以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両に搭載された、前進6速段、後進1速段の同期噛み合い式手動変速機(マニュアルトランスミッション)に本発明を適用した場合について説明する。
−手動変速機のギヤレイアウト−
図1は本実施形態に係る手動変速機のギヤレイアウトの一部を断面で示した側面図である。この図1に示すギヤレイアウトは、図示しないトランスミッションケース内に収容されていると共に、互いに平行に配置されたインプットシャフト1、アウトプットシャフト2およびリバースシャフト3(図1では2点鎖線で示している)が、トランスミッションケースによって回転自在に支持されている。
上記インプットシャフト1は、図示しないエンジンのクランクシャフトにクラッチ機構を介して連結されており、このクラッチ機構の係合動作によりエンジンの回転駆動力が入力されるようになっている。
上記インプットシャフト1とアウトプットシャフト2との間には、前進1速段〜前進6速段および後進段の各変速段を成立させるための複数の変速ギヤ列4〜10が設けられている。具体的には、前進段用のギヤ列として、図1において右側から軸線方向左側に向かって、1速ギヤ列4、2速ギヤ列5、3速ギヤ列6、4速ギヤ列7、5速ギヤ列8および6速ギヤ列9が順に配設されている。また、後進段用のギヤ列として、リバースギヤ列10が配設されている。
1速ギヤ列4は、インプットシャフト1に回転一体に取り付けられた1速ドライブギヤ4aと、アウトプットシャフト2に対して相対回転自在に組み付けられた1速ドリブンギヤ4bとを備えており、これら1速ドライブギヤ4aと1速ドリブンギヤ4bとは互いに噛み合っている。
2速ギヤ列5は、インプットシャフト1に回転一体に取り付けられた2速ドライブギヤ5aと、アウトプットシャフト2に対して相対回転自在に組み付けられた2速ドリブンギヤ5bとを備えており、これら2速ドライブギヤ5aと2速ドリブンギヤ5bとは互いに噛み合っている。
3速ギヤ列6は、インプットシャフト1に相対回転自在に組み付けられた3速ドライブギヤ6aと、アウトプットシャフト2に回転一体に取り付けられた3速ドリブンギヤ6bとを備えており、これら3速ドライブギヤ6aと3速ドリブンギヤ6bとは互いに噛み合っている。
4速ギヤ列7は、インプットシャフト1に相対回転自在に組み付けられた4速ドライブギヤ7aと、アウトプットシャフト2に回転一体に取り付けられた4速ドリブンギヤ7bとを備えており、これら4速ドライブギヤ7aと4速ドリブンギヤ7bとは互いに噛み合っている。
5速ギヤ列8は、インプットシャフト1に相対回転自在に組み付けられた5速ドライブギヤ8aと、アウトプットシャフト2に回転一体に取り付けられた5速ドリブンギヤ8bとを備えており、これら5速ドライブギヤ8aと5速ドリブンギヤ8bとは互いに噛み合っている。
6速ギヤ列9は、インプットシャフト1に相対回転自在に組み付けられた6速ドライブギヤ9aと、アウトプットシャフト2に回転一体に取り付けられた6速ドリブンギヤ9bとを備えており、これら6速ドライブギヤ9aと6速ドリブンギヤ9bとは互いに噛み合っている。
上記各変速ギヤ列の切り換え動作(変速動作)は、3つのシンクロメッシュ機構(同期装置)11,12,13によって行われる。尚、本実施形態では周知のダブルコーン式のものを例に挙げて図示している。
第1のシンクロメッシュ機構11は、1速ドリブンギヤ4bと2速ドリブンギヤ5bとの間におけるアウトプットシャフト2上に設けられている。つまり、この第1のシンクロメッシュ機構11が1速ドリブンギヤ4b側に作動すると、この1速ドリブンギヤ4bがアウトプットシャフト2に回転一体に連結され、1速ドライブギヤ4aと1速ドリブンギヤ4bとの間で、インプットシャフト1からアウトプットシャフト2への動力伝達が行われることになる(第1変速段の成立)。一方、第1のシンクロメッシュ機構11が2速ドリブンギヤ5b側に作動すると、この2速ドリブンギヤ5bがアウトプットシャフト2に回転一体に連結され、2速ドライブギヤ5aと2速ドリブンギヤ5bとの間で、インプットシャフト1からアウトプットシャフト2への動力伝達が行われることになる(第2変速段の成立)。
第2のシンクロメッシュ機構12は、3速ドライブギヤ6aと4速ドライブギヤ7aとの間におけるインプットシャフト1上に設けられている。つまり、この第2のシンクロメッシュ機構12が3速ドライブギヤ6a側に作動すると、この3速ドライブギヤ6aがインプットシャフト1に回転一体に連結され、3速ドライブギヤ6aと3速ドリブンギヤ6bとの間で、インプットシャフト1からアウトプットシャフト2への動力伝達が行われることになる(第3変速段の成立)。一方、第2のシンクロメッシュ機構12が4速ドライブギヤ7a側に作動すると、この4速ドライブギヤ7aがインプットシャフト1に回転一体に連結され、4速ドライブギヤ7aと4速ドリブンギヤ7bとの間で、インプットシャフト1からアウトプットシャフト2への動力伝達が行われることになる(第4変速段の成立)。
第3のシンクロメッシュ機構(本発明でいう同期装置)13は、5速ドライブギヤ8aと6速ドライブギヤ9aとの間におけるインプットシャフト1上に設けられている。つまり、この第3のシンクロメッシュ機構13が5速ドライブギヤ8a側に作動すると、この5速ドライブギヤ8aがインプットシャフト1に回転一体に連結され、5速ドライブギヤ8aと5速ドリブンギヤ8bとの間で、インプットシャフト1からアウトプットシャフト2への動力伝達が行われることになる(第5変速段の成立)。一方、第3のシンクロメッシュ機構13が6速ドライブギヤ9a側に作動すると、この6速ドライブギヤ9aがインプットシャフト1に回転一体に連結され、6速ドライブギヤ9aと6速ドリブンギヤ9bとの間で、インプットシャフト1からアウトプットシャフト2への動力伝達が行われることになる(第6変速段の成立)。
このようにして、前進時には、シフトチェンジ動作時を除いて、上記インプットシャフト1の回転駆動力が、上述したシンクロメッシュ機構11,12,13のうちの何れか一つの作動によって選択された一つの変速ギヤ列4〜9を介してアウトプットシャフト2へ伝達される。尚、シンクロメッシュ機構11,12,13としてはダブルコーン式のものに限定されず、他の方式のものを採用してもよい。
一方、リバースギヤ列10は、上記インプットシャフト1に回転一体に取り付けられたリバースドライブギヤ10aと、アウトプットシャフト2に回転一体に組み付けられたリバースドリブンギヤ10bと、上記リバースシャフト3に対してスライド移動自在に組み付けられたリバースアイドラギヤ10c(図1では2点鎖線で示している)とを備えている。これらギヤ10a,10b,10cは前進時には動力伝達を行っておらず、後進時においては、全てのシンクロメッシュ機構11,12,13が中立状態に設定され、リバースアイドラギヤ10cがリバースシャフト3の軸線方向に沿って移動することにより、上記リバースドライブギヤ10aとリバースドリブンギヤ10bとの両方に噛み合うことで、リバースドライブギヤ10aの回転方向を逆転させてリバースドリブンギヤ10bに伝達することになる。これにより、アウトプットシャフト2が上記前進段の場合とは逆方向に回転し、駆動輪は後退方向に回転する。尚、上記リバースドリブンギヤ10bは上記第1のシンクロメッシュ機構11の外周側に回転一体に配設されている。
このようにして所定の変速比で変速または逆回転されてアウトプットシャフト2に伝達された回転駆動力は、ファイナルドライブギヤ15aとファイナルドリブンギヤ15bとから成るファイナルリダクションギヤ列15の終減速比によって減速された後、ディファレンシャル装置16へ伝達される。これによって、駆動輪(図示省略)が前進方向または後進方向に回転する。
−シフトパターン−
図2は、本実施形態における6速マニュアルトランスミッションのシフトパターン(シフトゲート形状)の概略を示している。図中2点鎖線で示すシフトレバーLは、図2に矢印Xで示す方向のセレクト操作と、このセレクト操作方向に直交する矢印Yで示す方向のシフト操作とが行い得る形状に構成されている。
セレクト操作方向には、1速−2速セレクト位置P1,3速−4速セレクト位置P2,5速−6速セレクト位置P3およびリバースセレクト位置P4が一列に並んでいる。
上記1速−2速セレクト位置P1でのシフト操作(矢印Y方向の操作)により、シフトレバーLを1速位置1stまたは2速位置2ndに動かすことができる。1速位置1stに操作された場合、上記第1のシンクロメッシュ機構11は1速ドリブンギヤ4b側に作動し、この1速ドリブンギヤ4bがアウトプットシャフト2に回転一体に連結される。また、2速位置2ndに操作された場合、上記第1のシンクロメッシュ機構11は2速ドリブンギヤ5b側に作動し、この2速ドリブンギヤ5bがアウトプットシャフト2に回転一体に連結される。
同様に、3速−4速セレクト位置P2でのシフト操作により、シフトレバーLを3速位置3rdまたは4速位置4thに動かすことができる。3速位置3rdに操作された場合、上記第2のシンクロメッシュ機構12は3速ドライブギヤ6a側に作動し、この3速ドライブギヤ6aがインプットシャフト1に回転一体に連結される。また、4速位置4thに操作された場合、上記第2のシンクロメッシュ機構12は4速ドライブギヤ7a側に作動し、この4速ドライブギヤ7aがインプットシャフト1に回転一体に連結される。
また、5速−6速セレクト位置P3でのシフト操作により、シフトレバーLを5速位置5thまたは6速位置6thに動かすことができる。5速位置5thに操作された場合、上記第3のシンクロメッシュ機構13は5速ドライブギヤ8a側に作動し、この5速ドライブギヤ8aがインプットシャフト1に回転一体に連結される。また、6速位置6thに操作された場合、上記第3のシンクロメッシュ機構13は6速ドライブギヤ9a側に作動し、この6速ドライブギヤ9aがインプットシャフト1に回転一体に連結される。
更に、リバースセレクト位置P4でのシフト操作により、シフトレバーLをリバース位置REVに動かすことができる。このリバース位置REVに操作された場合、上記全てのシンクロメッシュ機構11,12,13が中立状態となると共に、上記リバースアイドラギヤ10cがリバースシャフト3の軸線方向に沿って移動して上記リバースドライブギヤ10aおよびリバースドリブンギヤ10bに噛み合うことになる。
−セレクト・シフト機構−
次に、上述したシフトレバーLを操作することで前進1速段〜前進6速段および後進段の各変速段を成立させるためにシフトレバーLの操作力を各シンクロメッシュ機構11,12,13やリバースアイドラギヤ10cに、選択的に伝達するためのセレクト・シフト機構について説明する。
図3は、このセレクト・シフト機構における各前進段用係合部22,23,24およびその周辺部をシフトセレクトシャフト20の軸線方向から見た断面図である。尚、この図3において、符号22は1速−2速用フォークシャフト51に設けられた1速−2速用の前進段用係合部、符号23は3速−4速用フォークシャフト52に設けられた3速−4速用の前進段用係合部、符号24は5速−6速用フォークシャフト53に設けられた5速−6速用の前進段用係合部である。図4は、5速−6速用フォークシャフト53と第3のシンクロメッシュ機構13との係合部分を示す断面図である。図5は、各フォークシャフト51,52,53に設けられたシフトフォーク31,32,33およびその周辺部をシフトセレクトシャフト20の軸線方向から見た断面図である。
これらの図に示すように、セレクト・シフト機構では、シフトレバーLが図示しないセレクトケーブルおよびシフトケーブルによりシフトセレクトシャフト20(図3および図5を参照)に操作力の伝達が可能に連結されている。これにより、シフトセレクトシャフト20は、シフトレバーLのセレクト操作に応じて軸線回り(図3および図5に矢印Mで示す方向)に回動し、シフトレバーLのシフト操作に応じて軸線方向(図3および図5における紙面垂直方向)ヘスライド移動するようになっている。すなわち、シフトレバーLに対するセレクト操作力(図2に矢印Xで示す方向の操作力)がセレクトケーブルを経てシフトセレクトシャフト20の軸線回りの回動力として、また、シフトレバーLに対するシフト操作力(図2に矢印Yで示す方向の操作力)がシフトケーブルを経てシフトセレクトシャフト20の軸線方向のスライド移動力としてそれぞれ伝達される。尚、図3における符号27は、シフトレバーLのセレクト操作力を、セレクトケーブルを介して受け、シフトセレクトシャフト20に対して軸線回りの回動力を与えるためのセレクトインナレバーである。
また、各シンクロメッシュ機構11,12,13に備えられている各スリーブ13a(図4参照)にはそれぞれに対応して配設されたシフトフォーク33(図4では3本のシフトフォーク31,32,33のうち5速−6速用のシフトフォーク33のみを示している)が係合されており、これらシフトフォーク33の基端部分は、それぞれに対応して設けられた前進段用のフォークシャフト53(図4では3本のフォークシャフト51,52,53のうち5速−6速用のフォークシャフト53のみを示している)によってそれぞれ支持されている。そして、シフトレバーLのセレクト操作に応じたシフトセレクトシャフト20の軸線回りの回動によって1本のフォークシャフト53(51,52)がシフト操作力の伝達が可能に選択され、シフトレバーLのシフト操作に応じたシフトセレクトシャフト20のスライド移動によって、選択された1本のフォークシャフト53(51,52)が軸線方向にスライド移動し、このフォークシャフト53(51,52)に設けられた1本のシフトフォーク33(31,32)を介して所定の一つのシンクロメッシュ機構13(11,12)を作動させるようになっている。
図3に示すように、1本のフォークシャフト52(51,53)を選択するためのシフトインナレバー21は、シフトセレクトシャフト20の外周に外嵌固定された筒部(基部)21aと、この筒部21aから径方向に延在したアーム部21bとを有している。また、上記シフトセレクトシャフト20から筒部21aに亘って係合ピンPが挿通されており、シフトインナレバー21はシフトセレクトシャフト20に対して回転一体且つスライド移動一体に連結されている。
上記シフトインナレバー21の筒部21aには、軸線方向に相対移動可能に且つ軸線回りに相対回動不能にインターロックプレート(インターロック部材)26が外嵌されている。このインターロックプレート26には、シフトインナレバー21のアーム部21bの回動方向両側に摺接する相対向する一対の案内面からなる係合片通路26cが軸線方向に延在して形成されている。そして、この係合片通路26cの案内面同士の間隔は、シフトインナレバー21のアーム部21bに係合されて軸線方向に移動されるヘッド22a,23a,24aが同時に複数個通過することを規制するもの、つまり、1つのヘッド23a(22a,24a)の通過のみを許容するものとなっている。尚、インターロックプレート26は、上記したように、シフトインナレバー21の筒部21aに対して軸線方向に相対移動可能であるが、トランスミッションケースに対しては軸線方向に移動不能に設けられている。
また、シフトレバーLが、図2に矢印Xで示すセレクト方向にセレクト操作されると、その操作力がセレクトケーブルにより上記セレクトインナレバー27を介してシフトセレクトシャフト20に伝達されて、このシフトセレクトシャフト20は回動され、そのシフトレバーLの操作位置に応じた回動位置となる。図3では、シフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2に操作されたときのシフトセレクトシャフト20およびシフトインナレバー21の回動位置を示している。
また、シフトレバーLが、図2に矢印Yで示すシフト方向にシフト操作されると、その操作力がシフトケーブルによりシフトセレクトシャフト20に伝達されて、このシフトセレクトシャフト20が軸線方向(図3の紙面に直交する方向)にスライド移動し、そのシフトレバーLの操作位置に応じたスライド位置となる。
一方、各シンクロメッシュ機構11,12,13に対応して配設された各フォークシャフト51,52,53(図3では、1速−2速用のフォークシャフト51、3速−4速用のフォークシャフト52、5速−6速用のフォークシャフト53を示し、図4では5速−6速用のフォークシャフト53のみを示している)には、シフトインナレバー21のアーム部21bの回動経路を挟んで軸線方向の両側に配設された各一対のヘッド(前進段用係合片)22a,23a,24aを有する上記前進段用係合部22,23,24がそれぞれ配置されている。また、各フォークシャフト51,52,53から各前進段用係合部22,23,24に亘ってそれぞれ係合ピンPが挿通されており、各前進段用係合部22,23,24は各フォークシャフト51,52,53に対してスライド移動一体に連結されている。
また、上記各ヘッド22a,23a,24aは、セレクト操作に応じてシフトインナレバー21のアーム部21bが選択的に係合可能な位置に配置され、選択されたヘッド22a,23a,24aは、このアーム部21bによってシフトセレクトシャフト20の軸線方向に係合移動されるようになっている。各一対のヘッド22a,22a、23a,23a、24a,24aの中立位置から上記軸線方向への移動、つまり、各一対のヘッド22a,22a、23a,23a、24a,24aを有する各前進段用係合部22,23,24の中立位置から上記軸線方向への移動は、シンクロメッシュ機構11,12,13の作動およびその後の前進段への変速動作の実行にそれぞれ連動されるようになっている。
更に、図5に示すように、上記シフトセレクトシャフト20には、リバース用レバー25が回転一体且つスライド移動一体に設けられている。また、このシフトセレクトシャフト20が回動する際のリバース用レバー25の回動軌跡上に隣接してリバースヘッド28aを備えたリバースアーム(後進段用シフト部材)28が配設されている。このリバースアーム28は、リバースヘッド28aが形成されている側とは反対側の先端部分が上記リバースアイドラギヤ10cに係合されている。このため、シフトレバーLが、図2におけるリバースセレクト位置P4までセレクト操作された場合には、リバース用レバー25がリバースヘッド28aに対向する位置まで回動されることになる(図5の仮想線を参照)。この状態からシフトレバーLがリバース位置REVにシフト操作されると、例えばリバース用レバー25が図5において紙面奥側に移動され、リバース用レバー25がリバースヘッド28aに当接してリバースアーム28をシフトセレクトシャフト20の軸線に沿う方向(リバースのシフト方向と呼ぶ)に移動させ、これにより上記リバースアイドラギヤ10cがリバースシャフト3の軸線方向に移動して上記リバースドライブギヤ10aおよびリバースドリブンギヤ10bにそれぞれ噛み合うようになっている。
上記シフトレバーLが、中立位置(本実施形態では、3速−4速セレクト位置P2)にあり、何れの変速段も成立していない状態では、シフトインナレバー21のアーム部21bも軸線方向および回動方向の中立位置にあり、各ヘッド22a,22a、23a,23a、24a,24aは、このアーム部21bの回動経路の両側に沿って隣接配置される。
そして、上述したシフトレバーLのセレクト操作に応じ、シフトセレクトシャフト20と連動してシフトインナレバー21のアーム部21bが回動し、シフトレバーLのセレクト位置に応じた回動位置に配置されているヘッド22a,23a,24aと係合可能な位置に選択的に配置される。例えば、シフトレバーLが1速−2速セレクト位置P1に操作された場合にはシフトインナレバー21のアーム部21bは1速−2速用フォークシャフト51に設けられた前進段用係合部22のヘッド22aと係合可能に配置され、シフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2に操作された場合にはシフトインナレバー21のアーム部21bは3速−4速用フォークシャフト52に設けられた前進段用係合部23のヘッド23aと係合可能に配置され、シフトレバーLが5速−6速セレクト位置P3に操作された場合にはシフトインナレバー21のアーム部21bは5速−6速用フォークシャフト53に設けられた前進段用係合部24のヘッド24aに係合可能に配置される。また、シフトレバーLがリバースセレクト位置P4に操作された場合には、シフトセレクトシャフト20が図5における反時計回り方向に回動することで上記リバース用レバー25がリバースアーム28のリバースヘッド28aに係合可能に配置される。
このようにして何れかの前進段用のヘッド23a(22a,24a)にシフトインナレバー21のアーム部21bが係合可能に配置されることで、一つのフォークシャフト52(51,53)が操作力伝達可能に選択される。または、リバースアーム28のリバースヘッド28aにリバース用レバー25が係合可能に配置される。
この状態から、シフトレバーLがシフト方向に操作されると、その操作力がシフトケーブルによりシフトセレクトシャフト20に伝達される。これにより、シフトセレクトシャフト20がその軸線方向にスライド移動する。そして、シフトインナレバー21のアーム部21bが何れかの(前進段用)ヘッド23a(22a,24a)に係合している場合には、その係合しているヘッド23a(22a,24a)とともに、そのヘッド23a(22a,24a)が設けられている何れかの前進段用係合部23(22,24)およびこれに連動するフォークシャフト52(51,53)をスライド移動させることで何れかのシンクロメッシュ機構12(11,13)が作動することになる。
また、リバース用レバー25がリバースヘッド28aに係合している場合には、このリバースヘッド28aとともにリバースアーム28を軸線方向にスライド移動させることで、リバースアーム28がリバースアイドラギヤ10cをリバースシャフト3の軸線方向に移動させることになる。
例えば図3に示すようにシフトインナレバー21のアーム部21bが、3速−4速用フォークシャフト52に設けられた前進段用係合部23のヘッド23aに係合可能に配置されている状態から、シフトレバーLが3速位置3rdにシフト操作された場合には、シフトセレクトシャフト20が図3の紙面奥側に移動し、これに伴ってアーム部21b、前進段用係合部23、3速−4速用フォークシャフト52および3速−4速用シフトフォーク32が同方向に移動することで、第2のシンクロメッシュ機構12が3速ドライブギヤ6a側に作動して3段変速が成立する。また、この図3に示す状態からシフトレバーLが4速位置4thにシフト操作された場合には、シフトセレクトシャフト20が図3の紙面手前側に移動し、これに伴ってアーム部21b、前進段用係合部23、3速−4速用フォークシャフト52および3速−4速用シフトフォーク32も同方向に移動することで、第2のシンクロメッシュ機構12が4速ドライブギヤ7a側に作動して4段変速が成立することになる。
図4は、5速−6速用フォークシャフト53と第3のシンクロメッシュ機構13との係合部分を示す断面図である。この図に示すように、フォークシャフト53には2点鎖線で示す連結部30aを介して上記シフトフォーク33が取り付けられており、このシフトフォーク33の先端部が第3のシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aに係合されている。
また、フォークシャフト53には5速段−中立位置−6速段に対応した3個のロックボール溝41,42,43が形成され、これらロックボール溝41,42,43の何れかに、フォークシャフト53側に押圧されている1個のロックボール44が選択的に嵌入され得るようになっている。ロックボール44は、トランスミッションケースCに形成された孔C1の内部に収容され、同じく孔C1に収容されたプラグ45によって係止された圧縮状態のコイルスプリング46によりフォークシャフト53側に押圧されている。これらの構成により、ギヤ抜け防止と節度感が得られるようになっている。
各前進段用係合部22,23,24が設けられたフォークシャフト51,52,53が上記中立位置から軸線方向へ僅かに移動すると、ロックボール44がロックボール溝42から完全に離脱しない限り、ロックボール44がロックボール溝42側に押圧されていることによりフォークシャフト53およびこれに固定されている前進段用係合部22,23,24(ヘッド22a,23a,24a)に対し、中立位置に復帰させようとする中立位置復帰力が作用する。
また、図4に示すように、シンクロメッシュ機構13においては、シンクロナイザーハブ17の外径側に、周方向に等間隔をおいて複数のシンクロナイザーキー18が配設されており、各シンクロナイザーキー18の中央部に外周側に突出して形成された突起18aが、スリーブ13aの内周面に形成された周方向の溝13bに係合されている。シンクロナイザーキー18は、シンクロナイザーハブ17の内部に配設されたキースプリング19によってスリーブ13aの内周面に押し付けられている。かかる構成によっても、上記ロックボール44等からなる機構と同様に、ヘッド22a,23a,24aおよびフォークシャフト53が上記中立位置から軸線方向へ僅かに移動すると、シンクロナイザーキー18の突起18aがスリーブ13aの内周面に形成された溝13bから完全に離脱しない限り、シンクロナイザーキー18がスリーブ13aの内周面に押圧されていることによりスリーブ13aに対し、中立位置に復帰させようとする中立位置復帰力が作用する。
尚、1速−2速用フォークシャフト51と第1のシンクロメッシュ機構11との係合部分、3速−4速用フォークシャフト52と第2のシンクロメッシュ機構12との係合部分も同様の構成となっている。
−ギヤ鳴り防止装置の構成−
次に、本実施形態に係る手動変速機のギヤ鳴り防止装置の特徴部分について説明する。このギヤ鳴り防止装置は、リバースシフトギヤ鳴りの発生を防止するためのものであって、リバースシフト操作に際して、シンクロメッシュ機構を作動させて(例えば第3のシンクロメッシュ機構13を6速段成立側に作動させて)インプットシャフト1の回転を十分に低下または停止させた上で、インプットシャフト1とアウトプットシャフト2との連繋を行うものである。本実施形態では、第3のシンクロメッシュ機構13を作動させることにより、ギヤ鳴りを防止するギヤ鳴り防止装置を例に挙げて説明するが、ギヤ鳴り防止に利用するシンクロメッシュ機構は、第3のシンクロメッシュ機構13以外であってもよい。尚、図6では、シフトセレクトシャフト20の第1ヘッド61と3速−4速用フォークシャフト52の第2ヘッド62と5速−6速用フォークシャフト53の第3ヘッド63との軸線方向の位置関係を示すために、シフトセレクトシャフト20と3速−4速用フォークシャフト52と5速−6速用フォークシャフト53とを同一平面上に示しているが、これらシフトセレクトシャフト20と3速−4速用フォークシャフト52と5速−6速用フォークシャフト53とは実際には同一平面上にはない。
図5、図6に示すように、ギヤ鳴り防止装置は、上記シフトセレクトシャフト20に備えられた第1ヘッド(第1ヘッド部材、セレクト操作力伝達部材)61、3速−4速用フォークシャフト52に備えられた第2ヘッド(中間ヘッド部材、セレクト操作力伝達部材)62、5速−6速用フォークシャフト53に備えられた第3ヘッド(プレボーク用ヘッド部材、セレクト操作力伝達部材)63を備えている。これら各ヘッド61,62,63は、上記シフトインナレバー21や各前進段用係合部22,23,24で構成される上記セレクト・シフト機構の配設位置から外れた位置(シフトセレクトシャフト20の軸線方向において上記セレクト・シフト機構の配設位置から所定間隔を存した位置)に配設されている。
上記第1ヘッド61は、シフトセレクトシャフト20に対して相対回転自在に外嵌されている。つまり、この第1ヘッド61は、シフトセレクトシャフト20から独立して回動が可能に配設されている。詳しくは、この第1ヘッド61には、シフトセレクトシャフト20の外周囲を囲むように円筒形状に形成されたスリーブ部61aと、このスリーブ部61aの外周面の一部から外周側に向けて延びる押圧爪部61bと、同じくスリーブ部61aの外周面の一部から外周側に向けて延びる係止爪部61cとを備えている。
上記スリーブ部61aの中央部には開口61dが形成されている。この開口61dの内径寸法は、上記シフトセレクトシャフト20の外径寸法に一致するか、または、このシフトセレクトシャフト20の外径寸法よりも僅かに大きく設定されている。そして、この開口61dにシフトセレクトシャフト20が挿通されていることで、この第1ヘッド61はシフトセレクトシャフト20に対して相対回転自在に支持されている。
また、上記押圧爪部61bは、シフトセレクトシャフト20の軸線に沿う方向から見た形状(図5に示す形状)が、外周側に向かって先細りとなる略台形状に形成されている。図5に示す押圧爪部61bの位置のうち、実線で示すものはシフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2にある状態である。また、2点鎖線で示すものはシフトレバーLがリバースセレクト位置P4にある場合に、それに対応した位置(後述するトーションスプリング64による移動量の吸収動作が行われていない状態での位置)である。つまり、シフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2からリバースセレクト位置P4までセレクト操作されると、それに従って押圧爪部61bは図中の実線で示す位置から2点鎖線で示す位置まで回動するようになっている。
また、上記係止爪部61cは、上記シフトセレクトシャフト20やリバース用レバー25と一体的に回転するように配設された位置決めピン81(この位置決めピン81の配設状態については後述する)に当接することによって、この第1ヘッド61の回動位置を規制するためのものである。
そして、上記シフトセレクトシャフト20上であって、上記リバース用レバー25と第1ヘッド61との間にはコイルスプリングで成るトーションスプリング64が巻き掛けられており、このトーションスプリング64によって、上記第1ヘッド61に対して図5における反時計回り方向の付勢力が付与されている。具体的には、上記リバース用レバー25にはスプリング係止孔25aが形成されており、トーションスプリング64の一端部が、このスプリング係止孔25aに挿通されることで係止されている。一方、上記第1ヘッド61におけるスリーブ部61aと押圧爪部61bとの境界部分には段部61eが形成されており、トーションスプリング64の他端部が、この段部61eに係止されている。そして、このトーションスプリング64は、外径寸法が小さくなるように周方向に弾性変形された状態で、各端部が上記スプリング係止孔25aおよび段部61eにそれぞれ係止されている。これにより、第1ヘッド61に対して図5における反時計回り方向の付勢力が作用するようにトーションスプリング64は配設されている。
また、図6に示すように、第1ヘッド61に隣接してセレクトストッパブロック80が配設されている。このセレクトストッパブロック80は、第1ヘッド61に対して上記リバース用レバー25の配設位置とは反対側(図6における左側)の位置に配設されていると共に、上記シフトセレクトシャフト20に対して回転一体且つスライド移動一体に取り付けられている。その取付構造としては、例えばシフトセレクトシャフト20からセレクトストッパブロック80に亘って係合ピンPが挿通されている。また、上述したリバース用レバー25をシフトセレクトシャフト20に対して回転一体且つスライド移動一体に取り付ける構造としても、例えばシフトセレクトシャフト20からリバース用レバー25に亘って係合ピンPが挿通されている。
そして、このセレクトストッパブロック80と上記リバース用レバー25との間には位置決めピン81が掛け渡されている。つまり、セレクトストッパブロック80およびリバース用レバー25には、ピン挿入孔80a,25bがそれぞれ形成されており、これらピン挿入孔80a,25bに亘って位置決めピン81が挿入されて支持されている。これにより、シフトセレクトシャフト20の回動に伴って、セレクトストッパブロック80、リバース用レバー25、位置決めピン81は、シフトセレクトシャフト20の軸心回りの周方向への相対移動を伴うことなく一体的に回動するようになっている。
上述した如く、第1ヘッド61はトーションスプリング64によって図5における反時計回り方向の付勢力が作用しているが、この第1ヘッド61の係止爪部61cが位置決めピン81に当接することにより、この当接位置で第1ヘッド61の回動位置は規制される構成となっている。つまり、シフトセレクトシャフト20が回動(図5における反時計回り方向に回動)して、セレクトストッパブロック80、リバース用レバー25、位置決めピン81が一体的に回動した場合には、位置決めピン81が第1ヘッド61の係止爪部61cから後退する方向に移動することになり、それに追従するように第1ヘッド61がトーションスプリング64からの付勢力を受けて同方向に回動するようになっている。また、この第1ヘッド61は、シフトセレクトシャフト20の軸線方向のスライド移動に伴って同方向に移動可能となっている。言い換えると、第1ヘッド61は、シフトレバーLのセレクト操作(図2における矢印X方向の操作)に伴うシフトセレクトシャフト20の回動に伴って、このシフトセレクトシャフト20と同一方向に回動可能となり、シフトレバーLのシフト操作(図2における矢印Y方向の操作)に伴うシフトセレクトシャフト20の軸線方向のスライド移動に伴って、このシフトセレクトシャフト20と同一軸線方向に移動するようになっている。
尚、本実施形態では、シフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2にある状態から5速−6速セレクト位置P3に向けてセレクト操作された場合には、シフトセレクトシャフト20および第1ヘッド61が図5における時計回り方向に回動し、逆に、シフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2にある状態からリバースセレクト位置P4に向けてセレクト操作された場合には、シフトセレクトシャフト20および第1ヘッド61が図5における反時計回り方向に回動するようになっている。
上記第2ヘッド62は、3速−4速用フォークシャフト52に対して相対的な回転移動および相対的な軸線方向の移動が共に可能に設けられている。つまり、この第2ヘッド62は、3速−4速用フォークシャフト52から独立して回動が可能であり、且つ3速−4速用フォークシャフト52から独立して軸線方向の移動が可能に配設されている。
また、この第2ヘッド62には、3速−4速用フォークシャフト52の外周囲を囲むように円筒形状に形成されたスリーブ部62aと、このスリーブ部62aの外周面の一部から外周側に向けて延びる受圧爪部62bと、同じく上記スリーブ部62aの外周面の一部から外周側に向けて延びるプレボーク用押圧爪部62cとを備えている。
図7は、第2ヘッド62の配設位置周辺における3速−4速用フォークシャフト52を示す図であって、この3速−4速用フォークシャフト52に設けられた付勢機構(待ち機構、ストッパ手段)70の構造を示している。この図7に示すように、上記3速−4速用フォークシャフト52には、この3速−4速用フォークシャフト52上で第2ヘッド62を、リバースのシフト方向とは逆方向(この場合、図7における左側(図5における紙面に直交する手前側))へ向けて押し付ける付勢機構70が設けられている。ここで、リバースのシフト方向の逆方向は、3速−4速用フォークシャフト52の軸線に沿う方向であって、ギヤ鳴り防止装置の作動時に第3のシンクロメッシュ機構13を6速段成立側に作動させる方向となっている。以下では、その方向をシンクロ作動方向とも呼ぶ。
付勢機構70は、第2ヘッド62をシンクロ作動方向へ向けて付勢する付勢部材としてのコイルスプリング(弾性体)71と、このコイルスプリング71の付勢力による第2ヘッド62のシンクロ作動方向の移動量を規制する規制部材としてのスナップリング72とを備えている。つまり、付勢機構70は、コイルスプリング71の付勢力によって第2ヘッド62をシンクロ作動方向に押し付けつつ、スナップリング72によってその第2ヘッド62のシンクロ作動方向の移動量を制限するように構成されている。
具体的には、スナップリング72は、3速−4速用フォークシャフト52に対して相対的な軸線方向の移動が不可能な状態で取り付けられている。コイルスプリング71は、3速−4速用フォークシャフト52上に設けられており、第2ヘッド62と前進段用係合部23との間に圧縮状態で配設されている。コイルスプリング71の一端(図7における右端)は、前進段用係合部23に接しており、コイルスプリング71の他端(図7における左端)は、スプリングシート73の段差部73aに接している。
スプリングシート73は、ほぼ円筒形状に形成されており、3速−4速用フォークシャフト52上をスライド移動可能に設けられている。スプリングシート73の軸線方向の中間部には、上記段差部73aが設けられており、この段差部73aの一方側(図7における右側)に小径スリーブ部73bが設けられ、その他方側(図7における左側)に大径スリーブ部73cが設けられている。
小径スリーブ部73bの内径は、3速−4速用フォークシャフト52の外径に比べ同じもしくは若干だけ大きくなっており、スプリングシート73が3速−4速用フォークシャフト52上をスライド移動可能になっている。大径スリーブ部73cの内径は、3速−4速用フォークシャフト52の外径に比べ大きくなっており、この大径スリーブ部73cの内側にスナップリング72が配設されている。そして、スプリングシート73の移動に伴って、段差部73aがスナップリング72に対し接近または離反するようになっている。また、大径スリーブ部73cの外径は、小径スリーブ部73bの外径に比べ大きくなっている。
スナップリング72と前進段用係合部23との間の距離は、小径スリーブ部73bの軸線方向の寸法に比べ大きくなっている。そして、小径スリーブ部73bの右端と前進段用係合部23との間には隙間が設けられている。また、大径スリーブ部73cの左端と第2ヘッド62のスリーブ部62aとの間には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のスラストワッシャ74が介装されている。スラストワッシャ74は、3速−4速用フォークシャフト52上をスライド移動可能に設けられている。
このように構成された付勢機構70では、コイルスプリング71の付勢力がスプリングシート73の段差部73aに作用することで、その付勢力によってスプリングシート73、スラストワッシャ74、および第2ヘッド62がシンクロ作動方向へ押し付けられている。また、スプリングシート73の段差部73aがスナップリング72に当接することによって、第2ヘッド62のシンクロ作動方向の移動が規制されるようになっている。つまり、スナップリング72によって、第2ヘッド62の所定量を超えるシンクロ作動方向の移動が阻止されるようになっている。
スナップリング72の位置は、同期完了後にコイルスプリング71の付勢力によって第2ヘッド62がシンクロ作動方向へ押されることで、第3のシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aが同方向へ移動するが、このとき、第3のシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aと6速ドライブギヤ9aのギヤピースとが噛み合わないような位置に設定されている。言い換えれば、シフトレバーLをリバース位置REVにシフト操作する際、第2ヘッド62から第3ヘッド63へのシンクロ作動方向の押圧力が解除されたとき、第3のシンクロメッシュ機構13が中立状態に復帰可能な位置にスナップリング72が設けられている。
また、第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cは、上記受圧爪部62bの形成位置に対して第2ヘッド62の周方向で180°の角度間隔を存した位置に形成されている。つまり、プレボーク用押圧爪部62cは受圧爪部62bの形成位置の反対側の位置に形成されている。そして、このプレボーク用押圧爪部62cの表面には、図9に示すように、上記第1ヘッド61の押圧爪部61bから押圧力を受けて回動する際の回動方向(図5中の時計回り方向)の下流側に向かって図5の紙面奥側に傾斜する2つのテーパ面62d,62eと、図5の紙面に平行なフラット面62fとが形成されている。図9は、図8(a)において矢印B方向から見た第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cの形状を示している。
フラット面62fは、シンクロ作動方向に直交する方向に延びる面であって、平坦に形成されている。2つのテーパ面62d,62eは、フラット面62fに対する傾斜角度θ1,θ2が異なっている。第2テーパ面62eは、フラット面62fに連続する傾斜面であって、そのフラット面62fに対する傾斜角度θ2が45度以下の角度に設定されている。第1テーパ面62dは、その第2テーパ面62eに連続する傾斜面であって、フラット面62fに対する傾斜角度θ1が、45度を超える角度に設定されている。つまり、第1テーパ面62dの傾斜角度θ1が、上記第2テーパ面62eの傾斜角度θ2に比べ大きくなっている。このため、プレボーク用押圧爪部62cの両テーパ面62d,62eの交線部分(境界部分)62gが外側へ向けて突出している。
ここで、第1テーパ面62dは、5速−6速用フォークシャフト53の作動開始位置を規定する面となっている。この第1テーパ面62dの傾斜角度θ1を比較的大きく設定するのは、製造バラツキや位置決めの誤差などを考慮して、ギヤ鳴り防止装置が作動する際に、第2ヘッド62の回動に伴ってプレボーク用押圧爪部62cを確実に第3ヘッド63の受圧部63cに接触させて5速−6速用フォークシャフト53の作動(移動)を行わせるためである。
この第2テーパ面62eは、第3のシンクロメッシュ機構13の作動開始位置を規定する面となっている。この第2テーパ面62eの傾斜角度θ2を比較的小さく設定するのは、ギヤ鳴り防止装置が作動する際の荷重(プレボーク荷重)によってシフトレバーLの操作荷重が大きくなることを抑制するためである。フラット面62fは、セレクト操作時に第3のシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aの移動量を規定する面となっている。このフラット面62fを設けておくことで、セレクト完了時の第3のシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aの軸線方向の位置が正確に規定される。
また、第1テーパ面62dに第3ヘッド63の受圧部63cが接触しているとき、プレボーク荷重が発生しないように、両テーパ面62d,62eの傾斜角度θ1,θ2が設定されている。つまり、交線部分62gが第3ヘッド63の受圧部63cが接触した時点では、第3のシンクロメッシュ機構13の作動が開始しないように、両テーパ面62d,62eの傾斜角度θ1,θ2が設定されている。
また、3速−4速用フォークシャフト52には、第2ヘッド62に対して付勢力を与えるコイルスプリング65が巻き掛けられている。このコイルスプリング65によって、上記第1ヘッド61の押圧爪部61bから受ける回動方向の押圧力の方向とは逆方向への付勢力が第2ヘッド62に付与されている。つまり、この第2ヘッド62は、上記第1ヘッド61の押圧爪部61bからの押圧力を受けていないときや、この押圧力が解除されたときには、上記コイルスプリング65の付勢力によって初期位置(図5に示す位置:以下、この位置を第2ヘッド62の回動方向の初期位置と呼ぶ)に戻されるようになっている。
更に、このコイルスプリング65は、第2ヘッド62に対してリバースのシフト方向の付勢力、つまり、シンクロ作動方向とは逆方向の付勢力も付与している。このように、第2ヘッド62に対しては、コイルスプリング65の付勢力と上記付勢機構70のコイルスプリング71とが互いに逆向きに作用している。
ここで、コイルスプリング71の付勢力は、コイルスプリング65の付勢力に比べ大きく設定されている。このため、コイルスプリング65,71からの付勢力以外の軸線方向の外力が作用していない場合には、図7に示すように、スプリングシート73がシンクロ作動方向へ押され、スナップリング72に当接する位置まで移動することになる。そして、第2ヘッド62がシンクロ作動方向へ最大限押された位置(以下、この位置を第2ヘッド62の軸線方向の初期位置と呼ぶ)に位置することになる。
一方、第2ヘッド62は、コイルスプリング65の付勢力を超えるシンクロ作動方向の外力が作用している場合には、その外力によりコイルスプリング65の付勢力に抗してシンクロ作動方向に移動することになる。また、第2ヘッド62は、コイルスプリング71の付勢力を超えるリバースのシフト方向の外力が作用している場合には、その外力によりコイルスプリング71の付勢力に抗してリバースのシフト方向に移動することになる。この場合、スプリングシート73の段差部73aがスナップリング72から離間してコイルスプリング71が圧縮されることになる。
コイルスプリング71の付勢力は、ギヤ鳴り防止装置が作動する際の荷重(プレボーク荷重)が発生していない場合、スプリングシート73の段差部73aをスナップリング72に当接させることが可能な値に予め設定されている。また、コイルスプリング71の付勢力は、プレボーク荷重が発生している場合、そのプレボーク荷重を受けることが可能な値に予め設定されている。つまり、プレボーク荷重を受けるとコイルスプリング71は圧縮され、スプリングシート73がリバースのシフト方向に移動するが、この際、常に、スプリングシート73の小径スリーブ部73bと前進段用係合部23との間に隙間が確保されるように、コイルスプリング71の付勢力が設定されている。
そして、第2ヘッド62が軸線方向の初期位置にある場合、上記受圧爪部62bは、上記第1ヘッド61が回動(図5中において反時計回り方向に回動)した際に、この第1ヘッド61に備えられている押圧爪部61bからの押圧力を受ける位置に配設される。つまり、これら第1ヘッド61の押圧爪部61bと第2ヘッド62の受圧爪部62bとは、シフトセレクトシャフト20および3速−4速用フォークシャフト52の軸線に対して直交する方向に延びる仮想面上で互いに対向するように配置されている。
上記第3ヘッド63は、5速−6速用フォークシャフト53に対して一体的に設けられている。つまり、この第3ヘッド63は、5速−6速用フォークシャフト53の軸線方向(リバースのシフト方向またはシンクロ作動方向)のスライド移動に伴って軸線方向に移動するようになっている。言い換えると、第3ヘッド63は、5速段または6速段へのシフト操作に伴う5速−6速用フォークシャフト53の軸線方向のスライド移動に伴って同一軸線方向に移動するようになっている。
また、この第3ヘッド63には、5速−6速用フォークシャフト53の外周囲を囲むように円筒形状に形成されたスリーブ部63aと、このスリーブ部63aの外周面の一部から外周側に向けて延びるプレボーク用受圧爪部63bとを備えている。このプレボーク用受圧爪部63bは、上記第2ヘッド62に形成されているプレボーク用押圧爪部62cに対向するように形成されている。つまり、上記第1ヘッド61の押圧爪部61bからの押圧力を受けて第2ヘッド62が回動した場合に、この第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cに形成されている第1テーパ面62d、第2テーパ面62eまたはフラット面62fが摺接する位置に形成されている。
また、このプレボーク用受圧爪部63bには、上記プレボーク用押圧爪部62cの第1テーパ面62d、第2テーパ面62eおよびフラット面62fに対向する受圧部63cが形成されている(図8(b)参照)。受圧部63cの表面には、アール形状に形成されているアール面63dと、このアール面63dに連続するフラット面63eとが設けられている。フラット面63eは、シンクロ作動方向に直交する方向に延びる面であって、平坦に形成されている。このため、第2ヘッド62が回動してプレボーク用押圧爪部62cの第1テーパ面62d、第2テーパ面62eおよびフラット面62fが第3ヘッド63のプレボーク用受圧爪部63bの受圧部63cに押圧力を作用させる状況では、この第2ヘッド62からの押圧力の分力が第3ヘッド63の軸線に沿う方向に作用し、この第3ヘッド63は5速−6速用フォークシャフト53と共に軸線方向にスライド移動(図5における紙面に直交する手前側にスライド移動)するようになっている。尚、受圧部63cの形状はこれに限らず、例えばアール面63dの代わりに傾斜面を設けるようにしてもよい。
−ギヤ鳴り防止装置の動作−
次に、上述の如く構成されたギヤ鳴り防止装置の動作について説明する。尚、このギヤ鳴り防止装置の動作としては、ドライバーによるシフトレバーLの操作速度が比較的低い場合と、比較的高い場合とで異なった動作となる。従って、以下の説明では、先ず、シフトレバーLの操作速度が比較的低い場合について説明し、その後、シフトレバーLの操作速度が比較的高い場合について説明することとする。
(シフトレバーLの操作速度が比較的低い場合の動作)
ここでは、先ず、図8、図10〜図13を用いてリバースシフト操作(シフトレバーLの3速−4速セレクト位置P2からリバース位置REVへのシフト操作)について説明し、その後、図14を用いてリバース解除操作(シフトレバーLのリバース位置REVから3速−4速セレクト位置P2への操作)について説明する。
図8、図10〜図14における(a)は、ギヤ鳴り防止装置をシフトセレクトシャフト20の軸線方向から見た図である。また、図8、図10〜図14における(b)は、図8(a)において矢印B方向から見た第2ヘッド62と第3ヘッド63との位置関係を示す図である。更に、図8、図10〜図14における(c)は、シフトインナレバー21のアーム部21bと各ヘッド22a,22a、23a,23a、24a,24aとの位置関係を示す図であって、アーム部21bの移動軌跡に沿ったインターロックプレート26の断面を展開した図である。尚、インターロックプレート26には、後述するプレボーク作動時(第3のシンクロメッシュ機構13の作動時)に5速−6速用のヘッド24a,24aの移動を許容するための凹部26aが形成されている。
図8は、リバースシフト操作前の状態を示している。例えば、車両の前進走行状態から停車した直後であってリバースシフト操作を行う際に、シフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2まで操作された状態を示している。この状態では、図8(a)および図8(b)に示すように、各ヘッド61,62,63は互いに接触することなく所定間隔を存して対向する初期位置にある。つまり、各ヘッド61,62,63同士の間での操作力の伝達が行われていない状態にある。また、図8(c)に示すように、シフトインナレバー21のアーム部21bは、3速−4速用フォークシャフト52に設けられた前進段用係合部23のヘッド23a,23aに係合可能な位置となっている。
この状態から、シフトレバーLのリバースセレクト位置P4に向けてのセレクト操作が開始されると、図10(a)に示すように、シフトセレクトシャフト20の回動に伴って第1ヘッド61も回動し(図中の矢印参照)、この第1ヘッド61の押圧爪部61bが第2ヘッド62の受圧爪部62bに当接し、この第1ヘッド61の回動力が、押圧爪部61bおよび受圧爪部62bを介して第2ヘッド62の回動力として伝達される。この場合、上述した如くシフトレバーLの操作速度が比較的低くなっているため、上記トーションスプリング64は殆ど変形することなく上記シフトセレクトシャフト20の回動力が第1ヘッド61に伝達されることになる。つまり、第1ヘッド61の係止爪部61cが位置決めピン81に当接した状態のまま、上記トーションスプリング64を介して、シフトセレクトシャフト20から第1ヘッド61への回動力の伝達が行われる。
そして、シフトレバーLのリバースセレクト位置P4に向けての操作量が大きくなっていくに従って第2ヘッド62の回動量も大きくなっていく。図10(a)、図11(a)、図12(a)は、この第2ヘッド62の回動量が次第に増大していく状態を順に示している。
このようにして、第2ヘッド62の回動量が増大していくと、この第2ヘッド62に形成されているプレボーク用押圧爪部62cが、第3ヘッド63に形成されているプレボーク用受圧爪部63bに当接し、このプレボーク用受圧爪部63bを押圧することになる。そして、この押圧力を受ける第3ヘッド63は、上記第2ヘッド62の回動量が増大していくに従って、シンクロ作動方向(図5における紙面に直交する手前側)に移動することになる。これにより、5速−6速用フォークシャフト53および5速−6速用シフトフォーク33も第3ヘッド63と共に移動していき、第3のシンクロメッシュ機構13の6速段成立側への作動が開始される。そして、このプレボーク作動時には、上記6速ドライブギヤ9aが第3のシンクロメッシュ機構13を介してインプットシャフト1に連繋(摩擦接触)される。つまり、インプットシャフト1は、第3のシンクロメッシュ機構13、6速ドライブギヤ9a、6速ドリブンギヤ9bを介してアウトプットシャフト2と連繋されることになる。この際、図11(c)および図12(c)に示すように、5速−6速用のヘッド24aは、インターロックプレート26に形成された凹部26aに入り込み、これによって5速−6速用フォークシャフト53および5速−6速用シフトフォーク33の移動が許容されることになる。
図10〜図12を参照して、第2ヘッド62の回動量の増加に伴う、この第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cと第3ヘッド63のプレボーク用受圧爪部63bとの位置関係の変化について詳しく説明する。
第2ヘッド62の回動量が増大する過程で、先ず、この第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cの第1テーパ面62dと、第3ヘッド63のプレボーク用受圧爪部63bのアール面63dとが当接する(図10(b)参照)。そして、第2ヘッド62の回動量が増大すると、第1テーパ面62dにおけるアール面63dの当接位置は、両テーパ面62d,62eの交線部分62g側へ向けて変化する。この場合、その当接位置が交線部分62g側へ変化するほど、第3ヘッド63がシンクロ作動方向へ移動することになる。このように、第1テーパ面62dとアール面63dとが当接している間は、第3ヘッド63がシンクロ作動方向へ移動しても第3のシンクロメッシュ機構13の作動は開始されないようになっている。従って、第1テーパ面62dとアール面63dとが当接している間は、第3のシンクロメッシュ機構13の作動に伴う荷重は発生しないようになっている。このため、その荷重によって第2ヘッド62がシンクロ作動方向とは逆方向(リバースのシフト方向)に押されることがない。
図10の状態から第2ヘッド62の回動量が更に増大すると、この第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cの第2テーパ面62eと、第3ヘッド63のプレボーク用受圧爪部63bのアール面63dとが当接する(図11(b)参照)。つまり、図10の状態から両テーパ面62d,62eの交線部分62gを乗り越えて、アール面63dが第2テーパ面62eと当接するようになる。そして、第2ヘッド62の回動量が増大すると、第2テーパ面62eにおけるアール面63dの当接位置は、この第2テーパ面62eとフラット面62fとの交線部分62h側へ向けて変化する。この場合、その当接位置が交線部分62h側へ変化するほど、第3ヘッド63がシンクロ作動方向へ移動することになる。この第3ヘッド63の移動により、第3のシンクロメッシュ機構13の作動が開始される。
このように、第2テーパ面62eとアール面63dとが当接している間に、第3のシンクロメッシュ機構13の作動が開始されるようになっている。第3のシンクロメッシュ機構13の作動が開始されると、その作動に伴う荷重(プレボーク荷重)が発生する。このプレボーク荷重は、第3のシンクロメッシュ機構13の作動開始から同期完了までの間、発生している。このため、そのプレボーク荷重が5速−6速用フォークシャフト53上の第3ヘッド63を介して第2ヘッド62に伝えられるので、第2ヘッド62がシンクロ作動方向とは逆方向(リバースのシフト方向)に押されることになる。そして、第2ヘッド62に対し作用するプレボーク荷重とコイルスプリング71の付勢力とが釣り合う位置まで、第2ヘッドがリバースのシフト方向へ移動する。つまり、プレボーク荷重によってスプリングが圧縮され、第2ヘッドが軸線方向の初期位置からリバースのシフト方向へ移動することになる。
図11の状態から第2ヘッド62の回動量が更に増大すると、この第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cのフラット面62fと、第3ヘッド63のプレボーク用受圧爪部63bのフラット面63eとが当接するようになる(図12(b)参照)。この状態では、フラット面62f,63e同士が当接するため、第2ヘッド62の回動によってはプレボーク用押圧爪部62cによりプレボーク用受圧爪部63bは押圧されない。またこの状態では、第3のシンクロメッシュ機構13が作動しているため、同期完了までの間、プレボーク荷重が発生している。このため、そのプレボーク荷重が第2ヘッド62に伝えられ、第2ヘッド62がリバースのシフト方向に移動することになる。一方、同期が完了すると、第2ヘッド62にはプレボーク荷重がかからなくなるので、第2ヘッド62がコイルスプリング71の付勢力によってシンクロ作動方向に押され、スナップリング72によって規制される軸線方向の初期位置までシンクロ作動方向へ移動することになる。これにより、第3ヘッド63が第2ヘッド62により押圧され、シンクロ作動方向へ移動する。つまり、同期完了後、プレボーク荷重によってリバースのシフト方向に戻された第2ヘッド62をコイルスプリング71の付勢力によりシンクロ作動方向へ再び移動させるようにしている。
そして、後進段への変速動作時にあっては車両は停車状態であり、アウトプットシャフト2も停止している。このため、インプットシャフト1が惰性回転している状況であっても、上述した第3のシンクロメッシュ機構13が6速段成立側に作動することによりアウトプットシャフト2に連繋されるインプットシャフト1は強制的に停止または減速される(アウトプットシャフト2の回転に合わされる)ことになる。従って、その後にシフトレバーLをリバース位置REVにシフト操作した際には、インプットシャフト1に回転一体に設けられているリバースドライブギヤ10aが停止または減速した状態でリバースアイドラギヤ10cを噛合させることができ、円滑な噛み合い動作が行われてギヤ鳴りの発生が防止できる。
また、このようにシフトレバーLをリバース位置REVにシフト操作する際、シフトセレクトシャフト20は上記リバースのシフト方向にスライド移動する。具体的には、図5および図12における紙面に直交する奥側にスライド移動する。これに伴い、第1ヘッド61も同方向に移動することになり、この第1ヘッド61に形成されている押圧爪部61bが、第2ヘッド62に形成されている受圧爪部62bから軸線方向に退避する状態となる。つまり、第2ヘッド62は、第1ヘッド61の押圧爪部61bから受けていた押圧力が解除されることになり、図13に示すように、上記コイルスプリング65(図5参照)の付勢力によって回動方向の初期位置(図5に示す位置)に戻される。このようにして第2ヘッド62が回動方向の初期位置に戻されることにより、上記第3ヘッド63に作用していたシンクロ作動方向の押圧力も解除されることになり、この第3ヘッド63も初期位置に戻され、第3のシンクロメッシュ機構13の動作によるインプットシャフト1とアウトプットシャフト2との連繋状態は解除される。つまり、第3のシンクロメッシュ機構13が中立状態に設定され、その後、シフトレバーLのリバース位置REVに向けてのシフト操作が進むことによって後進段への変速が完了することになる。
次に、リバース解除操作(シフトレバーLのリバース位置REVから3速−4速セレクト位置P2への操作)について説明する。上述した如くリバース位置REVにあるシフトレバーLをリバースセレクト位置P4に向けて操作すると、シフトセレクトシャフト20が上記リバースのシフト方向とは逆方向へ移動する。具体的には、図5および図14における紙面に直交する手前側にスライド移動する。これに伴い、第1ヘッド61も軸線方向の初期位置に向けて移動する。上記第2ヘッド62は、上述した如く、既に回動方向の初期位置に戻っているため、この第2ヘッド62に対して第1ヘッド61が軸線方向で当接し、第1ヘッド61は上記コイルスプリング65の軸線方向の付勢力に抗して第2ヘッド62を軸線方向(図5および図14における紙面に直交する手前側)に移動させる。具体的には、上記第1ヘッド61の押圧爪部61bが第2ヘッド62の受圧爪部62bを軸線に沿う方向に押圧することで、第2ヘッド62を軸線方向に移動させる。この場合、第1ヘッド61は第2ヘッド62に押圧力を与えるが、その押圧方向は軸線方向であるため、第2ヘッド62が第3ヘッド63側に向けて回動することはなく、第3のシンクロメッシュ機構13は作動せず、その中立状態が維持されている。
シフトレバーLがリバースセレクト位置P4まで操作された後に、3速−4速セレクト位置P2に向けて操作されると(実際には、シフトレバーLに接続されて3速−4速セレクト位置P2に向かう付勢力を与えているスプリングによって3速−4速セレクト位置P2に戻される)、シフトセレクトシャフト20が回動し(図14(a)の矢印参照)、これに伴い第1ヘッド61も初期位置に向けて回動する。そして、シフトレバーLが3速−4速セレクト位置P2に達すると、シフトセレクトシャフト20および第1ヘッド61は図5および図8に示した初期位置に戻ることになる。また、第2ヘッド62に作用していた第1ヘッド61からの軸線方向の押圧力も解除されることになり、この第2ヘッド62はコイルスプリング(付勢手段)65の軸線方向の付勢力によって軸線方向の初期位置に戻されることになる。
(シフトレバーLの操作速度が比較的高い場合の動作)
次に、シフトレバーLの操作速度が比較的高い場合の動作について図15〜図18を用いて説明する。これら図15〜図18も、(a)は、ギヤ鳴り防止装置をシフトセレクトシャフト20の軸線方向から見た図である。また、(b)は、図8(a)において矢印B方向から見た第2ヘッド62と第3ヘッド63との位置関係を示す図である。更に、(c)は、シフトインナレバー21のアーム部21bと各ヘッド22a,22a、23a,23a、24a,24aとの位置関係を示す図であって、アーム部21bの移動軌跡に沿ったインターロックプレート26の断面を展開した図である。
図8に示したようなリバースシフト操作前の状態から、比較的高い速度でシフトレバーLのリバースセレクト位置P4に向けてのセレクト操作が開始されると、図15(a)に示すように、シフトセレクトシャフト20の回動に伴って第1ヘッド61も回動し(図中の矢印参照)、この第1ヘッド61の押圧爪部61bが第2ヘッド62の受圧爪部62bに当接し、この第1ヘッド61の回動力が、押圧爪部61bおよび受圧爪部62bを介して第2ヘッド62の回動力として伝達される。そして、シフトレバーLのリバースセレクト位置P4に向けての操作量が大きくなっていくに従って第2ヘッド62の回動量も大きくなっていく。
このようにして押圧爪部61bが第2ヘッド62の受圧爪部62bに当接した際には、セレクト操作の操作力(操作荷重)が大きく必要になる状況となる。また、第2ヘッド62の回動に伴う、第3ヘッド63および5速−6速用フォークシャフト53の軸線方向の移動によってシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aがプレボーク位置まで移動した際、このシンクロメッシュ機構13での同期が完了して位相が一致するまでスリーブ13aをプレボーク位置以上に移動させることが困難な状況となる。従来のものでは、このような状況にあっては、シフトレバーLのセレクト方向への更なる移動操作が行えなくなる場合があった。
本実施形態では、このような状況において、セレクト操作力伝達方向で互いに隣り合う構成部材であるシフトセレクトシャフト20と第1ヘッド61と間にトーションスプリング64が介在されている。このため、ドライバーによるシフトレバーLの操作量に相当するシフトセレクトシャフト20の回動量に対し、上記トーションスプリング64の弾性変形によってこの回動量を吸収しながら(伝達される移動量を小さくしながら)、第1ヘッド61に対してセレクト操作力を伝達することが可能となる。つまり、上述した如くシンクロメッシュ機構13での同期が完了して位相が一致するまでスリーブ13aをプレボーク位置以上に移動させることができない状況であって、第1ヘッド61、第2ヘッド62の回動動作や、第3ヘッド63および5速−6速用フォークシャフト53の移動動作ができない状況となっても、上記トーションスプリング64が周方向に弾性変形することで、シフトセレクトシャフト20としては、その回動が可能である。図16は、図15に示した状態からシフトレバーLのセレクト操作が更に行われた状態であって、第1ヘッド61、第2ヘッド62、第3ヘッド63の位置は変化しておらず、シフトセレクトシャフト20およびリバース用レバー25のみが回動した状態(図16における反時計回り方向に回動した状態)を示している。そして、これらの回動量の差を上記トーションスプリング64が周方向に弾性変形することで吸収した状態となっている。
このようにトーションスプリング64が周方向に弾性変形することで、シンクロメッシュ機構13のスリーブ13aが移動できない状況(第1ヘッド61および第2ヘッド62が回動できない状況)であっても、シフトセレクトシャフト20の回動が可能であり、即ち、シフトレバーLのセレクト操作(図2における矢印X方向の操作)が可能な状況となっている。そして、このトーションスプリング64が弾性変形している期間において必要となる操作荷重としては、このトーションスプリング64を弾性変形させることができる程度の比較的小さな荷重で済むことになる。このため、セレクト操作に必要な操作力(操作荷重)を低減することができ、後進段への変速時の操作フィーリングを良好に確保することができる。
そして、このようにしてトーションスプリング64が弾性変形し、且つシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aが移動可能な状況(シンクロメッシュ機構13での同期が完了した状況)となった後には、トーションスプリング64の弾性力がセレクト操作力となって、第1ヘッド61に作用することになり、図17および図18に示すように、この弾性力により第1ヘッド61が回動(図中反時計回り方向に回動)して、その回動力を第2ヘッド62および第3ヘッド63に順に伝達していき、上述した場合と同様に、シンクロメッシュ機構13での同期動作が行われることで、ギヤ鳴りの発生は防止されることになる。
以上、説明したように、本実施形態では、セレクト操作力伝達方向で互いに隣り合う構成部材であるシフトセレクトシャフト20と第1ヘッド61と間にトーションスプリング64が配設されている。このため、後進段への変速時において、例えば運転者のセレクト操作速度が高い場合に、トーションスプリング64が弾性変形している期間において必要となる操作荷重としては、このトーションスプリング64を弾性変形させることができる程度の比較的小さな荷重で済み、セレクト操作に必要な操作力(操作荷重)を低減することができる。このため、後進段への変速時の操作フィーリングを良好に確保することができる。
特に、従来より、上記5速−6速用フォークシャフト53(プレボーク用のフォークシャフト)のスライド移動量を大きく確保してシンクロメッシュ機構13による同期動作を確実に行ってギヤ鳴り防止機能が十分に発揮されるような構成を採用する場合には、上記セレクト操作に必要な操作力(操作荷重)が大きくなる傾向にあった。これに対し、本実施形態の構成によれば、上述した如く操作力の低減を図ることができるので、ギヤ鳴り防止機能の信頼性の向上と後進段への変速時の操作フィーリングの向上とを両立することができる。
また、本実施形態では、シフトセレクトシャフト20の回動力を第1ヘッド61から第2ヘッド62を介して第3ヘッド63に伝達し、この第2ヘッド62から第3ヘッド63に動力が伝達される際に、回動力が軸線に沿う方向(シンクロ作動方向)の移動力に変換されて第3のシンクロメッシュ機構13を6速段成立側に作動させるようにしている。このため、ギヤ鳴り防止装置が作動する際のプレボーク荷重が5速−6速用フォークシャフト53から第2ヘッド62に対して軸線に沿う方向(リバースのシフト方向)に作用することになるが、シフトセレクトシャフト20は、第2ヘッド62に対して回動方向への付勢力を与えているため、そのプレボーク荷重がシフトセレクトシャフト20に直接的に作用することがない。この場合、第2ヘッド62のリバースのシフト方向の前方側(シンクロ作動方向の後方側)に上記付勢機構70のコイルスプリング71が設けられているので、このコイルスプリング71が収縮することによってプレボーク荷重を受けることが可能になる。そして、ギヤ鳴り防止機能を発揮させるための上記5速−6速用フォークシャフト53の移動量(第3のシンクロメッシュ機構13を作動させるための移動量)を大きく確保することが可能になり、ギヤ鳴り防止機能の信頼性の向上を図ることができる。
ここで、コイルスプリング71を設けず、3速−4速用フォークシャフト52に固定したストッパなどによって単にプレボーク荷重を受ける構成とした場合、次のような点が懸念される。この場合、第3のシンクロメッシュ機構13の作動が開始されると、同期完了までの間、その作動開始位置で第2ヘッド62の軸線に沿う方向の移動が停止する可能性があり、シフトレバーLのセレクト操作が途中で止まってしまう可能性があり、シフトレバーLの操作フィーリングに悪影響を与えてしまう。これに対し、この実施形態では、プレボーク荷重が発生すると、第2ヘッド62がリバースのシフト方向へ移動することで、そのプレボーク荷重を3速−4速用フォークシャフト52に設けたコイルスプリング71によって受けるようにしている。このため、第2ヘッド62の軸線に沿う方向の移動が上記作動開始位置で停止することはなく、そのような問題の発生を防止でき、シフトレバーLの操作フィーリングを良好に維持することができる。
また、シフトセレクトシャフト20にインターロックプレートを押すボールとスプリングを設けてプレボーク荷重を受ける構成とした場合、次のような点が懸念される。この場合、スプリングの付勢力が、リバース解除のシフト抜き操作(シフトレバーLのリバース位置REVからリバースセレクト位置P4への操作)の際にも、リバースシフト操作時と同じように作用する構成であれば、その際のシフトレバーLの操作荷重が大きくなる可能性がある。つまり、ボールやスプリングなどのギヤ鳴り防止機構の構成部品がリバース解除のシフト抜き操作時にもリバースシフト操作時にも、同じように動作するため、リバース解除のシフト抜き操作時のシフトレバーLの操作荷重が大きくなる可能性があり、シフトレバーLの操作フィーリングに悪影響を与えてしまう。これに対し、この実施形態では、第2ヘッド62に対する付勢機構70のコイルスプリング71の付勢力は、リバースシフト操作時には作用するが、リバース解除のシフト抜き操作時には作用しないようになっている。上述したように、リバース解除のシフト抜き操作時には、第2ヘッド62はコイルスプリング65の軸線方向の付勢力に抗して軸線方向の初期位置からシンクロ作動方向に移動する。この際、コイルスプリング71の付勢力は第2ヘッド62に対しては作用しないため、シフトレバーLの操作荷重を小さく抑えることができ、シフトレバーLの操作フィーリングを良好に維持することができる。この際、コイルスプリング71の付勢力を適宜設定することでシフトレバーLの最大操作荷重や荷重特性を容易に変更できるようになり、シフトレバーLの操作フィーリングを向上させることができる。
また、シフトセレクトシャフト20にインターロックプレートを押すボールとスプリングを設けてプレボーク荷重を受ける構成とした場合、次のような点も懸念される。この場合、シフトセレクトシャフト20の回転方向と軸線方向の位置決めをインターロックプレートとボールのみによって行う構成であれば、その位置決めの精度が悪くなり、プレボーク用フォークシャフトの移動量(同期装置を作動させるための移動量)にバラツキが発生する可能性がある。このため、プレボーク用フォークシャフトの移動量が大きくなりすぎて、ギヤ鳴り防止装置が作動する際に同期装置のスリーブとギヤピース(変速歯車)とが噛み合うおそれがある。
これに対し、この実施形態では、コイルスプリング71によるシンクロ作動方向への第2ヘッド62の移動量を規制するスナップリング72を設けているので、第3のシンクロメッシュ機構13を作動させるための移動量が大きくなりすぎることはない。また、セレクト操作時には、上述したように、第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cのフラット面62fによって第3ヘッド63を最終的に押圧するようにしているので、第3のシンクロメッシュ機構13を作動させるための移動量を正確に規定することができる。これにより、ギヤ鳴り防止装置が作動する際には、第3のシンクロメッシュ機構13のスリーブ13aと6速ドライブギヤ9aのギヤピースとが噛み合うことを確実に回避することができ、ギヤ鳴り防止機能の信頼性の向上を図ることができる。
また、第2ヘッド62のプレボーク用押圧爪部62cには、2段のテーパ面62d,62eを設けているので、次のような作用効果も得られる。第1テーパ面62dは、フラット面62fに対する傾斜角度θ1が比較的大きく設定されているため、製造バラツキや位置決めの誤差などがあったとしても、第2ヘッド62の回動時に第1テーパ面62dが第3ヘッド63の受圧部63cを確実に押圧できるようになっている。なお、上述したように、第1テーパ面62dと受圧部63cとが接触している間は、プレボーク荷重は発生していないので、第1テーパ面62dの傾斜角度θ2が比較的大きくても、シフトレバーLの操作荷重への影響は小さく抑えられる。
第2テーパ面62eは、フラット面62fに対する傾斜角度θ2が比較的小さく設定されているため、シフトレバーLの操作荷重が大きくなることを抑制することができるようになっている。上述したように、第2テーパ面62eと受圧部63cとが接触している間に、第3のシンクロメッシュ機構13の作動が開始され、プレボーク荷重が発生する。このため、第2テーパ面62eを設けない場合には(第1テーパ面62dしか設けられていない場合には)、プレボーク荷重が第2ヘッド62の回動方向に大きく作用するようになり、シフトレバーLの操作荷重が大きくなる。この実施形態では、第2テーパ面62eの傾斜角度θ2を第1テーパ面62dの傾斜角度θ1に比べて小さく設定しているので、第2ヘッド62に作用するプレボーク荷重の回動方向の成分を小さく抑えることができ、シフトレバーLの操作荷重の低減が図れる。
しかも、第2ヘッド62のシンクロ作動方向の後方側、言い換えれば、第2ヘッド62のプレボーク荷重の作用方向の前方側には、摩擦係数の低いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のスラストワッシャ74が隣接して設けられているため、第2ヘッド62の回動動作時の摺動抵抗が低減される。これにより、第2ヘッド62にプレボーク荷重が作用している場合であっても、第2ヘッド62の回動動作がスムーズに行えるようになり、シフトレバーLの操作荷重をさらに低減することができる。なお、摩擦係数の低い部材であればポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製以外の部材を用いてもよい。また、スラストワッシャ74の代わりに、摩擦係数の低い部材として、スラストニードルベアリングなどのスラスト軸受けを設けるようにしてもよい。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、FF車両に搭載され、前進6速段、後進1速段の同期噛み合い式手動変速機に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両等、その他の形態の車両に搭載された手動変速機にも適用可能である。また、上記段数の異なる変速機(例えば前進5速段、後進1速段のもの)に対しても適用可能である。更には、ドライバーのシフトチェンジ操作に連動するアクチュエータを備え、このアクチュエータによって変速動作を行う構成とされた変速機(所謂AMT:オートマチック・マニュアル・トランスミッション)に対しても本発明は適用可能である。
また、上記実施形態では、シフトセレクトシャフト20と、3速―4速用フォークシャフト52と、5速―6速用フォークシャフト53との間でギヤ鳴りの防止装置を構成する場合について説明したが、その他のフォークシャフト(例えば1速―2速用フォークシャフト51と、3速―4速用フォークシャフト52とを利用してギヤ鳴りの防止機構を構成するようにしてもよい。また、全てのフォークシャフト51,52,53を利用してギヤ鳴りの防止機構を構成するようにしてもよい。つまり、1速―2速用フォークシャフト51にも上記と同様のヘッドを備えさせ、シフトセレクトシャフト20の回転力を、上記第1ヘッド61、1速―2速用フォークシャフト51に備えられたヘッド、上記第2ヘッド62の回転力として順に伝達していき、この第2ヘッド62の回転力を上記第3ヘッド63に対して軸線に沿う方向の移動力として伝達する構成である。つまり、本発明でいう中間ヘッド部材を複数のヘッドにより構成するものである。
また、上記実施形態では、操作量吸収部材としてのトーションスプリング64をシフトセレクトシャフト20と第1ヘッド61と間に配設していた。本発明はこれに限らず、セレクト操作力伝達経路を構成する各構成部材(シフトセレクトシャフト20、第1ヘッド61、第2ヘッド62、第3ヘッド63、フォークシャフト53、シンクロメッシュ機構13)のうちの何れの構成部材同士の間に配設してもよい。また、操作量吸収部材の配設箇所としては1箇所に限らず、複数箇所に配設してもよい。