JP4577944B2 - 歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリコーンゴムと樹脂を接着するための接着剤を用いた歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
シリコーンゴムは、電気絶縁性、耐熱・耐寒性、耐薬品性、操作の簡便性等の利点を有しており、電気・電子材料のコーティング用途、建材のシーリング用途、食品の型取り用途、歯科用印象材用途などで幅広く使用されている。しかしながら、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等の樹脂(以下、単に樹脂)と接着させようとする場合、シリコーンゴムと樹脂との接着性はほとんどないという欠点がある。
【0003】
そこで、シリコーンゴムと樹脂とを接着させるための接着剤が幾つか開発されてきた。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルと(メタ)アクリル酸ジメチルビニルシリルアルキルエステルとの共重合体を用いたシリコーン修飾アクリル系樹脂(特開平2−43209号公報)を可溶性溶媒に溶解した、或いは(メタ)アクリル酸アルキルと(メタ)アクリル酸ジメチルハイドロジェンシリルアルキルエステルとの共重合体を用いたシリコーン修飾アクリル系樹脂(特公平6−11683号公報)を可溶性溶媒に溶解したアクリル樹脂用接着剤が開発されている。これらは、側鎖にシリル基を有する高分子を主成分とした接着剤であり、長期間(望ましくは半永久的に)シリコーンゴムと、樹脂とを強固に接着させたままでおくことを目的としている。
【0004】
また、特開平7―70246号公報、特開平7―76611号公報には、シリコーン修飾アクリル系ランダム系共重合体を可溶性溶媒に溶解させた接着剤が提案されているが、これらもまた、シリコーンゴムとアクリル系樹脂とを長期間強固に接着させておくためのものである。
【0005】
さらに、フルオロシリコーンゴムと、金属やプラスチックとを接着させるためのプライマー組成物として特開平1−306484号公報には、100質量部のパーフルオロアルキル基含有ポリオルガノシロキサン、5〜100質量部のシリカ系充填材、0.5〜50質量部のイソシアヌレート系有機ケイ素化合物及び有機溶媒を主成分とする組成物、同じく、特開平2−182775号公報には、100質量部のパーフルオロアルキル基含有ポリオルガノシロキサン、5〜100質量部のシリカ系充填材、0.5〜50質量部の(メタ)アクリルアミド系化合物及び有機溶媒を主成分とする組成物が開示されている。これらの組成物も、長期間の強固な接着を目的としたものであり、また、接着の際に、プレス加硫又は常圧熱気加硫を要す。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
一方、歯科用途においては、最初は強固な接着性を要するが、一定期間終了後には、シリコーンゴムと樹脂とを剥がす必要が生じる場合がある。具体的には、使用していた義歯の適合が悪くなった場合に短期間暫間的に使用する裏打ち材である歯科用シリコーン系粘膜調整材において、通常、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等の樹脂製の義歯床に対し、シリコーンゴム系の粘膜調整材によって暫間的に補修しておき、数日〜数週間後に本格的に義歯床を補修する際に、当該シリコーンゴム系粘膜調整材を取り除く必要がある。この場合、粘膜調整材接着直後は容易に剥がれない強い接着性を必要とするが、一定期間経過後に取り除く際には、できるだけ容易に除去できることが望まれる。
【0007】
しかしながら、前記従来型のシリコーンゴムと樹脂を接着するための接着剤は、できる限り長期間高い接着性を保持することを目的としているため、樹脂製の義歯床とシリコーンゴム系の粘膜調整材の接着用に用いた場合、必要な期間終了後も強固に接着したままであり、両者を剥離させることは容易ではない。剥離させる場合は、研削によってシリコーンゴムを除去せざるを得ず、手間がかかり、また削りかすが多量に発生する等の問題があった。そこで、接着直後は強固な接着力を発揮するが、数日〜数週間経過後には接着力が低下して容易に剥離できる歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤の開発が望まれていた。
【0008】
また、前記特開平1−306484号公報や、特開平2−182775号公報に記載のフルオロシリコーンゴム用プライマー組成物は、高い接着性を発現させるために、生体に対する為害性に懸念のあるイソシアヌレート系化合物や、アクリルアミド系化合物を必須としており、この点においても問題がある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、有機溶媒100質量部、及び無機粉体0.1〜10質量部を主成分としてなる接着剤を用いることにより、上記課題を克服できることを見い出し本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、有機溶媒100質量部、及び無機粉体0.1〜10質量部を含有してなり、該有機溶媒と無機粉体との合計が接着剤全量の90質量%以上を占めることを特徴とする歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤である。
【0011】
本発明において歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤として見出した、上記組成のシリコーンゴム用接着剤を使用した時の接着機構は充分には明らかになっていないが、以下のように推測される。
【0012】
即ち、本発明で使用されている有機溶媒が樹脂表面を膨潤させることで、その面に無機粉体がアンカーの様に固定される。その結果、樹脂表面は凹凸を持った形状を呈し、その表面に硬化性シリコーン組成物を盛ると、樹脂とシリコーンゴムの間に物理的勘合力が発生し両者が接着すると考えられる。さらに、シリコーンゴムのマトリックスであるポリオルガノシロキサン部分やシリコーンゴム中及び/または接着剤中のSiHシロキサンなどと無機粉体表面との間に相互作用が生じることによっても更に強固な接着力が発現すると考えられる。一方で、化学結合的な相互作用は発生していないため、長期間の湿潤条件下では容易に剥離させることができるようになる。また、この様な機構のため、接着剤成分中に、有機溶媒及び無機粉体以外の成分が多量に存在すると、樹脂の膨潤や無機粉体の固定を阻害したり、或いは樹脂表面に厚い塗膜を生じ、アンカー状に存在する無機粉体と、シリコーンゴムのマトリックスであるポリオルガノシロキサンとの間隔が大きくなり、それらの相互作用が物理的におき難くなったりする。
【0013】
この機構は、従来の技術に記載した接着剤の接着機構とは大きく異なる。すなわち、本発明の接着機構が物理的勘合力や無機粉体とシリコーンとの相互作用と言った、比較的弱い結合によるものであるのに対し、従来技術の接着においては、相溶化剤あるいはグラフト化剤の様な構造を有する接着成分を用いている。そのため、接着初期において強固に接着するものは、湿潤条件下での長期間経過後も強固に接着したままであり、容易に剥離させることができず、使用後の除去が煩雑であり、結局のところ操作性が著しく低下する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の接着剤において使用できる有機溶媒としては、公知のものが何ら制限なく使用できるが、被着体である樹脂への浸透性があり、揮発性が高く、毒性の低い有機溶媒を使用するのが好適である。揮発性の高い溶媒を用いた場合は、後述する乾燥操作が容易に行える。また、樹脂への浸透性の高い溶媒を用いた場合には、接着強度が高くなる。樹脂溶解性の指標としては、溶解度パラメーター(溶解度係数:δ)があり、例えばアクリル系樹脂に対しては、δ=17.4〜20.5(MPa)1/2の範囲の有機溶媒が特に樹脂溶解性が高いので好ましい。
【0015】
当該有機溶媒を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系溶媒が挙げられる。
【0016】
これらの中でも酢酸エチル(δ=18.6(MPa)1/2)、塩化メチレン(δ=19.8(MPa)1/2)、トルエン(δ=18.2(MPa)1/2)は、アクリル系樹脂に対する溶解性が高く、しかも揮発性が高いので、特に好適に使用でき、なかでも酢酸エチルの使用が、その生体への毒性の低さから最も好適である。
【0017】
これら有機溶媒は単独で、あるいは複数の有機溶媒の混合溶媒が使用できる。
複数の溶媒の混合溶媒を使用する場合には、その混合溶媒としての溶解度パラメーターが、δ=17.4〜20.5(MPa)1/2となるような組成にすることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる無機粉体としては、シリコーンゴムの硬化反応を阻害しないものであれば公知のものが何等制限なく使用できる。好適に使用される無機粉体を具体的に例示すると、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア等の無機酸化物粉体、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の無機金属塩、窒化アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、シリコーンゴムのポリオルガノシロキサンや架橋成分との間の相互作用が生じることによる接着性の向上が見られる、口腔内に常在する水に対して実質的に安定である等の点で、無機酸化物粉体の使用が好ましく、シリカがより好ましい。さらに、後述する保存安定性まで考慮すると、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)が特に好ましく使用できる。これら無機粉体は2種類以上併用して使用することも可能である。
【0019】
当該無機粉体は有機溶媒への分散性を高める為に、その粒子表面をトリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等の表面処理剤で疎水化処理されたものであることがより好ましい。
【0020】
本発明で使用される無機粉体の粒径は特に限定されないが、有機溶媒に分散させた際に、長期間沈降し難く、使用しやすいという観点から粉体の平均粒径は小さい方が好ましく、平均粒径が1μm以下である無機粉体を用いるのが好適であり、0.5μm以下である無機粉体がより好ましい。
【0021】
本発明の接着剤に含まれる有機溶媒と無機粉体との量比は、有機溶媒100質量部に対して無機粉体0.1〜10質量部である。無機粉体の量が0.1質量部よりも少ない場合には十分な接着効果が発現しない場合が多く、また、10質量部よりも多い場合は過剰の粉体により接着阻害が生じ、やはり充分な接着効果が得られないために好ましくない。より好ましくは、有機溶媒100質量部に対して無機粉体0.5〜5質量部である。
【0022】
本発明の接着剤は、有機溶媒および無機粉体を主成分として構成される。本発明において主成分とは、接着剤に含まれる全成分に対して、有機溶媒及び無機粉体の合計が90質量%以上であることを意味する。この割合が90%より少ない場合には、その他成分として何を用いたかによるが、通常、初期接着性が実用に耐えないほど低くなる。また、その他成分を多量に配合することは、製造の手間やコストの点でも不利である。初期接着性及び一定期間終了後の剥離性を考慮すると、有機溶媒および無機粉体の含有割合は、95%以上がより好ましい。
【0023】
本発明の接着剤としては、溶解度パラメーター(δ)=17.4〜20.5(MPa)1/2の有機溶媒100質量部、平均粒径1μm以下のシリカ0.1〜10質量部を含有してなり、当該有機溶媒とシリカの合計が、全接着剤中90〜100質量%である組成物が好ましい。より好ましくは、酢酸エチル、塩化メチレン、トルエンから選ばれる有機溶媒100質量部、平均粒径0.5μm以下の噴霧質シリカ0.5〜5質量部を含有してなり、当該有機溶媒と噴霧質シリカの合計が、全接着剤中95〜100質量%からなる組成物である。
【0024】
本発明の接着剤には、初期接着性を更に向上させる目的で、分子中にSiH基を有するポリシロキサンを少量添加することがより好ましい。この様な分子中にSiH基を有するポリシロキサンは、前記イソシアヌレート系化合物やアクリルアミド系化合物と異なり、生体に対する安全性が充分確立されている。なお、説明の便宜上、“分子中にSiH基を有するポリシロキサン”を“SiHシロキサン”と呼ぶこともある。
【0025】
本発明において使用できるSiHシロキサンの構造は特に限定されず、直鎖状でも枝分かれを有していてもよく、また各種有機置換基を有していてもよい。接着初期に良好な接着性を得るためには、分子中に存在するSiH基の数が3個以上であることが望ましい。また、その平均分子量が200〜10000程度のものの使用が、操作性、接着性向上の観点から好ましい。
【0026】
本発明で使用できる、SiHシロキサンの代表的なものを具体的に示せば、
【0027】
【化1】
【0028】
で示されるSiHシロキサン等が挙げられる。なお、上記化合物および後述する実施例、比較例に用いられるSiHシロキサン中の各繰り返し構成単位の結合順序は全く任意であり、構造式中に示される繰り返し構成単位の数は各構成単位の総量を示すにすぎない。
【0029】
本発明の接着剤に、SiHシロキサンを添加する場合の添加量としては、接着剤全成分の合計中、0.1〜10質量%が好適であり、0.2〜2質量%がより好適である。SiHシロキサンの量が0.1質量%よりも少ない場合には、添加したことによる初期接着性向上の効果が得られにくく、多すぎる場合には、シリコーンゴムと樹脂との間隔を大きくさせることとなり、結局として接着を阻害する傾向にあるため好ましくない。
【0030】
また、本発明の接着剤には、シリコーンゴムの硬化反応を阻害しないものであれば、全体の10質量%以下、好ましくは3質量%以下で、着色剤、抗菌・防腐剤、紫外線安定剤等を更に配合することも可能である。
【0031】
当該SiHシロキサンを始めとする任意成分を配合した際には、本発明の好ましいシリコーンゴム用接着剤は、溶解度パラメーター(δ)=17.4〜20.5(MPa)1/2の有機溶媒100質量部、平均粒径1μm以下のシリカ0.1〜10質量部を含有してなり、全接着剤中、当該有機溶媒とシリカの合計が90〜99.9質量%、SiHシロキサンを0.1〜10質量%含んでなる組成物である。より好ましくは、酢酸エチル、塩化メチレン、トルエンから選ばれる有機溶媒100質量部、平均粒径0.5μm以下の噴霧質シリカ1〜5質量部を含有してなり、全接着剤中、当該有機溶媒と噴霧質シリカの合計が95〜99.8質量%であって、下記式、
【0032】
【化2】
【0033】
で表わされるSiHシロキサン0.2〜2質量%を含んでなる組成物である。
【0034】
上記シリコーンゴム用接着剤は、本発明ではその効果を顕著に発揮するという点で、歯科用シリコーン系粘膜調整材用の接着剤として使用する。
【0035】
本発明の接着剤は全構成成分を事前に混合した包装形態も可能であるし、複数の包装とし、使用直前に混合する形態にすることも可能である。事前に全成分を混合した包装形態にする場合には、無機粉体を分散させる方法は特に限定されず、超音波分散、ディスパーザー分散、湿式ボールミル分散等の公知の方法が何ら制限なく採用できる。この場合、SiHシロキサン(及び、配合される場合にはその他の任意成分)を配合する場合には、該無機粉体を分散させる前に有機溶媒に溶解させておいても良いし、無機粉体分散後、その分散液に溶解させてもよい。
【0036】
複数の包装形態とする場合には、無機粉体を分散させた有機溶媒と、SiHシロキサンを溶解させた有機溶媒の2包装とし、使用直前に、歯科医師等が混合して使用する形態が挙げられる。この場合、歯科医師等の判断する剥離作業を行なうまでの期間に応じ、該2包装の混合割合を適宜変更するように設定することも可能である。該混合割合と、剥離までの期間の関係は、事前にデータを蓄積しておくことで対応可能である。
【0037】
本発明の接着剤を用いて接着することのできるシリコーンゴムとしては、粘膜調整材の素材であれば公知のものが何等制限なく使用できる。具体的に例示すると、熱加硫型シリコーンゴム、縮合型液状シリコーンゴム、付加型液状シリコーンゴム、紫外線硬化型シリコーンゴム等を挙げることができる。粘膜調整材用としては、付加型液状シリコーンゴムが特に好ましい。
【0038】
被着体である義歯床を構成する樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ABS等のアクリル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。義歯床用としては、通常ポリメチルメタクリレート系樹脂、或いはポリカーボネート樹脂が使用されており特に好ましい。
【0039】
本発明の接着剤を使用する際、当該接着剤を適用する方法は特に制限されず、例えば、被着体である樹脂製物品に、本発明の接着剤をハケ、ヘラ、筆、スポンジなどで塗布、または噴霧すればよい。
【0040】
本発明の接着剤は、樹脂に塗布後、その成分である有機溶媒を揮発させて乾燥させることが好ましい。乾燥方法も特に限定されず、空気中に放置して自然乾燥させてもよいし、冷風又は熱風を吹き付けて乾燥させてもよいし、加熱型の乾燥機を使用してもよい。
【0041】
本発明の接着剤を、歯科用シリコーン系粘膜調整材用として使用する場合、以下のような手順で行えば良い。
【0042】
まず、被着体である義歯床に、本発明の接着剤を筆等で塗布し、エアブローにて有機溶媒を乾燥させる。乾燥後、シリコーン系粘膜調整材用硬化性組成物のペーストを練和後、義歯床上に盛り付ける。該義歯を患者の口腔内に所定時間装着して組成物を硬化させたのち、切削、研磨等によりシリコーンゴムの概形を修正してシリコーン系粘膜調整材とすれば良い。
【0043】
また、該粘膜調整材は所定期間使用した後、辺縁部より引き剥がすことにより容易に剥離させることが可能である。
【0044】
【実施例】
本発明を更に具体的に説明するための実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において試験に供した各材料の構造式を以下に示す。
・ポリシロキサンA:下記式で表わされるα,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン(粘度30ポイズ;GE東芝シリコーン製ME91)
【0045】
【化3】
【0046】
・ポリシロキサンB:下記式で表わされるメチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキサン単位を97モル%以上含むポリオルガノシロキサン(粘度50000ポイズ;GE東芝シリコーン製FQE26U)
【0047】
【化4】
【0048】
・SiHシロキサン1:下記式で表わされる化合物
【0049】
【化5】
【0050】
・SiHシロキサン2:下記式で表わされる化合物
【0051】
【化6】
【0052】
・DM30:トクヤマ製レオロシールDM30(平均粒径0.01μmの煙霧質シリカ)
・MT10:トクヤマ製レオロシールMT10(平均粒径0.01μmの煙霧質シリカ)
・PMMA:ポリメチルメタクリレート粉末(平均粒径0.4μm、分子量250000)
・ポリマー1:下記式で表わされる重合体の粉末(質量平均分子量=127000、特開平7―70246号公報記載の方法で合成)
【0053】
【化7】
【0054】
1)試験材料
シリコーンゴムa
硬化性シリコーン組成物として以下に示すA、B2種類のペーストを調製した。これらは同量づつ混練することにより室温で硬化し、シリコーンゴムとなる。
・Aペースト:
ポリシロキサンA 100質量部
ポリメチルシルセスキオキサン微粉(粒径3μm) 100質量部
白金/ビニルシロキサン錯体溶液(白金含有率3%) 0.5質量部・Bペースト:
ポリシロキサンA 100質量部
SiHシロキサン1 0.3質量部
SiHシロキサン2 2.0質量部 ポリメチルシルセスキオキサン微粉(粒径3μm) 100質量部
シリコーンゴムb
硬化性シリコーン組成物として、以下に示すコンパウンドを調製した。これは、加熱することにより硬化しシリコーンゴムとなる。
・コンパウンド:
ポリシロキサンB 100質量部
過酸化ベンゾイル 1質量部
2)接着力の評価
表面を800番の耐水研磨紙で注水下研磨したアクリル板またはポリカーボネート板(以下、樹脂版と総称)に、調製した接着剤溶液を筆で塗布した。乾燥後、ペーストAとペーストBの等量混合物(シリコーンゴムa)、または、コンパウンド(シリコーンゴムb)を、接着剤溶液を塗布した樹脂板上に盛り付けた。
その後、ペーストAとペーストBの等量混合物を盛り付けたものは37℃水中で5分間放置、コンパウンドを盛り付けたものは大気中150℃で20分間加熱して硬化させ、シリコーンゴムa又はbとした。硬化反応終了後、スパチュラを用いて、樹脂板とシリコーンゴムの界面から剥離させようとし、そのときの破壊の様子を観察し評価した。評価点は以下の判定に従い◎〜×で評価した。すべてシリコーンゴムの凝集破壊である◎が最も優れている。
【0055】
◎:全てシリコーンゴムの凝集破壊
○:凝集破壊と界面破壊の混合破壊
△:界面破壊(剥離時に抵抗感がある)
×:界面破壊(全く接着していない)
3)除去性の評価
接着力の評価方法と同様の手順で調製したサンプルを、熱衝撃試験機(トーマス社製)にて4℃と60℃の恒温水に各1分間ずつ交互に浸漬するサイクルを1000回行った。(なお、この1000回の熱サイクルは、ケースにより差があるが、ほぼ平均的な粘膜調整剤の使用期間に相当する。)その後、上記と同様に、樹脂板とシリコーンゴムの剥離状態を評価した。評価点は、以下の判定に従い◎から×で評価した。除去性は剥離時に抵抗感がある界面破壊(評価◎)が最も優れている。
【0056】
×:全てシリコーンゴムの凝集破壊
△:凝集破壊と界面破壊の混合破壊
◎:界面破壊(剥離時に抵抗感がある)
○:界面破壊(全く接着していない)
実施例1
酢酸エチル100質量部に、1質量部のDM30を超音波分散し、これを接着剤とした。該接着剤をアクリル板(GC製アクロン)上に塗布し、前述の方法でシリコーンゴムaとの接着性を評価したところ、結果は凝集破壊と界面破壊の混合破壊(評価○)であった。また、除去性については、剥離時に抵抗感がある界面破壊(評価◎)であった。
【0057】
実施例2〜5
実施例1と同様の方法で、表1に示した組成の接着剤を調製し、アクリル板とシリコーンゴムaとの接着性及び除去性を評価した。接着材の組成、及び評価結果を表1に示す。
【0058】
実施例6,7
実施例1と同様の方法で、表1に示した組成の接着剤を調製し、ポリカーボネート板(松風製PCレジン)とシリコーンゴムbとの接着性及び除去性を評価した。接着材の組成、及び評価結果を表1に示す。
【0059】
比較例1(無機粉体を添加しない場合)
酢酸エチルをアクリル板上に塗布し、前述の方法でシリコーンゴムaとの接着性を評価したところ、全く接着しておらず(評価×)、無機粉体が必須であることが明らかであった。
【0060】
比較例2(無機粉体の代わりにポリマー粉体を添加した場合)
酢酸エチル100質量部に、1質量部のPMMA粉末を超音波分散し、これを接着剤とした。該接着剤を、アクリル板上に塗布し、前述の方法でシリコーンゴムaとの接着性を評価したところ、まったく接着しておらず、評価結果は×であった。このことから、接着剤成分として配合する粉末は、無機の粉末である必要性が明らかである。
【0061】
比較例3(無機粉体の代わりに接着性ポリマーを添加した場合)
酢酸エチル100質量部にポリマー1の粉末(なお、特開平7−70246の発明の接着剤成分である)を超音波分散し、これを接着剤とした。該接着剤を、アクリル板上に塗布し、前述の方法でシリコーンゴムaとの接着性を評価したところ、非常によく接着していた(評価◎)が、1000回の熱サイクル後も、強固に接着したままであり、除去性が著しく悪かった(評価×)。即ち、この様な成分も本発明の目的においては使用が困難である。
【0062】
比較例4(無機粉体添加量が本発明の範囲以下の場合)
酢酸エチル100質量部に、粒径0.01μmの煙霧式シリカ0.02質量部(本発明の範囲以下)及びSiHシロキサン0.7質量部を添加した液を超音波分散し、これを接着剤とした。該接着剤を、アクリル板上に塗布し、前述の方法でシリコーンゴムaとの接着性を評価したところ、全く接着していなかった(評価×)。
【0063】
比較例5(無機粉体添加量が本発明の範囲以上の場合)
煙霧質シリカを20質量部(本発明の範囲以上)及びSiHシロキサンを0.3質量部とした場合には、接着性が著しく低かった(評価△)。
【0064】
これらの結果から、無機粉体の添加量は、本発明の範囲内である必要性があることは明らかである。
【0065】
比較例6(有機溶媒及び無機粉体の合計量が本発明の範囲外の場合)
酢酸エチル100質量部に、平均粒径0.2μmの煙霧式シリカ1質量部、及びSiHシロキサン20質量部を添加した液(SiHシロキサン含有割合16.5%)を超音波分散し、これを接着剤とした。該接着剤を、アクリル板上に塗布し、前述の方法でシリコーンゴムaとの接着性を評価したところ、接着性が弱く、簡単に剥離した(評価△)。この結果から、有機溶媒及び無機粉体の配合量が全接着剤成分の合計に対し少なすぎると、接着性が低くなることは明らかである。
【0066】
これら、実施例・比較例の接着剤組成及び評価結果は表1にまとめて示した。
【0067】
【表1】
【0068】
本発明により得られた接着剤は、シリコーンゴムと樹脂とを最初は強固に接着させ、そして、湿潤条件下で一定の期間が経過した後は、研削等の作業を伴わずに容易に剥離可能である。このため、歯科用粘膜調整材として特に好適に使用できる。
Claims (3)
- 有機溶媒100質量部、及び無機粉体0.1〜10質量部を含有してなり、該有機溶媒と無機粉体との合計が接着剤全量の90質量%以上を占めることを特徴とする歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤。
- 分子中にSiH基を有するポリシロキサンを接着剤全量の0.1〜10質量%で更に含んでなる請求項1記載の歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤。
- 有機溶媒が酢酸エチル、塩化メチレンまたはトルエンであり、無機粉体が煙霧質シリカである請求項1または請求項2記載の歯科用シリコーン系粘膜調整材用接着剤。
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