JP4925555B2 - ポリグリコール酸系樹脂組成物およびその成形物 - Google Patents

ポリグリコール酸系樹脂組成物およびその成形物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリグリコール酸樹脂を主成分とし、比較的少量の芳香族ポリエステル樹脂を含むポリグリコール酸系樹脂組成物およびその成形物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリグリコール酸(PGA、ポリグリコリドを含む)は、生分解性に加えて、耐熱性、ガスバリア性、剛性(包装材としての機械的特性)等に優れているため、各種シート、フィルム、容器、射出成形品などの成形材料として新たな用途展開が図られている(特開平10−60136号公報、特開平10−80990号公報、特開平10−138371号公報、特開平10−337772号公報、)。しかし、ポリグリコール酸樹脂は、加水分解性を示すために、単独での成形材料としての使用よりも、他の熱可塑性樹脂材料との複合化により、改善された特性の成形材料が望まれるところである。
【0003】
他方、(テレ)フタル酸を代表とする芳香族ジカルボン酸と、ジオールとからなる縮重合物である芳香族ポリエステル樹脂は、透明性、剛性、易成形性に優れ、その代表例であるポリエチレンテレフタレート(PET)を代表的な材料名称として含めた、いわゆる「PETボトル」が飲用ボトルに広く用いられている。このような飲用ボトルには、内容物の劣化防止のための酸素バリア性、発泡性飲料に加圧溶解されている炭酸ガスの抜け防止のための炭酸ガスバリア性が要求され、ガスバリア性の向上が望まれている。
【0004】
したがって、上記したようなポリグリコール酸樹脂と、芳香族ポリエステル樹脂とを、混合により、あるいは積層により複合化して、ポリグリコール酸樹脂を用いた包装材としての機械的特性およびガスバリア性の優れた成形材料、特に包装ないし容器成形材料として適した複合材料を得ようとする試みもされている。
【0005】
例えば、Barbeeの米国特許第4424242号明細書には、プレス成形されたポリグリコール酸フィルムとポリエステルテレフタレートフィルムの積層物を含む多層包装材料の開示がある。またBarbeeの米国特許第4565851号明細書には、ポリグリコール酸と、芳香族ポリエステル樹脂とを重量基準でのブレンド比50/50〜5/95で含むポリマーブレンド物の開示がある。
【0006】
しかしながら、上記した複合材料のうち積層物は、溶融加工特性および延伸特性に乏しい。また、ポリマーブレンド物もポリグリコール酸含量が25重量%を超えるものについては、延伸による評価対象外とされている。更に、いずれの複合材料も芳香族ポリエステル樹脂を主成分として用い、そのガスバリア性を比較的少量のポリグリコール酸樹脂で改善しようとするものであり、ポリグリコール酸樹脂の優れた特性を充分に利用するものとは言い難い。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主要な目的は、ポリグリコール酸樹脂を主成分とする、耐湿安定性、延伸性および熱溶融加工特性が改善され、且つガスバリア性も良好な熱可塑性樹脂組成物およびその成形物を提供することにある。本発明の更なる目的は、ガスバリア性および透明性の改善されたポリグリコール酸系樹脂組成物およびその成形物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、予め溶融混合された熱安定剤を含むポリグリコール酸樹脂50重量%超過量、15モル%までが脂肪族ジカルボン酸で置換され得る芳香族ジカルボン酸と、ジオールとからなりフェノール/テトラクロロエタン(1/1)混合溶媒中25℃で測定した固有粘度が0.6〜2.0dl/gである芳香族ポリエステル樹脂50重量%未満量を含むポリグリコール酸系樹脂組成物が提供される。
【0009】
上述したBarbeeの米国特許第4565851号明細書に記載の組成物は、芳香族ポリエステル樹脂のガスバリア性を少量のポリグリコール酸を配合することにより改善するという発想に基づいており、ポリグリコール酸樹脂を主成分とする樹脂組成物は検討されていない。本発明は、これに対し、主成分としてのポリグリコール酸樹脂の耐湿安定性および熱溶媒加工特性を、比較的少量の芳香族ポリエステル樹脂の配合により改善するものである。本発明の基礎をなす、このような少量の芳香族ポリエステル樹脂の添加効果は、他の熱可塑性樹脂の代表として用いたポリアミド、ポリエチレンおよびポリ乳酸の配合では得られないものである(後記例28〜30参照)。
【0010】
従来、本発明のような優位量(50重量%を超える割合)のポリグリコール酸樹脂と劣位量(50重量%未満)の芳香族ポリエステル樹脂とからなる熱可塑性樹脂組成物が実用化されなかった理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らの検討によれば、以下のような要因が、このようなポリグリコール酸系樹脂組成物の実用化の障害となっていたものと考えられる。(イ)ポリグリコール酸はその熱分解温度が245℃程度と低く、240〜270℃の熱溶融加工温度を必要とする芳香族ポリエステル樹脂との混合熱溶融加工は困難と考えられたこと。(ロ)ポリグリコール酸樹脂と芳香族ポリエステル樹脂とのブレンド物は、完全な熱溶融相溶系ではなく、屈折率も違うため成形物は白化し、包装材料に好ましい透明性は得難いこと(例えば後記例8に示すように両者の50:50(重量)ブレンド物の成形シートはヘイズ90%を示し、透明性が著しく悪い)。(ハ)ポリグリコール酸含量が多くなるに従って、成形物の延伸性が悪くなると考えられたこと。
【0011】
しかしながら、本発明者等の更なる研究によれば、上記(イ)のポリグリコール酸樹脂の熱安定性の問題は、少なくとも適当な熱安定剤の配合により改善可能であり、これにより芳香族ポリエステル樹脂との混合熱溶融加工には支障ないことが判明した。そして、少量の芳香族ポリエステル樹脂の配合は、却って主成分であるポリグリコール酸系樹脂の熱溶融加工特性および耐湿安定性ならびに(ハ)延伸性の向上に有意に寄与することも見出された。更には(ロ)成形物の白化の問題は、改善された延伸性を利用して、成形物を延伸すれば、却って著しく低減でき透明性が著しく向上することが見出された。これにより包装材料としてのガスバリア性も向上する。少量の芳香族ポリエステル樹脂の配合は、この延伸性の改善に寄与するものであり、また、上記した延伸による成形物の透明性の向上は、ポリグリコール酸樹脂単独では認められず、芳香族ポリエステル樹脂を配合した本発明の樹脂組成物において初めて認められるものである。
【0012】
本発明のポリグリコール酸系樹脂組成物およびその成形物は、上述した本発明者等の知見に基づくものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
(ポリグリコール酸樹脂)
本発明のポリグリコール酸系樹脂組成物(以下、しばしば「PGA組成物という」)の主成分であるポリグリコール酸樹脂(以下、しばしば「PGA樹脂」という)は、下記式(I)
【化1】
Figure 0004925555
で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を55重量%以上含むポリグリコール酸共重合体を含むものである。
【0014】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、ポリグリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチリンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)、アミド類(εカプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。
【0015】
PGA樹脂中の上記グリコール酸繰り返し単位は55重量%以上であり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。この割合が小さ過ぎると、PGA樹脂に期待されるガスバリア性向上効果が乏しくなる。この限りで、PGA樹脂は、2種以上のポリグリコール酸(共)重合体を併用してもよい。
【0016】
本発明のポリグリコール酸系樹脂組成物(PGA組成物)は、上記PGA樹脂を優位量、すなわち50重量%を超える割合で含むものである。PGA組成物中のPGA樹脂配含量は、好ましくは60〜99重量%、より好ましくは60〜90重量%、更に好ましくは70〜90重量%である。PGA樹脂量が少なくなるに従ってガスバリア性の改善効果が乏しくなる。他方、99重量%を超えると、芳香族ポリエステル樹脂の配合による耐湿安定性および熱溶融加工特性改善効果、更には延伸性改善効果が乏しくなる。また本発明のPGA組成物中には、上記式(I)で表わされるグリコール酸繰り返し単位を50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことが更に好ましい。
【0017】
PGA樹脂は、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いるGPC測定における重量平均分子量(ポリメチルメタクリレート換算)が5万〜60万の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が低過ぎると、芳香族ポリエステル樹脂との溶融混合が難しく、成形物の強度が低下する。重量平均分子量が大き過ぎると、芳香族ポリエステル樹脂との溶融混合が難しく、溶融加工時のスクリューの剪断力で発熱し、PGA組成物をペレットに加工する時や、あるいは成形物に加工する時、樹脂着色が進み、また溶融不良による斑(成形物のフローマーク)などが発生し外観不良になる。重量平均分子量15万〜30万程度がより好ましい。
【0018】
(芳香族ポリエステル樹脂)
本発明のPGA組成物の第2の成分である芳香族ポリエステル樹脂は、ポリエステルを構成するジカルボン酸とジオールの一であるジカルボン酸、が芳香族であるポリエステルである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが好ましい。芳香族ジカルボン酸には3以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸化合物、2以上のカルボキシル基を有する脂肪族または脂環族カルボン酸化合物が共重合されてもよい。他方、好ましいジオール成分の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、キシリレングリコール、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる、炭素数6以下のジオール成分を含むのがより好ましい。特に好ましい芳香族ポリエステル樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)が挙げられるほか、ジカルボン酸とジオールの少なくとも一方が2種の成分からなる共重合ポリエステル(co−PET)、例えばジカルボン酸としてのテレフタル酸と、ジオールとしてのエチレングリコール(60〜75モル%)および1,4−シクロヘキサンジメタノール(25〜40モル%)との共縮合物である共重合ポリエステル、およびジカルボン酸としてテレフタル酸を用いるポリエステルにおいて該テレフタル酸の一部、約15モル%までを他のカルボン酸、例えばイソフタル酸や2以上のカルボキシル基を有する脂肪族または脂環族カルボン酸化合物で置き換えて得られる共重合ポリエステルも好適に用いられる。炭素数6以下のジオール成分を含む芳香族ポリエステルや共重合ポリエステルは、PGA樹脂との組合せにおいて、透明性とガスバリア性をともによく改善維持する。
【0019】
芳香族ポリエステル樹脂は、本発明のPGA組成物中、1重量%以上、50重量%未満、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下の量で用いられる。1重量%以上でも、PGA組成物の耐湿安定性および組成物から得られる成形物の延伸性改善効果は得られるが、より好ましくは10重量%以上含まれることにより、耐湿安定性および延伸性の一層の改善を図ることが好ましい。他方50重量%以上含まれると、PGA樹脂単独の場合に比べて酸素ガス透過率が増加して、本発明の目的とするPGA樹脂を主成分とすることによるガスバリア性の顕著な改善効果が得られなくなる。必要なガスバリア性のレベルは用途に応じて定まるが、良好なガスバリア性を維持するためにPGA組成物中に占める芳香族ポリエステル樹脂の割合は40重量%以下が好ましく、更にはPGA組成物中のPGA樹脂含有量が90〜70重量%の範囲となるように定めることが透明性とガスバリア性の両立を図るうえで好ましい。
【0020】
なお、本発明のPGA組成物には、芳香族ポリエステル樹脂(およびPGA樹脂)のリサイクル物を含めることができるが、本発明のPGA組成物の組成範囲を維持するように、例えばPGA樹脂を追加混合することができる。また、着色の成形物を得るために、PGA樹脂および/または芳香族ポリエステル樹脂に、予め顔料などの着色剤を混合しておくことにより、所望の濃度の着色の成形物が得られ易い。
【0021】
芳香族ポリエステル樹脂は、フェノール/テトラクロロエタン(1/1)混合溶媒中25℃で測定した固有粘度(極限粘度、IV値)が0.6〜2.0(dl/g)の範囲が好ましい。IV値が低過ぎると組成物をフィルムに成形するのが難しくなり、またフィルム強度が低下する傾向にある。IV値が大き過ぎると、溶融加工時の剪断発熱で樹脂着色や溶融不良による斑等が発生し易い。IV値が0.7〜1.5の範囲であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明のPGA組成物において、PGA樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の成形加工時の溶融粘度は近い方が好ましい。好ましい粘度比は1/10〜10/1の範囲であり、成形が容易となる。
【0023】
(他の熱可塑性樹脂)
上述したように、本発明のPGA組成物は、上記したPGA樹脂を50重量%を超える量で含み、且つ芳香族ポリエステル樹脂を1重量%以上、好ましくは10重量%以上の割合で含むことにより、PGA樹脂の持つ優れたガスバリア性の成形物を与えるという特性を維持しつつ、耐湿安定性および熱溶融加工特性を改善し、更には、成形物の延伸性および透明性を改善することを目的とする。従って、このような目的と相反しない限りにおいて、上記したPGA樹脂および芳香族ポリエステル樹脂の含有量を維持する範囲で、他の熱可塑性樹脂を本発明のPGA組成物に含めることができる。このような他の熱可塑性樹脂の例としては、上述したポリグリコール酸共重合体を与えるコモノマーの単独または共重合体などが挙げられる。
【0024】
(熱安定剤)
本発明のPGA組成物は熱安定剤を含むことが好ましい。熱安定剤としては、従来からポリマー用の酸化防止剤として知られる加工物の中から選択使用することができるが、中でも重金属不活性化剤、下式(II)で表わされるペンタエリスリトール骨格構造(あるいはサイクリックネオペンタンテトライル構造)を有するリン酸エステル、下式(III)で表わされる少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのアルキルエステル基とを持つリン化合物、及び炭酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく用いられる。特に下式(II)で表わされるペンタエリスリトール骨格構造(あるいはサイクリックネオペンタンテトライル構造)を有するリン酸エステル、下式(III)で表わされる少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのアルキルエステル基とを持つリン化合物が少量の添加で効果的に熱安定性の改善効果が得られるので好ましい。
【0025】
【化2】
Figure 0004925555
【化3】
Figure 0004925555
【0026】
熱安定剤の混合は、PGA樹脂をペレット加工する工程と共に予め溶融混合させたり、芳香族ポリエステル樹脂に溶融混合させたり、PGA樹脂と芳香族ポリエステル樹脂からPGA組成物にする際に溶融混合させる等の方法により行うことができる。PGA樹脂に熱安定剤を予め溶融混合させておくと、少量の熱安定剤で効果的に熱安定性が改良される。これは、芳香族ポリエステル樹脂の結晶融点がPGA樹脂に比べて、かなり高いため、加熱溶融混合に際しての安定性を予め増大させておくことが好ましいからである。
【0027】
熱安定剤の配合割合は、PGA樹脂100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.003〜3重量部、より好ましくは0.005〜1重量部である。PGA組成物100重量に対しては、通常0.0001〜2.5重量部程度である。熱安定剤の添加量が多過ぎると、その添加効果は飽和する一方で、透明性を阻害することがある。
【0028】
(成形)
上述したPGA樹脂および芳香族ポリエステル樹脂に加えて、好ましくは熱安定剤を含む本発明のPGA組成物は、熱溶融加工特性が改善されているので、フィルム、シート、繊維、その他の押出成形物、射出成形物、中空成形物などの各種成形物に容易に成形加工することができる。フィルムあるいはシートは、一般に、PGA組成物からなるペレットをTダイなどのフラットダイ、あるいはサーキュラーダイから溶湯押出することにより製造される。フィルムとしては、延伸フィルムや熱収縮性フィルムが好ましい。シートは、真空成形や圧空成形等のシート成形法により、トレーやカップなどの容器に二次成形加工することができる。中空成形物としては、ブロー容器や延伸ブロー容器などがある。
【0029】
本発明の成形物は、フィルム延伸、真空あるいは圧空シート成形あるいは延伸ブロー成形等の態様により延伸されることが好ましい。それは、上述したように、第1に本発明のPGA組成物の成形物は、1重量%以上と比較的少量の芳香族ポリエステル樹脂の配合により延伸性が改善されているからであり、第2にこうして改善された延伸を利用して成形物を延伸することにより包装ないし容器材料として適したガスバリア性および透明性が改善されるからである。延伸倍率は、好ましくは少なくとも1方向に2倍以上、より好ましくは3〜4倍程度であり、面積比で9〜16倍程度である。例えば30倍を超える程度に、延伸倍率が過大になると、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0030】
フィルム、シートあるいは容器形態を含めて、本発明の成形物は、単層でもよいが、必要に応じて、他の樹脂層や紙などと積層することができる。積層法としては、ラミネート加工、コーティング、共押出などがある。アルミニウム蒸着などのドライプロセスも適用することができる。
【0031】
ラミネート加工には、ウェットラミネーション、ドライラミネーション、エクストルージョンラミネーション、ホットメルトラミネーション、ノンソルベントラミネーションなどが含まれる。コーティングには、延伸フィルムの表面に防湿コートや防湿ラミネートなどを施す方法が含まれる。
【0032】
共押出による積層では、本発明の組成物層を中間層として、他の樹脂層をその両側に配置することが好ましい。各層間には、必要に応じて接着層を配置してもよい。共押出後に延伸する場合には、積層体の全体が延伸されるので、他の樹脂として、延伸が容易な熱可塑性樹脂が選択される。また、他の樹脂層には、所望の機能に応じて、例えば、シール可能な樹脂、耐衝撃性や耐アビューズ性(酷使耐久性)、耐熱性(例えば、耐ボイル性、耐レトルト性)などに優れた樹脂を配置することができる。他の樹脂層は、所望により、それぞれ複数層にすることができる。
【0033】
より具体的には、本発明のPGA組成物と積層される一層を構成する好ましい他の熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル酸あるいはメタクリル酸系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリフェニレンスルフィドなどのスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が用いられる。なかでも、ポリエステル系樹脂、特にジオール成分とジカルボン酸成分の少なくとも一方、好ましくはジカルボン酸、が芳香族である芳香族ポリエステル系樹脂が、用途に応じた所望の透明性、ガスバリア性をともに満足した多層成形体を与えるために好ましく用いられる。
【0034】
フィルム、シートあるいは容器形態を含めて、本発明の成形物の厚みは、5〜1000μmの範囲内から、用途に応じて強度、透明性およびガスバリア性を考慮して選択される。多層構成の成形物に占めるPGA組成物層の厚みは、成形物全体の厚みに対して3〜90%が好ましい。3%未満だと、成形物のガスバリア性の改善に対するPGA組成物層の寄与が乏しく、90%を超えると透明性が維持し難くなることがある。
【0035】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明を更に具体的に説明する。評価のために、以下の測定を行った。
【0036】
フィルムやシートの厚み構造は、トップウェーブ株式会社製「Layer Gauge II」を用いて測定した。
【0037】
延伸性は、延伸による成形物の透明性の低下が生じ難い場合を“A”、低下する場合を“C”として判定した。透明性の低下は、延伸性が不良の場合に起るからである。
【0038】
耐湿安定性は、80℃相対湿度95%の条件で6時間、12時間のそれぞれの条件で貯蔵したときの“クラック”の発生有無で判定した。12時間で“クラック”の発生の無い場合を“A”、12時間で“クラック”の発生が有るが、6次間で“クラック”発生の無い場合を“B”、6時間で“クラック”の発生の有る場合を“C”とした。
【0039】
透明性の程度を表わすヘイズ%は、東京電色株式会社製「ヘーズメーター」を用いて、サンプル表面にグリセリンを塗布し、サンプル表面の影響を排除した値を使用した。ヘイズ%が小さい値ほど、透明性が良好である。
【0040】
酸素ガスバリア性は、Mocon社製「OX−TRAN100」を用いて、23℃相対湿度80%の条件で測定した。厚さ20μmで規準化したcc/m/day/atm単位の酸素ガス透過量を測定した。
【0041】
(PGA組成物の調製)
PGA(呉羽化学製、270℃、剪断速度:121/sにおける溶融粘度=920Pa・s)に熱安定剤(旭電化社製、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト上記式(II)で代表されるリン酸エステル)をPGA100重量部に対し0.1重量部の割合で添加したものと、共重合PET(以下、「co−PET」と称する;カネボウ合成社製「PET−DA5」、組成:テレフタル酸/ダイマー酸/エチレングリコール=95/5/100(モル/モル/モル)共重合体;IV=0.74)とを下表1に示した割合で混合した。混合物を、20φ二軸押出機(シリンダー温度:240〜270℃、その温度分布はC1/C2/C3/D=240/250/270/250℃)で溶融加工して、ペレットPe1〜Pe9を得た(Pe2〜7は実施例組成物、他は比較例組成物である)。ペレットはいずれも乳白色であった。
【0042】
【表1】
Figure 0004925555
【0043】
上表1のペレット(Pe1〜Pe9)を用いて性能評価のための比較試験(例1〜例26)を、以下のようにして行った。
【0044】
(例1〜例8)
40φ押出機3台が接続されている多層シート(Tダイ)装置を用い、芯層に表1のペレット(Pe1〜Pe9)、内外層にPET(Eastman社製「9921W」、IV=0.80、270℃、剪断速度:121/sにおける溶融粘度620P・s)を配置し、3層の多層シート(厚み構成:内層/芯層/外層=およそ100μm/100μm/100μm)を成形して、そのヘイズ%値を測定した。概要を表2に例1〜9として示す。
【0045】
【表2】
Figure 0004925555
【0046】
上記例1〜9で得られた多層シートを、それぞれ120℃で10〜20秒間加熱し、同時二軸延伸で縦横約4×4倍(面積比で14〜18倍、厚み)の延伸フィルムを成形して、下表3(例10〜18)に示す測定結果を得た。
【0047】
【表3】
Figure 0004925555
【0048】
(例19〜例22)
表1に示すペレット中のペレットPe6(PGA/co−PET=70/30(重量%))を用い、250℃で溶融し100μm厚みのプレスシートを成形した。そのヘイズ%は表1に示す通り80%であった。このプレスシートを120℃で10〜20秒間加熱し、それぞれ異なる倍率(例19は延伸せず)での同時二軸延伸により延伸フィルム(単層)を成形し、下表4(例19〜22)に示す測定結果を得た。
【0049】
【表4】
Figure 0004925555
【0050】
(例23〜例26)
芯層に表1中のペレットPe6(PGA/co−PET=70/30(重量%))を用い、延伸倍率を変えた以外は例15と同様にして多層延伸フィルムを成形し、下表5(例23〜26)に示す測定結果を得た。
【0051】
【表5】
Figure 0004925555
【0052】
(例27)
PGA(呉羽化学製 270℃、剪断速度:121/sにおける溶融粘度820P・s)にその100重量部当り0.05重量部のPe1中のものと同じ熱安定剤を添加したもの70重量%、ポリエチレンテレフタレート(PET)(Eastman社製「9921W」、IV=0.80)30重量%からなるPGA組成物を、20φ二軸押出機(シリンダー温度:240〜280℃)で溶融加工して、ペレットを得た。
【0053】
40φ押出機3台が接続されている多層シート(Tダイ)装置を用い、芯層にこのペレット、内外層にPET(Eastman社製「9921W」、IV=0.80)を配置し、3層の多層シート(厚み構成:内層/芯層/外層=およそ100μm/100μm/100μm)を成形した。得られた多層シートを120℃で10〜20秒間加熱し、同時二軸延伸で縦横4×4倍(面積比で14〜18倍、厚み22μm)に延伸して、フィルムを得た。多層シートのヘイズ%は70%であった。得られた多層延伸フィルムについての測定結果を表6に示す。
【0054】
【表6】
Figure 0004925555
【0055】
(例28)
co−PETの代りにポリアミドNy6(東レ社製「アミランCM1021FS」)を用いる以外は表1のPe6用の混合物と同じ混合物を、20φ小型二軸押出機(シリンダー温度分布:(C1/C2/C3/D)=240/250/270/250℃)で溶融混練したところ、黒色物が発生し、発泡も見られた。従って、多層シートの成形はしなかった。
【0056】
(例29)
co−PETの代りに低密度ポリエチレン(日本ポリケム社製「ノバテックLD」)を用いる以外は表1のPe6用の混合物と同じ混合物を、20φ小型二軸押出機(シリンダー温度分布:(C1/C2/C3/D)=240/250/270/250℃)で溶融混練したところ、両者の樹脂は混練されている状態ではなかった。従って、押出ではなく、250℃で溶融加熱プレス後、急冷してシートを作成したが、斑の状態であった。フィルムの成形はしなかった。
【0057】
(例30)
co−PETの代りにポリ乳酸(島津製作所製「ラクティ#9030」)を用いる以外は表1のPe6用の混合物と同じ混合物を、20φ小型二軸押出機(シリンダー温度分布:(C1/C2/C3/D)=240/250/270/250℃)で溶融混練したところ、溶融樹脂の粘度低下が激しく、ペレット製造装置に掛けられず、ペレットを得られなかった。そのため、混練のためのシリンダー温度をC1/C2/C3/D=240/250/270/250℃まで下げたが、やはり同様で、ペレットが得られなかった。このため、樹脂の混合物(塊)を粉砕し、250℃で溶融加熱プレス後、急冷してシート作成を試みたが、脆くて完全なシートの成形ができなかった。得られたシート様物の外観は褐色系で曇りがあった。
【0058】
上記表1〜表6、特に表3の結果は、PGA99〜60重量%に対し、1〜40重量%の芳香族ポリエステル樹脂を配合することにより、PGAの持つガスバリア性で代表される物性が維持されつつ、その耐湿安定性および延伸性が著しく改善されていることが分かる。また表2と表3の結果を対比すると、芳香族ポリエステル樹脂の配合により改善された延伸性を利用して、延伸を行うことによりガスバリア性が幾分向上するほか、透明性が著しく向上することが分かる。また例28〜30の結果との対比により、上記した本発明の芳香族ポリエステル樹脂配合による熱安定性および熱溶融加工特性改善効果は、ポリアミド、ポリエチレンおよびポリ乳酸の配合では得られないものであることが分かる。
【0059】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、PGA樹脂に対し、比較的少量の芳香族ポリエステル樹脂を配合することによりPGA樹脂の持つガスバリア性で代表される優れた特性を維持しつつ、耐湿安定性および熱溶融加工特性を著しく改善し、更には延伸特性および透明性の改善されたPGA組成物ならびにその成形物が提供される。

Claims (14)

  1. 予め溶融混合された熱安定剤を含むポリグリコール酸樹脂50重量%超過量、15モル%までが脂肪族ジカルボン酸で置換され得る芳香族ジカルボン酸と、ジオールとからなりフェノール/テトラクロロエタン(1/1)混合溶媒中25℃で測定した固有粘度が0.6〜2.0dl/gである芳香族ポリエステル樹脂50重量%未満量を含むポリグリコール酸系樹脂組成物。
  2. ポリグリコール酸樹脂99〜60重量%と、芳香族ポリエステル樹脂1〜40重量%とを含む請求項1に記載の樹脂組成物。
  3. ポリグリコール酸樹脂90〜70重量%と、芳香族ポリエステル樹脂10〜30重量%とを含む請求項1に記載の樹脂組成物。
  4. 熱安定剤が、重金属不活性化剤、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル、少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのアルキルエステル基とを持つリン化合物、及び炭酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
  5. 芳香族ポリエステル樹脂が芳香族ポリエステル共重合体である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載のポリグリコール酸系樹脂組成物からなる成形物。
  7. 多層構造を有する請求項に記載の成形物。
  8. フィルム形態である請求項6または7に記載の成形物。
  9. 多層構造を有し、その少なくとも1層が延伸されている請求項7または8に記載の成形物。
  10. 二以上の共延伸された層を含む請求項に記載の成形物。
  11. 延伸された層が少なくとも一方向で2倍以上に延伸されている請求項9または10に記載の成形物。
  12. 延伸された層が面積比で4倍以上に延伸されている請求項11に記載の成形物。
  13. 延伸された層が少なくとも一方向で約3〜4倍に延伸されている請求項9または10に記載の成形物。
  14. 延伸された層が面積比で約9〜16倍に延伸されている請求項13に記載の成形物。
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