JP4473362B2 - スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に関し、詳しくは、非水電解質二次電池用正極材料とした後に、マンガンの溶出量を抑制し、高温保存特性、高温サイクル特性等の電池の高温特性を向上させたスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
近年のパソコンや電話等のポータブル化、コードレス化の急速な進歩によりそれらの駆動用電源としての二次電池の需要が高まっている。その中でも非水電解質二次電池は最も小型かつ高エネルギー密度を持つため特に期待されている。上記の要望を満たす非水電解質二次電池の正極材料としてはコバルト酸リチウム(LiCoO2 )、ニッケル酸リチウム(LiNiO2 )、マンガン酸リチウム(LiMn2 O4 )等がある。これらの複合酸化物はリチウムに対し4V以上の電圧を有していることから、高エネルギー密度を有する電池となり得る。
【0003】
上記の複合酸化物のうちLiCoO2 、LiNiO2 は理論容量が280mAh/g程度であるのに対し、LiMn2 O4 は148mAh/gと小さいが原料となるマンガン酸化物が豊富で安価であることや、LiNiO2 のような充電時の熱的不安定性がないことから、EV用途に適していると考えられている。
【0004】
しかしながら、このマンガン酸リチウム(LiMn2 O4 )は、高温においてMnが溶出するため、高温保存性、高温サイクル特性等の高温での電池特性に劣るという問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、非水電解質二次電池用正極材料とした時に、充電時のマンガン溶出量を抑制し、高温保存性、高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させたスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
スピネル型マンガン酸リチウムに一定量のカリウムを加えることで常温でのサイクル寿命を向上させることが、特開平2−139861号公報に記載されている。同公報においては、マンガン原料とリチウム原料にカリウム原料を添加、焼成する方法が記載されている。電解二酸化マンガンは安価、豊富であることから、スピネル型マンガン酸リチウムのマンガン原料として好適である。通常、電解二酸化マンガンは電解後に、アルカリマンガン電池用途にはソーダ中和が施される。ソーダ中和された電解二酸化マンガン中には少量のナトリウムが残留することが知られており、このナトリウム量は中和条件に依存する。カリウムで中和を行った場合も同様に電解二酸化マンガン中には少量のカリウムが残留し、このカリウム量は中和条件に依存する。
本発明者らは、電解二酸化マンガンの中和条件に着目し、これを特定することにより、得られたスピネル型マンガン酸リチウムが上記目的を達成し得ることを知見した。
【0007】
かかる知見に基づく第一番目の発明によるスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法は、電解析出した二酸化マンガンを水酸化カリウムもしくは炭酸カリウムで中和し、該中和後のpHを2以上とした電解二酸化マンガンとリチウム原料とをLi/Mnモル比が0.50〜0.60となるように混合して、600〜1000℃で焼成することを特徴とする。
【0008】
第二番目の発明によるスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法は、第一番目の発明において、上記水酸化カリウムもしくは炭酸カリウムでの中和の前または中和の後のいずれかで二酸化マンガンを平均粒径5〜30μmとするように粉砕することを特徴とする。
【0009】
第三番目の発明によるスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法は、第一番目又は第二番目の発明において、リチウム原料が、炭酸リチウム、硝酸リチウム又は水酸化リチウムであることを特徴とする。
【0011】
第四番目の発明によるスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法は、第一番目乃至第三番目の発明のいずれか一つにおいて、二酸化マンガン中に含まれるカリウムの量が、0.17〜1.0重量%となるように、電解析出した二酸化マンガンを水酸化カリウムもしくは炭酸カリウムで中和することを特徴とする。
【0012】
また、第六番目の発明による非水電解質二次電池は、第四番目又は第五番目の発明の非水電解質二次電池用正極材料を用いた正極とリチウム合金もしくはリチウムを吸蔵・脱蔵できる負極と非水電解質とから構成されることを特徴する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
本発明において、スピネル型マンガン酸リチウムのマンガン原料として、電解二酸化マンガンを用いる。
【0015】
本発明における電解二酸化マンガンは、次の方法によって得られる。例えば、電解液として所定濃度の硫酸マンガン溶液を用い、陰極にカーボン板、陽極にチタン板を用い、加温しつつ、一定の電流密度で電解を行い、陰極に二酸化マンガンを電析させる。次に、電析した二酸化マンガンを陽極から剥離し、所定粒度、好ましくは平均粒径5〜30μmに粉砕する。
【0016】
非水電解質二次電池では、正極材料が膜厚100μm程度の厚膜に加工されるため、粒度が大きすぎるとひび割れ等を発生し、均一な厚膜が形成しにくい。そこで、平均粒度として5〜30μmの電解二酸化マンガンを原料としてスピネル型マンガン酸リチウムを合成すると、追加の粉砕なしに、製膜に適した正極材料となり得る。こうして微粒の電解二酸化マンガンをカリウムにて中和すると、カリウムがより均一に分布しやすくなるものと推定される。
【0017】
この所定粒度に粉砕された電解二酸化マンガンは、カリウム中和後、水洗、乾燥する。カリウム中和としては、具体的にはそれぞれの水酸化カリウムまたは炭酸カリウムで中和される。なお、粉砕、中和の順序は特に限定されず、中和後、粉砕してもよい。
【0018】
中和された電解二酸化マンガンのpHは2以上、好ましくは2〜5.5、さらに好ましくは2〜4である。pHが高いほど、高温でのマンガン溶出量は低減されるが、初期放電容量が減少する。pHが2未満ではその効果は不十分である。
【0019】
本発明では、この電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合し、焼成してスピネル型マンガン酸リチウムを得る。リチウム原料としては、炭酸リチウム(Li2 CO3 )、硝酸リチウム(LiNO3 )、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。電解二酸化マンガンとリチウム原料のLi/Mnモル比は0.50〜0.60が好ましい。
【0020】
これら電解二酸化マンガンおよびリチウム原料は、より大きな反応面積を得るために、原料混合前あるいは後に粉砕することも好ましい。秤量、混合された原料はそのままでもあるいは造粒して使用してもよい。造粒方法は、湿式でも乾式でもよく、押し出し造粒、転動造粒、流動造粒、混合造粒、噴霧乾燥造粒、加圧成型造粒、あるいはロール等を用いたフレーク造粒でもよい。
【0021】
このようにして得られた原料は焼成炉内に投入され、600〜1000℃で焼成することによって、スピネル型マンガン酸リチウムが得られる。単一相のスピネル型マンガン酸リチウムを得るには600℃程度でも十分であるが、焼成温度が低いと粒成長が進まないので750℃以上の焼成温度、好ましくは850℃以上の焼成温度が必要となる。ここで用いられる焼成炉としては、ロータリーキルンあるいは静置炉等が例示される。焼成時間は均一な反応を得るため1時間以上、好ましくは5〜20時間である。
【0022】
このようにして、カリウムを一定量含有するスピネル型マンガン酸リチウムが得られる。このカリウムを含有するスピネル型マンガン酸リチウムは非水電解質二次電池の正極材料として用いられる。
本発明の非水電解質二次電池では、上記正極材料とカーボンブラック等の導電材とテフロン(商品名:ポリテトラフルオロエチレン)バインダー等の結着剤とを混合して正極合剤とし、また、負極にはリチウム合金、またはカーボン等のリチウムを吸蔵、脱蔵できる材料が用いられ、非水系電解質としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )等のリチウム塩をエチレンカーボネート−ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したもの、あるいはそれらをゲル状電解質にしたものが用いられるが、特に限定されるものではない。
【0023】
本発明の非水電解質二次電池は充電状態でのマンガンの溶出を抑制することができるので、高温保存、高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させることができる。
【0024】
【実施例】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は特にこれに限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
マンガンの電解液として、硫酸濃度50g/l、マンガン濃度40g/lの硫酸マンガン水溶液を調製した。この電解液の温度を95℃となるように加温して、陰極にカーボン板、陽極にチタン板を用いて、60A/m2 の電流密度で電解を行った。次いで、陽極に電析した二酸化マンガンを剥離し、7mm以下のチップに粉砕し、さらにこのチップを平均粒径約20μmに粉砕した。
【0026】
この二酸化マンガン10kgを20リットルの水で洗浄し、洗浄水を排出後、再度20リットルの水を加えた。ここに水酸化カリウム75gを溶解し、撹拌しながら24時間中和処理し、水洗、濾過後、乾燥(50℃、12時間)した。得られた粉末について、JIS K1467−1984に従って測定したpHおよびカリウム含有量を表1に示す。
【0027】
この平均粒径約20μmの二酸化マンガン1kgにLi/Mnモル比が0.54となるように炭酸リチウムを加えて混合し、箱型炉中、800℃で20時間焼成してスピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0028】
このようにして得られたスピネル型マンガン酸リチウムを80重量部、導電剤としてカーボンプラック15重量部および結着剤としてポリ四フッ化エチレン5重量部を混合して正極合剤を作製した。
【0029】
この正極合剤を用いて図1に示すコイン型非水電解質二次電池を作製した。すなわち、耐有機電解液性のステンレス鋼製の正極ケース1の内側には同じくステンレス鋼製の集電体3がスポット熔接されている。集電体3の上面には上記正極合剤からなる正極5が圧着されている。正極5の上面には、電解液を含浸した微孔性のポリプロピレン樹脂製のセパレータ6が配置されている。正極ケース1の開口部には、下方に金属リチウムからなる負極4を接合した封口板2が、ポリプロピレン製のガスケット7を挟んで配置されており、これにより電池は密封されている。封口板2は、負極端子を兼ね、正極ケース1と同様のステンレス鋼製である。電池の直径は20mm、電池総高1.6mmである。電解液には、エチレンカーボネートと1,3−ジメトキシエタンを等体積混合したものを溶媒とし、これを溶質として六フッ化リン酸リチウムを1mol/リットル溶解させたものを用いた。
【0030】
このようにして得られた電池について充放電試験を行った。充放電試験は20℃において行われ、電流密度を0.5mA/cm2 とし、電圧4.3Vから3.0Vの範囲で行った。また、この電池を4.3Vで充電し、80℃の環境下で3日間保存した後、これらの電池の放電容量を容量維持率として電池の保存特性を確認した。初期放電容量および高温保存容量維持率の測定結果を表1に示す。
【0031】
[実施例2]
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化カリウム添加量を110gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、カリウム含有量を表1に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を表1に示す。
【0032】
[実施例3]
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化カリウム添加量を140gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、カリウム含有量を表1に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を表1に示す。
【0033】
[実施例4]
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化カリウム添加量を200gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、カリウム含有量を表1に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を表1に示す。
【0034】
[実施例5]
電解二酸化マンガンの中和の際の水酸化カリウム添加量を280gとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、カリウム含有量を表1に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を表1に示す。
【0035】
[実施例6]
焼成温度を900℃とした以外は、実施例2と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、カリウム含有量を表1に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を表1に示す。
【0036】
[実施例7]
焼成温度を700℃とした以外は、実施例2と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。中和後のpH、カリウム含有量を表1に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を表1に示す。
【0037】
[比較例1]
電解二酸化マンガンの中和を行わなかった(水酸化カリウムの添加量0g)とした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムを行った。中和後のpH、カリウム含有量を表1に示す。また、このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、初期放電容量および高温保存容量維持率を測定し、その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
[実施例8]
電解二酸化マンガンの粉砕時の平均粒径を5μmとした以外は実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、2種の電流密度、0.5mA/cm2 と1.0mA/cm2 で評価し、0.5mA/cm2 の電流密度の放電容量を100とし、1.0mA/cm2 での放電容量比率を電流負荷率として表した。表2に電流負荷率を示す。
【0040】
[実施例9]
実施例1で作製したコイン型非水電解質二次電池について実施例8と同様の評価を行った。表2に電流負荷率を示す。
【0041】
[実施例10]
電解二酸化マンガンの粉砕時の平均粒径を30μmとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、実施例8と同様の評価を行った。表2に電流負荷率を示す。
【0042】
[実施例11]
電解二酸化マンガンの粉砕時の平均粒径を35μmとした以外は、実施例1と同様にスピネル型マンガン酸リチウムの合成を行った。このスピネル型マンガン酸リチウムを正極材料として実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池を作製し、実施例8と同様に評価を行った。表2に電流負荷率を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法で得られたスピネル型マンガン酸リチウムを非水電解質二次電池用正極材料として用いることによって、充電時のマンガン溶出量を抑制し、高温保存特性、高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させ、また電流負荷率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例のコイン型非水電解質二次電池の縦断面図である。
【符号の説明】
1 正極ケース
2 封口板
3 集電体
4 金属リチウム負極
5 正極
6 セパレータ
7 ガスケット
Claims (4)
- 電解析出した二酸化マンガンを水酸化カリウムもしくは炭酸カリウムで中和し、該中和後のpHを2以上とした電解二酸化マンガンとリチウム原料とをLi/Mnモル比が0.50〜0.60となるように混合して、600〜1000℃で焼成する
ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。 - 請求項1において、
上記水酸化カリウムもしくは炭酸カリウムでの中和の前または中和の後のいずれかで二酸化マンガンを平均粒径5〜30μmとするように粉砕する
ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。 - 請求項1または2において、
リチウム原料が、炭酸リチウム、硝酸リチウム又は水酸化リチウムである
ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。 - 請求項1乃至3のいずれか一項において、
二酸化マンガン中に含まれるカリウムの量が、0.17〜1.0重量%となるように、電解析出した二酸化マンガンを水酸化カリウムもしくは炭酸カリウムで中和する
ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
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