JP4667027B2 - シス−2、3−ジ置換シクロペンタノンの製造方法 - Google Patents
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ところで、近年の研究の結果、ジャスミン系香料のなかで重要な位置を占めるジャスモン酸エステルにおいては、シス−2,3−ジ置換シクロペンタノンの方が、トランス−2,3−ジ置換シクロペンタノンに比べはるかに香りが強いことが判明し(非特許文献3)、シス−2,3−ジ置換シクロペンタノンの工業的製造方法の開発が強く望まれている。
しかしながら、上述の例が示すとおり、従来技術の多くは、トランス−2,3−シクロペンタノンを主成分として得るものである。それに対し、得られたトランス−2,3−ジ置換シクロペンタノンを触媒を用いて異性化させシス−2,3−ジ置換シクロペンタノンを製造する方法(特許文献1)が開示されているが、この技術の場合、異性化のための特別な装置と工程が必要となるばかりでなく、異性化のために160〜190℃といった高温が必要なため熱劣化が避けられず、それに起因して生成する高沸点不純物を除去するために特別な装置と工程が更に必要となるという問題がある。しかも、得られるシス体(エピ体)濃度は40%程度に過ぎない。
以上のように従来技術では、特に香料用途における需要の大きいシス−2,3−ジ置換シクロペンタノンを工業的規模で製造することは困難である。
下記の5工程より成ることを特徴とするシス−2、3−ジ置換シクロペンタノンの製造方法。
で表されるフルフラール誘導体を転位させ、式(2)
本発明の製造方法は、前記の5工程からなることが必須要件である。この要件を満足しないと、シス−2,3−ジ置換シクロペンタノンを、汎用の装置を用い短工程で且つ有害な廃棄物も排出せず工業的に製造することは困難である。
以下に各工程の最良の形態につき詳述する。
本発明の第一工程で用いる式(1)で表される化合物を合成する方法は特に制限はなく、公知の方法で合成することができる。例えば、フランの2−位の水素をアルキルリチウムなどの強塩基で引き抜いて生成するアニオンを、下記式(7)
R1−CHO (7)
(式中、R1は前記の意味を表す。)で表されるアルデヒドに付加する方法や、フルフラールに対し下記式(8)
R1MgX (8)
(式中、R1は前記の意味を表し、XはClもしくはBrを表す。)
で表される有機マグネシウム化合物もしくは下記式(9)
R1Li (9)
(式中、R1は前記の意味を表す。)で表される有機リチウム化合物などを付加させる方法等、さまざまな方法があげられるが、簡便さにおいては有機マグネシウム化合物を用いる方法が好適である。
本発明において、R1は炭素数1〜12の鎖状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基を表し、それらの基はヘテロ原子を含んでも良い。R1の具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などがあげられるが、ジャスミン系香料への応用を考慮した場合には、ペンチル基の他、cis−2−ペンテニル基、2−ペンチニル基、5−ヒドロキシ−cis−2−ペンテニル基、5−ヒドロキシ−2−ペンチニル基などが好適である。
(a)シクロペンタノン環上の二重結合を移動させる方法
(b)式(2)のシクロペンタノン環上の水酸基と二重結合に関し、前者を酸化し、後者を還元(水素添加)する方法。
上記(a)の方法としては、触媒を用いるのが好ましく、触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ触媒、Ru、Rh、Pd、Fe、Co、Niなどの遷移金属触媒などがあげられるが、活性の高さにおいて遷移金属触媒が好ましい。中でも、Fe(CO)5、Fe2(CO)9などのFe系触媒、RuCl2(PR3)3(R=C6H5、m−C6H4SO3Naなど)などのRu系触媒、RhCl(PR3)3(R=C6H5、m−C6H4SO3Naなど)などのRh系触媒がとくに好ましい。遷移金属系触媒は、ポリエチレンなどのポリマーに担持されていても構わない。例えば、Bis(η−norbornadiene)rhodium(I)Tetrafluoroborate−Triphenylphosphine PE fibers(和光純薬工業(株)製 FiberCat 2003)、Di−μ−chlorobis(η−norbornadiene)dirhodium(I)−Triphenylphosphine PE fibers(和光純薬工業(株)製 FiberCat 2006)などがあげられる。また、[Rh((R)−BINAP)2]+ClO4 −(ここで、BINAPとは2,2’―Bis(diphenylphosphino)−1,1’−binaphthylの略称である。)などの2座配位子よりなる錯体を用いてもよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族類、水もしくはこれらの混合物などの汎用溶媒の他、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン
性液体を用いることができるが、収率と価格の観点よりトルエンもしくはキシレンが好ましい。反応温度に特に制限はないが、工業的実施の容易性の観点より、50℃〜150℃の範囲が好ましい。より好ましくは、80℃〜120℃である。
上記(b)の方法としては、公知の方法を適宜組み合わせれば達成できる。シクロペンタノン環上の水酸基の酸化法としては例えば、二酸化マンガン、クロム酸、ジメチルスルホキシド(無水酢酸、五酸化リン、塩化オギザリルなどとの組み合わせ)、アルミニウムアルコキシド(アセトンなどのケトンとの組み合わせ)、白金系触媒などによる酸化があげられる。シクロペンタノン環上の二重結合の還元(水素添加)は、Pd系やNi系などの汎用の触媒で達成できる。
本発明の第五工程では、触媒として不斉誘起性(面選択性)を有するものを用いることにより、特定の鏡像体を選択的に合成することが可能である。例えば、2、3−ジ置換シクロペンタノンのひとつであるジャスモン酸メチルにおいては、4つの鏡像体のうち(1R,2S)−エピジャスモン酸メチルのみが特に香り強度が強いことが知られており、このものを選択的に合成する方法が切望されているが、本発明によれば可能である。
なお、実施例におけるガスクロマトグラフおよび液体クロマトグラフによる分析条件は下記のとおりである。
ガスクロマトグラフ
カラム:J&Wサイエンティフィック社製 DB−1(0.25mm×30m、液相膜厚0.25μm)
カラム温度:100℃×2分→250℃(10℃/分)
注入部温度:250℃
検出部温度:300℃
液体クロマトグラフ
カラム:ジーエルサイエンス(株)製 Inertsil C4
展開溶媒:10mM−KH2PO4、1mM−EDTA・2Na/CH3CN=60/40
流速:1.0ml/min
フルフラールに臭化n−ペンチルマグネシウムを1,2−付加して合成した6−ヒドロキシー6−(2−フリル)−ヘキサン(前記式(1)においてR1がn−ペンチル基に相当する化合物)10.0g(59.4mmol)をテトラヒドロフラン1.8Lに溶解し、7%硫酸90mlを加え、窒素雰囲気下に15Hr加熱還流した。氷冷却後攪拌しつつ1N NaOHを徐々に加えて中和した後、テトラヒドロフランを減圧下に留去した。水50mlとトルエン800mlを加え攪拌した後、10分間静置し相分離させ、4−ペンチル−5−ヒドロキシ−3−オキソ−シクロペンテン(前記式(2)においてR1がn−ペンチル基に相当する化合物)を含む有機相を得た。6−ヒドロキシー6−(2−フリル)−ヘキサンに対する収率は89%(ガスクロマトグラフ分析)であった。
得られた有機相を反応器に仕込み、攪拌しつつ減圧と窒素置換を繰り返し、反応器内を窒素雰囲気とした。Wilkinson錯体(RhCl(PPh3)3)2.75g(2.97mmol)を加え、窒素雰囲気下に3Hr加熱還流した。室温まで冷却した後、減圧下にトルエンを留去した。メタノール800mlを加え、析出したRh錯体を吸引ろ過によりろ別し、2−ペンチル−1,3−シクロペンタンジオン(前記式(3)においてR1がn−ペンチル基に相当する化合物)を含むメタノール溶液を得た。4−ペンチル−5−ヒドロキシ−3−オキソ−シクロペンテンに対する収率(液体クロマトグラフ分析)は95%であった。
得られたメタノール溶液を反応器に仕込み、濃硫酸16mlを加え、窒素雰囲気下に20Hr加熱還流した。氷冷後攪拌しつつNa2CO3を徐々に加えて中和した後、減圧下にメタノールを留去した。水400mlとトルエン400mlを加え十分攪拌した後分相し、トルエン相を分取した。減圧下にトルエンを留去し、2−ペンチル−3−メトキシ−2−シクロペンテノン(前記式(4)においてR1がn−ペンチル基に、R2がメチル基に相当する化合物)の粗生成物を得た。2−ペンチル−1,3−シクロペンタンジオンに対する収率(ガスクロマトグラフ)は70%であった。
おいてR1がn−ペンチル基に、R3がメチル基に相当する化合物)7.1gを得た(2−ペンチル−3−メトキシ−2−シクロペンテノンに対する収率90%)。
上記のようにして得られたメチル(2−ペンチル−3−ケト−1−シクロペンテニル−)アセテート7.1gとパラジウム−炭素(パラジウム5%)1.0gを反応器に仕込んだ。99.5%エタノール100mlを加えた後、攪拌しつつ減圧と水素置換を繰り返し、反応器内を水素で置換し、室温で10Hr攪拌した。パラジウム−炭素をろ別した後エタノールを留去し、ジヒドロジャスモン酸メチルを得た。メチル(2−ペンチル−3−ケト−1−シクロペンテニル−)アセテートに対する収率(ガスクロマトグラフ)は92%であった。また、得られたジヒドロジャスモン酸メチルに関し、シス体とトランス体の比率は62:38であった。
本実施例は、本発明の必須要件を満足しているので、シス体主体の2、3−ジ置換シクロペンタノンが簡便且つ高収率で得られている。
無水AlCl332g(0.24mol)の無水ニトロメタン(30ml)溶液に対し、室温攪拌下、コハク酸12g(0.1mol)を少量ずつ加えた。強腐食性のHClガスが激しく発生し、その除害に苦労した。なお、AlCl3は発煙性(HClガス)なため、秤量時には周辺環境の腐食対策に苦労した。また溶媒であるニトロメタンは爆発性なため、防爆設備内で細心の注意を払いつつ取り扱った。
コハク酸投入後、HClガスの発生が終了するのを待ち、ヘプタノイルクロライド60g(0.4mol)を加え、80℃で8時間加熱した。ヘプタノイルクロライドも発煙性(HClガス)なため、秤量時には周辺環境の腐食対策に苦労した。冷却後、氷60gに注ぎ、−10℃で10時間保つと生成物が固体として析出した。吸引ろ過後、10%NaCl水とトルエン(20ml×3回)で洗浄した後乾燥し、2−ペンチル−1,3−シクロペンタンジオン(前記式(3)においてR1がn−ペンチル基に相当する化合物)8.4g(0.05mol)を得た。収率は、AlCl3、コハク酸、ヘプタノイルクロライドに対し、それぞれ20.8%、50.0%、12.5%であった。同時に、アルミニウム系および塩素系化合物を多量に含有する廃水が副生した。
本比較例では、2−ペンチル−1,3−シクロペンタンジオンが得られてはいるが、その収率は低く、工業生産の立場からは到底満足できない。それに加え、発煙性、腐食性、爆発性等のため取扱い困難な原材料を多量に必要とするばかりか、反応後にアルミニウム系および塩素系の廃棄物が多量に排出されるという環境保全上の問題も有している。
Claims (1)
- 下記の5工程より成ることを特徴とするシス−2、3−ジ置換シクロペンタノンの製造方法。
(第一工程)式(1)
で表されるフルフラール誘導体を転位させ、式(2)
(第二工程)上記式(2)で表される化合物をシクロペンタノン環上の二重結合を、遷移金属触媒を用いて移動させる方法により異性化し、式(3)
(第三工程)上記式(3)で表される化合物をアルキルエーテル化し、式(4)
(第四工程)上記式(4)で表される化合物にマロン酸エステルを付加させるとともに脱炭酸させ、式(5)
(第五工程)上記式(5)で表される化合物に水素添加し、式(6)
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