期間に、ポリエステルフィルムの表面Bの粗さが表面Aに転写し、表面Aの表面うねりが増大し、真空蒸着後、強磁性金属表面層の表面うねりが大きくなり、デジタルビデオテープの電磁変換特性が悪化し、ドロップアウトが増大するので好ましくない。
【0023】
層B中に含有させる微細粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、ポリスチレン、アルミナシリケート等が用いられるがこれらに限定されるものではない。微細粒子は複数種用いてもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
【0024】
層Bを構成するポリエステル中には、チタン化合物がポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有され、アンチモン化合物の存在量がポリエステルに対するアンチモン原子換算で0〜2ppmであり、ゲルマニウム化合物の存在量がポリエステルに対するゲルマニウム原子換算で0〜2ppmである。
【0025】
このポリエステル中にはアンチモン化合物もゲルマニウム化合物も実質的に存在しないことが好ましいが、存在する場合でも、各々がポリエステルに対する原子換算で2ppm以下とする。アンチモン化合物及び/又はゲルマニウム化合物の量が原子換算で2ppmを超える場合は次のような問題が生じてくる。即ち、ポリエステルフィルム上に磁性金属を高速度で真空蒸着させる際にベースフィルムの温度が上昇し、フィルム表面Bより、フィルム中ポリマ由来のアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物を含むポリエステル分解物が異物として析出しがちとなるので、蒸着後、巻きとった際に該異物が蒸着面側に転写したり、冷却キャンを汚したり、汚れ物が真空蒸着されたフィルムに付着していき蒸着面側に転写しビデオテープの電磁変換特性やドロップアウトをおこすというトラブルを生じがちとなる。また、製造後の時間経過と共にポリエステルの低分子量体(オリゴマー)がアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物と共に表面B上に異物として析出しがちとなり、その異物が表面A上に転写し、その上に真空蒸着により強磁性薄膜が形成されると製造されたデジタルビデオテープの電磁変換特性が不良となり、製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上のベースフィルムから製造されたデジタルビデオテープはドロップアウトが多くなりがちとなる。
【0026】
層Bを構成するポリエステルは、重合時の触媒としてチタン化合物触媒を用いて重合されたものであって、その触媒残渣に由来するチタン化合物の量がポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有される。さらに、リン化合物をポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppm含有され、そのチタン化合物とリン化合物の比率が、原子換算の重量比率でTi/P=0.7〜10であることが好ましい。
【0027】
チタン化合物触媒で重合されたポリエステルは、ポリエステル内で触媒が析出することにより生ずるポリエステル内異物が減少するので、層B用ポリマとして好ましい。触媒残渣として含まれるチタン化合物の量は一般的に極力少ない方が好ましいが、チタン化合物触媒による触媒効果を発揮させるためにはある程度以上の触媒量が必要であるので、少なくするにも限度がある。即ち、ポリエステルに対するチタン原子換算で2ppm未満であるとポリエステルが重合される時の時間が長くなりすぎポリエステルが熱劣化しポリエステル内に熱劣化物が生成されやすくなり、表面AのRa値が4.0nmを上まわりやすくなる。逆に、チタン原子換算で6ppmを上回るほどに触媒残渣のチタン化合物が多いとポリエステル内で触媒由来の異物が析出しやすくなりポリエステル内異物が増加しがちとなり、やはり表面AのRa値が4.0nmを上まわりやすくなる。
【0028】
また、このポリエステルにはリン化合物がポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppmの量で含有されていることが好ましい。リン化合物存在量が0.2ppmを下回るとポリエステルが重合される時、ポリエステルが熱劣化しポリエステル内にポリエステルオリゴマーが生成されやすくなり、ポリエステルフィルム製膜後、真空蒸着までのリードタイムが長くなるとフィルム表面Bにポリエステルオリゴマーが析出しがちとなり、好ましくない。リン化合物存在量が9ppmを上回るとリンがポリエステル内に析出しやすくなりポリエステル内異物が増加しがちとなり、表面AのRa値が4.0nmを上まわりやすくなり好ましくない。そのポリエステル中のチタン化合物とリン化合物の比率は、その原子換算の重量比率がTi/P=0.7〜10であることが好ましい。Ti/Pがこの範囲内であるとポリエステルの熱安定性が良好となり、ポリエステルが製膜されるとき、特にポリエステルチップを溶融押し出しする際の熱劣化を防止でき、ポリエステルフィルム内のオリゴマーの増加が抑止され好ましい。
【0029】
本発明のフィルムにおいて、層B以外の層を構成するポリエステルは、上記した層B用ポリエステルと同様でもよいし、また、他のポリエステルを用いてもよい。
【0030】
前記した層B用のポリエステルは、チタン化合物触媒を用いる次の重合方法によって製造することができる。具体例として、ポリエチレンテレフタレートの場合を例にとって説明するがこれに限定されるものではない。
【0031】
ポリエチレンテレフタレートは通常、次のいずれかの重合プロセスで製造される。すなわち、(1)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(2)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。ここでエステル化反応は無触媒でも反応進行するが触媒を添加してもよい。また、エステル交換反応においては、触媒を添加して反応を進行させ、またエステル交換反応が実質的に完結した後には、反応に用いた触媒を不活性化する目的でリン化合物を添加することが行われる。上記の反応は、回分式、半回分式あるいは連続式等のいずれの形式で行ってもよい。
【0032】
本発明で用いるポリエステルの場合は、上記(1)または(2)の一連の反応の任意の段階で、好ましくは上記(1)または(2)の一連の反応の前半段階で得られた低重合体に、必要に応じて各種の添加物を添加した後、チタン化合物触媒を重縮合触媒として添加して重縮合反応を行い、高分子量のポリエチレンテレフタレートを得るというものである。
【0033】
ポリエステルの重合工程において添加するチタン化合物触媒及びリン化合物は、ポリエステル反応系中にそのまま添加してもよいが、予めジオール系の溶媒を加えて調製した溶液又はスラリーを、反応系中に添加することが、ポリマー中での異物生成をより抑制されるために好ましい。その溶液又はスラリーは、チタン化合物触媒やリン化合物を、エチレングリコールやプロピレングリコール等のポリエステル形成性ジオール成分を含む溶媒と混合して溶液状又はスラリー状とした後、必要に応じて、チタン化合物触媒やリン化合物の合成時に用いたアルコール等の低沸点成分を除去することにより調製できる。それらチタン化合物触媒等の添加時期は、エステル化反応触媒やエステル交換反応触媒として添加する場合には、原料添加直後でもよいし、又は、原料と同伴させての添加でもよい。また、重縮合反応触媒として添加する場合には、実質的に重縮合反応開始前であればよく、エステル化反応やエステル交換反応の前に、あるいはそれらの反応終了後に、また、重縮合反応が開始される前に添加すればよい。この場合、チタン化合物とリン化合物が接触することによる触媒の失活を抑制するための手段としては、異なる反応槽に添加する方法や、同一の反応槽においてチタン化合物とリン化合物を添加する場合にはそれらの添加時期を1〜15分間ずらす方法や添加位置を離す方法がある。
【0034】
また、チタン化合物触媒を予めリン化合物と反応させた化合物を触媒として用いることもできる。この場合には次のような反応方法をとればよい。
(1)チタン化合物触媒を溶媒に混合してその一部または全部を溶媒中に溶解させた溶液に、リン化合物を原液で又は溶媒に溶解希釈させた液でもって滴下して反応させる。
(2)ヒドロキシカルボン酸系化合物や多価カルボン酸系化合物等のチタン化合物の配位子を用いる場合は、チタン化合物または配位子化合物を溶媒に混合してその一部または全部を溶媒中に溶解させた溶液に、配位子化合物またはチタン化合物を原液で又は溶媒に溶解希釈させた液でもって滴下する。さらに、この混合溶液にリン化合物を原液でまたは溶媒に溶解希釈させた液でもって滴下して反応させる。この反応方法の方が、熱安定性及び色調改善の観点から好ましい。
【0035】
上記の反応条件は0〜200℃の温度で1分以上、好ましくは20〜100℃の温度で2〜100分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力には特に制限はなく、常圧でもよい。また、ここで用いる溶媒としては、チタン化合物、リン化合物及びカルボニル基含有化合物の一部または全部を溶解し得るものから選択すればよいが、好ましくは、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ベンゼン、キシレンから選ばれる溶媒を用いる。
【0036】
本発明で用いるポリエステルを製造させる際に用いる重合用触媒のチタン化合物としては、置換基が下記一般式で表される官能基のうちの少なくとも1種を含むチタン化合物類(チタン酸化物も含む)が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
(式1〜式6中、R1〜R3はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基、水酸基、カルボニル基、アセチル基、カルボキシル基もしくはエステル基を、又はアミノ基を有する炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0039】
上記式1の官能基としては、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド、2−エチルヘキソキシド等のアルコキシ基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系化合物からなる官能基が挙げられる。また、上記式2の官能基としては、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系化合物、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系化合物からなる官能基が挙げられる。また、上記式3の官能基としては、フェノキシ、クレシレイト、サリチル酸等からなる官能基が挙げられる。
【0040】
また、上記式4の官能基としては、ラクテート、ステアレート等のアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系化合物、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸からなる官能基が挙げられる。また、上記式5の官能基としては、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等からなる官能基が挙げられる。
【0041】
中でも、式1の官能基及び/又は式4の官能基が含まれるチタン化合物触媒がポリマーの熱安定性及び色調の観点から好ましい。
【0042】
具体的なチタン化合物系の触媒としては、これら式1〜式6の置換基の2種以上を含んでなるチタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナートやチタントリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。また、チタン酸化物系の触媒としては、主たる金属元素がチタン及びケイ素からなる複合酸化物や超微粒子酸化チタンが挙げられる。
【0043】
これらチタン化合物触媒は、ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成されるポリエステルを製造させる重合工程において、以下の(1)〜(3)の反応(全て又は一部の素反応)を促進させるために実質的に寄与する触媒機能を発揮するものである。
(1)ジカルボン酸成分とジオール成分との反応であるエステル化反応、
(2)ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分とジオール成分との反応であるエステル交換反応、
(3)実質的にエステル反応またはエステル交換反応が終了し、得られたポリエチレンテレフタレート低重合体を脱ジオール反応にて高重合度化せしめる重縮合反応、
【0044】
また、ポリエステル中に所定量のリン化合物を含有させるためには、ポリエステルの製造工程でリン化合物を添加すればよい。このリン化合物としては、リン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系、ホスフィンオキサイド系、亜ホスホン酸系、亜ホスフィン酸系、ホスフィン系の化合物のいずれでもよく、それらの1種または2種を用いればよい。特にポリエステルの熱安定性及び色調改善の観点から、リン酸系及び/又はホスホン酸系の化合物であることが好ましい。
【0045】
また、得られるポリマーの色調やポリマーの耐熱性を向上させる目的で、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、コバルト化合物等を添加してもよい。
【0046】
ポリエステルフィルムの層B側の表面には、被覆層を設けなくてもよいが、設ける場合には、粒子を実質的に含有しない被覆層を設けることが好ましい。この被覆層は、ポリエステルフィルム上に磁性金属を高速度で真空蒸着させる時にベースフィルムの温度が上昇し、フィルム表面Bより、フィルム中ポリマからの分解物が析出し、蒸着後、巻きとった際に該分解物が蒸着面側に転写したり、冷却キャンを汚したり、汚れ物が真空蒸着されたフィルムに付着していき蒸着面側に転写しビデオテープの電磁変換特性やドロップアウトをおこすというトラブルの発生を、より低減させるために寄与する。その被覆層の厚みは0.3〜10nmが好ましい。厚みが0.3nmを下回ると、ポリエステルフィルムの分解物が被覆層をこえて析出することを防止する効果が小さくなる。厚みが10nmを超えると、被覆層が冷却キャンで削られ易く、冷却キャンを汚しがちとなるので、好ましくない。
【0047】
その被覆層は、冷却キャンとの間で易滑性であって削られにくく、かつ、ポリエステルフィルムからの分解物を通さない機能を有するものであり、主として、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子から構成され、好ましくは、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤とが加わった組成物から形成されることが好ましい。
【0048】
また、この被覆層を削られにくくするために、被覆層中には微細粒子を実質的に存在させないことが好ましい。即ち、被覆層の中に、被覆層厚みの3倍程度までの粒子径の微細粒子が被覆層内重量分率で20%程度含まれていても製膜工程では削れの問題は生じ難いが、蒸着時、冷却キャンとの間では削れて脱落しがちとなるので、また磁気テープ加工工程での各種搬送ロールで削れやすくなるので、層B側に設ける被覆層には微細粒子を実質的に存在させないのである。
【0049】
被覆層用に用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、トラガントゴム、アラビアゴム、カゼイン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0050】
なかでも、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体の高分子ブレンド体が特に好ましい。水溶性ポリエステル共重合体としては、ジカルボン酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸成分のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70重量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。セルロース誘導体はポリエステル分解物が析出することを防ぐために寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロ−ス誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性を増大させるために寄与する。
【0051】
シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより被覆層の易滑性が向上し、冷却キャンとの走行性、耐削れ性が確保される。またポリエステルフィルムを巻いたときのフィルム間のブロッキングが防止される。なおフッ素化合物を易滑剤として用いてもよい。
【0052】
シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が挙げられ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれるが、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が適用できる。シランカップリング剤はシリコーンが易滑剤層より遊離されることを防ぐために寄与し、さらに、被覆層とポリエステルとの接着性を向上させるためにも寄与する。
【0053】
本発明のフィルムにおける積層構造において、層Bの厚みは全体厚みの8〜25%が好ましく、より好ましくは10〜20%である。層Bの厚みが全体厚みの8%未満であると、層B中の微細粒子が脱落しやすくなり好ましくない。層Bの厚みが全体厚みの25%より大であると、層B中の微細粒子の形状が、他の層を通じて表面A上に突起状変形を作りやすくなるので好ましくない。
【0054】
次に本発明のフィルムの製法の一例について説明する。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムは、溶融、シート成形、二軸延伸、熱固定からなる通常のプラスチックフィルム製造工程において製造され得るが、その際、B層用ポリエステルとして、チタン化合物により重合され、触媒残渣としてチタン化合物をポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有し、リン化合物をポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppm含有し、アンチモン化合物の存在量がポリエステルに対するアンチモン原子換算で0〜2ppmであり、ゲルマニウム化合物の存在量がポリエステルに対するゲルマニウム原子換算で0〜2ppmであり、そのチタン化合物とリン化合物の比率が、原子換算の重量比率でTi/P=0.7〜10であるポリエステルを用い、このポリエステルに、平均粒径50〜500nmの微細粒子を0.01〜1.0重量%含有させること、共押出し技術の使用によりA/B等の積層構造にしてシートを押出すこと、さらに、必要に応じて層A側の表面や層B側の表面に、塗布による被覆層を形成することによって製膜することができる。より多層の積層構造にしてもよく、製法は本方法だけには限らない。
【0056】
A/B積層構造のフィルムの場合は、含有粒子を可能な限り除いた層A用の原料と、平均粒径が50〜500nmの微細粒子を含有率0.01〜1.0重量%含有させた層B用の原料(前記したポリエステルを使用)とを溶融共押出しし、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸フィルムシートを得、一軸延伸し、必要に応じて被覆層形成用の塗液をフィルム表面に塗布して乾燥し、その後に先の一軸延伸方向とは直交する方向に延伸配向させ、熱固定する製造方法により、本発明のフィルムを製造することができる。
【0057】
層A側の表面上に塗布する塗液としては、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子を溶解又は分散させた水性液に平均粒径5〜50nmの微細粒子を所定量添加させてなる塗液を用いることができる。
【0058】
層B側の表面上に塗布する塗液としては、前述した水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤を添加してなる水性液を用いることができる。水溶性高分子としては、前述したとおり、セルロース誘導体[A]と水溶性ポリエステル共重合体[B]とのブレンド体が特に望ましい。[A]/[B]/シリコーン/シランカップリング剤の重量比率としては、100/2〜200/0.1〜50/1〜40が好ましい。
【0059】
なお、層Aには、磁気テープの磁気ヘッドによる耐久性を更に増すための微細粒子を含ませてもよい。
【0060】
二軸延伸は例えば逐次二軸延伸法又は同時二軸延伸法で行うことができるが、所望するならば熱固定前にさらに縦あるいは横方向あるいは縦と横方向に再度延伸させ機械的強度を高めた、いわゆる強力化タイプとすることもできる。
【0061】
層A上に被覆層を形成するためには、前述した通り、1軸方向への延伸を終えた段階で所定組成・濃度の塗液を基層フィルム上に塗布する方法をとればよい。その塗布方法としては、ドクターブレード方式、グラビア方式、リバースロール方式、メタリングバー方式のいずれであってもよい。表面AのRaは被覆層の微粒子、成分、層A内部の微細粒子の調整により調整することができる。層B上の被覆層の形成に関しても同様の方法を用いればよく、被覆層厚みは、塗布液の固形分濃度、塗布液厚みの調整により所望値に調整することができる。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムは磁気記録媒体のベースフィルムとして、特にデジタルビデオテープ用途に使用すると優れた結果を得ることができ好適である。またデータストレージテープ用途に使用しても優れた結果を得ることができ好適である。また、光反応性のGe、Sb、Te等から成る映像データ記録用合金膜が形成され、映像データ等の記録が可能な光記録テープのベースフィルムとしても好適に用いることができる。
【0063】
本発明の磁気テープは本発明のポリエステルベースフィルムの表面A上にCo等の強磁性金属薄膜を真空蒸着により膜厚み50〜300nmと形成し、この金属薄膜上に10nm程度の厚みのダイヤモンド状カーボン膜をコーティングし、さらに潤滑剤を5nm程度の厚みに塗布し、他方、表面Bの被覆層の上に固体微粒子および結合材からなり必要に応じて各種添加剤を加えた溶液を塗布することによりバックコート層を0.3〜1.5μm程度の厚みで設け、そして所定の幅に裁断することにより製造することができる。
【0064】
【実施例】
本実施例で用いた測定法は次のとおりである。
【0065】
[測定法]
(1)フィルムの表面での表面粗さRa値、Rz値
原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。即ち、セイコーインスツルメント(株)製の卓上小型プローブ顕微鏡(“Nanopics”1000)を用い、ダンピングモードで、フィルムの表面を4μm角の範囲で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS・B0601・Ra、Rzに相当する算術平均粗さよりRa、十点平均粗さよりRzを求めた。面内方向の拡大倍率は1万〜5万倍、高さ方向の拡大倍率は100万倍程度とした。
【0066】
(2)微細粒子の平均粒径
電子顕微鏡(電顕)試験台上に微細粒子粉体を、この粒子ができるだけ重ならないように散在せしめ、電顕(好ましくは透過型電子顕微鏡)により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の粒子について面積円相当径を求め、この数平均値をもって平均粒径とした。
【0067】
なお、この粒径をフィルムから求める場合には下記のa)手法等により求められる。
a)フィルムの被膜表面A上に金スパッター装置により金薄膜蒸着層を20〜30nm(χnm)で設け、電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により倍率10万倍程度で観測し、少なくとも100個の粒子について面積円相当径を求め、この数平均値より2χnmを減じた値をもって粒径とする。
【0068】
(3)被覆層の厚み
被覆層厚みは、塗布液塗布時の塗布液厚みに固形分濃度を掛け、固形分密度、塗布後の延伸倍率で除して求める。なお、この被覆層の厚みをフィルムから求める場合には下記のa)手法等により求められる。
a)フィルムの少片を樹脂で固定し、フィルムの長手方向に平行に切断しフルム断面の超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡により10万倍程度以上の倍率で観察し、被覆層/フィルム、被覆層/樹脂界面の距離より被覆層厚みを求める。
【0069】
(4)フィルムのB層を構成するポリエステル内に含まれるチタン化合物、リン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物の量
蛍光X線(FLX)法により、蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)を用い、ポリエステルフィルムのB層中のポリエステルに含まれるTi,P、Sb、Geの量を定量した。なお、B層も他の層も同じポリエステルを用い、かつ、添加剤や被膜中にそれら元素が含まれない場合にはフィルム全体を試料にして測定すればよい。
(5)ポリエステルの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0070】
(6)磁気テープの特性
市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダー(DVC)を用いドロップアウト(DO)を観測することにより評価した。作成したDVCテープに市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダーで録画し、1分間の再生をして画面にあらわれたブロック状のモザイク個数を数えることによりDOの測定をした。なおDOは常温常湿(25℃、60%RH)でテープ製造後の初期特性を調べた。さらに100回繰返し走行後のDOも測定した。DOは小さい値の方が良い。
【0071】
次に実施例に基づき、本発明を説明する。
【0072】
[実施例1]
チタン化合物触媒によるポリエチレンテレフタレートの製造:
高純度テレフタル酸(三井化学(株)製)100kgとエチレングリコール(日本触媒(株)製)45kgのスラリーを、予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約123kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物123kgを重縮合槽に移送した。
【0073】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された重縮合反応槽に、酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してマグネシウム原子換算で30ppmとなるように加えた。更に5分間撹拌した後、クエン酸キレートチタン化合物の2重量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してチタン原子換算で5ppmとなるように添加し、5分後、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してリン原子換算で5ppmとなるように添加し、その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリマーのペレットとした。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間であった。
【0074】
得られたポリマーのIVは0.66、ポリマーの融点は259℃、溶液ヘイズは0.7%であった。また、ポリマーから測定したチタン触媒由来のチタン原子の含有量は5ppm、リン原子の含有量は5ppmであり、Ti/P=1であり、アンチモン原子の含有量もゲルマニウム原子の含有量も0ppmであることを確認した。
【0075】
なお、上記の重合工程において触媒として添加したクエン酸キレートチタン化合物は、次の方法で合成した生成物を用いた。
【0076】
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた3Lのフラスコ中に温水(371g)にクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.00モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を真空下で蒸留した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、そしてその撹拌されている溶液にNaOH(380g、3.04モル)の32重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、80モル)と混合し、そして真空下で加熱してイソプロパノール/水を除去したところ、わずかに曇った淡黄色のクエン酸キレートチタン化合物(Ti含有量3.85重量%)が得られた。
【0077】
ゲルマニウム触媒によるポリエチレンテレフタレートの製造:
ポリエチレンテレフタレート重合工程において添加する触媒として、通常のゲルマニウム系触媒を用い、通常の方法で重合して、IVが0.66のポリエチレンテレフタレート(ポリエステル中の元素含有利用は、チタンが0ppm、リンが10ppm、アンチモンが0ppm、ゲルマニウムが40ppm)を製造した。
【0078】
上記したゲルマニウム触媒で重合されたポリエチレンテレフタレート(実質的に不活性粒子を含有しない)に、平均粒径60nmのシリカを0.02重量%含有させた原料Aと、上記したチタン化合物触媒により重合されたポリエチレンテレフタレート(実質的に不活性粒子を含有しない)に、平均粒径320nmのポリスチレン球を0.50重量%含有させた原料Bとを、厚み比5:1の割合で共押出し、ロール延伸法で110℃で3.0倍に縦延伸した。
【0079】
縦延伸の後の工程で、A層の外側に下記組成・濃度の水溶液を、塗布厚み4.0μmで塗布した。
【0080】
A層外側への塗布水溶液:
メチルセルロース 0.10重量%
水溶性ポリエステル 0.30重量%
アミノエチルシランカップリング剤 0.01重量%
平均粒径 12nmの極微細シリカ 0.03重量%
【0081】
その後、ステンターにて横方向に98℃で3.3倍に延伸し、200℃で熱処理し、中間スプールに巻き、スリッターで小幅にスリットし、円筒コアーにロール状に巻取り、厚さ6.3μmのフィルムが長さ20000mでロール状に巻取られた複合ポリエステルフィルムとした。このロール状ポリエステルフィルムを温度調整を持たない倉庫に3ヶ月間保存後、このポリエステルフィルムの表面Aに真空蒸着によりコバルト−酸素薄膜を160nmの膜厚で強磁性金属薄膜層を形成した。なおコバルトの蒸着時におけるフィルム搬送速度は150m/分(従来の5割増しの速度)とした。次にコバルト−酸素薄膜層上に、スパッタリング法によりダイヤモンド状カーボン膜を10nmの厚みで形成させた。続いて、表面B上に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を400nm厚さで設け、スリッターにより幅6.35mmにスリットしリールに巻き取り磁気テープを作製した。
【0082】
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0083】
[実施例2]
実施例1のベースフィルム製造において、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレン−2,6−ナフタレートと変更し、A層外側の塗布液の塗布厚みを8.0μmと変更し、縦延伸温度、倍率を135℃で5.0倍と変更し、横延伸温度、倍率を135℃、6.0倍と変更し、更に160℃で1.2倍に横に延伸し、200℃での熱処理と変更し、その他は実施例1と同様にして、厚さ4.2μmのフィルムが長さ25000mで巻取られた複合ポリエステルフィルムロールを作製した。さらに実施例1と同様にして幅6.35mmの磁気テープを作製した。
【0084】
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は18nm、270nmであった。
【0085】
[実施例3]
実施例2のベースフィルム製造において、原料Aに含有させたシリカを除き、その他は実施例2と同様にして、フィルム厚さ4.2μm、巻き長さ25000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製した。さらに、実施例2と同様にして幅6.35mmの磁気テープを作製した。
【0086】
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は20nm、300nmであった。
【0087】
[実施例4]
実施例1のベースフィルム製造において、縦延伸の後の工程で、A層の外側への塗布の他に、B層の外側に下記組成・濃度の水溶液を塗布厚み1.0μmで塗布する工程を追加した。
【0088】
B層外側への塗布水溶液:
メチルセルロース 0.15重量%
水溶性ポリエステル 0.20重量%
アミノエチルシランカップリング剤 0.02重量%
ポリジメチルシロキサン 0.01重量%
【0089】
その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
得られた複合ポリエステルフィルムを実施例1と同一条件下に13ヶ月放置した後、実施例1と同様に磁気テープを作製してDOを評価した。DOは0個/分と磁気テープ特性は良好であった。
【0090】
[実施例5]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が0.1ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0091】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0092】
[実施例6]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が12ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0093】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0094】
[実施例7]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、重合触媒として用いたクエン酸キレートチタン化合物の添加量を、得られるポリマーに対するチタン原子換算量が3ppmとなるように変更し、さらに、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が8ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0095】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0096】
[比較例1]
実施例1のベースフィルム製造において、A層の外側への水溶液塗布の塗布厚みを0.5μmと変更した。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0097】
[比較例2]
実施例1のベースフィルム製造において、A層外側用の塗布水溶液のメチルセルロース濃度を0.19重量%と変更した。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0098】
[比較例3]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球を、粒径600nmのポリスチレン球に変更した。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は30nm、500nmであった。
【0099】
[比較例4]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球の代わりに、平均粒子径190nmのケイ酸アルミニウムを含有量1.5重量%で用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は28nm、220nmであった。
【0100】
[比較例5]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球の代わりに、粒径40nmのケイ酸アルミニウムを含有量0.50重量%で用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製しようとした。しかし、スリット時に巻きが大きく乱れてしまい、端面がきちっとそろったロール状製品が得られなかった。この後磁気テープを作製してもテープ作製収率が大幅に低下するので磁気テープ製造は中止した。
得られた複合ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は4nm、105nmであった。
【0101】
[比較例6]
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bに含有させたポリスチレン球の含有量を0.005重量%と変更し、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製しようとした。しかし、スリット時に、長手方向のしわが幅方向の2/3程度まで入ったので、この後磁気テープを作製してもテープ作製収率が大幅に低下するので磁気テープ製造は中止した。
得られた複合ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は4nm、150nmであった。
【0102】
[比較例7]
実施例1で製造したチタン化合物触媒によるポリエチレンテレフタレートに、アンチモン触媒によるポリエチレンテレフタレートと実施例1で製造したゲルマニウム触媒によるポリエチレンテレフタレートとを混合したポリマー原料を、原料B用のポリエステルとして用いた。なお、この混合ポリマー原料中の元素含有量は表1に示すとおりであった。
【0103】
ここで、アンチモン触媒によるポリエチレンテレフタレートとしては、次の製造によるものを用いた。ポリエチレンテレフタレート重合工程において添加する触媒として、通常のアンチモン系触媒を用い、通常の方法で重合して、IVが0.66のポリエチレンテレフタレート(ポリエステル中の元素含有利用は、チタンが0ppm、リンが10ppm、アンチモンが80ppm、ゲルマニウムが0ppm)を製造した。
【0104】
実施例1のベースフィルム製造において、原料Bを上記した混合原料に変更した以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0105】
[比較例8]
実施例1でのチタン化合物触媒によるポリエステル製造において、重合触媒として用いたクエン酸キレートチタン化合物の添加量を、得られるポリマーに対するチタン原子換算量が1ppmとなるように変更し、さらに、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が1ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0106】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0107】
[比較例9]
実施例1のポリエステル製造において、重合触媒として用いたクエン酸キレートチタン化合物の添加量を、得られるポリマーに対するチタン原子換算量が10ppmとなるように変更し、さらに、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液の添加量を、得られるポリマーに対するリン原子換算量が6ppmとなるように変更し、それ以外は実施例1と同様にして重合を行い、表1に示す元素含有量のポリエステルを製造した。
【0108】
得られたポリエステルを原料B用のポリエステルに用い、その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0109】
[比較例10]
実施例1のベースフィルム製造において、原料B用のポリエステルを、比較例7で用いたアンチモン触媒によるポリエステルに変えた。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0110】
[比較例11]
実施例1のベースフィルム製造において、原料B用のポリエステルを、実施例1で製造したゲルマニウム触媒によるポリエステルに変えた。その他は実施例1と同様にして、フィルム厚さ6.3μm、巻き長さ20000mの複合ポリエステルフィルムロールを作製し、さらに、幅6.35mmの磁気テープを作製した。
得られた複合ポリエステルフィルム及び磁気テープの特性を表1に示す。なお、複合ポリエステルフィルムの表面BのRa値、Rz値は13nm、230nmであった。
【0111】
【表1】
【0112】
【発明の効果】
本発明のポリエステルフィルムによると、巻き長さ15000m以上の長尺ロール製品のポリエステルフィルムをベースフィルムとして用い、蒸着速度を上げて蒸着して磁気テープを製造しても、フィルム表面Bからのポリエステル分解物の析出がなく、冷却キャンが汚れず、またフィルム製造から真空蒸着までのリードタイムが3ヶ月以上と長くなっても、電磁変換特性が良好で、ドロップアウトが少ない磁気テープを製造することができる。特に、デジタルビデオテープのようなデジタルデータを記録する記録媒体用のベースフィルムとして有効である。
Claims (6)
- 平均粒径50〜500nmの微細粒子を0.01〜1.0重量%含有する層Bが片側表面に配された積層フィルム構造の記録媒体用ポリエステルフィルムであって、層B側の表面とは反対側の表面Aがデータ記録材薄膜が形成される面であり、該表面Aにおける表面粗さRa値が0.5〜4nmであり、層Bを構成するポリエステルが、チタン化合物をポリエステルに対するチタン原子換算で2〜6ppm含有し、アンチモン化合物の量がポリエステルに対するアンチモン原子換算で0〜2ppm、ゲルマニウム化合物の量がポリエステルに対するゲルマニウム原子換算で0〜2ppmであるポリエステルであることを特徴とする記録媒体用ポリエステルフィルム。
- 層Bを構成するポリエステル中にリン化合物がポリエステルに対するリン原子換算で0.2〜9ppm含有され、そのポリエステル中のチタン化合物とリン化合物の比率が、原子換算の重量比率(Ti/P)で0.7〜10であることを特徴とする請求項1に記載の記録媒体用ポリエステルフィルム。
- 層B側のフィルム表面には、被覆層が存在しないか、あるいは、粒子を実質的に含有しない被覆層が存在することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム。
- ポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム。
- デジタル記録方式の磁気テープ用に用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の記録媒体用ポリエステルフィルム。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルムの表面Aの外側に強磁性金属薄膜層を設けてなる磁気記録テープ。
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---|---|---|---|---|
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JP2012126142A (ja) * | 2012-02-11 | 2012-07-05 | Mitsubishi Plastics Inc | 光学用積層ポリエステルフィルム |
JP2013103361A (ja) * | 2011-11-11 | 2013-05-30 | Toray Ind Inc | 二軸配向ポリエステルフィルムおよび磁気記録媒体 |
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2003
- 2003-03-04 JP JP2003056713A patent/JP2004262162A/ja active Pending
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