本発明の電子部品の製造方法について以下に詳細に説明する。
図1は本発明の電子部品の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図であり、1は支持体、2は第1のセラミックグリーンシート、3は第2のセラミックグリーンシート、4は積層グリーンシート、5は導体層、6は積層体である。
まず、図1(a)に示すように、第1のセラミックグリーンシート2および第2のセラミックグリーンシート3をそれぞれ作製する。第1のセラミックグリーンシート2は、セラミック粉末,有機バインダー,溶融成分に溶剤(有機溶剤,水等)、必要に応じて硬度や強度を調整するための所定量の可塑剤,分散剤を加えてスラリーを得、これをPETフィルムや紙等の支持体1上にドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等により成形することによって得られる。第1のセラミックグリーンシート2の厚さは、導体層5と積層グリーンシート4との段差を埋めるために、導体層5の厚みより厚くなるように10μm以上の厚みで作製される。
第2のセラミックグリーンシート3は、第1のセラミックグリーンシート2に用いるスラリーに対して、溶融成分を含まないスラリーを用いて同様に作製される。第1のセラミックグリーンシート2に含まれる第1のバインダーと第2のセラミックグリーンシート3に含まれる第2のバインダーとは同じ有機バインダーでもよいし、異なる有機バインダーでもよい。第1のセラミックグリーンシート2および第2のセラミックグリーンシート3ともに、可塑剤を添加して積層グリーンシート4の硬度や強度を調整すればよいが、好ましくは第2のグリーンシート3の引っ張り特性が降伏点強度0.5MPa以上でかつ降伏点伸度50%以下とするとよい。これは、積層体6を作製する工程において、第2のセラミックグリーンシート3の引っ張り特性が降伏点強度0.5MPa以上であれば、加熱時に軟化した第1のセラミックグリーンシート2を第2のセラミックグリーンシート3でク
ラックや欠陥なく保持でき、かつ降伏点伸度50%以下であれば第1のセラミックグリーンシート2が軟化しても、積層グリーンシート4は積層時に変形することなく高精度の寸法を保てるからである。
積層グリーンシート4の積層時に変形させないように、好ましくは、第1のセラミックグリーンシート2の厚みは第2のセラミックグリーンシート3より薄く、さらに好ましくは第1のセラミックグリーンシート2の厚みを出来るだけ薄くするほうがよく、導体層5の厚みより若干厚い程度10μm〜100μmとすればよい。
セラミック粉末としては、例えばセラミック配線基板であれば、Al2O3,AlN,ガラスセラミック粉末(ガラス粉末とフィラー粉末との混合物)等が挙げられ、積層コンデンサであればBaTiO3系,PbTiO3系等の複合ペロブスカイト系セラミック粉末が挙げられ、電子部品に要求される特性に合わせて適宜選択される。
ガラスセラミック粉末のガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同一または異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(ただし、M3はLi,NaまたはKを示す,SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
また、ガラスセラミック粉末のフィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
第1のセラミックグリーンシート2および第2のセラミックグリーンシート3に配合される有機バインダーとしては、従来よりセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。
第1のセラミックグリーンシート2に含有される溶融成分は、積層体6を作製する際の加熱時に溶融状態となるものであり、炭化水素,脂肪酸,エステル,脂肪アルコール,多価アルコール等が挙げられる。スラリーを調整する際の溶剤への溶解性を考慮すると、分子量が小さくかつ極性を有する炭化水素,エステル,脂肪アルコール,多価アルコールが好ましい。さらに上述したアクリルバインダーとの相溶性を考慮すると、エステル,脂肪アルコール,多価アルコールがより好ましい。
溶融成分は上記のものの中でも、その融点が35乃至100℃であるものが好ましい。これは、この範囲の融点のものを用いると、常温では第1のセラミックグリーンシート2が軟化して変形することはないので、積層工程までのハンドリングが容易となり、積層体6を作製する工程における加熱時に積層グリーンシート4中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解することがないので、分解ガスによりデラミネーションが発生してしまうことがないからである。融点が35乃至100℃である溶融成分としては具体的には、ミリスチルアルコール,セチルアルコール,ヘキサデカノール,ポリエチレングリコール,ポリグリセロール,ステアリルアミド,オレイルアミド,エチレングリコールモノステアレート,パラフィン,ステアリン酸,シリコーン等が挙げられる。これらの中で焼成工程での分解、揮発性がよく、ヒドロキシル基を有するものは、ミリスチルアルコール,セチルアルコール,ヘキサデカノール,ステアリルアルコール,ポリエチレングリコール,ポリグリセロールである。
第1のセラミックグリーンシート2に含有される溶融成分の含有量は、第1のバインダー100質量%に対して50乃至100質量%である。溶融成分の量が50質量%より少ないと、第1の有機バインダーと結びつき第1の有機バインダー中に分散する溶融成分の絶対量が足りなくなるので、積層体6を作製する工程の加熱時に第1のセラミックグリーンシート2が全体にわたり軟化せず粘着性が得られない、または第1のセラミックグリーンシート2が均一に軟化せず粘着性のない部分ができてしまうこととなり、焼成して得られる電子部品はデラミネーションが発生してしまう。溶融成分が100質量%より多いと、第1の有機バインダーと結びつく溶融成分が過多となり、第1の有機バインダー中に分散しきれない溶融成分が凝集してしまう部分が発生し、この部分は第1の有機のバインダーが存在せず粘着性を有さない部分となるので、この部分に焼成して得られるセラミック電子部品のデラミネーションが発生してしまうこととなる。
第1の有機のバインダーもしくは、第1の有機のバインダーと溶融成分とから成る第1のセラミックグリーンシート2の有機成分の配合量は、第1のセラミックグリーンシート2に含まれる無機粉末100質量%に対して10乃至50質量%である。有機成分の量が10質量%より少ないと、無機成分と結びつくことで第1のセラミックグリーンシート2
中に分散させる役割をもつ有機成分の絶対量が足りなくなるので、積層体6を作製する工程の加熱時に第1のセラミックグリーンシート2が全体にわたり粘着性が得られないか、または第1のセラミックグリーンシート2の粘着性が均一でない部分ができることとなり、焼成して得られる電子部品はデラミネーションが発生してしまう。有機成分が50質量%より多いと、無機成分と結びつく有機成分が過多となり、第1のセラミックグリーンシート2中に分散しきれない有機成分が凝集してしまう部分が発生する。この部分は有機成分が存在し粘着性を有するものの、無機成分が存在しない部分となるので、焼成時における有機成分の除去によって得られる電子部品の中に空隙や空隙に起因するデラミネーションが発生することとなる。
ここで、有機成分とは第1の有機バインダーもしくは、第1の有機バインダーと溶融成分とを示す。第1のセラミックグリーンシート2を形成する際には、有機成分として溶剤および可塑剤や分散剤等を加えたスラリーを用いるが、スラリーを乾燥させて第1のセラミックグリーンシート2とするので第1のセラミックグリーンシート2の有機成分には蒸発してしまう溶剤は含まれず、可塑剤や分散剤等はその量が少ないため、有機成分とは第1の有機バインダーもしくは、第1の有機バインダーと溶融成分としている。
次に、図1(b)に示すように、第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3を加熱して積層グリーンシート4を得る(工程A)。このとき、溶融成分の融点をM℃、工程Aにおける加熱温度をT℃、工程Aにおいて前記積層グリーンシート4がM℃以上の温度に保持される時間をt秒としたとき、関係式“3≦t×(T−M)≦200”を満たすように積層グリーンシート4を作製することにより、第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分が過剰に溶融して第2のセラミックグリーンシート3の内部にまで拡散し、第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分が無くなってしまうことなく、第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3が積層することができる。
第2のセラミックグリーンシート3へ拡散する第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分の量は、アレニウスの自己拡散係数の式、拡散速度“D=A×exp(−E/R×(273+T))”に従う。ここでAは定数、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは温度(摂氏)である。本発明人は、拡散速度は拡散量と時間の逆数に比例する点、工程Aにおいて保持される温度は第1のグリーンシート2の融点以上で最低でも常温25℃以上でセラミックグリーンシート中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解しない程度の温度である数00℃以内であり変動範囲が狭い点と、活性エネルギーは溶融成分の融点が上がれば変化する点とを考え、工程Aにおける加熱温度と加熱温度に保持される時間で、第2のセラミックグリーンシート3へ拡散する第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分の量を規定できないか実験をおこなった。その結果、溶融成分の融点をM℃、工程Aにおける加熱温度をT℃、工程Aにおいて前記積層グリーンシート4がM℃以上の温度に保持される時間をt秒としたとき、“t×(T−M)”の量が溶融成分の拡散量と比例関係であることが判明した。
すなわち、“t×(T−M)”が3より小さいと、第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分が第2のセラミックグリーンシート3へと拡散せず、第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3の界面の接合強度が保たれず、第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3を積層することができない。
また、“t×(T−M)”が200より大きいと、第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分が溶融し第2のセラミックグリーンシート3の内部まで拡散することとなる。この結果、第1のセラミックグリーンシート2から第2のセラミックグリーンシート3への溶融成分の拡散する量が大きすぎるため、第1のセラミックグリーンシート2内に十分な量の溶融成分を保持できず、第1のセラミックグリーンシート2は加熱しても軟化することが出来なくなる。よって、積層体6を得る工程Bにおいて、第1のセラミックグリーンシート2はその上また下に位置する第2のセラミックグリーンシート3およびその上に形成された導体層5の形状に追従して変形できず、積層グリーンシート4間にデラミネーションが発生するためである。さらに第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分が第2のセラミックグリーンシート3へ拡散することによって、工程Bにおいて第2のセラミックグリーンシート3が加熱により軟化してしまい、複数枚位置合わせして重ねた積層グリーンシート4が位置ずれしないように、また、軟化した第1のセラミックグリーンシート2を第2のセラミックグリーンシート3およびその上に形成された導体層5の形状に追従して変形するのを補助するために押さえる程度の加圧(0.1〜1MPa)でも変形してしまう。
このとき、図1(b)のように厚みの薄い第1のを支持体1上に保持した状態で、第2のセラミックグリーンシート3を積層する方がハンドリングの容易さの点でより好ましい。また、このとき、重ねた第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3が位置ずれしないように、軟化した第1のセラミックグリーンシート2を第2のセラミックグリーンシート3の形状に追従して変形するのを補助するために押さえる程度の加圧(0.1〜1MPa)を行なうと、より精度よく確実な圧着が可能となる。
ここで、第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3を積層して、積層グリーンシート4を得るための積層装置は、圧着面に加熱部を有し内部に冷却部を有した上パンチ部と、支持体1を保持したままの第1のセラミックグリーンシート2の下に第2のセラミックグリーンシート3を支持する下パンチ部とからなるものを用いることが好ましい。なお、ここで上パンチ部の加熱部は、通電することによって板状の抵抗体を発熱させる構造をとっているものである。このように上パンチ部の圧着面の加熱部を、板状の抵抗体を備えた構成にすることにより、抵抗体の発熱量は抵抗体材料の種類や厚みにより種々の制御が可能となり、積層グリーンシート4を均一に加熱しかつその加熱温度に保持される時間を短くする利点がある。これにより工程Aにおいて積層時間を短くすることができ、工程Aの生産性を高めることができる。この場合、関係式“3≦t×(T−M)≦200”を満たすために、加熱温度に保持される時間t秒が小さくなる分だけ加熱温度T℃を高くして調整することができる。
さらに、第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3を積層して、積層グリーンシート4を得るための積層装置として、積層グリーンシート4を上下2本のロールとロールの間に挟みこみ、2本のロールを加温することで上下2本のロール間の積層グリーンシート4を加熱するヒートロール方式のラミネーターを用いると望ましい。上下2本のロールの挟み込む圧力で第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3間の空気を押し出しながら貼り合わせでき、空気の混入なく確実な積層が出来る。このヒートロール方式のラミネーターを用いると、ロールの回転速度に応じて加熱温度に保持される時間を調整することが可能となるが、前述のパンチ方式に比べ加熱温度に保持される時間が長くなる不具合がある。この場合、関係式“3≦t×(T−M)≦200”を満たすために、加熱温度に保持される時間t秒が長くなる分だけ加熱温度T℃を低くして調整することができる。
次に、図1(c)に示すように、積層グリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート3上に導体層5を形成する。積層グリーンシート4上に導体層5を形成する方法としては、例えば導体材料の粉末をペースト化したものをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷したり、めっき法や蒸着法等により所定パターン形状の金属膜を形成するような積層グリーンシート4上に直接形成する方法、あるいは印刷により所定パターン形状に形成した導体厚膜や所定パターン形状に加工した金属箔、めっき法や蒸着法等により形成した所定パターン形状の金属膜を、積層グリーンシート4上に転写する方法がある。導体材料としては、例えばW,Mo,Mn,Au,Ag,Cu,Pd(パラジウム),Pt(白金)等の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合、合金、コーティング等のいずれの形態であってもよい。
導体層5は、積層グリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート3上に形成されるのが好ましい。これは、第2のセラミックグリーンシート3は加熱時に溶融する溶融成分を含有せず、第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分が拡散していないことから、しないことから、第2のセラミックグリーンシート3は加熱時に変形することはないので、その上に導体層5を形成することにより導体層5を変形させないようにするためである。
なお、導体層5を形成する前に必要に応じて上下の層間の導体層5同士を接続するためのビアホール導体やスルーホール導体等の貫通導体を形成してもよい。これら貫通導体は、パンチング加工やレーザ加工等により積層グリーンシート4に形成した貫通孔に、導体材料の粉末をペースト化したもの(導体ペースト)を印刷やプレス充填により埋め込む等の手段によって形成される。
次に、図1(d)に示すように、位置合わせして積み重ねた積層グリーンシート4を、溶融成分が溶融状態となり第1のセラミックグリーンシート2が軟化して変形する程度の温度、つまり溶融成分の融点程度の温度で加熱することで、積層体6を作製する(工程B)。
積層体6を作製する工程において、第1のセラミックグリーンシート2は加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、導体層5が形成された積層グリーンシート4を積層して加熱した際に第1のセラミックグリーンシート2が軟化するので、第1のセラミックグリーンシート2はその上また下に位置する積層グリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート3およびその上に形成された導体層5の形状に追従して変形することとなる。これにより、導体層5の周囲や導体層5間に空隙が発生することなく積層グリーンシート4同士が密着することとなり、積層体6を焼成して得られるセラミック電子部品はデラミネーションの発生のないものとなる。
また、第1のセラミックグリーンシート2は、加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、加熱のみで第1のセラミックグリーンシート2が軟化して接着性を有するものとなるので、大きな加圧力により積層グリーンシート4を圧着させる必要がない。そして、導体層5の形成される第2のセラミックグリーンシート3は加熱時に溶融する溶融成分を含有しないことから、第2のセラミックグリーンシート3は加熱時に変形することはなく、積層した積層グリーンシート4が位置ずれしないように、また、軟化した第1のセラミックグリーンシート2を第2のセラミックグリーンシート3およびその上に形成された導体層5の形状に追従して変形するのを補助するために押さえる程度では変形しないものである。よって、積層グリーンシート4およびそれに形成された導体層5の形状が変形することがなく、さらに加圧による積層グリーンシート4への歪がなく得られる積層体6およびそれを焼成して得られるセラミック電子部品は高い寸法精度を有するものとなる。
例えば、加熱時に溶融する溶融成分を含有しない第1のセラミックグリーンシート2を用いた場合、積層体6およびセラミック電子部品の寸法精度は±0.5%程度であったが、本発明の溶融成分を含有する第1のセラミックグリーンシート2を用いた場合、積層体6およびセラミック電子部品の寸法精度は±0.3%程度となり、大幅に向上することが実験により判明した。
図1(d)の最下部に位置するセラミックグリーンシートとしては、第2のセラミックグリーンシート3を用いればよい。積層コンデンサのように表面に導体層5が露出しないようなセラミック電子部品の場合は、図1(d)の最上部に位置する積層グリーンシート4には導体層5が形成されていない積層グリーンシート4を用いればよく、積層セラミック配線基板のような両面に導体層5が露出するようなセラミック電子部品の場合は、最下部の第2のセラミックグリーンシート3の両面に導体層5を形成したものを用いればよい。
ここで工程Bにおける積層グリーンシート4の加熱条件を、第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分の融点が100℃以下で、かつ、溶融成分の融点以上の温度に保持される時間が、0.3秒以上5秒以下とするのが望ましい
加熱条件を上記のようにすると、積層グリーンシート4の第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分が過剰に溶融することがなく、第1のセラミックグリーンシート2の流動を抑えることができるので、キャビティ構造やビアホール等に第1のセラミックグリーンシート2が流れ込んでしまうこともなく、その結果、キャビティ内に配置された電極パターン上を覆ったり、ビアホールの穴を塞ぐことなく、これらの電気的接続を確保することが可能となる。
なお、工程Bにおける積層グリーンシート4の加熱温度が、第1のセラミックグリーンシート2の溶融成分の融点よりも高く無い場合や溶融成分の融点以上の温度における加熱時間が0.3秒に満たない場合には、溶融成分の溶融が不十分となり積層グリーンシート4の第1のセラミックグリーンシート2が軟化して発生する接着性が低下することから、積層体6内部の導体層5の周囲に空隙が生じデラミネーションが部分的に発生してしまう。また、積層グリーンシート4の加熱温度が、100℃を超えた場合、さらには溶融成分の融点以上の温度に保持される時間が、5秒を超えてしまうと、積層体6中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解し、分解ガスによりデラミネーションが発生してしまったり、加熱による溶融成分の流動が大きくなってしまい、積層体6の変形や、キャビティやビアホール等に第1のセラミックグリーンシート2が軟化し、流れ込んでしまう。
ここで、積層グリーンシート4を積層するための積層装置は、圧着面に加熱部を有し内部に冷却部を有した上パンチ部と、積層グリーンシート4に導体層5が形成された積層体を支持する下パンチ部とからなるものを用いることが好ましい。なお、ここで上パンチ部の加熱部は、通電することによって板状の抵抗体を発熱させる構造をとっているものである。
このように上パンチ部の圧着面の加熱部を、板状の抵抗体を備えた構成にすることにより、積層体6を均一に加熱することが容易となり、さらに、抵抗体の発熱量は抵抗体材料の種類や厚みにより種々の制御が可能となるため、積層体6の形状などに応じて加熱状態を調整することができ、積層体6の変形や、キャビティ構造やビアホール等に溶融成分を含んだ軟化した第1のセラミックグリーンシート2が流れ込んでしまうことを一層効果的に抑えることができる。
また、積層装置は、油圧サーボ方式や電気サーボ方式を用いて、上パンチ部や下パンチ部が積層グリーンシート4の圧着の際に可動する構造のものが好ましい。このような積層装置によれば、パンチの加圧力を所望に応じて調整できるので積層体6の積層時の加圧力を小さくできる。さらに、圧着した状態で積層体6のパンチの加圧力を細かく制御することができるので、積層体6の変形や、キャビティ構造やビアホール等に溶融成分を含んだ軟化した第1のセラミックグリーンシート2が流れ込んでしまうことをさらに効果的に抑えることができる。
積層体6への加圧力が3kgf/cm2(2.94×105Pa)未満だと、圧着面との接触が不均一になりその結果、積層体6に均一な温度をかけることができにくく、積層体6内部の導体層5の周囲に空隙が生じデラミネーションが部分的に発生してしまう。一方、加圧力が20kgf(19.6×105Pa)を超えると軟化した第1のセラミックグリーンシート2が押出される形で流動するので、極端にキャビティ構造やビアホール等に第1のセラミックグリーンシート2が流れ込んでしまう。したがって、加圧力は3〜20kgf/cm2(2.94×105〜19.6×105Pa)である。これにより精度よく、キャビティ内に配置された電極パターン上を覆ったり、ビアホールの穴を塞ぐことなく確実な圧着が可能となる。
そして最後に、工程Cにおいて積層体6を焼成することにより本発明のセラミック電子部品が作製される。焼成する工程は有機成分の除去とセラミック粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は100〜800℃の温度範囲で積層体6を加熱することによって行い、有機成分を分解、揮発させ、焼結温度はセラミック組成により異なり、約800〜1600℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気はセラミック粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
焼成後の電子部品は、その表面に露出した導体層5の表面には、導体層5の腐食防止のために、または半田や金属ワイヤ等の外部基板や電子部品との接続手段の良好な接続のために、NiやAuのめっきを施すとよい。
セラミック材料としてガラスセラミックスのような低温焼結材料を用いる場合は、積層体6の上下面にさらに拘束グリーンシートを積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去するようにすれば、より高寸法精度のセラミック基板を得ることが可能となる。拘束グリーンシートは、Al2O3等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(xy平面方向)の収縮が抑制され、積層方向(z方向)にのみ収縮するので、焼成収縮に伴う寸法ばらつきが抑制される。このときの拘束グリーンシートも本発明の積層グリーンシート4と同様の第1のセラミックグリーンシート2と第2のセラミックグリーンシート3とを有する構成にすると、拘束グリーンシートを積層して圧着する際にも大きな加圧力を必要とせず、得られる電子部品はより高寸法精度のものとなるのでよい。
また、拘束グリーンシートには難焼結性無機成分に加えて、焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えば第2のセラミックグリーンシート3中のガラスと同じガラスを含有させるとよい。焼成中にこのガラスが軟化して第2のセラミックグリーンシート3と結合することにより第2のセラミックグリーンシート3と拘束グリーンシートとの結合が強固なものとなり、より確実な拘束力が得られるからである。このときのガラス量は難焼結性無機成分とガラス成分を合わせた無機成分に対して0.5〜15質量%とすると拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が0.5%以下に抑えられる。
焼成後、拘束シートを除去する。除去方法としては、例えば研磨、ウォータージェット、ケミカルブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
以上のような方法で作製されたセラミック電子部品は、その内部にデラミネーションを有さず寸法精度の高いものであるので、セラミック電子部品として要求される優れた電気特性や気密性の高いものとなる。
本発明の実施例について以下に詳細に説明する。第1のセラミックグリーンシート用に、平均粒径1μmのアルミナを90質量%、焼結助剤としてシリカ、マグネシア、カルシアと、着色顔料として遷移金属の酸化物とを合わせて10質量%の割合で調合したセラミック粉末100質量%に対してメタクリル酸メチル樹脂を固形分で20質量%を各々調合し、低融点成分として表1のような溶融成分を10質量%、トルエンおよび酢酸エチルを溶剤としてボールミルにより混合し、スラリーを調整した。次にこれらの第1のセラミックスラリーをPETフィルム上にリップコーター法により厚さ50μmで塗布し、乾燥させて第1のセラミックグリーンシートを作製した。
続いて、第1のセラミックグリーンシート用スラリーと同様の割合で調合したセラミック粉末と有機バインダーとしてメタクリル酸メチル樹脂をセラミック粉末100質量%に対して固形分で10質量%、可塑剤としてフタル酸ジブチルを1質量%添加し、トルエンおよび酢酸エチルを溶剤としてボールミルにより混合してスラリーを調整し、PETフィルム上にリップコーター法により厚さ100μmで塗布し、乾燥することにより第2のセラミックグリーンシートを作製した。
これらの第1のセラミックグリーンシートと第2のセラミックグリーンシートを表1の加熱温度、加熱温度を保持する時間によって0.5MPaで加圧し、一体化した積層グリーンシートを作製した。このとき、作製した積層グリーンシートを観察し、内部に空気を巻き込んだフクレや、第1のセラミックグリーンシートを固定して上の第2のセラミックグリーンシートに市販の粘着テープ(ニチバン セロハンテープ品番CT−12S)を貼ってそのまま手で引き剥がし、第1のセラミックグリーンシートと第2のセラミックグリーンシートの界面で剥がれるかどうかを観察した。
この積層グリーンシートの第2のセラミックグリーンシート上に、タングステンを主成分とする導体ペーストを用いスクリーン印刷法により10〜20μmの厚みで所定パターンに印刷し、導体層を形成した。
導体層を形成した積層グリーンシートをそれぞれ4層重ねあわせて厚み方向に5kg/cm2(50N/cm2)の圧力および80℃の温度で加熱圧着して積層体を作製した。
それから、得られた積層体中の有機バインダー等の有機成分や、有機成分が分解した後に残留するカーボンを除去するため、7.33×103Paの水蒸気を含んだ窒素雰囲気中に約1000℃の温度で1時間保持する熱処理を行った後、還元雰囲気中にて約1600℃の温度で1時間保持して評価用のセラミック焼結体を作製した。
このセラミック焼結体の寸法を3次元測定器で測定し、寸法精度を調査した。また、このセラミック焼結体のクロスセクション観察を行い、セラミック層間のデラミネーションおよびブクやピンホールの発生の有無およびを調査した。
表1における貼り合わせ評価結果のフクレは、積層グリーンシートを作製した際に、作製した積層グリーンシート中の第1のセラミックグリーンシートと第2のセラミックグリーンシートの間に空気が侵入し膨れたどうかを示す。貼り合わせ評価結果の剥がれは、積層グリーンシートを作製した際に、作製した積層グリーンシートに粘着テープで剥がしたときに第1のセラミックグリーンシートと第2のセラミックグリーンシートの界面で剥がれるかどうかを示す。
表1の結果から明らかなように、“t×(T−M)≦3”の試料No.1,7は積層グリーンシートを作製した際に、作製した積層グリーンシート中にフクレや、作製した積層グリーンシートに粘着テープで剥がしたときに剥がれが発生し、セラミック焼結体にもデラミネーションが発生していた。
また“t×(T−M)≧200”の試料のうち、試料No.4,6,14,17は積層グリーンシートを作製した際に、作製した積層グリーンシートにフクレや、作製した積層グリーンシートに粘着テープで剥がしたときに剥がれが無かったものの、セラミック焼結体にデラミネーションが発生していた(表中の総合判定の欄に×で示す)。
さらに“t×(T−M)≧200”の試料のうち、試料No.12,19は積層グリーンシートを作製した際に、作製した積層グリーンシートにフクレや、作製した積層グリーンシートに粘着テープで剥がしたときに剥がれが無く、セラミック焼結体にデラミネーションが発生しなかったものの、セラミック焼結体の寸法精度が0.5%より大きくなってしまった(表中の総合判定の欄に×で示す)。
これに対して、“3≦t×(T−M)≦200”の試料No.2,3,5,8,9,10,11,13,15,16,18は積層グリーンシートを作製した際に、作製した積層グリーンシートにフクレや、作製した積層グリーンシートに粘着テープで剥がしたときに剥がれが無く、デラミネーションのないセラミック焼結体で寸法精度が0.5%より小さい優れたものであった(表中の総合判定の欄に○で示す)。