本発明の電子部品の製造方法について以下に詳細に説明する。
図1は本発明の電子部品の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図であり、1は支持体、2は導体層、3は第1のセラミックグリーンシート層、4は第2のセラミックグリーンシート層、5は積層セラミックグリーンシート、6はセラミックグリーンシート積層体である。
まず、図1(a)に示すように、支持体1上に導体層2を形成する。支持体1上に導体層2を形成する方法としては、例えば導体材料粉末をペースト化したものをスクリーン印刷法やグラビア印刷法、インクジェット印刷法等の印刷により形成する方法、セミディテブ法やアディテブ法等のめっき法、サブトラクティブ法等の金属箔を加工する方法、または蒸着法等の所定パターン形状の金属膜を支持体1に直接形成する方法、または印刷により所定パターン形状に形成した導体厚膜や所定パターン形状に加工した金属箔、めっき法や蒸着法等により形成した所定パターン形状の金属膜を支持体1に転写する方法がある。
導体材料としては、例えばW,Mo,Mn,Au,Ag,Cu,Pd(パラジウム),Pt(白金)等の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合、合金、コーティング等のいずれの形態であってもよい。
本発明において、導体層2を印刷法で形成する場合の導体用ペーストは、導体粉末、有機バインダー、溶剤等を混合したものが用いられ、導体粒子の分散性や導体層2の硬度や強度を調整するために分散剤や可塑剤を添加してしてもよい。
ここで、上記導体層2用ペーストに適用される有機バインダーとしては、従来より導体層2用ペーストに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系、アルキド系の有機バインダーがより好ましい。また有機バインダーの添加量としては、導体粒子により異なるが、有機バインダーの分解性に問題なく、かつ導体粒子を分散できる量であればよい。
さらに、導体層2用ペーストに適用される溶剤としては、上記の導体粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、テルピネオールやブチルカルビトールアセテート及びフタル酸等の可塑剤などが使用可能であるが、導体層2の形成後の溶剤の乾燥性を考慮し、テルピネオール等の低沸点溶剤が好ましい。
本発明における支持体1は、導体層2及び積層セラミックグリーンシート5を成形できるものであればよく、従来から用いられているポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリフッ化エチレン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル樹脂等の樹脂製の他、上質紙、成形紙等の紙製の支持体1を用いることができる。
導体層2を形成する支持体1の表面には、積層セラミックグリーンシート5の成形後の支持体1からの剥がし性を向上させるため、離型層等の表面処理層を形成してもよい。離型層の種類としては、大別してシリコーン系の離型剤と非シリコーン系の離型剤があり、非シリコーン系の離型剤としてはフッ素系のものなどを用いることができる。この離型剤としては、商品形態別にいえば無溶剤型、エマルジョン型、溶剤型のいずれでも使用し得る。また、この離型層の厚みは、用いられる離型剤の種類等により異なるが、積層セラミックグリーンシート5を支持体1から剥がすことができ、かつ導体層2用ペーストを用いて導体を形成する場合、離型剤により導体層2形成時に導体層2用ペーストのハジキが発生しない程度の厚みであればよい。
支持体1に導体層2を形成する場合、導体層2の形成を容易にするため、支持体1の表面に処理を行い表面を粗面とすることもできる。粗面の形成方法としては、例えばウォータージェット、ケミカルブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。また、支持体1内に空孔や無機粒子等を混合させ埋め込むことにより、支持体1表面に粗面を形成する方法なども適用できる。また、粗面の形成は、離型層等の表面処理層の性能が維持できる範囲であれば、表面処理層の形成前でも後でもよい。
次に、図1(b)に示すように、導体層2を形成した支持体1上に第1のセラミックグリーンシート層3を形成し、次に図1(c)に示すように、第1のセラミックグリーンシート層3上に第2のセラミックグリーンシート層4を形成する。
本発明における第1のセラミックグリーンシート層3および第2のセラミックグリーンシート層4の形成には、セラミック粉末、有機バインダー、溶剤等を混合したセラミックペーストが用いられる。第1のセラミックグリーンシート層3および第2のセラミックグリーンシート層4ともに、さらに可塑剤を添加して積層セラミックグリーンシート5の硬度や強度を調整してもよい。
セラミック粉末としては、例えばセラミック配線基板であれば、Al2O3,AlN,ガラスセラミック粉末(ガラス粉末とフィラー粉末との混合物)等が挙げられ、積層コンデンサであればBaTiO3系,PbTiO3系等の複合ペロブスカイト系セラミック粉末が挙げられ、電子部品に要求される特性に合わせて適宜選択される。
ガラスセラミック粉末のガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同じまたは異なっていて、Ca,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(ただし、M3はLi,NaまたはKを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
また、ガラスセラミック粉末のフィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
セラミックスラリーに配合される有機バインダーとしては、従来よりセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。
溶剤としては、上記のセラミック粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、トルエン,ケトン類,アルコール類の有機溶媒や水等が挙げられる。これらの中で、トルエン,メチルエチルケトン,イソプロピルアルコール等の蒸発係数の高い溶剤は、スラリー塗布後の乾燥工程を短時間で実施できるので好ましい。
第1のセラミックグリーンシート層3は、上記セラミック粉末,有機バインダーに溶剤(有機溶剤,水等)、必要に応じて所定量の可塑剤,分散剤を加えてスラリーを得、これを導体層2の形成された支持体1上にドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等により形成することによって得ることができる。その場合、第1のセラミックグリーンシート層3の厚さは、導体層2の間隔に空隙が発生しないように、また導体層2の形状が変化しない程度に導体層2の厚みより厚くなるように形成される。
ここで第1のセラミックグリーンシート層3の空隙率が9.7%以下であることが重要である。これにより積層セラミックグリーンシート5を形成する工程中の加熱において、溶融した溶融成分が第1のセラミックグリーンシート層3の空隙に浸透して溶融成分が第1のセラミックグリーンシート層3へ移動することを抑え、第2のセラミックグリーンシート層4の軟化変形性および接着性が損なわれることがなく、第2のセラミックグリーンシート層4が軟化して変形することを抑えることができる。
セラミックグリーンシート層の空隙率とは、セラミックグリーンシート層中の空隙の体積比率のことをいう。セラミックグリーンシートの空隙率は電子顕微鏡や工学顕微鏡で観察し空隙の体積を測定してもよいが、セラミックグリーンシート層の比重、セラミックグリーンシート層を焼成したセラミック板の比重から簡便に算出することが出来る。例えば、セラミックグリーンシート層の比重が2.0g/cm3、焼成後のセラミック板の比重が2.5g/cm3、有機成分の比重を1.0g/cm3、セラミックグリーンシート層に対する焼成時に消失する有機成分の重量割合を5%としたとき、セラミックグリーンシート層が10gであれば有機成分の重量は10×5%=0.5gであるので、焼成後のセラミック板は10−0.5=9.95gとなる。また、セラミックグリーンシート層の体積に占めるセラミック成分の体積はセラミック板の比重から、9.95÷2.5=3.98cm3、さらに有機成分の比重が1.0g/cm3であるからその体積は0.5cm3となる。セラミックグリーンシート層の体積はその比重から10÷2.0=5.0cm3となる。よって、(セラミックグリーンシート層の体積−セラミック板の体積−有機成分の体積)=5.0−3.98−0.5=0.52cm3が、5.0cm3のセラミックグリーンシート層中の空隙の体積となる。よって、0.52(cm3)÷5(cm3)=10.4%と空隙率が算出できる。
ここで第1のセラミックグリーンシート層3の空隙率を9.7%以下とする方法としては、有機バインダーに分散効果のある官能基を有するものを用いたり分散剤を用いたりして第2のセラミックスラリーを作製し、セラミック粉末が良好に分散されたセラミックグリーンシート層3を形成する方法、セラミック粉末の粒径を管理してセラミックグリーンシート層3中のセラミック粉末自体の充填を上げる方法がある。セラミック粉末が分散されていると、セラミック粉末が凝集することによりその内部に空隙を形成してしまうことがないことから空隙率が小さいものとなる。また複数の粗大粒が近接して存在するとセラミック粉末自体の充填が低下してしまい、この複数の粗大粒間に比較的大きい空隙が存在することとなるので、粗大粒を減らすことにより空隙率が減少する。例えば平均粒径1μmのセラミック粉末に10μmのセラミック粉末がたった数個でもセラミック粉末自体の充填に対して影響は大きいと考えられる。
通常市販されているセラミック粉末ではこのような粗大粒が含まれることはないが、セラミック粉末の1次粒子の凝集による2次粒子と呼ばれる凝集粒が粗大粒と同様のものとなってしまう。一般的にアルミナ、シリカ、ガラスセラミック粉末等は1次粒子のみで存在することなく、中でもセラミックグリーンシートに用いられるような1次粒子の粒径が1μm程度といった微粒子は、粒径が小さくなればなるほど表面積が増大し粒子の表面エネルギーによる凝集粒が発生している傾向にある。これらのセラミック粉末を有機バインダー、溶剤等と一緒に混合しセラミックスラリーにするときにボールミル等により混合と同時にセラミック粉末の凝集粒の解砕を行うことにより粗大粒を減らすことができる。このとき凝集粒の解砕の目安としては、例えば混合、解砕したセラミックスラリーの粒度分布をレーザー回折法で測定し、積分通過率50%と定義されるD50の平均粒径の大きさで判断することができる。つまりD50の平均粒径が小さくなり粉末の1次粒子の粒径と同等になれば、凝集粒の解砕が進み、凝集粒の存在が。十分に解砕するには、セラミックスラリーのボールミルでの解砕時間を長くすればよいが、解砕効率を考えてボールミル中のメディア径を小さくしたり、さらにはボールミルに替えて振動ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミルといった方法を用いてもよい。
分散効果のある官能基としては溶媒中で電位がマイナスのもの、分散剤としても電位がマイナスのアニオン系のものが好ましい。セラミックグリーンシートに用いられる無機粉末の代表的なもの、アルミナやシリカの粉末においては水酸化化合物から熱処理したものや水により粉砕処理して調製されるものが多く、表面に水酸基を解離基として有しているため有機溶剤中では正に帯電する傾向がある。このため電位がマイナスのものほど粉末表面に安定した吸着が行われ、分散しやすい。具体的には官能基としてはカルボキシル基が挙げられ、アニオン系の分散剤としてはオレイン酸、ステアリン酸等のカルボン酸が挙げられる。
また、前述の計算からも明らかなようにセラミックグリーンシート中の有機成分の量を増やすことにより調製できる。空隙は上記のようにセラミック粉末の凝集体の内部に形成されたものや近接する複数の大径粒間に形成されるものであるので、空隙と粉末以外の有機成分の量を増加させれば相対的に空隙率は減少することとなる。第1のセラミックグリーンシート層3中の有機成分を増やす方法としては、単純に有機バインダー量を増加させる方法が好ましい。その他の有機成分としては可塑剤等の溶剤などが考えられるが、可塑剤を増加させることにより第1のセラミックグリーンシート層3が柔らかくなって積層時に変形し高精度の寸法を保てなくなるからである。また、増加させる有機バインダーの量としては、セラミックグリーンシートに含まれる無機粉末に対して最大15重量%程度が好ましい。無機粉末の種類、粒径、粒度分布、分散性により異なり、バインダーの種類にもよるが、15重量%より多い有機バインダーを含むセラミックグリーンシートになると、粘着しやすくなったり、変形しやすくなったりしてハンドリングしにくくなる可能性がある。また、セラミックグリーンシートの引っ張り強度が劣化し、積層セラミックグリーンシート5を積層するときに変形したり、保持できなくなったりして高精度の寸法を保てなくなることがあるからである。
これらの方法の中では、セラミック粉末自体の充填を上げる方法は有機成分の調整ではないので、セラミックグリーンシートの加工性、ハンドリング性、寸法・形状安定性、脱脂性に対する影響が少なく好ましい。
また、第1のセラミックスラリーの作製工程で取り込まれた気泡により形成される空隙もあるが、これは第1のセラミックグリーンシート層3と成す前に第1のセラミックスラリーから十分に除去すればよく、真空脱泡により行なうことができる。
第2のセラミックグリーンシート層4は、第1のセラミックグリーンシート層3に用いるスラリーに対して、溶融成分を含むスラリーを用いて形成される。第2のセラミックグリーンシート層4に含有される溶融成分は、セラミックグリーンシート積層体6を作製する際の加熱時に溶融状態となるものであり、炭化水素,脂肪酸,エステル,脂肪アルコール,多価アルコール等が挙げられる。スラリーを調整する際の溶媒への溶解性を考慮すると、分子量が小さくかつ極性を有する炭化水素,エステル,脂肪アルコール,多価アルコールが好ましい。さらに、上述したアクリルバインダーとの相溶性を考慮すると、エステル,脂肪アルコール,多価アルコールがより好ましい。
溶融成分は上記のものの中でも、融点が35乃至100℃の温度領域内にあるものが好ましい。これは、この範囲の融点のものを用いると、常温では第2のセラミックグリーンシート層4が軟化して変形することはないので、積層工程までのハンドリングが容易となり、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程における加熱時に積層セラミックグリーンシート5中の有機バインダーや可塑剤等の有機成分が分解することがないので、分解ガスに起因したデラミネーションの発生が有効に防止されるからである。融点が35乃至100℃である溶融成分としては、具体的にはヘキサデカノール,ポリエチレングリコール,ポリグリセロール,ステアリルアミド,オレイルアミド,エチレングリコールモノステアレート,パラフィン,ステアリン酸,シリコーン等が挙げられる。
第2のセラミックグリーンシート層4に含有される溶融成分の含有量は、使用する有機バインダーの成分およびその量や、使用する溶融成分により異なるが、溶融成分が溶融した状態で第2のセラミックグリーンシート層4が軟化し、その下に位置する積層セラミックグリーンシート5の第1のセラミックグリーンシート層3およびその中に埋め込まれた導体層2と隙間無く接触するような量であればよい。
好ましくは、第2のセラミックグリーンシート層4に含有される溶融成分の含有量は、第2の有機バインダー100質量%に対して50乃至100質量%とするのがよい。溶融成分の量が50質量%より少ないと、第2の有機バインダーと結びつき第2の有機バインダー中に分散する溶融成分の絶対量が足りなくなるので、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程の加熱時に第2のセラミックグリーンシート層4が全体にわたり軟化せず粘着性が得られない、または第2のセラミックグリーンシート層4が均一に軟化せず粘着性のない部分ができてしまうこととなり、焼成して得られる電子部品はデラミネーションが発生してしまう。溶融成分が100質量%より多いと、第2の有機バインダーと結びつく溶融成分が過多となり、第2の有機バインダー中に分散しきれない溶融成分が凝集してしまう部分が発生し、この部分は第2の有機のバインダーが存在せず粘着性を有さない部分となるので、この部分に焼成して得られるセラミック電子部品のデラミネーションが発生してしまうこととなる。
さらに、第2のセラミックグリーンシート層4の有機成分の配合量は、第2のセラミックグリーンシート層4に含まれる無機粉末100質量%に対して10乃至50質量%であるのがよい。有機成分の量が10質量%より少ないと、無機成分と結びつくことで第2のセラミックグリーンシート層4中に分散させる役割をもつ有機成分の絶対量が足りなくなるので、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程の加熱時に第2のセラミックグリーンシート層4が全体にわたり粘着性が得られないか、または第2のセラミックグリーンシート層4の粘着性が均一でない部分ができることとなり、焼成して得られる電子部品はデラミネーションが発生してしまう。有機成分が50質量%より多いと、無機成分と結びつく有機成分が過多となり、第2のセラミックグリーンシート層4中に分散しきれない有機成分が凝集してしまう部分が発生する。この部分は有機成分が存在し粘着性を有するものの、無機成分が存在しない部分となるので、焼成時における有機成分の除去によって得られる電子部品の中に空隙や空隙に起因するデラミネーションが発生することとなる。ここで、有機成分とは第2の有機バインダーと溶融成分とのことである。第2のセラミックグリーンシート層4を形成する際には、溶剤および可塑剤や分散剤等も含むスラリーを用いるが、スラリーを乾燥させて第2のセラミックグリーンシート層4とするので第2のセラミックグリーンシート層4の有機成分には蒸発してしまう溶剤は含まれず、可塑剤や分散剤等はその量が少ないため、有機成分とは第2の有機バインダーと溶融成分としている。
第1のセラミックグリーンシート層3上に第2のセラミックグリーンシート層4を形成する方法は、(1)第1のセラミックグリーンシート層3と同様に成形した第2のセラミックグリーンシート層4を第1のセラミックグリーンシート層3の上に積層して形成する方法、(2)支持体1上に形成された第1のセラミックグリーンシート層3上に第2のセラミックグリーンシート層4のスラリーを塗布して形成する方法、(3)支持体1上に塗布された第1のセラミックグリーンシート層3のスラリー上に第2のセラミックグリーンシート層4のスラリーを塗布して形成する方法が挙げられる。
上記(1)の方法では、第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4とを積層して加熱することによって積層セラミックグリーンシート5を作製する。このときの加熱は、第2のセラミックグリーンシート層4の溶融成分の融点以上で、100℃以下の温度領域における加熱時間が0.3秒以上、5秒以下で行なうことが好ましい。これにより、第2のセラミックグリーンシート層4から第1のセラミックグリーンシート層3へ適当な量の溶融成分が拡散することとなり、第2のセラミックグリーンシート層4と第1のセラミックグリーンシート層3の界面の接合強度が保たれ、かつセラミックグリーンシート積層体6を作製する際の加熱時に、第2のセラミックグリーンシート層4が加熱のみで軟化して別の積層セラミックグリーンシート5の第1のセラミックグリーンシート層3及び導体層2の表面形状に追従して変形し、接着性を有するものとなるのに十分な量の溶融成分を第2のセラミックグリーンシート層4内に保持することができる。
なお、溶融成分の融点より低い温度で加熱しながら積層した場合、第2のセラミックグリーンシート層4が軟化しないので、第2のセラミックグリーンシート層4はその上また下に位置する第1のセラミックグリーンシート層3及び導体層2の表面形状に追従して変形することができず、第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4との間に空隙が発生する場合があり、また第2のセラミックグリーンシート層4から第1のセラミックグリーンシート層3へ溶融成分が拡散しないので、第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4の界面の接合強度が保たれず、積層セラミックグリーンシート5に貫通導体を形成するための貫通孔や、キャビティを形成するための貫通穴を形成する等の加工をする際に界面に剥がれが発生することがある。
また、加熱温度が100℃を超えてしまった場合、加熱時に積層セラミックグリーンシート5中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解し、分解ガスに起因したデラミネーションを発生する恐れがある。
さらに、積層セラミックグリーンシート5の加熱・積層時、第2のセラミックグリーンシート層4の溶融成分の融点以上の温度領域における加熱時間が5秒を超えると、第2のセラミックグリーンシート層4から第1のセラミックグリーンシート層3への溶融成分の拡散する量が大きすぎるため、第2のセラミックグリーンシート層4内に十分な量の溶融成分を保持できず、積層セラミックグリーンシート5を積層した際に第2のセラミックグリーンシート4に接する別の積層セラミックグリーンシート5の第1のセラミックグリーンシート層3の表面形状に追従して変形できず、セラミックグリーンシート層間にデラミネーションを発生することがある。従って、上記加熱は第2のセラミックグリーンシート層4の溶融成分の融点以上の温度で行い、その時間は0.3秒以上、5秒以下に設定するのが好ましい。
また、第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4との密着性を向上させるためには上記(2)または(3)の方法が好ましい。特に、上記(3)の方法では第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4の形成がほぼ同時に行なわれ、工程が簡略化されるのでより好ましい。この(3)の方法においては、ダイコーター法やリップコーター法等の押し出し式の方法を用いるとよく、これらは非接触式の塗布方法であり、また溶剤の少ない、比較的粘度の高いスラリーを用いることができるので、第1のセラミックグリーンシート層3のスラリーと第2のセラミックグリーンシート層4のスラリーが混ざり合うことなく積層セラミックグリーンシート5を形成することができる。
上記(2)の方法の場合、第1のセラミックグリーンシート層3の溶解度パラメータと第2のセラミックスラリーの溶解度パラメータとの差を3乃至8とすることによって、第1のセラミックグリーンシート層3上に第2のセラミックスラリーを塗布した際、第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックスラリーが互いに溶解することを抑制するので、第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4が混合、同一化してしまうことを防ぐことができる。また、第1のセラミックグリーンシート層3上に第2のセラミックスラリーを塗布した際、第1のセラミックグリーンシート層3上の第2のセラミックスラリーがはじかれること無く塗布することができるので、第2のセラミックスラリーの塗布時に気泡の巻き込みによる空隙も無くデラミネーションの発生を防ぐことが出来るので好ましい。
上記(3)の方法の場合、第1のセラミックスラリーの溶解度パラメータと第2のセラミックスラリーの溶解度パラメータとを2以上離すことによって、支持体1に第1のセラミックスラリーを塗布し、塗布された第1のセラミックスラリー上に第2のセラミックスラリーを塗布した際、第1のセラミックスラリーと第2のセラミックスラリーが互いに溶解することを抑制するので、第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4が混合、同一化してしまうことを防ぐことが出来るのでより好ましい。
ここで、溶解度パラメータ(Solubility Parameter)とは、有機成分の性質が似通ったものは相溶けやすいという性質をもとに数値化したものであり、SP値とも呼ばれるものである。溶解度パラメータの値が近いもの同士は溶解しやすいことを示すものであるので、有機成分の溶解力を示す指標として用いられる。本発明のセラミックスラリーの溶解度パラメータは、セラミックグリーンシート及びセラミックスラリー中の各有機成分の溶解度パラメータと各有機成分の体積分率から算出した。例えば、セラミックスラリー中に2つの有機成分が含まれ、それぞれの溶解度パラメータが5および7で、体積分率がそれぞれ70%および30%である場合のセラミックスラリーの溶解度パラメータは5×0.7+7×0.3=5.6とした。なお、本発明の有機成分の溶解度パラメータは、講談社出版「溶剤ハンドブック」(浅原昭三ほか編、1976年初版)による溶解度パラメータのデータを使用した。
(2)及び(3)の方法においてセラミックグリーンシート及びセラミックスラリーの溶解度パラメータの差を(2)の方法では3乃至8、(3)の方法では2とするためには、溶剤及び有機バインダーの溶解度パラメータを変える方法がよい。例えば溶剤の溶解度パラメータを変えるには、片方を炭化水素系の無極性溶剤とすると溶解度パラメータが小さくなり、また片方をアルコール系の極性溶剤とすると溶解度パラメータが大きくなり溶解度パラメータの差を調整できるのでよい。具体的には無極性溶剤としてはメチルエチルケトンのケトン類、トルエン、キシレンの芳香族系炭化水素、極性溶剤としてはエチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールのアルコール類を用いるのが好ましい。また有機バインダーの溶解度パラメータを変えるには、2つの異なる骨格を得られ官能基を自由に選択できるアクリル樹脂を用いるのが好ましい。具体的には、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体のエステルを、メチル、ブチル、エチルへキシルなどと変化させることにより極性を変え、さらには溶解度パラメータを変えることが可能となるので好ましい。
上記(1)または(2)の方法において、導体層2を第1のセラミックグリーンシート層3に埋め込んで形成する方法としては、導体層2の形成された支持体1とは別の支持体上に形成された第1のセラミックグリーンシート層3を積層し導体層2を第1のセラミックグリーンシート層3に埋め込むことにより、導体層2を第1のセラミックグリーンシート層3へ転写する方法等も適用できる。その際、導体層2の第1のセラミックグリーンシート層3への埋没性や転写性を向上させるため、温度や圧力をかけることもできる。これは、導体層2を形成した支持体1上にセラミックスラリーを塗布する場合と比較して、導体層2がセラミックスラリーに含まれる溶剤により溶解する場合などには、導体層2の溶解による特性不良の発生を有効に防止することができる。
また、上記(3)の方法において、導体層2が形成された支持体1上に第1のセラミックスラリーを塗布し、塗布された第1のセラミックスラリー上に第2のセラミックスラリーを塗布した後の乾燥温度が溶融成分の融点温度より低い。このことにより、乾燥の加熱により第2のセラミックスラリーに含まれる溶融成分が溶融することないので、乾燥の間に溶融成分が第1のセラミックスラリーまたは先に乾燥した第1のセラミックグリーンシート層3へと拡散しにくくなり、積層の際の加熱により軟化する第2のセラミックグリーンシート層4と軟化することのない第1のセラミックグリーンシート層3とを備えた積層セラミックグリーンシート5が形成され、得られるセラミックグリーンシート積層体6お
よびそれを焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生のない高い寸法精度を有するものとなる。
セラミックグリーンシートの乾燥は、乾燥温度を常温より段階的に、少なくとも3段階以上徐々に上昇させ、セラミックスラリー表面の乾燥とセラミックスラリー表面への内部からの溶剤浸透がバランスよく行われるようにすると、表面のセラミックスラリーのみが乾燥してスラリー内部の乾燥が抑制されることがないので好ましい。例えば、それぞれ温度の異なる蒸気を熱源とする乾燥ゾーンを3基以上有する熱風乾燥機を用いると、大量でかつ一定の温度の熱風を循環させることにより、セラミックスラリーを均等に熱することが可能となる。この場合の乾燥温度はセラミックスラリーの表面に当てられる熱風の温度となる。また赤外ランプ等による輻射熱を熱源として用いる場合、赤外ランプの温度ではなくセラミックスラリーの表面に位置する雰囲気の温度を乾燥温度とし、予め温度計でセラミックグリーンシートを乾燥させるゾーンの雰囲気温度を測定しておいてもよいし、セラミックスラリーを乾燥しながら測定してもよい。この場合、熱風乾燥に比べると均熱性に劣り、20℃〜30℃程度のバラツキがあるため、乾燥ゾーン内の最も高い雰囲気温度を乾燥温度とする。
溶融成分の融点が低い場合は、乾燥温度を溶融成分の融点温度より低くするとセラミックスラリーの乾燥に時間がかかるので、乾燥機の乾燥ゾーンを長くする必要がある。生産性を優先する場合は、第1のセラミックグリーンシート層3の空隙率を小さくして溶融成分が全く拡散しないようにセラミックスラリーを調製して、乾燥温度を融点より高い温度とするとよい。
また、第2のセラミックグリーンシート層4の厚みは0.1〜100μmであることが好ましい。これは、この範囲内の厚みであれば、第2のセラミックグリーンシート層4が、セラミックグリーンシート積層体6を作成する工程において、その下に位置する別の積層セラミックグリーンシート5の第1のセラミックグリーンシート層3に追従して変形し、かつ積層時の変形を抑制できるからである。
また、第1のセラミックグリーンシート層3の引っ張り特性を、降伏点強度0.5MPa以上でかつ降伏点伸度50%以下に設定しておくことが好ましい。これは、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、第1のセラミックグリーンシート層3の引っ張り特性が降伏点強度0.5MPa以上であれば、加熱時に軟化した第2のセラミックグリーンシート層4を第1のセラミックグリーンシート層3でクラックや欠陥なく保持でき、降伏点伸度50%以下であれば、第2のセラミックグリーンシート層4が軟化しても、積層セラミックグリーンシート5は積層時に変形することなく高精度の寸法を保てるからである。
さらに、第2のセラミックグリーンシート層4の降伏点伸度は50%以下であることが好ましい。これは、打抜き加工により積層セラミックグリーンシート5に貫通孔を形成する工程を含む場合、第2のセラミックグリーンシート層4の降伏点伸度が50%より大きいと、打ち抜く際に貫通孔の変形が生じやすいからである。
なお、必要に応じて上下の層間の導体層2同士を接続するためのビアホール導体やスルーホール導体等の貫通導体を形成してもよい。これら貫通導体は、パンチング加工やレーザ加工等により積層セラミックグリーンシート5に形成した貫通孔に、導体材料粉末をペースト化したもの(導体ペースト)を印刷やプレス充填により埋め込む等の手段によって形成される。貫通孔の加工は、積層セラミックグリーンシート5が厚い場合、パンチング加工を採用すれば積層セラミックグリーンシート5の表裏の貫通孔の径に差異がなく、好ましい。また貫通孔を加工する際、積層セラミックグリーンシート5を支持体1より剥がして行なってもよいが、支持体1上に保持したまま行なうと積層セラミックグリーンシート5の変形を防止できるのでより好ましい。
そして、積層セラミックグリーンシート5に打抜き加工により貫通孔を形成する場合、打抜き開始面側のセラミックグリーンシート層の降伏点伸度を50%以下とし、打抜き終了面側のセラミックグリーンシート層の降伏点伸度を20%乃至50%になしておくことが好ましい。これは、打抜き終了面側のセラミックグリーンシート層の降伏点伸度が20%未満であると、積層セラミックグリーンシート5が打ち抜かれる際に、打抜き終了面側は打抜き用金型やピン等により引っ張られるので、その応力によりクラックが生じやすくなり、50%より大きいと、打ち抜く際に貫通孔の変形が生じやすいからである。また、積層セラミックグリーンシート5が打ち抜かれた後、打抜き用金型やピンを積層セラミックグリーンシート5から抜く際には、貫通孔の内面と打抜き用金型やピンの側面との摩擦により打抜き開始面側の貫通孔開口周辺が引っ張られるが、そのとき打抜き開始面側のセラミックグリーンシート層の降伏点伸度が50%より大きいと、引っ張られた部分が延びてバリになりやすいので、貫通孔の開口部にバリが生じやすくなるからである。打抜き開始面側においては、降伏点伸度が小さくても、打抜き開始面より下のセラミックグリーンシート層により打ち抜き時の応力は分散されるので、打抜き開始面でのクラックの発生が抑えられる。
また上述の打ち抜き加工においては、第2のセラミックグリーンシート層4を打抜き開始面側とし、第1のセラミックグリーンシート層3を打抜き終了面側とするのが好ましい。これは、繰り返し打ち抜きを行うことにより打抜き用金型やピンの温度が上昇することにより、打抜き用金型やピンの第2のセラミックグリーンシート層4に当接する面に第2のセラミックグリーンシート層4が付着してしまい、良好な貫通孔の形成ができなくなってしまう場合があるからである。
キャビティを有する電子部品を製造する場合、次のセラミックグリーンシート積層体6を作製する工程より先に、キャビティ形状の貫通穴を金型による打ち抜き等により積層セラミックグリーンシート5の一部に形成しておく。
次に、図1(d)に示すように、位置合わせして積み重ねた積層セラミックグリーンシート5を、溶融成分が溶融状態となり第2のセラミックグリーンシート層4が軟化して変形する程度の温度つまり溶融成分の融点程度の温度で加熱することでセラミックグリーンシート積層体6を作製する。ここで、積層する際に支持体1から積層セラミックグリーンシート5を剥がすことも可能であり、この際に必要に応じて加熱等の処理を施すことも可能である。また、このとき、積層した積層セラミックグリーンシート5が位置ずれしないように、また、軟化した第2のセラミックグリーンシート層4を第1のセラミックグリーンシート層3およびその中に埋め込まれて形成された導体層2に押さえる程度の加圧を行なうと、より精度よく確実な圧着が可能となる。このとき、積層セラミックグリーンシート5同士の接着性を向上させるために、溶剤と有機バインダーや可塑剤等を混合した接着剤を用いてもよい。
セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、第2のセラミックグリーンシート層4は加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、導体層2が埋め込まれた積層セラミックグリーンシート5を積層して加熱した際に第2のセラミックグリーンシート層4が軟化するので、第2のセラミックグリーンシート層4はその下に位置する積層セラミックグリーンシート5の第1のセラミックグリーンシート層3およびその中に埋め込まれた導体層2からなる表面形状に追従して変形することとなる。これにより、導体層2の周囲や導体層2間に空隙が発生することなく積層セラミックグリーンシート5同士が密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体6を焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生が極めて少ないものとなる。
また、第2のセラミックグリーンシート層4は、加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、加熱のみで第2のセラミックグリーンシート層4が軟化して接着性を有するものとなるので、大きな加圧力により積層セラミックグリーンシート5を圧着させる必要がない。そして、導体層2が埋め込まれて形成された第1のセラミックグリーンシート層3は加熱時に溶融する溶融成分を含有しないことから、第1のセラミックグリーンシート層3は加熱時に変形することはなく、積層された複数の積層セラミックグリーンシート5が互いに位置ずれしないように押さえつける程度の圧力や、軟化した第2のセラミックグリーンシート層4を第1のセラミックグリーンシート層3およびその中に埋め込まれた導体層2に押さえ付ける程度の圧力では、大きく変形することがない。よって、積層セラミックグリーンシート5およびその中に埋め込まれて形成された導体層2の変形が有効に防止され、さらに加圧による積層セラミックグリーンシート5への歪がなく得られるセラミックグリーンシート積層体6およびそれを焼成して得られる電子部品は高い寸法精度を有したものとなる。
例えば、加熱時に溶融する溶融成分を含有しない第2のセラミックグリーンシート層4を用いた場合、セラミックグリーンシート積層体6および電子部品の寸法精度は±0.5%(寸法誤差)程度であったが、本発明の溶融成分を含有する第2のセラミックグリーンシート層4を用いた場合、セラミックグリーンシート積層体6および電子部品の寸法精度は±0.2%程度となり、寸法精度が大幅に向上することを実験により確認した。
ここで積層セラミックグリーンシート5の加熱条件は、第2のセラミックグリーンシート層4の溶融成分の融点が100℃以下で、かつ、前記溶融成分の融点以上の温度における前記加熱時間を0.3秒以上、5秒以下とすることが好ましい。
上記の条件で加熱することにより、第2のセラミックグリーンシート層4の溶融成分が過剰に溶融することがなく、第2のセラミックグリーンシート層4の流動を抑えることができるので、キャビティ構造やビアホール等に第2のセラミックグリーンシート層4が流れ込むのを有効に防止することができる。これにより、キャビティ内に配置された電極パターン上を覆ったり、ビアホールの穴を塞ぐことなく、これらの電気的接続を確保することが可能となる。
なお、積層セラミックグリーンシート5の加熱温度が、第2のセラミックグリーンシート層4の溶融成分の融点よりも高くない場合や溶融成分の融点以上の温度における加熱時間が0.3秒に満たない場合には、溶融成分の溶融が不十分となり積層セラミックグリーンシート5の密着性が低下することから、セラミックグリーンシート積層体6内部に空隙が生じデラミネーションが部分的に発生してしまう恐れがある。また、積層セラミックグリーンシート5の加熱温度が100℃を超えた場合や溶融成分の融点以上の温度での加熱時間が5秒を超えた場合は、セラミックグリーンシート積層体6中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解し、分解ガスに起因したデラミネーションが発生してしまったり、加熱による溶融成分の流動が大きくなり、セラミックグリーンシート積層体6の変形や、キャビティやビアホール等に第2のセラミックグリーンシート層4が軟化し、流れ込んでしまうことがある。
したがって、図1(d)に示したセラミックグリーンシート積層体6を作成する工程における加熱条件は、第2のセラミックグリーンシート層4の溶融成分の融点以上、100℃以下の温度領域における加熱時間が0.3秒以上、5秒以下に設定することが好ましい。
ここで、積層セラミックグリーンシート5を積層するための積層装置は、圧着面に加熱部を有し内部に冷却部を有した上パンチ部と、積層セラミックグリーンシート5に導体層2が形成されたセラミックグリーンシート積層体6を支持する下パンチ部とからなるものを用いることが好ましい。なお、ここで上パンチ部の加熱部は、通電することによって板状の抵抗体を発熱させる構造をとっている。
このように上パンチ部の圧着面の加熱部を、板状の抵抗体を備えた構成にすることにより、セラミックグリーンシート積層体6を均一に加熱することが容易となり、さらに、抵抗体の発熱量は抵抗体材料の種類や厚みにより種々の制御が可能となるため、セラミックグリーンシート積層体6の形状などに応じて加熱状態を調整することができ、セラミックグリーンシート積層体6の変形や、キャビティ構造やビアホール等に溶融成分を含んだ軟化した第2のセラミックグリーンシート層4が流れ込んでしまうことを一層効果的に抑えることができる。
また、積層装置は、油圧サーボ方式や電気サーボ方式を用いて、上パンチ部や下パンチ部が積層セラミックグリーンシート5の圧着の際に可動する構造のものが好ましい。このような積層装置によれば、パンチの加圧力を所望に応じて調整できるのでセラミックグリーンシート積層体6の積層時の加圧力を小さくできる。さらに、圧着した状態でセラミックグリーンシート積層体6のパンチの加圧力を細かく制御することができるので、セラミックグリーンシート積層体6の変形や、キャビティ構造やビアホール等に溶融成分を含んだ軟化した第2のセラミックグリーンシート層4が流れ込んでしまうことをさらに効果的に抑えることができる。
セラミックグリーンシート積層体6への加圧力が3kgf/cm2(2.94×105Pa)未満だと、圧着面との接触が不均一になり、その結果、セラミックグリーンシート積層体6に均一な温度をかけることができにくく、セラミックグリーンシート積層体6の内部の内部に空隙が生じデラミネーションを部分的に発生してしまうことがある。一方、加圧力が20kgf(19.6×105Pa)を超えると、軟化した第1のセラミックグリーンシート層3成分が押出される形で流動するので、極端にキャビティ構造やビアホール等に第1のグリーンシート成分が流れ込んでしまうことがある。したがって、加圧力は3〜20kgf/cm2(2.94×105〜19.6×105Pa)に設定することが好ましく、これにより、精度よく、キャビティ内に配置された電極パターン上を覆ったり、ビアホールの穴を塞ぐことなく確実に圧着させることができる。
図1(d)の最下部に位置する積層セラミックグリーンシート5としては、第1のセラミックグリーンシート層3のみで構成されるセラミックグリーンシート5’を用いればよい。積層コンデンサのように表面に導体層2が露出しないような電子部品の場合は、図1(d)の最上部に位置する積層セラミックグリーンシート5には導体層2が形成されていない積層セラミックグリーンシート5を用いればよく、積層セラミック配線基板のような両面に導体層2が露出するような電子部品の場合は、最下部のセラミックグリーンシート5’の両面に導体層2を形成したものを用いればよい。
支持体1上に形成された溶融成分を含有した第2のセラミックグリーンシート層4上に、溶融成分を含有しない第1のセラミックグリーンシート層3を形成して積層セラミックグリーンシート5を形成し、この積層セラミックグリーンシート5の第2のセラミックグリーンシート層4上に導体層2を形成した後、導体層2が形成された積層セラミックグリーンシート5を複数枚加熱して積層する方法でもデラミネーションを防止し、かつ積層加圧による変形のない電子部品を製造することができる。この方法では、導体層2の厚み以上に溶融成分を含有した第2のセラミックグリーンシート層4の厚みが必要となるので、積層セラミックグリーンシート5の厚みが薄い場合、溶融成分を含有した、つまり加熱で変形する第2のセラミックグリーンシート層4の厚みの占める割合が高くなり、積層セラミックグリーンシート5全体が変形しやすくなる。これに対して、本発明の製造方法は、積層セラミックグリーンシート5の導体層2が形成された面は実質的に平坦な面であるため、この面の形状に追従して変形する第2のセラミックグリーンシート層4の厚みを薄くすることができる。よって、積層セラミックグリーンシート5の厚みが薄い場合であっても、積層時の加熱による積層セラミックグリーンシート5の変形が抑えられて高寸法精度が確保できるのでより好ましい。
そして最後に、セラミックグリーンシート積層体6を焼成することにより電子部品が完成する。焼成する工程は有機成分の除去とセラミック粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は100〜800℃の温度範囲でセラミックグリーンシート積層体6を加熱することによって行い、有機成分を分解、揮発させ、焼結温度はセラミック組成により異なり、約800〜1600℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気はセラミック粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
焼成後の電子部品は、その表面に露出した導体層2の表面には、導体層2の腐食防止のために、または半田や金属ワイヤ等の外部基板や電子部品との接続手段の良好な接続のために、NiやAuのめっきを施してもよい。
セラミック材料としてガラスセラミックスのような低温焼結材料を用いる場合、セラミックグリーンシート積層体6の上下面にさらに拘束グリーンシートを積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去すれば、より高寸法精度のセラミック基板を得ることが可能となる。拘束グリーンシートは、Al2O3等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(xy平面方向)の収縮が抑制され、積層方向(z方向)にのみ収縮するので、焼成収縮に伴う寸法ばらつきが抑制される。このときの拘束グリーンシートも本発明の積層セラミックグリーンシート5と同様の第1のセラミックグリーンシート層3と第2のセラミックグリーンシート層4とを有する構成にすると、拘束グリーンシートを積層して圧着する際にも大きな加圧力を必要とせず、得られる電子部品はより高寸法精度のものとなる。
また、拘束グリーンシートには難焼結性無機成分に加えて、焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えば積層セラミックグリーンシート5中のガラスと同じガラスを含有させるとよい。焼成中にこのガラスが軟化して積層セラミックグリーンシート5と結合することにより、積層セラミックグリーンシート5と拘束グリーンシートとの結合が強固なものとなり、より確実な拘束力が得られるからである。このときのガラス量は難焼結性無機成分とガラス成分を合わせた無機成分に対して0.5〜15質量%とすると拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が例えば0.5%以下に小さく抑えられる。
この拘束シートは、焼成後、除去される。除去方法としては、例えば研磨、ウォータージェット、ケミカルブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
以上のような工程を経て作製された電子部品は、その内部にデラミネーションが発生することは殆どなく、寸法精度も高いものであるため、優れた電気特性や気密性を備えたものとなる。