JP4734775B2 - エシェリヒア・コリのアルギニン生産菌及びそれを用いたl−アルギニンの製造法 - Google Patents

エシェリヒア・コリのアルギニン生産菌及びそれを用いたl−アルギニンの製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エシェリヒア・コリのアルギニン生産菌及びそれを用いた発酵法によるアルギニンの製造法に関する。アルギニンは、肝機能促進薬、アミノ酸輸液及び総合アミノ酸製剤等の成分として、産業上有用なアミノ酸である。
【0002】
【従来の技術】
アルギニン及びピリミジンのアナログに耐性なエシェリヒア・コリの変異株のいくつかが、アルギニンを製造することが知られている(Pierard A. and Glansdorf N., Mol. Gen. Genet., 118, 235, 1972. and Glansdorf N., Biosynthesis of arginine and polyamines. In "E. coli and Salm. thyphimurium, 1996))。また、他の薬剤に耐性を有するエシェリヒア・コリ変異株(特開昭56−106598号公報参照)あるいは、アルギニン生合成系酵素遺伝子が導入されたエシェリヒア・コリ組換え株(特開昭57−5693号)を用いてアルギニンを製造する方法が知られている。
【0003】
エシェリヒア・コリ K12株のアルギニン生合成経路においては、1モルのアルギニンを生成するのに、1モルのアセチル−CoAが消費され、1モルの酢酸が放出される(図1)。酢酸の副生の結果、炭素源のかなりの部分が浪費される。
その上、酢酸の蓄積は、アルギニン生産菌の培養における生育を悪化させる。
【0004】
一方、エシェリヒア・コリは、炭素源として酢酸を有効に資化できないことが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、酢酸資化能を有するエシェリヒア・コリのアルギニン生産菌、及び同菌株を用いてアルギニンを生産する方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記観点から、アルギニン生産菌が酢酸を再利用する能力を有していれば、アルギニンの生産性は高まると考えた。そこで、本発明者らは、エシェリヒア・コリのアルギニン生産菌の酢酸資化変異株を作製し、同変異株のアルギニン生産能を向上させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、アルギニン生産能及び酢酸資化能を有するエシェリヒア・コリである。
本発明はまた、アルギニン生産能及び酢酸資化能を有するエシェリヒア・コリを培地に培養し、培地中にアルギニンを生成蓄積せしめ、該培地からアミノ酸を採取することを特徴とするアルギニンの製造法を提供する。
本発明において、アミノ酸はL−アミノ酸である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のエシェリヒア・コリは、アルギニン生産能及び酢酸資化能を有する。アルギニン生産能及び酢酸資化能を有するエシェリヒア・コリは、アルギニン生産能を有するエシェリヒア・コリに酢酸資化能を付与することによって、又は、酢酸資化能を有するエシェリヒア・コリにアルギニン生産能を付与することによって、取得することができる。
【0009】
本発明において、アルギニン生産能とは、エシェリヒア・コリを好適な培地で培養したときに、培地中にアルギニンを生成、蓄積することができる能力をいう。また、酢酸資化能とは、酢酸又は酢酸塩を親株よりも効率良く代謝することができる能力をいい、具体的には、例えば、酢酸又は酢酸塩を唯一の炭素源として含む培地で培養したときに親株よりも速く生育できる能力をいう。より具体的には、適切な条件下で、酢酸又は酢酸塩を唯一の炭素源及び窒素源として含む培地、例えば酢酸アンモニウムを5g/L含む液体最少培地A(後述する)において培養したときに、親株よりも速く生育するエシェリヒア・コリは、酢酸資化能を有するといえる。さらに具体的には、適切な条件下で、酢酸又は酢酸塩を唯一の炭素源及び窒素源として含む寒天培地、例えば酢酸アンモニウムを5g/L含む最少培地A(後述する)において培養したときに、37℃で2日以内にコロニーを形成するエシェリヒア・コリは、酢酸資化能を有するといえる。適切な条件とは、培養されるエシェリヒア・コリにとって至適な温度、pH、給気量、必要に応じて必須栄養素を含むこと等をいう。
【0010】
以下に、本発明のエシェリヒア・コリを取得する方法の一例として、アルギニン生産能を有するエシェリヒア・コリから酢酸資化能を有する変異株を誘導する方法を説明する。
【0011】
アルギニン生産能を有するエシェリヒア・コリとしては、酢酸資化能を付与しうるものであれば特に制限されないが、例えば、エシェリヒア・コリK−12株、B株又はC株又はそれらの誘導株から育種されたアルギニン生産株が挙げられる。
【0012】
アルギニン生産能を有するエシェリヒア・コリとして具体的には、α−メチルメチオニン、p−フルオロフェニルアラニン、D−アルギニン、アルギニンヒドロキサム酸、S−(2−アミノエチル)−システイン、α−メチルセリン、β−2−チエニルアラニン、又はスルファグアニジンに耐性を有する変異株(特開昭56−106598号公報参照)、及び、N−アセチルグルタミン酸合成酵素をコードするargA遺伝子を導入されたアルギニン生産株(特開昭57−5693号)等が挙げられる。また、後記実施例に記載したエシェリヒア・コリ237株も、好適なアルギニン生産株である。同株は、2000年4月10日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)にVKPM B-7925の番号で寄託され、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
【0013】
上記のようなアルギニン生産能を有するエシェリヒア・コリ菌株から酢酸資化能を有する変異株を得るには、例えば、同菌株を突然変異処理し、酢酸又は酢酸塩を唯一の炭素源とする最少培地で良く生育できる菌株を選択すればよい。変異処理は、例えば、エシェリヒア・コリを、紫外線照射または1−メチル−3−ニトロ−1−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理することによって行うことができる。変異処理と、酢酸資化能を有する変異株の選択は、複数回繰り返してもよい。
【0014】
上記のような酢酸資化能を有するエシェリヒア・コリであってアルギニン生産能を有するものを好適な培地で培養し、該培地中にアルギニンを生成蓄積せしめ、該培地からアルギニンを採取することにより、アルギニンを効率よく製造することができる。
【0015】
アルギニンの生合成において、グルタミン酸からN−アセチルグルタミン酸へのアセチル化、及び、N−アセチルオルニチンからオルニチンへの脱アセチル化は、コリネ型細菌では同一の酵素(オルニチンアセチルトランスフェラーゼ)によって触媒されている。一方、エシェリヒア・コリでは、アルギニン生合成におけるアセチル化及び脱アセチル化は、別々の酵素、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ、及びN−アセチルオルニチナーゼによって各々触媒されている。したがって、仮に副生する酢酸を資化したとしても、アルギニンの生産量への影響は、予想されていなかった。
【0016】
本発明のアルギニンの製造法におけるエシェリヒア・コリの培養および培養液からのアルギニンの採取、精製等は、従来のエシェリヒア・コリを用いた発酵法によるアルギニンの製造法と同様にして行えばよい。
【0017】
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースもしくはでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールもしくはソルビトールなどのアルコール類、または酢酸、フマール酸、クエン酸もしくはコハク酸等の有機酸類を用いることができる。
【0018】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムもしくはリン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、またはアンモニア水等を用いることができる。
【0019】
有機微量栄養源としては、ビタミンB1、L−イソロイシンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0020】
培養は、好気的条件下で16〜72時間実施するのがよく、培養温度は25℃〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。
【0021】
発酵液からのL−アルギニンの採取は、通常イオン交換樹脂法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0023】
【実施例1】
酢酸資化性変異株の誘導
アルギニン生産性変異株であるエシェリヒア・コリ237株から、炭素源及び窒素源として酢酸アンモニウム(5mg/ml)を含むM9寒天培地上で良く生育する変異株を誘導した。237株は、エシェリヒア・コリK12 ilvA::Tn5から1−メチル−3−ニトロ−1−ニトロソグアニジンにより誘導された、ピリミジンアナログである6−アザウラシルに耐性な変異株である。237株は、酢酸アンモニウムを炭素源及び窒素源として含むM9寒天培地上で十分に生育しない。237株は、2000年4月10日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)にVKPM B-7925の番号で寄託され、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された
【0024】
237株の細胞を、L−ブロスを入れた試験管中、37℃で一夜振盪下で生育させ、遠心分離により集菌した。次に、細胞を、0.1mg/mlの1−メチル−3−ニトロ−1−ニトロソグアニジン(NTG)を含む生理的食塩水(0.8%)に懸濁させた。NTG処理を37℃で30分間行った後、細胞を遠心分離し、生理的食塩水で2回洗滌し、最少寒天培地A(1L中、酢酸アンモニウム5g、Na2HPO4 6g、KH2PO4 3g、NaCl 0.5g、チアミンO.1mg、L−イソロイシン O.1g、寒天15gを含む。(pH 7.0))にまいた。
【0025】
培地プレートを、37℃で5日間インキュベートした。2日以内にプレート上に出現したコロニーを釣り上げ、同じ組成の寒天プレートにストリークし、純化した。親株である237株は、5日培養後でなければコロニーを形成しなかった。単離された70株について、アルギニン生産性を調べた。誘導された変異株の約1/4は、親株である237株よりもアルギニン生産性が向上していた。それらのうち、最も高いアルギニン生産能を有する株は382株であった。382株は、2000年4月10日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)にVKPM B-7926の番号で寄託され、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
【0026】
【実施例2】
新規変異株の酢酸による生育
炭素源として、酢酸アンモニウム又はグルコースのいずれかを5g/L含む液体最少培地A(寒天は添加しない)を、2mlずつ試験管に入れ、新規菌株382株、他のアルギニン生産性変異株の一例として383株及びそれらの親株である237株を一白金耳接種し、32℃で16時間、振盪培養した。540nmでの吸光度測定により、生育を調べた。尚、培養開始時の培地の吸光度は、約0.05であった。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
Figure 0004734775
【0028】
【実施例3】
新規アルギニン生産変異株による試験管内発酵におけるアルギニンの生産
新規菌株382株、383株及びそれらの親株である237株を発酵培地で培養した。発酵培地は、水道水1L中に、グルコース60g、硫酸アンモニウム25g、KH2P04 2g、MgS04・7H2O 1g、チアミン O.1mg、イーストエキストラクト(Difco)5g、炭酸カルシウム 25gを含む(pH7.2)。グルコース及び炭酸カルシウムは、別殺菌した。この培地を2mlずつ試験管に入れ、被検微生物を一白金耳接種し、32℃で3日時間、振盪培養した。培地中に蓄積されたアルギニンの量を表2に示す。
【0029】
【表2】
Figure 0004734775
【0030】
【実施例4】
新規アルギニン生産変異菌によるジャーファーメンターにおけるアルギニンの生産
新規菌株382株及びその親株である237株を、L−ブロス中で、32℃で8時間培養した。次いで、それらの種培養液60mlを、0.5Lの発酵培地を入れたジャーファーメンターに接種し、70rpmで攪拌しながら32℃、0.5L/分の通気量で培養した。発酵培地は、水道水1L中に、グルコース100g、硫酸アンモニウム9g、KH2P04 1g、MgS04・7H2O 0.4g、FeS04・7H2O 0.02g、MnSO4・7H20 0.02g、総窒素として0.2gのダイズ加水分解物、イソロイシン0.3g、チアミン O.4mgを含む(pH7.0)。培養中、pHを7.0に調整し、かつ、窒素源を供給するために、アンモニア溶液(4.7M)を加えた。培養は、42時間行った。培養後に培地に蓄積されたアルギニンの量、及び、グルコースからの収率を、表3に示す。
【0031】
【表3】
Figure 0004734775
酢酸資化変異株は、親株よりも高いアルギニン生産性を示した。
【0032】
【発明の効果】
本発明により、酢酸資化能及びアルギニン生産能を有するエシェリヒア・コリを用いて、アルギニンを効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 エシェリヒア・コリのアルギニン生合成経路の概略を示す図。

Claims (3)

  1. アルギニンを培地中に生成蓄積する能力を有し、且つ、酢酸又は酢酸塩を唯一の炭素源として含む培地において培養したときに、親株よりも速く生育できるよう改変され、酢酸又は酢酸塩を唯一の炭素源として含む寒天培地において培養したときに、37℃で2日以内にコロニーを形成する、エシェリヒア・コリ変異株
  2. 前記エシェリヒア・コリ変異株が、エシェリヒア・コリK12株の誘導体である請求項1記載のエシェリヒア・コリ変異株
  3. 請求項1又は2に記載のエシェリヒア・コリ変異株を培地に培養し、培地中にアルギニンを生成蓄積せしめ、該培地からアルギニンを採取することを特徴とするアルギニンの製造法。
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