JP4562051B2 - 損耗センサ付き切削工具の信号処理装置および信号処理方法 - Google Patents

損耗センサ付き切削工具の信号処理装置および信号処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、切削加工に使用する切削工具の寿命を判定するための信号処理装置および信号処理方法に関するものである。特に、この発明は、切削工具の刃先に備えられた損耗センサか得られる信号を処理する装置および方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
切削工具の摩耗や折損等を切削加工中に検知するインプロセス工具損耗診断は、従来、間接的なモニタリング法を基に行われていた。たとえば、
(1)切削工具が取り付けられている工作機械の切削加工中における動力の変化や切削音の変化により摩耗を予測すること、
(2)切刃近傍や工具ホルダ等にアコースティックエミション(AE)を検知するセンサを設け、このAEセンサにより検知する異常信号をもとに、折れ損やチッピングを判断する方法、
が用いられていた。
【0003】
しかし、間接的モニタリング法は、切削工具の摩耗や折損に付随して起こる切削力や切削音の変化、振動の発生等の付随的な物理現象を介して摩耗を推定するので、その測定感度が悪く、しかも信頼性に乏しいという課題があった。また、外乱等により測定結果にノイズが含まれ、切削工具の寿命予測精度が悪いという課題もあった。
そこでこれらの課題を解決する提案が、実開平3−120323号公報に記載されている。この公報には、スローアウェイチップの逃げ面に、切刃稜に沿って導電膜でセンサラインを設けることが開示されている。センサラインの幅は、摩耗許容幅に対応させることも開示されている。従って、この公報に開示のスローアウェイチップによれば、切刃稜の摩耗に伴いセンサラインも摩耗し、センサラインが途切れたときに切刃稜が寿命に達したと判別することができる。
【0004】
また、特開平9−38846号公報には、スローアウェイチップではない通常の切削工具において、その逃げ面に薄膜回路を設け、逃げ面の摩耗に伴って薄膜回路が摩耗することに伴い電気抵抗が変化することを検知して、切削工具の寿命を自動的に判定する方法が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
切削工具の切刃稜に沿ってセンサラインを設け、そのセンサラインの抵抗値の変化を検知して、切刃稜の損耗を検知するというやり方自体は、インプロセス工具診断の仕方として好ましい。
ところで、切削加工中に得られるセンサラインからの抵抗値信号は、ノイズや誤データが含まれた非常に不安定な信号である。このため、センサラインからの抵抗値信号に基づき切削工具の摩耗量や折損等の損耗を判定するには、抵抗値信号からセンサラインの摩耗を示す真の信号成分を取り出さねばならないという課題があった。
【0006】
この発明は、かかる課題を解決するためになされたもので、損耗センサ付き切削工具から得られる計測データ(センサデータ)に対して信号処理をし、信頼性の高い処理データを得ることのできる信号処理装置および信号処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
この発明は、導電性金属を切削する切削工具の刃先に切削による摩耗や折損を検知するセンサが設けられた損耗センサ付き工具において、摩耗量に応じて変化するセンサからの抵抗値信号を、比較的大局的な不連続変化信号として捉え、その不連続変化時点で、切削工具の摩耗を判断するものである。
具体的には、請求項1ないし請求項5記載の構成になっている。すなわち、
請求項1記載の発明は、切削工具の刃先に切削による摩耗や折損を検知するセンサが設けられた損耗センサ付き工具のための信号処理装置であって、損耗センサの出力を所定のサンプリング周期ごとにサンプリングして計測データを得る手段と、得られた計測データからノイズを除去するノイズ除去手段と、ノイズが除去されたデータから、時系列的に減少する抵抗値データを分離して除去し、時系列的に増加する抵抗値データだけを選び出すデータ分離処理手段と、離された抵抗値データに基づいて、損耗センサ付き切削工具の摩耗量や折損を判定する手段と、を含み、前記損耗センサは、切削工具の逃げ面の表面上に切刃稜に沿って平行に延びる複数本のセンサラインを含み、前記判定手段は、前記処理データをセンサラインの数と対応づけることにより、切削工具の摩耗量や折損を判定することを特徴とする信号処理装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記ノイズ除去手段は、サンプリングされた所定数のデータ群ごとの中央値を出力するメジアン処理手段を含むことを特徴とする、請求項1記載の信号処理装置である
【0009】
請求項記載の発明は、前記寿命判定手段は、処理データの初期データから複数本のセンサラインによって得られる初期抵抗値を検知し、前記センサラインが1本切れるごとに増加する抵抗しきい値を決め、処理データが抵抗しきい値を超えるごとに、切断したセンサラインの数が増加したことを出力することを特徴とする、請求項1または2記載の信号処理装置である。
請求項記載の発明は、前記損耗センサ付き切削工具は、損耗センサが設けられたスローアウェイチップと、そのスローアウェイチップを保持するホルダとを有し、スローアウェイチップの摩耗量や折損が検知できることを特徴とする、請求項1ないしのいずれかに記載の信号処理装置である。
【0010】
請求項5記載の発明は、導電性金属を切削する切削工具の刃先に切削による摩耗や折損を検知するセンサが設けられた損耗センサ付き工具のための信号処理方法であって、損耗センサの出力を所定のサンプリング周期ごとにサンプリングする工程、サンプリングしたデータからノイズを除去する工程、ノイズが除去されたデータから、時系列的に減少する抵抗値データを分離して除去し、時系列的に増加する抵抗値データだけを選び出すデータ分離処理する工程、分離された抵抗値データに基づいて、損耗センサ付き切削工具の摩耗量や折損を判定する工程、を包含し、前記損耗センサは、切削工具の逃げ面の表面上に切刃稜に沿って平行に延びる複数本のセンサラインを含み、前記処理データとして、時系列的に段階的に増加し、その増加がセンサライン数に対応された処理データを得ることを特徴とする方法である。
【0011】
求項1およびの構成では、サンプリングされた計測データから、ノイズが除去される。このノイズ除去は、請求項2記載のように、メジアンフィルタ等を用いたメジアン処理を行うことにより簡単に行うことができる。
【0012】
ノイズが除去されたデータには、さらに、分離フィルタ等によってデータ分離処理が施される。データ分離処理では、時系列的に減少するデータが分離されて除去される。
通常、切削時間の増加に伴い、切削工具の刃先が摩耗し、それに伴ってセンサも摩耗するから、抵抗値は増加していく。しかし、計測データの中に時系列的に減少するデータが含まれるのは、削り屑等の作用による誤データであると推測できる。なぜなら、切削工具の刃先は、被削材と接触しており、切削時の切り屑に晒された状態である。このため、切削工具の刃先には、被削材の切り屑がぶつかったり溶着等したりして、その結果センサの抵抗値を下げる作用をすると考えられる。そこでこの発明では、時系列的に減少するデータは、データ分離処理によって取り除き、時系列的に増加するデータだけを処理データとして取り出すことにした。
【0013】
そして取り出した処理データに基づき、切削工具の摩耗量や折損が判定される。
判定では、処理データをセンサラインの数と対応づけて判定することにより、良好な判定が行える。センサラインの数が複数本の場合は、センサラインが1本切れるごとにセンサラインの抵抗値は段階的に増加する。それゆえ処理データが段階的に増加する場合に、その増加した時点をもってセンサラインが1本切れたと判別することができる。従って、段階的な抵抗値の変化から、計測時点における切断センサライン数を判別でき、切削工具の摩耗量を知ることができる。そして所定数のセンサラインが切れたときに、切削工具の寿命を検知できる。
【0014】
この発明は、請求項記載のように、スローアウェイチップに適用するのが好ましいが、スローアウェイチップに限らず、刃先を交換しない形式の切削工具に対しても適用可能である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下には、図面を参照して、この発明の具体的な実施形態について説明をする。
以下の実施形態では、ホルダ等に装着されて切削刃として機能するスローアウェイチップについて説明する。しかしながら、この発明は、スローアウェイチップ型でない通常の切削工具に対しても、同様に適用可能であることを予め申し述べておく。
【0016】
図1は、損耗センサ付き切削工具の一例として、損耗センサが設けられたスローアウェイチップ1を示す図である。
スローアウェイチップ1は、略直方体状の母材2を有する。母材2の上面にはすくい面3が形成され、母材2の下面は着座面4とされている。母材2の各側面は、逃げ面5となっていて、すくい面3と逃げ面5との交差稜によって切刃稜6が形成されている。さらに、すくい面3および隣接する2つの逃げ面5の交差部分は切削に使用されるコーナ部7を形成している。
【0017】
コーナ部7には、切刃稜6に沿って延びる導電性膜のセンサライン10が設けられている。センサライン10は、部分拡大図AまたはBに示すように、コーナ部7を形成する隣接する2つの逃げ面5上に、コーナ部7を取り巻くように切刃稜6に沿って平行に延びている。センサライン10は、部分拡大図Aに示すように、1本のベルト状のセンサラインで形成されていてもよいし、部分拡大図Bに示すように、平行に延びるたとえば3本の細線101,102,103で構成されており、3本の細線101,102,103は、両端において平行結合されていてもよい。
【0018】
切削加工中にモニタリングすると、逃げ面5の摩耗の進行に伴って、センサライン10は、切刃稜6に近い部分から徐々に摩耗し、細くなっていく。また、センサライン10が3本の細線のときは、切刃稜6に近い細線101から順次細線102,103と断線していく。よって、センサライン10の両端の電気抵抗値も、それに応じて不連続に増加するものと考えられる。この電気抵抗値の増加回数を信号処理により求めれば、それが断線した細線数に対応するので、逃げ面5の摩耗幅をインプロセスで検知することができる。また、センサライン10がベルトタイプであれば、抵抗値が無限大になったとき、切刃稜の寿命を判定できる。
【0019】
ところで、先行技術で紹介したように、工具面上に設けた導電性材料の電気抵抗の変化により摩耗量を直接検知する考え方は、従来より提案されている。ところが、従来のやり方では、工作物を含んだ系の抵抗値から直接摩耗量を測定しようとしたため、工作物とセンサ間の断続的な短絡や接触抵抗等に起因する不安定な抵抗値信号から、精度の高い摩耗量検出をすることが困難であった。
そこでこの発明では、以下の実施例で詳述するように、摩耗量に応じて抵抗値信号に比較的大局的な不連続変化を生じさせることにより、低S/N比の信号でも、より確実な情報を検知しようという考えに立脚して構成されている。つまり、抵抗値そのものを利用するのではなく、その信号のパターン変化を検出するという考えに立って、損耗を検知するものである。こうすることにより、測定分解能は多少犠牲にはなるが、不安定な信号からより確実な情報を検出することが可能となる。
【0020】
図1のスローアウェイチップ1において、センサライン10は、着座面4に設けられた接触領域11,12につながっている。接触領域11,12には検知回路のプローブ等が接触されて、センサライン10の抵抗値が検知される。
以下の説明では、センサライン10が、部分拡大図Bに示す3本の細線101,102,103を有する構成について説明する。
なお、部分拡大図Aに示す1本のベルト状のラインをセンサライン10とした場合、ベルト状のセンサライン10の幅は、コーナ部7の寿命基準量(逃げ面5の摩耗限界)に一致させるのが好ましい。たとえば、スローアウェイチップ1の逃げ面5の摩耗が0.2mmで寿命となる場合には、センサライン10の幅を0.2mmとして形成する。そしてコーナ部7によって切削加工が行われ、加工時間の増加とともに切刃稜6および逃げ面5の摩耗が進行する。そして逃げ面5の摩耗幅が寿命基準量以上に達すると、この寿命基準量に一致された幅のセンサライン10も摩耗により断線するという構成になる。この場合は、センサライン10の両端の抵抗値は、有限値から無限値に変化するから、いわゆる2値化情報によって、コーナ部7の寿命を検知することができる。
【0021】
図2は、この発明の一実施形態にかかる損耗センサ付きスローアウェイチップ1のための信号処理装置の構成を示すブロック図である。NC旋盤に搭載された損耗センサ付きスローアウェイチップ1のセンサ信号(抵抗値)は、ホルダ13内の信号線等を経由して、ディジタルマルチメータ20へ与えられる。ディジタルマルチメータ20では、抵抗値がディジタル信号に変換され、それがコンピュータ21へ出力される。コンピュータ21は信号処理装置の中枢であって、後述する所定の信号処理を行う。そしてコンピュータ21の出力はNC旋盤の加工制御装置22へ与えられる。その結果、加工制御装置22によって、被削材15を回転させるモータ23や、被削材15に対する切込み深さや切込み長さを制御するターレット24が、必要に応じて停止制御される。
【0022】
図3は、図2で説明したコンピュータ21により行われる制御の内容を示すフローチャートである。制御では、ディジタルマルチメータ20から与えられるディジタル信号に変換された計測抵抗値が、所定のサンプリング周期ごとにサンプリングされる(ステップS1)。この実施形態では、スローアウェイチップ1の1つのコーナ部7の寿命が約3000秒前後であることを考慮して、サンプリング周期は1秒にされている。もちろん、対象となる切削工具や被削材の種類に応じて、サンプリング周期は適当な時間に設定すればよい。この実施形態のようにサンプリング周期を1秒とすれば、処理データが少なくてすみ、信号処理を容量の小さなメモリを使って、比較的高速で行うことができるという利点がある。すなわち、比較的安価なコンピュータ21(マイクロプロセッサ)により、信号処理装置を構成することが可能である。
【0023】
ステップS1でサンプリングされた計測データの一例を、図4に示す。サンプリングされたデータは、抵抗値が小刻みに変動するノイズ成分の混じった信号である。
ステップS2では、サンプリングされたデータは、メジアンフィルタを通すことにより、ノイズが除去される。
ステップS3では、ノイズが除去されたデータを分離フィルタを通すことによって、時系列的に減少するデータが取り除かれる。
【0024】
ステップS4では、減少データが取り除かれた処理データは所定のカウンタ関数に当てはめられ、センサライン10を構成する3本の細線101,102,103のうち何本の細線が切断したかが検知される。
その結果、細線の切断本数からスローアウェイチップの計測時点の摩耗量を判断することができ、そして細線101,102,103が3本切断したときには、センサライン10が完全に切断されて寿命となるから(ステップS5でYES)、その旨がNC旋盤の加工制御装置22へ与えられる。
【0025】
加工制御装置22は、与えられた信号に基づき、モータ23を停止して被削材15の回転を停止し、かつ、ターレット24を移動させて被削材15からスローアウェイチップ1を離す等の必要な処理を行う。
また、スローアウェイチップ1の切刃稜の寿命が尽きたことがNC旋盤の管理者等に報知される。
次に、図3のステップS2,S3,S4の各処理について、順次具体的に説明をする。
メジアン処理(ステップS2)
メジアン処理とは、サンプリングされた所定数のデータ群ごとに、中央値を出力する処理である。この処理は、「メジアンフィルタ」と呼ばれる公知のフィルタを用いて行うことができる。
【0026】
メジアンフィルタが1回に処理するデータ群のデータ数mを、m=5と仮定する。メジアンフィルタでは、図5Aに示すように、サンプリングされた5つのデータが与えられると、その5つのデータを、図5Bに示すように小さい順に並べる。そして小さい順に並べた5つのデータの中央値(4)をそのデータ群の代表値として出力する。
他の例を示せば、図6Aに示す与えられた5つのデータからなるデータ群があれば、それを図6Bに示すように小さい順に並べる。そしてその中央値(3)をデータ群の代表値として出力する。
【0027】
メジアンフィルタによれば、与えられるサンプリング値からデータ群ごとの中央値を出力することにより、異常に大きな値や異常に小さな値といった異常値を取り除くことができる。
図7に示すように、サンプリングによって、1,2,3,4,…,Nと、時系列的にディジタルデータが与えられる。メジアンフィルタが、m=5で、5つのデータの中央値を出力する構成の場合、1回目は1〜5のデータ群の中央値、2回目は2〜6のデータ群の中央値、3回目は3〜7のデータ群の中央値,…というようにして、データを1つずつずらしながら、順に中央値を出力していく。
【0028】
このような構成のメジアンフィルタは、図8に示すような、2つのメモリM1,M2を用いて簡単に構成することができる。図8において、メモリM1は、5つのサンプリングデータを新しいものから順に記憶することのできるメモリで、5つの記憶エリアE1〜E5を有する。E1には今回(最新)のサンプリングデータd(ti)(iは自然数であり、i=1,2,3,…,Nである。)が、E2には前回のサンプリングデータd(ti-1)が、E3には2回前のサンプリングデータd(ti-2)が、E4には3回前のサンプリングデータd(ti-3)が、E5には4回前のサンプリングデータd(ti-4)が、それぞれ記憶される。そして1回の処理が終わるごとに、エリアE1〜E5のデータは、1つずつ右側にシフトされて、E1に最新のサンプリングデータが記憶される。かかるメモリM1は、たとえばFIFOメモリにより構成できる。
【0029】
メモリM2は、メモリM1に記憶された5つのサンプリングデータd(ti)〜d(ti-4)を小さいもの順にソーティングして並べ変えるためのメモリである。メモリM2にはソーティングされたデータを記憶する記憶エリアE11〜E15が備えられている。小さいもの順にソーティングされたサンプリングデータは、E11から順にE15へとストアされるから、エリアE13に、5つのサンプリングデータの中央値が記憶される。従ってE13のデータが、代表値として出力される。
【0030】
以上の処理をフローチャートで示せば、図9の通りである。
メジアンフィルタについて、数式を用いて説明すると次の通りである。
サンプリングされた測定抵抗値をd(t)とすると、メジアンフィルタでフィルタリングされたデータfdは、次のように表わされる。
【0031】
【数1】
Figure 0004562051
【0032】
ここにtiはi番目のフィルタリング時間窓、Nはd(t)の総データ数、またΦmはサイズm(この実施形態ではm=5)のメジアンフィルタで、次のように示される。
【0033】
【数2】
Figure 0004562051
【0034】
メジアンフィルタによりフィルタリングされたデータの一例を、図10に示す。図10は、図4のA部分の拡大図であり、破線で示すd(t)がサンプリングされた元データ、太い実線で示すfdが、メジアンフィルタでフィルタリングされてノイズ等が除去されたデータである。図10から、メジアン処理によって、ランダムノイズが除去されて、滑らかなデータが得られていることがわかる。
分離フィルタ処理(ステップS3)
分離フィルタによる分離処理は、メジアンフィルタリング後のデータから、真の抵抗値を選別するために必須の処理である。センサライン10の抵抗値を変動させる最も大きな要因は、被削材を切削する際に生じる断続的な短絡と考えられる。つまり、スローアウェイチップ1のコーナ部7は被削材と接触しており、切削時の削り屑にさらされた状態である。このため、センサライン10近傍に削り屑がぶつかったり、溶着したりして、抵抗値が変動する。被削材は、通常、導電性のある金属であるから、その削り屑がコーナ部7に当たったり付着することにより、センサライン10の抵抗値を下げる。
【0035】
一方、切削時間の増加に伴い、コーナ部7の摩耗が進むから、センサライン10の抵抗値は増加していく。このことから、時系列的に与えられるデータのうち、減少方向のデータは偽のデータであり、増加方向のデータが真のデータであると推測できる。そこで、分離フィルタでは、メジアン処理されたデータから、時系列的に減少するデータを分離して除去し、時系列的に増加する抵抗値データだけを選び出す処理をする。つまり、tddをスローアウェイチップの摩耗に伴う真の抵抗値とすると、
【0036】
【数3】
Figure 0004562051
【0037】
となる。Πは分離オペレータである。
図11に、上記分離フィルタにより行われる分離処理のフローチャートを示す。メジアンフィルタでフィルタリングされたデータは、順次、分離フィルタに与えられる。分離フィルタでは、メジアンフィルタからデータfd(ti)が入力されると(ステップS31)、その入力データfd(ti)を1つ前に採用したデータ、すなわちi−1番目に採用したデータfd(ti-1)と比較する(ステップS32)。
【0038】
比較の結果、fd(ti)≧fd(ti-1)であれば(ステップS33でYES)、i番目のデータとして、入力データfd(ti)を採用する(ステップS34)。
一方、ステップS33で、NOであれば、i番目のデータとして、入力データと比較されたデータfd(ti-1)を採用する(ステップS35)。
以上の処理が順次繰り返されて、時系列的に1〜Nのデータが採用される。
【0039】
以上の処理によって、図12に実線で示すデータtddが得られる。図12において、破線で示したのは、図10に示すメジアンフィルタリング後のデータfdである。このデータfdが分離フィルタに通されることにより、実線のデータtddが得られるのである。
カウンタ関数処理(ステップS4)
図1に示すように、スローアウェイチップ1のセンサライン10が3本の細線101,102,103により構成されている場合は、断線した細線数を計数すれば、予めわかっている細線形状および細線数から計測時点での摩耗量が推定できる。つまり断線に伴ってステップ状に増加する抵抗値のステップ数をカウントすればよい。
【0040】
この実施形態のように細線が3本の場合には、図13に示すように、細線が切断するごとに、センサライン10の抵抗値が変化する。すなわち、細線が3本共つながっていて、摩耗していない切削初期は、上述した式(3)から初期抵抗Rが求められる。細線101,102,103の抵抗がすべて等しいと仮定すると、1本ずつ断線するにつれて、図13に示すように、断線した瞬間には、センサライン10の抵抗値は3R/2、3R、∞と変化していく。そこで、これらをしきい値とする。
【0041】
そして分離フィルタから出力される上記式(3)のデータが、上記しきい値を超えた時点で、カウンタを1つずつ増加させれば、カウンタのカウント値によって、センサライン10を構成する細線の断線数を検知することができる。
この処理をフローチャートで示すと、図14となる。図14において、ステップS41では、分離フィルタで処理されたスローアウェイチップ1の真の抵抗値tdd(ti)が時系列的に順に入力される。入力されたデータは、3つのしきい値10R、3Rおよび3R/2と順に比較される。この比較順序は、大きなしきい値から順に行われる(ステップS42,S44,S46)。
【0042】
切削加工の時間が経つに伴い、センサライン10は徐々に摩耗して、その抵抗値が増加していくから、図4の処理においては、ステップS41→S42→S44→S46→リターンの処理が繰り返され、ある時点において、ステップS46でYESと判断される。その結果、カウンタが「+1」される(ステップS47)。そして処理がリターンする。
さらに切削加工時間が経過すると、ステップS44で、抵抗値tdd(ti)がしきい値3Rを超えることが判断される時点がくる。そうすると、カウンタの値がさらに「+1」される(ステップS45)。これにより、カウンタの値は「2」となる。
【0043】
さらに処理が進むと、ステップS42でYESと判断されるときが来、この時点でカウンタが「+1」されて(ステップS43)、カウンタの値は「3」となる。
以上の処理を数式で示すと次の通りである。
すなわち、しきい値をShiとすると、
【0044】
【数4】
Figure 0004562051
【0045】
となるので、ステップ状変化のカウンタ関数をso(ti)とすると、次のような出力が最終的に出る。
【0046】
【数5】
Figure 0004562051
【0047】
カウンタ関数を図4に示すサンプリングデータと一緒に示せば、図15のようになる。図15から、センサライン10の細線101,102,103がほぼ断線したと思われる時点で、カウンタ関数so(ti)が断線数をカウントしていることがわかる。このように、この実施形態に係る信号処理アルゴリズムの有効性は、実験によって確認できた。
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、センサライン10の細線数は3本に限定されるものではなく、任意の数でよい。
【0048】
また、メジアンフィルタにより処理されるサンプリングデータ群の数mは、m=5に限定されるものではなく、3以上の奇数であることが好ましい。また、データ群を偶数で構成することもできる。データ群を偶数で構成した場合は、中央値2つを取り出し、その平均値を代表値として出力する等の処理を行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】損耗センサ付き切削工具の一例としてのスローアウェイチップ1を示す図である。
【図2】この発明の一実施形態にかかる損耗センサ付きスローアウェイチップ1のための信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図3】コンピュータ21により行われる制御の内容を示すフローチャートである。
【図4】サンプリングされた計測データの一例を示す図である。
【図5】メジアンフィルタの処理内容を説明するための図解的な図である。
【図6】メジアンフィルタの処理内容を説明する図解的な他の例を示す図である。
【図7】メジアンフィルタにより処理されるデータ群のシフトを説明するための図である。
【図8】メジアンフィルタを構成する2つのメモリの一例を示す図である。
【図9】図8に示すメモリを用いたメジアン処理を示すフローチャートである。
【図10】メジアンフィルタによりフィルタリングされたデータの一例を示す図である。
【図11】分離処理の具体的な処理内容を示すフローチャートである。
【図12】分離処理により得られたデータの一例を示す図である。
【図13】センサラインが切断するごとの抵抗値の変化を説明するための図である。
【図14】カウンタ関数処理の具体的な処理内容を示すフローチャートである。
【図15】カウンタ関数をサンプリングデータと一緒に示した図である。
【符号の説明】
1 スローアウェイチップ
5 逃げ面
6 切刃稜
7 コーナ部
10,101,102,103 センサライン
13 ホルダ
20 ディジタルマルチメータ
21 コンピュータ

Claims (5)

  1. 導電性金属を切削する切削工具の刃先に切削による摩耗や折損を検知するセンサが設けられた損耗センサ付き工具のための信号処理装置であって、
    損耗センサの出力を所定のサンプリング周期ごとにサンプリングして計測データを得る手段と、
    得られた計測データからノイズを除去するノイズ除去手段と、
    ノイズが除去されたデータから、時系列的に減少する抵抗値データを分離して除去し、時系列的に増加する抵抗値データだけを選び出すデータ分離処理手段と、
    離された抵抗値データに基づいて、損耗センサ付き切削工具の摩耗量や折損を判定する手段と、を含み、
    前記損耗センサは、切削工具の逃げ面の表面上に切刃稜に沿って平行に延びる複数本のセンサラインを含み、
    前記判定手段は、前記処理データをセンサラインの数と対応づけることにより、切削工具の摩耗量や折損を判定することを特徴とする信号処理装置。
  2. 前記ノイズ除去手段は、サンプリングされた所定数のデータ群ごとの中央値を出力するメジアン処理手段を含むことを特徴とする、請求項1記載の信号処理装置。
  3. 前記寿命判定手段は、処理データの初期データから複数本のセンサラインによって得られる初期抵抗値を検知し、前記センサラインが1本切れるごとに増加する抵抗しきい値を決め、処理データが抵抗しきい値を超えるごとに、切断したセンサラインの数が増加したことを出力することを特徴とする、請求項1または2記載の信号処理装置。
  4. 前記損耗センサ付き切削工具は、損耗センサが設けられたスローアウェイチップと、そのスローアウェイチップを保持するホルダとを有し、スローアウェイチップの摩耗量や折損が検知できることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の信号処理装置。
  5. 導電性金属を切削する切削工具の刃先に切削による摩耗や折損を検知するセンサが設けられた損耗センサ付き工具のための信号処理方法であって、
    損耗センサの出力を所定のサンプリング周期ごとにサンプリングする工程、
    サンプリングしたデータからノイズを除去する工程、
    ノイズが除去されたデータから、時系列的に減少する抵抗値データを分離して除去し、時系列的に増加する抵抗値データだけを選び出すデータ分離処理工程、
    離された抵抗値データに基づいて、損耗センサ付き切削工具の摩耗量や折損を判定する工程、を包含し、
    前記損耗センサは、切削工具の逃げ面の表面上に切刃稜に沿って平行に延びる複数本のセンサラインを含み、
    前記処理データとして、時系列的に段階的に増加し、その増加がセンサライン数に対応された処理データを得ることを特徴とする方法。
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