しかしながら、従来の高流動性部分を有する積層体を用いる方法においては、高流動性部分を移動させてデラミネーションが発生しないような圧着を行なうためには、例えば厚み方向に180MPaという高い圧力を加える必要がある。このような高い圧力を導体層が形成されたグリーンシートに加えると、グリーンシートや導体パターンの形状が変形してしまうこととなる。その結果、基板の所望の寸法精度が得られないために基板上への部品実装が困難となったり、設計通りの導体パターンの形状が得られないために、特に高周波用配線基板等ではインピーダンス整合等の電気的特性が得られなくなるという問題があった。さらに、配線導体層の間隔が微細な場合の配線導体層間に発生する空隙の問題は解決されないままであった。
また、導体層の形成されている部分の周囲の領域にセラミックペーストを印刷する方法においては、導体層が形成されたグリーンシート上にさらにセラミックペーストを印刷するという工程が加わるばかりでなく、配線導体層の間隔が微細な場合は配線導体層間にセラミックペーストを印刷することが困難であった。このため配線導体層の上にもセラミックペーストが印刷されてしまい、配線導体層上に印刷されたセラミックペーストにより、積層されて上下に配置される配線導体層間を接続するための貫通導体が配線導体層と接続されなくなるという問題があった。
さらには、キャビティを有するような電子部品を製造する場合、キャビティとなる貫通穴を形成したグリーンシートとキャビティの底部となる貫通穴が形成されていないグリーンシートとを積層して圧着すると、グリーンシート積層体のキャビティ底部が反るという問題があった。これは、圧着するための加圧によりキャビティの周囲だけに圧力が加わり、キャビティ周囲のグリーンシートが加圧により伸びるのに対して、キャビティ底部には圧力が加わらないのでキャビティ底部のグリーンシートは周囲から押されてしまうことによる。これは、電子部品がより小型でキャビティ底部の厚みがより薄い場合により発生しやすいものであった。キャビティ底部が反ると、水晶振動子やICチップ等の電子素子を搭載することが困難となる。搭載できても搭載された部品が傾くので、CCDやC−MOS等の光半導体素子を搭載した場合は受光精度が悪くなるという問題があった。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、デラミネーションがなく、かつ高い寸法精度を有する電子部品の製造方法を提供することである。
本発明の電子部品の製造方法は、無機粉末と第1のバインダーと融点が35乃至100℃である溶融成分とを含む第1のセラミックグリーンシート層を形成する工程と、前記第1のセラミックグリーンシート層上に無機粉末と第2のバインダーとを含む第2のセラミックグリーンシート層を形成してセラミックグリーンシートを形成する工程と、前記セラミックグリーンシート上に導体層を形成する工程と、前記導体層が形成された前記セラミックグリーンシートを複数枚積層して加熱し、前記溶融成分を溶融状態とすることによってセラミックグリーンシート積層体を作製する工程と、前記セラミックグリーンシート積層体を焼成する工程とを具備しており、前記第1のバインダーの官能基と前記溶融成分の官能基とは極性が異なり、前記溶融成分の官能基がヒドロキシル基を有し、前記第1のバインダーの官能基がアミド基を有していることを特徴とする。
また、本発明の電子部品の製造方法は、好ましくは前記第1のセラミックグリーンシート層に含まれる溶融成分の添加量が無機粉末100質量部に対して10乃至30質量部であることを特徴とする。
本発明の電子部品の製造方法によれば、第1のセラミックグリーンシート層は加熱時に溶融する融点が35乃至100℃である溶融成分を含有することから、導体層が形成されたセラミックグリーンシートを積層して加熱した際に第1のセラミックグリーンシート層が軟化するので、第1のセラミックグリーンシート層は、その下に位置するセラミックグリーンシートの第2のセラミックグリーンシート層、および例えばその上に形成された導体パターンの形状に追従して変形することとなる。その結果、導体層周囲や導体層間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート同士が密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体を焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生のないものとなる。
また、第1のセラミックグリーンシート層は、加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、加熱のみで第1のセラミックグリーンシート層が軟化して接着性を有するものとなるので、大きな加圧力によりセラミックグリーンシートを圧着させる必要がない。そして、第2のセラミックグリーンシート層は加熱時に溶融する溶融成分を含有しないことから、第2のセラミックグリーンシート層は加熱時に変形することはなく、積層したセラミックグリーンシートが位置ずれしないように、また、軟化した第1のセラミックグリーンシート層を第2のセラミックグリーンシート層および導体層の形状に追従して変形するのを補助するために押さえる程度では変形しないものである。よって、セラミックグリーンシートおよびその上に形成された導体層の形状が変形することがなく、得られるセラミックグリーンシート積層体およびそれを焼成して得られる電子部品は高い寸法精度を有するものとなる。
また、第1のバインダーの官能基と溶融成分の官能基とは極性が異なることから、第1のバインダーの官能基と溶融成分の官能基とが結びつき、溶融成分が凝集することなく第1のバインダー中に良好に分散させることできるので、積層時に加熱した際に第1のセラミックグリーンシート層が全体にわたり均一に軟化することとなり、導体層周囲や導体層間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート同士が全面にわたり密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体を焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生のないものとなる。
また、溶融成分の官能基がヒドロキシル基を有し、第1のバインダーの官能基がアミド基を有することから、焼成工程での分解、揮発性がよく、溶剤への分散性がよいものとなる。
また、加熱時に溶融する溶融成分の融点が35℃乃至100℃であることから、常温では第1のセラミックグリーンシート層が軟化して変形することはないので、積層工程までのハンドリングが容易となり、加熱時にセラミックグリーンシート中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解することがないので、分解ガスによりデラミネーションが発生してしまうことがなく、より好ましいものとなる。
また、第1のセラミックグリーンシート層に含まれる溶融成分の添加量を無機粉末100質量部に対して10乃至30質量部とした場合、溶融成分が凝集することなく第1のバインダー中に良好に分散させることできるので、積層時に加熱した際に第1のセラミックグリーンシート層が全体にわたり均一に軟化することとなり、導体層周囲や導体層間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート同士が全面にわたり密着することとなり、部分的なデラミネーションの発生もなく、より好ましい。
また、キャビティを有する電子部品を製造する場合、大きな加圧力によりセラミックグリーンシートを圧着させる必要がないので、キャビティ周囲部とキャビティ底部との加圧によるグリーンシートの伸びの違いによるキャビティ底部の反りの発生を抑えることが可能となり、キャビティ底部に電子素子を精度よく確実に搭載することが可能な電子部品を得ることができる。
このように、本発明の製造方法によれば、セラミックグリーンシート間に空隙を発生させることがなく、セラミックグリーンシートや導体層の変形を抑えたセラミックグリーンシート積層体を得ることが可能となり、本発明の製造方法により作製された電子部品はデラミネーションがなく、高い寸法精度を有する電子部品となる。
本発明の電子部品の製造方法について以下に詳細に説明する。図1は本発明の電子部品の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図であり、1は支持体、2は第1のセラミックグリーンシート層、3は第2のセラミックグリーンシート層、4はセラミックグリーンシート、5は導体層、6はセラミックグリーンシート積層体である。
まず図1(a)に示すように、支持体1上に第1のセラミックグリーンシート層2を形成し、ついで図1(b)に示すように、第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート層3を形成してセラミックグリーンシート4を形成する。
本発明における第1のセラミックグリーンシート層2および第2のセラミックグリーンシート層3は、無機粉末、有機バインダー、溶剤等を混合したものを用いて形成される。第1のセラミックグリーンシート層はさらに溶融成分を含有する。第1のセラミックグリーンシート層2に含まれる第1のバインダーと第2のセラミックグリーンシート層3に含まれる第2のバインダーとは同じ有機バインダーでもよいし、異なる有機バインダーでもよい。第1のセラミックグリーンシート層2および第2のセラミックグリーンシート層3ともに、さらに可塑剤を添加してセラミックグリーンシート4の硬度や強度を調整してもよい。
無機粉末としては、例えばセラミック配線基板であれば、Al2O3,AlN,ガラスセラミック粉末(ガラス粉末とフィラー粉末との混合物)等が挙げられ、積層コンデンサであればBaTiO3系,PbTiO3系等の複合ペロブスカイト系セラミック粉末が挙げられ、電子部品に要求される特性に合わせて適宜選択される。
ガラスセラミック粉末のガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同じまたは異なっていて、Ca,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(ただし、M3はLi、NaまたはKを示す,SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
また、ガラスセラミック粉末のフィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
第1のバインダーの官能基と溶融成分の官能基とは極性が異なることが重要である。第1のバインダーの官能基と溶融成分の官能基とは極性が異なることから、第1のバインダーの官能基と溶融成分の官能基とが結びつき、溶融成分が凝集することなく第1のバインダー中に良好に分散させることできるので、積層時に加熱した際に第1のセラミックグリーンシート層が全体にわたり均一に軟化することとなり、導体層周囲や導体層間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート同士が全面にわたり密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体を焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生のないものとなる。
セラミックグリーンシート層4に含有される有機バインダーとしては、従来よりセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラール系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。また、アクリル系バインダーは共重合によりプラスまたはマイナスの極性を示す官能基を導入することができるので好ましい。例えば、プラスの極性を示す官能基としては、アルキル基,アミド基,アミノ基等が挙げられ、またマイナスの極性を示す官能基としては、ヒドロキシル基,カルボキシル基,ニトロ基,アセチル基,カルボニル基等が挙げられる。
第1のセラミックグリーンシート層2に含有される溶融成分は、セラミックグリーンシート積層体6を作製する際の加熱時に溶融状態となるものであり、脂肪族アルコール,多価アルコール等が挙げられる。これらの溶融成分である脂肪アルコール,多価アルコールは、マイナスの極性を示す。
また、溶融成分の官能基がヒドロキシル基を有し、第1のバインダーの官能基がアミド基を有している。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、溶融成分は二重結合を含まない脂肪族アルコールや多価アルコールが好ましく、第1のバインダーはアクリル系バインダーが好ましい。この脂肪族アルコールや多価アルコールはマイナスの極性を示すヒドロキシル基を有するものであるので、バインダーの官能基はプラスの極性を示すものとなる。アクリル系バインダーに導入される、プラスの極性を示す官能基は、アクリル系バインダーのアクリル酸、メタクリル酸との合成の容易さ、溶剤への分散性からアミド基とする。
溶融成分は、その融点が35乃至100℃である。これは、この範囲の融点のものを用いると、常温では第1のセラミックグリーンシート層2が軟化して変形することはないので、積層工程までのハンドリングが容易となり、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程における加熱時にセラミックグリーンシート4中のバインダーや可塑剤等の有
機成分が分解することがないので、分解ガスによりデラミネーションが発生してしまうことがないからである。融点が35乃至100℃である溶融成分の中で焼成工程での分解、揮発性がよく、ヒドロキシル基を有するものは、ヘキサデカノール,ポリエチレングリコール,ポリグリセロールである。
第1のセラミックグリーンシート層2に含有される溶融成分の含有量は、使用するバインダー成分およびその量や使用する溶融成分により異なるが、溶融成分が溶融した状態で第1のセラミックグリーンシート層2が軟化し、その下に位置するセラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3、および例えばその上に形成された導体層の形状に追従して変形するような量であればよい。
さらに、第1のセラミックグリーンシート層2に含まれる無機粉末(例えばセラミック粉末)100質量部に対して溶融成分の添加量が10乃至30質量部である場合、溶融成分が凝集することなく第1のバインダー中に良好に分散させることできるので、積層時に加熱した際に第1のセラミックグリーンシート層2が全体にわたり均一に軟化することとなり、導体層5周囲や導体層5間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート同士が全面にわたり密着することによって部分的なデラミネーションの発生までもが無くなり、より好ましいものとなる。
第1のセラミックグリーンシート層2は、上記無機粉末,有機バインダー,溶融成分に溶剤(有機溶剤,水等)、必要に応じて所定量の可塑剤,分散剤を加えてスラリーを得、これをPETフィルム等の支持体上にドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等により成形することによって得られる。第1のセラミックグリーンシート層2の厚さは、導体層とセラミックグリーンシートとの段差を埋めるために、導体層の厚みより厚くなるように形成される。
第2のセラミックグリーンシート層3は、第1のセラミックグリーンシート層2に用いるスラリーに対して、溶融成分を含まないスラリーを用いて形成される。
第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート層3を形成する方法は、(1)第1のセラミックグリーンシート層2と同様に成形した第2のセラミックグリーンシート層3を第1のセラミックグリーンシート層2の上に積層して形成する方法、(2)支持体1上に形成された第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート3のスラリーを塗布して形成する方法、(3)支持体1上に塗布された第1のセラミックグリーンシート層2のスラリー上に第2のセラミックグリーンシート層3のスラリーを塗布して形成する方法が挙げられる。
第1のセラミックグリーンシート層2上への第2のセラミックグリーンシート層3の積層の際に、第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3との間に空隙を発生させる可能性があり、また第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3との密着性を向上させるためには、上記(2)または(3)の方法が好ましい。さらには、上記(3)の方法では第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3の形成がほぼ同時に行なわれるので、工程が簡略化されるのでより好ましい。この(3)の方法においては、ダイコーター法やリップコーター法等の押し出し式の方法を用いるとよく、これらは非接触式の塗布方法であり、また溶剤の少ない、比較的粘度の高いスラリーを用いることができるので、第1のセラミックグリーンシート層2のスラリーと第2のセラミックグリーンシート層3のスラリーが混ざり合うことなくセラミックグリーンシート4を形成することができるのでよい。
次に、図1(c)に示すように、セラミックグリーンシート4上に導体層5を形成する。セラミックグリーンシート4上に導体層5を形成する方法としては、例えば導体材料粉末をペースト化したものをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷したり、めっき法や蒸着法等により所定パターン形状の金属膜を形成するようなセラミックグリーンシート4上に直接形成する方法、あるいは印刷により所定パターン形状に形成した導体厚膜や所定パターン形状に加工した金属箔、めっき法や蒸着法等により形成した所定パターン形状の金属膜をセラミックグリーンシート4上に転写する方法がある。導体材料としては、例えばW,Mo,Mn,Au,Ag,Cu,Pd(パラジウム),Pt(白金)等の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合、合金、コーティング等のいずれの形態であってもよい。
導体層5はセラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3上に形成するのが好ましい。これは、第2のセラミックグリーンシート層3は加熱時に溶融する溶融成分を含有しないことから、第2のセラミックグリーンシート層3は加熱時に変形することはないので、その上に導体層5を形成することにより導体層5を変形させないようにするためである。
なお、導体層5を形成する前に必要に応じて上下の層間の導体層5同士を接続するためのビアホール導体やスルーホール導体等の貫通導体を形成してもよい。これら貫通導体は、パンチング加工やレーザ加工等によりセラミックグリーンシート4に形成した貫通孔に、導体材料粉末をペースト化したもの(導体ペースト)を印刷やプレス充填により埋め込む等の手段によって形成される。
キャビティを有する電子部品を製造する場合、次のセラミックグリーンシート積層体6を作製する工程より前に、キャビティ形状の貫通穴を金型による打ち抜き等によりセラミックグリーンシート4の一部に形成しておく。貫通穴の形成は、キャビティの内壁面への導体層5の形成の有無や形成方法に応じて、導体層5を形成する前でもよいし、形成した後でもよい。
次に、図1(d)に示すように、位置合わせして積み重ねたセラミックグリーンシート4を、溶融成分が溶融状態となり第1のセラミックグリーンシート層2が軟化して変形する程度の温度つまり溶融成分の融点程度の温度で加熱することでセラミックグリーンシート積層体6を作製する。また、このとき、積層したセラミックグリーンシート4が位置ずれしないように、また、軟化した第1のセラミックグリーンシート層2を第2のセラミックグリーンシート層3およびその上に形成された導体層5のパターン形状に追従して変形するのを補助するために押さえる程度の加圧を行なうと、より精度よく確実な圧着が可能となる。
セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、第1のセラミックグリーンシート層2は加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、導体層5が形成されたセラミックグリーンシート4を積層して加熱した際に第1のセラミックグリーンシート層2が軟化するので、第1のセラミックグリーンシート層2はその下に位置するセラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3およびその上に形成された導体層5の形状に追従して変形することとなる。これにより、導体層5の周囲や導体層5間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート4同士が密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体6を焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生のないものとなる。
また、第1のセラミックグリーンシート層2は、加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、加熱のみで第1のセラミックグリーンシート層2が軟化して接着性を有するものとなるので、大きな加圧力によりセラミックグリーンシート4を圧着させる必要がない。そして、導体層5の形成される第2のセラミックグリーンシート層3は加熱時に溶融する溶融成分を含有しないことから、第2のセラミックグリーンシート層3は加熱時に変形することはなく、積層したセラミックグリーンシート4が位置ずれしないように、また、軟化した第1のセラミックグリーンシート層2を第2のセラミックグリーンシート層3およびその上に形成された導体層5のパターンの形状に追従して変形するのを補助するために押さえる程度では変形しないものである。よって、セラミックグリーンシート4およびその上に形成された導体層の形状が変形することがなく、さらに加圧によるセラミックグリーンシート4への歪がなく得られるセラミックグリーンシート積層体6およびそれを焼成して得られる電子部品は高い寸法精度を有するものとなる。
例えば、加熱時に溶融する溶融成分を含有しない第1のセラミックグリーンシート層2を用いた場合、セラミックグリーンシート積層体6および電子部品の寸法精度は±0.5%程度であったが、本発明の溶融成分を含有する第1のセラミックグリーンシート層2を用いた場合、セラミックグリーンシート積層体6および電子部品の寸法精度は±0.3%程度となり、大幅に向上することが実験により判明した。
また、キャビティを有する電子部品を製造する場合、大きな加圧力によりセラミックグリーンシート4を圧着させる必要がないので、キャビティ周囲部とキャビティ底部との加圧によるグリーンシート4の伸びの違いによるキャビティ底部の反りの発生を抑えることが可能となり、キャビティ底部に電子素子を精度よく確実に搭載することが可能な電子部品を得ることができる。
図1(d)の最下部に位置するセラミックグリーンシートとしては、第2のセラミックグリーンシート層3のみで構成されるセラミックグリーンシート4’を用いればよい。積層コンデンサのように表面に導体層5が露出しないような電子部品の場合は、図1(d)の最上部に位置するセラミックグリーンシート4には導体層5が形成されていないセラミックグリーンシート4を用いればよく、積層セラミック配線基板のような両面に導体層5が露出するような電子部品の場合は、最下部のセラミックグリーンシート4’の両面に導体層5を形成したものを用いればよい。
そして最後に、セラミックグリーンシート積層体6を焼成することにより本発明の電子部品が作製される。焼成する工程は有機成分の除去と無機粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は100〜800℃の温度範囲でセラミックグリーンシート積層体6を加熱することによって行い、有機成分を分解、揮発させ、焼結温度はセラミック組成により異なり、約800〜1600℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気は無機粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
焼成後の電子部品はその表面に露出した導体層5の表面には、導体層5の腐食防止のために、または半田や金属ワイヤ等の外部基板や電子部品との接続手段の良好な接続のために、NiやAuのめっきを施すとよい。
セラミック材料としてガラスセラミックスのような低温焼結材料を用いる場合は、セラミックグリーンシート積層体6の上下面にさらに拘束グリーンシート(図示せず)を積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去するようにすれば、より高寸法精度のセラミック基板を得ることが可能となる。拘束グリーンシートは、Al2O3等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(xy平面方向)の収縮が抑制され、積層方向(z方向)にのみ収縮するので、焼成収縮に伴う寸法ばらつきが抑制される。このときの拘束グリーンシートも本発明のセラミックグリーンシート4と同様の第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3とを有する構成にすると、拘束グリーンシートを積層して圧着する際にも大きな加圧力を必要とせず、得られる電子部品はより高寸法精度のものとなるのでよい。
また、拘束グリーンシートには難焼結性無機成分に加えて、焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えばセラミックグリーンシート4中のガラスと同じガラスを含有させるとよい。焼成中にこのガラスが軟化してセラミックグリーンシート4と結合することによりセラミックグリーンシート4と拘束グリーンシートとの結合が強固なものとなり、より確実な拘束力が得られるからである。このときのガラス量は難焼結性無機成分とガラス成分を合わせた無機成分に対して0.5〜15質量%とすると拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が0.5%以下に抑えられる。
焼成後、拘束シートを除去する。除去方法としては、例えば研磨、ウォータージェット、ケミカルブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
以上のような方法で作製された電子部品は、その内部にデラミネーションを有さず寸法精度の高いものであるので、電子部品として要求される優れた電気特性や気密性の高いものとなる。
第1のセラミックグリーンシート層用に、平均粒径1μmのアルミナを90質量%、焼結助剤としてシリカ、マグネシア、カルシアと、着色顔料として遷移金属の酸化物(三酸化クロム)を合わせて10質量%の割合で調合し、セラミック粉末100質量部に対して有機バインダーとしてメタクリル酸メチル樹脂を固形分で10質量部、低融点の溶融成分としてヘキサデカノールを固形分で表1のように調合した。さらにトルエンおよび酢酸エチルを溶媒としてボールミルにより40時間混合し、第1のセラミックスラリーを調製した。
次に、第2のセラミックグリーンシート層用に、平均粒径1μmのアルミナを90質量部、焼結助剤としてシリカ、マグネシア、カルシアと、着色顔料として遷移金属の酸化物(三酸化クロム)を合わせて10質量部の割合で調合し、セラミック粉末100質量部に対して有機バインダーとしてメタクリル酸メチル樹脂を固形分で10質量部、可塑剤としてフタル酸ジブチルを1質量部添加し、トルエンおよび酢酸エチルを溶媒としてボールミルにより40時間混合し、第2のセラミックスラリーを調製した。
これらのセラミックスラリーからダイコーターシート成形機を用いて、成形速度2m/分、成形シート幅が250mmの条件にて第1のセラミックグリーンシート層を厚み50μmで各々成形した上にそのまま第2のセラミックグリーンシート層を100μmの厚みで成形し、セラミックグリーンシートを成形した。
このセラミックグリーンシートの第2のセラミックグリーンシート層上に、Wを主成分とする導体ペーストを用いスクリーン印刷法により10〜20μmの厚みで所定パターンに印刷し、導体層を形成した。
導体層を形成したセラミックグリーンシートを4層重ねあわせて厚み方向に0.5MPaの圧力および80℃の温度で加熱圧着してセラミックグリーンシート積層体を作製した。
それから、得られたセラミックグリーンシート積層体中の有機バインダー等の有機成分や、有機成分が分解した後に残留するカーボンを除去するため、7.33×103Paの水蒸気を含んだ窒素雰囲気中に約1000℃の温度で1時間保持する熱処理を行った後、還元雰囲気中にて約1600℃の温度で1時間保持して評価用のセラミック焼結体を作製した。
この焼結体のクロスセクションによる断面観察を行い、セラミック層間のデラミネーションおよびブク(空隙)やピンホールの発生の有無を調査した。
第1のセラミックグリーンシート層中の溶融成分量別の評価の結果を表1に示す。
表1における内層デラミネーション有無の欄の「○」は、焼結体内部にデラミネーションが見られず優れていたことを示す。一方、「△」は積層体の形成に問題は無いものの、焼結体内部にデラミネーションが見られたことを示す。ブク/ピンホール有無の欄の「○」は、焼結体内部にブクやピンホールがないことを示す。一方、「△」は積層体の形成に問題は無いものの、焼結体内部にブクやピンホールが見られたことを示す。
表2より、上記溶融成分量がセラミック粉末100質量部に対して10質量部未満の試料No.1は、剥離箇所は第2のグリーンシート外であり、かつ焼結体内部にデラミネーションが発生した。
また、上記溶融成分量がセラミック粉末100質量部に対して30質量部より大きい試料No.9は、内部にブクやピンホールが発生していた。
これに対して、上記溶融成分量がセラミック粉末100質量部に対して10乃至30質量部の試料No.2,3,4,5,6,7,8は、焼結体内部にデラミネーションが無く、ブクやピンホールの発生しない優れたものであった。