本発明の電子部品の製造方法について以下に詳細に説明する。
図1は本発明の電子部品の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図であり、1は支持体、2は導体層、2aは導体ペースト、3は導体層付きセラミックグリーンシート、3aはセラミックスラリー、4はセラミックグリーンシート積層体である。
まず、図1(a)に示すように、支持体1上に導体ペースト2aを塗布して乾燥することにより導体層2を形成する。次に、図1(b)のように、導体層2の形成された支持体1上にセラミックスラリー3aを塗布して乾燥することにより導体層付きセラミックグリーンシート3を形成する。
ここで、本発明の支持体1は結晶化度が30%乃至60%である樹脂成形体であることが重要である。このことにより支持体1を構成する樹脂が密な状態となるので導体ペーストやセラミックスラリーに含まれる有機溶剤が支持体1に浸透しにくくなり、支持体の寸法変動を抑えることができるとともに、支持体1が適度な強度となるので導体層付きセラミックグリーンシート3を支持体1ごと打抜き加工することが可能となる。
支持体1の結晶化度が30%より低くなると、支持体1の強度が低くなり、かつ支持体を構成する樹脂が疎な状態となるため、導体ペースト2aやセラミックスラリー3aに含まれる有機溶剤が浸透しやすくなり、有機溶剤の浸透による膨潤や浸透した有機溶剤の放出による収縮が支持体1に発生し、支持体1に密着した導体層付きセラミックグリーンシート3の寸法変動が発生する。
支持体1の結晶化度が60%よりも高くなると、支持体1の強度が大きくなるため、このような支持体1と導体層付きセラミックグリーンシート3とを貼り付けた状態で支持体1側からパンチングなどの打ち抜き加工により導体層付きセラミックグリーンシートに貫通孔を形成した場合、貫通孔周辺に支持体1のバリができてしまい、支持体1が導体層付きセラミックグリーンシート3に食い込んだ状態になりやすい。このような状態で導体層付きセラミックグリーンシート3を支持体1から剥がすと、支持体1の導体層付きセラミックグリーンシート3に食い込んだ部分が引っ掛かり、導体層付きセラミックグリーンシート3が伸びたり、破れたりしやすくなる。逆に導体層付きセラミックグリーンシート3側から打ち抜き加工を行った場合は、軟らかい導体層付きセラミックグリーンシート3が打抜かれた後、硬い支持体1は一気に打ち抜かれず、支持体1がピンで押された際にピンの周囲(貫通孔の周囲)で導体層付きセラミックグリーンシート3が支持体1から剥がれてしまう場合がある。導体層付きセラミックグリーンシート3の支持体1から剥がれてしまった部分に、製造工程中のハンドリング等で負荷が掛かって導体層付きセラミックグリーンシート3の強度が低い為伸びや破れが発生したり、導体層付きセラミックグリーンシート3が支持体1についた状態で貫通孔に貫通導体用の導体ペーストを充填すると、導体層付きセラミックグリーンシート3が支持体1から剥がれることによりできた隙間に導体ペーストが滲んでしまう場合がある。また、いずれの場合であっても結晶化度が高すぎると支持体1が硬くなりすぎてピンによる打ち抜き加工自体が困難となってしまい、特に径の小さいピンを用いる場合はピンが折れてしまう場合もある。
ここで支持体1の結晶化度とは、結晶部の総重量を全重量に対して百分率で表したものであり、樹脂成形体の材料強度、ガス透過度、耐熱性などの諸物性を示す指標として用いられる(出展:情報機構編 「フィルムの分析評価技術」 株式会社情報機構発行 2003年版)。ここで、樹脂成形体の結晶化度は、X線回折という装置を用いて、結晶部と非結晶部のX線回折強度の比較という方法で測定した値を用いた。X線回折パターンでは、非結晶部からの散乱はブロードなピークとなり、結晶部からの散乱はシャープなピークとなる。通常、高分子のX線回折パターンは非結晶部のブロードなピークと結晶部のシャープなピークが重なった状態で得られるので、ピーク分離法により結晶部と非結晶部のプロファイルを分離して、全てのピークの総面積に対する結晶部の面積を百分率で表した。
支持体1の結晶化度は、支持体1を構成する樹脂のガラス転移点以上に支持体1を加熱し、樹脂が動きやすくなった状態で延伸して樹脂を配向させることにより高くすることができる。このとき加熱温度が同じであれば延伸力を大きくすればより結晶化度を高くすることができ、延伸力が同じであれば加熱温度を高くすればより結晶化度を高くすることができる。ここで加熱温度は上記支持体1を構成する樹脂のガラス転移点以上で、樹脂の分子構造が分解しない範囲であればよく、温度が高くなるほど樹脂が動きやすくなり、延伸力による結晶化度の調整がしやすいので好ましい。また延伸力は、支持体1の樹脂が配向し、支延伸力により破断しない程度の延伸力であればよい。例えば、樹脂としてポリエチレンテレフタレートを使用した場合、ガラス転移点である70℃以上、樹脂が加水分解する温度の150℃以下の温度で、延伸力としては5MPa以下であれば、支持体1が破断することなく結晶化度を調整することができる。通常セラミックグリーンシート成形用の支持体1として用いられる樹脂成形体の結晶化度は20乃至30%程度であるので、このような方法で結晶化度を30乃至60%とする必要がある。このような結晶化度が20乃至30%程度である支持体1を上記のような処理をすることにより結晶化度を高めてもよいし、支持体1を作製する工程で上記のような処理を施すことにより予め結晶化度を30乃至60%となるようにしたものでもよい。
支持体1の厚みは、結晶化度が高い場合は強度が高く、パンチングなどの打ち抜き加工がしにくくなるので、薄いものを用いた方がよいが、薄くなりすぎると製造工程中にハンドリングしにくくなる。その場合、支持体1に結晶化度が低く打ち抜き加工の容易な補助用のフィルムを貼り付ける。この場合、結晶化度の高い支持体1側の面を導体ペーストやセラミックスラリーを塗布する面として、溶剤の浸透による支持体1や補助用フィルムの収縮が低減される。
なお支持体1はポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、塩化ビニル系等の有機樹脂からなる樹脂成形体であり、厚さ15乃至100μmのフィルム状のものである。
また、支持体1の少なくともセラミックスラリーが塗布される表面には離型層が形成され、その厚みが0.1乃至1.0μmであることが好ましい。離型層の厚みが0.1乃至1.0μmであれば、離形層により導体ペースト2aやセラミックスラリー3aの有機溶剤や雰囲気中の水分の濡れ性が低下することにより支持体1へ侵入しにくくなり、より好ましい。
ここで離型剤の種類としては、大別してシリコーン系と、フッ素系、長鎖アルキル基含有系、アルキッド樹脂系、ポリオレフィン樹脂系などを用いることができる。耐熱性、剥離性及びコストの観点から、シリコーン系が望ましい。また、商品形態別にいえば無溶剤型、エマルジョン型、溶剤型のいずれでも使用し得る。
また、支持体1の表面に金属層を形成し、その厚みが1乃至20μmであれば、表面に形成すると金属層が溶剤や水分の浸透することを防止することができ、かつ金属層により支持体1の寸法変動を拘束することができるため、より一層支持体の寸法変動を抑えることができ、より一層導体層付きセラミックグリーンシートの寸法変動を抑えることができることから、より好ましい。
導体ペースト2aは導体粉末に有機バインダと溶剤と必要に応じて分散剤とを加えて混合したものをボールミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー等の混練手段により均質に分散した後、溶剤を必要量添加することにより粘度を調整する。
導体粉末の導体材料としては、例えばW,Mo,Mn,Au,Ag,Cu,Pd(パラジウム),Pt(白金)等の1種または2種以上が挙げられ、その導体粉末はアトマイズ法、還元法等により製造されたものであり、必要により酸化防止、凝集防止等の処理をおこなってもよい。導体材料が2種以上の場合は2種類以上の粉末を混合してもよいし、合金、コーティング等により2種以上の材料が一体となった粉末であってもよい。また、分級等により微粉末または粗粉末を除去し粒度分布を調整したものであってもよい。
有機バインダとしては、従来より導体ペースト2aに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。有機バインダの選定に当たっては、溶解度パラメータの他、焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系、アルキド系の有機バインダがより好ましい。また、有機バインダの添加量としては、導体粉末により異なるが、焼成時に分解・除去されやすく、かつ導体粒子を分散できる量であればよく、導体粉末に対して外添加で5乃至20質量%程度が望ましい。
導体ペースト2aに用いる溶剤としては、導体粉末と有機バインダとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、テルピネオールやブチルカルビトールアセテート及びフタル酸等などが使用可能である。溶剤は導体粉末に対して4乃至15質量%加えることにより、導体ペースト2aが印刷により導体層2を形成でき、かつ導体層2を形成した後に導体ペースト2aの滲みが発生しない程度の粘度、3000cps乃至40000cpsに調整される。
導体ペースト2aに使用する溶剤は、導体ペースト2aの塗布後の形成性、乾燥性を考慮し、低沸点溶剤を用いることが好ましく、塗布の作業性を考慮すると溶剤の沸点は作業時の温度(室温)より高い方が好ましい。さらに、乾燥時の温度による支持体1の寸法変動を抑制するためには、支持体1のガラス転移点より低いことが好ましい。ここで支持体1のガラス転移点とは、支持体1を形成する樹脂の特性が変化する温度のことで、ガラス転移点以下ではガラス質、ガラス転移点以上では粘弾性性質を示すものであり、ガラス転移点以上になると樹脂が変形しやすくなる。これらを考慮すると、導体ペースト2aに使用する溶剤の沸点は40℃から支持体1のガラス転移点の範囲であるのがより好ましい。このようなものとしては、例えば支持体1としてガラス転移点70℃のPET(ポリエチレンテレフタレート)を用いた場合は、沸点が57℃の酢酸メチル等の溶剤が挙げられる。
支持体1上に導体ペースト2aを塗布して乾燥する方法としては、従来より用いられているスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法により塗布した後、温風乾燥機、真空乾燥機、または遠赤外線乾燥機等の乾燥機を用いることができる。ここで乾燥温度は上記のように、導体ペースト2aに含まれる溶剤の沸点以上で支持体のガラス転移点より低い温度で行なうのが好ましい。
セラミックスラリー3aは、セラミック粉末に有機バインダおよび溶剤を加え、ボールミルやビーズミル等の混合装置を用いてセラミック粉末を解砕しながら混合することにより作製される。セラミック粉末の分散性やセラミックグリーンシート3の硬度や強度を調整するために分散剤や可塑剤を添加してしてもよい。
セラミックスラリー3aに用いられるセラミック粉末としては、例えばセラミック配線基板であれば、Al2O3,AlN,ガラスセラミック粉末(ガラス粉末とフィラー粉末との混合物)等が挙げられ、積層コンデンサであればBaTiO3系,PbTiO3系等の複合ペロブスカイト系セラミック粉末が挙げられ、電子部品に要求される特性に合わせて適宜選択される。
ガラスセラミック粉末のガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同じまたは異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(ただし、M3はLi、NaまたはKを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
また、ガラスセラミック粉末のフィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
有機バインダとしては、従来よりグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。有機バインダの選定に当たっては、溶解度パラメータの他、焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系バインダがより好ましい。また、有機バインダの添加量はセラミック粉末により異なるが、焼成時に分解・除去されやすく、かつセラミック粉末が分散され、グリーンシートのハンドリング性や加工性が良好な量であればよく、セラミック粉末に対して10乃至20質量%程度が望ましい。
溶剤はセラミック粉末に対して、前記のように30乃至100質量%加えることにより、セラミックスラリー3aを良好に支持体1上に塗布することができるような粘度、3cps乃至100cps程度となるようにすることが望ましい。
セラミックスラリー3aを塗布する方法としては、ドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等が挙げられる。特にダイコーター法やスロットコーター法、カーテンコーター法等の押し出し式の方法を用いると、これらは非接触式の塗布方法なので、導体層2を物理的な力で混合させてしまうことなく導体層付きセラミックグリーンシート3を形成することができるのでよい。また、導体層付きセラミックグリーンシート3の厚さは、導体層2の厚みより厚くなるように形成される。
支持体1上に塗布したセラミックスラリー3aの乾燥は、導体ペースト2aの乾燥方法と同様に、従来より用いられている温風乾燥機や遠赤外線乾燥機等のような輻射熱や伝熱を利用するものの他、溶剤の蒸気圧を低下させ揮発させる真空乾燥機等の乾燥機を用いることにより行なわれる。
また、導体層付きセラミックグリーンシート3は、第1のグリーンシート層と積層体を作製する際の加熱時に溶融する溶融成分を含む第2のグリーンシート層とからなるものとしてもよい。この場合、第2のセラミックグリーンシート層は溶融成分を含有していることから、積層時の加熱により溶融成分が溶融数することにより第2のセラミックグリーンシート層が接着性を有するものとなるので、導体層付きセラミックグリーンシート3同士を積層する際に高い圧力をかける必要はなく、積層した導体層付きセラミックグリーンシート3が位置ずれしない程度の圧力で積層することが可能となり、積層圧力による変形がなく高寸法精度を維持することができる。
なお、上下の層間の導体層2同士を接続するためのビアホール導体やスルーホール導体等の貫通導体を形成する。これら貫通導体は、金型によるパンチング加工やレーザ加工等により導体層付きセラミックグリーンシート3に形成した貫通孔に、貫通導体用導体ペーストを印刷やプレス充填等の埋め込み手段によって形成される。貫通穴加工は、導体層付きセラミックグリーンシート3が厚い場合、パンチング加工が導体層付きセラミックグリーンシート3の表裏の貫通穴径に差異がなく、また、ギャング金型による多数個の一括形成が可能であり好ましい。また、貫通穴を加工する際、支持体1上に保持したまま行なうため導体層付きセラミックグリーンシート3の変形を防止できる。貫通導体用導体ペーストは導体ペースト2a同様にして作製され、溶剤や有機バインダの量により15000cps乃至40000cps程度に調整される。
次に、図1(c)に示すように、導体層付きセラミックグリーンシート3同士を位置合わせして積み重ね、加熱及び加圧して圧着することでセラミックグリーンシート積層体4を作製する。圧着の際の加熱加圧の条件は用いる有機バインダ等の種類や量により異なるが、概ね30〜100℃、2〜20MPaである。このとき、導体層付きセラミックグリーンシート3同士の接着性を向上させるために、溶剤と有機バインダや可塑剤等を混合した接着剤を用いることも可能である。また、支持体1から導体層付きセラミックグリーンシート3を剥がす時は、圧着前でも後でも構わない。圧着後であれば、特に導体層付きセラミックグリーンシートが薄い場合、支持体1に拘束されるため、圧着する際の温度、圧力による導体層付きセラミックグリーンシート3の寸法変動が抑制でき、より好ましい。また剥がす際に、必要に応じて導体層付きセラミックグリーンシート3が寸法変動しない程度に加熱等の処理を施すことも可能である。
圧着する前の、導体層付きセラミックグリーンシート3を位置合わせして積み重ねた時点で、導体層付きセラミックグリーンシート3が位置ずれしないように、導体層付きセラミックグリーンシート3が変形しない程度の加圧(0.1〜1MPa)を行なうと、導体層付きセラミックグリーンシート3間にデラミネーションが発生することなく密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体4を焼成して得られる電子部品は絶縁基体内に空隙の発生のないものとなる。また、導体層付きセラミックグリーンシート3を位置合わせして積み重ねた際に真空吸引を行うと、積み重ねられた導体層付きセラミックグリーンシート3間に取り込まれた空気が除去されることからデラミネーションの発生がより抑えられ、また、吸引力によりより密着することから導体層付きセラミックグリーンシート3同士の位置ずれが発生しにくくなるのでより好ましい。
積層コンデンサのように表面に導体層2が露出しないような電子部品の場合、図1(c’)に示すように、最上部に位置する導体層付きセラミックグリーンシート3には導体層2が形成されていないセラミックグリーンシート3bを用いればよい。
そして最後に、セラミックグリーンシート積層体4を焼成することにより、本発明の電子部品が作製される。焼成する工程は、有機成分の除去とセラミック粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は、100〜800℃の温度範囲でセラミックグリーンシート積層体4を加熱することによって行い、有機成分を分解、揮発させるものである。また、焼結温度は、セラミック組成により異なり、約800〜1600℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気は、セラミック粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
セラミック材料としてガラスセラミックスのような低温焼結材料を用いる場合、グリーンシート積層体4の上下面にさらに拘束グリーンシートを積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去するようにすれば、より高寸法精度のセラミック基板を得ることが可能となる。拘束グリーンシートは、Al2O3等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(xy平面方向)の収縮が抑制され、積層方向(z方向)にのみ収縮するので、焼成収縮に伴う寸法ばらつきが抑制される。
また、拘束グリーンシートには難焼結性無機成分に加えて、焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えばセラミックグリーンシート3中のガラスと同じガラスを含有させるとよい。焼成中にこのガラスが軟化してセラミックグリーンシート3と結合することにより、セラミックグリーンシート3と拘束グリーンシートとの結合が強固となり、より確実な拘束力が得られる。このときのガラス量は、難焼結性無機成分とガラス成分を合わせた無機成分に対して外添加で、0.5乃至15質量%とするとよく、拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が0.5%以下に抑えられる。
焼成後の拘束グリーンシートの除去方法としては、例えば研磨、ウォータージェット、ケミカルブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
焼成後の電子部品は、その表面に露出した導体層2の表面に、導体層2の腐食防止のために、または半田や金属ワイヤ等の外部基板や電子部品との接続手段の良好な接続のために、NiやAuのめっきを施すとよい。
以上のような方法で作製された電子部品は、その内部にデラミネーションを有さず寸法精度が高く、かつ高精度な導体を有しており、電子部品として要求される優れた電気特性や気密性の高いものとなる。
本発明の実施例について以下に詳細に説明する。
まず、ガラス転移点が70℃のPET製で、結晶化度が10%で厚み50μmのフィルムを巻き取ったものを準備した。上記PETフィルムをグラビアコーター塗布装置に取り付け、巻き取り時の引張り応力及び加熱温度をそれぞれ1乃至5MPa、80乃至120℃の範囲で変更することにより表1に示すような異なる結晶化度の支持体1を作製した。また支持体1には、離型剤としてシリコーン系からなる表面処理層を形成した。表面処理層の形成は、離型剤100質量%に対して、トルエンを500%、硬化剤を1%添加し、攪拌翼により混合したものを用いてグラビアコーターにより、1平方メートル当たり1mg塗布して、熱風乾燥機により100℃で30秒間乾燥することにより行なった。
また、導体ペースト2aは、まずCu粉末100質量%に対して外添加で、アクリル樹脂を10質量%、溶剤としてテルピネオールを3質量%添加し、3本ロールを用いて混合した後、テルピネオールを添加して導体ペースト2aの粘度を10000cpsに調整し作製した。
この支持体1上に導体ペースト2aをスクリーン印刷法で塗布して熱風乾燥機により50℃で600秒程度乾燥することにより、幅及びギャップが75μmの導体層2を形成した。
セラミックスラリー3aは、SiO2−B2O3−Al2O3系ガラス粉末60質量%およびアルミナ粉末40質量%の無機粉末に対して外添加でメタクリル酸メタクリレート重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体からなるアクリル樹脂を12質量%、そして溶剤を40質量%添加し、ボールミルにて24時間混合することにより作製した。溶剤としてメチルイソブチルケトンを用いたセラミックスラリー3aを準備した。
導体層2を形成した支持体上にドクターブレード法によりセラミックスラリー3aを塗布し、熱風乾燥機で60℃で200秒乾燥することにより導体層付きセラミックグリーンシート3を形成した。
試料の評価は寸法精度と導体層付きセラミックグリーンシート3の外観について行なった。寸法精度の評価は、支持体1上に導体層2を形成した後、および導体層付きセラミックグリーンシート3を形成した後に、工具顕微鏡(ニコン製MM−20)にて導体層2のピッチ寸法を測定し、寸法変動率を算出することにより行なった。また導体層付きセラミックグリーンシート3の外観の評価は、導体層付きセラミックグリーンシート3を径が100μmの超硬製のピンにて1mm間隔で打ち抜き加工を行い、支持体1から剥離した導体層付きセラミックグリーンシート3に光を当て、透過光により目視でクラックや破れ等の有無を観察することにより行なった。評価結果を表1に示す。
表1の寸法精度の評価において、「○」は寸法変動率が0.2%以内であるもの、「×」は寸法変動率としては問題ないものの0.2%より大きいものを示す。また外観の評価において、「○」は、クラックや破れ等が発生していないことを示し、「×」は使用上問題ないものの、クラックや破れ等が発生していたことを示す。
表1より、支持体1の結晶化度が30%より小さい場合(試料No.1,2)は、外観が「○」であるが、寸法精度が「×」であった。
また、支持体1の結晶化度が60%より大きい場合(試料No.7,8)は、寸法精度は「○」であるが、外観が「×」であった。また、打ち抜き加工途中にピンの折れが発生した。
これに対し、支持体1の結晶化度が30乃至60%の場合(試料No.3,4,5,6)は、寸法精度、外観ともに「○」と良好な結果が得られた。