JP4606563B2 - アセテート繊維用処理剤及び該処理剤が付与されたアセテート繊維 - Google Patents

アセテート繊維用処理剤及び該処理剤が付与されたアセテート繊維 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フィラメント糸を緯糸としてエアージェットルームで製織する際に好適なアセテート繊維用処理剤及びその処理剤が付与されたアセテート繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
エアージェットルーム(以下、AJLと略記する)は、ウォータージェットルーム(以下、WJLと略記する)と並ぶ高生産性の織機であり、アセテート繊維やレーヨン等の湿潤性能の低下するセルロース系フィラメント糸に対して、WJLよりも適性が高いことから広く使用されている。
【0003】
一般にセルロース系フィラメント糸をAJLで製織する場合、経糸については従来通りサイジング処理するのが普通であり、乾燥状態での製織であることから、通常の有杼織機での製織と比較しても特に問題はないが、緯糸については搬送方式がエアージェットによる特殊な方式であることから、通常の生産糸をそのまま用いた場合には、織機の稼働率の低下或いは織物品質の低下をきたすという問題がある。
【0004】
かかる稼働率低下、品質低下は、緯糸が搬送流体であるエアージェットに乗り難く、必要な速度で緯入れができない、或いは単糸切れが発生する等によって起こるが、このような問題は、エアージェットが拡散性であり非拡散性のウォータージェットと比較して搬送力が弱いことから、緯糸の形態及びその長さ方向のばらつきによって搬送力が影響を受け変動することが原因で発生する。このようにAJLにおいて、エアージェットによる緯糸の搬送性能は、一般に飛走性と称され、飛走性はAJLでの緯糸のみに要求される特殊な性能である。したがい、AJLに適性の高い緯糸とは、良好な飛走性、即ち低いエアー圧で、かつ一定の圧力で安定に緯打ちの可能な糸であると言える。特にAJLでの高生産性を追求していく上では、緯糸の飛走性の改良が最も大きな課題の一つである。
【0005】
AJLに用いる緯糸には、通常紡糸工程の捲き取り直前で処理剤が付与されるが、処理剤として、平滑性を向上させるために炭素数の小さい低粘度(粘度5.7cSt前後(30℃))の鉱物油を主成分とした処理剤が用いられている。しかしながら、炭素数の小さい鉱物油を主成分とした処理剤では、捲き取り時を含めて製織工程までの経過する間に、一部残存する溶剤のアセトンの揮発と共に特にチーズの表層部分の低粘度鉱物油成分の一部若しくはかなりの部分が揮発し、本来の処理剤組成と異なる処理剤が糸上に付着してしまうという結果となる。このようにチーズ内外層における処理剤の付着量及び組成が異なってくるため、チーズ内外層の飛走性が異なってくる。
【0006】
AJLでの緯糸打ち込みのエアー圧は、製織中一定値に設定されるが、この値は通常緯糸チーズ中最も飛走性の悪い部分の緯打ち適正値に設定され、普通はチーズ表層に合わせて設定される。しかしながら、従来のAJL用緯糸処理剤ではチーズ内外層の飛走性差が大きく、内層は速く飛走しすぎることから、もつれ等により織機の停台や製品の欠点の増加の原因となる。特公平5−12463号公報ではこれらの問題を改善するための処理剤が提案されているが、近年、AJL製織の高速化が要求されており、高速化に対応してチーズ内外層の飛走性差をより小さくし、一層優れた飛走性を発揮する緯糸用の処理剤が要求されている。また、飛走性には糸の平滑性が関与するが、特開平6−31904号公報に示されるような脂肪族エステル系平滑剤等は、紡糸の際の糸切れ・毛羽立ち等の低下に有効なものであって、同公報には飛走性を必要とするAJLでの適用については提案されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、処理剤の揮発性を抑えチーズ内外層の飛走性差を小さくしたAJL用緯糸処理剤を得るべくなされたものである。本発明の目的は、AJLにおける飛走性を大幅に向上させることが可能で、かつ糸の長さ方向で飛走性のバラツキが小さいアセテート繊維用処理剤を提供することにあり、またその処理剤が付与されたアセテート繊維を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、炭素数9〜18の流動パラフィン5〜20重量%と炭素数19以上の流動パラフィン95〜80重量%からなり、かつ30℃における粘度が12.0〜25.0cStである流動パラフィン(成分1)30〜60重量%、30℃における粘度が6.0〜15.0cStである脂肪酸エステル(成分2)30〜60重量%、アルコールのエチレンオキサイド付加物の末端水酸基を脂肪族カルボン酸で封鎖した化合物(成分3)5〜15重量%及びアルキルリン酸エステルアミン塩(成分4)5〜10重量%からなるアセテート繊維用処理剤、及び、該処理剤が0.5〜2.0重量%付与されたAJL緯糸用のアセテート繊維、にある。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の処理剤の構成成分である成分1の流動パラフィンは、実質上、芳香族系化合物を含有しないハイグレードの流動パラフィンであり、炭素数9〜18、好ましくは炭素数15〜18の流動パラフィン5〜20重量%と、炭素数19以上、好ましくは炭素数30以下の流動パラフィン95〜80重量%とからなり、かつ30℃における粘度が12.0〜25.0cSt、好ましくは18.0〜22.0cStの流動パラフィンである。
【0010】
成分1の流動パラフィンは、処理剤の揮発性を低下させるものであり、炭素数が9未満であるか或いは粘度が12.0cSt未満では、揮発性が高くなり、で、揮発性と共に繊維の平滑性を考慮して、処理剤の構成成分全体の30〜60重量%、好ましくは45〜55重量%含有させる。
【0011】
成分2の脂肪酸エステルは、30℃における粘度が6.0〜15.0cSt、好ましくは7.0〜12.0cStである脂肪酸エステルであり、成分(1)の流動パラフィンと同じ粘度であれば揮発性及び摩擦係数が小さく繊維の平滑性を上げる。成分1の流動パラフィンは、従来用いられている流動パラフィンよりも平滑性が劣るため、平滑性の悪化を抑制するために成分2として脂肪酸エステルを用いる。成分2の脂肪酸エステルは、常温で液状、特に冬期での使用を考慮すれば、0℃で液状であることが望ましく、一級アルコールであれば分岐を有する方が好ましい。粘度が6.0cSt未満では、脂肪酸エステルが揮発し易くなり、15.0cStを超えると、平滑性が悪化する。
【0012】
成分2の脂肪酸エステルの生成に用いる脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の脂肪酸が好ましいものとして挙げられ、またアルコールとしては、イソプロピルアルコール、イソオクチルアルコール、イソトリデシルアルコール等の分岐を有する一級アルコールが特に好ましいものとして挙げられる。成分2の脂肪酸エステルは、処理剤の構成成分全体の30〜60重量%、好ましくは35〜40重量%含有させる。
【0013】
本発明の処理剤における成分3は、アルコールのエチレンオキサイド付加物の末端水酸基を脂肪族カルボン酸で封鎖した化合物である。エチレンオキサイドの付加に用いるアルコールとしては、特に限定はないが、エチレンオキサイド付加による親水部分を結合させ、活性剤とした時、液状化するものが処理剤としての調製上都合がよく、その点から好ましいアルコールとして、デシルアルコール、ラウリルアルコール等の炭素数10〜12の直鎖の一級アルコール、イソデシルアルコール、イソヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール等の炭素数10〜18の側鎖アルコール、ドバノール(シエル化学社製)、オキソコール(日産化学工業社製)、ダイヤドール(三菱化学社製)等の商品名で上市されているオキソ法による合成アルコール、タージトール(ユニオンカーバイド社製)、ソフタノール(日本触媒化学工業社製)等の商品名で上市されている炭素数10〜16の二級アルコール等が挙げられる。
【0014】
一般的には、アルコールにエチレンオキサイドを付加重合せしめて得られる非イオンエーテル系活性剤は、アセテート繊維用の処理剤として用いられているが、その場合、酸化エチレンの重合度を下げることによってアセテート繊維に対する失透性を防止する手段が講じられてはいるもののなお十分ではなく、また処理剤の冷却安定性、摩擦性能等においても問題があるものであった。
【0015】
本発明の処理剤においては、成分3として、アルコールのエチレンオキサイド付加物の末端水酸基を脂肪族カルボン酸でエステルとして封鎖した化合物を用いることにより、従来の末端水酸基のカルボン酸での封鎖のない非イオンエーテル系活性剤の欠点である精練性、摩擦特性を改善するものである。
【0016】
アルコールに付加するエチレンオキサイドの量は、特に限定はなく、広い範囲で変えることが可能であるが、好ましくはアルコール1モルに対し、エチレンオキサイド3〜10モルのエチレンオキサイド付加物とする。更に、アルコールのエチレンオキサイド付加物の末端水酸基を封鎖する脂肪族カルボン酸としては、直鎖又は側鎖を有する飽和或いは不飽和のカルボン酸、例えば、カプリル酸、ラウリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の単独の或いは混合の酸若しくはこれらを主体とする脂肪族カルボン酸が用いられる。成分3のアルコールのエチレンオキサイド付加物の末端水酸基を脂肪族カルボン酸で封鎖した化合物は、処理剤の構成成分全体の5〜15重量%含有させる。
【0017】
本発明の処理剤の成分4のアルキルリン酸エステルアミン塩について説明する。AJL緯糸用の処理剤を、非水系で用いる場合、第一の適正条件は、処理剤の安定性、特に低温安定性、即ち、ベースオイルとの相溶性が良好なことであるが、この点から、帯電防止を目的として用いる陰イオン活性剤も、硫酸エステル系、スルホネート系、脂肪酸系のものは適合性がなく、それらの金属塩は不適であり、アルキルリン酸エステルアミン塩が望ましいものである。
【0018】
本発明の処理剤の成分4のアルキルリン酸エステルアミン塩の中間体であるアルキルリン酸エステルの生成に用いるアルコールは、常温で液状であることが望ましく、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール等が用いられるが、特に、ドバノール(シエル化学社製)、オキソコール(日産化学工業社製)、ダイヤドール(三菱化学社製)等の商品名で上市されているオキソ法によるアルコールやタージトール(ユニオンカーバイド社製)、ソフタノール(日本触媒化学工業社製)等の商品名で上市されている炭素数12〜15の側鎖アルコール等が好ましいものとして挙げられる。また、アルキルリン酸エステルをアミン塩とするのに用いるアミン類も特に限定はないが、非水溶型の液状アミン、例えば、トリブチルアミン、ジブチルエタノールアミン等が好ましく用いられる。
【0019】
AJLで製織を行う場合、その静電気的特徴は、緯糸貯蔵ドラムより糸が放出されるとき、貯蔵ドラム付近で200〜500Vの静電気を発生することが望ましい。何故なら、静電気の発生により糸が若干膨らみ、エアージェットに乗りやすいからである。この場合、静電気が発生しすぎると、糸が膨らみすぎ、毛羽、糸切れ等を生じ更に毛羽節を生じる原因となるため、あくまでも適度な静電気発生量であることが望まれる。そのため、成分4のアルキルリン酸エステルアミン塩の量は、適度に制御されることが必要である。しかし、この静電気量は、相対的なベースオイルの量にも関連するため、本発明の処理剤においては、成分4のアルキルリン酸エステルアミン塩は、構成成分全体の5〜10重量%含有させることが好ましい。
【0020】
本発明の処理剤は、成分1が30〜60重量%、成分2が30〜60重量%、成分3が5〜15重量%及び成分4が5〜10重量%の範囲で、かつ成分1、成分2、成分3及び成分4の合計量が100重量%となるように構成される。本発明の繊維用処理剤は、繊維、特にアセテート繊維のフィラメント糸をAJLにより製織する際の緯糸用処理剤として好適なるものであり、繊維、特にアセテート繊維に好適に付与されるためには、30℃における粘度が13.0〜17.0cStであることが好ましい。
【0021】
アセテート繊維に本発明の処理剤を付与する方法としては、特に限定されないが、非水系で処理して付与するのが好ましい。また、本発明の処理剤を用いてAJL緯糸用のフィラメント糸、特にアセテートフィラメント糸を製造する場合、繊維に対する付与量は、0.5〜2.0重量%、好ましくは0.8〜1.2重量%とする。処理剤付与量が0.5重量%未満では、エアージェットによって単糸切れが発生し、製品の欠点となり、2.0重量%を超えると、繊維の開繊性が不良となり、飛走性を低下させる。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例におけるAJLでの製織試験は、AJL織機として津田駒製ZA103を用い、経糸には84デシテックス/21フィラメントのブライトのジアセテートフィラメント糸を用い、緯糸には処理剤の付与された110デシテックス/27フィラメントのダルのジアセテートフィラメント糸を用いて、回転速度800rpm、メインエア圧2.6MPa、織り幅127cmの条件で、タフタの製織を行った。緯糸は、処理剤が付与されて捲き取られたチーズから供給した。
【0023】
処理剤の評価として、処理剤粘度は30℃にて測定し、処理剤揮発率は、80℃で12時間放置した時の重量変化から算出した。糸解舒性は、緯糸として供給するチーズからの糸の解舒性で、解舒性に問題がない場合を○とし、素抜けにより停台が認められる場合を×とした。織物品位は、チーズの内外層の間で差がない場合を◎とし、差が殆どない場合を○とし、差が明らかにある場合を×とした。また製織された織物として欠点が認められない場合を◎とし、毛羽節、ヒケが薄く染色加工後では品質的に許容範囲内であると思われる場合を○とし、毛羽、ひけが認められ品質的に許容範囲を超えていると思われる場合を×とした。処理剤としての総合判定は、極めて良好なものを◎とし、良好なものを○とし、不良なるものを×とした。
【0024】
(実施例1〜8及び比較例1〜5
表1及び表2に示す構成成分及びその成分比を変えて処理剤を調製した。この処理剤を緯糸とするジアセテートフィラメント糸に付与し、AJLでの製織試験を実施し、処理剤の評価を行い、それらの結果を実施例1〜8については表1に、比較例1〜5については表2にそれぞれ示した。なお、表中の%は重量%を意味する。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
処理剤の構成成分は下記のとおりである。
成分1-a:流動パラフィン、粘度20.0cSt(30℃)、炭素数9〜18(10%)、炭素数19〜(90%)
成分1-b:流動パラフィン、粘度7.6cSt(30℃)、炭素数9〜18(60%)、炭素数19〜(40%)
成分2-a:イソプロピルミリステート、粘度4.8cSt(30℃)
成分2-b:イソプロピルパルミテート、粘度6.6cSt(30℃)
成分2-c:イソオクチルラウレート、粘度6.7cSt(30℃)
成分2-d:イソオクチルパルミテート、粘度11.2cSt(30℃)
成分2-e:イソオクチルステアレート、粘度13.0cSt(30℃)
成分2-f:イソトリデシルステアレート、粘度23.5cSt(30℃)
成分3 :POE(3)タージトール・ラウリルエステル
成分4 :ドバノールホスフェート・ジブチルエタノールアミン塩
【0028】
実施例1〜8においては、処理剤揮発率、製織時のチーズの内外層差が小さく、解舒性、製品品位が良好であったが、比較例1では、処理剤揮発率が高いため製織時のチーズの内外層差が大きく、比較例2では、脂肪酸エステル比率が高いため解舒性が悪く、比較例3、5では、処理剤粘度が高いため製品品位及び飛走性が悪く、比較例4では、処理剤揮発率が高いため製織性の内外層差が大きく、また脂肪酸エステルの粘度が低いため解舒性が悪く、比較例6では、処理剤付与量が少ないため製品品位が悪く、また比較例7では、処理剤付与量が多すぎ製品品位が悪かった。
【0029】
【発明の効果】
本発明のアセテート繊維用処理剤は、AJLにおける緯糸用処理剤として好適なるものであり、処理剤の揮発性が小さく、チーズ等の捲き形態の糸での組成比変動が小さくなるために、AJLでの製織においてチーズ等から供給される糸の長さ方向の飛走性にバラツキが小さく、織機停止回数を減少させると共に、飛走する糸に乱れがなく品質低下を生じないものである。また本発明のアセテート繊維用処理剤が付与されたアセテート繊維は、AJLにおける緯糸として好適なるものである。

Claims (4)

  1. 炭素数9〜18の流動パラフィン5〜20重量%と炭素数19以上の流動パラフィン95〜80重量%からなり、かつ30℃における粘度が12.0〜25.0cStである流動パラフィン(成分1)30〜60重量%、30℃における粘度が6.0〜15.0cStである脂肪酸エステル(成分2)30〜60重量%、アルコールのエチレンオキサイド付加物の末端水酸基を脂肪族カルボン酸で封鎖した化合物(成分3)5〜15重量%及びアルキルリン酸エステルアミン塩(成分4)5〜10重量%からなるアセテート繊維用処理剤。
  2. 30℃における粘度が13.0〜17.0cStである請求項1記載のアセテート繊維用処理剤。
  3. 脂肪酸エステル(成分2)に用いたアルコールが分岐を有する一級アルコールである請求項1又は2記載のアセテート繊維用処理剤。
  4. 請求項1、2又は3記載の処理剤が0.5〜2.0重量%付与されたエアージェットルーム緯糸用のアセテート繊維。
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