JP5285987B2 - パン酵母 - Google Patents

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Description

本発明は、酵母、生地および飲食品の製造方法に関する。
製パン業界において、生産合理化のため生地を冷凍保管し、必要時に該生地を解凍し常温に戻して用いる方法が広く用いられているが、該方法においては生地の凍結、冷凍保管、冷凍輸送、解凍等に極めて高いエネルギーコストを要する。このため、生地を冷蔵保管し、必要に応じて該生地を常温に戻して用いられることも多い。
しかし、冷蔵保管においては、低温であっても生地中で酵母の発酵が進んで糖が消費され、また酵母自体も劣化してしまうことから、生地を常温に戻した場合に十分な量の炭酸ガスが発生せず、焼成してもパンのボリューム(比容積)が小さくなるという問題点がある。このため、冷蔵保管を行う生地の製造には、低温においては発酵能が抑制され、常温に戻すと発酵能が回復する酵母、いわゆる冷蔵耐性酵母(特許文献1〜8参照)が好んで用いられる。
しかし、たとえばフランスパン用の生地のような糖濃度の低い生地では、従来の冷蔵耐性酵母では十分な量の炭酸ガスが発生せず、パンのボリュームが小さくなるという問題点があり、解決が望まれている。
特開平5-336872号公報 特開平4-234939号公報 特開平7-246087号公報 特開2003-304863号公報 特開2003-47391号公報 特開2001-78655号公報 特開平7-79767号公報 特開平8-154666号公報
本発明の目的は、無糖生地においても良好な発酵能を示す冷蔵耐性酵母、該酵母を含有する生地、または該生地を用いる飲食品の製造方法を提供することにある。
本発明は、下記(1)〜(7)に関する。
(1)サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母であって、該酵母を含有する無糖生地を5℃で7日間保管して得られる生地からの30℃における炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり120分間で1.8ml以上である酵母。
(2)サッカロミセス属に属する酵母が、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母である、上記(1)の酵母。
(3)サッカロミセス属に属する酵母が、サッカロミセス・セレビシエYHK3572株またはYHK3597株である、上記(1)または(2)の酵母。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1つの酵母を含有する生地。
(5)生地中の糖の含有量が、穀物粉100重量部に対して5重量部以下である、上記(4)の生地。
(6)上記(1)〜(3)のいずれか1つの酵母を用いることを特徴とする生地の製造方法。
(7)上記(4)または(5)の生地を用いることを特徴とする飲食品の製造方法。
本発明によれば、無糖生地においても良好な発酵能を示す冷蔵耐性酵母、該酵母を含有する生地、または該生地を用いる飲食品の製造方法を提供することができる。
本発明の酵母は、サッカロミセス属に属する酵母、好ましくはサッカロミセス・セレビシエに属する酵母であって、該酵母を含有する無糖生地を5℃で7日間保管して得られる生地からの30℃における炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり120分間で1.8ml以上、より好ましくは1.9ml以上、さらに好ましくは2.0ml以上の酵母である。
具体的には、以下の工程(a)〜(d)により調製した酵母菌体を用いて以下の(ア)〜(オ)からなる連続した5工程で炭酸ガス発生量を測定した場合、該炭酸ガス発生量が、生地1gあたり1.8ml以上、より好ましくは1.9ml以上、さらに好ましくは2.0ml以上である酵母があげられる。
(a)120℃で20分間殺菌したYM培地(10gのグルコース、5gのペプトン、3gの酵母エキス、3gの麦芽エキスおよび20gの寒天を水1Lに含有しpH6に調整した培地)に、サッカロミセス属に属する酵母を1白金耳植菌し、30℃で2日間培養する工程、
(b)上記工程(a)においてYM培地上に生育した酵母を、120℃で20分間殺菌した300ml容三角フラスコ中のYPD培地(10gの酵母エキス、20gのポリペプトンおよび20gのグルコースを1Lの水に含有する培地)30mlに、1白金耳植菌し、30℃で24時間振とう培養(220rpm)する工程、
(c)上記工程(b)で得られた培養液全量を、120℃で20分間殺菌した2L容斜ヒダ付き三角フラスコ中の糖蜜培地(糖濃度3%分の糖蜜、0.579gの尿素、0.138gのリン酸2水素カリウムおよび消泡剤2滴を300mlの水に含有する培地)に植菌し、30℃で24時間振とう培養(220rpm)する工程、
(d)上記工程(c)で得られた培養液を、遠心分離(3,000rpm、5分間、4℃)して集菌し、3回脱イオン水で洗浄後、ヌッチェを用いて吸引ろ過し、酵母菌体を取得する工程。
(ア)上記(a)〜(d)の工程により得られた酵母菌体2gを20mlの水に懸濁して得られる菌体懸濁液、100gの強力粉、および2gの食塩を45mlの水に溶解して得られる食塩水を捏上温度が28〜30℃となるよう、混合・攪拌機〔例えば、ナショナル・コンプリートミキサー(ナショナル社製)〕を用いて100rpmで2分間ミキシングする工程、
(イ)上記工程(ア)で得られた生地30gを分割し、ビニール袋に入れて密封し、5℃で7日間保管する工程、
(ウ)上記工程(イ)で得られた生地を225ml容の試料ビンに入れ、ファーモグラフ[例えば、ファーモグラフII(アトー株式会社製)]に接続されたチューブがついた蓋を該試料ビンに取り付ける工程、
(エ)上記工程(ウ)の試料ビンを30℃、15分間保温する工程、
(オ)上記ファーモグラフを用いて、上記工程(エ)の試料ビン中の生地からの30℃、120分間で発生する炭酸ガス量を定量分析する工程。
上記工程(d)において取得する酵母菌体は、その乾物重量の比率が、25〜40重量%となるように調製する。酵母菌体中の乾物重量の比率は、以下の方法により算出できる。
酵母菌体を約3g(Aとする)秤量し、105℃で5時間乾燥して得られる乾燥物の重量(以下、乾物重量という)を測定する。該乾物重量をBとする。次式によって乾物重量の比率(%)を算出する。
酵母菌体の乾物重量の比率(%)=100×(B/A)
なお、上記の工程(ア)における「酵母菌体」の使用量は、乾物重量の比率が33重量%の場合の値とする。乾物重量の比率が33重量%でない場合、乾物重量の比率が33重量%の場合の「酵母菌体」の使用量に代えて、次式により算出される使用量を用いる。
上記の工程(ア)における「酵母菌体」の使用量(g)=2×33/酵母菌体中の乾物重量の比率
上記(ア)〜(オ)の連続した5つの工程により、上記(a)〜(d)の工程により得られる酵母菌体を含有する無糖生地を5℃で7日間保管して得られる生地から30℃、120分間で発生する炭酸ガスの量(以下、冷蔵保管した無糖生地からの炭酸ガス発生量ともいう)を測定することができる。
本発明の酵母は、例えば、サッカロミセス属に属する酵母、好ましくはサッカロミセス・セレビシエに属する酵母を公知の変異誘導方法で処理した後、上記の方法により、5℃で7日間冷蔵保管した無糖生地1gからの炭酸ガス発生量が1.8ml以上、より好ましくは1.9ml以上、さらに好ましくは2.0ml以上である酵母を選択することにより取得することができる。
例えば、サッカロミセス属に属する酵母菌株、好ましくはサッカロミセス・セレビシエに属する酵母菌株を、紫外線照射、X線照射、変異誘起剤(エチルメタンスルホネート、N−メチル−N’ニトロ−N−ニトロソグアニジン等)との接触等の公知の変異誘導方法に供し、得られた菌株をアンチマイシン、ナイスタチン等の抗生物質を含有する培地中で、10℃〜15℃で培養し、該温度において増殖不能ないしは増殖の極めて弱い細胞を選択する(一次選択)。
一次選択で選択された菌株の中には、発酵能欠如のため、ないしは発酵能が微弱なために増殖不能、あるいは増殖能の低下した菌株と、その他の原因で増殖が弱くなった菌株が含まれる。そこでその中から低温(2〜7℃)で発酵能が欠如ないし極めて微弱となった菌株を選択する(二次選択)。次に、二次選択で選択された菌株の中から常温(20〜40℃)で発酵能が回復する菌株を選択する(三次選択)。最後に三次選択で選択された菌株の中から、5℃で7日間冷蔵保管した無糖生地1gからの炭酸ガス発生量が1.8ml以上、より好ましくは1.9ml以上、さらに好ましくは2.0ml以上である酵母を選択することにより本発明の酵母を取得することができる。
具体例を以下に示す。
サッカロミセス属に属する酵母、好ましくはサッカロミセス・セレビシエに属する酵母をYPD培地(10gの酵母エキス、20gのポリペプトンおよび20gのグルコースを1Lの水に含有する培地)に植菌し、30℃で12時間培養し、遠心分離して集菌する。得られた菌体を0.067mol/lのリン酸一カリウム溶液に660nmにおける吸光度が1.0、すなわち、1ml当りの菌体数が1×107個となるように懸濁する。得られた菌体懸濁液に対して菌株の生存率が1〜30%となるように紫外線を照射する。
紫外線照射した菌体懸濁液100μlを5mlのYPD培地に植菌し、30℃で12時間培養し、遠心分離して集菌する。得られた菌体を最少培地〔1.7gのYeast nitrogen base w/o amino acid and ammonium sulfate (ディフコ社製)および10gのグルコースを1Lの水に含有する培地〕1mlに植菌し、30℃で12時間培養し、遠心分離して集菌する。得られた菌体をアンチマイシンを1×10-5mol/lとなるように添加したYPD培地0.9mlに懸濁し、10℃で36時間培養し、さらにナイスタチンを9μg添加し、10℃で2時間培養する。この培養液を遠心分離して集菌する。得られた菌体をYP5D平板培地(10gの酵母エキス、20gのポリペプトン、50gのグルコース、20gの寒天を1Lの水に含有する培地)に塗布し、30℃で48時間培養し、生育したコロニーを分離する。(一次選択)
分離したコロニーをYPG平板培地(10gの酵母エキス、20gのポリペプトン、30mlのグリセロール、20gの寒天を1Lの水に含有する培地)に塗布し、30℃で24時間培養してコロニーを生育させ、その上から色素寒天培地(5gの酵母エキス、10gのポリペプトン、50gのシュークロース、0.2gのブロムクレゾールバーブル、10gの寒天を1Lの水に含有する培地) を重層し、5℃で6〜12時間培養する。この際、5℃における発酵能の強い菌株のコロニーの周辺の重層培地の色調は紫から黄色に変化するが、発酵能の欠如または微弱な菌株のコロニーの周辺の重層培地の色調は変化しないか極わずかであることから、重層培地の色調変化のないまたは極わずかなコロニー、好ましくは色調変化のないコロニーを分離する。(二次選択)
分離したコロニーをYPG平板培地に塗布し、30℃で24時間培養してコロニーを生育させ、その上に色素寒天培地を重層する。30℃で2時間培養し、コロニー周辺の色調が紫から黄色に変化した菌株のコロニーを分離する。(三次選択)
分離したコロニーを形成する菌株を用いて冷蔵保管した無糖生地からの炭酸ガス発生量を測定し、該生地1gからの30℃、120分間の炭酸ガスの発生量が1.8ml以上である菌株を選択し、本発明の酵母を選択し、取得する。
上記方法において、突然変異処理に供する酵母は、サッカロミセス属に属する酵母、好ましくは、サッカロミセス・セレビシエに属する酵母であれば、いずれの酵母を用いてもよいが、以下の(i)または(ii)の性質を有する酵母が好ましく用いられる。
(i)生地製造後に冷蔵保管しない無糖生地における発酵能の高い性質。例えば、上記工程(a)〜(d)により調製した酵母菌体を用い、上記(イ)の工程において生地を5℃で7日間保管しない以外は工程(ア)〜(オ)と同様の工程で炭酸ガス発生量を測定した場合の、炭酸ガス発生量が生地1gあたり1.8ml以上である性質。
(ii)低温感受性。例えば、YPG平板培地に塗布し、30℃で24時間培養してコロニーを生育させ、その上から上記色素寒天培地を重層し、5℃で6〜12時間培養した場合には、重層培地の色調変化のないまたは極わずかなコロニーを形成し、かつ、30℃で2時間培養した場合には、コロニー周辺の色調が紫から黄色に変化するコロニーを形成する性質。
なお、(ii)の性質を有する酵母を用いる場合は、上記二次選択または三次選択の工程は省略してもよい。
(i)または(ii)の性質を有する酵母は、市販のものを用いてもよいし、サッカロミセス属に属する酵母、好ましくはサッカロミセス・セレビシエに属する酵母を紫外線処理等の突然変異処理に供し、(i)または(ii)の性質を有する酵母を取得して用いてもよい。
本発明の酵母は、(i)の性質を有する酵母と (ii)の性質を有する酵母とを交雑させて得ることもできる。
本発明の酵母の例としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエYHK3572(以下、YHK3572株という)またはYHK3597(以下、YHK3597株という)があげられる。YHK3572株は平成20年7月4日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受領番号FERM ABP-10985として寄託され、YHK3597株は同様にFERM ABP-10986として寄託されている。
本発明の酵母は、通常の酵母の培養条件、すなわち炭素源、窒素源、無機物、アミノ酸、ビタミン等を含有する培地中で、好気的条件下、温度27〜32℃で培養することができる。
炭素源としてはグルコース、シュークロース、澱粉加水分解物、糖蜜、廃糖蜜等があげられるが、廃糖蜜が好適に用いられる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、コーン・スチープ・リカー等があげられる。
無機物としてはリン酸マグネシウム、リン酸カリウム等が、アミノ酸としてはグルタミン酸等が、ビタミンとしては、パントテン酸、チアミン等があげられる。
培養は、流加培養が好適に用いられる。
培養終了後、常法により、培養液から分離、洗浄した酵母菌体を水に懸濁して菌体懸濁液を調製し、パン生地やパンの製造に用いることができる。
また、得られた菌体懸濁液から回転式真空脱水機やフィルタープレス等の濾過機を用いて菌体を回収、脱水させて、60〜75%の水分含量の圧搾された酵母菌体(以下、圧搾酵母という)を調製するか、該圧搾酵母をさらに乾燥機を用いて乾燥させることにより2〜12%の水分含量の乾燥された酵母菌体を調製し、これらを小麦粉生地、ライ麦粉生地、大麦粉生地、オーツ麦粉生地、米粉生地等の穀物粉生地用や該穀物粉生地を用いる飲食品の製造に用いることもできる。
本発明の酵母は、他の酵母と同様に、食パン、ロールパン、硬焼きパン、菓子パン、調理パン、むしパン等のパン、クッキー、まんじゅう等の菓子類、ドーナツ、パイ、ピザ、スポンジケーキ等の飲食品の製造に穀物粉生地を用いる飲食品に用いることができるが、穀物粉生地としてショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、果糖等の糖の糖を含有しない無糖生地、または含有してもこれらの糖の合計含有量が、穀物粉100重量部に対して5重量部以下である低糖生地を用いる飲食品に好適に用いられ、さらに好ましくは、製造工程に生地を2〜15℃で保管する工程を有するものの製造に好ましく用いられる。
無糖生地または低糖生地を用いる飲食品としては、たとえば、フランスパン、ピザ、食パン、イングリッシュマフィン、パン粉、ナン、フォカッチャ、ベーグル等があげられる。
以下に飲食品としてパンを例にあげて説明する。
穀物粉、好ましくは小麦粉に、食塩、油脂、水および本発明の酵母菌体、好ましくは圧搾酵母、さらに必要に応じて糖、ショートニング、バター、脱脂粉乳、イーストフード、卵等を加えてパン生地を調製する。代表的な食パン、菓子パン等の製パン法にはストレート法と中種法があり、前者は、全原料を最初から混ぜる方法であり、後者は、まず穀物粉の一部に酵母と水を加えて中種をつくり、発酵後に残りの原料を合わせる方法である。
ストレート法では、パン生地の全原料をミキシングした後、25〜30℃で発酵させ、分割、ベンチを行い、成型、型詰めする。ホイロ(35〜42℃)を経た後、焼成(200〜240℃)する。
中種法では、使用する穀物粉の全量の約7割、酵母菌体、イーストフード等に水を加えミキシングし、25〜35℃で2〜5時間発酵させた後、穀物粉、水、食塩、糖、脱脂粉乳、ショートニング等、残りのパン生地の原料を追加し、ミキシング(本捏)、フロアータイム、分割、ベンチタイムを行い、成型、型詰めする。ホイロ(35〜42℃)を経た後、焼成(200〜240℃)する。
ピザを製造する場合は、パン生地の全原料をミキシングした後、25〜30℃で発酵させ、分割、圧延した後、ソースおよび具材を加えて成型する。必要に応じてホイロ(30〜42℃)を経た後、焼成(200〜500℃)する。
以下に本発明の実施例を示す。
(1)パン酵母を5mlのYPD培地で培養し、培養液を5mlのYPA培地(10gの酢酸カリウム1%、5gの酵母エキスおよび10gのペプトンを1Lの水に含有し、pH7.0に調整した培地)に100μl植菌し、28℃で4日間振とう培養して胞子を形成させた後、遠心分離して集菌した。集菌後、菌体を滅菌水で洗浄し、5mlのZymolyase溶液[Zymolyase0.1%、2-メルカプトエタノール0.02%、100mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)からなる溶液]に懸濁し、30℃で30分間保温した後、55℃で10分間保温した。保温後、該懸濁液を滅菌水で希釈してYPD平板培地に塗沫し胞子クローンを得た。
該胞子クローンをYPD培地に植菌し、30℃で12時間培養し、遠心分離して集菌した。得られた菌体を0.067mol/lのリン酸一カリウム溶液に660nmにおける吸光度が1.0となるように懸濁し、得られた菌体懸濁液に対して紫外線を照射した。紫外線照射した菌体懸濁液100μlを5mlのYPD培地に植菌し、30℃で12時間培養し、遠心分離して集菌した。得られた菌体を最少培地〔1.7gのYeast nitrogen base w/o amino acid and ammonium sulfate (ディフコ社製)および10gのグルコースを1Lの水に含有する培地〕1mlに植菌し、30℃で12時間培養し、遠心分離して集菌した。得られた菌体をアンチマイシンが1×10-5mol/lとなるように添加したYPD培地0.9 mlに懸濁し、10℃で36時間培養し、さらにナイスタチンを9μg添加し、10℃で2時間培養した。該培養液を遠心分離して集菌し、YPD平板培地に塗布し、30℃で48時間培養し、生育したコロニーを分離した。
分離したコロニーをYPG平板培地〔10gの酵母エキス、20gのポリペプトン、30mlのグリセロールおよび20gの寒天を1Lの水に含有する培地〕に塗布し、30℃で24時間培養してコロニーを生育させ、その上から色素寒天培地を重層し、5℃で6〜12時間培養した。培養後、重層培地の色調変化のないコロニーを分離した。
分離したコロニーをYPG平板培地に塗布し、30℃で24時間培養してコロニーを生育させ、その上に色素寒天培地を重層した。30℃で2時間培養し、コロニー周辺の色調が紫から黄色に変化した菌株のコロニーを分離して冷蔵耐性株を取得した。
該冷蔵耐性株および上記パン酵母とは別のパン酵母に対して上記の胞子クローン分離操作を行って得た胞子クローンを、5mlのYPD培地にほぼ1対1の割合で1白金耳植菌し、30℃で1日間培養した。該培養液を滅菌水で希釈し、YPD平板培地に塗沫し、30℃で2日間培養して交雑株YHK3572株を得た。
また、上記冷蔵耐性株と、上記の2株のパン酵母とは異なるパン酵母に対して上記胞子クローン分離操作を行って得た胞子クローンに対し、上記の交雑操作を行って交雑株を取得した。該交雑株から胞子クローンを調製し、該クローンと該冷蔵耐性株に対し再度交雑操作を行って交雑株YHK3597株を得た。
(2)市販酵母1〜4を滅菌水に懸濁し、YPD平板培地に塗沫し、30℃で48時間培養してコロニーを生育させ、市販酵母1〜4の分離株を得た。以下の試験にはこれらの分離株を用いた。
なお、市販酵母1および2は通常のパン酵母であり、市販酵母3および4は冷蔵耐性酵母(発酵能が低温感受性を示す酵母)として市販されているパン酵母である。
120℃で20分間殺菌した直径16.5mmの試験管中のYM培地〔10gのグルコース、5gのペプトン(ディフコ社製)、3gの酵母エキス(ディフコ社製)、3gの麦芽エキス(ディフコ社製)および寒天20gを水1Lに含み、pH6に調整した培地〕に、(1)で取得した菌株および市販パン酵母1〜4を、それぞれ1白金耳ずつ植菌し、30℃で2日間培養した。
得られた酵母1白金耳を、120℃で20分間殺菌した300ml容三角フラスコ中のYPD培地30mlに植菌し、30℃で24時間振とう培養(220rpm)した。得られた培養液全量を、120℃で20分間殺菌した2L容斜ヒダ付き三角フラスコ中の糖蜜培地〔糖濃度3%分の糖蜜、0.579gの尿素、0.138gのリン酸2水素カリウム(キシダ化学社製)および消泡剤2滴を水300mlに含有する培地〕に植菌し、30℃で24時間振とう培養(220rpm)した。得られた培養液を、遠心分離(3,000rpm、5分間、4℃)して集菌し、菌体を3回脱イオン水で洗浄後、ヌッチェを用いて吸引ろ過し、酵母菌体を取得した。
得られた酵母菌体2gを水20mlに懸濁した菌体懸濁液、100gの強力粉(カメリヤ、日清製粉社製)、および食塩2gを45mlの水に溶解した食塩水を、捏上温度が28〜30℃となるよう、ナショナル・コンプリートミキサー(ナショナル社製)を用いて100rpmで2分間ミキシングした。
得られた無糖生地から30g分割してビニール袋に入れ、密封し、5℃で7日間保管した。保管後、生地をビニール袋から取り出し、225ml容の試料ビンに入れ、ファーモグラフII(アトー株式会社製)に接続されたチューブがついた蓋を該試料ビンに取り付け、30℃で15分間保温した。
該ファーモグラフを用いて、該試料ビン中の生地からの30℃、120分間で発生する炭酸ガス量を測定した。
なお、上記各酵母菌体の使用量は、乾物重量の比率が33重量%の場合の値である。乾物重量の比率が33重量%でない場合、乾物重量の比率が33重量%の場合の酵母菌体の使用量に代えて、次式により算出される使用量を用いた。
各酵母菌体の使用量(g)=2×33/酵母菌体の乾物重量の比率
各菌株を用いた場合の、生地1gあたりの炭酸ガス発生量を第1表に示す。
また、5℃での保管を行わない場合として、分割した生地30gを225ml容の試料ビンに入れ、ファーモグラフII(アトー株式会社製)に接続されたチューブがついた蓋を該試料ビンに取り付け、30℃で5分間保温した後、炭酸ガス発生量を測定した結果もあわせて示す。
Figure 0005285987
第1表に示すとおり、YHK3572株およびYHK3597株は、保管しない無糖生地だけでなく、該無糖生地を5℃で7日間保管して得られる生地においても高い発酵能を示した。
YM斜面培地に、YHK3572株、YHK3597株、市販酵母1および市販酵母4を1白金耳植菌し、30℃で2日間培養し、水5mlを加えて菌体を懸濁した。該菌体の懸濁液2.5mlを、120℃で20分間殺菌した2L容斜ヒダ付き三角フラスコの糖蜜培地300mlに2.5ml植菌し、30℃で24時間振とう培養(220rpm)した。
得られた培養液全量を、120℃で20分間殺菌した5L容ジャーファーメンターの培地(43.2gの硫酸アンモニウム、14gのリン酸一カリウムおよび2.2gの硫酸マグネシウムを1.8Lの水に含有する培地)に加え、120℃で5分間殺菌した糖蜜培地(全糖濃度48%)800mlを用いて、30℃で30時間の流加培養を行った。培養期間中はアンモニア水でpH5.0に調整した。培養終了後、遠心分離(3,000rpm、5分間、4℃)して集菌し、菌体を3回脱イオン水で洗浄後、ヌッチェを用いて吸引ろ過し、酵母菌体を取得した。
得られた酵母菌体30g、1000gの強力粉(カメリヤ、日清製粉社製)、20gの食塩、および720mlの水を、捏上温度が28℃となるようパンミキサーを用いて低速(100rpm)で3分間、中速(190rpm)で4分間、高速(290rpm)で1分間ミキシングした。
これに50gのショートニングを添加し、捏上温度が28℃となるようパンミキサーを用いてさらに低速(100rpm)で2分間、中速(190rpm)で3分間、高速(290rpm)で7分間ミキシングし、28℃で60分間静置した。
得られた無糖生地を450gずつ分割して、球状に丸め、20〜25℃で15分間静置し、ガス抜きし、ワンローフ食パン型に入れて成型した後、38℃、相対湿度85%で発酵(ホイロ)させ、生地の高さが型上1.5cmとなるまでに要する時間を測定した。
結果を第2表に示す。
Figure 0005285987
第2表に示すとおり、無糖生地を5℃で7日間保管して得られる生地からの30℃における炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり120分間で1.8ml以上である酵母(YHK3572株およびYHK3597株)を用いて得られた無糖生地は一定容量に達するまでのホイロ時間が短く、無糖生地における発酵能が優れていた。
実施例2で得た無糖生地を5℃にて第3表に示す期間保管した。保管後、20〜25℃で15分間静置し、ガス抜きし、ワンローフ食パン型に入れて成型した後、38℃、相対湿度85%で60分間発酵(ホイロ)させた後、220℃で25分間焼成し、食パンを得た。
得られた食パンの比容積を菜種置換法を用いて測定した。
結果を第3表に示す。
Figure 0005285987
第3表に示すとおり、無糖生地を5℃で7日間保管して得られる生地からの30℃における炭酸ガス発生量が、該生地1gあたり120分間で1.8ml以上である酵母(YHK3572株およびYHK3597株)を用いて得られた無糖生地は、5℃で冷蔵保管しても、比容積の大きいパンを製造することができた。
本発明によれば、無糖生地においても良好な発酵能を示す冷蔵耐性酵母、該酵母を含有する生地、または該生地を用いる飲食品の製造方法を提供することができる。

Claims (4)

  1. サッカロミセス・セレビシエYHK3572株(FERM BP-10985)またはYHK3597株(FERM BP-109
    86)
  2. 請求項に記載の酵母を含有する生地。
  3. 請求項に記載の酵母を用いることを特徴とする生地の製造方法。
  4. 請求項2に記載の生地を用いることを特徴とする飲食品の製造方法。
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