JP4762546B2 - 発酵飲料の製造方法 - Google Patents
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Description
オフフレーバーの種類は各種知られており、その解決手段も様々に検討されている。例えば、特開平58−155075ではマストワインにおけるマスト臭を酵母エキス等の添加によって抑制することが記載されている。特開平7−303457ではビールにおける硫化水素の生成を構造遺伝子を導入した酵母を用いて抑制している。また、発泡酒の香味に影響を与えるリンゴ酸およびコハク酸の量を、特開平10−57044では発酵温度や酵母添加量を調整することで、また、特開平10−52251では、蛋白休止時間を所定の時間範囲で変化させて麦汁中の遊離アミノ態窒素の生成量を制御することによって制御することが記載されている。また特開昭61−58573では、酒類を急速製造する際に生じるダイアセチル類について、二段階の発酵のうちの二段階目の発酵を酵母の多入を避けた状態で行うことで低下させている。
このように、酵母を用いた発酵工程で生じるオフフレーバーを抑制することは発酵飲料にとって共通の課題であるが、飲料の酒類、用いる原料、または製造方法ごとに、留意すべきオフフレーバーの種類は異なる。
さて、近年の低アルコール商品の市場の拡大に伴い、果実酒、清酒および麦芽発酵飲料それぞれについて、様々な低アルコールの発酵飲料が製品化されている。ビール、発泡酒といった麦芽発酵飲料においても、低アルコールの製品が製造されている。なかでも、酒税法上、酒類に該当しない、アルコール1%未満の麦芽発酵飲料は、低アルコールビール(低アルコール発泡飲料)またはノンアルコールビールと称され、その市場は増加傾向にある。
低アルコールビールの製造方法には、(1)ビールよりアルコールを除去する方法(逆浸透膜法、蒸留法)、(2)特殊な酵母や微生物を用いる方法、(3)発酵の途中で発酵を止める方法が知られている(Beers & Coolers,edited by M.Moll,Intercept Ltd)。
このうち、(1)の逆浸透膜法はアルコール以外のフレーバーも取り除かれることがあり、また現行ビール工場において各々の脱アルコール設備を導入する必要があり、新たな設備投資費用が膨大に生じ、容易には導入は難しい。また、蒸留法では加熱によるオフフレーバーが生じることがある。(2)の方法には麦汁の主要糖であるマルトースを発酵できない酵母(Saccharomycoides Ludwigii種)を用いた方法(M.W.Brenner,Technical Quarterly,Master Brewers Association of the Americans,17,1980,185−195)が報告されているが、ビール酵母でない特有のフレーバーを生じ、品質の高い低アルコールビールを製造できるとは言い難い。
一方、(3)の発酵途中で発酵を止める方法は、ビール工場の設備をそのまま用いることが可能であり、新たな設備投資を抑制できるメリットがある。この方法については、通常の発酵において発酵が進行する前に冷却して発酵を止める方法が報告されている(Abriss der Bierbrauerei,edited by Ludwig Narziss,Ferdinand Enke Verlag)。また、特開平5−68528では仕込工程において、α−グルコシダーゼを添加して、糖化液中の発酵性糖類を非発酵性糖類に変換する方法が示されている。しかしながら、これらでは、オフフレーバーの生成の抑制に関して充分に検討がなされているとは言いがたい。
別に、(4)麦汁と酵母とを短時間接触させる方法(F.Schur,European Brewery Convention,Proceeding of the 19th Congress,1983)や、(5)通常のビールと低エキス濃度の麦汁で作られたもろみを混合する方法、(G.W.Barrel,UK patent 2033424,1980)などが提案されているが、いずれも麦汁臭が残るという課題があるほか、(5)では日本においては酒税法上の製造許可の得られにくいという問題もある。
また、発酵飲料を発酵停止法で製造する際のオフフレーバーの軽減については、例えば、特開2002−291465では低アルコール濃度の清酒におけるダイアセチル臭を変異酵母を用いることで制御した製造方法が示されている。
しかしながら、発酵飲料を、設備投資の不要な発酵停止方法で製造する方法について、オフフレーバーを抑制し香味にすぐれた製品を得る方法については、今だ充分な検討が行われていない。
発明者らは上記課題を解決するために発酵停止法における発酵飲料中のオフフレーバーの種類・閾値、生成メカニズムの解析を進め、さらに発酵停止法において、糖液あるいはもろみに含まれる成分がオフフレーバーの生成に与える影響等について鋭意検討した。
その結果、ビールの製造のように発酵を終点まで行う場合には消失するオフフレーバーのうち、サルファー臭およびダイアセチル臭は、発酵を途中で停止される製造方法では閾値以上に発生しており、この2種の発生を抑制すれば、発酵停止法によっても香りの面で好ましい発酵飲料が得られることを見出した。そのためには、糖液あるいはもろみのL−メチオニン濃度を調整することでサルファー臭の生成を低減できることを、および、ダイアセチル臭については、糖液あるいはもろみの遊離アミノ態窒素量(FAN量)を調整することで低減できることを見出した。ここで、遊離アミノ態窒素量(FAN量)とは、遊離のα−アミノ基の総量に当たる量である。
これまで、サルファー臭については、炭酸ガスバブリングにより低減できることが知られているが、この方法は新たな設備投資が必要となり、費用として大きな投資が生じる。また、ダイアセチル臭については、低温、加圧条件下で酵母を増殖させないことで生成を抑制することが知られているが、この方法で製造した麦芽飲料では麦汁臭が残りやすい。
本発明の製造法によってえられる発酵飲料は、サルファー臭やダイアセチル臭といったオフフレーバーが抑制され、香りに優れるという特徴をもち、しかもビールと共通の設備によって得られるという長所をもつ。
図2は、上面発酵酵母の各菌株を用いた発酵中の硫化水素濃度の推移を示す。
図3は、L−メチオニン濃度(0.09mM)の糖液を用いたもろみのL−メチオニンおよび硫化水素濃度の推移を示す。
図4は、L−メチオニン濃度(0.14mM)の糖液を用いたもろみのL−メチオニンおよび硫化水素濃度の推移を示す。
図5は、L−メチオニン濃度(0.19mM)の糖液を用いたもろみのL−メチオニンおよび硫化水素濃度の推移を示す。
図6は、L−メチオニン濃度(5mM)の糖液を用いたもろみの硫化水素濃度の推移を示す。
図7は、酵母SH−1726を用いて各種FAN量の糖液で発酵させた場合のもろみのL−バリン濃度の推移を示す。
本発明でいう発酵飲料は発酵工程を経て製造される飲料を指す。麦芽および大麦、米、とうもろこしなどの穀物類を糖化させて得た糖液に、酵母を添加し発酵させる工程を経る。例えば、ビール、発泡酒、低アルコール麦芽発酵飲料や、糖液の原料に麦芽を用いないビールテイスト飲料などが挙げられる。
本発明でいう麦芽発酵飲料は麦芽を発酵させる工程を経て製造される飲料を指す。麦芽のほか、大麦、米、とうもろこしなどの穀物類を糖化させて得た糖液に、酵母を添加し発酵させる工程を経る。例えば、ビール、発泡酒、低アルコール麦芽発酵飲料などが挙げられる。
本発明でいう糖液とは、発酵工程に賦する前の液体をいう。すなわち、上述の、麦芽および大麦、米、とうもろこしなどの穀物類を糖化させて得た糖液に、更に、必要により、糖化スターチや水などの原料を適宜加えたものをいう。また、本発明でいう、もろみとは糖液に酵母を添加した液体をいう。
本発明でいう発酵停止法とは、発酵工程において、酵母が資化可能な糖類を残した状態で、発酵を停止する方法のことである。発酵を停止する方法としては、酵母を除去する方法や、もろみを急速冷却する方法などがある。いずれの発酵飲料にも適用することができる。
本発明は酵母における発酵を途中で停止した場合に留意すべきオフフレーバーの生成を低減することができる。従って、本発明は発酵飲料のうち、発酵停止法によって得られる飲料について有用な技術である。
発酵飲料のうち、原料に麦芽等を用いるものは麦芽発酵飲料と呼ばれ、ビールや発泡酒が含まれる。なお、日本の酒税法上、麦芽発酵飲料の中で、酒類に分類されるのはアルコール含量1%以上の飲料であり、アルコール含量1%未満の麦芽発酵飲料は酒類に該当しない。本発明でいう低アルコールビールとは、アルコール含量1%未満の麦芽発酵飲料のことをいう。好ましくは、アルコール含量0.1%〜1%未満である。低アルコールビールは、ノンアルコールビールあるいはアルコールフリービールなどと称される。
本発明の製造方法は、発酵停止法による各種アルコール濃度の発酵飲料または麦芽発酵飲料に用いることができるが、特に、穀物原料から糖液を調製する発酵飲料に好適に用いることができる。中でも、麦芽を用いる麦芽発酵飲料に好適に用いることができる。あるいは、糖液の原料に麦芽を用いないビールテイスト飲料についても同様に用いることができる。
飲料のアルコール濃度は特に限定されないが、酵母のアルコール耐性を考慮すると、20%以下の麦芽発酵飲料に用いることができる。また、麦芽発酵飲料の場合、アルコール濃度は2%以下であることが望ましい。なかでもアルコール濃度1%以下の低アルコールの麦芽発酵飲料の製造に好適に用いることができる。
本発明におけるオフフレーバーとは、発酵飲料における好ましくない香りのことをいう。不快臭、未熟臭、または異臭などと称される。発酵飲料におけるオフフレーバーには、発酵飲料の種類や製造方法によって様々あり、例えば、有機酸由来の臭いや、各種エステル臭、サルファー臭やダイアセチル臭が挙げられる。発酵飲料の製造で問題とすべきオフフレーバーは、飲料の種類や製造方法によって異なる。
例えば、麦芽発酵飲料では、ビールの製造のように発酵を終点まで行う場合には消失するオフフレーバーのうち、サルファー臭およびダイアセチル臭は、発酵を途中で停止される製造方法では閾値以上に発生していることが判明した。
発酵飲料中のサルファー臭の本体は硫化水素であり、飲料中の硫化水素の濃度は3ppb以下にすることが望ましい。
発酵中に発生する硫化水素は、酵母の含硫アミノ酸(L−メチオニンなど)生成における代謝と密接に関係していることが知られている(日本生化学学会編 代謝マップ東京化学同人,143)。主としてもろみ中の硫酸イオンが酵母の硫黄源として細胞内に取込まれてS2−に還元される。その一部は細胞外に硫化水素として放出されるが、酵母の出芽により細胞内に取込まれL−システインやL−メチオニンの含硫アミノ酸の合成に用いられたり、亜硫酸として細胞外に放出される。
従って、発酵の間、もろみに含まれるL−メチオニンが枯渇しないように制御することによって、上述の硫化水素の生成する代謝を機能させないことが可能である。
すなわち、本発明においては、発酵工程の間、もろみ中のL−メチオニンの濃度をL−メチオニン生合成系が抑制される濃度に調整することが肝要である。そのためは、発酵工程の間、L−メチオニンをもろみに随時補充しても良いが、糖液でL−メチオニンの濃度を調整してもよい。後者の場合、発酵を停止するまで、L−メチオニンの不足によって酵母のL−メチオニン生合成系が働く濃度よりも高い濃度にL−メチオニン濃度がなるように糖液を調製すればよい。糖液のL−メチオニンの濃度を制御する場合、L−メチオニンの濃度は、酵母の活動の程度、すなわち、目標とするアルコール濃度によって異なる。例えば、低アルコールビールの場合、アルコール濃度1%未満で発酵を停止させるが、アルコール濃度が1%に近い製品を製造するには、糖液でのL−メチオニン濃度は0.14mM以上であることが好ましい。これに比べてアルコール濃度が更に低く、例えば0.5%以下の飲料では、糖液のL−メチオニンの濃度は若干低くてもよいが、少なくとも0.09mM以上であることが望ましい。糖液のL−メチオニンの濃度を制御する場合のL−メチオニンの濃度の上限は、発酵工程に悪い影響を及ぼさない濃度であれば特に限定されないが、コストや、製品の香味への影響を考慮すると、例えば、5mM以下、より好ましくは1mM以下が望ましい。
発酵飲料中のダイアセチル臭は代表的な不快な臭いであり、ビールにおいては未熟臭と称されている。ダイアセチル臭の本体は、ダイアセチル及び2,3−ペンタンジオンであり、ビールにおける官能閾値はそれぞれ約0.1ppm、1ppmと言われている。これらの物質は酵母のアミノ酸生成(L−イソロイシン,L−バリン,L−ロイシン)の中間代謝物であり、発酵中に生成されたダイアセチル,2,3−ペンタンジオンは速やかに酵母に取込まれ、もろみにはほとんど存在しない。従ってもろみに両物質はほとんど存在せず、その前駆体であるα−アセト乳酸,α−アセト−α−ヒドロキシ酪酸がもろみに存在している。その前駆体が濾過以降のビール中に存在すると、酸化的脱炭酸により、ダイアセチル及び2,3−ペンタンジオンに変化する。そのためダイアセチル及び2,3−ペンタンジオンの抑制については前駆体も含めて考えることが必要であり、これら4種の化合物を一括して全ビシナル−ジケトン(T−VDK)と定義されているが発酵飲料中の許容量としては、0.1ppm未満にすることが望まれている。
T−VDKの生成量は酵母がもろみのL−バリンを取り込んでいる間は少ない。L−バリンの取り込み量はL−イソロイシンなど他のアミノ酸の存在によって影響をうけることが知られている(K Nakatani,Technical Quarterly,Master Brewers Association of the Americans,21,1984,73 175)。そこで、発明者らは、糖液またはもろみの遊離アミノ態窒素量(FAN量)を制御することによって、酵母のL−バリンの生合成を抑制し、以ってT−VDKの生成量を抑制することとした。
遊離のα−アミノ基の総量にあたるFAN量は、酵母のL−バリンの取込に影響を与える。すなわち、FAN量が少ないとL−バリン自体の枯渇につながり、FAN量が多いと、豊富にある他のアミノ酸が優先的に取り込まれL−バリンの取込は阻害される。従って、本発明において、L−バリンの不足による酵母のL−バリン生合成系が働くことなく、且つ、L−バリンの酵母への取込が阻害されないように、糖液およびもろみでのFAN量を調製することが肝要である。
糖液のFAN量を制御する場合、飲料中のFAN量は2.5〜20mg/100ml、より好ましくは5〜20mg/100mlであるが、目標とするアルコール濃度によって調整すれば良い。例えば、低アルコールビールの場合、アルコール濃度1%未満、但し、好ましくは1%近くで発酵を停止させることから、糖液でのFAN量は、10mg/100ml〜20mg/100mlであることが好ましい。
糖液のFAN量を制御する方法としては、麦芽等の穀物由来の原料の種類または使用量を調整することで調整できる。例えば、麦芽中には各種アミノ酸が含まれ、麦芽の使用量が多いとFAN量は増加する。逆に、副原料である糖化スターチや水の使用量が多い場合、FAN量は低下する。
また、仕込のマッシング工程でのタンパク質の分解の程度によっても調整することができる。仕込のマッシング工程でタンパク質の分解は、pH、温度または時間などを調整することで達成できる。例えば、タンパク質の分解が促進される温度範囲は45−60℃であり、約80℃で失活する。特に、45−50℃では、低分子の窒素化合物(FAN量)が増加する。また、タンパク質の分解量は反応させる時間にも依存する。更に、pHも蛋白分解に対して影響するマッシング工程をpH5〜6で行うことでタンパク質の分解が促進する、そのため、各種の酸を添加するなどして、pHを調整することができる。
一方、もろみのL−バリン濃度は、L−バリンの不足による酵母のL−バリン生合成系が働くことのないように調整すればよい。例えば、0.1〜10mMであるが、コストや、製品の香味への影響を考慮すると、0.2〜2mMが望ましい。もろみのバリン濃度は、麦芽等の穀物由来の原料の種類または使用量を調整することで調整できる。また、糖液またはもろみにL−バリンを添加することでも調整することができる。
本発明で用いる酵母は、製品の種類、目的とする香味や発酵条件などを考慮して自由に選択できる。ただし、本発明の課題であるサルファー臭やダイアセチル臭を極端に生じやすい酵母は避けるべきである。その点で、硫酸イオンの取り込み能の低い酵母は硫化水素の生成量もすくないと考えられ、好適にもちいることができる。ビールなどの麦芽発酵飲料に用いられる酵母のうち、Saccharomyces cerevisiae種の酵母は、発酵中の炭酸ガス発生によって生ずる泡とともに液表に浮かび、ある期間後に器底に沈下するという性質を有することから、上面発酵酵母と呼ばれる。一方、Saccharomyces pastriunus種(またはSaccharomyces carlsbergensis種と言う)の酵母は、発酵中に液表に浮かばずに発酵し、発酵終了後に沈下する性質を持つことから、下面発酵酵母と称される。
本発明において、下面発酵酵母より上面発酵酵母の方が、硫化水素の生成量は少ない傾向にあることから上面発酵酵母を好適に用いることができる。なかでも、硫化水素の生成量が少ない性質を有する酵母や、T−VDKの生成量の少ない性質を有する酵母を好適に用いることができ、例えば、NCYC−229(NATIONAL COLLECTION OF YEAST CULTURESより購入)、NCYC−401(NATIONAL COLLECTION OF YEAST CULTURESより購入)、Weihenstephan−184(Fachhochschle Weihenstephanより購入)、SH−387(国際寄託番号FERM BP−08541)、SH−1059(国際寄託番号FERM BP−08542)、SH−1726(国際寄託番号FERM BP−08543)などSaccharomyces cerevisiaeの上面発酵酵母を好適に用いることができる。
発酵を停止して得られたもろみについて、常法に従がって、着色料、酸化防止剤、酸味剤、香料などを必要により添加する。また、必要により、逆浸透膜法や、水等で希釈によって、アルコール濃度や香味を調整することができる。このようにして得られた麦芽発酵飲料は瓶や缶などの容器に充填することができる。
実施例1 上面発酵酵母を用いることによる硫化水素生成の低減
上面発酵酵母、及び下面発酵酵母を用いることによる硫化水素生成に与える影響を検討した。
麦汁製造時に原料である麦芽と糖化スターチの使用比率を60:40として、パイロットスケールの醸造設備を用い、仕込のマッシング工程を50℃−30分、72℃−60分のマッシング条件とし、糖度10%の麦汁を調製した。それぞれに生菌数10×106cells/mlになるように各菌株の酵母を添加した。上面発酵酵母の菌株として、NCYC−229(NATIONAL COLLECTION OF YEAST CULTURESより購入)、NCYC−401(NATIONAL COLLECTION OF YEAST CULTURESより購入)、Weihenstephan−184(Fachhochschle Weihenstephanより購入)、SH−387(国際寄託番号FERM BP−08541)、SH−1059(国際寄託番号FERM BP−08542)、SH−1726(国際寄託番号FERM BP−08543)を使用した。下面発酵酵母としてWeihenstephan−34(Fachhochschle Weihenstephanより購入)を使用した。
下面発酵酵母のWeihenstephan−34(図1)に比べて上面発酵酵母であるNCYC−229、NCYC−401、Weihenstephan−184、SH−387、SH−1059、SH−1726は、硫化水素生成量が少なかった(図2)。従って、上面発酵酵母は発酵停止方による低アルコール麦芽飲料の製造に好適に用いることができることがわかった。
実施例2 L−メチオニン濃度の制御による硫化水素生成の低減
L−メチオニンの濃度が硫化水素生成の生成量及びサルファー臭に与える影響を検討した。
麦汁製造時に原料である麦芽と糖化スターチの使用比率を60:40として、パイロットスケールの醸造設備を用い、仕込のマッシング工程を50℃−30分、72℃−60分のマッシング条件とし、糖度10%の麦汁を調製した。得られた麦汁のL−メチオニン濃度を測定したところ、0.09mMであった。これに適当量のL−メチオニンを添加し、L−メチオニン濃度が0.09mM、0.14mM、0.19mM、および5.0mMの4水準である糖液を各70L調製した。
それぞれに生菌数10×106cells/mlになるように酵母を添加した。酵母として、Saccharomyces cerevisiaeの一種(Weihenstephan−184株)を用いた。温度15℃で約1日間発酵をおこなった。もろみを経時的に採取し、もろみ中のL−メチオニン濃度、硫化水素濃度を測定した。アルコール濃度約1%の時点(L−メチオニン濃度が5.0mMの試料ではアルコール濃度約2.4%の時点)でもろみを約0℃程度まで急冷することで発酵を停止させた。その後、ろ過により酵母を取り除き、瓶に充填した。
なお、糖液およびもろみ中のL−メチオニン濃度はイオン交換樹脂を用いて各アミノ酸を分離し、恒温反応カラム中でニンヒドリン反応後、発色度を検出する8800形高速アミノ酸分析計(日立製)で測定した。
図3〜5に各L−メチオニン添加水準におけるL−メチオニン濃度の推移と硫化水素濃度の推移を示した。もろみ中のL−メチオニン濃度が低減した試料では硫化水素が生成した(図3)。一方、L−メチオニン濃度が0.14mM(図4)または0.19mM(図5)の試料では、硫化水素の生成量が抑制されていた。
また、サルファー臭についての官能評価を行った。アルコール濃度が約1%の時点の試料について、専門パネリスト5名により評点法で行い、平均点を算出した。サルファー臭の評点は「感じない」=0点、「僅かに感じる」=1点、「感じる」=2点、の3段階とした。試料の温度を約5℃とした。
結果を表1に示す。アルコール濃度が約1%の時点の試料について、糖液のL−メチオニン濃度0.09mMにて発酵させた試料では、サルファー臭を感じるという評価であった。一方、糖液のL−メチオニン濃度0.14または0.19mMにて発酵させ、L−メチオニンの残留している試料では、サルファー臭は認められなかった。
また、糖液のL−メチオニン濃度5.0mMの試料について、硫化水素濃度の推移を図6に示す。L−メチオニン濃度を5.0mMまで高めた場合、アルコール濃度が2%を超えた時点においても、硫化水素の生成量を抑制することができた。
この結果から、もろみ中にL−メチオニンが存在することで、酵母による硫酸イオンの取り込み、及び硫化水素生成を抑制することが確認された。
また、アルコール濃度が約1%の時点で発酵を停止させる場合には、少なくとも0.14mM以上のL−メチオニン濃度の糖液を用いればよいことが判った。また、アルコール濃度が約0.5%の時点で発酵を停止させる場合には、糖液のL−メチオニン濃度を0.09mM以上(図3)とすればよいこと、及び、アルコール2%の時点で発酵を停止させる場合には、糖液のL−メチオニン濃度を5mM(図6)とすればよいと考えられるなど、本発明の技術によれば、目標とするアルコール濃度によって、麦汁中のL−メチオニン濃度を適宜調製すれば、サルファー臭の臭いが抑制できることが判った。
実施例3 遊離アミノ態窒素量の適正化による全ビシナル−ジケトン生成の低減
遊離アミノ態窒素量(FAN量)が全ビシナル−ジケトン(T−VDK)の生成量またはダイアセチル臭に与える影響を検討した。
麦汁製造時に原料である麦芽の使用量を変えて4種の糖液を調製した。すなわち、麦芽と糖化スターチの使用比率を、100:0、80:20、60:40、および40:60%とした。パイロットスケールの醸造設備を用い、仕込のマッシング工程を50℃−30分、72℃−60分の条件とし、糖度10%の麦汁を調製し、遊離アミノ態窒素量(FAN量)が25,20,15,10(mg/100ml)の4種類の麦汁を各70L作成得た。これを糖液とした。FAN量はTNBS法によって測定した(Methods of Analysis of the ASBC(1987),Method Beer−31)。
酵母として、上面発酵酵母(SH−1726)および下面発酵酵母(Weihenstephan−34)を用いた。
各糖液に各酵母を生菌数10×106cells/mlになるように添加し、温度15℃で約1日間発酵をおこなった。もろみを経時的に採取し、もろみ中のL−バリン濃度およびT−VDKを測定した。アルコール濃度約1%の時点でもろみを約0℃程度まで急冷することで発酵を停止させた。その後、ろ過により酵母を取り除き、瓶に充填した。
図7に上面酵母(SH−1726)を用いて各種FAN量の糖液で発酵させた場合のもろみのL−バリン濃度の推移を示した。いずれの試料でも経時的にL−バリン濃度が低下した。特に、FAN量の低い糖液(10mg/100ml)ではアルコール濃度が1.0%の時にL−バリン濃度は0.1mM程度まで低下した。
また、各FAN量の糖液水準ごとに、アルコール濃度が約1.0%時点の試料について、全ビシナル−ジケトン濃度(T−VDK濃度)を測定および官能評価を行った。T−VDK濃度は酵母を除去したもろみから直接蒸留して比色定量した(Methods of Analysis of the ASBC(1987),Method Beer−25A)。ダイアセチル臭についての官能評価は、専門パネリスト5名により評点法で行い、平均点を算出した。ダイアセチル臭臭の評点は「感じない」=0点、「僅かに感じる」=1点、「感じる」=2点、の3段階とした。試料の温度を約5℃とした。
酵母SH−1726株の結果を表2に示す。糖液中のFAN量が15mg/100mlの場合、T−VDKの濃度は他の糖液水準に比較して低く、また、官能評価も良好であった。
一方、糖液中のFAN量が低い試料(10mg/100ml)では、T−VDKの濃度は、FAN量が15mg/100mlの場合に比較してやや上昇したものの、官能評価は良好であった。L−バリンの酵母への取込が低下するとT−VDKの生成量が増大するが、当該糖液では、L−バリン濃度の低下に伴い、充分な取込ができなかったと思われる。ただし、T−VDKの閾値は、0.10ppm程度であり、ダイアセチル臭の官能への影響は軽微であった。
更に、糖液中のFAN量が高い試料(20〜25mg/100ml)でも、T−VDKの濃度は上昇した。このうちFAN量が最も高い糖液(25mg/100ml)では、官能評価の成績も悪かった。当該糖液ではL−バリンは充分にあるものの、他のアミノ酸の存在によりL−バリンの取込みが阻害されたと考えられる。特にFAN量が25mg/100mlの糖液ではダイアセチル臭が官能に影響を与える程度に発生したと考えられる。
次に、下面発酵酵母であるWeihenstephan−34を用いた試験について、T−VDKの測定結果を表3に示す。
T−VDKの値は、糖液中に含まれるFAN量によってT−VDKの濃度によって、差が認めれた。すなわち、FAN量が最も低い糖液(10mg/100ml)でT−VDKの濃度が最も低く、FAN量が最も高い糖液(25mg/100ml)では、T−VDKの濃度が最も高かった。これは、他のアミノ酸の存在によりL−バリンの取込みがより阻害されたと考えられる。
下面発酵酵母の本試験でのT−VDKの濃度は、酵母SH−1726株に比べて高く、低アルコール発酵飲料の製造に用いるのは最適ではないものの、このように、FAN値を制御することでT−VDKの生成量を制御できることがわかった。
このような結果から、L−バリンの不足による酵母のL−バリン生合成系が働くことなく、且つ、L−バリンの酵母への取込が阻害されないように、FAN量を調整することで、T−VDKの生成量を抑制し、ダイアセチル臭を抑制できることが確認された。また、アルコール濃度が約1%の時点までに発酵を停止させる場合には、適正なFAN量は10−20mg/100mlであることが判った。
このように、本発明の技術によれば、目標とするアルコール濃度によって、糖液を適正なFAN量に調製して、ダイアセチル臭を抑制できることができる。
実施例4 低アルコールビール製造
L−メチオニン濃度の調製の有無、およびFAN量の調整の有無により、低アルコールビールを製造した。
すなわち、糖液のFAN量を調整せずにL−メチオニン濃度のみを調製した対照例1、L−メチオニン濃度を調製せずに糖液のFAN量を調整した対照例2、および、糖液のL−メチオニン濃度と糖液のFAN量のいずれをも調整した発明品1、の3種の飲料を調製した。
パイロットスケールの醸造設備を用い、実施例1と同様の仕込条件で糖度10%の麦汁を調整した。その際、FAN量の調整は、麦汁製造時に原料である麦芽と糖化スターチの使用比率によって調整した。すなわち、麦芽と糖化スターチの使用比率を100:0(対照品1)または60:40(対照品2、及び発明品1)とした。これらのFAN量を測定したところ、対照品1では25mg/100mlであったが、対照品2と発明品1では、至適濃度範囲である15mg/100mlであった。FAN量の測定は前述の方法に準じた。
また、各麦汁のL−メチオニン濃度はそれぞれ、0.17mM(対照品1)および0.10mM(対照品2、及び発明品1)であった。そこで、発明品1にはL−メチオニンを添加して、L−メチオニン濃度を至適濃度範囲の範疇である0.2mMに調整した。これらを糖液として、発酵を行った。L−メチオニン濃度の測定は前述の方法に従った。
各糖液に酵母(SH−1726株)を生菌数10×106cells/mlになるように添加し、温度15℃で約1日間発酵をおこなった後、低温貯酒、濾過による酵母除去を行い、アルコール含量0.80〜0.90%の低アルコールビールを製造し、瓶に充填した。
得られた3種の低アルコール飲料について、硫化水素濃度、T−VDK濃度、サルファー臭、ダイアセチル臭および総合的な官能評価を行った。硫化水素濃度、T−VDK濃度、サルファー臭およびダイアセチル臭の評価は前述の方法に従った。また、総合的な官能評価は、専門パネリスト5名により評点法で行い、平均点を算出した。評点は、「良い」=5点、「やや良い」=4点、「ふつう」=3点、「やや悪い」=2点、「悪い」=1点の5段階とした。
結果を表4に示す。糖液のFAN量を調整せずにL−メチオニン濃度のみを調製した対照例1では、T−VDK濃度が高く、ダイアセチル臭の評価が悪かった。また、L−メチオニン濃度を調製せずに糖液のFAN量を調整した対照例2では、硫化水素濃度が高く、サルファー臭の評価が悪かった。
一方、糖液のL−メチオニン濃度および糖液のFAN量のいずれをも調整した発明品1では、硫化水素およびT−VDK濃度とも低かった。またサルファー臭およびダイアセチル臭の評価とも良好であった。また、飲料としての総合的な評価も良かったことから、本発明の技術は、発酵停止法による低アルコール麦芽飲料の製造に好適に用いることができることが判った。
実施例5 ビールの製造
L−メチオニン濃度およびFAN量の調整し、発酵停止方法によってアルコール濃度0.5%(発明品2)および2%(発明品3)のビールを製造した。
パイロットスケールの醸造設備を用い、実施例1と同様の仕込条件で糖度10%の麦汁を調整した。その際、FAN量の調整は、麦汁製造時に原料である麦芽と糖化スターチの使用比率によって調整した。すなわち、麦芽と糖化スターチの使用比率を60:40(発明品2、発明品3)とした。これらのFAN量を測定したところ、15mg/100ml(発明品2、発明品3)であった。
また、各麦汁のL−メチオニン濃度は0.10mg/100ml(発明品2、発明品3)であった。各麦汁にL−メチオニンを添加して、0.15mM(発明品2)および0.40mg/100ml(発明品3)とした。これらを糖液として、発酵を行った。
各糖液に酵母(SH−1726株)を生菌数10×106cells/mlになるように添加し、温度15℃で約1ないし2日間発酵をおこなった後、低温貯酒、濾過による酵母除去を行い、アルコール含量0.5%および2%のビールを製造し、瓶に充填した。
いずれの発明品においても、サルファー臭、ダイアセチル臭ともに殆どなく、良好な香味を呈した。
Claims (14)
- 発酵停止法による発酵飲料の製造方法であって、もろみのL-メチオニン濃度が0.01mMより低い濃度になる前であって、かつアルコール濃度が2%以下の段階で発酵を停止させる、前記製造方法。
- アルコール濃度が1%以下の段階で発酵を停止させる、請求項1に記載の製造方法。
- 発酵停止法による発酵飲料の製造方法であって、もろみの遊離アミノ態窒素量を、L−バリン濃度が0.1〜10mMとなるように制御することを特徴とする、前記製造方法。
- 前記もろみ調製に用いる糖液の遊離アミノ態窒素量を、穀物原料の種類または使用比率、糖化工程のpH、温度または時間、および希釈率からなる群の少なくとも一つによって調整する、請求項3記載の製造方法。
- 穀物原料が麦芽である、請求項4記載の製造方法。
- アルコール濃度が2%以下である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の発酵飲料の製造方法。
- 発酵停止法による発酵飲料の製造方法において、糖液、またはもろみにL-メチオニンを添加し、さらに糖液またはもろみの遊離アミノ態窒素量を制御することを特徴とする、サルファー臭およびダイアセチル臭を低減した発酵飲料の製造方法。
- 糖液のL-メチオニン濃度を0.09mM〜5mMとし、さらに糖液の遊離アミノ態窒素量を10mg/100ml〜20mg/100mlとすることを特徴とする、請求項7記載の製造方法。
- 糖液のL-メチオニン濃度を0.09mM〜5mMとし、もろみの遊離アミノ態窒素量をL−バリン濃度が0.1〜10mMとなるように制御することを特徴とする、請求項7記載の製造方法。
- 糖液のL-メチオニン濃度を0.09mM〜5mMとし、糖液の遊離アミノ態窒素量の調整を穀物原料の種類または使用量、マッシング工程のpH、温度または時間からなる群の、少なくとも一つを調整することで行うことを特徴とする、請求項7記載の製造方法。
- 発酵飲料のアルコール濃度が2%以下である、請求項7〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
- 発酵に用いる酵母が上面発酵酵母である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
- 酵母がSaccharomyces cerevisia種である、請求項12記載の製造方法。
- 請求項1〜13のいずれか一項記載の方法で得られるオフフレーバーを抑制した発酵飲料。
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