以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、眼鏡用プラスチックレンズに反射防止膜や撥水コート等の薄膜を連続的に形成する連続型真空蒸着装置1に、本発明を適用した一例を示す。この連続型真空蒸着装置1は、成型された眼鏡用レンズ(以下、単にレンズとする)を、真空蒸着室内で蒸着物質を蒸着させて反射防止膜と撥水膜等を連続的に形成するものである。
図1は、連続型真空蒸着装置1の概要を示す概略図である。この連続型真空蒸着装置1には、レンズ20を加熱する予熱室100と、反射防止膜をレンズ20に形成する第1蒸着室200と、反射防止膜を形成したレンズ20に撥水膜等を形成する第2蒸着室300を備えている。また、予熱室100、第1蒸着室200、第2蒸着室300は、所定の真空度を満たすように真空装置が配設される。
連続型真空蒸着装置1におけるレンズ20の加工の概略について説明する。
まず、複数のレンズ20を円盤状のコートドーム2に配置し、1ロットを構成する。そして、コートドーム2は予熱室100の支持台101に乗せられる。支持台101を上昇させて予熱室100の底部からコートドーム2を予熱室100に移動する。支持台101の上昇が完了すると、支持台101の下部を支持する開閉台103で予熱室100の底部が封止される。また、コートドーム2の上部は連続型真空蒸着装置1の支持台101に設けられた移動手段に支持されて、予熱室100から第1蒸着室200を経て第2蒸着室300まで移動可能となっている。また、移動手段に支持された状態のコートドーム2は、図示しないアクチュエータにより回転可能となっている。
予熱室100には、制御装置12によって駆動されるヒータ(ハロゲンヒータなど)102によりコートドーム2のレンズ20を予熱する。予熱が完了すると、制御装置12は移動手段を駆動してコートドーム2を第1蒸着室200へ移動する。
第1蒸着室200では、複数の蒸着原料41、42を加熱源としての電子銃30、31で加熱し、蒸発させてレンズ20に主に反射防止膜を形成する。なお、電子銃30、31の駆動や蒸着原料41、42の選択は、制御装置12によって制御される。また、第1蒸着室200には、薄膜の形成状況を監視するための光学式膜厚計10が備えられ、監視結果は制御装置12へ送られて電子銃30、31の制御などを行う。なお、蒸着原料が一つの場合には、電子銃30または31のいずれか一方を作動させればよい。
反射防止膜の形成が完了すると、制御装置12は移動手段を駆動してコートドーム2を第2蒸着室300へ移動する。
第2蒸着室300には、昇降可能な開閉台303上にコートドーム2を支持する支持台101が移動可能に配置される。第1蒸着室200から移動してきたコートドーム2は、搬送手段500により第2蒸着室300に移動する。
開閉台303上には、制御装置12によって制御されるヒータ(ハロゲンヒータなど)302と、ヒータ302により加熱される蒸着原料340が配置され、コートドーム2に配置されたレンズ20に撥水膜を形成する。
レンズ20に撥水膜の形成が完了すると、開閉台303が下降して全工程処理の加工が完了する。この後、コートドーム2は支持台301から移動し、コートドーム2上のレンズ20は次工程へ運ばれる。
なお、上記では第1蒸着室200で反射防止膜を、第2蒸着室300で撥水膜を形成したが、蒸着原料41、42、340を変更することにより、任意の薄膜を蒸着することができる。また、第1蒸着室200では、同時に2つの蒸着原料41、42を蒸発させるだけでなく、電子銃30、31の一方のみを作動させて、一つの蒸着原料による蒸着を行っても良い。
次に、図2は第1の成膜室となる第1蒸着室200と制御装置12を示す。
第1蒸着室200内では、予熱室100から移動してきたコートドーム2が支持台に設けられた搬送手段500により所定の位置である第1蒸着室200内の上部に位置決めされる。
第1蒸着室200の上部には、所定の位置に薄膜の形成状況を検出する光学式膜厚計10が設置され、光学式膜厚計10を構成するモニターガラス51は、第1蒸着室200内の所定の位置に配置されて、蒸着原料41、42の蒸気を受けることが可能となっている。
第1蒸着室200の下部には、蒸着原料(成膜材料)41、42を収装するルツボやハースで構成される容器40を有するハース部400と、容器の蒸着原料41、42に電子ビームを当てて気化させる電子銃30、31と、蒸着原料41、42の蒸気を選択的に遮断するシャッター5、蒸着した薄膜の強度や膜質(緻密性など)を改善するためイオンビーム照射を行うイオン銃14、蒸着した薄膜の強度や膜質を改善するため、第1蒸着室200内にガスを充填するガス発生装置(ガスユニット)15等が設けられている。
なお、シャッター5にはアクチュエータ(図示省略)が設けられ、後述の制御装置12によって制御される。また、蒸着原料41、42は異なる種類の物質で、例えば、蒸着原料41が低屈折率物質で、蒸着原料42が高屈折率物質である。
上部のコートドーム2の近傍には、コートドーム2に保持された被成膜体としてのレンズ20の温度を計測するための基板温度計6が設けられ、さらに、第1蒸着室200内の真空度を計測するための真空計7及び第1蒸着室200内を排気するための排気ユニット8が設けられている。また、コートドーム2に保持されたレンズ20を加熱するためのヒータ9が設けられている。なお、ヒータ9はハロゲンヒータなどで構成される。
さらに、第1蒸着室200の外部上方には、コートドーム2の所定の位置に設定されたモニターガラス51の反射率を測定する光学式膜厚計10が設けられている。光学式膜厚計10は膜厚モニター11を介して制御装置12に接続され、光学式膜厚計10からは光量データ(光量値)として、後述するように、照射光の光量に対する反射光の光量の比が出力される。なお、光学式膜厚計10及び膜厚モニター11の構成は、特開2001−115260号公報や特開2003−202404号公報の構成と同様である。
制御装置12は、シーケンサユニットが主体であるが、さらにこれに指令を送るCPU、メモリ、ディスク装置などを(いわゆるコンピュータ)備え、後述するように、それ全体で予熱室100、第1蒸着室200、第2蒸着室300の各機器の制御を行うもので、例えば、電子銃30、31やヒータ302への供給電力を制御して、レンズ20に薄膜を形成する。
このため制御装置12にはキーボードやマウスなどで構成された入力部12aが接続されるとともに、上述の電子銃30、31、シャッター5、真空装置8、ヒータ9、イオン銃14、ガス発生装置15等の制御対象と、基板温度計6、真空計7、光学式膜厚計10(膜厚モニタ11)等のセンサが接続されており、制御装置12は、各センサからの入力情報等に基づいて上記制御対象を制御する。さらに制御装置12には、予熱室100のヒータ102、第2蒸着室300のヒータ302、予熱室100から第1蒸着室200を経て第2蒸着室300までを結ぶ搬送手段500、予熱室100及び第2蒸着室300の開閉台103、303の昇降装置(図示省略)がそれぞれ接続される。
制御装置12は、真空計7の情報に基づいて真空装置8を制御し、第1蒸着室200内を所定の真空度にする。また、制御装置12は、基板温度計6の情報に基づいてヒータ9を制御して被成膜体であるレンズ20を所定の温度にする。そして、制御装置12は、上記光学式膜厚計10のモニターガラス51に形成された薄膜の時々刻々の光学膜厚に依存する時々刻々の光量値が、基準光量値データ格納手段に格納されている値と等しくなるように、電子銃30、31に印加する電力(電流及び/又は電圧)を制御する場合もある。また、形成する薄膜の種類や気化させる蒸着原料41、42の種類に応じて、イオン銃14によるイオンビーム照射やガス発生装置15によるガスの充填を行う。
ここで、コートドーム2は、レンズ20に反射防止膜等が蒸着されるように、レンズ20を保持する保持手段である。そして、複数のレンズ20が同時に蒸着できるよう、円形をしており、コートドーム2は所定の曲率を有している。また、コートドーム2は、図示しないアクチュエータにより回転可能となっており、主には、蒸着室で加熱されて飛躍する蒸発物の分布のばらつきを低減させるために回転する。
電子銃30、31は、容器に収納された蒸着原料(物質)41、42を蒸着原料41、42の溶融温度まで加熱することにより、蒸発させて、レンズ20及びモニターガラス51に蒸着原料(物質)を蒸着・堆積させて薄膜を形成する。
容器40は、蒸着物質41、42を保持するために用いられる水冷式のルツボやハースライナである。
シャッター5は、蒸着を開始するとき開き、または終了するときに閉じるように制御されるもので、薄膜の制御を行いやすくするものである。ヒータ9は、レンズ20に蒸着される薄膜の密着性などの物性を出すため、レンズ20を適切な温度に加熱する加熱手段である。
光学式膜厚計10は、表面に透明薄膜を形成した透明基体に光を照射すると、薄膜表面からの反射光と透明基体表面からの反射光とが両者の位相差によって干渉をおこす現象を利用したものである。すなわち、上記位相差が薄膜の屈折率及び光学膜厚によって変化し、干渉の状態が変化して反射光の光量が薄膜の屈折率及び光学膜厚に依存して変化する。なお、反射光が変化すれば必然的に透過光も変化するので、透過光の光量を計測することによっても同様のことができるが、以下では反射光を用いた場合を説明する。
光学式膜厚計10は、上記コートドーム2のほぼ中心部に保持されたモニターガラス51に所定の波長の光を照射し、その反射光を測定する。モニターガラス51に形成される薄膜は、各レンズ20に形成される薄膜に従属しているとみることができるので、各レンズ20に形成される薄膜を推測できる(再現できる)情報を得ることができる。モニタガラス51に形成される膜厚の測定については、特開2003−202404号公報などと同様であり、受光センサ157が検出した光量のピークの数に基づいて、膜厚の増大(成膜の進行)を検出することができる。
次に、光学式膜厚計10について、図3を参照しながら説明する。光学式膜厚計10は投光ランプ151、投光ランプ151からの光をモニタガラス51に反射する反射鏡152、反射鏡152からの投射光を反射するとともに、下面に薄膜を形成するモニタガラス51、複数のモニタガラス51を備えて回転可能なガラスホルダ50、ガラスホルダ50を駆動するモータなどのモニタアクチュエータ150、モニタガラス51が反射した光を受光センサ157へ導く反射鏡153、反射鏡153と受光センサ157の間に配置されて所定範囲の波長のみを選択透過させるフィルタ154、複数のフィルタ154を備えて回転可能なフィルタホルダ155、フィルタホルダ155を駆動するモータなどのフィルタアクチュエータ156、フィルタ154を透過した光を検出する受光センサ157、受光センサ157の出力を光量値に変換する膜厚モニタ11より構成されている。
ガラスホルダ50には、屈折率の定まったモニタガラス51を有し、モニタアクチュエータ150は制御装置12からの指令に応じてガラスホルダ50を回転させ、反射鏡152からの光が当たる位置に所定のモニタガラス51が来るように制御する。
反射鏡153と受光センサ157の間に配置したフィルタホルダ155には、形成する反射防止膜の設計膜厚に応じて成膜に最適なフィルタが選択できるよう透過する波長の異なるフィルタ154が複数設けられている。そして、フィルタアクチュエータ156は制御装置12からの指令に応じてフィルタホルダ155を回転させ、反射鏡153からの光が通過する位置に所定のフィルタ154が来るように制御する。
次に、蒸着原料41、42を選択するハース部400について、図4を参照しながら説明する。
第1蒸着室200では、仕様の異なる薄膜を形成可能とするため、蒸着原料を電子銃30、31の照射位置に設定するハース部400では、複数種の蒸着原料を選択可能にしている。
すなわち、蒸着原料41、42を収容する容器40は、円盤状のホルダ411に複数配置される。ホルダ411は回転可能に構成されており、モータなどのハースアクチュエータ410によって駆動される。ハースアクチュエータ410は制御装置12によって駆動され、各容器40には予め設定した蒸着原料41、42が収容されており、制御装置12はロットに応じた蒸着原料41、42を収容した容器40が電子銃30、31の照射位置となるようハースアクチュエータ410を駆動する。こうして、形成する薄膜の仕様(種類)に応じて任意の蒸着原料41、42を自動的に選択することができる。
次に、制御装置12で実行されるソフトウェアの構成について図5を参照しながら説明する。
制御装置12には、所謂、コンピュータが含まれており、このコンピュータでは、マルチタスクOS121が実行されており、このOS121上で予熱室100、第1蒸着室200、第2蒸着室300の制御を行う連続蒸着処理600が実行される。なお、ここではOS121をプリエンプティブなマルチタスクOSとする。
連続蒸着処理600では、予熱室100のヒータ102の制御を行う予熱室処理610と、第1蒸着室200の各機器の制御を行う第1蒸着室処理620と、第2蒸着室300のヒータ302を制御する第2蒸着室処理630及び搬送手段500を制御する処理(図示省略)が含まれる。ここでは搬送手段500を制御する搬送処理が、バックグラウンドで実行されるものとし、常時各処理を監視してコートドーム2の移動を制御する。
図6は、連続蒸着処理600の詳細を示し、コートドーム2の移動に応じた処理の流れを示している。
まず、予熱室100にコートドーム2がセットされると、ヒータ102でコートドーム2上のレンズ20を所定時間予熱する予熱処理611が実行される。
予熱処理611中、もしくは、ドームが予熱室にあるうちに第1蒸着室処理620の移動中ガス出し処理621が実行される。
移動中ガス出し処理621は、前回のドームの第1蒸着室処理が終了してから、第1蒸着室200へ予熱室のドームが移動する前の期間に、予め蒸着原料41、42を気化させて、第1の蒸着開始後から即座に蒸着を行うものである。
第1蒸着室200では、蒸着完了から次の蒸着開始までの時間は、コートドーム2の移動時間となる。この移動時間を生産上、有効的に利用するため、コートドーム2の移動中に蒸着原料のガス出しを行っている。それゆえ、移動中ガス出しと呼ぶ。
移動中ガス出し処理621が完了すると、前処理622が起動される。前処理622では、コートドーム2のレンズ20に施す蒸着の仕様やレンズ20の種類などに応じて、電子銃30、31の出力設定や、形成する薄膜に応じた光学式膜厚計10の設定など、加工条件の設定と各機器の設定状態の確認を行うものである。
前処理622が終了すると、成膜処理623が起動されて、レンズ20に所定の薄膜(反射防止膜)が形成されていく。
レンズ20に第1の薄膜の形成が完了すると、成膜処理623は完了して終了処理624が起動する。終了処理624は、第1蒸着室200の各機器を停止あるいはリセット、第1蒸着室での処理結果の登録・保存などを行うものである。終了処理624が完了すると、搬送処理によりコートドーム2は第1蒸着室200から第2蒸着室300へ移動される。なお、上記621〜624の処理が第1蒸着室処理620を構成する。
第2蒸着室300においても、上記第1蒸着室処理620と同様に、前処理631、成膜処理632、終了処理633からなる第2蒸着室処理630が実行される。
この第2蒸着室処理630では、制御対象がヒータ302である点が第1蒸着室処理620と異なり、その他は第1蒸着室処理620と同様にして行われる。この第2蒸着室処理630は、ヒータ302の起動・停止が主体であり、特開2003−14904号と同様であるので、詳細については省略する。
上記連続蒸着処理600では、各処理610〜633が1ドーム毎に順次行われ、レンズ20の薄膜形成が行われる。本実施形態の場合は3つの処理室があるので、通常では、同時に、3つのドームが、それぞれの室で、処理される。
次に、第1蒸着室処理620で行われる移動中ガス出し処理621の詳細について、図7を参照しながら以下に説明する。
移動中ガス出し処理621は、前回の蒸着が完了すると起動される。
まず、移動禁止設定6211は、第1蒸着室200へのコートドーム2の出入りを一時的に禁止する処理である。
次に、ハース回転処理6212は、図4で示したホルダ411を回転させて、次の蒸着(この時点で予熱室100から第1蒸着室200へ向けて移動中のコートドーム2)の仕様に応じた蒸着原料41、42を選択する処理である。所定の蒸着原料41、42を収容した容器40が、電子銃30、31の照射位置へ来るようにハースアクチュエータ410を駆動する。
ハース回転処理6212が完了すると、電子銃30、31の起動処理6213、6214が開始される。電子銃の起動処理では、電子銃30の起動を行うタスク(6213)と、電子銃31を起動するタスク(6214)が同時に起動され、2つの電子銃30、31には、蒸着原料41、42の気化に必要な電力が供給される。
電子銃30、31の起動処理が完了すると、蒸着原料41、42の気化を実施するガス出し実施6215が行われる。このガス出し実施6215では、所定時間で電子銃30、31により蒸着原料41、42を加熱して、成膜開始以前に予め気化させて不要なガスを出しておく。
ガス出し実施6215が完了すると、電子銃30、31をオフにする停止処理6216、6217の2つのタスクが同時に起動される。
そして、電子銃の停止処理を起動した直後に、移動禁止の解除処理6218のタスクを起動して、コートドーム2の移動許可を与える。
以上の移動中ガス出し処理621では、主に電子銃の起動または停止処理を複数のタスクとして同時に処理を行い、さらに停止処理6216、6217の起動後に移動禁止の解除処理6218を起動することで、2つの電子銃30、31の起動・停止及び移動禁止の解除処理6218を順次(シーケンシャル)行う場合に比して、連続蒸着処理600の1サイクルに要する時間(サイクルタイム)をおよそ10秒程度短縮することが可能となる。
次に、移動中ガス出し処理621の後に実行される前処理622について、図8を参照しながら説明する。
まず、ガス発生装置(ガスユニット)15(図2参照)の図示しないタンク内の圧力を所定の範囲に調整するタンク圧力自動調整処理6311のタスクを起動する。
タンク等の圧力調整中に、コートドーム2が第1蒸着室200の所定の位置にセットされたか否かを検出する定位置確認処理6312の処理が行われる。
コートドーム2が搬送手段500により、所定の位置にセットされたことが確認されると、定位置確認処理6312を終了し、コートドーム2に載置されたレンズ20(ロット)の加工条件を示唆するアイテムパラメータを、ハードディスク内に記憶されたデータファイルから読み込む読み込み処理6313が行われる。アイテムパラメータが制御装置12に読み込まれると、この読み込み処理6313は完了する。
次に、ハース部400のホルダ411の位置決めを行うハース先行回転処理6314のタスクと、モニタガラス51の選択を行うためにガラスホルダ50を回転させるモニタ先行回転処理6315と、フィルタ154の選択を行うためにフィルタホルダ155を回転させるフィルタ先行回転処理6317の3つのタスクを同時に起動する。
モニタガラス51のガラスホルダ50は、モニタガラス51の位置決め精度を保証するため、初期位置から最終位置まで回転させた後、再び初期位置へ回転させるチェック動作を行う。例えば、6つのモニタガラス51がある場合、1番目のモニタガラス51を初期位置とすると、6番目のモニタガラス51まで回転させた後に、1番目のモニタガラス51まで戻す動作を行う。
その後、取得したアイテムパラメータにより、使用する蒸着原料41、42、モニタ位置、フィルタ番号等が判明するので、ハース先行回転処理6314では、所定の蒸着原料41、42を収容した容器40が電子銃30、31の照射位置となるようにホルダ411を回転させ、モニタ先行回転処理6316では、レンズ20と形成する薄膜に応じたモニタガラス51が投射光の位置へ来るようにガラスホルダ50を回転させ、フィルタ先行回転処理6316では、形成する膜厚に応じたフィルタ154が反射光を透過する位置となるようにフィルタホルダ155を回転させる。
上記3つのタスク(先行回転処理6314〜6316)を起動した直後に、蒸着条件の変更を行うパラメータ変更処理6317を開始する。
パラメータ変更処理6317は、オペレータによる電子銃30、31の出力値の変更などを受け付ける処理である。
オペレータの入力操作が完了すると、設定変更された加工条件を成膜処理623へ引き渡すための蒸着アイテム設定処理6318を開始し、メモリ上などに所定の加工条件を書き込んで次の成膜処理623へ加工条件の引き渡しを行う。
次に、現在第1蒸着室200にあるコートドーム2のアイテムパラメータに関する情報から、次工程である第2蒸着室処理630で使用する情報を生成し、設定する。
そして、初期設定処理6320で各センサ、プログラム上の使用変数、フラグなどの初期化を行った後、モニタ設定処理6321aとフィルタ設定処理6321bを独立したタスクとして起動し、オペレータによる変更があった場合の最終的なモニタガラス51とフィルタ154の設定を行う。しかしこれらは、一般に変更されないため、既に設定済みの状態にあり、時短(サイクルタイムの短縮)となる。
次いで、各センサや光学式膜厚計10の信号が正常であるか、レディ状態にあるかを判定する初期信号チェック処理6322を行い、異常がなければ、真空度が所定の範囲にあるかを確認する真空度確認処理6323が行われる。この処理では、真空度が所定の範囲になければ、その真空度に到達するまで、以下に続く処理を待ち続ける。
次に、上記移動中ガス出し処理621が正常に完了していない場合のエラー処理を行ってから、2つの電子銃30、31を起動する2つのタスクを起動処理6325、6326として起動する。
その後、イオン銃14やガス発生装置15などの起動準備を実施する成膜工程開始処理6327を行ってから、各設定が完了したことを確認する確認処理6328を行う。この確認処理6328は、制御装置12の図示していない装置などを含め、コート機からの確認信号をチェックする。
確認処理6328が終了すると、前処理622は終了して成膜処理623に移行する。
以上の前処理622では、処理の完了までに時間を要するハースのホルダ411の回転や、モニタガラス51のガラスホルダ50の回転及びフィルタ154のフィルタホルダ155の回転処理を、独立したタスクとして成膜処理よりも早めに起動することで、連続型真空蒸着装置1におけるサイクルタイムを短縮する。
すなわち、モニタガラス51のガラスホルダ50の回転処理は、1分ほどの時間を要し、また、ハース部400のホルダ411の回転や、フィルタホルダ155の回転処理にも十数秒から数十秒を要するため、これらの処理をシーケンシャル(一つのタスクで)に行うと、1分30秒以上の時間を必要とする。
そこで、時間を要する各処理をオペレータの操作入力の処理の直前で複数のタスクとして起動することで、オペレータが入力を行っている期間も装置の前処理に当てることができ、制御装置12のリソースを無駄なく利用できる。この結果、上記3つの回転処理のうち、最も時間を要する処理について考慮すれば良く、ここでは、ガラスホルダ50の回転処理が完了すると、他の回転処理も終了しており、ガラスホルダ50の先行回転処理6315の所要時間で処理が完了し、ハース部400及びフィルタホルダ155の回転処理に要する時間(約20〜30秒程度)を短縮することが可能となる。
特に、生産現場によっては、定位置確認直後、パラメータ変更(電子銃のパワー、返し量など)をたびたび行う場合がある。しかし、前処理のほとんどをマルチタスク(あるいはマルチスレッド)化し、かつ、前処理が、基本的に固定(パラメータなどによって変化しない)処理であるため、オペレータの入力操作中(パラメータ変更6317)に、その裏側で、ハースの先行回転やモニタあるいはフィルタの先行回転を進めることができるようになり、実質、オペレーション時間で生じていたロスタイムのうち、約1分程度を短縮することができる。したがって、オペレーション時間に関しては実質的なサイクルタイムを最大1分程度短縮することが可能となり、確実に、生産性の効率を向上させることができる。
加えて、2つの電子銃30、31の起動処理を2つのタスクとして、成膜処理以前に、同時に起動しておくことで、電子銃30、31の起動処理及びその後に続く成膜処理をシーケンシャルに実行した場合に比して、電子銃30、31の起動処理に相当する時間(40秒)をサイクルタイムから短縮できる。
したがって、前処理622では、2分程度のサイクルタイムの短縮が可能となる。
上記前処理622が完了すると、成膜処理623が開始されて、レンズ20に所定の薄膜が形成される。なお、成膜処理623は、上記特開2001−115260号等と同様であるので、図11のようになるが、詳細については後述する。
成膜処理623が完了すると、終了処理624が行われて第1蒸着室200の各機器の作動を停止させる。
終了処理624は、基本的に、電子銃30、31の停止、イオン銃14の停止、ペンレコーダーの停止の停止など、停止処理が多い。この停止処理では出力値がないことや、コンピュータが行う確認がoffであることのみであるので、各制御対象(電子銃やイオン銃等)の処理を独立したタスクとし、各タスクを同時に起動することで、極めて短時間で各制御対象の停止を完了することができる。
例えば、各制御対象の停止処理を、シーケンシャルに行う場合では、約30〜40秒はかかっている処理時間が、上記マルチタスクで処理することにより数秒で終わることになる。
以上のように、第1蒸着室処理620では、各制御対象の処理をシーケンシャルで行う場合に比して、移動中ガス出し処理621では約40秒、前処理622では約2分、終了処理624では約40秒のサイクルタイムの短縮を行うことができ、成膜処理623を除く全体では約3分20秒ほどサイクルタイムの短縮を実現できる。
連続蒸着処理600を、全てシーケンシャルな制御で行った場合が30分から40分必要とする場合、本発明によりサイクルタイムを1割程度短縮することが可能となり、連続型真空蒸着装置1の生産能力を大幅に向上させることが可能となるのである。
次に、図9、図10は、第1蒸着室200の成膜処理623を構成する各層単位の成膜について、1層のみの処理部分を取り出した単層蒸着処理700で行われる層前処理710の詳細を示す。
単層蒸着処理700では、シーケンシャルに行う場合での前層の層終了処理と、次層の層前処理を重ねたものがマルチタスク方式によれば層前処理710となる。つまり、第i層の終了処理と、第i+1層の層前処理がマルチタスクにより自動的に重なる。そのため、図9のように、層前処理710を行った後に単層成膜処理800を行い、次の層前処理710を行うというループでレンズ20の加工が進行すると表現してよい。
すなわち、複数の層をレンズ20に繰り返して形成する場合、図12で示すように、第1層(第i層)目の層前処理710の後に、第1層目の単層成膜処理800を行い、その後、第1層目の層後処理と第2(第i+1)層目の層前処理は、マルチタスクによる第2層目の層前処理710で同時に行われることになり、この結果、層後処理時間は実質的に不要となる。その後、第2層目の層後処理と第3層目の層前処理も、同様に第3層目の層前処理710に含まれ、最後の層(第i+n層)が完了すると終了処理624を行う。
図10は、層前処理710の詳細を示す。
まず、711では進度設定処理が行われる。この処理は、コンピュータによりレンズ20に形成する多層膜のうちの何層目であるかという情報を制御装置12のシーケンサに登録する処理である。
進度設定処理711を独立したタスクとして開始した直後に、ガスユニット確認処理712を行う。このガスユニット確認処理712は、第1蒸着室200での成膜処理で利用可能な状態であるかどうかを確認する。
そして、ガスユニット確認処理712が完了すると、電子銃30、31のレンジ設定処理713を行う。この電子銃レンジ設定処理713は、電子銃30、31の出力レンジが印加値に対して適切であるよう設定する。これら、ガスユニット確認処理712と電子銃レンジ設定処理713は、進度設定処理711と平行して処理が行われる。
そして、電子銃レンジ設定処理713が完了すると、光学式膜厚計10のモニターガラス51の設定を行うモニタ設定処理714が開始されると同時に、フィルタ154の設定を行うフィルタ設定処理715のタスクが起動される。
モニタ設定処理714は、上記図8のモニタ先行回転処理6316と同様であり、ガラスホルダ50を回転させて所定のモニタガラス51を光学式膜厚計10の光軸位置に設定する。同様に、フィルタ設定処理715は、上記図8のフィルタ先行回転処理6317と同様にパラメータで指定した所定のフィルタ154を選択する。
モニタ設定処理714とフィルタ設定処理715を同時に開始した直後には、マスク設定処理716のタスクを起動する。
このマスク設定処理716は、ドーム上の全レンズ20に同等(均一)な薄膜の成膜が可能となるようにするためのもので、使用する原料に適したマスク設定になるようマスク機構(図示省略)を駆動する。
マスク設定処理716を起動した直後には、薄膜の形成の際にイオン銃14を用いる場合にはイオン銃14のマスフロー設定717を、独立したタスクとして起動する。
さらに、イオン銃用マスフローの設定717を起動した直後には、ハース部400の容器40の位置決めを行うハース設定処理718を独立したタスクとして起動する。このハース設定処理718は、上記ハース先行回転処理6314と同様に、所定の蒸着原料41、42を収容した容器40が電子銃30、31の照射位置となるようにホルダ411を回転させる。このハース設定処理718が完了すると、ガス出し実施処理720が起動されて、電子銃30、31から電子線が照射され、蒸着原料41、42を気化させ、不要なガス出しや蒸着直前の予備加熱等の目的で処理が行われる。
上記電子銃レンジ設定処理713が完了した後には、モニタ設定処理714、フィルタ設定処理715、マスク設定処理716、イオン銃用マスフローの設定717、ハース設定処理718の5つのタスクが並列的に実行されることになる。
そして、モニタ設定処理714とフィルタ設定処理715が完了すると、光学式膜厚計10の指示光量値を設定する光量設定処理719が実行される。
ここで、イオン銃用マスフローの設定717を含むイオン銃14の起動処理は、処理時間が極めて大きいので、イオン銃14の設定処理を2段階に分ける。まず第1段階は、マスフローの設定、第2段階は、ガン本体の起動(電圧・電流)設定とする。そして、この第1段階のみは、モニタ設定処理714、フィルタ設定処理715、マスク設定処理716、ハース設定処理718といった処理と並列して実行する。これにより、イオン銃用マスフローの設定時間は、モニタ設定処理714、フィルタ光量設定時間内に収まるようになり、層蒸着直前の処理は、イオン銃の第2段階処理と、その処理時間内で済まされるガスユニットの起動処理のみとなる。
光量設定処理719が完了すると、設定・溶融・完了確認処理721が行われる。この処理は、第1蒸着室200で成膜処理の準備が整ったことを確認する処理で、モニタガラス51の位置、フィルタ154の位置、ハース部400の容器40の位置、投光ランプ151の光量などの設定が正しく行われたかを確認し、ハース部400では上記ガス出し実施処理720により蒸着原料41、42の溶融が開始されたかを確認する。
設定・溶融・完了確認処理721が完了すると、電子銃30、31がスキャンする領域を設定する電子銃スキャン設定処理722を行い、層前処理710が完了する。
この層前処理710が完了すると、レンズ20に薄膜の形成を行う(単層成膜処理800)。詳しくは、図11のようになる。
以上の層前処理710では、モニタガラス51とフィルタ154の設定完了後に、光学式膜厚計10の投光ランプ151の光量設定を行うという順序と、ハース回転完了後に、ガス出し実施処理720を行うという順序を守りながら、かつ、独立して先に設定できる進度、マスク設定などを予め層前処理710の前半部で各タスク別に起動するようにしたので、単層蒸着処理の処理時間が最短で済ませることができ、単層蒸着処理における処理時間を短縮させることができるのである。
すなわち、層前処理710で前回の層後処理と次に単層成膜処理を行う前処理を同時に行うことで、各層の後処理時間(約10数秒)が省略できることに等しくなる。つまり、層後処理は最後の単層成膜処理の後にのみ、層終了処理を行えばよいので、毎回の層後処理は不要になる。
そして、各処理をシーケンシャルに行う場合に比して、モニタ設定処理714、フィルタ設定処理715、マスク設定処理716、ハース設定処理718+ガス出し実施処理720をマルチタスクにて並列的に行うことにより、処理時間の長いモニタ設定処理714と光量設定処理719の間に各処理を含めることが可能となるので、大幅なサイクルタイムの短縮が可能となる。
さらに、成膜の際にイオン銃14とガスユニット15を用いる場合では、これらをシーケンシャルに処理を行う時には、イオン銃14用のマスフローの設定及び、イオン銃本体の起動、イオン銃14の起動後ガスユニットの起動と、起動後のガスユニットの待ち時間が必要となるが、イオン銃14の起動とガスユニットの起動を同時に行い、かつ、ガスユニットの起動後の待ち時間は、蒸着開始(シャッタ5の開動作)までの予測時間を計算して、余計な待ち時間分を差し引いた値を実際の待ち時間として時短を進める。この結果、イオン銃14の起動時間内にガスユニットの起動と待ち時間が納まるようになるので、実質的には、ガスユニットの起動処理時間(約30秒)がまるまる省かれることになる。
したがって、単層蒸着処理に着目しても、サイクルタイムの大幅な短縮が可能となって、装置の生産性を向上させることが可能となるのである。
次に、図11は単層成膜処理800の詳細を示す。
単層成膜処理では、イオン銃14(マスフローを除く)本体自身の起動処理801を開始すると同時に、ガス発生装置15を起動するガスユニット起動処理802のタスクを起動する。
イオン銃起動処理801とガスユニット起動処理802がともに完了すると、電子銃30、31の出力を増大する電子銃パワーアップ処理803を開始して、蒸着原料41、42を気化させる。電子銃パワーアップ処理803の後に、現時点での光学式膜厚計10が示す値を取得してこれを開始膜値として決定する膜値決定処理804を行った後、シャッター開放処理805でシャッター5を開放して蒸着原料41、42の蒸発物を第1蒸着室200内に拡散させ、コートドーム2のレンズ20に薄膜の形成を開始する。
成膜処理中806では、上述の公知の手法により光学式膜厚計10の出力に基づいて電子銃30、31の出力を制御しながら成膜を行う(なお、非制御の場合もある)。
レンズ20の薄膜が所定の膜厚に達すると、シャッター閉鎖処理807を行って、蒸発物の拡散を終了させる。
この後、電子銃30、31の出力を0にする電子銃パワーダウン処理808を行うとともに、ガス発生装置15を停止させるガスユニット終了処理809、イオン銃14を停止させるイオン銃終了処理810を独立したタスクとして並列に行い、単層成膜処理800を終了する。
上記、単層成膜処理800において、起動に時間を要するイオン銃14及びガス発生装置15を、イオン銃起動処理801とユニット起動処理802として並列に処理するため、全体の起動時間を短縮することができる。
さらに、単層成膜処理800の終了時には、電子銃30、31、ガス発生装置15、イオン銃14の終了処理を、並列して実行することで、各終了処理をシーケンシャルに行う場合に比して大幅に処理時間を短縮することができ、薄膜形成に要するサイクルタイムをさらに短縮することが可能となる。
上述のようにイオン銃14とガスユニット15を用いる場合では、層前処理710と単層成膜処理800で約40秒程度のサイクルタイムの短縮を実現でき、図12に示したようにn層の成膜を繰り返す場合では、40秒×nのサイクルタイムを短縮することが可能となり、生産性を飛躍的に向上させることが可能となる。
なお、上記実施形態では、連続型真空蒸着装置1に本発明を適用した一例を示したが、複数のデバイスを装備した蒸着装置であれば適用することができる。