JP5291461B2 - 脂肪族ポリエステル組成物およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、結晶特性の改善されたポリグリコール酸系の脂肪族ポリエステル組成物ならびにその製造方法に関する。
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、脂肪族ポリエステルは、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。
脂肪族ポリエステルの中でも、ポリグリコール酸は、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性に優れ、耐熱性や機械的強度にも優れているので、包装材料などの分野において、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
しかしながら、ポリグリコール酸は加水分解性を示すために、単独の成形材料としての使用よりも他の熱可塑性樹脂材料との複合化(例えば積層)により、耐水性(耐加水分解性)の向上を含む特性改善を図ることが期待される。他方、ポリグリコール酸は、結晶化が速いため、他の熱可塑性樹脂と複合化して成形加工する際、ポリグリコール酸の結晶化に伴って、延伸成形が安定にできない、成形物の厚みムラを生ずる、あるいは成形物が不透明化(白化)する等の、成形加工上あるいは製品外観上の問題が起きやすい。
上記したようなポリグリコール酸の過大な結晶化速度による問題に対しては、ポリグリコール酸に対し、融点よりかなり高い温度(熱履歴温度)で熱処理を行う(熱履歴を与える)ことにより、結晶化を遅くする方法が提案されている(下記特許文献1)。しかし、これだけでは、複合化する他の熱可塑性樹脂材料が限定されてしまうなど、幅広い材料展開には不十分である。
結晶化速度を低下する他の方法としては、一般的に結晶性ポリマーの主成分とは別の成分を主鎖構造に導入する共重合化が知られている。ポリグリコール酸に関しても、モノマー原料であるグリコリドと共重合可能な別のモノマー群から選択したコモノマーとの共重合化により、結晶化速度の低下が実現されている(下記特許文献2)。しかしながら、このような共重合によるポリグリコール酸の改質には、グリコール酸の単独重合の場合に比べて共重合の速度が著しく低下する(例えば、重量比でグリコール酸/乳酸=95/5の共重合速度はグリコール酸の単独重合の場合に比べて1/3程度に低下し、乳酸の割合が増大すれば、共重合速度は更に低下して、共重合自体が実質的に不可能になる)という問題がある。また塊状重合の場合には製品共重合体における結晶化速度の低下に伴い、固体共重合体の回収時間も増大し、生産性が低下する。従ってグリコール酸/乳酸の共重合の場合においても、乳酸量を5重量%を超えて含む共重合体を得ることは事実上困難である。
他方、ポリマーブレンドによる結晶特性の改質も考えられるところである。例えば分子構造の類似するポリエチレンテレフタレート(PET)とポリエチレンナフタレート(PEN)とを溶融混練すると分子レベルで相溶化し、一部共重合構造を形成することが知られている。従って、本発明者らもポリグリコール酸とポリ乳酸の溶融混練によるポリマーブレンドを試みた。しかし、少量のポリ乳酸を添加した場合でも、溶融混練物中には相分離がはっきりと確認され、シート化物についても透明なものは得られなかった。(後記比較例1参照)。
なお、脂肪族ポリエステルを、これと相溶性の改質剤とのブレンドにより改質した分解性ポリマー組成物の提案がされている(下記特許文献3)が、実質的にポリ乳酸の各種改質剤とのブレンドによる改質(可塑化)であって、ポリグリコール酸の改質、特に結晶特性の改善、についての実質的な開示は認められない。
WO2003/037956A1公報 WO03/099562A公報 特許第3037431号公報。
発明の開示
従って、本発明の主要な目的は、例えば単独での成形において、あるいは他の熱可塑性樹脂材料との複合化(例えば積層)において問題となるポリグリコール酸の速すぎる結晶化速度を緩和した(結晶化速度を低下した)ポリグリコール酸系の脂肪族ポリエステル組成物ならびにその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上述の目的で研究した結果、熱安定剤の存在下で、ポリグリコール酸と重量平均分子量が5万以下のポリ乳酸とを溶融混練することにより、ポリグリコール酸とポリ乳酸が良好に相溶し、ポリグリコール酸の結晶化速度が効果的に低下したポリグリコール酸系の脂肪族ポリエステル組成物が得られることが見出された。結晶化速度の低下は、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で加熱する過程で結晶化による発熱ピークの極大点として定義される結晶化温度Tc1、の上昇によって簡便に判定できる。
本発明の脂肪族ポリエステル組成物の製造方法は、上述の知見に基づくものであり、また、かくして得られた本発明の脂肪族ポリエステル組成物は、熱安定剤を配合した、ポリグリコール酸と重量平均分子量が5万以下のポリ乳酸との重量比が99/1〜50/50である溶融混練物からなり、
前記熱安定剤が、前記ポリグリコール酸100重量部に対して、0.003〜3重量部の割合で配合された、下式(1)
Figure 0005291461
(ここで、R1およびR2は、炭素数1〜12のアルキル基1〜3個で置換されたアリール基、または炭素数8〜24の長鎖アルキル基から選ばれる同じまたは異なる炭化水素基である)で表わされるペンタエリスリトール骨格を有するリン酸エステル;あるいは下式(2)
Figure 0005291461
(ここで、R3は炭素数8〜24の長鎖アルキル基、nは平均値として1〜2の数)で表わされる少なくとも一つの水酸基と、少なくとも一つの長鎖アルキル基を有するリン酸エステルである、ことを特徴とするものである。
以下、本発明の脂肪族ポリエステル組成物の製造方法の工程に従って、順次、本発明を説明する。
(ポリグリコール酸)
本発明で使用するポリグリコール酸(以下、しばしば「PGA」という)としては、−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)が最も好ましく用いられるが、上記グリコール酸繰り返し単位以外の、コモノマーにより与えられる重合単位を5重量%程度まで含むグリコール酸共重合体を用いても良い。より多くのコモノマー単位を含むグリコール酸共重合体を用いることは、本発明の目的に反し、好ましくない。
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、グリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチリンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)、アミド類(εカプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、グリコール酸共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
PGAは、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いるGPC測定における分子量(ポリメチルメタクリレート換算のMw(重量平均分子量)、特に断らない限り、以下同様とする)が、7万より大、さらには10万より大、特に12万〜50万の範囲であることが好ましい。本発明は、PGAと低分子量のポリ乳酸(以下「PLA」と称することがある)との溶融混練により、単独での成形で、あるいは他の熱可塑性樹脂との複合成形により、強度を含む優れた特性を有する成形体を与えるための成形原料としてのPGA系脂肪族ポリエステル組成物を提供することを主たる目的とする。そのためには、得られる脂肪族ポリエステル組成物の分子量は、7万以上、さらには10万以上、特に12万〜50万の範囲とすることが好ましい。本発明で使用するPGAの分子量も、このような観点で定まるものであり、7万以下では、低分子量PLAとの溶融混練により所望の組成物分子量を得ることが困難であり、またそれにより得られる成形物の強度を得ることも困難である。他方、PGAの分子量が過大であると、溶融混練に際しての動力が大きくなり、溶融混練が困難となる。また、溶融粘度をPGAの好ましい分子量の目安として使用することができる。すなわち、PGAは、270℃、せん断速度122sec−1で測定した溶融粘度が100〜20000Pa・s、より好ましくは100〜10000Pa・s、特に200〜2000Pa・sであることが好ましい。
上述したようなPGAを製造するには、グリコリド(すなわち、グリコール酸の環状二量体エステル)を加熱して開環重合させる方法を採用することが好ましい。この開環重合法は、実質的に塊状重合による開環重合法である。開環重合は、触媒の存在下に、通常100℃以上の温度で行われる。本発明に従い、熱安定剤併用下における溶融混練中のPGAの分子量の低下を抑制するために、使用するPGA中の残留グリコリド量は、0.5重量%未満に抑制することが好ましく、特に0.2重量%未満とすることが好ましい。この目的のためには、WO2005/090438A公報に開示されるように、少なくとも重合の終期(好ましくはモノマーの反応率として50%以上において)は、系が固相となるように、220℃未満、より好ましくは140〜210℃、更に好ましくは160〜190℃となるように調節することが好ましく、また生成したポリグリコール酸を残留グリコリドの気相への脱離除去工程に付すことも好ましい。
(ポリ乳酸)
本発明では、上記PGAと、分子量が5万以下のポリ乳酸(PLA)とを、溶融混練する。PLAの分子量が5万を超えると、PGAとの溶融混練物が均一に相溶せず、海−島状の相分離が起って透明且つ延伸性で代表される良好な成形性を有する脂肪族ポリエステル組成物が得られなくなる。PLA分子量の下限は、PLAとの溶融混練により相溶性の良好な脂肪族ポリエステル組成物を得るという観点では、比較的制約が少なく、一般にはオリゴマーと称される数千程度の分子量のものも使用可能であり、更には乳酸の環状二量体エステルであるラクチドを用いることもできる。但し、PLAの配合(PGAとの溶融混練)によるPGAの結晶化速度の低下効果は、PLAの配合量が支配的であり、PLAの分子量を低下しても、それ程増大しない。従って、より低分子量のPLAを用いることは得られる脂肪族ポリエステル組成物の分子量の低下を招くので、分子量が7万以上で、成形性の良好な脂肪族ポリエステル組成物を得るという本発明の目的からは、必ずしも好ましくない。この観点でPLAの分子量は、1000以上、さらには1万以上、特には2万以上であることが好ましい。
上記したような低分子量PLAは、例えばラクチド(LまたはD,D/Lラクチド)単独または混合物またはこれらと乳酸との混合物の塊状重合、あるいは溶液重合により容易に得られる。また5万以下の範囲で比較的高分子量のPLAは、市販の高分子量(通常20万程度)のPLAを、例えばアルコール類あるいは水等の低分子量化剤と溶融混練して低分子量化させることにより容易に得られる。
(PGA/PLA配合比)
本発明は、PGAに低分子量PLAを配合して、PGAの結晶化速度の低下を含む特性改善を図ることを主目的とする。従って、PGAとPLAの合計量に対して、PGAが50重量%以上であることが好ましい。他方、昇温過程での結晶化温度Tc1の有意な上昇(2℃以上)で代表される有意な結晶化速度の低下(例えばTc1の3℃の低下は結晶化速度の約2/3への低下に相当する)はPLAの配合量が1重量%のレベルで既に発現している(後記実施例1参照)。すなわち、本発明におけるPGA/PLA配合比(重量比。以下、同様)は、99/1〜50/50の範囲であることが好ましい。事実、この範囲であれば比較的透明で相溶性のある成形材料としての脂肪族ポリエステル組成物が得られている(後記実施例1〜5)。
他方、PGAの重要な特徴の一つであるガスバリア性に関しては、PGA/PLA=99/1〜80/20の範囲内で、ガスバリア性樹脂材料として知られるMXD6ナイロン(ポリメタキシリレンアジパミド)と同等以上のガスバリア性が確認されており、またPGA/PLA=99/1〜90/10の範囲内では、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)と同等以上のガスバリア性(同等以下の酸素透過係数)が確認されている。
PGA/PLA比の組成物の特性に対する影響に関して更に付言すれば、この比が80/20になるとわずかに不透明となるが、実用に耐えられる程度の透明性であり、PGA/PLA比が50/50になるとやや不透明であるものの延伸成形が可能であり、耐水性も良い。PGA/PLA=99/1〜95/5の範囲内では、目視で透明な相溶性ブレンドに止まらず、顕微鏡観察(×5000)によっても海−島構造が観察されず、DSC解析も含めたモルフォロジー解析からも、コポリマー類似の単一樹脂材料と判断し得る状態(これを完全相溶ポリマーアロイ状態と称する)の樹脂組成物が得られている。ガスバリア性も、GL/LAの共重合体と変わらない(後記実施例3と参考例2参照)。
(熱安定剤)
本発明においては、熱安定剤の存在下に、PGAと低分子量との溶融混練を行う。熱安定剤は、溶融混練中の高分子量PGAの分子量低下を抑制するために加えるものであり、これが配合されないと、PLAの配合により結晶化速度の低下が得られたとしても、得られる脂肪族ポリエステル組成物の分子量低下による強度等の特性低下が無視できなくなる。
上述の効果は、熱安定剤を、PGAおよびPLAと同時に混合することによってもある程度得られるが、PLAとの溶融混練に先立って、熱安定剤を予めPGAと溶融混練して、コンパウンド化しておくことが熱安定剤効果の有効利用のために好ましい。
熱安定剤としては、一般に脂肪族ポリエステルの熱安定剤として用いられるものが用いられるが、中でも下式(1)
Figure 0005291461
Figure 0005291461
これら熱安定剤の配合量は、PGA100重量部当り、0.003〜3重量部、好ましくは0.005〜1重量部、更に好ましくは0.01〜0.5重量部である。0.003重量部未満では添加効果が乏しく、3重量部を超えて添加すると、効果が飽和したり、得られる組成物の透明性を阻害するなどの不都合を生ずるおそれがある。
本発明においては、予め上述した熱安定剤の配合によりレオメータ(TA Instrumens社製「ARES Rheometer」)で測定した際に、260℃、30分経過後の溶融粘度保持率が70%以上のものを用いることが好ましい。
本発明の脂肪族ポリエステル組成物には、上記した熱安定剤に加えて、更にカルボキシル基封止剤を添加して、得られる成形体の耐水性を向上することも好ましい。
カルボキシル基封止剤は、PGAおよびPLA中の末端カルボキシル基に作用して、その加水分解促進作用を阻害することにより特にPGAの耐水性を向上するものと解される。カルボキシル基封止剤としては、PLA等の脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られているものを一般に用いることができ、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物;2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレートなどのエポキシ化合物などが挙げられる。なかでもカルボジイミド化合物やエポキシ化合物が好ましい。これらカルボキシル基封止剤は、必要に応じて2種以上を併用することが可能であり、PGA樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部、更には0.1〜2重量部、特に0.2〜1重量部の割合で配合することが好ましい。
本発明の脂肪族ポリエステル組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内において、必要に応じて無機フィラー、光安定剤、防湿剤、防水剤、揆水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、顔料、染料などの各種添加剤を添加することができる。これら各種添加剤は、それぞれの使用目的に応じて有効量が使用される。
(溶融混練)
本発明の脂肪族ポリエステル組成物は、上述した、好ましくは予め熱安定剤を配合したPGA、低分子量PLAおよび必要に応じて加える他の添加剤を溶融混練することにより得られる。
溶融混練は、PGA−低分子量PLA間の均一な溶融混練効果が得られるものであれば任意の装置が用いられるが、現在工業的に利用可能な溶融混練装置の中では、少量成分であるPLAの凝集を起し難く、分散させる効果が大である、二軸混練押出機が好ましく用いられる。
例えば、二軸混練押出機中での溶融混練は、230〜270℃、好ましくは240〜260℃で3〜60分程度継続することにより、PGA−低分子量PLA間の相溶性の良い本発明の脂肪族ポリエステル組成物が得られる。
(脂肪族ポリエステル組成物)
かくして得られた本発明の脂肪族ポリエステル組成物は、PGA/PLA配合比を変化させることによって、上記(PGA/PLA配合比)の項に述べたような特徴的な性質を保有し得る。
代表的なPGAの改質効果として、結晶化速度の低下効果について云えば、これは、上述した昇温過程での結晶化温度Tc1の上昇以外にも、同様にして示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の降温速度で冷却する過程での結晶化による発熱ピークの極大点として定義される結晶化温度Tc2の低下によっても示される。
PGAに比べて、本発明の脂肪族ポリエステル組成物においては、Tc1が96℃以上に上昇し、PLA配合量を増せば結晶化ピークが現れず、Tc1が測定できない状態も生ずる。PGA/PLA=99/1〜95/5の範囲だけであっても、Tc1が3〜19℃上昇し、Tc2が9〜35℃低下する結果が得られている。これは、結晶化速度がPGA単独に比べて、約2/3〜1/10に低下していることを意味し、組成物の単独成形においても成形時の白化が著しく抑制されることで代表されるような成形性の著しい向上につながり、また他の熱可塑性樹脂材料との複合化(例えば積層)においても、多様な熱的特性を有する広範囲の熱可塑性樹脂との複合化が容易に達成し得ることを意味する。PGA/PLA比が95/5を超え、50/50までの範囲においても、延伸性を含む成形性の一層の向上と、耐水性の改善が得られる。
(成形)
本発明の脂肪族ポリエステル組成物は、PGAに比べて低下された且つ広範囲に制御可能な結晶化速度を利用して、単独で、又は他の熱可塑性樹脂材料と複合して、多様な成形法に適用し得る。
例えば、フィルムないしシートへの成形のためのロール法、テンター法、インフレーション法、フィラメント成形、任意の形状への射出成形等である。
特に、本発明の脂肪族ポリエステル組成物は、広範囲に制御可能な結晶化速度を利用して、多様な結晶化速度ないしは溶融−固化特性を有する他の熱可塑性樹脂材料との複合化に適している。複合化の態様としては、本発明の脂肪族ポリエステル組成物を一層、好ましくは内層ないし芯層とする積層フィルムないしシート、芯−鞘型積層フィラメント、共射出成形体などがある。
本発明の脂肪族ポリエステル組成物とともに上述したような複合成形体を形成する他の熱可塑性樹脂材料としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリこはく酸エステル、ポリカプロラクトン、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などがある。
本発明の脂肪族ポリエステル組成物の低下され、且つ広範囲に制御された結晶化速度は、溶融成形のみならず、単独又は複合成形体の延伸を伴なう二次成形においても極めて好適な成形性を与える。
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載を含めて、本明細書中に記載した物性(値)は、以下の方法による測定値に基づく。
(1)グリコリド含有量
試料PGA樹脂(組成物)約100mgに、内部標準物質4−クロロベンゾフェノンを0.2g/lの濃度で含むジメチルスルホキシド2gを加え、150℃で約5分加熱して溶解させ、室温まで冷却した後、ろ過を行う。その溶液を1μl採取し、ガスクロマトグラフィ(GC)装置に注入し測定を行なった。この測定により得られた数値より、ポリマー中に含まれる重量%として、グリコリド量を算出した。GC分析条件は以下の通りである:
装置:島津製作所製「GC−2010」
カラム:「TC−17」(0.25mmΦ×30m)
カラム温度:150℃で5分保持後、20℃/分で270℃まで昇温して、270℃で3分間保持
気化室温度:180℃
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、温度:300℃。
(2)重量平均分子量
GPC装置(昭和電工社製「ShodexGPC−104」)を使用し、カラム(昭和電工社製「HFIP−606M」)二本を直列接合したものを用いた。溶媒としてトリフルオロ酢酸ナトリウム(濃度5mmol/dm)のヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液を40℃、流速0.6ml/minで使用し測定した。
(3)Tc1,Tc2
示差走査熱量計(DSC)(メトラー社製「TC10A」)を用い、2gの試料について、280℃に設定されたヒートプレス機((株)神藤金属工業所製「AF−50」)を用い、280℃で3分間予熱後、5MPaの圧力を1分間印加した後、5℃以下に調整された氷水浴でクエンチして得た非晶プレスシートについて、10℃/分の昇温速度で加熱する過程での結晶化による発熱ピークの極大点温度としてTc1を、10℃/分の降温速度で冷却する過程での結晶化による発熱ピークの極大点温度としてTc2を求めた。
(4)MV(溶融粘度)保持率
(熱安定剤を使用する場合は熱安定剤を含む)PGA試料2gをレオメータ(TA Instruments社製「ARES Rheometer」)に投入し、N雰囲気中、260℃で30分間継続して溶融粘度測定を行い、30分経過後の溶融粘度の初期溶融粘度に対する比率(%)としてMV保持率を求めた。
(5)透明性
溶融混練後の塊状物あるいは重合生成塊状物の透明性は、上記Tc1等の測定のために形成したものと同様な非晶プレスシートを用いて、目視判定した。
(6)黄色度(YI値)
色差計((株)東京電色製「カラーアナライザーTC−1800MKII」)を用い、サンプルを専用シャーレにのせて、YI値を測定した。測定条件としては、標準光Cを用い、2度視野で、反射光測定を行い、3回測定の平均値を求めた。YI値は値が小さい程、着色(黄色度)が少ないことを示す。
(7)耐水性
非晶プレスシートを80℃で30分間熱処理したシートを50℃/90%RH雰囲気で5日間保持し、保持前後の分子量変化から下式により分子量保持率(%)を求めた。:
[数1]
分子量保持率(%)=((保持後の重量平均分子量)/(保持前の重量平均分子量))×100。
(8)ガスバリア性
非晶プレスシートについて、酸素透過率測定装置(MOCON社製「OX−TRAN2/21」を用いて、23℃/90%RH雰囲気の条件で酸素ガス透過度を測定し、厚さ20μmで規格化したcc/m/day/atm単位の酸素ガス透過度として求めた。
(9)プレス成形性
ヒートプレス機((株)神藤金属工業所製「AF−50」)を用い、2gの試料について、280℃で3分間予熱後、5MPaの圧力を1分間印加してシート成形の可否を判定し、成形が可能なものを“A”、成形物が、強度を有さず、脆化してシート形状を保持できないものを“C”とした。
(10)延伸性
上記で得た非晶プレスシート(寸法:直径約200mm×厚さ100μm)を、簡易型ブロー成型機にセットし、70℃で1分間予熱後、N雰囲気でNによりブローしてバルーン延伸の可否を判定した。ブロー成形が可能なものを“A”、ブロー成形中に破裂したか、成形フィルムに大きな厚み斑(手で触れて明らかにわかる程度)を生じたものを“C”とした。
(PGA原料の調製)
塊状重合して得られたPGAの固化粉砕物3種のそれぞれに熱安定剤として、モノおよびジステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物(旭電化工業製「AX−71」)をPGAに対して重量基準で300ppm固体ブレンドし、このブレンド物を二軸押出機(東洋精機製、LT−20、シリンダー設定温度C1/C2/C3/D=220/235/240/230℃)で溶融混練してコンパウンド化した。溶融ストランドを引き取り、冷却ロールで固化した後、ペレタイザーでペレット状にして、下表1に示す分子量(Mw)の異なる3種のPGA原料A,B及びCを回収した。
(PLA原料の調製)
PLA(島津製作所製「ラクティ#9400」、重量平均分子量21.3万、数平均分子量12.1万)のペレットに3種の異なる量の1−ドデシルアルコールを加えて、二軸押出機(東洋精機製、LT−20、シリンダー設定温度C1/C2/C3/D=180/195/200/190℃)で溶融混練してコンパウンド化し、下表1に示す4種のPLA原料D〜G(Fは市販ペレットのまま)を得た。
Figure 0005291461
[実施例1]
PGAペレット(原料A)29.7gにPLAペレット(原料D)0.3gをドライブレンドし、240℃に設定された二軸混練ミル(東洋精機製「ラボプラスミル」)に全量を投入し、溶融混練した。10分後、ポリマー生成物を溶融状態のまま取り出した。そのときの回収率はほぼ100%だった。
溶融状態の生成物の一部を金枠へ採取してプレート(寸法:30mm×30mm×2mm)を作製したが、プレートのYIは18であり、生成物の着色は認められなかった。
次に、生成物を、280℃に設定されたヒートプレス機((株)神藤金属工業所製「AF−50」)で、280℃、3分予熱後、5MPaで1分間加圧してプレス後、クエンチしてプレスシート(寸法:150mm×150mm×100μm)を作製した。得られたシートは透明であり、相分離は確認されなかった。このシートを用いてDSC測定したところ、Tc1は96℃、Tc2は137℃と検出され、PGAホモポリマー(後記参考例1に示すようにTc1=93℃、Tc2=146℃)よりもTc1が高く、Tc2が低く、結晶化速度が遅いことが確認された。
また、酸素透過度測定装置でシートの酸素透過度(OTR)を測定したところ、20μm換算で2.55cc/m/day/atmだった。
さらに、シートを簡易型ブロー成形機にセットし、70℃で1分間予熱後、面積倍率で約4×4倍になるまでブローして延伸フィルムを作製することができた。
[実施例2]
仕込み量をPGA原料A29.4g、PLA原料D0.6gとした以外は、実施例1と同様に溶融混練し、生成物を評価した。
プレスシートを、80℃で30分間熱処理し、50℃/90%RHに調温調湿された環境試験機に仕込んで、5日間保持する耐水性試験を行ったときの分子量保持率は19%であった。
[実施例3]
仕込み量をPGA原料A28.5g、PLA原料D1.5g、混練時間を15分間とした以外は、実施例1と同様に溶融混練し、生成物を評価した。
プレスシートの電子顕微鏡(SEM)観察を行ったが、相分離(海島構造)は見られず、相溶していることが観察された。
[実施例4]
仕込み量をPGA原料A28.5g、PLA原料E1.5g、装置として220℃/235℃/240℃/230℃のシリンダー温度に設定された二軸押出機(東洋精機製「LT−20」)を用い、平均滞留時間10分とした以外は、実施例1と同様に溶融混練し、生成物を評価した。
[実施例5]
仕込み量をPGA原料A24g、PLA原料D6g、混練時間を30分間とした以外は、全て実施例1と同様に溶融混練し、生成物を評価した。
[実施例6]
仕込み量をPGA原料B15g、PLA原料D15g、混練時間を30分間とした以外は、全て実施例1と同様に溶融混練し、生成物を評価した。
[比較例1]
PGAペレット(原料A)28.5gにPLAペレット(原料F)1.5gをドライブレンドし、240℃に設定されたラボプラストミルに全量を投入し、溶融混練した。60分後、ポリマー生成物を溶融状態のまま取り出した。そのときの回収率はほぼ100%だった。
溶融状態の生成物の一部を金枠へ採取してプレートを作成したが、プレートのYIは22であり、生成物の着色は認められなかった。
次に、生成物を280℃に設定されたヒートプレス機でプレス後、クエンチしてプレスシートを作製した。得られたシートは不透明だった。
プレスシートの電子顕微鏡(SEM)観察を行ったが、相分離(海島構造)が観察された。
このシートを用いてDSC測定したところ、Tc1は94℃、Tc2は144℃と検出され、PGAホモポリマーと結晶化速度はほとんど変わらないことが確認された。
また、シートを簡易型ブロー成形機にセットし、70℃で1分間予熱後、ブローしたが低倍率で破裂して、延伸フィルムを作製できなかった。
[比較例2]
PGA原料Aの代りにPGA原料C(熱安定剤を含まず)を用いた以外は、実施例3と同様に溶融混練し、生成物を評価した。
溶融状態の生成物の一部を金枠へ採取してプレートを作成したが、プレートのYIは43であり、生成物は着色していた。
次に、生成物を280℃に設定されたヒートプレス機でプレスしたが、劣化がひどくシートを得ることはできなかった。
[比較例3]
PLA原料Dの代りにPLA原料G(Mw=52000)を用い、混練時間を30分間とした以外は、実施例3と同様に溶融混練し、生成物を評価した。
溶融状態の生成物の一部を金枠へ採取してプレートを作成したが、プレートのYIは24であり、生成物の着色は認められなかった。
次に、生成物を280℃に設定されたヒートプレス機でプレス後、クエンチしてプレスシートを作製した。得られたシートは不透明であり、相分離していた。
また、シートを簡易型ブロー成形機にセットし、70℃で1分間予熱後、ブローしたが低倍率で破裂して、延伸フィルムを作製できなかった。
[参考例1]
二塩化スズ触媒30重量ppmの存在下170℃で7時間かけて、グリコリド(GL)の塊状単独重合を行った。
[参考例2]
二塩化スズ触媒30重量ppmの存在下170℃で24時間かけて、グリコリド(GL)/ラクチド(LA)=95/5(重量比)の塊状共重合を行った。
[参考例3]
窒素雰囲気に保たれ、ジャケット温度が180℃に設定された撹拌槽型反応機に、グリコリド(GL)とラクチド(LA)の等量混合物と、混合物に対して0.3mol%の1−ドデカノールとから成る被重合物の融液を3kg/hの速度で、また触媒として二塩化スズの酢酸エチル溶液(0.015g/ml)を1ml/minの速度で、二塩化スズが混合物に対して300ppmとなるように、それぞれ連続的に供給した。
撹拌しながら被重合物の供給を継続し、平均滞留時間5分で反応機排出部より3kg/hで、反応混合物の融液を抜き出し、ジャケット温度が170℃、185℃、200℃、215℃に4分割設定された横型二軸反応機に連続的に供給した。
撹拌しながら被重合物の供給を継続し、平均滞留時間10分で反応機排出部より3kg/hで、反応混合物の融液を抜き出し、ジャケット温度が50℃に設定された横型二軸反応機に連続的に供給した。撹拌しながら被重合物の供給を継続し、平均滞留時間10分で反応機排出部より反応混合物を固化状態で抜き出そうとしたが、十分に固化しておらず液状のまま排出され、装置への付着等があり回収率は85%だった。
上記溶融混練(実施例、比較例)および重合(参考例)の概容および生成物の評価結果をまとめて、次表2に示す。
Figure 0005291461
上記実施例、比較例および参考例の記載ならびに上表2に示す結果を見れば明らかな通り、熱安定剤の存在下にポリグリコール酸(PGA)と低分子量ポリ乳酸(PLA)を溶融混練するという簡単な手段によりPGAの単独成形あるいは他の熱可塑性樹脂との複合成形において問題となっていたPGAの過早結晶性を緩和し、より低下し、かつ広範囲で制御可能な結晶化速度を有するPGA系脂肪族ポリエステル組成物が得られる。

Claims (10)

  1. 熱安定剤を配合した、ポリグリコール酸と重量平均分子量が5万以下のポリ乳酸との重量比が99/1〜50/50である溶融混練物からなり、前記熱安定剤が、前記ポリグリコール酸100重量部に対して、0.003〜3重量部の割合で配合された、下式(1)
    Figure 0005291461
    (ここで、R1およびR2は、炭素数1〜12のアルキル基1〜3個で置換されたアリール基、または炭素数8〜24の長鎖アルキル基から選ばれる同じまたは異なる炭化水素基である)で表わされるペンタエリスリトール骨格を有するリン酸エステル;あるいは下式(2)
    Figure 0005291461
    (ここで、R3は炭素数8〜24の長鎖アルキル基、nは平均値として1〜2の数)で表わされる少なくとも一つの水酸基と、少なくとも一つの長鎖アルキル基を有するリン酸エステルである、脂肪族ポリエステル組成物。
  2. 重量平均分子量が7万以上である請求項1に記載の脂肪族ポリエステル組成物。
  3. 重量平均分子量が10万以上である請求項1に記載の脂肪族ポリエステル組成物。
  4. ポリグリコール酸とポリ乳酸との重量比が99/1〜80/20である請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル組成物。
  5. ポリグリコール酸とポリ乳酸との重量比が99/1〜95/5であり、完全相溶ポリマーアロイ状態である請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル組成物。
  6. 示差走査熱量計を用いて10℃/分の昇温速度で加熱する過程で結晶化による発熱ピークの極大点として定義される結晶化温度Tc1が96℃以上である請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル組成物。
  7. ポリグリコール酸100重量部に対して、0.01〜100重量部の、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物;2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレートなどのエポキシ化合物から選ばれたカルボキシル基封止剤を更に含む請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル組成物。
  8. 熱安定剤の存在下で、ポリグリコール酸と重量平均分子量が5万以下のポリ乳酸とを重量比が99/1〜50/50の割合で溶融混練することからなり、前記熱安定剤が、前記ポリグリコール酸100重量部に対して、0.003〜3重量部の割合で配合された、下式(1)
    Figure 0005291461
    (ここで、R1およびR2は、炭素数1〜12のアルキル基1〜3個で置換されたアリール基、または炭素数8〜24の長鎖アルキル基から選ばれる同じまたは異なる炭化水素基である)で表わされるペンタエリスリトール骨格を有するリン酸エステル;あるいは下式(2)
    Figure 0005291461
    (ここで、R3は炭素数8〜24の長鎖アルキル基、nは平均値として1〜2の数)で表わされる少なくとも一つの水酸基と、少なくとも一つの長鎖アルキル基を有するリン酸エステルである、ポリエステル組成物の製造方法。
  9. 熱安定剤が予め配合されたポリグリコール酸と重量平均分子量が5万以下のポリ乳酸とを溶融混練する請求項8に記載の製造方法。
  10. 溶融混練を二軸混練押出機により行う請求項8または9に記載の製造方法。
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