JP4578059B2 - 新規酵母 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵母、酵母のスクリーニング方法、パン生地、パンの製造方法およびパンに関する。
【0002】
【従来の技術】
パンはカビの発生により著しく商品価値が低下するため、一般に製造に際しては環境面のクリーン化、または各種防黴剤の添加などによる防黴対策が行われている。
防黴剤として、例えば酢酸等の酸味剤、酢酸ソーダ等の添加剤、またはプロピオン酸、エタノール等の殺菌剤を含有するものが用いられているが、これらの防黴剤を添加すると、パンの風味が悪くなるという問題がある。また、近年、自然志向が強くなっていることもあり、これらの防黴剤を添加することなく、カビの発生を抑制する技術の確立が強く望まれている。
しかし、従来の工程でパンを製造した場合、防黴剤を添加せずにカビの発生を抑制することは困難である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、防黴効果を有するパンの製造に用いられる酵母、該酵母のスクリーニング方法、該酵母を含有するパン生地、ならびに該酵母をパン生地に添加することを特徴とするパンの製造方法および該方法により得られるパンを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記(1)〜(14)に関する。
(1) サッカロミセス属に属し、糖5%生地中での38℃、60分間の炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり2.0ml以上で、かつ該生地の膨張量1mlあたり1.20ml以上である酵母。
(2) 酵母が、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母である、上記(1)の酵母。
(3) 酵母が、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YHK1923(FERM BP−7901)、またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) YHK2931(FERM BP−8046)である、上記(1)または(2)の酵母。
【0005】
(4) 上記(1)〜(3)のいずれか1つの酵母を含有するパン生地。
(5) 上記(1)〜(3)のいずれか1つの酵母を用いることを特徴とするパンの製造方法。
(6) 上記(4)のパン生地を用いることを特徴とするパンの製造方法。
(7) 上記(5)または(6)の方法により得られるパン。
(8) 糖5%生地中での38℃、60分間の炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり2.0ml以上で、かつ該生地の膨張量1mlあたり1.20ml以上である酵母を選択することを特徴とする、酵母のスクリーニング方法。
(9) 上記(8)のスクリーニング方法により得られる酵母。
(10) 上記(9)の酵母を含有するパン生地。
【0006】
(11) 上記(9)の酵母を用いることを特徴とするパンの製造方法。
(12) 上記(10)のパン生地を用いることを特徴とするパンの製造方法。
(13) 上記(11)または(12)の方法により得られるパン。
(14) エタノール含量の高い、上記(7)または(13)のパン。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の酵母としては、以下の工程(a)〜(d)により得られた酵母菌体を用いて、以下の工程(ア)〜(キ)からなる連続した7工程で生地膨張量を測定し、かつ工程(ア)〜(エ)および(ク)〜(コ)からなる連続した7工程で炭酸ガス量を測定した場合、糖5%生地において38℃、60分間で発生する炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり2.0ml以上、好ましくは2.4ml以上、さらに好ましくは3.0ml以上で、かつ生地膨張量1mlあたり1.20ml以上、好ましくは1.40ml以上である酵母があげられる。
なお、本発明において、糖5%生地とは、生地中に、小麦粉等の穀物粉100重量部に対して5重量部の糖を含有する生地をいう。
【0008】
(a)120℃で20分間殺菌して調製したYM培地(水1L、グルコース10g、ペプトン5g、酵母エキス3g、麦芽エキス3gおよび寒天20gを含み、pH6に調整した培地)に、酵母菌体を1白金耳植菌し、30℃で2日間培養する工程、
【0009】
(b)120℃で20分間殺菌した300ml容三角フラスコ中のYPD培地(水30ml、酵母エキス0.3g、ポリペプトン0.6gおよびグルコース0.6gを含む培地)に、上記工程(a)で得られた酵母菌体を1白金耳植菌し、30℃で24時間振とう培養(220rpm)する工程、
【0010】
(c)上記工程(b)で得られた培養液全量を、120℃で20分間殺菌した2L容斜ヒダ付き三角フラスコ中の糖蜜培地〔水300ml、糖濃度3%(w/v)分の糖蜜、尿素0.579g、リン酸2水素カリウム0.138gおよび消泡剤2滴を含む培地〕に植菌し、30℃で24時間振とう培養(220rpm)する工程、
【0011】
(d)上記工程(c)で得られた培養液から、遠心分離(3,000rpm、5分間、4℃)によって菌体を分離し、該菌体を3回脱イオン水で洗浄後、ヌッチェを用いて吸引ろ過し、酵母菌体を取得する工程。
【0012】
(ア)強力粉100g、上記(a)〜(d)の工程により得られた酵母菌体2gおよび水20mlからなる酵母懸濁液、ならびに砂糖5g、食塩2gおよび水42mlからなる水溶液を、捏上温度が28〜30℃となるよう、ナショナル・コンプリートミキサーを用いて100rpmで2分間ミキシングする工程、
【0013】
(イ)上記工程(ア)で得られた生地を丸め、平らになった面が上面になるようにして、予め30℃で保温し、内側に離型油を塗布した600ml容のガラス製シリンダー〔直径(内径)5.7cm、高さ24cm、厚さ0.5cm、両口の開いた円筒型〕の底から詰める工程、
【0014】
(ウ)上記工程(イ)で得られたシリンダーを予め30℃で保温したシャーレにのせ、麺棒で生地の表面を平らにしてから、シリンダーの上端に濡れ布巾をかけ、30℃、相対湿度85%で2.5時間保温する工程、
【0015】
(エ)上記工程(ウ)で得られた生地を取り出し、ガス抜きした後、100gの生地と20gの生地を分割する工程、
【0016】
(オ)上記工程(エ)で得られた生地100gを丸め、平らになった面が上面になるようにして、工程(イ)に記載されたガラス製シリンダーの底から詰める工程、
【0017】
(カ)上記工程(オ)で得られたシリンダーを工程(ウ)に記載されたシャーレにのせ、麺棒で生地の表面を平らにしてから、生地の頂部の高さを読み取り、シリンダーの上端に濡れ布巾をかけ、38℃、相対湿度85%で60分間保温した後、再び生地の頂部の高さを読み取る工程、
【0018】
(キ)上記工程(カ)における、保温する前と後での生地の頂部の高さの差から生地の膨張量を算出する工程、
【0019】
(ク)上記工程(エ)で得られた生地20gを225ml容の試料ビンに入れ、ファーモグラフ[例えば、ファーモグラフII(アトー株式会社製)]に接続されたチューブがついた蓋を該試料ビンに取り付ける工程
【0020】
(ケ)上記工程(ク)で得られた試料ビンを38℃、5分間保温する工程、
【0021】
(コ)上記工程(ケ)で得られた試料ビンを38℃、60分間保持し、該試料ビン中の生地から発生する炭酸ガス量を、ファーモグラフを用いて測定する工程。
【0022】
上記工程(d)において、酵母菌体中の酵母菌体の乾燥物の重量(以下、乾物重量という)の比率は、25〜40%(w/w)に調整する。なお、酵母菌体中の乾物重量の比率は、以下の方法により算出できる。
酵母菌体を約3g(A)秤量し、105℃で5時間乾燥させる。得られる酵母菌体の乾物重量を測定し、該乾物重量をBとする。次式によって乾物重量の比率(%)を算出する。
【0023】
酵母菌体の乾物重量の比率(%)=100×(B/A)
なお、上記の工程(ア)における「酵母菌体」の使用量(2g)は、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の使用量である。乾物重量の比率が33%(w/w)でない場合、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の「酵母菌体」の使用量(2g)に代えて、次式により算出される使用量を用いる。
上記の工程(ア)における「酵母菌体」の使用量(g)=2×33/酵母菌体中の乾物重量の比率
【0024】
上記工程(ア)〜(キ)からなる連続した7工程で測定した生地膨張量より、生地1gあたりの生地膨張量を求めることができる。
また、上記(ア)〜(エ)および(ク)〜(コ)からなる連続した7工程で測定した炭酸ガス発生量より、生地1gあたりの炭酸ガス発生量を求めることができる。
なお、生地1gあたりの炭酸ガス発生量および生地1gあたりの膨張量から、生地膨張量1mlあたりの炭酸ガス発生量を求めることができる。
【0025】
本発明の酵母は、例えば、自然界から分離した酵母、好ましくはサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母、さらに好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母から、上記特徴を有する株をスクリーニングすることにより取得することができる。
また、パン酵母、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、味噌・醤油酵母等の酵母、好ましくはサッカロミセス属に属する酵母に、公知の変異誘導方法、例えば紫外線照射、X線照射、エチルメタンスルホネートやN−メチル−N’ニトロ−N−ニトロソグアニジンなどの変異誘起剤による変異処理、遺伝子操作、または交雑育種等を行った後、上記特徴を有する株をスクリーニングすることにより、取得することもできる。
【0026】
本発明の酵母の具体例としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエYHK1923(FERM BP−7901 以下、YHK1923株という)サッカロミセス・セレビシエYHK2766(以下、YHK2766株という)、サッカロミセス・セレビシエYHK2931(FERM BP−8046 以下、YHK2931株という)があげられる。
本発明の酵母は、通常の酵母の培養条件、例えば炭素源、窒素源、無機物、アミノ酸、ビタミン等を含有する培地中で、好気的条件下、温度27〜32℃で培養することができる。
炭素源としてはグルコース、シュークロース、澱粉加水分解物、糖蜜等が使用できるが、糖蜜が好適に用いられる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、コーン・スチープ・リカー等が用いられる。
【0027】
無機物としてはリン酸マグネシウム、リン酸カリウム等が、アミノ酸としてはグルタミン酸等が、ビタミンとしては、パントテン酸、チアミン等が用いられる。培養は、流加培養が好適に用いられる。
培養終了後、常法により培養液から分離、洗浄した酵母菌体を水に懸濁させて、酵母懸濁液を調製し、これをパン生地やパンの製造に用いることができる。得られた酵母懸濁液から回転式真空脱水機やフィルタープレス等の濾過機を用いて菌体を回収、脱水させて、60〜75%(w/w)の水分含量の圧搾された酵母菌体(以下、圧搾酵母という)を調製するか、該圧搾酵母をさらに乾燥機を用いて乾燥させることにより2〜12%(w/w)の水分含量の乾燥された酵母菌体を調製し、これらをパン生地やパンの製造に用いることもできる。
【0028】
本発明のパン生地は、穀物粉、通常小麦粉に本発明の酵母、食塩、水、必要に応じて砂糖、脱脂粉乳、卵、イーストフード、ショートニング、バター等を加え、ミキシングすることにより得られる。
本発明のパンの製造法としては、本発明の酵母を用いる以外は通常の製パン法が用いられる。
代表的な食パン、菓子パン等の製パン法としては、ストレート法と中種法が用いられる。前者は、パン生地の全原料を最初から混ぜる方法であり、後者は、穀物粉の一部に酵母と水を加えて中種をつくり、発酵後に残りのパン生地の原料を合わせる方法である。
ストレート法では、パン生地の全原料をミキシングした後、25〜30℃で発酵させ、分割、ベンチを行い、成型、型詰めする。ホイロ(35〜42℃)を経た後、焼成(200〜240℃)する。
【0029】
中種法では、使用する穀物粉の全量の約7割、酵母、イーストフード等に水を加えミキシングし、25〜35℃で2〜5時間発酵させた後、穀物粉、水、食塩、砂糖、脱脂粉乳、ショートニング等、残りのパン生地の原料を追加し、ミキシング(本捏)、フロアータイム、分割、ベンチタイムを行い、成型、型詰めする。ホイロ(35〜42℃)を経た後、焼成(200〜240℃)する。
上記の製造法によりエタノール含量の高いパンを得ることができる。ここで、エタノール含量が高いとは、十分な防黴効果を呈することのできるエタノール濃度のエタノールを含むことをいうが、通常、食パンにおいては0.8%(w/w)以上であることが好ましく、0.9%(w/w)以上であることがより好ましく、1.0%(w/w)以上であることがさらに好ましい。また、風味を損なわないために、エタノール濃度は1.5%(w/w)未満であることが好ましい。
以下に実施例を示す。
【0030】
【実施例】
実施例1
サッカロミセス・セレビシエYFR−291株を、50mlのYPD培地〔酵母エキス1%(w/v)、ポリペプトン2%(w/v)およびグルコース2%(w/v)を含む培地〕に1白金耳植菌し、30℃、16時間振とう培養後、遠心分離して集菌した。集菌後、菌体を滅菌水で2回洗浄し、0.2mol/lリン酸緩衝液27.6mlに懸濁した。該懸濁液に40%(w/v)グルコース溶液1.5mlおよびエチルメタンスルホネート0.9mlを加え、30℃で180分間緩やかに振とうした。該懸濁液より集菌後、5%(w/v)チオ硫酸ナトリウム溶液にて10分間中和し、滅菌水で3回洗浄した後、滅菌水10mlに懸濁した。該懸濁液をYPD平板培地に塗布し、30℃で48時間培養してコロニーを生育させた。
【0031】
得られたコロニーより、上記の工程(a)〜(d)により、酵母菌体を取得した。取得した酵母菌体を用い、上記の工程(ア)〜(キ)からなる連続した7工程で生地膨張量を測定し、上記工程(ア)〜(エ)および(ク)〜(コ)からなる連続した7工程で炭酸ガス発生量を測定した結果、糖5%生地中での38℃、60分間の炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり2.0ml以上で、かつ該生地の膨張量1mlあたり1.20ml以上である株としてYHK1923株を取得した。YHK1923株は、ブダペスト条約に基づいて、平成14年2月18日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)にFERM
BP−7901として寄託されている。
【0032】
実施例2
サッカロミセス・セレビシエYHK2021株およびサッカロミセス・セレビシエFSC6012株を、それぞれ5mlのYPD培地に1白金耳植菌し、28℃で1日間振とう培養した。
該培養液を5mlのYPA培地〔酢酸カリウム1%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)およびペプトン1%(w/v)を含み、pH7.0に調整した培地〕に100μl植菌し、28℃で4日間振とう培養して胞子を形成させた後、遠心分離して集菌した。集菌後、菌体を滅菌水で洗浄し、5mlのZymolyase溶液〔Zymolyase−20T(生化学工業社製)0.1%(w/v)、2−メルカプトエタノール0.02%(v/v)、100mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)からなる溶液〕に懸濁し、30℃で30分間保温した後、55℃で10分間保温した。保温後、該懸濁液を滅菌水で希釈してYPD平板培地に塗沫し、30℃で2日間培養しYHK2021株およびFSC6012株の胞子クローンをそれぞれ得た。
【0033】
YHK2021株の胞子クローンとFSC6012株の胞子クローンを、5mlのYPD培地にほぼ1対1の割合で1白金耳植菌し、30℃で1日間培養した。該培養液を滅菌水で希釈し、YPD平板培地に塗沫し、30℃で2日間培養して交雑株を得た。該交雑株より、上記の工程(a)〜(d)に従ってその酵母菌体を取得し、上記の工程(ア)〜(キ)からなる連続した7工程で生地膨張量を測定し、上記工程(ア)〜(エ)および(ク)〜(コ)からなる連続した7工程で炭酸ガス発生量を測定した結果、糖5%生地中での38℃、60分間の炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり2.0ml以上で、かつ該生地の膨張量1mlあたり1.20ml以上である株を3株得た。該3株のうちの1株としてYHK2766株を取得した。
【0034】
実施例3
120℃で20分間殺菌した直径16.5mmの試験管中のYM培地〔水1L、グルコース(キシダ化学社製)10g、ペプトン(ディフコ社製)5g、酵母エキス(ディフコ社製)3g、麦芽エキス(ディフコ社製)3gおよび寒天(キシダ化学社製)20gを含み、pH6に調整した培地〕8mlからなる斜面培地に、第1表に示す酵母菌株〔YHK1923株、YHK2766株、YFR−291株および市販されているパン酵母の分離株8株(市販酵母1〜8)〕を、それぞれ、1白金耳ずつ植菌し、30℃で2日間培養した。
【0035】
なお、市販パン酵母の分離株は、市販パン酵母を滅菌水に懸濁し、YPD平板培地に塗沫し、30℃で48時間培養してコロニーを生育させ、得られたコロニーより分離して得た分離株を用いた。
得られた酵母1白金耳を、120℃で20分間殺菌した300ml容三角フラスコ中のYPD培地〔水30ml、酵母エキス0.3g、ポリペプトン(日本製薬社製)0.6gおよびグルコース0.6gを含む培地〕に植菌し、30℃で24時間振とう培養(高崎科学器械社製TB−128RL、220rpm)した。
【0036】
得られた培養液全量を、120℃で20分間殺菌した2L容斜ヒダ付き三角フラスコ中の糖蜜培地〔水300ml、糖濃度3%(w/v)分の糖蜜、尿素(キシダ化学社製)0.579g、リン酸2水素カリウム(キシダ化学社製)0.138gおよび消泡剤2滴を含む培地〕に植菌し、30℃で24時間振とう培養(高崎科学器械社製TB−128RL、220rpm)した。得られた培養液を、遠心分離(日立工機社製CR22E、3,000rpm、5分間、4℃)して集菌し、菌体を3回脱イオン水で洗浄後、ヌッチェを用いて吸引ろ過し、酵母菌体を取得した。
【0037】
強力粉(カメリヤ、日清製粉社製)100g、得られた酵母菌体2gおよび水20mlからなる酵母懸濁液、ならびに砂糖5g、食塩2gおよび水42mlからなる水溶液を、捏上温度が28〜30℃となるよう、ナショナル・コンプリートミキサーを用いて100rpmで2分間ミキシングした。得られた生地を丸め、平らになった面が上面になるようにして、予め30℃で保温し、内側に離型油(ランナー、協和発酵工業社製)を塗布した600ml容のガラス製シリンダー〔直径(内径)5.7cm、高さ24cm、厚さ0.5cm、両口の開いた円筒型〕の底から詰めた後、予め30℃で保温したシャーレにのせ、麺棒で生地の表面を平らにしてから、シリンダーの上端に濡れ布巾をかけ、30℃、相対湿度85%で2.5時間保温した。保温後、得られた生地を取り出し、ガス抜きした後、100gの生地と20gの生地を分割した。
【0038】
分割した生地100gは、丸めて、平らになった面が上面になるようにして、30℃での保温に使用したガラス製シリンダーの底から詰めた後、30℃での保温に使用したシャーレにのせ、麺棒で生地の表面を平らにしてから、生地の頂部の高さを読み取り、シリンダーの上端に濡れ布巾をかけ、38℃、相対湿度85%で60分間保温した。保温後、再び生地の頂部の高さを読み取った。そして、保温する前と後での生地の頂部の高さの差から生地膨張量を算出した。
なお、生地膨張量は、以下の式により算出することができる。ただし、πは円周率とする。
【0039】
生地膨張量=〔(38℃、60分後の生地の頂部の高さ)−(測定開始時の生地の頂部の高さ)〕×(シリンダーの内径/2)2×π
一方、分割した20gの生地は、225ml容の試料ビンに入れ、ファーモグラフII(アトー株式会社製)]に接続されたチューブがついた蓋を該試料ビンに取り付け、該試料ビンを38℃で5分間保温した。つぎに、該試料ビンを38℃で60分間保持し、該試料ビン中の生地から発生する炭酸ガス量をファーモグラフIIを用いて測定した。
【0040】
なお、上記各酵母菌体の使用量は、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の値である。乾物重量の比率が33%(w/w)でない場合、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の酵母菌体の使用量に代えて、次式により算出される使用量を用いた。
各酵母菌体の使用量(g)=2×33/酵母菌体の乾物重量の比率
各菌株を用いた場合の、生地1gあたりの炭酸ガス発生量、生地1g当たりの生地膨張量および生地膨張量1ml当たりの炭酸ガス発生量を第1表に示す。
【0041】
【表1】
Figure 0004578059
【0042】
実施例4
120℃で20分間殺菌して調製した直径16.5mmの試験管中のYM培地8mlからなる斜面培地に、YHK1923株、YFR−291株および第1表に示した市販酵母2(ダイヤイースト、協和発酵工業社製、以下同じ)を、それぞれ1白金耳植菌し、30℃で2日間培養した。培養後、該斜面培地に滅菌水5mlを加えて菌体を懸濁させ、該懸濁液2.5mlを、120℃で20分間殺菌した2L容斜ヒダ付き三角フラスコ中の糖蜜培地〔水300ml、糖濃度3%(w/v)分の糖蜜、リン酸2水素カリウム0.33gおよび尿素0.135gを含む培地〕に2.5ml植菌し、30℃で24時間振とう培養(高崎科学器械社製TB−128RL、220rpm)した。
【0043】
得られた培養液全量を、120℃で20分間殺菌した5L容ジャーファーメンター中の培地(硫酸アンモニウム43.2g、リン酸2水素カリウム14gおよび硫酸マグネシウム2.2gを水1.8L中に含む培地)に加え、120℃で5分間殺菌した糖蜜培地〔全糖濃度48%(w/v)〕800mlを用いて、30℃で30時間の流加培養を行った。なお、培養期間中、pHはアンモニア水でpH5.0に調整した。培養終了後、培養液を遠心分離して集菌し、菌体を洗浄後、ヌッチェを用いて吸引ろ過することにより、酵母菌体を得た。
【0044】
強力粉(カメリヤ、日清製粉社製)1050g、上記で得られた各酵母菌体30g、イーストフード(パンダイヤC−500、協和発酵工業社製)1.5gおよび水630gを、捏上温度が24℃になるようパンミキサー(SS型151、関東混合機工業社製)を用いて低速で3分間、中低速で2分間ミキシングし、得られた生地を28℃で4時間発酵させた。この生地に強力粉450g、砂糖75g、食塩30g、脱脂粉乳30gおよび水390gを加え、低速で3分間、中低速で2分間ミキシングした後、ショートニング75gを加えて捏上温度が27℃になるように低速で2分間、中低速で3分間、中高速で3分間ミキシングした。
【0045】
得られた生地を20〜25℃で20分間静置した後に、これを分割して450gの塊をとり、これを球状に丸めた。丸めた生地を20〜25℃で20分間静置した後にガス抜きし、ワンローフ食パン型に入れて成型した後、生地の頂部が型上1.5cmに達するまで、38℃、相対湿度85%で発酵(ホイロ)させた。
得られた生地を、ビニール袋に入れて密封した後、速やかに−20℃の冷凍庫に入れ生地を凍結した。なお、上記各酵母菌体の使用量は、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の値である。乾物重量の比率が33%(w/w)でない場合、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の酵母菌体の使用量に代えて、次式により算出される使用量を用いた。
各酵母菌体の使用量(g)=30×33/酵母菌体の乾物重量の比率
【0046】
冷凍1日後、冷凍した状態のまま生地の中心部約1gをかき取り、秤量した。
かき取った生地重量の9倍量(重量)の冷水(4℃)を生地に加え、氷中で冷却しながらホモゲナイザー(ポリトロン、KINEMATICA社製、出力3、1分間)にて生地を抽出した。得られた抽出液をろ過した後、10倍に希釈し、ガスクロマトグラフを用いて以下の条件にてエタノール量を測定した。
【0047】
装置
ガスクロマトグラフ;GC−14B(島津製作所社製)
カラム;ガラスカラム、外径5mm×内径2.6mm×長さ1100mm(ジーエルサイエンス社製)
充填剤;Adsorb P−1(80〜100メッシュ)(西尾工業社製)
検出器;FID
条件
カラムオーブン温度;150℃
試料気化室温度;190℃
検出器温度;190℃
ヘリウム流量;50ml/分
水素圧力;60kPa
空気圧力;50kPa
各菌株を用いた場合の、生地中のエタノール濃度および生地の頂部が型上1.5cmに到達するまでの時間(ホイロ時間)を第2表に示す。
【0048】
【表2】
Figure 0004578059
【0049】
実施例5
強力粉(カメリヤ、日清製粉社製)1050g、実施例4で得た各酵母菌体(YHK1923株、YFR−291株および市販酵母2)30g、イーストフード(パンダイヤC−500、協和発酵工業社製)1.5gおよび水630gを、捏上温度が24℃になるようパンミキサー(SS型151、関東混合機工業社製)を用いて低速で3分間、中低速で2分間ミキシングし、得られた生地を28℃で4時間発酵させた。この生地に強力粉450g、砂糖75g、食塩30g、脱脂粉乳30gおよび水390gを加え、低速で3分間、中低速で2分間ミキシングした後、ショートニング75gを加えて捏上温度が27℃になるように低速で2分間、中低速で3分間、中高速で3分間ミキシングした。
【0050】
得られた生地を20〜25℃で20分間静置した後に、これを分割して220gの塊を4個とり、これらを球状に丸めた。丸めた生地4個を20〜25℃で20分間静置した後にガス抜きし、2斤食パン型(プルマン)に入れて成型した後、生地の容積が型容積の80%に達するまで、38℃、相対湿度85%で発酵させた。得られた生地を、オーブン(リールオーブン ER・6・401型、藤澤製作所社製)にて210℃で28分間焼成して、食パンを製造した。
【0051】
なお、上記各酵母菌体の使用量は、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の値である。乾物重量の比率が33%(w/w)でない場合、乾物重量の比率が33%(w/w)の場合の酵母菌体の使用量に代えて、次式により算出される使用量を用いた。
各酵母菌体の使用量(g)=30×33/酵母菌体の乾物重量の比率
得られた食パンをビニール袋に入れて密閉し、室温で1日間保存した後、厚さ1.8cmにスライスした。
スライスした食パンの中心部分を約1g採取し、実施例4記載の方法に準じて、該食パン中のエタノール濃度を測定したところ、YHK1923株を用いて得られた食パン中のエタノール濃度は0.84%(w/w)であり、YFR−291株を用いて得られた食パン中のエタノール濃度は0.78%(w/w)であり、市販酵母2を用いて得られた食パン中のエタノール濃度は0.76%(w/w)であった。
【0052】
食パンの風味ついて、専門のパネラー7人により、官能検査を行ったところ、いずれの酵母を用いた食パンも良好な風味を有していた。
スライスしたパンを1試験区につき2枚使用し、スライス面の片側に、0.1%(v/v)Tween80溶液に5×102個/mlとなるよう調整したカビの胞子懸濁液を接種し、25℃でのカビの生育を観察し、胞子形成に要する時間を測定した。なお、1スライス面へのカビの接種箇所は25とし、1箇所あたり10μlの胞子懸濁液を接種した。カビの観察は一日2回(朝、夕各1回)行い、胞子の形成が確認された箇所を数えた。
なお、カビの胞子懸濁液は以下のようにして作成した。
【0053】
水1Lに麦芽エキス20g、グルコース20g、ペプトン1g、寒天20gを加え、120℃、20分間殺菌して調整した斜面培地に、ペニシリウム・エクスパンサム(Penicillium expansum)ATCC1117株、リゾパス・ストロニファー(Rhizopus stolonifer)ATCC24862株、およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)ATCC6275株を、それぞれ一白金耳植菌し、25℃で7日間培養した。
【0054】
該斜面培地に0.1容量%Tween80溶液を5ml加えて胞子を懸濁し、該懸濁液を遠心分離して胞子を集め、0.1%(v/v)Tween80溶液で2回洗浄した。洗浄した胞子に0.1%(v/v)Tween80溶液を5ml加えて懸濁し、該懸濁液を40μmのセルストレナー(FALCON社製)を2回通過させた。セルストレナーを2回通過させた液を胞子懸濁液とし、15%(v/v)グリセロール液に5×106個/mlとなるように加えて−80℃で使用時まで凍結保存した。
それぞれのカビについて、各時間における胞子形成した箇所の数を第1図に示す。
【0055】
第1図に示すように、いずれのカビについても、YHK1923株を用いて得られた食パンにおけるカビの胞子形成までの時間は、YFR−291株または市販酵母2を用いて得られた食パンにおけるカビの胞子形成までの時間と比較した場合、長い傾向が見られた。カビの胞子形成までの時間の延長が認められたことから、YHK1923株を用いて得られたパンは防黴効果を有することがわかった。
【0056】
実施例6
上記実施例2と同様の操作により、YHK2021株の胞子クローンとFSC6012株の胞子クローンの交雑株を取得し、上記の工程(a)〜(d)に従ってその酵母菌体を取得し、上記の工程(ア)〜(キ)からなる連続した7工程で生地膨張量を測定し、上記の工程(ア)〜(エ)および(ク)〜(コ)からなる連続した7工程で炭酸ガス発生量を測定した結果、糖5%生地中での38℃、60分間の炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり2.0ml以上で、かつ該生地の膨張量1mlあたり1.20ml以上である株をさらに2株得た。該2株のうちの1株であるYHK2931株は、ブダペスト条約に基づいて、平成14年5月21日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)にFERM BP−8046として寄託されている。
【0057】
実施例7
実施例3と同様の方法で、YHK2931株および市販酵母2について、生地1gあたりの炭酸ガス発生量、生地1g当たりの生地膨張量および生地膨張量1ml当たりの炭酸ガス発生量を測定した。結果を第3表に示す。
【0058】
【表3】
Figure 0004578059
【0059】
実施例8
実施例4と同様の方法で、YHK2931株および市販酵母2について、生地中のエタノール濃度および生地の頂部が型上1.5cmに到達するまでのホイロ時間を測定した。結果を第4表に示す。
【0060】
【表4】
Figure 0004578059
【0061】
実施例9
実施例5と同様の方法で、YHK2931株および市販酵母2をそれぞれ用いて食パンを製造した。
得られた食パンをビニール袋に入れて密閉し、室温で1日間保存した後、厚さ1.8cmにスライスした。
スライスした食パンの中心部分を約1g採取し、実施例4記載の方法に準じて、該食パン中のエタノール濃度を測定したところ、YHK2931株を用いて得られた食パン中のエタノール濃度は1.0%(w/w)であり、市販酵母2を用いて得られた食パン中のエタノール濃度は0.8%(w/w)であった。
【0062】
食パンの風味について、専門パネラー7人により、官能検査を行ったところ、いずれの酵母を用いた食パンも良好な風味を有していた。
得られた食パンについて、実施例5と同様の方法を用いて、カビの胞子形成までの時間を調べた。それぞれのカビについて、各時間における胞子形成した箇所の数を第2図に示す。
第2図に示すように、いずれのカビについても、YHK2931株を用いて得られた食パンにおけるカビの胞子形成までの時間は、市販酵母2を用いて得られた食パンにおけるカビの胞子形成までの時間と比較した場合、長い傾向が見られた。カビの胞子形成までの時間の延長が認められたことから、YHK2931株を用いて得られたパンは防黴効果を有することがわかった。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、防黴効果を有するパンの製造に用いられる酵母、該酵母のスクリーニング方法、該酵母を含有するパン生地、該酵母をパン生地に添加することを特徴とするパンの製造方法および該方法により得られるパンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1図は、YHK1923株、YFR−291株および市販酵母2をそれぞれ用いて製造した食パンにおける、カビの胞子形成までの時間を調べた結果を示す図である。グラフの横軸は、カビの胞子を食パンに接種してからの経過時間、縦軸は胞子形成の認められた箇所の数を示す。各グラフは上段から(A)Penicillium expansum ATCC1117株、(B)Rhizopus stoloniferATCC24862株、(C)Aspergillus niger ATCC6275株、について、カビの胞子形成までの時間を調べた結果を示す。記号は、それぞれの食パンの製造に用いた菌株を表し、●はYHK1923株、□はYFR−291株、△は市販酵母2を表す。
【図2】第2図は、YHK2931株および市販酵母2をそれぞれ用いて製造した食パンにおける、カビの胞子形成までの時間を調べた結果を示す図である。
グラフの横軸は、カビの胞子を食パンに接種してからの経過時間、縦軸は胞子形成の認められた箇所の数を示す。各グラフは上段から(A)Penicillium expansum ATCC1117株、(B)Rhizopus stoloniferATCC24862株、(C)Aspergillus niger ATCC6275株、について、カビの胞子形成までの時間を調べた結果を示す。記号は、それぞれの食パンの製造に用いた菌株を表し、◆はYHK2931株、△は市販酵母2を表す。

Claims (4)

  1. サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YHK1923(FERM BP−7901)またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YHK2931(FERM BP−8046)。
  2. 請求項記載の酵母を含有するパン生地。
  3. 請求項記載の酵母を用いることを特徴とするパンの製造方法。
  4. 請求項記載のパン生地を用いることを特徴とするパンの製造方法。
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