JP4806755B2 - スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に関し、詳しくは、非水電解質二次電池用正極材料とした時に、Mnの溶出量を抑制し、高温保存特性、高温サイクル特性等の電池の高温特性を向上させたスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
近年のパソコンや電話等のポータブル化、コードレス化の急速な進歩によりそれらの駆動用電源としての二次電池の需要が高まっている。その中でも非水電解質二次電池は最も小型かつ高エネルギー密度を持つため特に期待されている。上記の要望を満たす非水電解質二次電池の正極材料としてはコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等がある。これらの複合酸化物はリチウムに対し4V以上の電圧を有していることから、高エネルギー密度を有する電池となり得る。
【0003】
上記の複合酸化物のうちLiCoO2、LiNiO2は理論容量が280mAh/g程度であるのに対し、LiMn2O4 は148mAh/gと小さいが、原料となるマンガン酸化物が豊富で安価であることや、LiNiO2のような充電時の熱的不安定性がないことから、EV用途に適していると考えられている。
【0004】
しかしながら、このマンガン酸リチウム(LiMn2O4) は、高温においてMnが溶出するため、高温保存性、高温サイクル特性等の高温での電池特性に劣るという問題がある。
【0005】
従って本発明の目的は、非水電解質二次電池用正極材料とした時に、充電時のMn溶出量を抑制し、高温保存性、高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させたスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法および該マンガン酸リチウムからなる正極材料、並びに該正極材を用いた非水電解質二次電池を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
スピネル型マンガン酸リチウムに用いるマンガン原料としてさまざまなマンガン化合物の研究がなされている。電解二酸化マンガンは安価、豊富であることから、スピネル型マンガン酸リチウムのマンガン原料として好適である。リチウム一次電池の正極活物質には比表面積の高い電解二酸化マンガンを特定の温度で焼成したものが用いられている。この電解二酸化マンガンの比表面積は電解条件に依存する。また、アルカリマンガン電池用途にはソーダ中和が施される。ソーダ中和された電解二酸化マンガン中には少量のナトリウムが残留することが知られており、このナトリウム量は中和条件に依存する。
【0007】
本発明者らは、電解二酸化マンガンの比表面積及び中和条件に着目し、これを特定することにより、得られたスピネル型マンガン酸リチウムが上記目的を達成し得ることを知見した。
【0008】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、第1の発明によるスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法は、電解析出した二酸化マンガンを平均粒径5〜30μmとなるように粉砕後、水酸化ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムで中和し、pHを2以上とし、その比表面積が50m2/g以上である電解二酸化マンガンと、リチウム原料とを混合し、750℃以上で焼成することを特徴とする。
【0011】
第2の発明による非水電解質二次電池用正極材料は、第1の発明によって得られたスピネル型マンガン酸リチウムからなることを特徴とする。
【0012】
第3の発明による非水電解質二次電池は、上記第2の発明の正極材料を用いた正極と、リチウムを吸蔵、脱蔵できる負極と、非水電解質とから構成されることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、スピネル型マンガン酸リチウムのマンガン原料として、電解二酸化マンガンを用いる。
本発明における電解二酸化マンガンは、次の方法によって得られる。電解液として所定濃度の硫酸マンガン溶液を用い、陰極にカーボン板、陽極にチタン板を用い、加温しつつ、一定の電流密度で電解を行い、陽極に二酸化マンガンを電析させる。次に、電析した二酸化マンガンを陽極から剥離し、所定粒度に粉砕する。
【0014】
ここで、剥離した二酸化マンガンの粉砕は平均粒径5〜30μmに粉砕するのが好ましい。
これは、粒度は細かいほど電流負荷率が向上して好ましいく、一方平均粒径が30μmを超えると、正極材料として形成される膜にひび割れ等が発生し、均一が膜厚が形成しにくくなるからである。
【0015】
この所定粒度に粉砕された電解二酸化マンガンは、ナトリウム中和後、水洗、乾燥する。ナトリウム中和としては、具体的には水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムで中和される。なお、粉砕、中和の順序は特に限定されず、中和後、粉砕してもよい。
【0016】
中和された電解二酸化マンガンのpHは2以上、好ましくは2〜5.5、さらに好ましくは2〜4である。これはpHが高いほど、高温でのMn溶出量は低減されるが、初期放電容量が減少する。pHが2未満ではその効果は不十分である。
【0017】
この中和された電解二酸化マンガンの比表面積は50m2/g以上である。比表面積が50m2/g以下だとリチウム原料との反応性が悪くなり、均一なものが得られないためMn溶出量が低減されない。
また、比表面積が50m2/g以上の電解二酸化マンガンでは、均一なスピネル型マンガン酸リチウムを得ることはできるが、比表面積も高くなるため電解液との反応面積も高くなりMn溶出量は低減されない。
そこでナトリウム中和することで残存したナトリウムが焼成したときに均一に分散して反応したことによりMn溶出量が低減される。
【0018】
本発明では、この電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合し、焼成してスピネル型マンガン酸リチウムを得る。リチウム原料としては、炭酸リチウム(Li2CO3)、硝酸リチウム(LiNO3)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。電解二酸化マンガンとリチウム原料のLi/Mnモル比は0.50〜0.60が好ましい。
【0019】
これら電解二酸化マンガンおよびリチウム原料は、より大きな反応面積を得るために、原料混合前あるいは後に粉砕することも好ましい。秤量、混合された原料はそのままでもあるいは造粒して使用してもよい。造粒方法は、湿式でも乾式でもよく、押し出し造粒、転動造粒、流動造粒、混合造粒、噴霧乾燥造粒、加圧成型造粒、あるいはロール等を用いたフレーク造粒でもよい。
【0020】
このようにして得られた原料は焼成炉内に投入され、600〜1000℃で焼成することによって、スピネル型マンガン酸リチウムが得られる。単一相のスピネル型マンガン酸リチウムを得るには600℃程度でも十分であるが、焼成温度が低いと粒成長が進まないので750℃以上の焼成温度、好ましくは850℃以上の焼成温度が必要となる。ここで用いられる焼成炉としては、ロータリーキルンあるいは静置炉等が例示される。焼成時間は1時間以上、好ましくは5〜20時間である。
【0021】
このようにして、ナトリウムを一定量含有するスピネル型マンガン酸リチウムが得られる。ナトリウムの含有量は0.07〜2.5重量%が好ましい。このナトリウムを含有するスピネル型マンガン酸リチウムは非水電解質二次電池の正極材料として用いられる。
【0022】
本発明の非水電解質二次電池では、上記正極材料とカーボンブラック等の導電材とテフロンバインダー等の結着剤とを混合して正極合剤とし、また、負極にはリチウムまたはカーボン等のリチウムを吸蔵、脱蔵できる材料が用いられ、非水系電解質としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のリチウム塩をエチレンカーボネート−ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したものが用いられるが、特に限定されるものではない。
【0023】
本発明の非水電解質二次電池は充電状態でのマンガンの溶出を抑制することができるので、高温保存、高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させることかできる。
【0024】
【実施例】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は特にこれに限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
マンガンの電解液として、硫酸濃度10g/l、マンガン濃度55g/lの硫酸マンガン水溶液を調製した。この電解液の温度を90℃となるように加温して、陰極にカーボン板、陽極にチタン板を用いて、90A/m2 の電流密度で電解を行った。次いで、陽極に電析した二酸化マンガンを剥離し、7mm以下のチップに粉砕し、さらにこのチップを平均粒径約20μmに粉砕した。
【0026】
この二酸化マンガン10kgを20リットルの水で洗浄し、洗浄水を排出後、再度20リットルの水を加えた。ここに水酸化ナトリウム110gを溶解し、攪拌しながら24時間中和処理し、水洗、濾過後、乾燥(50℃、12時間)した。得られた粉末について、JIS K14677−1984に従って測定したpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。
【0027】
この平均粒径約20μmの二酸化マンガン1kgにLi/Mnモル比が0.54となるように炭酸リチウムを加えて混合し、箱型炉中、800℃で20時間焼成してスピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0028】
このようにして得られたスピネル型マンガン酸リチウムを80重量部、導電剤としてカーボンブラック15重量部および結着剤としてポリ四フッ化エチレン5重量部を混合して正極合剤を作製した。
この正極合剤を用いて図1に示すコイン型非水電解質二次電池を作製した。すなわち、耐有機電解液性のステンレス鋼製の正極ケース1の内側には同じくステンレス鋼製の集電体3がスポット熔接されている。集電体3の上面には上記正極合剤からなる正極5が圧着されている。正極5の上面には、電解液を含浸した微孔性のポリプロピレン樹脂製のセパレータ6が配置されている。正極ケース1の開口部には、下方に金属リチウムからなる負極4を接合した封口板2が、ポリプロピレン製のガスケット7を挟んで配置されており、これにより電池は密封されている。封口板2は、負極端子を兼ね、正極ケース1と同様のステンレス鋼製である。電池の直径は20mm、電池総高1.6mmである。電解液には、エチレンカーボネートと1,3−ジメトキシエタンを等体積混合したものを溶媒とし、これに溶質として六フッ化リン酸リチウムを1mol/リットル溶解させたものを用いた。
【0029】
このようにして得られた電池について充放電試験を行った。充放電試験は20℃において行われ、電流密度を0.5mA/cm2 とし、電圧4.3Vから3.0Vの範囲で行った。また、この電池を4.3Vで充電し、80℃の環境下で3日間保存した後、これらの電池の放電容量を容量維持率として電池の保存特性を確認した。初期放電容量および高温保存容量維持率の測定結果を「表1」に示す。
【0030】
<実施例2>
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化ナトリウム添加量を45gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0031】
<実施例3>
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化ナトリウム添加量を75gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0032】
<実施例4>
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化ナトリウム添加量を140gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0033】
<実施例5>
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化ナトリウム添加量を200gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0034】
<実施例6>
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化ナトリウム添加量を280gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0035】
<実施例7>
焼成温度を900℃とした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0036】
<実施例8>
焼成温度を750℃とした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0037】
<比較例1>
マンガンの電解液として、硫酸濃度50g/l、マンガン濃度40g/lの硫酸マンガン水溶液を調製した。この電解液の温度を95℃となるように加温して、陰極にカーボン板、陽極にチタン板を用いて、60A/m2 の電流密度で電解を行った。これ以外は実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0038】
<比較例2>
電解二酸化マンガンの中和を行わなかった(水酸化ナトリウム添加量0g)とした以外は、比較例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0039】
<比較例3>
電解二酸化マンガンの中和を行わなかった(水酸化ナトリウム添加量0g)とした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、ナトリウム含有量、および比表面積を「表1」に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を「表1」に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
<実施例9>
電解二酸化マンガンの粉砕時の平均粒径を5μmとした以外は実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、2種の電流密度、0.5mA/cm2 と1.0mA/cm2 で評価し、0.5mA/cm2 の電流密度の放電容量を100とし、1.0mA/cm2 での放電容量比率を電流負荷率として表した。「表2」に電流負荷率を示す。
【0042】
<実施例10>
実施例1で作製したコイン型非水電解質二次電池について実施例9と同様の評価を行った。「表2」に電流負荷率を示す。
【0043】
<実施例11>
電解二酸化マンガンの粉砕時の平均粒径を30μmとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、実施例9と同様の評価を行った。「表2」に電流負荷率を示す。
【0044】
<比較例4>
電解二酸化マンガンの粉砕時の平均粒径を35μmとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、実施例9と同様の評価を行った。「表2」に電流負荷比率を示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法で得られたスピネル型マンガン酸リチウムを非水電解質二次電池用正極材料として用いることによって、充電時のMn溶出量を抑制し、高温保存特性、高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させ、また電流負荷率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例のコイン型非水電解質二次電池の縦断面図である。
【符号の説明】
1 正極ケース
2 封口板
3 集電体
4 金属リチウム負極
5 正極
6 セパレータ
7 ガスケット
Claims (3)
- 電解析出した二酸化マンガンを平均粒径5〜30μmとなるように粉砕後、水酸化ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムで中和し、pHを2以上とし、その比表面積が50m2/g以上である電解二酸化マンガンと、リチウム原料とを混合し、750℃以上で焼成する
ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。 - 請求項1に記載の製造方法によって得られたスピネル型マンガン酸リチウムからなる
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極材料。 - 上記請求項2に記載の正極材料を用いた正極と、
リチウムを吸蔵、脱蔵できる負極と、
非水電解質と
から構成される
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
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