JP4618146B2 - 車両用自動変速機の制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は車両用自動変速機の制御装置に係り、特に、摩擦係合装置の油圧回路内に混入したエアを排出する技術の改良に関するものである。
油圧が供給されることによって係合させられる複数の摩擦係合装置を有し、その複数の摩擦係合装置の係合、解放状態に応じて複数の変速段が成立させられる車両用自動変速機において、車両走行中に解放状態とされる摩擦係合装置の油圧回路には、車両の振動等で作動油が攪拌されることによりエアが混入する。このため、解放状態での走行時間が長くなると、そのエアの蓄積で係合時の油圧変化特性(応答性など)が変化し、その摩擦係合装置を係合させる変速時の変速制御性が悪くなって変速ショック(吹きやタイアップ等による駆動力変化など)を生じることがある。
一方、上記のように摩擦係合装置の油圧回路中に混入したエアを自動的に排出(エア抜き)するエア排出手段を備えている自動変速機が、例えば特許文献1、特許文献2に記載されている。何れも、イグニッションスイッチがON操作された車両運転状態において、最初のN→Dシフト切り換え直後の第1速状態であるときに、第1速では解放される摩擦係合装置に対して油圧を供給することにより、その油圧回路内に混入したエアを油圧の圧力で排出するようになっている。また、特許文献1では、エア排出処理を実行する時間を作動油温度に応じて設定することにより、エア排出処理時間をできるだけ短くして、変速制御への影響を抑制するようになっている。特許文献2では、エア排出処理の開始から所定時間だけライン圧を増大させることにより、エア排出が効率的に行われるようになっている。
特開2002−213595号公報 特開2002−227982号公報
しかしながら、このようにDレンジの第1速状態で、その第1速では解放される摩擦係合装置に油圧を供給してエア排出処理を行う場合、その処理中にアクセル操作されると、その摩擦係合装置の油圧をドレーンする必要があるため、発進時の応答性が損なわれたり、摩擦係合装置が完全に解放される前の動力伝達によってその摩擦係合装置に引き摺りが生じたりする恐れがある。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、運転操作に対する応答性が損なわれたり摩擦係合装置に引き摺りが生じたりすることなく、油圧回路内に混入したエアを排出できるようにすることにある。
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 油圧が供給されることによって係合させられる複数の摩擦係合装置を有し、その複数の摩擦係合装置のうちの第1摩擦係合装置が係合させられるとともに第2摩擦係合装置が解放されることにより第1の変速段が成立させられ、その第1摩擦係合装置が解放されるとともに第2摩擦係合装置が係合させられることにより第2の変速段が成立させられる自動変速機に関し、(b) 予め定められた変速規則に従って前記第1の変速段と前記第2の変速段とを切り換える車両用自動変速機の制御装置において、(c) 前記第1摩擦係合装置の油圧回路中に混入したエアを排出するため、前記変速規則を、前記第1の変速段に切り換えられる確率がその変速規則よりも高くなるように設定されたエア排出用変速規則に変更し、そのエア排出用変速規則に従って変速段が切り換えられるようにする変速規則変更手段を有するとともに、(d) その変速規則変更手段は、前記第1摩擦係合装置が解放状態に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に前記変速規則を前記エア排出用変速規則に変更することを特徴とする。
第2発明は、(a) 油圧が供給されることによって係合させられる複数の摩擦係合装置を有し、その複数の摩擦係合装置のうちの第1摩擦係合装置が係合させられるとともに第2摩擦係合装置が解放されることにより第1の変速段が成立させられ、その第1摩擦係合装置が解放されるとともに第2摩擦係合装置が係合させられることにより第2の変速段が成立させられる自動変速機に関し、(b) 予め定められた変速規則に従って前記第1の変速段と前記第2の変速段とを切り換える車両用自動変速機の制御装置において、(c) 前記第1摩擦係合装置の油圧回路中に混入したエアを排出するため、前記変速規則を、前記第1の変速段に切り換えられる確率がその変速規則よりも高くなるように設定されたエア排出用変速規則に変更し、そのエア排出用変速規則に従って変速段が切り換えられるようにする変速規則変更手段を有するとともに、(d) その変速規則変更手段は、前記第2の変速段に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に前記変速規則を前記エア排出用変速規則に変更することを特徴とする。
第3発明は、第1発明または第2発明の車両用自動変速機の制御装置において、前記変速規則および前記エア排出用変速規則は、同一の車両走行状態をパラメータとして別々に定められた変速線で、前記変速規則変更手段は、その変速線を変更するものであることを特徴とする。
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの車両用自動変速機の制御装置において、(a) 前記車両用自動変速機は、前記第1の変速段および前記第2の変速段のみから成る2段変速機で、(b) 前記第1の変速段に切り換えられることなく前記第2の変速段が成立させられている継続時間が所定値以上になったか否かを判定し、その所定値以上になった場合に前記変速規則変更手段によって前記変速規則が前記エア排出用変速規則に変更されることを許可するエア排出実行許可手段を備えていることを特徴とする。
第1発明の車両用自動変速機の制御装置においては、第1摩擦係合装置が解放状態に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に、変速段を切り換える変速規則(通常の変速規則)がエア排出用変速規則に変更されることにより、エアを排出すべき第1摩擦係合装置が係合させられる第1の変速段に切り換えられる確率が高くなるため、その第1の変速段への切換判断が為されて第1摩擦係合装置を係合させるために油圧が供給されることにより、その第1摩擦係合装置の油圧回路内のエアが排出されるようになる。これにより、その後に通常の変速規則に従って第1の変速段切り換えられ、その第1摩擦係合装置に油圧が供給されて係合させられる際に、エアの混入に起因して変速制御性が損なわれる恐れがない。
一方、変速規則をエア排出用変速規則に変更することにより、第1の変速段へ切り換えられ易くして第1摩擦係合装置のエア排出を行うため、通常の車両走行中の変速動作の中でエア排出が行われることになり、例えば運転開始当初のN→Dシフト切り換え直後にエア排出処理を行う場合のように、運転操作に対する応答性が損なわれたり、摩擦係合装置に引き摺りが生じたりする恐れがない。
また、第1摩擦係合装置が解放状態に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に、変速規則がエア排出用変速規則に変更されるため、変速規則の変更が必要最小限に抑制され、変速規則の変更に伴う走行性能や燃費の悪化が最小限に抑えられる。
第2発明は、第2の変速段に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に、変速規則(通常の変速規則)がエア排出用変速規則に変更されることにより、その第1の変速段に切り換えられる確率が高くなるため、その第1の変速段への切換判断が為されて第1摩擦係合装置を係合させるために油圧が供給されることにより、その第1摩擦係合装置の油圧回路内のエアが排出されるようになる。これにより、その後に通常の変速規則に従って第1の変速段へ切り換えられ、第1摩擦係合装置に油圧が供給されて係合させられる際に、エアの混入に起因して変速制御性が損なわれる恐れがない。また、変速規則をエア排出用変速規則に変更することにより、第1の変速段へ切り換えられ易くして第1摩擦係合装置のエア排出を行うため、通常の車両走行中の変速動作の中でエア排出が行われることになり、例えば運転開始当初のN→Dシフト切り換え直後にエア排出処理を行う場合のように、運転操作に対する応答性が損なわれたり、摩擦係合装置に引き摺りが生じたりする恐れがない。
また、第2の変速段に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に、変速規則がエア排出用変速規則に変更されるため、変速規則の変更が必要最小限に抑制され、変速規則の変更に伴う走行性能や燃費の悪化が最小限に抑えられる。
第3発明では、変速規則およびエア排出用変速規則が同一の車両走行状態をパラメータとして別々に定められた変速線で、変速規則変更手段は、その変速線を変更するだけで良いため、大掛かりな設計変更が不要で、従来の車両用自動変速機の制御装置に対して容易且つ安価に適用できる。
第4発明では、第1の変速段に切り換えられることなく第2の変速段が成立させられている継続時間が、所定値以上になった場合に、変速規則がエア排出用変速規則に変更されてエア排出処理(第1の変速段への変速)が許容されるため、変速規則の変更を必要最小限に抑制することにより、変速規則の変更に伴う走行性能や燃費などへの影響を最小限に抑えることができる。すなわち、上記継続時間は、第1摩擦係合装置が解放状態に保持されたままの車両の走行時間と略一致し、その第1摩擦係合装置の油圧回路内のエア混入量は、その継続時間が長くなるに従って増加するため、第1摩擦係合装置を係合させて変速する際に変速制御性が問題になる程度にエア混入量が増加する直前に変速規則が変更されるように上記所定値を設定することにより、変速規則の変更を必要最小限に抑制することができるのである。
自動変速機としては、例えば遊星歯車式や平行軸式等の有段の自動変速機が好適に用いられる。また、一つの摩擦係合装置を解放するとともに他の摩擦係合装置を係合させて変速するクラッチツークラッチ変速では、極め細かな油圧制御が要求されるため、エアの混入によって変速制御が大きく損なわれ、本発明が好適に適用される。
自動変速機には、エンジンや電動モータ等の駆動源からトルクが入力される。摩擦係合装置は、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータによって係合させられる単板式或いは多板式のクラッチやブレーキ、ベルト式のブレーキなどである。
変速規則(通常の変速規則)およびエア排出用変速規則は、第3発明のように、例えば車速および要求駆動力等の車両走行状態をパラメータとして定められた変速線(変速マップなど)が好適に用いられるが、ファジー推論等の演算式を用いて変速段を決定するものでも良いなど、種々の態様が可能である。
エア排出が必要な所定の摩擦係合装置は、例えば通常の変速規則では高速道路等の高速走行時に切り換えられる高速変速段でのみ係合させられるもので、その場合のエア排出用変速規則は、一般道における中速走行でもその高速変速段へ切り換えられるように、通常の変速規則よりも低車速側でその高速変速段へ切り換えられるように定められる。
上記エア排出用変速規則は、通常の変速規則と一般的な走行形態とに基づいて予め一定の規則が定められても良いが、個々の運転者の運転嗜好(傾向)を判定し、その運転嗜好に基づいて、所定の摩擦係合装置が係合させられる変速段に切り換えられ易くなるように設定することもできる。
エア排出用変速規則は、通常の変速規則とは異なるパラメータ等を用いて完全に別個に設定することもできるが、例えば前記変速線を所定車速だけ低速側へずらすなど、通常の変速規則を所定の補正規則(演算式など)に従って補正することにより設定されるものでも良い。第3発明のエア排出用変速規則の変速線も、通常の変速規則の変速線を予め定められた補正規則に従って補正するものでも良い。
動変速機は、例えば高速側の第1の変速段および低速側の第2の変速段のみから成る前進2段の変速機で、通常の変速規則は、例えば車速が80〜90km/h程度の高車速で第2の変速段から第1の変速段へ切り換えるように定められ、エア排出用変速規則は、例えば車速が40〜50km/h程度の中車速で第2の変速段から第1の変速段へ切り換えるように定められる。
第4発明のエア排出実行許可手段は、例えば車両の運転が開始された後、運転終了操作が為されるまでの間で第2の変速段の継続時間を計測するものでも良いが、エア混入による変速制御性の悪化を防止しつつエア排出処理の実施を必要最小限に抑制する上で、運転の終了操作が行われて電源OFFとなっても第2の変速段の継続時間が記憶されるようにし、次に運転が再開された場合に、その継続時間を引き継いで計測することが望ましい。
上記継続時間を判定する所定値は、油圧回路や作動油によって異なるエアの混入し易さなどに応じて、例えば数時間〜数十時間等の値が適宜定められる。また、一定値であっても良いが、エア混入に影響する作動油の温度や気圧(高度など)等をパラメータとして設定されるようにすることもできる。
エア排出実行許可手段は、継続時間の他に例えば車両走行状態(アクセル操作量や車速など)が略一定の定常走行であることなど、他の実行許可条件が定められても良い。また、第1発明〜第3発明の実施に際しては、例えば車両の走行時間が予め定められた所定値以上となった場合、走行距離が所定値以上となった場合など、エア排出すべき摩擦係合装置の係合条件や油圧特性などを考慮して、他の種々の実行許可条件を定めることができるし、前進3段以上の自動変速機に適用することも可能である。
速規則がエア排出用変速規則に変更され、実際に変速段が切り換えられて所定の摩擦係合装置が係合させられた場合には、その変速規則の変更に伴う走行性能や燃費の悪化等を最小限に抑制するため、直ちに元の通常の変速規則に戻すことが望ましく、実際に変速段が切り換えられたことを判定する変速判定手段や、その判定に基づいて元の変速規則に戻す変速規則復帰手段(変速線復帰手段など)を設けることが望ましい。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド駆動装置10を説明する概略構成図である。図1において、このハイブリッド駆動装置10では、車両において、主駆動源である第1駆動源12のトルクが出力部材として機能する出力軸14に伝達され、その出力軸14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。また、このハイブリッド駆動装置10には、走行のための駆動力を出力する力行制御およびエネルギを回収するための回生制御を選択的に実行可能な第2モータ・ジェネレータMG2が第2駆動源として設けられており、この第2モータ・ジェネレータMG2は自動変速機22を介して上記出力軸14に連結されている。したがって、第2モータ・ジェネレータMG2から出力軸14へ伝達されるトルク容量が、その自動変速機22で設定される変速比γs (=MG2の回転速度NMG2/出力軸14の回転速度NOUT )に応じて増減されるようになっている。
上記自動変速機22は、変速比γs が「1」より大きい複数段を成立させることができるように構成されており、第2モータ・ジェネレータMG2からトルクを出力する力行時にはそのトルクを増大させて出力軸14へ伝達することができるので、第2モータ・ジェネレータMG2が一層低容量もしくは小型に構成される。これにより、例えば高車速に伴って出力軸14の回転速度NOUT が高くなった場合には、第2モータ・ジェネレータMG2の運転効率を良好な状態に維持するために、変速比γs を小さくして第2モータ・ジェネレータMG2の回転速度NMG2を低下させ、また、出力軸14の回転速度NOUT が低下した場合には、変速比γs を大きくして第2モータ・ジェネレータMG2の回転速度NMG2を増大させる。
上記自動変速機22の変速の場合、その自動変速機22でのトルク容量が低下したり、あるいは回転速度の変化に伴う慣性トルクが生じたりし、これが出力軸14のトルクすなわち出力軸トルクに影響する。そこで、上記のハイブリッド駆動装置10では、自動変速機22による変速の際に第1駆動源12のトルクを補正して出力軸14のトルク変動を防止もしくは抑制するように制御される。
上記第1駆動源12は、エンジン24と、第1モータ・ジェネレータMG1と、これらエンジン24と第1モータ・ジェネレータMG1との間でトルクを合成もしくは分配するための遊星歯車装置26とを主体として構成されている。上記エンジン24は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体とするエンジン制御用の電子制御装置(E−ECU)28によって、スロットル弁開度や吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御されるように構成されている。上記電子制御装置28には、アクセルペダル27の操作量θacc を検出するアクセル操作量センサAS、ブレーキペダル29の操作の有無を検出するためのブレーキセンサBS等からの検出信号が供給されている。
上記第1モータ・ジェネレータMG1は、たとえば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とを選択的に生じるように構成され、インバータ30を介してバッテリー、コンデンサなどの蓄電装置32に接続されている。そして、マイクロコンピュータを主体とするモータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)34によってそのインバータ30が制御されることにより、第1モータ・ジェネレータMG1の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。上記電子制御装置34には、シフトレバー35の操作位置を検出する操作位置センサSS等からの検出信号が供給されている。
前記遊星歯車装置26は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、これらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転かつ公転自在に支持するキャリアC0とを三つの回転要素として備えて、公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。遊星歯車装置26は、エンジン24および自動変速機22と同心に設けられている。遊星歯車装置26および自動変速機22は中心線に対して略対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分が省略されている。
本実施例では、エンジン24のクランク軸36はダンパー38を介して遊星歯車装置26のキャリアC0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1モータ・ジェネレータMG1が連結され、リングギヤR0には出力軸14が連結されている。このキャリアC0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
上記トルク合成分配機構として機能するシングルピニオン型の遊星歯車装置26の各回転要素の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rは、サンギヤS0の回転速度、キャリアC0の回転速度、およびリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸Cとの間隔を1としたとき、縦軸Cと縦軸Rとの間隔がρ(サンギヤS0の歯数ZS /リングギヤR0の歯数ZR )となるように設定されたものである。
上記遊星歯車装置26において、キャリアC0に入力されるエンジン24の出力トルクに対して、第1モータ・ジェネレータMG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、エンジン24から入力されたトルクより大きいトルクが現れるので、第1モータ・ジェネレータMG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転速度)NOUT が一定であるとき、第1モータ・ジェネレータMG1の回転速度NMG1を上下に変化させることにより、エンジン24の回転速度NEを連続的に(無段階に)変化させることができる。図2の破線は、MG1の回転速度NMG1を実線で示す値から下げたときにエンジン24の回転速度NEが低下する状態を示している。すなわち、エンジン24の回転速度NEを例えば燃費が最もよい回転速度に設定する制御を、第1モータ・ジェネレータMG1を制御することによって実行することができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。
図1に戻って、本実施例の前記自動変速機22は、一組のラビニヨ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち自動変速機22では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが設けられており、その第1サンギヤS1にショートピニオンP1が噛合するとともに、そのショートピニオンP1がこれより軸長の長いロングピニオンP2に噛合し、そのロングピニオンP2が前記各サンギヤS1、S2と同心円上に配置されたリングギヤR1に噛合している。上記各ピニオンP1、P2は、共通のキャリアC1によって自転かつ公転自在にそれぞれ保持されている。また、第2サンギヤS2がロングピニオンP2に噛合している。
前記第2モータ・ジェネレータMG2は、前記モータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)34によりインバータ40を介して制御されることにより、電動機または発電機として機能させられ、アシスト用出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定される。第2サンギヤS2には、その第2モータ・ジェネレータMG2が連結され、上記キャリアC1が出力軸14に連結されている。第1サンギヤS1とリングギヤR1とは、各ピニオンP1、P2と共にダブルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成し、また第2サンギヤS2とリングギヤR1とは、ロングピニオンP2と共にシングルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成している。
そして、自動変速機22には、第1サンギヤS1を選択的に固定するためにその第1サンギヤS1と変速機ハウジング42との間に設けられた第1ブレーキB1と、リングギヤR1を選択的に固定するためにそのリングギヤR1と変速機ハウジング42との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1、B2は摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合装置であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキB1、B2は、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータにより発生させられる係合圧に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
以上のように構成された自動変速機22は、第2サンギヤS2が入力要素として機能し、またキャリアC1が出力要素として機能し、第1ブレーキB1が係合させられると「1」より大きい変速比γshの高速段Hが成立させられ、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられると、その高速段Hの変速比γshより大きい変速比γslの低速段Lが成立させられるように構成されている。すなわち、自動変速機22は2段変速機で、これらの変速段HおよびLの間での変速は、車速Vや要求駆動力(もしくはアクセル操作量θacc )などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。その制御を行うためのマイクロコンピュータを主体とした変速制御用の電子制御装置(T−ECU)44が設けられている。
上記電子制御装置44には、作動油の温度TOIL を検出するための油温センサTS、第1ブレーキB1の係合油圧を検出するための油圧スイッチSW1、第2ブレーキB2の係合油圧を検出するための油圧スイッチSW2、ライン圧PLを検出するための油圧スイッチSW3等からの検出信号が供給されている。また、第2モータ・ジェネレータMG2の回転速度NMG2を検出する第2MG2回転速度センサ43、車速Vに対応する出力軸14の回転速度NOUT を検出する出力軸回転速度センサ43からも、それ等の回転速度を表す信号が供給される。
図3は、上記自動変速機22を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構についての各回転要素の相互関係を表すために4本の縦軸S1、縦軸R1、縦軸C1、および縦軸S2を有する共線図を示している。それら縦軸S1、縦軸R1、縦軸C1、および縦軸S2は、第1サンギヤS1の回転速度、リングギヤR1の回転速度、キャリアC1の回転速度、および第2サンギヤS2の回転速度をそれぞれ示すためのものである。
以上のように構成された自動変速機22では、第2ブレーキB2によってリングギヤR1が固定されると、低速段Lが設定され、第2モータ・ジェネレータMG2の出力したアシストトルクがそのときの変速比γslに応じて増幅されて出力軸14に付加される。これに替えて、第1ブレーキB1によって第1サンギヤS1が固定されると、低速段Lの変速比γslよりも小さい変速比γshを有する高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も「1」より大きいので、第2モータ・ジェネレータMG2の出力したアシストトルクがその変速比γshに応じて増大させられて出力軸14に付加される。
なお、各変速段L、Hが定常的に設定されている状態では、出力軸14に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータMG2の出力トルクを各変速比に応じて増大させたトルクとなるが、自動変速機22の変速過渡状態では各ブレーキB1、B2でのトルク容量や回転速度変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、出力軸14に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータMG2の駆動状態では正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。第2モータ・ジェネレータMG2の被駆動状態とは、出力軸14の回転が自動変速機22を介して第2モータ・ジェネレータMG2に伝達されることにより、その第2モータ・ジェネレータMG2が回転駆動される状態で、車両の駆動、被駆動と必ずしも一致するわけではない。
図4は、上記各ブレーキB1、B2の係合解放によって自動変速機22の変速を自動的に制御するための変速用油圧制御回路50を示している。この油圧制御回路50には、エンジン24のクランク軸36に作動的に連結されることによりそのエンジン24により回転駆動されるメカニカル式オイルポンプ46と、電動機48aとそれにより回転駆動されるポンプ48bを備えた電動オイルポンプ48とを油圧源として備えており、それらメカニカル式オイルポンプ46および電動オイルポンプ48は、図示しないオイルパンに還流した作動油をストレーナ52を介して吸入し、或いは還流油路53を介して直接還流した作動油を吸入してライン圧油路54へ圧送する。上記還流した作動油の油温TOIL を検出するための油温センサTSが、油圧制御回路50が形成されているバルブボデー51に設けられているが、他の部位に設けられても良い。
ライン圧調圧弁56は、リリーフ形式の調圧弁であって、ライン圧油路54に接続された供給ポート56aとドレン油路58に接続された排出ポート56bとの間を開閉するスプール弁子60と、そのスプール弁子60の閉弁方向の推力を発生させるスプリング62を収容すると同時にライン圧PLの設定圧を高く変更するときに電磁開閉弁64を介してモジュール圧油路66内のモジュール圧PMを受け入れる制御油室68と、スプール弁子60の開弁方向の推力を発生させる上記ライン圧油路54に接続されたフィードバック油室70とを備え、低圧および高圧の2種類のいずれかの一定のライン圧PLを出力する。上記ライン圧油路54には、ライン圧PLが高圧側の値であるときにオン作動し、低圧側の値以下であるときにオフ作動する油圧スイッチSW3が設けられている。
モジュール圧調圧弁72は、上記ライン圧PLを元圧とし、そのライン圧PLの変動に拘わらず、低圧側のライン圧PLよりも低く設定された一定のモジュール圧PMをモジュール圧油路66に出力する。第1ブレーキB1を制御するための第1リニアソレノイド弁SLB1および第2ブレーキB2を制御するための第2リニアソレノイド弁SLB2は、上記モジュール圧PMを元圧として電子制御装置44からの指令値である駆動電流ISOL1およびISOL2に応じた制御圧PC1およびPC2を出力する。
第1リニアソレノイド弁SLB1は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)される常開型(N/O)の弁特性を備え、図5に示すように、駆動電流ISOL1の増加に伴って出力される制御圧PC1が低下させられる。図5に示すように、第1リニアソレノイド弁SLB1の弁特性には、駆動電流ISOL1が所定値Ia を超えるまで出力される制御圧PC1が低下しない不感帯Aが設けられている。第2リニアソレノイド弁SLB2は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)される常閉型(N/C)の弁特性を備え、図6に示すように、駆動電流ISOL2の増加に伴って出力される制御圧PC2が増加させられる。図6に示すように、第2リニアソレノイド弁SLB2の弁特性には、駆動電流ISOL2が所定値Ib を超えるまで出力される制御圧PC2が増加しない不感帯Bが設けられている。
B1コントロール弁76は、ライン圧油路54に接続された入力ポート76aおよびB1係合油圧PB1を出力する出力ポート76bとの間を開閉するスプール弁子78と、そのスプール弁子78を開弁方向に付勢するために上記第1リニアソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1を受け入れる制御油室80と、スプール弁子78を閉弁方向に付勢するスプリング82を収容し、出力圧であるB1係合油圧PB1を受け入れるフィードバック油室84とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第1リニアソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1に応じた大きさのB1係合油圧PB1を出力し、インターロック弁として機能するB1アプライコントロール弁86を通してブレーキB1に供給する。
B2コントロール弁90は、ライン圧油路54に接続された入力ポート90aおよびB2係合油圧PB2を出力する出力ポート90bとの間を開閉するスプール弁子92と、そのスプール弁子92を開弁方向に付勢するために上記第2リニアソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2を受け入れる制御油室94と、スプール弁子92を閉弁方向へ付勢するスプリング96を収容し、出力圧であるB2係合油圧PB2を受け入れるフィードバック油室98とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第2リニアソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2に応じた大きさのB2係合油圧PB2を出力し、インターロック弁として機能するB2アプライコントロール弁100を通してブレーキB2に供給する。
B1アプライコントロール弁86は、B1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる入力ポート86aおよび第1ブレーキB1に接続された出力ポート86bとの間を開閉するスプール弁子102と、そのスプール弁子102を開弁方向に付勢するためにモジュール圧PMを受け入れる油室104と、そのスプール弁子102を閉弁方向へ付勢するスプリング106を収容し且つB2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる油室108とを備え、第2ブレーキB2を係合させるためのB2係合油圧PB2が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB2係合油圧PB2が供給されると閉弁状態に切り換えられて、第1ブレーキB1の係合が阻止される。
また、上記B1アプライコントロール弁86には、そのスプール弁子102が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子102が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート110aおよび110bが設けられている。この一方のポート110aにはB2係合油圧PB2を検出するための油圧スイッチSW2が接続され、他方のポート110bには第2ブレーキB2が直接接続されている。この油圧スイッチSW2は、B2係合油圧PB2が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B2係合油圧PB2が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW2は、B1アプライコントロール弁86を介して第2ブレーキB2に接続されているので、B2係合油圧PB2の異常と同時に、第1ブレーキB1の油圧系を構成する第1リニアソレノイド弁SLB1、B1コントロール弁76、B1アプライコントロール弁86等の異常も判定可能となっている。
B2アプライコントロール弁100も、B1アプライコントロール弁86と同様に、B2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる入力ポート100aおよび第2ブレーキB2に接続された出力ポート100bとの間を開閉するスプール弁子112と、そのスプール弁子112を開弁方向に付勢するためにモジュール圧PMを受け入れる油室114と、そのスプール弁子112を閉弁方向に付勢するスプリング116を収容し且つB1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる油室118とを備え、第1ブレーキB1を係合させるためのB1係合油圧PB1が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB1係合油圧PB1が供給されると閉弁状態に切り換えられて、第2ブレーキB2の係合が阻止される。
上記B2アプライコントロール弁100にも、そのスプール弁子112が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子112が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート120aおよび120bが設けられている。この一方のポート120aにはB1係合油圧PB1を検出するための油圧スイッチSW1が接続され、他方のポート120bには第1ブレーキB1が直接接続されている。この油圧スイッチSW1は、B1係合油圧PB1が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B1係合油圧PB1が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW1は、B2アプライコントロール弁100を介して第1ブレーキB1に接続されているので、B1係合油圧PB1の異常と同時に、第2ブレーキB2の油圧系を構成する第2リニアソレノイド弁SLB2、B2コントロール弁90、B2アプライコントロール弁100等の異常も判定可能となっている。
図7は、以上のように構成された油圧制御回路50の作動を説明する図表である。図7では、○印が励磁状態或いは係合状態を示し、×印が非励磁状態或いは解放状態を示している。すなわち、第1リニアソレノイド弁SLB1および第2リニアソレノイド弁SLB2が共に励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が解放状態に、第2ブレーキB2が係合状態とされ、自動変速機22の低速段Lが達成される。そして、第1リニアソレノイド弁SLB1および第2リニアソレノイド弁SLB2が共に非励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が係合状態に、第2ブレーキB2が解放状態とされ、自動変速機22の高速段Hが達成される。
図8は、電子制御装置28、34および44の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図8において、ハイブリッド制御手段130は、イグニッションスイッチ(パワースイッチ)がON操作されることによりシステムが起動して走行可能な状態とされ、アクセル操作量θacc に基づいて運転者の要求出力を算出し、低燃費で排ガス量の少ない運転となるようにエンジン24および/または第2モータ・ジェネレータMG2から要求出力を発生させる。たとえば、エンジン24を最適燃費曲線上で作動させて駆動力を発生させるとともに、要求出力に対する不足分を第2モータ・ジェネレータMG2でアシストするアシスト走行モード、エンジン24を停止し専ら第2モータ・ジェネレータMG2を駆動源とするモータ走行モード、エンジン24の動力で第1モータ・ジェネレータMG1により発電を行いながら第2モータ・ジェネレータMG2を駆動源として走行する充電走行モード、エンジン24の動力を機械的に駆動輪18に伝えて走行するエンジン走行モード、等を走行状態に応じて切り換える。
上記ハイブリッド制御手段130は、エンジン24が最適燃費曲線上で作動するように第1モータ・ジェネレータMG1によってエンジン24の回転速度NEを制御する。また、第2モータ・ジェネレータMG2を駆動してトルクアシストする場合、車速Vが遅い状態では自動変速機22を低速段Lに設定して出力軸14に付加するトルクを大きくし、車速Vが増大した状態では、自動変速機22を高速段Hに設定して第2モータ・ジェネレータMG2の回転速度NMG2を相対的に低下させて損失を低減し、効率の良いトルクアシストを実行させる。さらに、コースト走行時には車両の有する慣性エネルギーで第1モータ・ジェネレータMG1或いは第2モータ・ジェネレータMG2を回転駆動することにより電力として回生し、蓄電装置32にその電力を蓄える。
また、後進走行は、自動変速機22を低速段Lとした状態で、第2モータ・ジェネレータMG2を逆方向へ回転駆動することによって達成される。この時、第1駆動源12の第1モータ・ジェネレータMG1は無負荷或いは最小トルクとされ、エンジン24の作動状態に関係なく出力軸14が逆回転することを許容する。
変速制御手段132は、たとえば図9に示す予め記憶された変速線図(変速マップ)から、車速Vおよび駆動力(要求出力)に基づいて自動変速機22の変速段を決定し、決定された変速段に切り換えるように第1ブレーキB1および第2ブレーキB2を制御する。図9の実線は、低速段Lから高速段Hへ切り換えるアップシフト線で、一点鎖線は高速段Hから低速段Lへ切り換えるダウンシフト線であり、所定のヒステリシスが設けられている。これ等の実線および一点鎖線で示す変速線は、通常の変速規則に相当するもので、通常はこれ等の変速線に従って変速が行われるが、本実施例では、これとは別に、エア排出用変速規則として破線で示すアップシフト線が予め設定されている。すなわち、通常のアップシフト線(実線)では、例えば80〜90km/h程度の高車速で高速段Hへ切り換えられるが、エア排出時のアップシフト線(破線)は、低駆動力では例えば40〜50km/h程度の中車速で高速段Hへ切り換えられるようになっている。アクセル操作量θacc が比較的大きい高駆動力側では、通常時と同じ条件でアップシフトが行われるようになっており、低駆動力の高速定常走行時にのみアップシフト線が低車速側へ移動することになる。なお、ダウンシフト線は、通常時もエア排出時も同じである。
ライン圧制御手段134は、前記算出された運転者の要求出力が予め設定された出力判定値よりも大きい場合、或いは自動変速機22の変速中すなわち変速過渡時である場合などでは、前記電磁開閉弁64を閉状態から開状態に切り換えてモジュール圧PMをライン圧調圧弁56の油室68内に供給してスプール弁子60が閉弁方向に向かう推力を所定値増加させることにより、ライン圧PLの設定圧を低圧状態から高圧状態へ切り換える。
ここで、本実施例では、図9の変速線図から明らかなように、実線で示す通常のアップシフト線が80〜90km/h程度の高車速であるため、通常の一般道を走行する場合は低速段Lのみが用いられ、第1ブレーキB1は解放されたままになる。このように第1ブレーキB1を解放したまま走行すると、車両の振動等による作動油の攪拌で油圧回路内にエアが混入するため、解放状態での走行時間が長くなると、そのエアの蓄積で係合時の油圧変化特性(応答性など)が変化し、第1ブレーキB1を係合させるアップシフト時の変速制御性が悪くなって変速ショック(吹きやタイアップ等による駆動力変化など)を生じる可能性がある。
これに対し、本実施例では、低速段Lの継続時間が所定値以上となった場合に、アップシフト線を図9において破線で示すエア排出用のものに変更することにより、通常の一般道の走行時でも高速段Hへの変速が行われるようにし、第1ブレーキB1に油圧を供給して係合させることにより、その油圧回路内のエアを排出(エア抜き)するようになっている。すなわち、前記変速制御用の電子制御装置44は、変速制御に関連して低速段継続判定手段140、変速線低車速側変更手段142、高速段への変速判定手段144、および変速線復帰手段146を備えており、図10に示すフローチャートに従って変速線を変更することにより、第1ブレーキB1の油圧回路内のエアを排出するようになっているのである。図10のステップS1は低速段継続判定手段140に相当し、ステップS2は変速線低車速側変更手段142に相当し、ステップS3は高速段への変速判定手段144に相当し、ステップS4は変速線復帰手段146に相当する。
本実施例では、低速段継続判定手段140がエア排出実行許可手段に相当し、変速線低車速側変更手段142が変速規則変更手段に相当する。また、第1ブレーキB1が第1摩擦係合装置で、第2ブレーキB2が第2摩擦係合装置である。更に、高速段Hが第1の変速段で、低速段Lが第2の変速段である。
図10のステップS1では、自動変速機22が高速段Hへ切り換えられることなく低速段Lに保持されている継続時間を、制御周期毎にカウンタを加算するなどして計測し、その継続時間が予め定められた所定値以上になったらステップS2以下を実行する。この継続時間は、書き換え可能で且つ電源OFFでも記憶内容を保持できるSRAM、EEPROM等の記憶装置に記憶され、車両の運転終了操作(イグニッションスイッチのOFF操作)が為された場合でも、次に運転が再開された時には、以前の継続時間を引き継いで継続時間を計測するようになっている。また、エアの混入量は、その継続時間が長くなるに従って増加する一方、アップシフト線をエア排出用のものに変更すると走行性能や燃費が悪くなるため、第1ブレーキB1を係合させて変速する際の変速制御性が問題になる程度にエア混入量が達する直前にアップシフト線が変更されるようにすることが望ましく、上記所定値は、変速制御性が損なわれるエア混入量に達する直前の継続時間に設定される。これにより、エア混入による変速制御性の悪化を防止しつつ、エア排出のためのアップシフト線の変更が必要最小限に抑制され、そのアップシフト線の変更に伴う走行性能や燃費の悪化を最小限に抑えることができる。上記所定値は、実験やシミュレーション等によって求められるが、エア混入量は作動油の個体差や運転状態などによって変化するため、所定の安全係数を掛け算するなどして一定値(例えば2〜3時間程度)が定められる。
そして、低速段Lの継続時間が所定値以上になるとステップS2を実行し、アップシフト線を図9において破線で示すエア排出用のものに変更する。これにより、前記変速制御手段132は、その変更されたアップシフト線に従って変速制御を行うようになり、一般道の走行時でも高速段Hへの変速が行われるようになる。高速段Hは、第2ブレーキB2を解放するとともに第1ブレーキB1を係合させることによって成立させられるため、その第1ブレーキB1を係合させるために油圧が供給され、その油圧回路内の油圧が上昇させられることにより、その油圧回路内の作動油に混入していたエアが排出される。
次のステップS3では、実際に高速段Hへ変速されたか否かを判断し、高速段Hへ変速されたことが確認できた場合には、ステップS4で直ちに通常のアップシフト線(図9の実線)に復帰させる。高速段Hへ変速されたか否かは、通常の変速終了判定と同様に行うことが可能で、例えば入力軸回転速度すなわち第2モータ・ジェネレータMG2の回転速度NMG2が、高速段Hの同期回転速度(出力軸回転速度NOUT ×高速段Hの変速比γsh)付近に所定時間以上継続して保持されたか否かによって判断できる。そして、実際に高速段Hへの変速が終了すれば、第1ブレーキB1の油圧回路内のエア抜きは終了する一方、エア排出用のアップシフト線(図9の破線)による変速制御では走行性能や燃費が悪化するため、ステップS4で直ちに通常のアップシフト線(図9の実線)に戻されることにより、そのような走行性能や燃費の悪化が最小限に抑制される。
このように、本実施例の車両用自動変速機の制御装置においては、ステップS2でアップシフト線が図9に破線で示すエア排出用のものに変更されることにより、一般道の走行でも高速段Hに切り換えられる確率が高くなるため、その高速段Hへの切換判断が為されて第1ブレーキB1を係合させるために油圧が供給されることにより、その第1ブレーキB1の油圧回路内のエアが排出されるようになる。これにより、その後に高速道路の走行などで通常のアップシフト線(図9の実線)に従って高速段Hへ切り換えられ、第1ブレーキB1に油圧が供給されて係合させられる際に、エアの混入に起因して変速制御性が損なわれる恐れがない。
また、アップシフト線をエア排出用のものに変更することにより、高速段Hへ切り換えられ易くして第1ブレーキB1のエア排出を行うため、通常の車両走行中の変速動作の中でエア排出が行われることになり、例えば運転開始当初のN→Dシフト切り換え直後に第1ブレーキB1のエア排出処理を行う場合のように、運転操作に対する応答性が損なわれたり、変速が完全に終了する前の動力伝達によってブレーキB1、B2に引き摺りが生じたりする恐れがない。すなわち、車両発進時には低速段Lにする必要があり、第1ブレーキB1を解放するとともに第2ブレーキB2を係合させる必要があるため、最初から低速段Lとされている場合に比較して応答性が悪くなるとともに、第1ブレーキB1が完全に解放される前、或いは第2ブレーキB2が完全に係合する前に動力伝達が行われると、それ等のブレーキB1、B2に引き摺りが生じて摩擦材を損傷する可能性があるのである。
また、本実施例では、通常のアップシフト線(図9の実線)およびエア排出用のアップシフト線(図9の破線)が、同一の車両走行状態(車速および駆動力)をパラメータとして別々に定められており、ステップS2ではその変速線を変更するだけで良いため、大掛かりな設計変更が不要で、従来の車両用自動変速機の制御装置に対して容易且つ安価に適用できる。
また、本実施例では、自動変速機22が高速段Hへ切り換えられることなく低速段Lに保持されている継続時間が所定値以上になった場合に、アップシフト線がエア排出用(図9の破線)に変更されるため、アップシフト線の変更が必要最小限に抑制され、アップシフト線の変更に伴う走行性能や燃費の悪化が最小限に抑えられる。すなわち、上記継続時間は、第1ブレーキB1が解放状態に保持されたままの車両の走行時間と略一致し、その第1ブレーキB1の油圧回路内のエア混入量は、その継続時間が長くなるに従って増加するため、第1ブレーキB1を係合させて変速する際に変速制御性が問題になる程度にエア混入量が増加する直前にアップシフト線が変更されるように上記所定値が設定されることにより、アップシフト線の変更を必要最小限に抑制することができる。
また、本実施例では、車両の運転終了操作が為された場合でも、次に運転が再開された時には、以前の継続時間を引き継いで継続時間を計測するようになっているため、エア混入による変速制御性の悪化を防止しつつ、エア排出のためのアップシフト線の変更が必要最小限に抑制され、そのアップシフト線の変更に伴う走行性能や燃費の悪化が最小限に抑えられる。
また、本実施例では、ステップS2でアップシフト線がエア排出用に変更され、そのアップシフト線に従って実際に高速段Hに変速されて第1ブレーキB1が係合させられた場合には、ステップS3の判断がYES(肯定)となってステップS4が実行され、直ちに元の通常のアップシフト線(図9の実線)に戻されるため、そのアップシフト線の変更に伴う走行性能や燃費の悪化が最小限に抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
本発明が好適に適用されるハイブリッド駆動装置の概略構成を説明する図である。 図1のハイブリッド駆動装置において、第1駆動源12に備えられている遊星歯車装置26の作動を説明する共線図である。 図1のハイブリッド駆動装置において、第2モータ・ジェネレータMG2と出力軸14との間に設けられている自動変速機22の複数の変速段を説明する共線図である。 図1の自動変速機22の変速制御を行う油圧制御回路の要部を説明する油圧回路図である。 図4の第1リニアソレノイド弁SLB1の油圧特性を説明する図である。 図4の第2リニアソレノイド弁SLB2の油圧特性を説明する図である。 図1の自動変速機22の各変速段と、それを成立させるためのリニアソレノイド弁およびブレーキの作動状態を示す作動表である。 図1のハイブリッド駆動装置に設けられている電子制御装置が備えている各種の機能を説明するブロック線図である。 図8の変速制御手段によって行われる自動変速機の変速制御で用いられる変速線図(マップ)の一例を示す図である。 図8の変速線低車速側変更手段等によって行われるエア排出処理を具体的に説明するフローチャートである。
符号の説明
22:自動変速機 28、34、44:電子制御装置 48:電動オイルポンプ 132:変速制御手段 140:低速段継続判定手段(エア排出実行許可手段) 142:変速線低車速側変更手段(変速規則変更手段)1、B2:ブレーキ(摩擦係合装置)

Claims (4)

  1. 油圧が供給されることによって係合させられる複数の摩擦係合装置を有し、該複数の摩擦係合装置のうちの第1摩擦係合装置が係合させられるとともに第2摩擦係合装置が解放されることにより第1の変速段が成立させられ、該第1摩擦係合装置が解放されるとともに該第2摩擦係合装置が係合させられることにより第2の変速段が成立させられる自動変速機に関し、
    予め定められた変速規則に従って前記第1の変速段と前記第2の変速段とを切り換える車両用自動変速機の制御装置において、
    前記第1摩擦係合装置の油圧回路中に混入したエアを排出するため、前記変速規則を、前記第1の変速段に切り換えられる確率が該変速規則よりも高くなるように設定されたエア排出用変速規則に変更し、該エア排出用変速規則に従って変速段が切り換えられるようにする変速規則変更手段を有するとともに、
    該変速規則変更手段は、前記第1摩擦係合装置が解放状態に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に前記変速規則を前記エア排出用変速規則に変更する
    ことを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
  2. 油圧が供給されることによって係合させられる複数の摩擦係合装置を有し、該複数の摩擦係合装置のうちの第1摩擦係合装置が係合させられるとともに第2摩擦係合装置が解放されることにより第1の変速段が成立させられ、該第1摩擦係合装置が解放されるとともに該第2摩擦係合装置が係合させられることにより第2の変速段が成立させられる自動変速機に関し、
    予め定められた変速規則に従って前記第1の変速段と前記第2の変速段とを切り換える車両用自動変速機の制御装置において、
    前記第1摩擦係合装置の油圧回路中に混入したエアを排出するため、前記変速規則を、前記第1の変速段に切り換えられる確率が該変速規則よりも高くなるように設定されたエア排出用変速規則に変更し、該エア排出用変速規則に従って変速段が切り換えられるようにする変速規則変更手段を有するとともに、
    該変速規則変更手段は、前記第2の変速段に保持されたままの継続時間が所定時間以上になった場合に前記変速規則を前記エア排出用変速規則に変更する
    ことを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
  3. 前記変速規則および前記エア排出用変速規則は、同一の車両走行状態をパラメータとして別々に定められた変速線で、前記変速規則変更手段は、該変速線を変更するものである
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用自動変速機の制御装置。
  4. 前記車両用自動変速機は、前記第1の変速段および前記第2の変速段のみから成る2段変速機で、
    前記第1の変速段に切り換えられることなく前記第2の変速段が成立させられている継続時間が所定値以上になったか否かを判定し、該所定値以上になった場合に前記変速規則変更手段によって前記変速規則が前記エア排出用変速規則に変更されることを許可するエア排出実行許可手段を備えている
    ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用自動変速機の制御装置。
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