本発明の積層体の製造方法は、第1の層に第2の層が積層される積層体を製造する積層体の製造方法であって、第1の層を形成する第1層形成工程と、第1の層の表面張力から第2の層を形成するための塗布液の表面張力を減算した値が、10mN/m以上であり、かつ第2の層を形成するための塗布液によって形成される塗膜の乾燥前の厚みが、20μm以上50μm以下である塗膜を、第1の層に形成する塗膜形成工程と、塗膜形成工程で形成された塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、たとえば、導電性支持体に複数の感光層が積層される電子写真感光体(以後、単に感光体とも呼ぶ)の製造方法として用いることができる。感光層とは、導電性支持体に形成されて感光体を形成する層である。以下、本発明の積層体の製造方法の実施の一形態である本発明の電子写真感光体の製造方法について説明する。
図1は本発明の実施の第1形態である電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体1の構成を示す部分断面図であり、図2は電子写真感光体1の製造方法の手順を示すフローチャートである。電子写真感光体1は、複写機およびプリンタなどの画像を形成する画像形成装置に備えられる。
本実施形態の感光体の製造方法によって製造される感光体1は、導電性支持体2と、下引層3と、電荷発生層4と、第1電荷輸送層5と、第2電荷輸送層6とを含み、この順に各層が積層形成されて構成される。第1電荷輸送層5と第2電荷輸送層6とは、電荷輸送層7を構成する。電荷輸送層7と電荷発生層4とは、光導電層8を構成する。光導電層8とは、下引層3に積層される層である。本実施形態では、第1電荷輸送層5が第1の層に相当し、第2電荷輸送層6が第2の層に相当する。
本実施形態の感光体1の製造方法は、第1の層である第1電荷輸送層5を形成する第1電荷輸送層形成工程と、第1電荷輸送層5の表面張力から第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力を減算した値が、10mN/m以上であり、かつ第2電荷輸送層6を形成するための塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚み(以後、単に「塗膜の厚み」という場合がある)が、20μm以上50μm以下である塗膜を、第1電荷輸送層5に形成する塗膜形成工程と、塗膜形成工程で形成された塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
本実施形態では、塗膜形成工程は、後述の図3に示す塗膜形成装置11によって実現され、円筒状の塗布面を有する塗布手段の塗布面に、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液を保持させる塗布液保持段階と、第1電荷輸送層5が形成された前駆体に対して、塗布手段を転動させて第1電荷輸送層に塗布液を付着させ、塗膜を形成する塗布液付着段階とを含む。さらに本実施形態の感光体1の製造方法は、第1電荷輸送層形成工程の前に下引層3を形成する下引層形成工程と、電荷発生層4を形成する電荷発生層形成工程とを含む。
本実施形態による電子写真感光体1の製造方法は、下引層形成工程(ステップs1)と、電荷発生層形成工程(ステップ2)と、第1電荷輸送層形成工程(ステップs3)と、塗布液保持段階(ステップs4)および塗布液付着段階(ステップs5)とを含む塗膜形成工程と、乾燥工程(ステップs6)とを含む。
導電性支持体2は、本実施形態では円筒形状を有する。導電性支持体2は、(a)アルミニウム、ステンレス鋼、銅もしくはニッケルなどの金属材料、または(b)ポリエステルフィルム、フェノール樹脂パイプ、紙管などの絶縁物の表面にアルミニウム、銅、パラジウム、酸化スズまたは酸化インジウムなどの導電性材料から成る層を設けた積層材料、などによって形成される。金属材料および導電性材料としては、体積抵抗率が1010Ω・cm以下という導電性を有するものが好ましい。導電性支持体2には、前述の体積抵抗を調整する目的で表面に酸化処理が施されてもよい。
導電性支持体2は、他の各層3,4,5,6の支持部材として機能する。導電性支持体2の形状は、本実施形態では円筒形状であるけれども、これに限定されることなく、たとえば、円柱状、シート状、またはベルト状などであってもよい。
ステップs1の下引層形成工程では、円筒形状の導電性支持体2の外周面に下引層3を形成する。下引層形成工程では、たとえば、下引層形成用の塗布液を導電性支持体2の外周面に塗布することによって、導電性支持体2に下引層3を形成する。下引層3は、導電性支持体2と光導電層8との接着層としての役割を果たすとともに、導電性支持体2から光導電層8に電荷が流込むのを抑制するバリア層としての役割をも有する。したがって、下引層3を設けることによって、導電性支持体2から光導電層8への電荷の流入を抑え、感光体1の帯電性能の低下を防止することができるとともに、感光体1の寿命を延ばすことができる。
下引層3は、たとえば、ポリアミド、ポリウレタン、セルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドもしくはN−メトキシメチル化ナイロンなどの樹脂材料、またはゼラチン、でんぷん、もしくはカゼインなどの天然高分子材料などによって形成される。また導電性支持体2がアルミニウムから成る場合または外周面にアルミニウム層が形成された絶縁性物質から成る場合、アルミニウム陽極酸化皮膜を下引層3として用いることもできる。アルミニウム陽極酸化皮膜を下引層3として用いる場合、導電性支持体2の外周面に下引層形成用の塗布液が塗布される代わりに、導電性支持体2の外周面にアルミニウムの陽極酸化皮膜が形成される。
下引層3には、金属酸化物などの粒子が含有されてもよい。これらの粒子を含有させることによって、下引層3の体積抵抗率を調節し、導電性支持体2から光導電層8に対する電荷の注入をさらに抑制することができる。また温度、湿度などの変化があっても感光体1の電気特性を維持することができる。金属酸化物粒子としては、たとえば、酸化チタン、酸化アルミニウムおよび酸化スズなどの粒子を挙げることができる。
下引層3を形成するための塗布液は、上記樹脂などの材料および必要に応じて用いられる金属酸化物粒子を溶剤中に分散させて作製される。樹脂溶液の溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノールまたはブタノールなどのアルコール類あるいは水などの単独溶剤、水およびアルコール類または2種以上のアルコール類などの混合溶剤、アセトンなどのケトン類またはジオキソランなどのエーテル類とアルコール類との混合溶剤、ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどの塩素系溶剤とアルコール類との混合溶剤を用いることができる。これらの中でも、非塩素系の有機溶剤を用いることが好ましい。
樹脂材料および体積抵抗率の調節のために必要に応じて用いられる金属酸化物粒子を溶剤中に分散させる方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルまたは超音波分散機などを用いる方法を使用することができる。
下引層形成用の塗布液中における溶剤の重量に対する樹脂材料および金属酸化物の合計重量の比率(樹脂材料および金属酸化物の合計重量/溶剤の重量)は、形成すべき下引層3の厚みなどに応じて定められるけれども、0.01以上0.67以下であることが好ましく、0.02以上0.43以下であることがより好ましい。樹脂材料および金属酸化物の合計重量の比率がこのような範囲であると、厚みむらの少ない下引層3を容易に形成することができる。溶剤の重量に対する樹脂材料および金属酸化物の合計重量の比率が0.01未満であると、溶剤の重量が多くなりすぎて乾燥に長時間を要するとともに、所望の厚みを有する下引層の形成のために、塗布液を複数回塗布する必要が生じるおそれがある。溶剤の重量に対する樹脂材料および金属酸化物の合計重量の比率が0.67を超えると、下引層形成用塗布液の粘度が高くなり過ぎ、形成される下引層の厚みが不均一となるおそれがある。
下引層3に金属酸化物を含有させる場合、樹脂材料の含有量に対する金属酸化物の含有量の比率(金属酸化物の含有量/樹脂材料の含有量)は、0.01以上9.0以下であることが好ましく、0.05以上2.33以下であることがより好ましい。樹脂材料の含有量に対する金属酸化物の含有量の比率が0.01未満であると、金属酸化物を含有させることによって体積抵抗率を調節する効果が充分に得られず、9.0を超えると、下引層の体積抵抗率が小さくなり過ぎて導電性支持体2から光導電層8に電荷が流込むおそれがある。金属酸化物の含有量を上記範囲とすることによって、体積抵抗率を好適な値に調整することができる。
導電性支持体2への下引層形成用の塗布液の塗布方法としては、導電性支持体2が本実施形態のような円筒形状または円柱形状である場合、ロールコート法、バーコート法、ブレード塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法、またはスプレー塗布法などを用いることができる。また下引層3の形成される導電性支持体2の形状がシート状などである場合、ベーカアプリケータ、バーコータ、キャスティング、またはスピンコータなどを用いて塗布液を塗布することができる。導電性支持体2への下引層形成用の塗布液の塗布後、塗布液を乾燥させ塗布液中の溶剤を除去する。下引層形成用の塗布液は、後述の第1電荷輸送層5または第2電荷輸送層6を形成する場合と同様に加熱によって乾燥されてもよく、特に加熱されることなく室温で放置されることによって乾燥されてもよい。
下引層3は、乾燥後の厚みが0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。乾燥後の下引層3の厚みを上記範囲とすることによって、導電性支持体2から光導電層8に電荷が流込むのを抑制することができ、また光感度を低下させるおそれがない。乾燥後の下引層3の厚みが0.1μm未満であると、下引層3を設けることによる導電性支持体2から光導電層8に電荷が流込むのを抑制するバリア層としての効果が充分に発揮されず、導電性支持体2から光導電層8に電荷が流入して感光体1の帯電性が低下するおそれがある。下引層3の厚みが10μmを超えると、感光体1の光感度が低下するおそれがある。
導電性支持体2上に下引層3が形成されると、ステップs2の電荷発生層形成工程において、下引層3の導電性支持体2と反対側の表面に電荷発生層4が形成される。ステップs2の電荷発生層形成工程では、たとえば、導電性支持体2に形成された下引層3の導電性支持体2と反対側の表面に、電荷発生層形成用の塗布液を塗布し、下引層3に電荷発生層4を形成する。
電荷発生層4は、電荷発生物質を含んで構成される。電荷発生物質としては、光を吸収してフリー電荷を発生する物質が用いられる。光を吸収してフリー電荷を発生する物質としては、たとえば、無機顔料、有機顔料および有機染料などが挙げられる。無機顔料としては、セレンおよびその合金、ヒ素−セレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛およびアモルファスシリコンなどの無機光導電性物質が挙げられる。有機顔料としては、フタロシアニン系化合物、アゾ系化合物、キナクリドン系化合物、多環キノン系化合物およびペリレン系化合物などが挙げられる。有機染料としては、チアピリリウム塩およびスクアリリウム塩などが挙げられる。前述の電荷発生物質の中でも、有機顔料および有機染料などの有機光導電性物質が好ましい。さらに有機光導電性物質の中でもフタロシアニン系化合物が好適に用いられ、チタニルフタロシアニン化合物を用いることが最適である。電荷発生物質としてチタニルフタロシアニン化合物を用い、かつ後述の電荷輸送物質としてブタジエン系化合物を用いることによって、このような電荷発生物質と電荷輸送物質との組合せによって光導電層が構成されない感光体に比べて、感光体1の光感度および帯電性がさらに向上され、画像再現性に一層優れる感光体1が実現される。
電荷発生層4には、前述の電荷発生物質の他に、化学増感剤または光学増感剤などの増感剤を添加してもよい。化学増感剤としては、電子受容性物質を用いることができる。電子受容性物質としては、たとえば、テトラシアノエチレンおよび7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンなどのシアノ化合物、アントラキノンおよびp−ベンゾキノンなどのキノン類、および2,4,7−トリニトルフルオレノンおよび2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどのニトロ化合物などが挙げられる。光学増感剤としては、キサンテン系色素、チアジン系色素ならびにトリフェニルメタン系色素などが挙げられる。
電荷発生層4を形成するための塗布液は、適当な溶剤中に前述の電荷発生物質を分散させ、さらに結着剤であるバインダ樹脂などが加えられて作製される。前述の増感剤を加える場合、この増感剤についても溶剤中に分散させる。電荷発生物質は、溶剤中に分散される前に、予め粉砕機などによって粉砕されてもよい。粉砕機としては、ボールミル、サンドグラインダ、ペイントシェイカ、および超音波分散機などが挙げられる。
電荷発生層4を形成するための塗布液に加えられるバインダ樹脂としては、結着性を有する材料が用いられる。バインダ樹脂としては、たとえば、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂およびポリアクリレートなどが挙げられる。
電荷発生物質は、電荷発生層4全体の重量に対して10重量%以上99重量%以下の範囲で含まれることが好ましい。電荷発生物質の含有率が上記範囲であると、感光体1の光感度が良好となる。電荷発生物質の含有率が10重量%未満であると、感光体1の光感度が低下するおそれがある。電荷発生物質の含有率が99重量%を超えると、電荷発生層4中のバインダ樹脂の含有率が低くなり、機械的強度が低下するだけでなく、電荷発生物質のバインダ樹脂中での分散性が低下して粗大粒子となり、表面電荷が減少されるべき部分以外の表面電荷が露光によって減少するので、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりを多く発生するおそれがある。
電荷発生層4を形成するための塗布液に用いられる溶剤としては、たとえば、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、シクロヘキサノン、アセトンおよびメチルエチルケトンなどのケトン類、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびジオキソランなどのエーテル類、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテルおよび1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールアルキルエーテル類、酢酸エチルおよび酢酸メチルなどのエステル類、ジクロロメタン、ジクロロエタンおよびモノクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、ならびにN,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられる。これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
電荷発生物質として、結晶転移を起こしやすい無機顔料または有機顔料を用いる場合、電荷発生物質の粉砕およびミリング時の結晶転移に基づく光感度低下、ならびにポットライフによる特性低下を防ぐために、溶剤としてはシクロヘキサノン、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルケトンおよびテトラヒドロフランのいずれか、またはこれらの混合溶剤を用いることが好ましい。
電荷発生層4の形成には、前述の下引層3を形成するための塗布液の塗布と同様の塗布方法を用いることができる。また電荷発生層4の形成には、前述の溶剤などを含む塗布液を塗布する方法に限定されることなく、真空蒸着法、スパッタリング法、または化学蒸着法(CVD法;Chemical Vapor Deposition法)などの気相堆積法が用いられてもよい。
電荷発生層4の乾燥後の厚みは、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがより好ましい。電荷発生層4の厚みが上記範囲であると、感光体1の光感度の低下を防止することができる。電荷発生層4の厚みが0.05μm未満であると、光吸収率が低下し、感光体1の光感度が低下するおそれがある。電荷発生層4の厚みが5μmを超えると、電荷発生層4内部での電荷移動が光導電層8表面の電荷を減少させる過程の律速段階となり、感光体1の光感度が低下するおそれがある。
電荷発生層4が形成されると、第1電荷輸送層形成工程(ステップs3)において、電荷発生層4の導電性支持体2と反対側に第1電荷輸送層5が形成される。また第1電荷輸送層5が形成されると、塗布液保持段階(ステップs4)および塗布液付着段階(ステップs5)を含む塗膜形成工程によって、第2電荷輸送層形成用塗布液からなる塗膜が第1電荷輸送層5の電荷発生層4と反対側の表面に形成される。形成された塗膜は、乾燥工程(ステップs6)によって乾燥され、第2電荷輸送層6となる。
第1電荷輸送層5および第2電荷輸送層6から構成される電荷輸送層7は、電荷発生層4に含まれる電荷発生物質が発生した電荷を受入れ、これを輸送する能力を有する電荷輸送物質と、電荷輸送物質を結着させるバインダ樹脂とを含んで構成される。第1電荷輸送層5および第2電荷輸送層6は、同一の材料を含み、同一の組成からなる塗布液を用いて形成されてもよく、材料または組成の異なる塗布液を用いて形成されてもよい。第1電荷輸送層5と、第2電荷輸送層6とで、塗布液の材料または組成を異ならせることによって、耐久性に優れる、または電荷発生物質の酸化に対する安定性に優れる、などの高機能化された電荷輸送層7を形成することができるので好ましい。
電荷輸送層7に含まれる電荷輸送物質としては、電荷発生層4に含まれる電荷発生物質で発生した電荷を受入れ、これを輸送する能力を有するものであれば特に限定されない。電荷輸送物質としては、たとえば、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−g−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、1,1−ビス(4−ベンジルアミノフェニル)プロパン、ピラゾリン誘導体、フェニルヒドラゾン類、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン系化合物、テトラフェニルジアミン系化合物、スチルベン系化合物、3−メチル−2−ベンゾチアゾリン環を有するアジン化合物、9−(p−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、スチリルアントラセン、およびスチリルピラゾリンなどのスチリル系化合物、1,1−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−4,4−ジフェニル−1,3−ブタジエンなどのブタジエン系化合物、ならびにエナミン系化合物などの電子供与性物質などが挙げられる。
このような電荷輸送物質を含む電荷輸送層形成用塗布液には、少なくとも電荷輸送物質を分散させる溶剤と、結着剤であるバインダ樹脂とが含まれる。
バインダ樹脂は、電荷輸送物質と相溶性を有し、結着性を有する材料であればよい。バインダ樹脂に用いられる樹脂としては、たとえば、ポリカーボネート、共重合ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリケトン、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂およびポリスルホン樹脂、ならびにこれらを構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。前述のバインダ樹脂の中でもポリスチレン、ポリカーボネート、共重合ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリエステルは、体積抵抗率が1013Ω・cm以上であって電気絶縁性に優れており、また成膜性および電位特性などにも優れているので、好適に用いられる。
また電荷輸送層7に1種以上の電子受容性物質または色素などを増感剤として含有させることによって、感光体1の光感度の向上を図り、繰返し使用時の残留電位の上昇および光導電層8の疲労劣化の発生などを抑制するようにしてもよい。
電子受容性物質としては、たとえば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸および4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレンおよびテレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノンおよび1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、ならびに2,4,7−トリニトロフルオレノンおよび2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環または複素環ニトロ化合物などが挙げられ、これらを化学増感剤として用いることができる。
色素としては、たとえば、キサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン色素、キノリン系顔料および銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物が挙げられ、これらを光学増感剤として用いることができる。
さらに電荷輸送層7には、可塑剤を含有させることによって、成形性、可撓性および機械的強度を向上させるようにしてもよい。可塑剤としては、たとえば、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、塩素化パラフィン、およびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。また電荷輸送層7には、ポリシロキサンなどのゆず肌防止レベリング剤、フェノール系化合物、ハイドロキノン系化合物、トコフェロール系化合物、およびアミン系化合物などの耐久性向上のための酸化防止剤ならびに紫外線吸収剤などを含有してもよい。
酸化防止剤を用いる場合、酸化防止剤は、第1電荷輸送層5に含まれる酸化防止剤の含有率よりも、第2電荷輸送層6に含まれる酸化防止剤の含有率を高くすることが好ましい。第2電荷輸送層6に含まれる酸化防止剤の含有率を、第1電荷輸送層5に含まれる酸化防止剤の含有率よりも高くすることによって、オゾンおよび窒素酸化物によって酸化されやすい第2電荷輸送層中の電荷輸送物質の酸化に対する安定性を、第1電荷輸送中の電荷輸送物質の酸化に対する安定性よりも向上させることができる。また第1電荷輸送層5に含まれる酸化防止剤の含有率を、第2電荷輸送層6に含まれる酸化防止剤の含有率よりも低くすることによって、酸化防止剤を含有させることによって生じる感光波長域の変化などの発生を抑制することができる。
電荷輸送層形成用の塗布液に含まれる溶剤としては、たとえば、メタノールおよびエタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン類、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびジオキソランなどのエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ならびにベンゼン、クロロベンゼンおよびトルエンなどの芳香族炭化水素類などを用いることができる。これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
これらの中でも、第2電荷輸送層6を形成するための第2電荷輸送層形成用塗布液の溶剤として、シクロヘキサノンを用いることが好ましい。シクロヘキサノンは、沸点が約140℃と高く、有機溶剤の中で比較的蒸発速度が遅い。これによって、均一な厚みの塗膜を形成することができる。また溶剤としてシクロヘキサノンを用いると、塗膜形成時に、形成された塗膜に白濁が生じるブラッシングなどの発生を抑制することができる。溶剤としてシクロヘキサノンを用いるとともに、後述のロールコート法によって塗膜を形成することが、均一な厚みの塗膜を得ることができ、好ましい。
電荷輸送物質、バインダ樹脂および電子受容性物質などの固形分を溶剤中に分散させる方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルまたは超音波分散機などを用いる方法を使用することができる。
塗布液中における溶剤の重量に対する電荷輸送物質、バインダ樹脂および電子受容性物質などの合計重量である固形分の重量の比率(固形分の重量/溶剤の重量)は、形成する第1電荷輸送層5および第2電荷輸送層6の厚みなどに応じて定められるけれども、0.01以上0.67以下であることが好ましく、0.02以上0.43以下であることがより好ましい。固形分の重量が上記範囲であると、塗膜を効率よく乾燥させることができ、また電荷輸送層7に厚みむらが発生することを防止することができる。溶剤の重量に対する固形分の重量の比率が0.01未満であると、加熱による溶剤の除去に長時間を要するおそれがある。溶剤の重量に対する固形分の重量の比率が0.67を超えると、塗布液の粘度が高くなり過ぎて、均一な厚みの第1電荷輸送層5および第2電荷輸送層6を得られないおそれがある。
また電荷輸送層7中に含まれる電荷輸送物質は、電荷輸送層7を構成する電荷輸送物質、バインダ樹脂および電子受容性物質などの合計重量である固形分の重量に対して、10重量%以上80重量%以下の割合で塗布液中に含まれることが好ましい。電荷輸送物質の含有率が10重量%未満であると、電荷輸送層7中でのバインダ樹脂の含有率が高くなることによって塗布液の粘度が増大し、塗布速度低下を招き生産性が著しく低下するおそれがある。さらにこの粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を前記好ましい量よりも多くすると、形成された電荷輸送層に白濁が生じるブラッシング現象が発生するおそれがある。電荷輸送物質の含有率が80重量%を超えると、電荷輸送層7中でのバインダ樹脂の含有率が低くなることによって耐刷性が低くなり、電荷輸送層7の摩耗量が増加するので、耐摩耗性が低下し、耐久寿命が短くなるおそれがある。したがって電荷輸送物質の含有率が10重量%以上80重量%以下であると、上記生産性および耐摩耗性の低下を防止するとともに、良好な電荷輸送性能を有する感光体1を得ることができる。
さらに第1電荷輸送層5中に含まれる電荷輸送物質が、固形分の重量に対して30重量%以上80重量%以下の割合で塗布液中に含まれ、かつ第2電荷輸送層6中に含まれる電荷輸送物質が、固形分の重量に対して10重量%以上30重量%未満の割合で塗布液中に含まれるように、第1電荷輸送層形成用塗布液および第2電荷輸送層形成用塗布液がそれぞれ作製されることが好ましい。第2電荷輸送層6の電荷輸送物質の含有率を第1電荷輸送層5の電荷輸送物質の含有率よりも低くすることによって、第2電荷輸送層6中のバインダ樹脂の含有率を第1電荷輸送層5中のバインダ樹脂の含有率よりも高くすることができ、第2電荷輸送層6の耐摩耗性を向上させることができる。
ステップs3の第1電荷輸送層形成工程では、形成すべき第1電荷輸送層5の厚みに応じて塗布液を塗布し、第1電荷輸送層形成用塗布液からなる塗膜(以後、第1塗膜と呼ぶ)を形成する。その後、形成された第1塗膜を乾燥させて、第1塗膜に含まれる溶剤を除去し、硬化させることによって第1電荷輸送層5を形成する。
第1電荷輸送層形成用塗布液は、前述の下引層3を形成するための下引層形成用の塗布液と同様の方法によって塗布される。第1塗膜形成工程で形成される第1塗膜は、たとえば、熱風または遠赤外線などを熱源とする乾燥機を用いて乾燥され硬化される。第1塗膜は、マイクロ波加熱法、誘電加熱法、または誘導加熱法などの加熱方法によって加熱され乾燥されてもよい。第1塗膜が乾燥されることによって第1電荷輸送層5が形成されると、塗膜形成工程によって、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液からなる塗膜(以後、第2塗膜と呼ぶ)が形成される。
第2塗膜を形成する塗膜形成工程では、第1電荷輸送層5の電荷発生層4と反対側に、第2電荷輸送層6の成分と溶剤とを含む第2電荷輸送層形成用塗布液を塗布して塗膜を形成する。塗膜形成工程では、第1電荷輸送層5の表面張力をγ1(mN/m)、第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力をγ2(mN/m)、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液によって形成される第2塗膜の厚みをd2(μm)とするとき、下記式(1)および(2)が満足されるようにして、第2塗膜を形成する。
γ1−γ2≧10 …(1)
20≦d2≦50 …(2)
第1電荷輸送層5の表面張力γ1とは、第1電荷輸送層5の単位面積当りの表面自由エネルギーである。固体である第1電荷輸送層5の表面張力γ1は、たとえば、非極性な分子間力について述べたForkes理論を、さらに極性および水素結合性の分子間力による成分まで拡張した拡張Forkes理論を元にした式(3)に示す表面張力の加算則によって求めることができる。拡張Forkes理論は、「Forkes式の拡張と高分子固体の表面張力の評価(北崎寧昭、畑敏雄ほか著、日本接着協会誌、日本接着協会、1972年、Vol.8、No.3、p.131−141)」に記載されている。
γ1=γd+γp+γh …(3)
ただし、γd:双極子成分(極性による濡れ)
γp:分散成分(非極性の濡れ)
γh:水素結合成分(水素結合による濡れ)
γd、γp、γhの各成分の表面張力は、各成分の表面張力が既知である試薬を使用し、その試薬と第1電荷輸送層5との接触角または界面張力を測定することによって算出できる。表面張力の双極子成分が既知の試薬としては、たとえば、ジヨードメタンを用いることができる。分散成分が既知の試薬としては、たとえば、1−ブロモナフタレンを用いることができる。水素結合成分が既知の試薬としては、たとえば、純水を用いることができる。
γd、γp、γhの各成分の表面張力は、20℃の環境下において、たとえば自動接触角計CA−VP型(商品名;協和界面化学株式会社製)によって、各試薬の第1電荷輸送層5に対する接触角を測定し、解析ソフトFAMASによって計算して求めることができる。γd、γp、γhの各成分の表面張力を求めるための試薬は、前述の試薬に限定されず、適宜変更することができる。またγd、γp、γhの各成分の表面張力は、上記装置によって測定される接触角から求められることに限定されない。
また第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力γ2は、ウィルヘルミー法などに代表される方法によって、たとえば、白金板を第2電荷輸送層形成用塗布液に浸漬し、白金板を引上げるときの応力を元に計算することによって求めることができる。第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力γ2は、20℃の環境下において、たとえば表面張力計CBVP−A3型(商品名;協和界面化学株式会社製)などを用いて求めることができる。
上記のようにして求められる第1電荷輸送層5の表面張力γ1および第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力γ2が、上記式(1)を満たし、かつ第2電荷輸送層6を形成するための塗布液によって形成される第2塗膜の厚みd2が、上記式(2)を満たすと、次のような利点がある。
まず上記式(1)および(2)が満足されることによって、第1電荷輸送層5に対する第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の濡れ性を良好にすることができ、次の乾燥工程にて乾燥されて形成される第2電荷輸送層6に、第1電荷輸送層5に対する塗布液のはじきによる第1電荷輸送層5と第2電荷輸送層6との剥離、ピンホール、畝および雨だれ状のむらなどの塗布欠陥を生じることを防止することができる。
また上記式(1)および(2)が満足されることによって、第1電荷輸送層5と第2電荷輸送層6との接着強度を大きくすることができ、感光体1の耐久性を向上することができ、感光体1を長寿命化することができる。
第1電荷輸送層5の表面張力γ1および第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力γ2が、上記式(1)を満たさない場合、第1電荷輸送層5に対する第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の濡れ性が悪く、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液によって形成される第2塗膜の厚みd2が、上記式(2)を満たす場合であっても上記のような塗布欠陥を生じる。
第1電荷輸送層5の表面張力γ1と、第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2とが、上記式(1)を満たす場合であっても、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液によって形成される第2塗膜の厚みd2が上記式(2)を満たさない場合、次のような問題が生じる。第2塗膜の厚みd2が20μm未満であると、上記式(1)を満たす場合であっても、先に形成された第1電荷輸送層5の1μm未満の僅かな厚みむらなどの塗布欠陥によって発生する第1電荷輸送層5の表面張力の差によって、均一な厚みの第2塗膜を形成することが困難となり、第2電荷輸送層6に厚みむらなどの塗布欠陥を生じる。第2塗膜の厚みd2が50μmを超えると、上記式(1)を満たす場合であっても、次の乾燥工程において溶剤を蒸発させるときに、第1電荷輸送層5付近の第2塗膜の温度と、第1電荷輸送層5と反対側の第2塗膜表面付近の温度との差が大きくなり、ベナードセルと呼ばれる塗布液の対流が発生して、第2電荷輸送層6に厚みむらなどの塗布欠陥を生じる。
第1電荷輸送層5の表面張力γ1を調整する方法としては、たとえば、比較的低い表面張力を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系材料、またはシロキサン構造を有するポリシロキサン系材料などを第1電荷輸送層5に含有させ、その含有量を適宜調整する方法が挙げられる。また第1電荷輸送層形成用塗布液に含まれる電荷輸送物質およびバインダ樹脂の種類および組成比を適宜変更することによっても表面張力を調整することができる。また第1電荷輸送層5は、たとえば、第1塗膜が高温かつ短時間で乾燥されると表面張力が高くなる傾向にあり、第1塗膜が低温かつ長時間で乾燥されると表面張力が低くなる傾向にある。このように、第1電荷輸送層形成用塗布液によって形成される第1塗膜の乾燥温度および乾燥時間を適宜調整することによって、表面張力を調整することもできる。
第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2は、35mN/m以下であることが好ましい。第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2は、35mN/mを超えると、第1電荷輸送層5の表面張力を45mN/mより大きくする必要があり、第1電荷輸送層5を形成する材料としての選択肢が少なくなるおそれがある。したがって、第1電荷輸送層5を形成する材料として広い範囲からの選択が可能となるように、第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2は、35mN/m以下であることが好ましい。
第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2は、使用される溶剤によって大きく変化する。したがって、第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2を上記好ましい範囲に設定する方法としては、たとえば、塗布液に用いる溶剤として、適宜好ましいものを選択する方法が挙げられる。第2電荷輸送層形成用塗布液に用いられる溶剤の表面張力は、20℃において、たとえば、エタノールが22.3mN/m、テトラヒドロフランが27.2mN/m、シクロヘキサノンが33.8mN/mである。第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2は、用いる溶剤の種類または組成比を適宜変更することによって調整される。
また第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力γ2は、用いる結着樹脂または添加剤などの種類または組成比を変更することによっても調整できる。
また第2電荷輸送層形成用塗布液は、塗布液の温度が25℃であるときの粘度η2(mPa・s)が、下記式(4)を満たすことが好ましい。
1500≦η2≦2500 …(4)
第2電荷輸送層形成用塗布液の粘度η2は、塗布液の温度が25℃の状態において、たとえばB型粘度計RB205L型(商品名;東機産業株式会社製)などの粘度測定装置によって測定することができる。
第2電荷輸送層形成用塗布液の粘度η2が1500mPa・s以上2500mPa・s以下であると、厚みが20μm以上50μm以下の第2塗膜を、たとえば後述するロールコート法によって容易に形成することができる。第2電荷輸送層形成用塗布液の粘度η2が1500mPa・s未満であると、厚みが20μm以上50μm以下の第2塗膜を形成するときに、塗布液の流動性が大きいことによって第1電荷輸送層5から塗布液が垂れてしまい、厚みむらを発生するおそれがある。第2電荷輸送層形成用塗布液の粘度η2が2500mPa・sを超えると、塗布速度が低下し、生産性が低下するおそれがある。第2電荷輸送層形成用塗布液の粘度η2は、第2電荷輸送層形成用塗布液中の固形分濃度、または電荷輸送物質とバインダ樹脂との比率などを変更することによって調整される。
塗膜形成工程では、以上のような第2電荷輸送層形成用塗布液を用いて、第1電荷輸送層5に第2塗膜を形成する。本実施形態では、塗布液保持段階(ステップs4)および塗布液付着段階(ステップs5)とを含む塗膜形成工程によって、第2塗膜が形成される。塗膜形成工程では、ロールコート法によって第2塗膜が形成されることが好ましい。ロールコート法とは、たとえば、特開2005−87971号公報などに開示され、円筒状の塗布面に塗布液が保持される塗布手段を、被塗布物に対して転動させることによって、被塗布物に塗膜を形成する方法である。
図3は塗膜形成工程を実施するための塗膜形成装置11の構成を簡略化して示す上面図であり、図4は塗膜形成装置11の部分断面図である。図4は、図3に示す塗膜形成装置11の塗布ロール12まわりを、切断面線IV−IVから見たときの部分断面図である。
塗膜形成装置11は、円筒状の塗布面12aを有する塗布手段である塗布ロール12によって、第1電荷輸送層5が形成された前駆体13に第2電荷輸送層6を形成するための塗布液(以後、単に電荷輸送層用塗布液とも呼ぶ)14を付着させるロールコート式の塗布装置である。
塗膜形成装置11は、円筒状の導電性支持体2に下引層3、電荷発生層4および第1電荷輸送層5が順次形成され、第2電荷輸送層6を形成すべき電子写真感光体1の前駆体13に対して、転動することによって電荷輸送層用塗布液14を転写する塗布ロール12と、塗布ロール12に電荷輸送層用塗布液14を供給する塗布液供給手段15と、前駆体13を支持する前駆体支持手段16と、前駆体13を回転駆動させる第1駆動手段17と、塗布ロール12を回転駆動させる第2駆動手段18と、前駆体13が回転する周速を検出する第1周速検出手段19と、塗布ロール12が回転する周速を検出する第2周速検出手段20と、前駆体13の回転回数を検出する回転回数検出手段21と、前駆体13を塗布ロール12に対して近接離反するように移動させることのできる離間手段22と、回転回数検出手段21の検出出力に応答し、塗布ロール12に対して前駆体13が離反する方向に移動するように離間手段22の動作を制御するとともに、前駆体13が回転する周速と塗布ロール12が回転する周速とのうちいずれか一方の周速が他方の周速よりも速くなるように、第1および第2駆動手段17,18の動作を制御する制御手段23と、さらに塗布ロール12を臨んで配置される円筒状部材24および円筒状部材24と塗布ロール12との間隙を調整する調整部材25を有する膜厚調整手段26とを含んで構成され、上記各部材は基台27上に配設される。
基台27上には、一対の第1チョック28a,28bが設けられる。第1チョック28a,28bには不図示の軸受が備えられ、軸受に一対の軸棒部材29a,29bが回転自在にそれぞれ支持される。前駆体13は、軸受を介して第1チョック28a,28bに支持される軸棒部材29a,29bに着脱自在に装着される。したがって、第1チョック28a,28bおよび軸棒部材29a,29bが、前述の前駆体支持手段16を構成する。第1チョック28a,28bは、基台27上の不図示の軌道に乗るように設けられ、軌道に案内されて前駆体13の軸線に対して直交する方向である矢符30方向に移動することができる。
一方の軸棒部材29aの前駆体13が装着される側と反対側の端部31は、第1駆動手段17である電動機の出力軸に連結される。したがって、一方の軸棒部材29aは、第1駆動手段17の駆動力によって回転駆動され、前駆体13が軸棒部材29a,29bに装着されているとき、前駆体13が第1駆動手段17によって回転駆動される。第1駆動手段17の出力軸の軸棒部材29aが連結される側と反対側には、回転回数検出手段21であるエンコーダが装着され、この回転回数検出手段21によって、第1駆動手段17の回転回数、ひいては前駆体13の回転回数を検出することができる。また一方の軸棒部材29aには、第1周速検出手段19である回転速度センサが装着され、この第1周速検出手段19によって、第1駆動手段17の回転速度、ひいては前駆体13の周速を検出することができる。
塗布ロール12は、軸棒部材29a,29bに装着された前駆体13を臨み、前駆体13の軸線に対して塗布ロール12の軸線が平行になるように配置される。塗布ロール12は、基台27上に固設される一対の第2チョック32a,32bに備えられる不図示の軸受に、その軸棒33を介して回転自在に支持される。塗布ロール12の軸棒33の一端部は、第2駆動手段18である電動機の出力軸に連結される。したがって、塗布ロール12は、第2駆動手段18の駆動力によって、回転駆動される。また塗布ロール12の軸棒33には、第2周速検出手段20である回転速度センサが装着され、この第2周速検出手段20によって、第2駆動手段18の回転速度、ひいては塗布ロール12の周速を検出することができる。
本実施の形態では、塗膜形成装置11は、第1駆動手段17による前駆体13の回転方向(矢符53方向)と、第2駆動手段18による塗布ロール12の回転方向(矢符54方向)とが、同一方向であり、前駆体13の外周面と塗布ロール12の外周面とによって若干の間隙が形成され、いわゆるリバースロールコーティングによって塗膜を形成するように構成される。
第2チョック32a,32bには、基台27の各部材が配設される側の面に平行方向かつ外方に向かって立上がるように、支持部材34a,34bがそれぞれ設けられ、支持部材34a,34bには、第1チョック28a,28bが配置される方に向けてエアシリンダ35a,35bがそれぞれ装着される。エアシリンダ35a,35bのロッドの先端部は、基台27表面に平行方向かつ外方に向かって立上がるようにして第1チョック28a,28bに形成される第1突起部36a,36bに取付けられる。エアシリンダ35a,35bは、不図示の配管によって空圧ユニット37に接続され、空圧ユニット37から供給されるエアによって、ロッドを矢符30方向に進退させることができる。このエアシリンダ35a,35bのロッドの進退によって、軌道に乗るように設けられる第1チョック28a,28bが、固設される第2チョック32a,32bに対して近接離反するように矢符30方向に移動する。これによって、第1チョック28a,28bに支持される前駆体13が、第2チョック32a,32bに支持される塗布ロール12に対して近接離反するように移動する。エアシリンダ35a,35b、配管および空圧ユニット37は、離間手段22を構成する。
本実施の形態では、塗布液供給手段15は、電荷輸送層用塗布液14をその内部空間に貯留するパンによって構成され、パンに貯留される電荷輸送層用塗布液14の液面が、塗布ロール12の外周面の少なくとも一部に接触することのできる配置になるように基台27上に設けられる。このことによって、回転する塗布ロール12が、パンに貯留される電荷輸送層用塗布液14を、その外周面に付着させて、前駆体13への塗布に用いることができる。
本実施の形態の塗膜形成装置11は、前述のように塗布ロール12に供給された電荷輸送層用塗布液14の膜厚を調整する膜厚調整手段26をさらに含む。膜厚調整手段26に備えられる円筒状部材24には、本実施形態ではメタリングロール24が用いられる。メタリングロール24は、その軸棒38を介して、不図示の軸受をそれぞれ備える一対の第3チョック39a,39bに回転自在に支持される。第3チョック39a,39bは、第1チョック28a,28bと同様に、基台27上の不図示の軌道に乗るように設けられ、軌道に案内されて矢符30方向に移動することができる。
調整部材25は、第1チョック28a,28bに形成された第1突起部36a,36bと同様にして、第2チョック32a,32bに形成される第2突起部40a,40bおよび第2突起部40a,40bに対向するように第3チョック39a,39bに形成される第3突起部41a,41bと、第2突起部40a,40bと第3突起部41a,41bとの間に設けられるおねじ部材42とを含んで構成される。おねじ部材42は、たとえば頭部が第2突起部40a,40bに回転自在に装着され、おねじの刻設された部分が第3突起部41a,41bに形成されるめねじ部に螺合される。おねじ部材42の頭部を回転させることによって、おねじ部材42の回転運動が、おねじ部材42に螺合する第3突起部41a,41bの形成された第3チョック39a,39bの直進運動に変換されて矢符30方向に移動する。このことによって、第3チョック39a,39bが、第2チョック32a,32bに対して近接離反するように移動、すなわち塗布ロール12に対してメタリングロール24が近接離反するように移動し、塗布ロール12とメタリングロール24とによって形成される間隙である電荷輸送層用塗布液14の膜厚を調整することができる。
調整部材25は、おねじ部材42を用いる構成に限定されず、第2チョック32a,32bと第3チョック39a,39bとの間に、エアシリンダまたは油圧シリンダなどを設け、これを動作させることによって塗布ロール12とメタリングロール24との間隙を調整する構成などであってもよい。
メタリングロール24の軸棒38の一端部は、第3駆動手段43である電動機の出力軸に連結される。メタリングロール24は、第3駆動手段43の駆動力によって、矢符56方向に回転駆動することができる。またメタリングロール24の軸棒38には、第3周速検出手段44である回転速度センサが装着され、この第3周速検出手段44によって、第3駆動手段43の回転速度、ひいてはメタリングロール24の周速を検出することができる。
塗布ロール12の外周面に付着した電荷輸送層用塗布液14はメタリングロール24との間の間隙を通過し、この間隙を通過する際に間隙の大きさに従って電荷輸送層用塗布液14の膜厚が調整される。膜厚の調整された電荷輸送層用塗布液14は、塗布ロール12から前駆体13に転写される。電荷輸送層用塗布液14の膜厚は、より詳細には、塗布ロール12とメタリングロール24とを、同一方向にそれぞれ回転させながら、2つのロール間隙を狭めること、またはメタリングロール24の周速を上げることなどによっても、調整する(この場合は減少させる)ことができる。なお、メタリングロール24は、1本に限定されることなく2本以上配してもよい。またメタリングロール24は、回転方向が隣接するロールに対して同方向に回転されてもよく逆方向に回転されてもよく、さらに回転させることなく固定した状態で膜厚調整に用いてもよい。
図3および図4に示すような塗膜形成装置11における乾燥後の第2塗膜の厚みである第2電荷輸送層の厚みLは、式(5)で与えられるので、式(5)に基づいて第2塗膜の厚みを調整することができる。本実施形態では、第2塗膜の厚みを20μm以上50μm以下とする。
L=Kαηg・√(Rm)・√(Rt 3)/Rpγ2 …(5)
ここで、K;係数(塗布ロール12の径に固有な係数)
α;第2電荷輸送層形成用塗布液の固形分濃度(体積%)
γ2;第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力
η;塗布時のせん断速度における第2電荷輸送層形成用塗布液の粘度
g;塗布ロールとメタリングロールとの間隙寸法
Rm;メタリングロールの周速
Rt;塗布ロールの周速
Rp;前駆体の周速
塗膜形成装置11には、さらに電荷輸送層用塗布液14のクリーニング手段45が設けられる。クリーニング手段45は、メタリングロール24の表面に付着する電荷輸送層用塗布液14を掻取り、塗布液供給手段15であるパンに回収する。クリーニング手段45は、クリーニングブレード46と、クリーニングブレード46を支持する第4チョック47a,47bと、もう一つの調整部材48a,48bとを含んで構成される。
第4チョック47a,47bは、前述の第1チョック28a,28bと同様にして基台27上に設けられ、矢符30方向に移動することができる。クリーニングブレード46は、板状の部材であり、その長手方向が、メタリングロール24の軸線方向に延びるように配置され、その短手方向の端部によって、メタリングロール24表面に付着する電荷輸送層用塗布液14を掻取る。クリーニングブレード46は、第4チョック47a,47bの支持部で角変位可能に支持され、その短手方向がメタリングロール24に臨む角度を変化させることによって、クリーニングブレード46とメタリングロール24との間隙の大きさを調整し、電荷輸送層用塗布液14の掻取量を調整することができる。またもう一つの調整部材48a,48bを調整することによって、第3チョック39a,39bと第4チョック47a,47bとの距離によって決定されるメタリングロール24とクリーニングブレード46とで形成される間隙の大きさを調整し、電荷輸送層用塗布液14の掻取量を調整してもよい。また調整部材48a,48bの調整とともに、前述のクリーニングブレード46を角変位とさせてもよい。もう一つの調整部材48a,48bは、前述の調整部材25a,25bと同様に構成されるので、説明を省略する。
塗膜形成装置11による塗布条件は、前駆体13に対して塗布ロール12で塗布するときの第1駆動手段17による前駆体13の周速u1、第2駆動手段18による塗布ロール12の周速u2、第3駆動手段43によるメタリングロール24の周速u3、前駆体13と塗布ロール12との周速比r(=u1/u2)、塗布開始後前駆体13と塗布ロール12とを離間させるタイミングを決定するための前駆体13の回転回数、さらに前駆体13と塗布ロール12とを離間させるときにおける、前駆体13の周速V1、塗布ロール12の周速V2、前駆体13と塗布ロール12との周速比R(=V1/V2)および離間手段22による離間速度などである。これらの塗布条件を適宜調整することによって、第2塗膜の厚みを20μm以上50μm以下とすることができる。
回転回数検出手段21、第1周速検出手段19、第2周速検出手段20および第3周速検出手段44が、制御手段23に接続され、それぞれの検出出力である前駆体13の塗布開始後の回転回数、前駆体13の周速、塗布ロール12の周速およびメタリングロール24の周速が入力される。また制御手段23には、離間手段22、第1駆動手段17、第2駆動手段18および第3駆動手段43が接続される。制御手段23は、回転回数検出手段21、第1周速検出手段19、第2周速検出手段20および第3周速検出手段44からの検出出力に応じ、制御プログラムおよび予め定められる塗布条件に基づいて離間手段22、第1駆動手段17、第2駆動手段18および第3駆動手段43の動作を制御する。
以下塗膜形成装置11によって前駆体13に対して電荷輸送層用塗布液14を塗布する方法について説明する。本実施形態では、前駆体13は、導電性支持体2に下引層3、電荷発生層4および第1電荷輸送層5が順次積層されて構成される。塗膜形成装置11は、第1電荷輸送層5が形成される前駆体13に対して、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液を付着させて第2塗膜を形成する。
本実施形態の塗膜形成工程は、ステップs4の塗布液保持段階と、ステップs5の塗布液付着段階とを含む。
ステップs4の塗布液保持段階では、円筒状の塗布面12aを有する塗布ロール12の塗布面12aに、電荷輸送層用塗布液14を保持させる。ステップs4では、塗布ロール12の塗布面12aを、塗布液供給手段15であるパンに貯留される電荷輸送層用塗布液14中で通過させることによって、塗布ロール12の塗布面12aに、電荷輸送層用塗布液14を保持させる。
ステップs5の塗布液付着段階では、塗布ロール12を転動させて第1電荷輸送層5が形成される前駆体13に電荷輸送層用塗布液14を付着させ、第2塗膜を形成する。ステップs5では、塗布ロール12の塗布面12aに形成される電荷輸送層用塗布液14の膜厚を膜厚調整手段26で調整した後、前駆体13を塗布ロール12に予め定める間隙を有するように近接させて塗布ロール12を転動させ、塗布ロール12に形成された塗膜を、塗膜に接触する前駆体13に転写させる。このようにして、前駆体13に電荷輸送層用塗布液14を付着させ、第2塗膜を形成する。
塗布を開始後、前駆体13は、形成される第2塗膜の厚みを均一にするために、回転回数が1回以上、20回以下の範囲になるように回転される。回転回数は、1.5回以上10回以下が好ましく、より好ましくは2回以上5回以下である。前駆体13の回転回数が1回未満であると、未塗布の外周面が残るので均一な塗膜が得られない。20回を超えると、作業時間が長くかかり、生産効率が低下する。したがって、回転回数を1回以上20回以下とする。
前駆体13に転写される電荷輸送層用塗布液14の膜厚は、前述の膜厚調整手段26によるメタリングロール24と塗布ロール12との間隙の大きさの他にも、塗布ロール12と前駆体13の周速、電荷輸送層用塗布液14の物性、前駆体13および塗布ロール12の表面の材質、前駆体13と塗布ロール12との間隙の大きさなどの調整によって制御することができる。このような制御によって、第2塗膜の厚みを20μm以上50μm以下とする。
具体的には、塗布ロール12から前駆体13に電荷輸送層用塗布液14を付着させるときの前駆体13の周速u1と塗布ロール12の周速u2との比r(=u1/u2)を、0.7以上1.4以下に設定することが好ましい。
以下、比rの範囲限定理由を説明する。一般的に、前駆体13の周速u1と塗布ロール12の周速u2との比rに対する前駆体13表面における塗布液の流動状態は、比rによって異なり、比rが高くなると塗布液が連続的に凹凸となるリブが形成され、第2塗膜の厚みが不均一になる。このリブ発生の下限条件は、キャピラリー数Caと形態パラメータH0/D(H0:前駆体13と塗布ロール12との間隔の1/2、D:前駆体13の半径)との関係で整理され、結果的にキャピラリー数Caおよび形態パラメータH0/Dに対する影響因子であるロール径、間隙の大きさ、周速、塗布液の粘度、表面張力によって定まることが知られている。前駆体13に、20μm以上50μm以下の厚みであって、均一な厚みを有する第2塗膜を形成するためには、このようなリブの発生を防止することが重要である。前駆体13と塗布ロール12との周速の比rを、0.7以上1.4以下の範囲内に設定して塗膜を形成することによって、ほとんどの条件下でリブを生じることなく、厚みが20μm以上50μm以下の均一な厚みの塗膜を形成できる。
電荷輸送層用塗布液14の塗布を開始した後、前駆体13の回転回数が予め定める回数に達したことを回転回数検出手段21によって検出すると同時に、その検出出力に応じて制御手段23が、離間手段22の動作を制御して前駆体13を塗布ロール12から離間させ、また第1および第2駆動手段6,7の動作を制御して前駆体13の周速V1が、塗布ロール12の周速V2よりも速くなるようにする。このとき、前駆体13の周速V1と塗布ロール12の周速V2との比R(=V1/V2)が、1.2以上15.0以下になるようにすることが好ましい。
塗布ロール12と前駆体13とを離間させると同時に、いずれか一方の周速が他方の周速よりも速くなるように制御するけれども、ここでは、前駆体13の寸法が塗布ロール12の寸法よりも小さく、高速度化の対象とするには寸法の小さい前駆体13の方が有利であるので、前駆体13の周速V1を、塗布ロール12の周速V2よりも速くするように設定する。
塗布ロール12で前駆体13に電荷輸送層用塗布液14を塗布している状態における前駆体13の周速u1および塗布ロール12の周速u2と、離間と同時に設定される前駆体13の周速V1および塗布ロール12の周速V2とは、それぞれ同一であってもよく、また異なる値に定められてもよい。たとえば、前述の比r(=u1/u2)が、1.4になるように設定されて塗布されている場合、塗布ロール12と前駆体13とを単に離間させるだけで、前駆体13の周速の方が、塗布ロール12の周速よりも速い状態を実現することができる。しかしながら多くの場合、塗布状態では前駆体13の周速u1と塗布ロール12の周速u2とは同じ値、すなわち比rが1.0に設定されるので、塗布ロール12の周速を離間の前後で同一(u2=V2)になるようにし、前駆体13の周速を離間と同時に速くして周速V1が周速u1よりも速くなるように制御する方法がとられる。
本実施の形態では、周速比Rは、回転回数検出手段21によって所定の回転回数に達したことが検出されると同時に、該出力に応答し、制御手段23が、不図示のメモリにストアされている塗布条件に該当するテーブルデータを読出し、テーブルデータに指定されている周速V1およびV2になるように、第1および第2駆動手段17,18に対して回転動作制御信号を出力することによって制御される。
周速比Rの制御方法は、上記に限定されることなく、たとえば、塗布時には円筒状基体の回転軸に負荷をかけて周速を遅くしておき、離間時にその負荷を取除くことによって円筒状基体の周速を速くする方法、また反対に離間時に塗布ロールに負荷をかけることによって塗布ロールの周速を遅くして相対的に円筒状基体の周速を速くする方法、また回転軸に負荷をかける手段として、回転軸に摩擦体を設置しブレーキを配置する方法もしくは回転軸をクラッチで繋ぎそのクラッチの接続強度により負荷を変更する方法などを用いて円筒状基体もしくは塗布ロールの周速を変化させる方法であってもよい。
塗布ロール12と前駆体13とを離間させるときの前駆体13の周速V1と塗布ロール12の周速V2とが同じであると、両者を離間させているにも関わらず前駆体13に形成される第2塗膜と塗布ロール12に形成される塗膜とが表面張力の作用によって伸び、前駆体13と塗布ロール12との間に電荷輸送層用塗布液14の連接部を形成する。この電荷輸送層用塗布液14の連接部は、前駆体13と塗布ロール12との間に、あたかも橋をかけたように形成されるので、便宜上これを橋かけ構造と呼ぶ。
一般的に膜厚が薄いと、その部分の溶剤が早く減少するので、膜厚の薄い部分は他の部分よりも表面張力が高くなる。前述の橋かけ構造部分は、その膜厚が薄いので、第2電荷輸送層用塗布液が、前駆体および塗布ロール表面上の塗膜から橋かけ構造部分に流れる。さらに、前駆体と塗布ロールとの離間が進み、橋かけ構造が切れると、橋かけ構造の切断部にエッジが形成され、前述と同様にエッジ部に電荷輸送層用塗布液が流れてエッジ部分の電荷輸送層用塗布液量が増加する。このようにして電荷輸送層用塗布液量が増加したエッジ部分は、前駆体を回転させて第2塗膜の厚みを均一化するレベリングによっても充分に均一化されず、膜厚の厚い継ぎ目が形成される。
前駆体13と塗布ロール12との離間させるとき、前駆体13の周速V1を塗布ロール12の周速V2より速くすると、塗膜を形成する電荷輸送層用塗布液14には、離間方向に張力が加えられるだけでなく、回転方向にも急激にせん断力が加えられるので、橋かけ構造が形成されることなく電荷輸送層用塗布液14が切断される。その結果、前述のような塗膜の継ぎ目が形成されることがないので、前駆体13に対して均一な厚みの塗膜が形成される。さらに離間するときの前駆体13と塗布ロール12との周速の比R(=V1/V2)を、1.2以上15.0以下の範囲に設定することによって、確実に継ぎ目の発生を防止することができるので好ましい。比Rの範囲は、より好ましくは1.3以上8.0以下である。周速の比Rが1.2未満であると、せん断力が不足するので、継ぎ目の発生を充分に防止することができず均一な厚みの塗膜が得られないおそれがある。周速の比Rが15.0を超えると、前駆体13の離間前後における速度上昇の程度が大きくなり過ぎるので、加速度に起因して塗膜が波うつようになり、均一な厚みの塗膜を得ることができなくなるおそれがある。
また塗布ロール12と前駆体13とを離間させることによって、せん断力と張力とを作用させ、橋かけ構造を形成することなく両者の塗膜を切断した後、前駆体13の回転を予め定める時間継続し、前駆体13表面の塗膜をある程度乾燥させることが好ましい。たとえば前駆体13に塗布された電荷輸送層用塗布液14の溶剤が高沸点材料の場合、前駆体13への電荷輸送層用塗布液付着後、塗布ロール12と前駆体13とを離間した後も、塗膜を構成する電荷輸送層用塗布液14が流動性を有しているので、重力の作用によって、第2塗膜が下方に垂れて均一な厚みの塗膜が形成できなくなることがある。溶剤として比較的揮発性の高い材料を用いた場合、溶剤が揮発することによる乾燥を防止するために、塗布ロール12および前駆体13の部分または基台27上に製造装置20全体を覆うカバー部材を設けて略密閉状態とすることも、均一な厚みの塗膜を形成するために有効である。
このような塗膜形成装置11は、上記の構成に限定されることなく、種々の変更が可能である。
図5は、塗膜形成工程を実施するための他の実施形態である塗膜形成装置51の構成を示す断面図である。本実施形態の塗膜形成装置51は、前述の実施形態の塗膜形成装置11に類似するので、構成を示す上面図を省略するとともに、ロール部分のみの断面図を示し、同一の構成である部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
本実施形態の塗膜形成装置51においては、塗布ロール52は、少なくとも表層部が弾性を有する素材から成り、塗布ロール52から前駆体13に電荷輸送層用塗布液14を転写している状態では、第1駆動手段17による前駆体13の回転方向(矢符53)と、第2駆動手段18による塗布ロール52の回転方向(矢符54)とが逆となる。また前駆体13と塗布ロール52とが電荷輸送層用塗布液14を介して当接するように配置される。本実施形態の塗膜形成装置51は、塗布ロール52と前駆体13とが、逆方向に回転するナチュラルロールコーティングによって塗膜を形成するように構成される。
塗布ロール52の少なくとも表層部を構成する弾性素材としては、シリコーンゴム、有機ポリサルファイドゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、ニトロスルホン化ポリエチレン、およびスチレン・ブタジエンゴムなどのゴム、シリコーン樹脂およびフッ素樹脂などの樹脂、および前述のゴムにフッ素樹脂などをコーティングしたものなどが挙げられる。
また塗膜形成装置51では、クリーニングブレードが省かれ、もう一つのメタリングロール55が設けられる。メタリングロール24は、塗布ロール52の逆方向の矢符56方向に回転する。もう一つのメタリングロール55は、塗布ロール52と同一方向であってメタリングロール24と逆方向の矢符57方向に回転する。塗布ロール52とメタリングロール24との間隙、および2本のメタリングロール24,55の間隙は、調整部材25a,25bおよび調整部材48a,48bによって、所望の値になるように調整される。
塗布液供給手段15に貯留される電荷輸送層用塗布液14に、もう一つのメタリングロール55の一部が浸漬され、もう一つのメタリングロール55に付着した電荷輸送層用塗布液14が、メタリングロール24を介して塗布ロール52に供給され保持される(ステップs4)。このようにして塗布液が塗布ロール52に保持されると、塗布ロール52の転動によって、塗布ロール52に保持される電荷輸送層用塗布液14が塗布ロール52から前駆体13に転写塗布され、前駆体13に塗布液が付着される(ステップs5)。本実施形態では、第2塗膜の厚みが20μm以上50μm以下となるように、メタリングロール24,55間およびメタリングロール24と塗布ロール52との間に形成される間隙寸法が適宜調整される。またその他塗布液の物性、各ロールの周速、ニップ圧および塗布ロール52の材質などについても適宜調整される。
ナチュラルロールコーティングの場合、第1および第2駆動手段17,18の動作制御によって、離間時における塗布ロール52と前駆体13との周速比Rを、周速V1と周速V2とを設定する以外に、以下のようにして制御することもできる。たとえば、離間前の前駆体13の周速u1が、塗布ロール52の周速u2よりも速い設定である場合、塗布ロール52の表層が弾性体で構成されるので、塗布ロール52と前駆体13とをニップ圧をかけて当接させることによって、塗布ロール52が前駆体13に対する摩擦体としてはたらき、ブレーキの役目を果たす。この状態から前駆体13と塗布ロール52とを離間すると、同時に前駆体13に働いていた摩擦力であるブレーキ作用が無くなる。この摩擦力が無くなることによって、前駆体13は、塗布ロール52よりも速い周速で回転することができるようになり、前駆体13の周速を離間と同時に瞬時に変化させて、塗布ロール52の周速よりも速く回転することができる。
塗膜形成工程では、上記のようなロールコート法を用いる塗膜形成装置によって第2塗膜を形成することに限定されない。塗膜形成工程では、前述の下引層3を形成するための下引層形成用塗布液と同様の方法、たとえば、バーコート法、ブレード塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法、またはスプレー塗布法などによって、第2塗膜が形成されてもよい。
ただし、塗膜形成工程では、ロールコート法によって第2塗膜が形成されることが最も好ましい。上記のような塗膜形成装置を用いて、塗布液が保持される塗布ロールの転動によって第1電荷輸送層5が形成された前駆体に塗膜を形成する方法では、たとえば浸漬塗布法などの方法に比べて、第1電荷輸送層5に接触する第2電荷輸送層形成用塗布液の量が少ない。これによって、浸漬塗布法などの方法に比べて、第2電荷輸送層形成用塗布液を付着させるときに、第1電荷輸送層5が、第2電荷輸送層形成用塗布液に溶解することが防止され、第2電荷輸送層形成用塗布液の汚染を防止することができる。またスプレー塗布法などの方法に比べて、第2電荷輸送層形成用塗布液として粘度の高い塗布液を用いることができ、厚みが20μm以上50μm以下の第2塗膜を、容易に形成することができる。
以上のようにして第2塗膜が形成されると、ステップs6に進む。
ステップs6の乾燥工程では、塗膜形成工程で形成された第2塗膜を乾燥させる。ステップs6では、たとえば、第2塗膜は、たとえば、熱風または遠赤外線などを熱源とする乾燥機を用いて加熱され、第2塗膜中の溶剤が除去されることによって乾燥される。第2塗膜は、マイクロ波加熱法、誘電加熱法、または誘導加熱法などの加熱方法によって第2塗膜が加熱され乾燥されてもよい。このようにして第2塗膜が乾燥されることによって、第2電荷輸送層6が形成される。
以上のようにして形成される第1電荷輸送層5および第2電荷輸送層6は、電荷輸送層7全体としての乾燥後の厚みが、10μm以上50μm以下であることが好ましく、15μm以上40μm以下であることがさらに好ましい。電荷輸送層7全体の乾燥後の厚みが上記好適な範囲であると、感光体1の帯電保持性能が良好であるとともに、良好な解像度を得ることができる。電荷輸送層7全体の乾燥後の厚みが10μm未満であると、感光体1の帯電保持性能が低下するおそれがある。電荷輸送層7全体の乾燥後の厚みが50μmを超えると、感光体1の解像度が低下するおそれがある。
また第2電荷輸送層6中の電荷輸送物質の含有率が、第1電荷輸送層5中の電荷輸送物質の含有率が低くなるように設定される場合、第2電荷輸送層6の乾燥後の厚みは、第1電荷輸送層5の厚みよりも小さくなるように、第2塗膜が形成されることが好ましい。第1電荷輸送層5よりも電荷輸送物質の含有率が低い第2電荷輸送層6が、第1電荷輸送層5以上の厚みに形成されると、電荷輸送層7全体としての電荷輸送性能が低下するおそれがある。
たとえば、第1電荷輸送層5中に含まれる電荷輸送物質が、固形分の重量に対して30重量%以上80重量%以下の割合で塗布液中に含まれ、かつ第2電荷輸送層6中に含まれる電荷輸送物質が、固形分の重量に対して10重量%以上30重量%以下の割合で塗布液中に含まれる場合、第1電荷輸送層の乾燥後の厚みは、10μm以上30μm以下であり、第2電荷輸送層の乾燥後の厚みは、3μm以上10μm未満であることが好ましい。第1電荷輸送層5および第2電荷輸送層6の厚みを上記のように設定することによって、電荷輸送層7全体としての電荷輸送性能および耐摩耗性に優れる感光体1を製造することができる。
感光体1による静電潜像形成動作について簡単に説明する。感光体1に設けられる光導電層8は、帯電器などでたとえば正に一様に帯電され、帯電された状態で電荷発生物質に吸収波長を有する光が照射されると、光導電層8の外表面付近に電子および正孔の電荷が発生する。電子は、光導電層8外表面付近の正電荷を中和し、正孔は、負電荷が誘起された導電性支持体2の側に電荷輸送物質によって輸送され、導電性支持体2に誘起された負電荷を中和する。このようにして、露光された部位の帯電量と露光されなかった部位の帯電量とに差異が生じ、光導電層8に静電潜像が形成される。
本実施形態の感光体1の製造方法によれば、第1電荷輸送層5の表面張力、および第1電荷輸送層5に積層される第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力と、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液によって形成される第2塗膜の乾燥前の厚みとの間に、好適な関係が規定される。これによって、第1電荷輸送層5に対する第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の濡れ性を良好にすることができ、第2電荷輸送層形成用塗布液によって形成される塗布液の層である第2塗膜を乾燥させて形成される第2電荷輸送層6に、はじき、ピンホール、畝および雨だれ状のむらなどの塗布欠陥を生じることを防止することができる。
また第1電荷輸送層5に対する第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の濡れ性が良好であるので、第1電荷輸送層5の表面張力と第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力との関係が規定されない感光体に比べて、第1電荷輸送層5と第2電荷輸送層6との接着強度を大きくすることができ、感光体1の耐久性を向上することができる。
さらにこのような感光体1は、第2電荷輸送層6に塗布欠陥が生じることが防止されるので、形成画像に白点、黒点および濃度むらなどの画像欠陥が発生することを防止することができる。また第1電荷輸送層5と、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液との濡れ性が考慮されない製造方法によって製造される感光体に比べて、表面状態が平滑であるので、クリーニングブレードまたはクリーニングブラシによって残留トナーおよび紙粉を除去することが容易になり、クリーニング性に優れる。
本実施形態の感光体1の製造方法は、上記の構成に限定されることなく、種々の変更が可能である。
本実施形態では、前述のように、第1電荷輸送層5の表面張力、および第1電荷輸送層5に積層される第2電荷輸送層6を形成するための塗布液の表面張力と、第2電荷輸送層6を形成するための塗布液によって形成される第2塗膜の厚みとについて、上記式(1)および(2)に示す好適な関係を満たすように感光体1を製造する。これに加えて、電荷発生層4の表面張力、および電荷発生層4に積層される第1電荷輸送層5を形成するための塗布液の表面張力と、第1電荷輸送層5を形成するための塗布液によって形成される第1塗膜の厚みとについて、好適な関係を満たすように感光体1が製造されてもよい。これによって、第1電荷輸送層5に塗布欠陥が発生するのを防止することができ、第2電荷輸送層形成用塗布液が塗布される第1電荷輸送層5の表面状態が平滑であるので、第2電荷輸送層6への塗布欠陥の発生を一層確実に防止することができる。
また実施の第1形態に類似する他の実施形態として、次のような感光体を製造することもできる。電荷発生層4および第1電荷輸送層形成用塗布液の表面張力と、第1塗膜の厚みとについて、好適な関係を満たしていれば、第1電荷輸送層5および第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力と、第2塗膜の厚みとについての関係は考慮されなくてもよい。このような方法によっても、第1電荷輸送層5に塗布欠陥が発生するのを防止することができるので、電荷発生層4の表面張力および第1電荷輸送層形成用塗布液の表面張力と、第1塗膜の厚みとの関係、ならびに第1電荷輸送層5の表面張力および第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力と、第2塗膜の厚みとの関係がいずれも規定されない場合に比べて、第2電荷輸送層6の塗布欠陥の数を低減することができる。
ただし、最外層である第2電荷輸送層6の塗布欠陥の発生を防止することが、耐久性に優れる、または光導電性物質の酸化に対する安定性に優れる、などの高機能化された感光体の製造に最も有効である。したがって、少なくとも第1電荷輸送層5および最外層である第2電荷輸送層形成用塗布液の表面張力と、第2塗膜の厚みとについての関係が規定されることが好ましい。
図6は、本発明の実施の第2形態である電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体61の構成を示す部分断面図である。電子写真感光体61は、前述の第1実施形態の製造方法によって製造される電子写真感光体1に類似するので、同一の構成である部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
本実施形態の感光体の製造方法によって製造される感光体61は、導電性支持体2と、下引層3と、電荷発生層4と、電荷輸送層62と、保護層63とを含み、この順に各層が積層されて構成される。本実施形態の感光体61の製造方法では、第1の層である電荷輸送層62を形成する電荷輸送層形成工程と、電荷輸送層62の表面張力から第2の層である保護層63を形成するための塗布液の表面張力を減算した値が、10mN/m以上であり、かつ保護層63を形成するための塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚みが、20μm以上50μm以下である塗膜を、電荷輸送層62に形成する塗膜形成工程と、塗膜形成工程で形成された塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
本実施形態では、前述の第1実施形態における第2電荷輸送層6の代わりに、保護層63が形成される。保護層63は、第2電荷輸送層6の形成方法と同様にして、電荷輸送層62および保護層形成用塗布液の表面張力と、保護層形成用塗布液によって形成される塗膜の厚みとについて、好適な関係を満たすようにして、形成される。
保護層63は、少なくとも樹脂を含有する層で形成される。保護層63に使用される樹脂としては、たとえば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン樹脂(ACS樹脂)、オレフィン−ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、およびエポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
また保護層63には、耐摩耗性の向上および保護層形成用塗布液の表面張力を調整することを目的として、フィラーを添加してもよい。保護層に添加されるフィラーとしては、たとえば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、窒化ケイ素、酸化カルシウム、硫酸バリウム、インジウム−スズ酸化物(ITO)、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、カーボンブラック、フッ素系樹脂微粉末、ポリシロキサン系樹脂微粉末、および高分子電荷輸送材料微粉末などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのフィラーは、分散性向上または表面性改質などを目的として、無機物または有機物で表面処理されてもよい。このような表面処理のうち撥水性処理したフィラーとしては、シランカップリング剤で処理したもの、フッ素系シランカップリング剤で処理したもの、高級脂肪酸で処理したもの、および高分子材料などと共重合処理させたものなどが挙げられる。また無機物で処理されたものとしては、たとえば、フィラー表面をアルミナ、ジルコニア、酸化スズまたはシリカなどで処理したものなどが挙げられる。フィラーは、ボールミル、サンドミルまたは振動ミルなどによって、前述の樹脂および溶剤とともに粉砕されてもよい。
保護層63に含有されるフィラーは、個数平均粒径が、0.02μm以上3μm以下であることが好ましく、0.05μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。フィラーがこのような大きさであると、解像度を低下させることなく感光体61の耐摩耗性を向上させることができる。フィラーの個数平均粒径が0.02μm未満であると、フィラーを添加しない場合に比べて保護層63の耐摩耗性を向上させることができず、感光体61の長寿命化を図ることができないおそれがある。フィラーの個数平均粒径が3μmを超えると、感光体61に照射される光が保護層63に含まれるフィラーによって散乱し、解像度が低下するおそれがある。
樹脂およびフィラーは、溶剤に分散されて保護層形成用塗布液を形成する。フィラーを保護層63に含有させる場合、フィラーは、フィラーおよび樹脂を含む固形分の重量に対して、5重量%以上50重量%以下で含有されることが好ましく、10重量%以上40重量%以下で含有されることが好ましい。フィラーの含有率が上記範囲であると、光感度の低下を生じることなく耐摩耗性を向上させることができる。フィラーの含有率が5重量%未満であると、フィラーを添加しない場合に比べて保護層63の耐摩耗性を向上させることができないおそれがある。フィラーの含有率が50重量%を超えると、保護層63の透明性が失われ、感光体の光感度が低下するおそれがある。
保護層形成用塗布液に用いられる溶剤としては、たとえば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、およびエチルセロソルブなどのエーテル類、トルエンおよびキシレンなどの芳香族類、クロロベンゼンおよびジクロルメタンなどのハロゲン類、ならびに酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類が挙げられる。
また保護層63には、電荷輸送効率を向上させることを目的として、前述の第1実施形態にて例示したような電荷輸送物質を添加してもよい。また保護層63には、帯電性の向上などを目的として、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、またはヒンダードアミンと、ヒンダードフェノールとが同一分子中に存在する化合物などを添加することもできる。さらに可塑剤またはレベリング剤を添加してもよい。可塑剤としては、ジブチルフタレート、およびジオクチルフタレートなど一般の樹脂の可塑剤として使用されているものを用いることができる。可塑剤の使用量は、前記樹脂に対して1重量%以上30重量%以下が適当である。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、およびメチルフェニルシリコーンオイルなどのシリコーンオイル類、ならびに側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマー、またはオリゴマーなどが挙げられる。レベリング剤の使用量は、前記樹脂に対して、0.1重量%以上1重量%以下が適当である。
また保護層63を少なくとも硬化型樹脂からなる層で構成するために、材料の分野で公知である種々の架橋反応、たとえばラジカル重合、イオン重合、熱重合、光重合、または放射線重合などを用いることができる。さらに前述のように保護層に電荷輸送機能を併せて持たせるために、電荷輸送機能を有する物質または高分子型電荷輸送物質を架橋反応させてもよい。たとえば架橋性オルガノポリシロキサン樹脂と、それに結合可能でかつ電荷輸送性を有する構造単位を含む化合物とを混ぜて硬化し、ポリシロキサン樹脂とすることによって、優れた耐久性と電気輸送性とを実現することができる。
保護層63の厚みは、保護層形成用塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚みが、20μm以上50μm以下となるように設定される。乾燥工程後の保護層63の厚みは、電荷輸送層62の厚みよりも小さくなるように設定されることが好ましい。電荷輸送層62よりも電荷輸送物質の含有率が低い保護層63が、電荷輸送層62以上の厚みに形成されると、感光体61の電荷輸送性能が低下するおそれがある。たとえば、保護層63は、電荷輸送層62の乾燥後の厚みが10μm以上50μm以下である場合、乾燥後の厚みが3μm以上10μm未満であることが好ましい。
本実施形態の感光体61の製造方法によれば、電荷輸送層62の表面張力、および電荷輸送層62に積層される保護層63を形成するための塗布液の表面張力と、保護層63を形成するための塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚みとの好適な関係が規定される。これによって、保護層63に、はじき、ピンホール、畝および雨だれ状のむらなどの塗布欠陥を生じることを防止することができる。また電荷輸送層62に対する保護層63を形成するための塗布液の濡れ性が考慮されない感光体に比べて、電荷輸送層62と保護層63との接着強度を大きくすることができ、感光体61の耐久性を向上することができる。
図7は、本発明の実施の第3形態である電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体71の構成を示す部分断面図である。電子写真感光体71は、前述の第2実施形態の製造方法によって製造される電子写真感光体61に類似するので、同一の構成である部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
本実施形態の感光体の製造方法によって製造される感光体71は、導電性支持体2と、下引層3と、電荷発生層4と、電荷輸送層62とを含み、この順に各層が積層されて構成される。本実施形態の感光体71の製造方法では、第1の層である電荷発生層4を形成する電荷発生層形成工程と、電荷発生層4の表面張力から第2の層である電荷輸送層62を形成するための塗布液の表面張力を減算した値が、10mN/m以上であり、かつ電荷輸送層62を形成するための塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚みが、20μm以上50μm以下である塗膜を、電荷発生層4に形成する塗膜形成工程と、塗膜形成工程で形成された塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
本実施形態では、前述の第2実施形態における保護層63が形成されない。電荷輸送層62は、前述の第1実施形態の感光体1の製造方法における第2電荷輸送層6の形成方法と同様にして、電荷発生層4および電荷輸送層形成用塗布液の表面張力と、電荷輸送層形成用塗布液によって形成される塗膜の厚みとについて、好適な関係を満たすようにして、形成される。
本実施形態の感光体71の製造方法によれば、電荷発生層4の表面張力、および電荷発生層4に積層される電荷輸送層62を形成するための塗布液の表面張力と、電荷輸送層62を形成するための塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚みとの好適な関係が規定される。これによって、電荷輸送層62に塗布欠陥のない、耐久性に優れる感光体を製造することができる。
図8は、本発明の実施の第3形態である電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体81の構成を示す部分断面図である。電子写真感光体81は、前述の第3実施形態の製造方法によって製造される電子写真感光体71に類似するので、同一の構成である部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
本実施形態の感光体の製造方法によって製造される感光体81は、導電性支持体2と、下引層3と、感光層82とを含み、この順に各層が積層されて構成される。感光層82は、電荷発生物質および電荷輸送物質の両方を含む。感光層82は、前述の第1実施形態における光導電層8に相当する。本実施形態の感光体81の製造方法では、第1の層である下引層3を形成する下引層形成工程と、下引層3の表面張力から第2の層である感光層82を形成するための塗布液の表面張力を減算した値が、10mN/m以上であり、かつ感光層82を形成するための塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚みが、20μm以上50μm以下である塗膜を、下引層3に形成する塗膜形成工程と、塗膜形成工程で形成された塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
本実施形態では、前述の第3実施形態における電荷発生層4および電荷輸送層62の代わりに、電荷発生物質および電荷輸送物質を含む感光層82が形成される。感光層82は、前述の第1実施形態の感光体1の製造方法における第2電荷輸送層6の形成方法と同様にして、下引層3および感光層形成用塗布液の表面張力と、感光層形成用塗布液によって形成される塗膜の厚みとが、好適な関係を満たすようにして、形成される。
本実施形態の感光体81の製造方法によれば、下引層3の表面張力、および下引層3に積層される感光層82を形成するための塗布液の表面張力と、感光層82を形成するための塗布液によって形成される乾燥前の塗膜の厚みとの好適な関係が規定される。これによって、塗布欠陥のない、耐久性に優れる感光体を製造することができる。
以上のようにして製造される電子写真感光体は、複写機およびプリンタなどの画像を形成する画像形成装置に備えられる。画像形成装置には、高画質化、高耐久性、低コストおよびフルカラー化などが要求される。
図9は、本発明の感光体の製造方法によって製造される感光体1を備える画像形成装置91の構成を簡略化して示す配置側面図である。図9に示す画像形成装置91は、本発明の積層体の製造方法で製造される積層体によって実現される感光体として、前述の図1に示す円筒状の感光体1を備える。本実施形態の画像形成装置91は、デジタル複写機91である。
デジタル複写機91は、大略スキャナ部92と、レーザ記録部93とを含む構成である。スキャナ部92は、透明ガラスからなる原稿載置台94と、原稿載置台94上へ自動的に原稿を供給搬送するための両面対応自動原稿送り装置(RADF;Reversing
Automatic Document Feeder)95と、原稿載置台94上に載置された原稿の画像を走査して読取るための原稿画像読取りユニットであるスキャナユニット96とを含む。スキャナ部92にて読取られた原稿画像は、画像データとして後述する画像データ入力部へと送られ、画像データに対して所定の画像処理が施される。RADF95には、RADF95に備わる図示しない原稿トレイ上に複数枚の原稿を一度にセットしておき、セットされた原稿を1枚ずつ自動的に原稿載置台94上へ給送する装置である。またRADF95は、オペレーターの選択に応じて原稿の片面または両面をスキャナユニット96に読取らせるように、片面原稿のための搬送経路、両面原稿のための搬送経路、搬送経路切り換え手段、各部を通過する原稿の状態を把握し管理するセンサ群、および制御部などを含んで構成される。
スキャナユニット96は、原稿面上を露光するランプリフレクターアセンブリ97と、原稿からの反射光像を光電変換素子(略称CCD)98に導くために原稿からの反射光を反射する第1反射ミラー99を搭載する第1走査ユニット100と、第1反射ミラー99からの反射光像をCCD98に導くための第2および第3反射ミラー101,102を搭載する第2走査ユニット103と、原稿からの反射光像を前述の各反射ミラー99,101,102を介して電気的画像信号に変換するCCD98上に結像させるための光学レンズ104と、CCD98とを含む構成である。 スキャナ部92は、RADF95とスキャナユニット96との関連動作によって、原稿載置台94上に読取るべき原稿を順次給送載置させるとともに、原稿載置台94の下面に沿ってスキャナユニット96を移動させて原稿画像を読取るように構成される。第1走査ユニット100は、原稿載置台94に沿って原稿画像の読取り方向(図9では紙面に向って左から右)に一定速度Vで走査され、また第2走査ユニット103は、その速度Vに対して2分の1(V/2)の速度で同一方向に平行に走査される。この第1および第2走査ユニット100,103の動作によって、原稿載置台94上に載置された原稿画像を1ライン毎に順次CCD98へ結像させて画像を読取ることができる。
原稿画像をスキャナユニット96で読取って得られた画像データは、後述する画像処理部へ送られ、各種画像処理が施された後、画像処理部のメモリに一旦記憶され、出力指示に応じてメモリ内の画像を読出してレーザ記録部93に転送して記録媒体である記録紙上に画像を形成させる。
レーザ記録部93は、記録紙の搬送系105と、レーザ書込みユニット106と、画像を形成するための電子写真プロセス部107とを備える。レーザ書込みユニット106は、前述のスキャナユニット96にて読取られてメモリに記憶された後にメモリから読出される画像データ、または外部の装置から転送される画像データに応じてレーザ光を出射する半導体レーザ光源と、レーザ光を等角速度偏向するポリゴンミラーと、等角速度で偏向されたレーザ光が電子写真プロセス部107に備えられる感光体1の外表面で等角速度で偏向されるように補正するf−θレンズなどを含む。
電子写真プロセス部107は、前述の感光体1の周囲に帯電器108、現像器109、転写器110、クリーニング器111が、矢符112で示す感光体1の回転方向の上流側から下流側に向かってこの順番に備えられる。感光体1は、帯電器108によって一様に帯電され、帯電された状態で電子写真プロセス部107から出射される原稿画像データに対応するレーザ光によって露光される。露光されることによって感光体1表面に形成される静電潜像は、現像器109から供給されるトナーによって現像され、可視像であるトナー画像となる。感光体1表面に形成されたトナー画像は、後述する搬送系105によって供給される記録紙に、転写器110によって転写され、転写しきれなかった感光体1外表面の残留トナーは、クリーニング器111にて掻き取られる。
記録紙の搬送系105は、画像を形成する電子写真プロセス部107の転写器110の配置される転写位置へ記録紙を搬送する搬送部113と、搬送部113へ記録紙を送込むための第1〜第3カセット給紙装置114,115,116と、所望の寸法の記録紙を適宜給紙するための手差給紙装置117と、感光体1から記録紙に転写された画像、特にトナー画像を定着する定着器118と、トナー画像定着後の記録紙の裏面(トナー画像の形成された表面の反対側の面)に、さらに画像を形成するために記録紙を再供給するための再供給経路119とを含む。この搬送系105の搬送経路上には、多数の搬送ローラ120が設けられ、記録紙は搬送ローラ120によって搬送系105内の所定の位置に搬送される。
定着器118によってトナー画像を定着処理された記録紙は、裏面に画像形成するべく再供給経路119に送給されるか、または排紙ローラ121によって後処理装置122へ給送される。再供給経路119に給送された記録紙には、前述の動作が繰返し実行されて裏面に画像形成される。後処理装置122に給送された記録紙は、後処理が施された後、後処理工程に応じて定められる排紙先である第1または第2排紙カセット123,124のいずれかに排紙されて、デジタル複写機91における一連の画像形成動作が終了する。
デジタル複写機91には、高耐久性を有するとともに、塗布欠陥のない感光体1が備えられるので、長期間にわたって画像欠陥のない良好な画像を形成することができる。また感光体1の耐久性が向上することによって、デジタル複写機91のメンテナンス頻度を低下させることができる。