JP4642310B2 - 薄膜半導体装置の製造方法および薄膜半導体装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜半導体装置の製造方法に関する。特に、ガラス等の絶縁表面を有する基板上に形成される薄膜半導体装置(以下、TFTという)等の薄膜半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
複数の画素を有するアクティブ型液晶表示装置、有機EL表示装置、及びイメージセンサー等の各種電子デバイスにおいては、各画素を個別に駆動する為に、ガラス等の絶縁表面を有する基板上に形成されるTFTが用いられることが多い。また、近年の表示装置は、画素を駆動する為のTFTが形成された基板上に、このTFTのスイッチング動作を制御する為の駆動回路が設けられることが多い。この駆動回路内には多数のトランジスタが設けられるが、このトランジスタもTFTで形成されている。
【0003】
TFTは、ガラス等の絶縁性表面上に薄膜状の珪素半導体(Si)又はその酸化物(酸化珪素(SiO2))を堆積し、エッチング処理、熱処理、電極形成処理、その他の処理を行いつつ、これらの処理を繰り返し行うことにより製造される。薄膜状の珪素半導体は、結晶性を有するものと非晶質珪素半導体(a−Si)とに大別される。
【0004】
非晶質珪素半導体は作成温度が低く、気相法で比較的容易に作成することが可能であり、更に量産性にも富む為、TFTに用いる薄膜状の珪素半導体として一般的に用いられている。しかしながら、非晶質珪素半導体は、導電率等の物性が結晶性を有する珪素半導体に比べて劣るという欠点がある。従って、今後TFTの動作速度を高速化する為には、結晶性を有する珪素半導体を用いたTFTの製造方法を確立することが極めて重要となる。
【0005】
現状においては、結晶性を有する珪素半導体として製造上の容易さから多結晶珪素半導体(p−Si)が多く用いられている。汎用ガラス基板を使用し得る600℃程度以下の低温にて薄膜状の多結晶珪素半導体を作成する方法としては、非晶質珪素半導体膜を厚さ50nm程度成膜した後、この非晶質珪素半導体膜にキセノン塩素(XeCl)エキシマレーザー光(波長308nm)を照射し、非晶質珪素半導体膜を溶融結晶化させて多結晶珪素半導体膜を得るという方法が一般的である。
【0006】
しかしながら、上述の多結晶珪素半導体膜を用いたTFTのチャネル形成領域には、多結晶珪素半導体膜の結晶粒界が存在する為、その電気特性が単結晶珪素半導体を用いた半導体装置に比べて著しく劣ることが分かっている。このため、大粒径の多結晶珪素半導体を用いることにより、結晶粒界の電気特性への影響を小さくする方法等の方策が採られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来のエキシマレーザー光を照射して多結晶珪素半導体膜を得る方法では、最大1μm程度の結晶粒が得られるが、結晶粒及び結晶粒界の位置を制御することができない。このため、チャネル形成領域に結晶粒界が含まれるかどうかは確率的事象であって、全く制御不可能であった。チャネル形成領域に結晶粒界が含まれるか否かによりTFTの特性は大きくばらつくことになる。例えば、チャネル形成領域に存在する結晶粒界の数が多ければTFTの電気特性は悪くなり、チャネル形成領域に存在する結晶粒界の数が少なければTFTの電気特性は比較的良くなる。しかしながら、たとえチャネル形成領域に存在する結晶粒界の数を少なくすることができたとしても、そのTFTの電気特性は単結晶珪素半導体を用いたTFTに比べれば遙かに劣る。
【0008】
また、従来のTFTでは、チャネルに流れる電流をチャネルの深さ方向の片側に存在するゲート電極だけで制御している為、電流経路がより深い位置に発生した場合、それを制御するのが困難となる。素子の微細化に伴って生じる短チャネル効果はその典型的な現象である。
【0009】
近年の電子デバイスは高速動作が求められており、特に電子デバイス内に設けられるTFTには各素子毎の電気特性のばらつきが少なく、且つ、高速でスイッチング可能な優れた電気特性が求められている。例えば、液晶表示装置を例に挙げると、高精細化により画素の数が増加すると、増加した分だけ1画素がオン状態となっている時間が短くなる。これは、画素を駆動するTFTのみならず、このTFTを駆動するための駆動回路内に設けられているTFTについても同様である。従って、電子デバイスの特性を向上させるためには、基本となるTFTの電気特性を改善することが極めて重要である。
【0010】
本明細書で開示する発明は、上記の問題を解決する手段を提供するものである。具体的には基板上に形成された薄膜半導体装置の製造方法において、半導体膜が結晶性の良い大粒径の結晶粒から成り、チャネル形成領域の結晶粒界の位置が制御されており、電気特性が良く、短チャネル効果を抑制することができ、電気特性ばらつきの少ない薄膜半導体装置を製造する方法を提供することをその目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の薄膜半導体装置の製造方法の一態様は、基板上に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜をパターニングし下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、前記第1絶縁膜上に第1半導体膜を形成する工程と、固相成長法により熱処理を施して前記第1半導体膜を多結晶珪素膜に変化させる工程と、多結晶珪素膜に変化させた前記第1半導体膜にエキシマレーザー光を照射して前記第1半導体膜中の欠陥を低減し、前記下部電極と重ならない位置に第1結晶粒を有し前記下部電極と重なる位置に前記第1結晶粒より大きい第2結晶粒を有する第2半導体膜を形成する工程と、前記第2半導体膜をパターニングして前記下部電極と一部が重なる第3半導体膜を形成する工程と、前記第3半導体膜上に第2絶縁膜を形成する工程と、前記第2絶縁膜上に前記下部電極と一部が重なるようにゲート電極を形成する工程と、を含み、前記第2半導体膜を形成する工程は、前記第1半導体膜に、波長が370nm以上710nm以下のパルスレーザー光を照射し、前記第1半導体膜を透過した透過光が前記下部電極で反射し前記第1半導体膜に照射されることで、又は前記第1半導体膜を透過した透過光が前記下部電極で吸収され前記第1半導体膜を加熱することで、前記下部電極上の前記第1半導体膜が溶融した状態で、非溶融部である前記下部電極周辺部上の前記第1半導体膜からエピタキシャル成長の形態で、結晶粒を前記下部電極の中心上の前記第1半導体膜部位に向かって成長させる工程を含み、前記第3半導体膜と重なる位置において、平面視において、前記ゲート電極が前記下部電極の内側に位置するよう前記下部電極と重なるものであり、さらに、前記ゲート電極を形成する工程において、平面視において、前記第3半導体膜の前記下部電極と重なる領域の中心に前記第3半導体膜のチャネル幅方向に延在する結晶粒界がひとつ存在し、前記第3半導体膜の前記下部電極と重なる領域と前記第3半導体膜の前記下部電極と重ならない領域との境と、前記結晶粒界と、の間に位置するよう、前記ゲート電極の一端が形成されるものであることを特徴とする。
本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様は、基板上に導電膜を形成する工程と、前記導電膜をパターニングし下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、前記第1絶縁膜上に第1半導体膜を形成する工程と、前記第1半導体膜を溶融結晶化させ前記下部電極と重ならない位置に第1結晶粒を有し前記下部電極と重なる位置に前記第1結晶粒より大きい第2結晶粒を有する第2半導体膜を形成する工程と、前記第2半導体膜をパターニングして前記下部電極と一部が重なる第3半導体膜を形成する工程と、前記第3半導体膜上に第2絶縁膜を形成する工程と、前記第2絶縁膜上に前記下部電極と一部が重なるようにゲート電極を形成する工程と、を含み、前記第3半導体膜と重なる位置において、平面視において、前記ゲート電極が前記下部電極の内側に位置するよう前記下部電極と重なるものである、ことを特徴とする。
上記製造方法において、前記第1半導体膜の前記溶融結晶化が、前記第1半導体膜に光を照射し、前記第1半導体膜を透過した透過光が前記下部電極で反射し前記第1半導体膜に照射される、ことでなされる、ことが好ましい。また、前記第1半導体膜の前記溶融結晶化が、前記第1半導体膜に光を照射し、前記第1半導体膜を透過した透過光が前記下部電極で吸収され前記第1半導体膜を加熱する、ことでなされる、ことが好ましい。また、前記ゲート電極を形成する工程の前に、前記第1絶縁膜の前記下部電極と重なる部分の一部と、前記第2絶縁膜の前記下部電極と重なる部分の一部と、を除去し、コンタクトホールを形成する工程、を含み、前記ゲート電極を形成する工程において、前記コンタクトホールを介して前記下部電極と前記ゲート電極とが電気的に接続される、ことが好ましい。また、前記ゲート電極を形成する工程において、平面視において、前記第3半導体膜の前記下部電極と重なる領域と前記第3半導体膜の前記下部電極と重ならない領域との境と、前記第3半導体膜の前記下部電極と重なる領域の中心と、の間に、前記ゲート電極が収まるよう形成されるものである、ことが好ましい。また、前記ゲート電極を形成する工程において、平面視において、前記第3半導体膜における前記下部電極と重なる領域に前記第3半導体膜の幅方向に延在する結晶粒界が存在し、前記第3半導体膜における前記下部電極と重ならない領域と前記結晶粒界との間に位置するよう、前記ゲート電極が形成されるものである、ことが好ましい。また、前記光が波長532nmのYAG2ωレーザー光である、ことが好ましい。また、前記下部電極が金属膜である、ことが好ましい。また、前記下部電極が多結晶珪素膜である、ことが好ましい。また、前記第1半導体膜を形成する工程のあと、かつ、前記第2半導体膜を形成する工程の前に、固相成長法により熱処理を施して前記第1半導体膜を多結晶珪素膜に変化せる工程をさらに含む、ことが好ましい。また、前記第1半導体膜を多結晶珪素膜に変化させる工程のあと、かつ、前記第2半導体膜を形成する工程の前に、前記第1半導体膜にエキシマレーザー光を照射して前記第1半導体膜中の欠陥を低減する工程をさらに含む、ことが好ましい。また、前記第2半導体膜を形成する工程において、前記第1半導体膜の結晶成長が横方向に生じるものである、ことが好ましい。
本発明に係る薄膜半導体装置の一態様は、基板と、前記基板上に形成された下部電極と、前記下部電極上に形成された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に形成された半導体膜と、前記半導体膜上に形成された第2絶縁膜と、前記第2絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を含み、平面視において、前記半導体膜の前記下部電極と重なる領域と前記半導体膜の前記下部電極と重ならない領域との境と、前記半導体膜の前記下部電極と重なる領域の中心と、の間に、前記ゲート電極が収まるよう配置されている、ことを特徴とする。
上記薄膜半導体装置において、前記半導体膜の前記ゲート電極と重なる領域に結晶粒が含まれ、前記半導体膜の延在する方向に結晶粒界が存在しない、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法は、基板上に形成された半導体膜の一部を活性領域として用いる薄膜半導体装置の製造方法において、前記半導体膜の一部を局所的に加熱する局所加熱機構を前記基板上に形成する加熱機構形成工程を有し、前記加熱機構形成工程が基板上に下側導電膜を形成する下側導電膜形成工程と、該下側導電膜を所定の形状に加工する下側導電膜加工工程と、該下側導電膜上に下側絶縁膜を形成する下側絶縁膜形成工程から成り、前記加熱機構形成工程後に行われ、前記半導体膜としての活性半導体膜を形成する活性半導体膜形成工程と、前記局所加熱機構により前記活性半導体膜が局所的に加熱された状態にて前記活性半導体膜を溶融結晶化させる結晶化工程と、前記活性半導体膜を島状に加工して半導体装置活性領域を形成する素子分離工程と、該活性半導体膜上に上側絶縁膜を形成する上側絶縁膜形成工程と、該上側絶縁膜上に上側導電膜を形成する上側導電膜形成工程と、該上側導電膜を所定の形状に加工する上側導電膜加工工程、とを含むことを特徴としているものでもよい。
かかる構成の発明は、まず基板上に局所加熱機構を形成する(加熱機構形成工程)。前記加熱機構形成工程は、基板上に下側導電膜を形成する下側導電膜形成工程と、該下側導電膜を所定の形状に加工する下側導電膜加工工程と、該下側導電膜上に下側絶縁膜を形成する下側絶縁膜形成工程から成る。
【0013】
次に前記局所加熱機構上に活性半導体膜を形成する(活性半導体膜形成工程)。
【0014】
次に前記局所加熱機構により前記活性半導体膜が局所的に加熱された状態にて前記活性半導体膜を溶融結晶化させる(結晶化工程)。図1には下側導電膜と活性半導体膜との関係、及び結晶化工程後の結晶粒の状態を示している。この結晶化工程では、一例として前記活性半導体膜側から光を照射することにより前記活性半導体膜を溶融結晶化させる。光を照射すると、一部の光は前記活性半導体膜に吸収され、一部の光は前記活性半導体膜を透過する。ある程度の光を吸収した活性半導体膜は溶融結晶化する。一方、活性半導体膜を透過した光は前記局所加熱機構の下側導電膜に吸収または反射される。下側導電膜が光を吸収すると、下側導電膜の温度は上昇し、下側導電膜上の活性半導体膜は局所的に加熱される。また、下側導電膜が光を反射すると、下側導電膜上の活性半導体膜は局所的に光の吸収量が多くなるので、やはり下側導電膜上の活性半導体膜は局所的に加熱される。ここで、活性半導体膜は溶融結晶化過程にあるが、溶融結晶化過程では結晶粒は低温部から高温部に向かって成長する。活性半導体膜の内でその下に局所加熱機構が配置されている部位のみがその周辺に比べて高温になるため、冷却固化時における結晶粒は局所加熱機構の辺の僅かに外側上の活性半導体膜部位から局所加熱機構の中心上の活性半導体膜部位に向かって成長する。局所加熱機構によって形成された温度差が溶融半導体膜の冷却固化時に結晶の横成長を生じさせるのである。活性半導体膜内での結晶横成長は必ず局所加熱機構の外側1μm程度の位置から始まる。左右から成長した結晶粒同士は局所加熱機構の長さ方向に関する中心付近にて衝突する。ここで長さ方向とは図1等に示す方向で、薄膜半導体装置が動作する際の電流方向であり、薄膜半導体装置のソース・ドレイン方向の事を言う。幅方向は長さ方向に垂直な方向である。即ち、長さ方向を横切る幅方向に延びる結晶粒界(電流を横切る結晶粒界)は常に局所加熱機構の長さ方向に関する中心付近に形成される。
【0015】
結晶化工程が終了したら、前記活性半導体膜を島状に加工して半導体装置活性領域を形成する(素子分離工程、図2)。この素子分離工程では、前記活性領域が前記局所加熱機構に完全に含まれるように前記活性半導体膜を加工する。上述の位置関係に局所加熱機構と活性領域とを設定しておけば、活性領域内で長さ方向を横切る幅方向に延びる結晶粒界の数を常に局所加熱機構の中心上付近に一個とすることができる。
【0016】
次に該活性半導体膜上に上側絶縁膜を形成する(上側絶縁膜形成工程)。
【0017】
次に該上側絶縁膜上に上側導電膜を形成する(上側導電膜形成工程)。
【0018】
次に該上側導電膜を所定の形状に加工する(上側導電膜加工工程)。この上側導電膜加工工程では、素子分離工程において記述したように、半導体装置活性領域(チャネル形成領域)が前記局所加熱機構に完全に含まれるように上側導電膜を加工する(図3)。
【0019】
本発明では活性領域内で長さ方向を横切る結晶粒界が1個しか無いので、本発明の薄膜半導体装置の性能は一般的な薄膜半導体装置に比べて飛躍的に向上する。
【0020】
また、結晶粒界に起因する薄膜半導体装置の特性ばらつきが無くなる。即ち、基板上に形成される全ての薄膜半導体装置がほとんど同じ特性を示すようになる。
【0021】
また、活性領域の上下に導電膜が存在するので、ソース電極とドレイン電極を合わせて4端子の薄膜半導体装置とする事ができる。上側と下側の導電膜の電位を制御することにより、活性領域の上側表面と下側表面、若しくは活性領域の全領域を反転させることが可能である。よって、本発明の薄膜半導体装置では、一般的な薄膜半導体装置に比べて、オン電流が増加し、移動度が高くなり、サブスレショルド特性が向上し、更に短チャネル効果を抑制することができるので、微細化も可能となる。また、上側導電膜と下側導電膜への電位の掛け方によっては、一般的な薄膜半導体装置の様に活性領域の片側のみを反転させることも可能であるので、薄膜半導体装置の特性を用途によって変えることも可能である。更に、上側導電膜と下側導電膜への電位の掛け方を調整することによって、薄膜半導体装置の閾値電圧を調整することも可能である。
【0022】
以上のように、本発明の薄膜半導体装置の製造方法によれば、半導体膜が結晶性の良い大粒径の結晶粒から成り、チャネル形成領域の結晶粒界の位置が制御されており、電気特性が良く、短チャネル効果を抑制することができ、閾値電圧の調整を行うことができ、電気特性ばらつきの少ない4端子の薄膜半導体装置を製造できる。
【0023】
上記課題を解決する為に、基板上に形成された半導体膜の一部を活性領域として用いる薄膜半導体装置の製造方法において、前記半導体膜の一部を局所的に加熱する局所加熱機構を前記基板上に形成する加熱機構形成工程を有し、前記加熱機構形成工程が基板上に下側導電膜を形成する下側導電膜形成工程と、該下側導電膜を所定の形状に加工する下側導電膜加工工程と、該下側導電膜上に下側絶縁膜を形成する下側絶縁膜形成工程から成り、前記加熱機構形成工程後に行われ、前記半導体膜としての活性半導体膜を形成する活性半導体膜形成工程と、前記局所加熱機構により前記活性半導体膜が局所的に加熱された状態にて前記活性半導体膜を溶融結晶化させる結晶化工程と、前記活性半導体膜を島状に加工して半導体装置活性領域を形成する素子分離工程と、該活性半導体膜上に上側絶縁膜を形成する上側絶縁膜形成工程と、該上側絶縁膜上に上側導電膜を形成する上側導電膜形成工程と、該上側導電膜を所定の形状に加工する上側導電膜加工工程と、該下側導電膜と上側導電膜を電気的に接続する導電膜接続工程、とを含むことを特徴としている。
【0024】
かかる構成の発明は、まず基板上に局所加熱機構を形成する(加熱機構形成工程)。前記加熱機構形成工程は、基板上に下側導電膜を形成する下側導電膜形成工程と、該下側導電膜を所定の形状に加工する下側導電膜加工工程と、該下側導電膜上に下側絶縁膜を形成する下側絶縁膜形成工程から成る。
【0025】
次に前記局所加熱機構上に活性半導体膜を形成する(活性半導体膜形成工程)。
【0026】
次に前記局所加熱機構により前記活性半導体膜が局所的に加熱された状態にて前記活性半導体膜を溶融結晶化させる(結晶化工程、図1)。この結晶化工程では、一例として前記活性半導体膜側から光を照射することにより前記活性半導体膜を溶融結晶化させる。光を照射すると、一部の光は前記活性半導体膜に吸収され、一部の光は前記活性半導体膜を透過する。ある程度の光を吸収した活性半導体膜は溶融結晶化する。一方、活性半導体膜を透過した光は前記局所加熱機構の下側導電膜に吸収または反射される。下側導電膜が光を吸収すると、下側導電膜の温度は上昇し、下側導電膜上の活性半導体膜は局所的に加熱される。また、下側導電膜が光を反射すると、下側導電膜上の活性半導体膜は局所的に光の吸収量が多くなるので、やはり下側導電膜上の活性半導体膜は局所的に加熱される。ここで、活性半導体膜は溶融結晶化過程にあるが、溶融結晶化過程では結晶粒は低温部から高温部に向かって成長する。活性半導体膜の内でその下に局所加熱機構が配置されている部位のみがその周辺に比べて高温になるため、冷却固化時における結晶粒は局所加熱機構の辺の僅かに外側上の活性半導体膜部位から局所加熱機構の中心上の活性半導体膜部位に向かって成長する。局所加熱機構によって形成された温度差が溶融半導体膜の冷却固化時に結晶の横成長を生じさせるのである。活性半導体膜内での結晶横成長は必ず局所加熱機構の外側1μm程度の位置から始まる。左右から成長した結晶粒同士は局所加熱機構の長さ方向(薄膜半導体装置が動作する際の電流方向)に関する中心付近にて衝突する。即ち、長さ方向を横切る幅方向に延びる結晶粒界(電流を横切る結晶粒界)は常に局所加熱機構の長さ方向に関する中心付近に形成される。
【0027】
結晶化工程が終了したら、前記活性半導体膜を島状に加工して半導体装置活性領域を形成する(素子分離工程、図2)。この素子分離工程では、前記活性領域が前記局所加熱機構に完全に含まれるように前記活性半導体膜を加工する。上述の位置関係に局所加熱機構と活性領域とを設定しておけば、活性領域内で長さ方向(薄膜半導体装置が動作する際の電流方向)を横切る幅方向に延びる結晶粒界(電流を横切る結晶粒界)の数を常に局所加熱機構の中心上付近に一個とすることができる。
【0028】
次に該活性半導体膜上に上側絶縁膜を形成する(上側絶縁膜形成工程)。
【0029】
次に、該下側導電膜と、後に形成される上側導電膜を電気的に接続する為に、上側絶縁膜と下側絶縁膜に穴を開ける(導電膜接続工程、図4)。この穴は下側導電膜の存在する部位であり、且つ上側導電膜が形成される部位であり、且つ活性半導体膜の存在しない部位に形成される。
【0030】
次に該上側絶縁膜上に上側導電膜を形成する(上側導電膜形成工程、図4)。ここで、上記導電膜接続工程にて形成した穴にも導電膜が形成されるので、上側導電膜と下側導電膜は電気的に接続された状態となる。
【0031】
次に該上側導電膜を所定の形状に加工する(上側導電膜加工工程、図4)。この上側導電膜加工工程では、素子分離工程において記述したように、半導体装置活性領域が前記局所加熱機構に完全に含まれるように上側導電膜を加工する。
【0032】
本発明では、活性領域内で長さ方向を横切る結晶粒界が1個しか無いので、本発明の薄膜半導体装置の性能は一般的な薄膜半導体装置に比べて飛躍的に向上する。
【0033】
また、結晶粒界に起因する薄膜半導体装置の特性ばらつきが無くなる。即ち、基板上に形成される全ての薄膜半導体装置がほとんど同じ特性を示すようになる。
【0034】
また、活性領域の上下に導電膜が存在するので、導電膜の電位を制御することにより、活性領域の上側表面と下側表面、若しくは活性領域の全領域を反転させることが可能である。よって、本発明の薄膜半導体装置では、一般的な薄膜半導体装置に比べて、オン電流が増加し、移動度が高くなり、サブスレショルド特性が向上し、更に短チャネル効果を抑制することができるので、微細化も可能となる。
【0035】
以上のように、本発明の薄膜半導体装置の製造方法によれば、半導体膜が結晶性の良い大粒径の結晶粒から成り、チャネル形成領域の結晶粒界の位置が制御されており、電気特性が良く、短チャネル効果を抑制することができ、電気特性ばらつきの少ない薄膜半導体装置を製造できる。
【0036】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜の長さLHSよりも前記上側導電膜の長さLを短く加工する事を特徴とする(L<LHS)。また、前記上側導電膜が長さ方向に関して前記下側導電膜に含まれるように加工する事を特徴とする。
【0037】
活性半導体膜内での結晶横成長は必ず下側導電膜の外側1μm程度の位置から始まる。従って、上述の位置関係に下側導電膜と上側導電膜とを設定しておけば、半導体装置活性領域内で長さ方向(半導体装置が動作する際の電流方向)を横切る結晶粒界(電流を横切る結晶粒界)の数を常に中心付近に一個とする事ができる。
【0038】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜加工工程にて、該下側導電膜の長さを7μm程度以下に形成する事を特徴とする(LHS<7μm)。
【0039】
出願人等の実験によると、結晶が横成長する最大距離は3.5μm程度である。従って、結晶粒を下側導電膜の外側の左右両側から横成長させて、下側導電膜の長さ方向における中心付近に電流を横切る結晶粒界をただ一つだけ形成するには、下側導電膜の長さが最大横成長距離の二倍以下でなければならない。よって下側導電膜の長さを7μm程度以下にしておくことが重要である。また、基板上に複数個形成される薄膜半導体装置が全て同一の特性を示すようにする為には、何れの薄膜半導体装置も活性領域内にただ一つの結晶粒界を有している事が望ましい。結晶成長距離の変動を考慮すると、下側導電膜の長さは5μm程度以下が適している。こうする事で、基板上に形成される全ての薄膜半導体装置がほとんど同じ特性を示す様になる。
【0040】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記上側導電膜の長さを前記下側導電膜の長さの半分程度以下となる様に加工する事を特徴とする(L<LHS/2)。更に、前記上側導電膜が、長さ方向に関して前記下側導電膜に完全に含まれ、且つ該下側導電膜の長さ方向に関する中心近傍を含まない様に該上側導電膜を加工する事が理想的である。
【0041】
前述したように、電流を横切る結晶粒界は下側導電膜の長さ方向に関する中心近傍に必ず形成される。従って、図5に示す様に、上側導電膜を下側導電膜に完全に含ませ、且つ下側導電膜の中心近傍を避けるように形成するならば、活性領域内に結晶粒界を横切らない電流経路を必ず複数個形成することができ、それ故に薄膜半導体装置は単結晶珪素薄膜を用いた小さなシリコンオンインシュレーター(SOI)装置を複数個並列接続した物と同等と化すので、薄膜半導体装置の性能は飛躍的に向上する。尚、下側導電膜の長さ方向に関する中心近傍とは、長さ方向の中心から左右に0.25μm程度の広がりを有した領域で、中心付近に形成される長さ0.5μm程度の領域である。
【0042】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記素子分離工程にて、前記下側導電膜の幅WHSよりも前記半導体装置活性領域の幅Wを短く加工する事を特徴とする(W<WHS)。更に、前記下側導電膜の幅よりも前記半導体装置活性領域の幅を6μm程度以上短く加工する事が望ましい(W<WHS−6μm)。また、前記半導体装置活性領域が、幅方向に関して前記下側導電膜に含まれる様に該活性半導体膜を加工する事が理想的であり、更に前記半導体装置活性領域の長さ方向の辺が前記下側導電膜の長さ方向の辺より3μm程度以上内側に位置する様に該活性半導体膜を加工すればより好ましい。
【0043】
活性半導体膜の横成長は下側導電膜の長さ方向の辺からも発生する。この様に形成される結晶粒界は電流を横切る結晶粒界となるので、半導体装置活性領域から排除されることが望まれる。下側導電膜の長さ方向の辺から成長する電流を横切る結晶粒界を半導体装置活性領域から排除するには、半導体装置活性領域の幅が下側導電膜の幅よりも短く、且つ半導体装置活性領域が幅方向に関して下側導電膜に完全に含まれることが必要条件である(図2)。具体的には下側導電膜の幅よりも半導体装置活性領域の幅が6μm程度以上短い状態が好ましく、8μm程度以上短ければ理想的といえる。その上で、半導体装置活性領域の長さ方向の辺が下側導電膜の長さ方向の辺より3μm程度以上、更に好ましくは4μm程度以上内側に位置するように活性半導体膜を加工する。本願発明での横成長距離は最大で3.5μm程度で、通常は2.5μm程度から3.0μm程度となる。従って活性領域の幅が下側導電膜の幅よりも6μm程度以上短く、且つ半導体装置活性領域の長さ方向の辺が下側導電膜の長さ方向の辺から3.0μm程度以上内側に位置していれば、下側導電膜の長さ方向の辺から成長する結晶粒界を半導体装置活性領域からほとんど排除することができる。最大横成長距離が3.5μm程度なので、活性領域の幅を下側導電膜の幅よりも8μm程度以上短くし、且つ半導体装置活性領域の長さ方向の辺を下側導電膜の長さ方向の辺から上下でそれぞれ4.0μm程度以上内側に位置させれば、下側導電膜の長さ方向の辺から成長する結晶粒界を半導体装置活性領域から完全に排除できる。
【0044】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記上側導電膜加工工程にて、該上側導電膜の長さ方向の片側の辺が前記半導体装置活性領域の長さ方向の片側の辺よりも0μm以上1μm程度以下外側に位置するように該上側導電膜を加工する事を特徴とする。
【0045】
この発明によれば、薄膜半導体装置の寄生容量を少なくする事ができるという効果を有する。本発明では、上側導電膜と下側導電膜が存在し、その上下の導電膜によって半導体装置活性領域の状態を制御することができる。しかし、上側導電膜と下側導電膜の間に活性半導体膜が存在しない部位では、上側導電膜と下側導電膜の間には絶縁膜が挟まれている。即ち、上側導電膜と下側導電膜が絶縁膜を介して重なっている部位には寄生容量が発生する。寄生容量は薄膜半導体装置に悪影響を及ぼす為、できるだけ小さくする必要がある。よって上側導電膜と下側導電膜の重なりは必要最小限にすることが望ましい。上側導電膜の長さ方向の片側の辺が前記半導体装置活性領域の長さ方向の片側の辺に位置するように上側導電膜を加工すれば、上側導電膜と下側導電膜の重なりは必要最小限に抑える事ができる。上側導電膜の加工精度を考慮して、上側導電膜の長さ方向の片側の辺が前記半導体装置活性領域の長さ方向の片側の辺よりも0μm以上1μm程度以下外側に位置するように該上側導電膜を加工することが望ましい(図4)。
【0046】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜の膜厚が25nm程度以上100nm程度以下である事を特徴とする。更に、前記下側導電膜の膜厚が30nm程度以上70nm程度以下であればより好ましい。
【0047】
この発明によれば、活性半導体膜の横成長が生じ易いという効果を有する。下側導電膜の役割の一つとして、下側絶縁膜上に形成される活性半導体膜を局所的に加熱することがある。加熱は活性半導体膜を透過してきた光を下側導電膜が反射、吸収することによって達成される。下側導電膜が光を吸収する場合、下側導電膜の温度が上昇するが、下側導電膜の膜厚が25nm程度以上と厚い時にのみ、下側導電膜による光吸収が顕著となり、それに応じて下側導電膜の温度が活性半導体膜を加熱するのに十分なほど上昇する。この様にして下側導電膜上に位置する活性半導体膜が下側導電膜により局所的に加熱され、活性半導体膜に位置制御された結晶粒が横方向に成長する。反対に下側導電膜が厚すぎると、下側導電膜の熱容量が増大し、やはり下側導電膜の温度は十分に上昇しない。下側導電膜が活性半導体膜に位置制御された結晶粒の横成長を生じさせるのに十分な温度上昇を示すのは、その膜厚が100nm程度以下の時である。このように活性半導体膜での横成長距離は下側導電膜の膜厚に強く依存する。出願人の実験によると、横成長した結晶粒が3.5μm程度と最大になる理想的な下側導電膜の膜厚は30nm程度以上70nm程度以下であった。
【0048】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜が金属膜であることを特徴としている。
【0049】
この発明によれば、金属膜から成る下側導電膜が活性半導体膜を透過してきた光を効率的に反射するので、効率的に活性半導体膜の結晶を横方向に成長させることができるという効果を有する。また、下側導電膜の抵抗が小さくなるので、下側導電膜の電位を制御することが容易になるという効果を有する。
【0050】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜としての金属膜がTa、Cr、W、Moの何れかであることを特徴としている。
この発明によれば、効率的に光を反射して活性半導体膜を結晶化することができるという効果を有する。上記金属の1気圧のもとにおける融点は、Taが2996℃、Crが1890℃、Wが3387℃、Moが2610℃と高いので、光が照射されても損傷を受け難い。よって効率的に光を反射して活性半導体膜を結晶化することができるのである。
【0051】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜が半導体膜であることを特徴としている。
【0052】
この発明によれば、下側導電膜は光を吸収し易くなり、下側導電膜の温度が上昇し易くなるので、活性半導体膜内の温度差が大きくなり、効率的に活性半導体膜の結晶を横方向に成長させることができるという効果を有する。
【0053】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜としての半導体膜が非晶質珪素膜であることを特徴としている。
【0054】
この発明によれば、半導体膜の形成が容易であるという効果を有する。
【0055】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜としての半導体膜が結晶性を有する珪素膜であることを特徴としている。
【0056】
この発明によれば、下側導電膜は結晶性を有する珪素膜から成り、非晶質珪素膜に比べて電気伝導度は高くなるため、下側導電膜の電位が制御し易くなるという効果を有する。
【0057】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側導電膜としての半導体膜が薄膜半導体装置のソース・ドレイン領域と同じ極性になるように、該半導体膜に不純物が注入されている事を特徴とする。更に前記下側導電膜としての半導体膜がリン(Phosphorus:P)またはホウ素(Boron:B)が注入されている珪素膜であることを特徴としている。前記リンまたはホウ素の珪素膜中濃度は1×1019cm−3程度から1×1020cm−3程度である事が望ましい。
【0058】
下側導電膜として半導体膜を用いる場合、該半導体膜に導電性を持たせる為にドナー、またはアクセプターとして働く不純物を注入する必要がある。ところで、ソース・ドレイン領域にも不純物を注入するわけであるが、下側導電膜としての半導体膜に注入する不純物とソース・ドレイン領域に注入する不純物の極性は同じである事が望ましい。即ち、下側導電膜にドナーを注入した場合には、ソース・ドレイン領域にもドナーを注入し、下側導電膜にアクセプターを注入した場合には、ソース・ドレイン領域にもアクセプターを注入するのが良い。例えば、下側導電膜にアクセプターとなる不純物を注入したとする。その後ソース・ドレイン領域にドナーとなる不純物を注入すると、そのドナーが下側導電膜にも注入されてしまい、下側導電膜の電気伝導度が所望の値とは異なってしまう可能性がある。下側導電膜の電気伝導度が所望の値と異なってしまうと、下側導電膜の電位の制御が困難となり、薄膜半導体装置の動作に支障を来すことになる。この様に下側導電膜としての半導体膜とソース・ドレイン領域とは同じ極性になるようにする事が望ましい。注入する不純物としては、簡便であり且つ不純物濃度を制御し易いとの観点からリン、ホウ素が適している。リンはドナーとして働き、ホウ素はアクセプタとして働くので、下側導電膜内に自由に動くことのできる電子または正孔が生じ、それによって電気伝導度が高くなるため、下側導電膜の電位を制御し易くなる。また前記リンまたはホウ素の珪素膜中濃度を1×1019cm−3程度から1×1020cm−3程度にすることにより、下側導電膜内に自由に動くことのできる電子または正孔が十分に生じ、それによって電気伝導度が十分に高くなるため、下側導電膜の電位を制御し易くなるという効果を有する。
【0059】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側絶縁膜が酸化珪素膜であることを特徴としている。
【0060】
この発明によれば、下側絶縁膜の形成が容易であり、活性半導体膜と下側絶縁膜の間に存在する界面準位を低減することができるという効果を有する。また、光の吸収によって上昇した活性半導体膜の温度を保ち、結晶成長を促進させるという効果を有する。
【0061】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記下側絶縁膜としての酸化珪素膜の膜厚が130nm程度以上且つ180nm程度以下であることを特徴としている。
【0062】
この発明によれば、効率的に活性半導体膜の結晶を横方向に成長させるという効果を有する。活性半導体膜の結晶を横方向に成長させるには、下側導電膜の温度を上げ、その熱を活性半導体膜に伝えて活性半導体膜内に温度差を生じさせるか、下側導電膜で反射した光を活性半導体膜に吸収させて活性半導体膜内に温度差を生じさせれば良い。ここで、下側導電膜と活性半導体膜の間の下側絶縁膜の膜厚が重要なパラメータとなる。活性半導体膜を透過した光は下側絶縁膜で反射、干渉された後に下側導電膜へと到達する。下側導電膜で反射された光も同様に下側絶縁膜で反射、干渉された後に活性半導体膜へと到達する。下側絶縁膜での反射、干渉の効果は下側絶縁膜厚によって異なるので、下側絶縁膜厚によって活性半導体膜から下側導電膜へと到達する光および下側導電膜から活性半導体膜へと到達する光の量も異なってくる。また、下側絶縁膜厚は熱の伝わり具合にも大きく影響する。下側絶縁膜厚が薄ければ下側導電膜の熱は活性半導体膜に伝わり易いが、下側絶縁膜厚が厚ければ下側導電膜の熱は活性半導体膜に伝わり難くなる。以上のことから、活性半導体膜内に温度差を生じさせて効率的に結晶を横方向に成長させる為には、下側絶縁膜厚の最適化が必要になってくる。出願人の行ったシミュレーションや実験の結果、下側絶縁膜としての酸化珪素膜の膜厚を130nm以上且つ180nm以下にすれば、効率的に活性半導体膜の結晶を横方向に成長させることができる。
【0063】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記活性半導体膜形成工程が、非晶質半導体膜を堆積する非晶質半導体膜堆積工程を含むことを特徴としている。
【0064】
この発明によれば、半導体膜の形成が容易であるという効果を有する。非晶質半導体膜堆積工程は化学気相堆積法(CVD法)を用いるのが簡便である。CVD法の中でも取り分け低圧CVD法(LPCVD法)乃至はプラズマCVD法が非晶質半導体膜の堆積に適している。
【0065】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記活性半導体膜形成工程が、非晶質半導体膜を堆積する非晶質半導体膜堆積工程と、該非晶質半導体膜の結晶性を高める半導体膜改質工程とを含むことを特徴としている。また、前記半導体膜改質工程は前記非晶質半導体膜を固相にて結晶化させる固相成長工程や、前記非晶質半導体膜を溶融状態を経て結晶性を改善する溶融結晶性改善工程を含み、好ましくは前記半導体膜改質工程が前記非晶質半導体膜を固相にて結晶化させる固相成長工程と該固相成長した半導体膜を溶融状態を経て結晶性を改善する溶融結晶性改善工程とを含む事が良い。
【0066】
この発明によれば、略無欠陥の横成長結晶粒を得る事ができ、窮めて優れた薄膜半導体装置を製造する事ができるという効果を有する。工程上で最も容易なのが非晶質半導体膜堆積を以って活性半導体膜形成工程とする物である。この簡略な工程でも無論本願発明は有効であるが、より好ましいのは活性半導体膜形成工程が半導体膜改質工程を含んでいる工程である。本工程後に行われる結晶化工程時の結晶粒横成長は局所加熱機構上の活性半導体膜が略完全に溶融した状態にて、その周辺部の非溶融部よりエピタキシャル成長の形態にて進む。活性半導体膜形成工程が半導体膜改質工程をも含んでいると、内部結晶欠陥の少ない良質な結晶粒を成長源として横成長が進むので、横成長後の結晶も内部欠陥の少ない優良な結晶粒となる。こうした内部欠陥の少ない結晶粒を結晶成長源とするには、非晶質半導体膜を溶融状態を経て結晶性を改善する溶融結晶性改善工程を施すのが一番である。溶融結晶性改善工程は、下側導電膜に影響を及ぼさない紫外光を半導体膜に照射して行われるのが望ましい。紫外光としてはキセノン塩素(XeCl)エキシマレーザー(波長308nm)やクリプトンフッ素(KrF)エキシマレーザー(波長248nm)といったレーザー光が用いられる。半導体膜改質工程が固相成長工程を含んでいると、各結晶粒径が数μmと大きくなり、この大きい結晶粒を結晶成長源として横成長が生じるので、電流方向に略平行な結晶粒界の数、即ち半導体装置活性領域内に位置する結晶粒界の数が削減され、閾値電圧が低く急峻なサブスレショルド特性示す優良薄膜半導体装置が作成される。固相成長工程は非晶質半導体膜が形成された基板を熱処理炉に挿入して、略熱平衡状態にて行われるか、或いは急速熱処理装置にて行われる。熱処理炉にて行われる場合、400℃程度以上700℃程度以下の処理温度にて数時間の熱処理が行われる。固相成長で得られる多結晶半導体膜は結晶粒が数μmと大きいものの、内部欠陥を多量に含むという短所を有している。一方、溶融結晶性改善工程で得られる多結晶半導体膜は結晶粒内は無い分欠陥の無い綺麗な結晶ができているものの、結晶粒が小さいという短所を有している。結晶粒径が数μmと大きく且つ内部欠陥が少ない多結晶膜を得るには、非晶質半導体膜を固相にて結晶化させる固相成長工程を行った後に、この固相成長した多結晶半導体膜を溶融状態を経て結晶性を改善する溶融結晶性改善工程を加えれば良い。こうすれば横成長時の結晶成長源は大粒径且つ低欠陥の結晶粒となるので、半導体装置活性領域内に位置する結晶粒界の数を著しく減少させることができ、略無欠陥の横成長結晶粒を得る事を可能とし、窮めて優れた薄膜半導体装置を製造することができる。
【0067】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記活性半導体膜の膜厚が30nm程度以上70nm程度以下である事を特徴とする。
【0068】
活性半導体膜の膜厚が20nm程度以上有れば、基板面積が2000cm2程度以上の大きな基板を用いても基板全面に結晶粒を安定的に横成長させられる。活性半導体膜が余りにも厚いと、膜の上下方向に温度差が生じ、横成長が阻害されるが、95nm程度以下であれば容易に横成長し、本願発明が有効に機能する。本願発明では結晶化工程にて照射される光の一部が活性半導体膜を透過して下側導電膜で吸収される事がその本質である。出願人実験によると、結晶化工程にてYAG2ωレーザー光を照射した際に最も横成長する活性半導体膜の膜厚は30nm程度以上70nm程度以下であった。この膜厚範囲では照射光が活性半導体膜を70%程度以上透過し、しかも下側導電膜に透過光が良く入るように光学干渉条件が揃った為である。
【0069】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記活性半導体膜が珪素を主体とした半導体膜である事を特徴とする。
【0070】
この発明によれば、活性半導体膜の結晶の横成長が効率的に生じ、薄膜半導体装置の電気特性が良好になるという効果を有する。また、活性半導体膜の形成が容易であるという効果を有する。
【0071】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記結晶化工程が前記活性半導体膜側から光を照射して活性半導体膜の溶融結晶化を進める事を特徴としている。結晶化工程では活性半導体膜側から、温度300Kにおける多結晶珪素膜での吸収係数が2×10−4nm−1程度以上1×10−1nm−1程度以下である光を照射して、活性半導体膜の溶融結晶化を進める。この様な吸収係数に対応する光の波長は370nm程度から710nm程度である。結晶化工程に理想的な光の多結晶珪素膜での吸収係数は1×10−3nm−1程度以上1×10−2nm−1程度以下であり、対応する波長は450nm程度以上650nm程度以下となる。本発明が効果的に機能するには、活性半導体膜の膜厚をx(nm)とし、結晶化工程にて照射される光の多結晶珪素膜での吸収係数をμp−Si(nm−1)とした時に、活性半導体膜の膜厚x(nm)と吸収係数μp−Si(nm−1)との積が
0.105<x×μp−Si(nm−1)<1.609
との関係を満たす事が必要である。この積のより好ましい値は
0.105<x×μp−Si(nm−1)<0.693
であり、理想的には
0.105<x×μp−Si(nm−1)<0.405
となる。半導体膜中で光は吸収され、入射光は指数関数的にその強度を減衰させる。入射光強度をI(0)とし、珪素を主体とした多結晶活性半導体膜中での表面からの距離をx(nm)、場所xでの強度をI(x)とすると、これらの間には吸収係数μp−Siを用いて次の関係が成り立つ。
【0072】
I(x)/I(0)=exp(−μp−Si×x) (式1)
吸収係数μp−Siが2×10−4nm−1程度以上有れば、活性半導体膜を溶融結晶化させる事が可能となり、1×10−3nm−1程度以上有れば、活性半導体膜の膜厚が20nm程度と薄くとも2%程度以上の光が活性半導体膜にて吸収され、容易に活性半導体膜が溶融結晶化される。多結晶珪素膜での吸収係数が1×10−1nm−1程度以下であれば、入射光は活性半導体膜を透過して下側導電膜まで到達し、更に1×10−2nm−1程度以下であれば活性半導体膜が95nm程度と厚くとも入射光の内40%程度が下側導電膜に到達するので、活性半導体膜部位に横成長が生じる。活性半導体膜が光照射にて効率的に加熱される為には、入射光の少なくとも10%程度は活性半導体膜により吸収されるのが望ましい。これは活性半導体膜の膜厚と吸収係数との積が
0.105<x×μp−Si
との条件を見たしている時に達成される。更に局所加熱機構が効率的に機能するには、入射光の少なくとも20%程度以上が活性半導体膜を透過するのが望まれ、活性半導体膜の膜厚と吸収係数との積が
x×μp−Si<1.609
との関係を見たしている必要がある。活性半導体膜での横成長を確実に生じせしめるには入射光の50%程度以上が活性半導体膜を透過するのが好ましく、その条件は
x×μp−Si(nm−1)<0.693
である。本願発明が最も効率的に機能する理想系は入射光の三分の二程度以上が活性半導体膜を透過する
x×μp−Si(nm−1)<0.405
との条件を活性半導体膜の膜厚と吸収係数とが満たす時である。
【0073】
結晶化工程にて照射される光は半導体膜を容易に溶融させるという点からレーザー光が好ましい。照射レーザー光としては連続発振の物も使用可能であるが、パルス発振のレーザー光の使用がより好ましい。連続発振のレーザー光照射では半導体膜は数ミリ秒以上の長時間に渡って溶融状態にある。この為に気相から不純物が膜中へ混入し易くなり、また表面荒れが生じ易くなる。また、溶融時間が長い為に活性半導体膜内の横方向温度分布が失われる傾向が強く、故に横成長が生じ難くなる。これに対して、一回のレーザー照射毎に基板を適当な距離だけ移動させることができるパルス発振では、活性半導体膜の溶融時間は数百マイクロ秒以下となる。よって、高純度で平滑な表面を有する多結晶半導体膜が得られ、且つ短時間溶融に起因して横方向の温度勾配は冷却固化時まで解消される事無く、局所加熱機構上に選択的に結晶粒を横成長させることが可能となる。半導体膜にレーザー光を照射する際には波長が370nm程度以上710nm程度以下のパルスレーザー光を使用する。これらの光の非晶質珪素中及び多結晶珪素中での吸収係数を図6にしめす。図6の横軸は光の波長で縦軸が吸収係数である。破線が非晶質珪素を表し、実践が多結晶珪素を表している。図6から分かる様に、370nmから710nmの波長領域では光りの吸収係数は多結晶珪素中よりも非晶質珪素中での方が大きくなる。例えば波長が約532nmであるNdドープYAGレーザー光の第二高調波(YAG2ωレーザー光)の非晶質珪素での吸収係数μa−Siと多結晶珪素での吸収係数μp−Siはそれぞれ、
μa−Si(YAG2ω)=0.01723nm−1
μp−Si(YAG2ω)=0.00426nm−1
と、非晶質珪素での吸収係数の方が多結晶珪素での吸収係数よりも4倍余りも大きくなっている。横成長が生じた活性半導体膜といえども、微視的には結晶成分と非晶質成分とから構成されている。結晶成分とは結晶粒内で積層欠陥等の欠陥が比較的少ない部位で、良質な結晶状態にある箇所と言える。一方、非晶質成分とは結晶粒界や結晶粒内の欠陥部等の構造秩序に著しい乱れが見られる部位で、所謂非晶質に近い状態にある箇所と言える。レーザー光を照射して結晶化を進める溶融結晶化では、非溶融部が冷却固化過程時における結晶成長の核となる。高い構造秩序を有する結晶成分が結晶成長核となれば、そこから成長する結晶はやはり高い構造秩序を有する良質な結晶化膜となる。これに反して、構造秩序の乱れた部位が結晶成長核となれば、積層欠陥等が冷却固化過程時にそこから成長するので、最終的に得られる結晶化膜は欠陥等を含んだ低品質な物と化す。従って優良な結晶化膜を得るには、横成長した活性半導体膜中の結晶成分を溶融させずにこれを結晶成長の核とし、更に複数回のパルスレーザー光照射にて非晶質成分を優先的に溶融させれば良い事になる。本願発明に適した照射レーザー光は非晶質珪素における吸収係数が多結晶珪素における吸収係数よりも大きいので、非晶質成分が結晶成分に比べて優先的に加熱される。その結果として、結晶粒界や欠陥部といった非晶質成分が容易に溶融し、その一方で略単結晶状態にある様な良質な結晶成分は溶融せずに残留して結晶成長源となるので、結晶欠陥の窮めて少ない優良な結晶粒が冷却固化過程に形成される。こうして欠陥部や不対結合対等は大幅に低減され、結晶粒界も構造秩序の高い対応粒界が支配的となる。この事は半導体膜の電気特性からすると、エネルギーバンド図における禁制帯中央部付近の捕獲準位密度を大きく減少させるという効果をもたらす。また、この様な半導体膜を半導体装置活性領域に用いると、オフ電流値が小さく、急峻な閾値下特性を示し(サブスレショルドスウィング値が小さく)、閾値電圧の低いトランジスタを得る事になる。横成長した結晶粒の内部欠陥を低減するのに最も効果的な光は、多結晶珪素での吸収係数の非晶質珪素での吸収係数に対する比(μp−Si/μa−Si)が小さい光である。図6をみると、光の波長が450nm程度から650nm程度の時にこの比が小さくなることが分かる。従って、横成長した活性半導体膜中の内部結晶欠陥を低減するとの視点から、本願発明の光照射工程にて照射するパルスレーザー光の最も好ましい波長は450nm程度以上650nm程度以下と言える。
【0074】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法は、前記パルスレーザー光がQスイッチ発振する固体レーザーの高調波であることを特徴としている。
【0075】
この発明によれば、レーザー光の発振安定性に優れるという効果を有し、その結果、良質な結晶性活性半導体膜を得る事ができ、優良かつ特性ばらつきの少ない薄膜半導体装置を製造することができる。本願発明では局所加熱機構上の活性半導体膜は略完全に溶融するので、レーザー光の発振が安定していないと、活性半導体膜が消失したり或いは損傷を被り、優良な薄膜半導体装置の製造が困難となる。従来のエキシマガスレーザーでは、レーザー発振室内でのキセノン(Xe)や塩素(Cl)などのガスの不均一性や、ガス自体の劣化、或いはハロゲンによる発振室内の腐食等に起因して、発振強度のばらつきが5%程度あり、更に発振角のばらつきも5%程度認められた。発振角のばらつきは照射領域面積のばらつきをもたらすので、結果として半導体膜表面でのエネルギー密度(単位面積当たりのエネルギー値)は総計で10%以上も変動している。また、レーザー発振の長期安定性にも欠け、薄膜半導体装置のロット間変動をもたらしていた。この為、レーザー光が活性半導体膜を透過して本願発明の横成長を生じさせる条件を満たしていたとしても、従来のガスレーザーを使用している限り、活性半導体膜表面でのエネルギー密度変動が大きく、横成長が生じる以前に活性半導体膜が激しく損傷してしまう。これに対して、固体レーザーにはこの様な問題が存在しないので、レーザー発振は窮めて安定で、活性半導体膜表面でのエネルギー密度の変動(平均値に対する標準偏差の比)を5%程度未満とする事ができるのである。本願発明をより効果的に活用するには、この様に半導体膜表面でのレーザーエネルギー密度の変動が5%程度未満となる固体レーザーの使用が求められる。更に、固体レーザーの使用は薄膜半導体装置製造時におけるロット間変動を最小化するとの効果や、従来頻繁に行われていた煩雑なガス交換作業から薄膜半導体装置の製造を解放し、薄膜半導体装置を製造する際の生産性の向上や低価格化を導くとの効果を有する。上述した波長や吸収係数の要請と固体レーザーの要請とを同時に満たすことができるのが、ネオジウム(Nd)を酸化イットリウム(Y2O3)と酸化アルミニウム(Al2O3)との複酸化物に添加したネオジウム添加のイットリウムアルミニウムガーネット(Nd:YAG)レーザー光の第二高調波(YAG2ωレーザー光、波長532nm)である。従って、本願発明の結晶化工程では活性半導体膜表面におけるエネルギー密度の変動が5%程度未満のYAG2ωレーザー光を活性半導体膜に照射するのが最も適している。Qスイッチ固体レーザーのレーザー媒体としてはNdイオンをドープされた結晶やYbイオンをドープされた結晶、Ndイオンをドープされたガラス、Ybイオンをドープされたガラスなどが好ましい。従って、具体的にはYAG2ωレーザー光の他には、Qスイッチ発振するNd:YVO4レーザー光の第二高調波(波長532nm)、Qスイッチ発振するNd:YLFレーザー光の第二高調波(波長524nm)、Qスイッチ発振するYb:YAGレーザー光の第二高調波(波長515nm)等をパルスレーザー光として使用するのが最も優れている。
【0076】
優良なる結晶性活性半導体薄膜を得るには、パルスレーザー光の活性半導体膜上における照射エネルギー密度の制御も重要となる。換言すると、優れた薄膜半導体装置を製造するには照射エネルギー密度を適切な範囲内に制御しなければならない。まず、下側導電膜上の活性半導体膜で横成長が生じる様な溶融結晶化を進める為には、下側導電膜上に位置する活性半導体膜の膜厚方向が少なくとも半分程度以上溶融するのに十分な強度をパルスレーザー光は有していなければならない。(本願明細書ではこれを1/2溶融エネルギー密度:E1/2と略称する)。これが結晶化工程におけるパルスレーザー光照射エネルギー密度の適切な範囲の最下限値である。下側導電膜上の活性半導体膜はその他の活性半導体膜よりも加熱されているので、このエネルギー密度(E1/2)では活性半導体膜のその他の部位は膜厚方向に関して半分も溶融していない。更に実験によると、パルスレーザー光のエネルギー密度が被照射半導体膜の膜厚方向における体積成分の3分の2程度以上を溶融させる時に横成長は窮めて促進され、それ故にこの様な結晶性活性半導体膜を有している薄膜半導体装置は優れた電気特性を示すようになる。従って、より好ましい下限値は下側導電膜上に位置する活性半導体膜の膜厚方向における体積成分の3分の2程度以上を溶融させる照射エネルギー密度である(2/3溶融エネルギー密度:E2/3)。適切な照射エネルギー密度には上限値も存在する。活性半導体膜表面でのレーザー光のエネルギー密度が余りにも高いと、半導体薄膜は消失してしまうので、エネルギー密度は消失(Abrasion)を引き起こす値(消失エネルギー密度:EAb)よりも当然小さくなければならない。この値が最上限値となる。また、全面的な消失が生じなくとも、下側導電膜上の活性半導体膜が膜厚方向の全体に渡って完全に溶融してしまうと(この照射エネルギー密度を完全溶融エネルギー密度:ECMとする)、活性半導体膜の部分的な消失が発生し易くなる。これは薄膜半導体装置を作成した際の欠陥を誘起して歩留まりを下げる要因となり得るので、当然好ましくない。従って高歩留まりで優良な薄膜半導体装置を製造するには、半導体膜表面でのパルスレーザー光のエネルギー密度はECMよりも僅かに低い事が望まれる。これが適切な照射エネルギー密度に対する好ましい上限値となる。結局、波長が370nm程度以上710nm程度以下のパルス発振する固体レーザー光を珪素を主体とした活性半導体膜に照射して横成長を促進させる場合、固体レーザー光の活性半導体膜上における望ましい照射エネルギー密度はE1/2以上EAb以下となる。より好ましくはE1/2以上ECM以下、或いはE2/3以上EAb以下、理想的にはE2/3以上ECM以下と言える。下側導電膜上の活性半導体膜に照射されるパルスレーザー光の強度がE2/3以上ECM以下の時に、本願明細書では「下側導電膜上の活性半導体膜は膜厚方向で略完全に溶融している」と定義する。
【0077】
理想的な照射エネルギー密度は、下側導電膜上の活性半導体膜が膜厚方向で略完全に溶融しており、一方でその他の活性半導体膜部位は完全溶融していない強度である。具体的に、固体パルスレーザー光がNd:YAG2ωレーザー光で、下側絶縁膜上に形成された珪素を主体とする活性半導体膜の膜厚が30nm程度から70nm程度である場合の、下側導電膜上の活性半導体膜表面におけるYAG2ωパルスレーザー光の照射エネルギー密度は、
ESM=100mJ・cm−2(活性半導体膜が溶融し始める照射エネルギー密度)
ECM=625mJ・cm−2
EAb=950mJ・cm−2
であるので、
E1/2=350mJ・cm−2
となり、更に
E2/3=450mJ・cm−2
となる。下側導電膜上の活性半導体膜上におけるYAG2ωレーザー光の望ましい照射エネルギー密度は350mJ・cm−2程度以上950mJ・cm−2程度以下で、より好ましくは450mJ・cm−2程度以上950mJ・cm−2程度以下、或いは350mJ・cm−2程度以上625mJ・cm−2程度以下、理想的には450mJ・cm−2程度以上625mJ・cm−2程度以下と言える。
【0078】
結晶化工程でパルスレーザー光を活性半導体膜に照射する際の、活性半導体膜上での照射領域は幅がWL(μm)で、長さがLL(mm)の線状乃至は略長方形とする(図7−a)。照射領域内の長さ方向における断面(図7−aのA−A断面)でのレーザー光照射エネルギー密度は照射領域の端部(図7−b、±LL/2付近)を除いて略一様に分布している(図7−b)。具体的には長さ方向の左右それぞれの端部5%を除いた、中央部90%以内でのエネルギー密度の変動(平均値に対する標準偏差の比)は5%程度未満とされている。一方、照射領域内の幅方向における断面(図7−aのB−B断面)でのレーザー光照射エネルギー密度は略台形状を成すか(図8−a)、或いは略ガウス関数形を成す(図8−b)。幅方向断面が略ガウス関数形とは、幅方向のレーザー光強度(図8−b)が実際にガウス関数で近似され得る分布形状だけではなく、その強度が中心(図8−bにおける0点)から微分可能な関数にて端部領域(図8−bにおける±WL/2付近)へと滑らかに減少している分布形状をも含む。幅方向断面が略台形状(図8−a)の場合、エネルギー密度分布の変動が5%程度未満となる中央平坦領域の割合は30%程度から90%程度が好ましく、それ故に上下それぞれの端部領域(図8−a、±WL/2付近)は5%程度から35%程度となる。例えば幅WL=100μm、中央平坦領域は30μm程度から90μm程度であり、上下それぞれの端部領域は5μm程度から35μm程度が望まれる。活性半導体膜から効果的に欠陥を低減し、更に光学的にも横成長を促進するには、幅方向における照射エネルギー密度勾配の最大値をとる位置と幅方向における照射エネルギー密度の最大値をとる位置とが略一致している事が望まれる。完全溶融するのは照射エネルギー密度が最大の位置であり、そこでの照射エネルギー密度勾配が最大であれば、照射エネルギー密度勾配に沿って結晶粒が横方向に成長するからである。こうした本願発明で理想的と言える幅方向断面は台形型(図9−a)乃至は富士山関数型(図9−b)のレーザー光強度分布である。
【0079】
活性半導体膜が完全溶融した時に構造的のみならず、光学的にも横成長を促進させるには、レーザー光源の選択やそれに適する活性半導体膜厚の決定等といった構造的な結晶成長制御の他に、光学的な水平方向への結晶成長制御も重要と化す。具体的には線状乃至は長方形状のレーザー光照射領域の幅(照射幅)WLに対する長さ(照射長)LLの比(LL/WL)と照射領域の走査方法とを最適化する事で、所望の方高への結晶成長はより一層促進される。まずLL/WLを100程度以上とする。この比LL/WLが100程度以上あれば、各照射の際に温度勾配は照射領域の長さ方向にはほとんど生じず、主として幅方向(図7−aのB−B方向)に生じる事になる。その結果、結晶は照射領域の幅方向へと一次元的な横成長を示す。照射幅WLは5μm程度から500μm程度が望まれるから、生産性を考慮するとこの比LL/WLは100程度以上、理想的には1000程度以上が望まれる。次いで、この様な形状の照射領域を各照射毎に幅方向にずらしていき、基板全面の走査を行う。その際に、照射領域の幅方向は下側導電膜の長さ方向に略一致させ、照射領域の長さ方向は下側導電膜の幅方向に略一致するようにする。下側導電膜の長さ方向と半導体装置活性領域の長さ方向とは一致し、下側導電膜の幅方向と半導体装置活性領域の幅方向とが一致しているので、照射領域の幅方向は半導体装置活性領域の長さ方向に略一致し、照射領域の長さ方向は半導体装置活性領域の幅方向に略一致する。こうすると下側導電膜等による構造的な横成長と照射領域形状による光学的な横成長とが一致し、活性半導体膜での横成長距離がますます大きくなる。従って薄膜半導体装置のアクティブ領域の方向(MOSFETならばソース・ドレイン方向、バイポーラトランジスタならばエミッター・コレクタ方向)を照射幅方向にとる事で、アクティブ領域内(MOSFETのチャネル形成領域内、またはバイポーラトランジスタのエミッター・ベース接合領域とベース領域、及びベース・コレクター接合領域)に電流を横切る結晶粒界が存在しない、或いは電流を横切る結晶粒界が常に活性領域の長さ方向に関する中心付近に一つという優れた薄膜半導体装置が容易に実現される。また、構造的な横成長が照射領域形状により阻害されない為には、照射領域の長さLLは下側導電膜の幅WHSよりも十分に大きくなくてはならない(LL/WHS)>100)。パルスレーザー光は活性半導体膜上で照射領域を各照射毎に照射領域の幅方向にずらしていき、基板全面の照射を完了させる。
【0080】
この様に、結晶粒の横成長を促進させるには下側導電膜を設けるとの構造的な手法と照射光の種類やその形状を調整するとの光学的な手法とを組み合わせる事が重要である。活性半導体膜の完全溶融時に結晶粒の幅方向への一次元的な横成長を促進させる光学的にもう一つの重要な要素は、照射領域の幅方向におけるレーザーエネルギー密度の勾配(エネルギー密度勾配)である。溶融結晶化時の結晶成長速度u(x)は半導体膜の温度勾配dT(x)/dxに比例する。
【0081】
u(x)=k・dT(x)/dx
但しここでkは速度定数で、T(x)は半導体膜上の任意の点xにおける半導体膜の温度である。半導体膜の溶融時間をtmで表すと結晶成長サイズLcは結晶成長速度と溶融時間tmとの積にて表される。
【0082】
Lc=u・tm=k・dT/dx・tm
速度定数kは一定で、溶融時間も略一定であるから、結晶成長サイズは半導体膜の温度勾配に比例する事になる。一方、半導体膜の温度は照射パルスレーザー光のエネルギー密度に比例するから、結局、結晶成長サイズLcはエネルギー密度勾配dE/dxに比例する。
【0083】
Lc∝dE/dx
結晶成長サイズを大きくするにはエネルギー密度勾配を大きくすれば良いわけである。出願人等が行った実験結果によると、YAG2ωレーザー光をパルスレーザー光として用いてガラス基板上の半導体膜を完全溶融結晶化させた場合、エネルギー密度勾配の最大値が3mJ・cm−2・μm−1程度以上である3.0mJ・cm−2・μm−1程度から4.0mJ・cm−2・μm−1程度の時に照射幅方向への結晶成長サイズは1μm程度以上となった。また、エネルギー密度勾配の最大値が10mJ・cm−2・μm−1程度から20mJ・cm−2・μm−1程度の時には照射幅方向への結晶成長サイズは2μm程度以上と増大した。更にエネルギー密度勾配の最大値が30mJ・cm−2・μm−1程度の時には照射幅方向への結晶成長サイズは3μm程度となった。従って下側導電膜上の活性半導体膜部位に結晶を大きく横成長させ、優良な薄膜半導体装置を製造するには、照射領域の幅方向を下側導電膜の長さ方向に略一致させ、その上でエネルギー密度勾配の最大値を3mJ・cm−2・μm−1程度以上とすれば良い。エネルギー密度勾配の最大値が10mJ・cm−2・μm−1程度から20mJ・cm−2・μm−1程度の間ならばより好ましく、理想的には30mJ・cm−2・μm−1程度以上である。
【0084】
優れた薄膜半導体装置を作成するには、活性半導体膜上の任意の一点を照射するパルスレーザー光の照射回数をも最適化する必要がある。照射回数の最小値は1回で、最大値は40回程度である。40回程度以上の照射を繰り返すと、下側導電膜上の活性半導体膜が損傷してしまう。こうした膜を利用して薄膜半導体装置を作成しても、ゲートリーク等により薄膜半導体装置は全く機能しない。活性半導体膜の所望の位置に結晶を横成長させ、且つ半導体膜の表面を平滑に保って優良な薄膜半導体装置を製造するには、照射回数が1回程度以上40回程度以下となるようにパルスレーザー照射領域を走査する。
【0085】
本願発明を液晶表示装置に適応する際には、基板は可視光に対して透明である事が好ましく、それ以外に適応される際にも基板は少なくともパルスレーザー光に対して略透明である事が望まれる。具体的にはパルスレーザー光に対する基板の吸収係数が、多結晶珪素に対する吸収係数の百分の一程度以下であることが望ましい条件とされる。これば本願発明が活性半導体膜を透過した光を下側導電膜が吸収し、活性半導体膜を局所的に加熱しながら溶融結晶化を進めるという本願発明原理に基づく。基板がパルスレーザー光を吸収する素材であると、基板も熱せられ、局所的に活性半導体膜を加熱するという機構が働かなくなる為である。基板の吸収係数が下側導電膜の吸収係数の百分の一程度以下であれば、下側導電膜上の活性半導体膜のみが選択的に加熱されて、その部位に横成長した結晶粒を形成する事が可能となる。
【0086】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施例1)
図10(a)、(b)は、本発明の第一の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す断面工程図である。また、図10(c)は、本発明の第一の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す平面工程図である。以下、この図を参照しつつ本発明の第一の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を(1)、(2)に説明する。
(1)図10(a)の工程
基板上に形成された薄膜半導体装置の製造方法において、基板として厚さ1.1mmの石英基板111を用い、前記石英基板111上に下地保護膜として電子サイクロトロン共鳴プラズマ化学気相堆積法(ECR−PECVD法)により酸化珪素膜112を膜厚200nm程度堆積する。前記下地保護膜としての酸化珪素膜112上にスパッタリング法によりタンタル(Ta)膜を50nm程度堆積する。その後、フォト・リソグラフィー法により前記Ta膜をパターニングして下側導電膜113とする。前記下側導電膜113上に下側絶縁膜としてECR−PECVD法により酸化珪素膜114を膜厚160nm程度堆積する。上述した下側導電膜113と下側絶縁膜114とは、後に活性領域と化す半導体膜(活性半導体膜)部位を局所的に加熱する機構(局所加熱機構)に相当する。尚、下側導電膜113及び下側絶縁膜114を形成する工程は、本発明にいう加熱機構形成工程に相当する。
【0087】
前記下側絶縁膜としての酸化珪素膜114上に活性半導体膜115としてLPCVD法により非晶質珪素膜を膜厚50nm程度堆積し、その後固相成長法により窒素雰囲気下600℃にて48時間の熱処理を施して前記活性半導体膜115としての非晶質珪素膜を結晶化して大粒径の多結晶珪素膜とし、さらに前記活性半導体膜115としての大粒径多結晶珪素膜にキセノン塩素(XeCl)エキシマレーザー(波長308nm)を照射して珪素膜中の欠陥を低減する。この工程は本発明にいう活性半導体膜形成工程に相当する。
【0088】
前記活性半導体膜としての多結晶珪素膜115側から珪素膜に対する吸収係数が2×10−4nm−1以上且つ1×10−1nm−1以下である光としてQスイッチ発振するNd:YAGレーザー光の第二高調波(YAG2ωレーザー光、波長532nm)116を照射する。YAG2ωレーザー光116の照射エネルギー密度は450mJ・cm−2で、活性半導体膜115上の任意の一点は20回のパルスレーザー光が照射される。
【0089】
YAG2ωレーザー光116を照射すると、YAG2ωレーザー光116の一部は活性半導体膜としての多結晶珪素膜115に吸収されるが、一部のYAG2ωレーザー光117は活性半導体膜としての多結晶珪素膜115に吸収されず透過する。活性半導体膜としての多結晶珪素膜115を透過したYAG2ωレーザー光117は下側絶縁膜としての酸化珪素膜114で反射、干渉された後、下側導電膜113で反射、吸収される。下側導電膜113はYAG2ωレーザー光117を吸収したことにより温度が上昇し、熱を持つようになる。この下側導電膜113の熱118が活性半導体膜115に影響する。また、下側導電膜113で反射されたYAG2ωレーザー光119は下側導電膜113直上の活性半導体膜に吸収されるので、下側導電膜113直上の活性半導体膜では下側導電膜113直上以外の活性半導体膜よりもYAG2ωレーザー光の吸収量が多くなる。このような下側導電膜113でのYAG2ωレーザー光の反射、吸収により、下側導電膜113直上の活性半導体膜の温度は、下側導電膜113直上以外の活性半導体膜の温度よりも高くなる。この活性半導体膜115内の温度差により活性半導体膜の結晶成長が温度が低い領域(下側導電膜113直上以外の活性半導体膜)から温度が高い領域(下側導電膜113直上の活性半導体膜)へと横方向に生じる。最終的に下側導電膜中央直上で二つの結晶が衝突し、そこに結晶の横成長方向に垂直な方向の結晶粒界120ができる。結晶の横成長の大きさは典型的には2μmから2.5μm程度であり、最大で3.5μm程度となる。尚、以上の工程は、本発明にいう結晶化工程に相当する。
(2)図10(b)の工程
YAG2ωレーザー光116の照射による活性半導体膜115の結晶化を行なった後、活性半導体膜115を島状に加工して活性領域を形成する素子分離工程として、フォト・リソグラフィー法により前記活性半導体膜115のパターニングを行う。この素子分離工程では、前記活性領域が前記局所加熱機構に完全に含まれるように前記活性半導体膜115を加工する。上述の位置関係に局所加熱機構と活性領域とを設定しておけば、活性領域内で第1方向(薄膜半導体装置が動作する際の電流方向)を横切る第2方向に延びる結晶粒界(電流を横切る結晶粒界)の数を常に局所加熱機構の中心上付近に一個とすることができる。
【0090】
前記活性半導体膜115上に上側絶縁膜としてECR−PECVD法により酸化珪素膜121を膜厚60nm程度堆積する。その後、下側導電膜113と上側導電膜を電気的に接続する為に、フォト・リソグラフィー法によりコンタクト・ホール122を開ける。前記上側絶縁膜としての酸化珪素膜121上にスパッタリング法により窒化タンタル(TaN)膜を50nm程度堆積し、タンタル(Ta)膜を450nm程度堆積する。その後、フォト・リソグラフィー法により上記TaN膜、Ta膜を下側導電膜の形状と同一になるように加工して上側導電膜123とする。これで下側導電膜113と上側導電膜123は電気的に接続された。この下側導電膜113と上側導電膜123は薄膜半導体装置のゲート電極となり、電気的に接続されているので同電位となる。この様に活性領域の上下にゲート電極が存在するので、活性領域の上側表面と下側表面、または活性領域全体を反転させることが可能となり、薄膜半導体装置の電気特性は窮めて優良となる。
【0091】
次に上記上側導電膜123をマスクとしてドナーまたはアクセプタとなる不純物イオンをイオンドーピング法により打ち込み、ソース領域115a、ドレイン領域115cとチャネル形成領域115bを自己整合的に形成する。そして、ソース領域115a、ドレイン領域115cに添加された不純物元素の活性化を行なう為に、窒素雰囲気下300℃にて4時間の熱処理を施す。その後、層間絶縁膜としてプラズマCVD法(PECVD法)によりTEOS(Si(OCH2CH3)4)と酸素を原料気体とした酸化珪素膜124を膜厚500nm程度堆積する。最後にフォト・リソグラフィー法によりソース・コンタクト・ホール125、ドレイン・コンタクト・ホール126を開けた後に、スパッタリング法によりアルミニウム(Al)を堆積し、フォト・リソグラフィー法によりAlをパターニングしてソース電極127、ドレイン電極128を形成して薄膜半導体装置が完成する。
【0092】
以上説明したように、本第一の実施例によれば、半導体膜が結晶性の良い大粒径の結晶粒から成り、チャネル形成領域の結晶粒界の位置が制御されており、電気特性が良く、短チャネル効果を抑制することができ、電気特性ばらつきの少ない薄膜半導体装置を製造できる。
(実施例2)
図11(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の第二の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す断面工程図である。また、図11(e)は、本発明の第二の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す平面工程図である。以下、この図を参照しつつ本発明の第二の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を(1)、(2)、(3)、(4)に説明する。
(1)図11(a)の工程
基板上に形成された薄膜半導体装置の製造方法において、基板として厚さ1.1mmの石英基板211を用い、前記石英基板211上に下地保護膜として電子サイクロトロン共鳴プラズマ化学気相堆積法(ECR−PECVD法)により酸化珪素膜212を膜厚200nm程度堆積する。前記下地保護膜としての酸化珪素膜212上に低圧化学気相堆積法(LPCVD法)により下側導電膜としての非晶質珪素膜213を膜厚50nm程度堆積する。次に原料ガスとして水素中に希釈された濃度5%程度のフォスフィン(PH3)214を用いてイオンドーピング法によりドナーとなる不純物を前記非晶質珪素膜213に注入する。下側導電膜の電気伝導度を十分に高くする為に、珪素膜中のリン濃度は1×1019cm−3程度から1×1020cm−3程度であることが望ましい。珪素膜中の不純物はリンに限らず、ドナーとしての役割を果たす不純物であれば良い。また、ホウ素などのアクセプターとしての役割を果たす不純物でも良い。
(2)図11(b)の工程
熱処理装置を前記非晶質珪素膜中の不純物汚染から守る為に、前記非晶質珪素膜213上にECR−PECVD法により不純物保護膜としての酸化珪素膜215を膜厚200nm程度堆積した後、窒素雰囲気下600℃にて48時間の熱処理を施して前記非晶質珪素膜213を結晶化して大粒径の多結晶珪素膜213とし、かつ不純物の活性化を行う。
(3)図11(c)の工程
不純物保護膜としての酸化珪素膜215を剥離した後、フォト・リソグラフィー法により前記多結晶珪素膜213をパターニングして下側導電膜213とする。前記下側導電膜213上に下側絶縁膜としてECR−PECVD法により酸化珪素膜216を膜厚160nm程度堆積する。前記下側絶縁膜としての酸化珪素膜216上に活性半導体膜217としてLPCVD法により非晶質珪素膜を膜厚50nm程度堆積し、その後固相成長法により窒素雰囲気下600℃にて48時間の熱処理を施して前記活性半導体膜217としての非晶質珪素膜を結晶化して大粒径の多結晶珪素膜とし、さらに前記活性半導体膜217としての大粒径多結晶珪素膜にキセノン塩素(XeCl)エキシマレーザー(波長308nm)を照射して珪素膜中の欠陥を低減する。前記活性半導体膜としての多結晶珪素膜217側から珪素膜に対する吸収係数が2×10−4nm−1以上且つ1×10−1nm−1以下である光としてQスイッチ発振するNd:YAGレーザー光の第二高調波(YAG2ωレーザー光、波長532nm)218を照射する。YAG2ωレーザー光218の照射エネルギー密度は450mJ・cm−2で、活性半導体膜217上の任意の一点は20回のパルスレーザー光が照射される。
【0093】
YAG2ωレーザー光218を照射すると、YAG2ωレーザー光218の一部は活性半導体膜としての多結晶珪素膜217に吸収されるが、一部のYAG2ωレーザー光219は活性半導体膜としての多結晶珪素膜217に吸収されず透過する。活性半導体膜としての多結晶珪素膜217を透過したYAG2ωレーザー光219は下側絶縁膜としての酸化珪素膜216で反射、干渉された後、下側導電膜213で反射、吸収される。下側導電膜213はYAG2ωレーザー光219を吸収したことにより温度が上昇し、熱を持つようになる。この下側導電膜213の熱220が活性半導体膜217に影響する。また、下側導電膜213で反射されたYAG2ωレーザー光221は下側導電膜213直上の活性半導体膜に吸収されるので、下側導電膜213直上の活性半導体膜では下側導電膜213直上以外の活性半導体膜よりもYAG2ωレーザー光の吸収量が多くなる。このような下側導電膜213でのYAG2ωレーザー光の反射、吸収により、下側導電膜213直上の活性半導体膜の温度は、下側導電膜213直上以外の活性半導体膜の温度よりも高くなる。この活性半導体膜217内の温度差により活性半導体膜の結晶成長は温度が低い領域(下側導電膜213直上以外の活性半導体膜)から温度が高い領域(下側導電膜213直上の活性半導体膜)へと横方向に生じる。最終的に下側導電膜中央直上で二つの結晶が衝突し、そこに結晶の横成長方向に垂直な方向の結晶粒界222ができる。結晶の横成長の大きさは典型的には2μmから2.5μm程度であり、最大で3.5μm程度となる。尚、以上の工程は、本発明にいう結晶化工程に相当する。
(4)図11(d)の工程
YAG2ωレーザー光218の照射による活性半導体膜217の結晶化を行なった後、活性半導体膜217を島状に加工して活性領域を形成する素子分離工程として、フォト・リソグラフィー法により前記活性半導体膜217のパターニングを行う。この素子分離工程では、前記活性領域が前記局所加熱機構に完全に含まれるように前記活性半導体膜217を加工する。上述の位置関係に局所加熱機構と活性領域とを設定しておけば、活性領域内で第1方向(薄膜半導体装置が動作する際の電流方向)を横切る第2方向に延びる結晶粒界(電流を横切る結晶粒界)の数を常に局所加熱機構の中心上付近に一個とすることができる。
【0094】
前記活性半導体膜217上に上側絶縁膜としてECR−PECVD法により酸化珪素膜223を膜厚60nm程度堆積する。その後、下側導電膜213と上側導電膜を電気的に接続する為に、フォト・リソグラフィー法によりコンタクト・ホール224を開ける。前記上側絶縁膜としての酸化珪素膜223上にスパッタリング法により窒化タンタル(TaN)膜を50nm程度堆積し、タンタル(Ta)膜を450nm程度堆積する。その後、フォト・リソグラフィー法により上記TaN膜、Ta膜を下側導電膜の形状と同一になるように加工して上側導電膜225とする。これで下側導電膜213と上側導電膜225は電気的に接続された。この下側導電膜213と上側導電膜225は薄膜半導体装置のゲート電極となり、電気的に接続されているので同電位となる。この様に活性領域の上下にゲート電極が存在するので、活性領域の上側表面と下側表面、または活性領域全体を反転させることが可能となり、薄膜半導体装置の電気特性は窮めて優良となる。
【0095】
次に上記上側導電膜225をマスクとしてドナーまたはアクセプタとなる不純物イオンをイオンドーピング法により打ち込み、ソース領域217a、ドレイン領域217cとチャネル形成領域217bを自己整合的に形成する。そして、ソース領域217a、ドレイン領域217cに添加された不純物元素の活性化を行なう為に、窒素雰囲気下300℃にて4時間の熱処理を施す。その後、層間絶縁膜としてプラズマCVD法(PECVD法)によりTEOS(Si(OCH2CH3)4)と酸素を原料気体とした酸化珪素膜226を膜厚500nm程度堆積する。最後にフォト・リソグラフィー法によりソース・コンタクト・ホール227、ドレイン・コンタクト・ホール228を開けた後に、スパッタリング法によりアルミニウム(Al)を堆積し、フォト・リソグラフィー法によりAlをパターニングしてソース電極229、ドレイン電極230を形成して薄膜半導体装置が完成する。
【0096】
以上説明したように、本第二の実施例によれば、半導体膜が結晶性の良い大粒径の結晶粒から成り、チャネル形成領域の結晶粒界の位置が制御されており、電気特性が良く、短チャネル効果を抑制することができ、電気特性ばらつきの少ない薄膜半導体装置を製造できる。
(実施例3)
図12(a)は、本発明の第三の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す断面工程図である。また、図12(b)は、本発明の第三の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す平面工程図である。以下、この図を参照しつつ本発明の第三の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を(1)、(2)に説明する。
(1)
第二の実施例(1)、(2)、(3)と同様である。
(2)図12(a)の工程
YAG2ωレーザー光の照射による活性半導体膜317の結晶化を行なった後、活性半導体膜317を島状に加工して活性領域を形成する素子分離工程として、フォト・リソグラフィー法により前記活性半導体膜317のパターニングを行う。この素子分離工程では、前記活性領域が前記局所加熱機構に完全に含まれるように前記活性半導体膜317を加工する。上述の位置関係に局所加熱機構と活性領域とを設定しておけば、活性領域内で第1方向(薄膜半導体装置が動作する際の電流方向)を横切る第2方向に延びる結晶粒界(電流を横切る結晶粒界)の数を常に局所加熱機構の中心上付近に一個とすることができる。
【0097】
前記活性半導体膜317上に上側絶縁膜としてECR−PECVD法により酸化珪素膜323を膜厚60nm程度堆積する。前記上側絶縁膜としての酸化珪素膜323上にスパッタリング法により窒化タンタル(TaN)膜を50nm程度堆積し、タンタル(Ta)膜を450nm程度堆積する。その後、フォト・リソグラフィー法により上記TaN膜、Ta膜を下側導電膜の形状と同一になるように加工して上側導電膜325とする。この下側導電膜313と上側導電膜325は薄膜半導体装置のゲート電極となる。この様に活性領域の上下に導電膜が存在するので、ソース電極とドレイン電極を合わせて4端子の薄膜半導体装置とする事ができる。活性領域の上下にゲート電極が存在するので、活性領域の上側表面と下側表面、または活性領域全体を反転させることが可能となり、薄膜半導体装置の電気特性は窮めて優良となる。また、この第三の実施例では、上側導電膜と下側導電膜は電気的に独立しているので、上側導電膜と下側導電膜への電位の掛け方によっては、一般的な薄膜半導体装置の様に活性領域の片側のみを反転させることも可能であるので、薄膜半導体装置の特性を用途によって変えることも可能である。更に、上側導電膜と下側導電膜への電位の掛け方を調整することによって、薄膜半導体装置の閾値電圧を調整することも可能である。
【0098】
次に上記上側導電膜325をマスクとしてドナーまたはアクセプタとなる不純物イオンをイオンドーピング法により打ち込み、ソース領域317a、ドレイン領域317cとチャネル形成領域317bを自己整合的に形成する。そして、ソース領域317a、ドレイン領域317cに添加された不純物元素の活性化を行なう為に、窒素雰囲気下300℃にて4時間の熱処理を施す。その後、層間絶縁膜としてプラズマCVD法(PECVD法)によりTEOS(Si(OCH2CH3)4)と酸素を原料気体とした酸化珪素膜326を膜厚500nm程度堆積する。最後にフォト・リソグラフィー法によりソース・コンタクト・ホール327、ドレイン・コンタクト・ホール328を開けた後に、スパッタリング法によりアルミニウム(Al)を堆積し、フォト・リソグラフィー法によりAlをパターニングしてソース電極329、ドレイン電極330を形成して薄膜半導体装置が完成する。
【0099】
以上説明したように、本第三の実施例によれば、半導体膜が結晶性の良い大粒径の結晶粒から成り、チャネル形成領域の結晶粒界の位置が制御されており、電気特性が良く、短チャネル効果を抑制することができ、電気特性ばらつきの少ない薄膜半導体装置を製造できる。
【0100】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、半導体膜が結晶性の良い大粒径の結晶粒から成り、チャネル形成領域の結晶粒界の位置が制御されており、電気特性が良く、短チャネル効果を抑制することができ、電気特性ばらつきの少ない薄膜半導体装置を製造できる。
【0101】
また、本発明の薄膜半導体装置の製造方法によると、安価なガラス基板の使用が可能となる低温プロセスを用いて高性能な薄膜半導体装置を容易に且つ安定的に製造することができるという効果がある。
【0102】
従って、本発明の薄膜半導体装置の製造方法をアクティブ・マトリックス液晶表示装置や有機EL表示装置に適用した場合には、大型で高品質な表示装置を容易に且つ安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明の薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図5】本発明の薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図6】光の波長と半導体における吸収係数との関係を説明した図である。
【図7】レーザー光の照射形状を説明した図である。
【図8】本発明のレーザー光の照射形状を説明した図である。
【図9】本発明のレーザー光の照射形状を説明した図である。
【図10】本発明の第一の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図11】本発明の第二の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図12】本発明の第三の実施例による薄膜半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
111、211、311…石英基板
112、212、312…下地保護膜
113、213、313…下側導電膜
114、216、316…下側絶縁膜
115、217、317…活性半導体膜
115a、217a、317a…ソース領域
115b、217b、317b…チャネル形成領域
115c、217c、317c…ドレイン領域
116、218…YAG2ωレーザー光
117、219…活性半導体膜を透過したYAG2ωレーザー光
118、220…下側導電膜の熱
119、221…下側導電膜で反射したYAG2ωレーザー光
120、222、322…結晶粒界
121、223、323…上側絶縁膜
122、224…上側導電膜と下側導電膜間のコンタクト・ホール
123、225、325…上側導電膜
124、226、326…層間絶縁膜
125、227、327…ソース電極とソース領域間のコンタクト・ホール
126、228、328…ドレイン電極とドレイン領域間のコンタクト・ホール
127、229、329…ソース電極
128、230、330…ドレイン電極
214…水素中に希釈された濃度5%程度のフォスフィン(PH3)
215…不純物保護膜
Claims (5)
- 基板上に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜をパターニングし下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第1絶縁膜上に第1半導体膜を形成する工程と、
固相成長法により熱処理を施して前記第1半導体膜を多結晶珪素膜に変化させる工程と、
多結晶珪素膜に変化させた前記第1半導体膜にエキシマレーザー光を照射して前記第1半導体膜中の欠陥を低減し、前記下部電極と重ならない位置に第1結晶粒を有し前記下部電極と重なる位置に前記第1結晶粒より大きい第2結晶粒を有する第2半導体膜を形成する工程と、
前記第2半導体膜をパターニングして前記下部電極と一部が重なる第3半導体膜を形成する工程と、
前記第3半導体膜上に第2絶縁膜を形成する工程と、
前記第2絶縁膜上に前記下部電極と一部が重なるようにゲート電極を形成する工程と、
を含み、
前記第2半導体膜を形成する工程は、前記第1半導体膜に、波長が370nm以上710nm以下のパルスレーザー光を照射し、前記第1半導体膜を透過した透過光が前記下部電極で反射し前記第1半導体膜に照射されることで、又は前記第1半導体膜を透過した透過光が前記下部電極で吸収され前記第1半導体膜を加熱することで、前記下部電極上の前記第1半導体膜が溶融した状態で、非溶融部である前記下部電極周辺部上の前記第1半導体膜からエピタキシャル成長の形態で、結晶粒を前記下部電極の中心上の前記第1半導体膜部位に向かって成長させる工程を含み、
前記第3半導体膜と重なる位置において、平面視において、前記ゲート電極が前記下部電極の内側に位置するよう前記下部電極と重なるものであり、さらに、前記ゲート電極を形成する工程において、平面視において、前記第3半導体膜の前記下部電極と重なる領域の中心に前記第3半導体膜のチャネル幅方向に延在する結晶粒界がひとつ存在し、前記第3半導体膜の前記下部電極と重なる領域と前記第3半導体膜の前記下部電極と重ならない領域との境と、前記結晶粒界と、の間に位置するよう、前記ゲート電極の一端が形成されるものであることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。 - 請求項1に記載の製造方法において、
前記ゲート電極を形成する工程の前に、前記第1絶縁膜の前記下部電極と重なる部分の一部と、前記第2絶縁膜の前記下部電極と重なる部分の一部と、を除去し、コンタクトホールを形成する工程、を含み、
前記ゲート電極を形成する工程において、前記コンタクトホールを介して前記下部電極と前記ゲート電極とが電気的に接続されることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。 - 請求項1および2のいずれか一項に記載の製造方法において、
前記光が波長532nmのYAG2ωレーザー光であることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。 - 請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法において、
前記下部電極が金属膜であることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。 - 請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法において、
前記下部電極が多結晶珪素膜であることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
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