JP4560925B2 - ミシン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は糸を針の目穴に自動的に通す糸通し装置を有するミシンに関する。
【0002】
【従来の技術】
裁縫の際には、煩わしい作業は針の目穴に糸を通すことである。そこで、従来、目穴を有する針が取り付けられる針留をもつ針棒と、糸を針の目穴に通す糸通し装置とを有するミシンが提供されている(特開平4−64386号公報)。上記公報に係る糸通し装置は、昇降可能に設けられた操作レバー部と、操作レバー部の操作に応じて退避位置と糸通し位置との間を上下動される支持体と、支持体の回動に伴い針の目穴に挿入されるフック部と、糸のうち使用者の指先が把持している把持部分と糸掛部との間の途中の糸部分を補足してフック部に掛ける準備状態に糸を保持するガイド片とを有する。
【0003】
このものによれば、針の目穴に糸を自動的に通すことができるため、裁縫作業が楽になるという利点を有する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記した特開平4−64386号公報の技術によれば、糸通しの際には、操作レバー部の操作と、指先で糸を把持する操作との双方が同時に必要とされる。このため糸通しの際には、使用者の両手による同時操作が必須とされ、必ずしも操作性が良好なものではない。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、糸通しの際に使用者の両手の同時操作が必須とされず、操作性が良好な糸通し装置をもつミシンを提供することを課題とするにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るミシンは、目穴を有する針が取り付けられる針留をもつ針棒と、針棒を保持する針棒腕と、糸を針の目穴に通す糸通し装置とを有するミシンにおいて、
糸通し装置は、針棒に直接的にまたは間接的に設けられ針棒側に位置する糸を掛ける針棒糸掛け部と、糸のうち針棒から離れた位置の糸部分を把持すると共に把持解除可能に設けられた1組の挟持部材と挟持部材を挟持方向に付勢する付勢部材とを有する糸把持部と、
糸把持部に連設され糸の把持を解除させる方向に糸把持部を移動させるためのカム従動子と、
回動可能に設けられ、針棒糸掛け部に掛けられると共に糸把持部に把持されている糸を回動に伴い水平方向に沿って保つ糸ガイド体と、
回動可能に設けられ、針の目穴に挿入可能なフック部をもち、一方向への回動に伴いフック部を針の目穴に挿入して糸に係合可能な係合位置とし、逆方向への回動に伴い、糸を係合した状態のフック部を針の目穴から離脱させて糸を針の目穴に通し、且つ、一方向および逆方向への回動に伴いカム従動子を移動させる糸通しフック体と、
糸通しフック体のフック部が逆方向に回動する際に糸把持部の糸部分の把持を解除するようにカム従動子を案内させるカム面をもつワンウェイ式のカム部と、
糸ガイド体の回動、糸通しフック体の回動、糸通しフック体の逆方向の回動、カム部の作動を連動させる操作レバー部とを有しており、
カム部のカム面はエンドレス状をなしており、糸通しフック体が一方向に移動するとき初期位置のカム従動子を案内させる円弧溝部と、糸通しフック体が逆方向に回動するとき円弧溝部を通過したカム従動子を案内させる直線溝部と、初期位置にあるカム従動子を直線溝部よりも円弧溝部に優先的に案内させる段部とを有しており、
直線溝部は、糸通しフック体が逆方向に回動するとき糸把持部の挟持部材による糸の把持を解除させる方向にカム従動子を案内させる登り坂面と、登り坂面に続くと共に糸把持部の挟持部材による糸の把持を解除している状態に維持させるようにカム従動子を案内させる上昇面とを有することを特徴とするものである。
【0007】
使用者が操作レバー部を操作すれば、糸ガイド体の回動、糸通しフック体の回動、糸通しフック体の逆方向の回動、カム部の作動が自動的に行われ、針の目穴に糸が自動的に通される。殊に、カム部の作動により、糸把持部の把持作用が解除されるため、フック部に糸が良好に掛けられる。
【0008】
カム部のカム面は、糸通しフック体が一方向に移動するとき初期位置のカム従動子を案内させる円弧溝部と、糸通しフック体が逆方向に回動するとき円弧溝部を通過したカム従動子を案内させる直線溝部と、初期位置にあるカム従動子を直線溝部よりも円弧溝部に優先的に案内させる段部とを有する。ここで、直線溝部は登り坂面と上昇面とを有する。登り坂面は、糸通しフック体が逆方向に回動するとき、糸把持皿による糸の把持を解除させる方向にカム従動子を案内させる。上昇面は、登り坂面に続くと共に、糸把持皿による糸の把持を解除している状態に維持させるようにカム従動子を案内させる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のミシンによれば、次の形態の少なくとも一を採用できる。
・軸芯をもち針棒腕に軸芯回りで回動可能に設けられ糸通しフック体を保持する糸通し棒と、糸通し棒の軸芯回りの回動に伴い糸通しフック体に連動し、糸通しフック体と逆方向に糸ガイド体を回動させる歯車機構とが設けられている形態を採用できる。この場合、操作レバー部の操作に伴い、糸通し棒をこれの軸芯回りで回動させることにより、糸通しフック体及び糸ガイド体を互いに逆方向に回動させ、以て糸通しフック体のフック部を針の目穴に挿入する形態を採用できる。糸通しフック体の回動及び糸ガイド体の回動を同期させることができる。
・糸を水平方向に沿って保つための糸ガイド体の回動速度を、糸通しフック体の回動速度よりも速くする増速機構を有する形態を採用できる。この場合には、糸ガイド体の回動速度が確保されるため、回動前の初期位置における糸ガイド体を針の位置からできるだけ遠ざけることができ、針付近のスペースを広くするのに貢献できる。
・糸把持部の把持解除を行うカム従動子が設けられている。この場合、カム部は、カム従動子が走行すると共に走行に伴い糸把持部の把持解除を行うカム面を有する。従って、操作レバー部の操作に伴い、カム面に沿ってカム従動子を作動させて、糸把持部の把持作用を解除し、糸把持部による糸把持を解除することができる。
・操作レバー部が操作されると、操作に連動させて糸通しフック体のフック部を糸通し方向に回動させる回動カム部が設けられている形態を採用できる。この場合、操作レバー部の操作が解除されると、回動カム部を逆動させて糸通しフック体のフック部を逆方向に回動させて初期位置に戻すバネを有することができる。
・糸把持部は、糸を挟持する1組の挟持部材と、挟持部材を挟持方向に付勢するバネ等の付勢部材とを有する形態にできる。この場合、カム部のカム作用により、挟持部材による挟持が解除され、ひいては把持解除作用が行われる。
・針棒糸掛け部の糸掛け高さと、糸把持部による糸掛け高さとはほぼ同じ程度が好ましい。この場合、フック部に引っかかる前の状態の糸を水平に沿って保つのに有利である。
【0010】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照してより具体的に説明する。図1は糸通し装置の初期位置を示す。図2は糸通し装置の作動の進行途中を示す。図3は糸通し装置の作動の進行終期を示す。図4は糸通し装置の要部構造を示す。図5は糸通しフック体13の平面形態を示す。図6は糸把持部25による把持を解除するためのカム部21の斜視図を示す。図7はカム部21の円弧溝部付近を示す。図8はカム部21の直線溝部付近を示す。図9は図1に示す状態の平面図を示す。図10は図2に示す状態の平面図を示す。図11は図3に示す状態の平面図を示す。図12は図11の矢印X12方向から見た状態の図を示す。図13は針7の目穴7Aにフック部20が挿入された状態を示す。
【0011】
本実施例においては、図1に示すように、針棒腕1は家庭用ミシンの機枠(図示せず)に対し揺動可能に取付けられている。針棒腕1は部位1a、1b、1c、1dを有する。ミシンの機枠内に回転可能に配置されている上軸50で駆動されるクランク機構60により、針棒抱き3を介して、縦長の針棒2が上下往復運動可能に設けられている。針棒2の高さ方向の中央域には、ストッパ部4Aを有するストッパ4が装着されている。ストッパ4の下方に針棒抱き3が配置されている。針棒2の下端部には、ねじ5cをもつ針留5が装着されている。針留5には、上糸である糸24を掛けるための針棒糸掛け部6が設けられている。針留5には針7が着脱可能に固着されている。
【0012】
針棒腕1の部位1a、1cには、針棒2に対し平行な縦軸型の糸通し棒9が装着されている。糸通し棒9は針棒腕1に対して上下動可能に設けられている。また糸通し棒9はこれの軸芯P1の回りで回動可能に針棒腕1に設けられている。糸通し体8は部位8f、8hをもつ。部位8f、8hと糸通し棒9とを嵌合することにより、糸通し体8が糸通し棒9に対して昇降可能に取り付けられている。糸通し体8の上部には螺旋状に沿った溝カム形状の回動カム部8Aが形成されている。回動カム部8Aは下端8A1及び上端8A2をもつ。糸通し体8は、これの下部に使用者の指先で押圧操作される操作レバー部8Bを有する。
【0013】
糸通し棒9の軸長方向の中間域には、回動操作子である回動ピン10が糸通し棒9に対し直交するように固定されている。回動ピン10の一端10hがストッパ4のストッパ部4Aに当接可能となるように、また回動ピン10の他端10mが糸通し体8の螺旋状の回動カム部8Aに当接可能となるように、回動ピン10の長さは設定されている。
【0014】
糸通し体8の座部8xと針棒腕1の部位1dの座部1xとをつなぐコイル状の糸通しバネ11が装着されている。糸通し前の初期位置においては、糸通しバネ11により糸通し体8は上方へつまり矢印Y1方向に持ち上げられている。糸通し棒9の回動ピン10と糸通し体8の部位8fとの間に、コイル状の糸通し棒バネ12が装着されている。糸通し棒バネ12は糸通し体8に対し糸通し棒9を下方つまり矢印Y2方向に付勢して押し下げている。糸通し棒バネ12のバネ力は糸通しバネ11のバネ力よりも強いため、図1に示す初期位置においては回動ピン10は溝カム部8Aの下端8A1に位置している。使用者が指先で糸通し体8の操作レバー部8Bを下方つまり矢印Y1方向に押し下げたとき、初期動作として糸通し体8と糸通し棒9が一体で移動し、図2に示すように回動ピン10の一端10hがストッパ4のストッパ部4Aに当接する。図2に示すように当接した時点では、糸通し棒9のそれ以上の下降は停止される。上記したように当接した時点から、糸通し体8の操作レバー部8Bの更なる押圧操作により、糸通しバネ11のバネ力に抗しつつ、糸通し体8が更に下方つまり矢印Y2方向に移動すると、糸通し体8の部位8fが下降するため糸通し棒バネ12が縮められはじめ、且つ、回動ピン10が糸通し体8の回動カム部8Aに沿って移動する。これにより回動ピン10が軸芯P1の回りで回動し、糸通し棒9が時計方向つまり矢印K1方向(図9参照)に向けて回動する。使用者が糸通し体8の操作レバー部8Bに加えていた力を緩めると、糸通し棒バネ12の弾性復帰作用と糸通し体8の回動カム部8Aのカム作用とによって、糸通し棒9が反時計方向つまり矢印K2方向(図9参照)に軸芯P1を中心として回動すると共に、糸通し体8が糸通し棒9と一体となって糸通しバネ11のバネ力により矢印Y1方向に上昇し、糸通し体8と糸通し棒9とが図1に示す初期位置にひきもどされる。
【0015】
図4に示すように、糸通し棒9の下端部には糸通しフック体13が固定されている。図9に示すように糸通し棒9及び糸通しフック体13は軸芯P1を中心として矢印K1,K2方向に一体回転する。糸通しフック体13を構成する1組の板部13xに、フック部20がカシメ挟持されて固定されている。板部10xの先端側にはフックガイド27が形成されている。図12に示すように、フック部20は、針7の目穴7Aに挿入されるほどの薄肉であり、糸24を係止する係止孔20mと先端傾斜面20nとをもつ。
【0016】
図5に示すように、糸通しフック体13は、糸通し棒9の下端部に固定され糸通し棒9と一体回転する基部13Dと、基部13Dから横方向に延びる腕部13Aとをもつ。回動子13tにより腕部13は基部13Dに対して矢印W4方向に変位可能とされている。腕部13Aには、腕部13Aに沿った長穴部13Bが形成されている。腕部13Aには摺動可能に取付けられた一方向作動式つまりワンウェイ式のカム部21が設けられている。このワンウェイ式のカム部21は、カム従動子として機能する後述する突部17Aが走行可能に嵌合する溝形状のカム面22をもつ。カム面22は、図6に示すように、円弧状に延びる円弧溝部22Aと、直線状に延びる直線溝部22Bと、突部17Aの逆回りを防止する段部22Cと、円弧溝部22A及び直線溝部22Bを切り替える切替位置22Eとを有する。円弧溝部22Aの断面形状は図7に示す状態とされている。図7に示すように、円弧溝部22Aはカム部溝底面22A1を有する。直線溝部22Bの断面形状は図8に示す状態とされている。図8に示すように直線溝部22Bは、登り坂面22F1と、これと連設された平坦な上昇面22F2とを有する。
【0017】
図9において、糸通し棒9の下端部には、糸ガイド体14が糸通し棒9の軸芯P1の回りで矢印M1、M2方向に空転できるように組付けられている。従って糸ガイド体14は糸通し棒9に対して逆方向に軸芯P1の回りで相対回動可能である。糸ガイド体14は糸24をガイドするガイド部14Bをもつ。糸ガイド体14には外歯状のギア部14Aが一体的に設けられている。ギア部14Aは糸通し棒9の軸芯P1の回りで回動可能である。
【0018】
図4において、糸通し体8の部位8s、8tには、糸通し棒9に対し平行な位置に補助糸通し棒15が軸芯P2回りで回動可能となるように取付けられている。補助糸通し棒15は縦軸型の軸芯P2を有する。補助糸通し棒15の下端部には仲介ギア16が固定されている。仲介ギア16は補助糸通し棒15の軸芯P2を中心として回動する。図4に示すように、仲介ギア16は、外歯状のギア部16Wを有し、更に横方向に延設された腕部16Kを有する。腕部16Kは、突起16A1を有する嵌合ピン16Aをもつ。仲介ギア16の嵌合ピン16Aは、糸通しフック体13の腕部13Aの長穴部13Bに長穴部13Bに沿って変位可能に嵌入されている。
【0019】
補助糸通し棒15の下端部には、水平な糸把持面17rをもつ糸把持皿17が組付けられている。図4に示すように、糸把持皿17は補助糸通し棒15の軸芯P2の回りで回動可能であり、且つ、補助糸通し棒15に沿って上下方向つまり矢印Y1、Y2方向に摺動可能とされている。糸把持皿17は、カム従動子として機能する下方に突出する突部17Aをもつ。補助糸通し棒15にEリング18が取付けられている。Eリング18と糸把持皿17との間には、コイル状の糸把持バネ19が補助糸通し棒15と同軸的に組付けられている。糸把持バネ19は糸把持皿17を常に下方つまり矢印Y2方向、換言すれば、糸把持方向に付勢している。
【0020】
糸把持皿17の下部に突設されたカム従動子として機能する突部17Aは、糸把持バネ19のバネ力により、カム部21のカム面22に付勢されて当接している。即ち、図5に示すように、糸把持皿17の突部17Aは、ワンウェイ式のカム部21の円弧溝部22Aまたは直線溝部22Bに嵌入しており、カム面22の凹凸形状を拾い、これに伴い糸把持皿17が矢印Y1、Y2方向に上下動する。
【0021】
本実施例に係る糸把持部25は糸を挟持して把持できるものであり、仲介ギア16の腕部16Kと糸把持皿17とで構成されている。即ち、図4から理解できるように、付勢部材としての糸把持バネ19のバネ力により糸把持皿17が下方向つまり矢印Y2方向に付勢されているため、仲介ギア16の腕部16Kの糸把持面16rと糸把持皿17の糸把持面17rとの間に糸24の糸部分24cを水平方向に沿って滑り込ませると、糸部分24cを腕部16Kの糸把持面16rと糸把持皿17の糸把持面17rとで把持することができる。従って、腕部16K、糸把持皿17は、糸24の糸部分24cを挟持して把持する1組の挟持部材として機能できる。
【0022】
図9に示すように、仲介ギア16のギア部16Wと糸ガイド体14のギア部14Aとが噛み合って歯車機構を構成している。ここで、糸通しフック体13が矢印K1方向に回動すると、糸通しフック体13の腕部13Aが軸芯P1を中心として矢印K10方向(=矢印K1方向)に回動するため、腕部13Aの長穴部13Bも同方向に回動する。このため、長穴部13Bに嵌合している嵌合ピン16A及び腕部16Kを介して仲介ギア16が軸芯P2を中心として矢印R1方向に回転する。すると、糸ガイド体14のギア部14Aが軸芯P1を中心として矢印R2方向に回動する。即ち、糸ガイド体14は軸芯P1を中心として、糸通しフック体13の回動方向(矢印K1方向)に対して逆方向(矢印M1方向)に回動する。
【0023】
ワンウェイ式のカム部21の作用について更に説明を加える。即ち、糸把持皿17の突部17A(カム従動子)はカム部21のカム面22の形状に沿って移動するが、突部17Aの初期位置は図5に示したような初期位置T1にある。糸通しフック体13が軸芯P1を中心として矢印K1方向に回動を始めると、それに伴い糸通しフック体13の腕部13Aが軸芯P1を中心として矢印K10方向(=矢印K1方向)回動し始め、糸把持皿17の突部17A(カム従動子)がワンウェイ式のカム部21のカム面22に沿って走行する。このとき、カム部21の直線溝部22Bに設けられた段部22C(図6参照)によって突部17A(カム従動子)の進行が妨げられるため、突部17A(カム従動子)は自動的に円弧溝部22Aの方へつまり矢印T2方向(図5参照)に沿って移動する。このときカム部21は矢印W4方向(図5参照)に沿って適宜変位できる。さらに、糸通しフック体13の矢印K1方向への回動終了時点では、突部17Aがカム面22の切替位置22Eに到達しており、糸通し体8は下死点にきている。次に、操作レバー部8Bの押圧操作が解除されるので、糸通し棒バネ12のバネ反力によって糸通しフック体13が逆方向つまり矢印K2方向(図9参照)に回動を始め、それに伴い突部17Aもカム面22の直線溝部22Bへ移動する。この結果、突部17Aが直線溝部22Bの登り坂面22F1を登り走行し、上昇面22F2に至る。この結果、カム従動子として機能する突部17Aが矢印Y1方向に持ち上げられ、ひいては突部17Aをもつ糸把持皿17が矢印Y1方向に持ち上げられ、糸把持部25による糸24の把持作用が解除される。
【0024】
しかして、糸24を針7の目穴7Aに通す場合について説明を加える。まず、針棒2が上死点付近にあることを確認する。そして図示しない糸駒から各ガイド部を経た上糸である糸24を指先で摘み、針棒2の針留5の針棒糸掛け部6にガイドする。更に図1に示すように、糸24を糸ガイド体14のガイド部14Bに引っ掛ける。更に、仲介ギア16と糸把持皿17とで構成された糸把持部25に糸24を差し込むことにより、糸24の糸部分24cを糸把持部25に挟み込む。これにより糸24のうち針棒2側は針留5の針棒糸掛け部6に掛けられていると共に、糸24のうち針棒2から離れた糸部分24cは糸把持部25に把持されている。
【0025】
上記したように糸24を針留5の針棒糸掛け部6に掛けると共に、糸24のうち針棒2から離れた糸部分24cを糸把持部25に把持した状態で、図1において、作業者が糸通し体8の操作レバー部8Bを指先で下方つまり矢印Y2方向に押し下げる。すると、糸通しバネ11のバネ力に抗して糸通し体8が矢印Y2方向に下降する。この場合、糸通し体8と糸通し棒9に取付けられた糸通し装置全体は、針棒2に対してほぼ平行に下降する。
【0026】
糸通し装置全体がある程度下降すると、図2に示すように、糸通し棒9に嵌入された回動ピン10が、針棒2のストッパ4のストッパ部4Aに当接し、回動ピン10および回動ピン10をもつ糸通し棒9のそれ以上の下降が妨げられる。しかし、使用者が指先で糸通し体8の操作レバー部8Bを更に押し下げると、糸通し体8の部位8fで押圧された糸通し棒バネ12が弾性収縮され、糸通し棒バネ12にバネ力が蓄積される。そして、糸通し棒バネ12のバネ力に抗して糸通し体8が更に矢印Y2方向に下降する(図3参照)。このとき、糸通し回動ピン10の他端10mは糸通し体8の回動カム部8Aに係合しており、しかも(図示しないが)回動カム部8Aのカム溝は螺旋状に沿っているため、糸通し体8が回動カム部8Aと共に下降することにより、回動ピン10は回動ピン10をもつ糸通し棒9と共に糸通し棒9の軸芯P1を中心に一体的に時計方向つまり矢印K1方向(図9参照)に回動する。
【0027】
ここで、使用者が指先で糸通し体8の操作レバー部8Bを更に押し下げ、糸通し体8が下死点に到達したときには、フック部20の高さ位置が針7の目穴7Aの高さ位置と同一になるように、ストッパ4の高さ位置は設定されている。
【0028】
上記したように使用者が糸通し体8の操作レバー部8Bを押圧操作して糸通し体8を矢印Y1方向に押し下げるときには、回動ピン10と共に糸通し棒9は軸芯P1の回りで時計方向つまり矢印K1方向(図9参照)に回動する。この結果、糸通し棒9に下端に固着された糸通しフック体13も時計方向つまり矢印K1方向(図9、図10、図11参照)に回動し、図11及び図13に示すように糸通しフック体13のフック部20が針7の目穴7Aに挿入される。
【0029】
一方、糸通しフック体13の後端側に連設されている腕部13Aも軸芯P1を中心として同様に時計方向(矢印K10=矢印K1方向)に回動する。このため、腕部13Aの長穴部13Bに嵌合している嵌合ピン16A及び腕部16Kにより、仲介ギア16は同じく時計方向(矢印R1方向)に回動する。仲介ギア16のギア部16Wと糸ガイド体14のギア部14Aとのギア比は、1:1とされているため、糸ガイド体14のギア部14は、軸芯P1を中心として、仲介ギア16と同じ回動角度で反時計方向(矢印R2方向)に回動する。
【0030】
この場合、仲介ギア16は増速される。即ち、図11において、仮想線V1は、糸通し棒9の未回動時における回動中心である軸芯P1と嵌合ピン16Aの中心とを結ぶ。仮想線V2は、糸通し棒9の回動終了時における軸芯P1と嵌合ピン16Aの中心とを結ぶ。ここで軸芯P1を中心として回動する糸通しフック体13の腕部13Aの回動角度はθAである。軸芯P2を中心として回動する仲介ギア16の腕部16Kの回動角度はθBである。図11に示すように、回動角度θBは回動角度θAよりもかなり大きい(θB>θA)。故に、仲介ギア16の腕部16Kは糸通しフック体13の腕部13Aよりも回動角度が大きい。従って、仲介ギア16の腕部16Kに連設されているギア部16Wは、多めに回動する。つまりギア部16Wは増速される。このようにように仲介ギア16のギア部16Wが増速されることになり、ひいてはギア部16Wと噛み合って同期回転する糸ガイド体14のギア部14Aも増速される。上記したように糸ガイド体14のギア部14Aを増速できる場合には、初期位置における糸ガイド体14を針4の位置から矢印M2方向に向けてできるだけ遠ざけることができ、針4付近のスペースを広くするのに貢献でき、裁縫作業に有利となる。
【0031】
本実施例においては、上記した仲介ギア16のギア部16Wの回転により、ギア部14Aを有する糸ガイド体14は軸芯P1の回りで反時計方向つまり矢印M1方向(図9参照)に回動する。糸ガイド体14の矢印M1方向への回動が進むと、糸ガイド体14のガイド部14Bは、始動位置S1から、針7よりも右側の回動位置S2(図11参照、図3参照)に位置するようになる。この結果、糸ガイド体14のガイド部14Bに掛けられている糸24は、図3及び図4に示すように、針7の目穴7Aの前面でほぼ水平に保たれる。
【0032】
本実施例においては、上記したように糸24が針7の目穴7Aの前面でほほぼ水平に保たれた直後に、糸通しフック体20が矢印K1方向に回動して係合位置S3に至っても良い。あるいは、糸通しフック体20が矢印K1方向に回動して係合位置S3に至った直後に、糸ガイド体14のガイド部14Bに掛けられている糸24がほぼ水平に保たれる形態としても良い。あるいは、同時タイミングでも良い。
【0033】
本実施例では、図12において、糸24が矢印M1方向に移送されてきたとき、糸通しフック体13のフックガイド27の先端側の傾斜案内面で形成されているガイド27xに沿って、または、フック部20の先端傾斜面20nに沿って、糸24はフック部20側に案内される。即ち、糸24をフック部20の係止孔20mに対面するように案内することが可能となる。この場合、図12に示すように、針7の目穴7Aを通り係合位置S3に到達したフック部20は、糸24に係合可能となる。
【0034】
次に、図3に示す状態において、使用者が糸通し体8の操作レバー部8Bから指先を放すと、弾性収縮されていた糸通し棒バネ12のバネ反力により糸通し体8が回動カム部8Aと共に矢印Y1方向に上昇を開始する。よって糸通し体8の螺旋状の回動カム部8Aのカム部作用により、糸通しフック体13がフック部20と共に糸通し棒9の軸芯P1の回りで反時計方向つまり矢印K2方向(図11参照)に回動すると共に、糸ガイド体14が矢印M2方向に回動する。これにより係合位置S3のフック部20が矢印K2方向に後退するため、フック部20が目穴7Aを通り、目穴7Aから矢印K2方向に離脱する。換言すると、図12に示す状態のフック部20が糸24を引っ掛け、糸24を引っ掛けた状態のフック部20が針7の目穴7Aを通り、矢印K2方向に沿って目穴7Aから離脱する。
【0035】
本実施例においては、上記したように糸24を引っ掛けたフック部20が逆方向(矢印K2方向)に回動するときには、図8に示すように、ワンウェイ式のカム部21のカム面22に係合した糸把持皿17の突部17Aが、カム面22の登り坂面22F1を矢印W5方向に登って、上昇面22F2に乗り上げるため、糸把持皿17が矢印Y1方向に持ち上げられる。この結果、糸把持部25による糸24の糸部分24cの把持は、解除される。このように糸24の糸部分24cの把持が自動的に解除されるため、糸24を引っ掛けた状態のフック部20が針7の目穴7Aを通り、目穴7Aから容易に離脱することができる。
【0036】
さらに、使用者が糸通し体8の操作レバー部8Bから指先を放した場合には、糸通し棒バネ11のバネ反力により糸通し体8が矢印Y1方向に上昇し、回動ピン10を持ち上げるため、回動ピン10をもつ糸押し棒9が上昇し、フック部20も矢印Y1方向に上昇を始めるが、糸24の糸部分24cの把持は解除されているため、フック部20から糸24が簡単に外れる。この状態では、針7の目穴7Aに糸24が通されていると共に、目穴7Aの後方に適度な大きさの糸ループが形成されている。
【0037】
以上説明したように本実施例においては、使用者が操作レバー部8Bを操作すれば、糸ガイド体14の回動、糸通しフック体13の矢印K1方向への回動、糸通しフック体13の逆方向である矢印K2方向への回動、カム部21の作動が自動的に行われ、針7の目穴7Aに糸24が通される。そして、針7の目穴7Aに糸24が通された後には、糸把持部25の把持は自動的に解除される。
【0038】
従って本実施例においては、糸通しの際には、上糸である糸24を針棒糸掛け部6に掛けると共に、糸24のうち針棒2から離れた糸部分24cを糸把持部25に把持しておけば、使用者は指先で操作レバー部8Bを矢印Y2方向に押圧操作すれば、針7の目穴7Aに糸24を自動的に通すことができる。よって、使用者は操作レバー部8Bを指先で操作するだけで足り、上記した従来公報技術とは異なり、使用者の両手の同時操作を必須とされず、糸通し作業の操作性が良好となる。
【0039】
本実施例においては、針棒糸掛け部6の高さと糸24を把持するための糸把持部25の高さとがほぼ同一であるため、ほぼ真横へ糸24を水平方向に沿って保つことができ、糸24の掛け間違いがなくなるようにできる。更に糸ガイド体14のガイド部14Bの高さ位置も、針棒糸掛け部6の高さ位置と糸把持部25の高さ位置とがほぼ同一であるため、糸24をほぼ真横へを水平方向に沿って保つのに一層有利となる。
【0040】
また糸把持部25においては、糸24を把持すべきタイミングと、把持を解除すべきタイミングとがある。糸把持皿17の開閉をカム部21のカム面22の凹凸によって達成し、糸把持部25の把持解除を自動で行なうことができる。
【0041】
また本実施例においては、糸通しフック体13のフック部20へ糸24を引っかけるために糸24を水平方向に沿って保つための糸ガイド体14を、糸通しフック体13の回動方向に対して逆方向に回動させる構造は、仲介ギア16を用いた歯車機構によって達成されている。このような歯車機構を用いたことにより、糸通し装置全体の省スペース化も達成するのに有利となる。よって、外観の形状を損なうことなく新種類のミシンのみならず、現有機種のミシンへの展開も用途なる。
【0042】
(その他)
上記した実施例において部材が設けられている位置、形状、移動方向等は、上記した実施例のみの形態に限定されるものではなく、適宜変更できる。上記した実施例において、糸通しの際には使用者は指先で操作レバー部8Bを下方つまり矢印Y2方向に押圧操作するように設定されているが、これに限られるものではなく、場合によっては、糸通しの際に操作レバー部を上方に操作することにしても良い。上記した実施例における各バネはコイル形状に限定されるものでなく、場合によっては板バネ等でも良く適宜選択できる。なお上記した実施例は上記し且つ図面に示す実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるる。本実施例に記載の部材の形容は例示であり、一部であっても各請求項に記載できるものである。
【0043】
【発明の効果】
本発明にミシンによれば、使用者が操作レバー部を操作すれば、糸ガイド体の回動、糸通しフック体の回動、糸通しフック体の逆方向の回動、カム部の作動が行われ、針の目穴に糸が通される。殊に、カム部が作動して糸把持部の把持作用を自動的に解除できる。従って、糸通しの際に使用者の両手による同時操作が必須とされず、糸通しの操作性が良好となる。
【0044】
本発明にミシンによれば、カム部のカム面は、糸通しフック体が一方向に移動するとき初期位置のカム従動子を案内させる円弧溝部と、糸通しフック体が逆方向に回動するとき円弧溝部を通過したカム従動子を案内させる直線溝部と、初期位置にあるカム従動子を直線溝部よりも円弧溝部に優先的に案内させる段部とを有する。直線溝部は、糸通しフック体が逆方向に回動するとき糸把持部の挟持部材による糸の把持を解除させる方向にカム従動子を案内させる登り坂面と、登り坂面に続くと共に糸把持部の挟持部材による糸の把持を解除している状態に維持させるようにカム従動子を案内させる上昇面とを有する。これにより糸把持部の挟持部材による糸の把持を良好に解除させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】糸通し装置の初期位置であり、糸通し体がこれの上昇端に到達している形態を示す断面図である。
【図2】糸通し装置の作動の進行途中を示す断面図である。
【図3】糸通し装置の作動の進行終期となり、糸通し体がこれの下降端に到達している形態を示す断面図である。
【図4】糸通し装置の要部構造を示す断面図である。
【図5】糸通しフック体の平面形態を示す構成図である。
【図6】糸把持部による把持を解除するためのカム部の要部の斜視図である。
【図7】カム部の円弧溝部付近の断面図である。
【図8】カム部の直線溝部付近の断面図である。
【図9】糸通し装置の初期位置であり、糸通し体がこれの上昇端に到達している形態を示す断面図であり、図1に示す状態の平面図である。
【図10】糸通し装置の作動の進行途中を示す断面図であり、図2に示す状態の平面図である。
【図11】糸通し装置の作動の進行終期となり、糸通し体がこれの下降端に到達している形態を示す断面図であり、図3に示す状態の平面図である。
【図12】図11の矢印X12方向から見た状態の構成図である。
【図13】針の目穴にフック部が挿入された状態を示す平面図である。
【符号の説明】
図中、1は針棒腕、2は針棒、4はストッパ、4Aはストッパ部、6は針棒糸掛け部、7は針、7Aは目穴、8は糸通し体、8Aは回動カム部、8Bは操作レバー部、10は回動ピン、11は糸通しバネ、12は糸通し棒バネ、13は糸通しフック体、14は糸ガイド体、16は仲介ギア、16Aは嵌合ピン、17は糸把持皿、17Aは突部(カム従動子)、19は糸把持バネ、20はフック部、21はカム部、22はカム面、22Aは円弧溝部、22Fは直線溝部、24は上糸、25は糸把持部、27はフックガイドをそれぞれ示す。
Claims (2)
- 目穴を有する針が取り付けられる針留をもつ針棒と、前記針棒を保持する針棒腕と、糸を針の目穴に通す糸通し装置とを有するミシンにおいて、
前記糸通し装置は、
前記針棒に直接的にまたは間接的に設けられ前記針棒側に位置する糸を掛ける針棒糸掛け部と、
糸のうち前記針棒から離れた位置の糸部分を把持すると共に把持解除可能に設けられた1組の挟持部材と前記挟持部材を挟持方向に付勢する付勢部材とを有する糸把持部と、
前記糸把持部に連設され糸の把持を解除させる方向に前記糸把持部を移動させるためのカム従動子と、
回動可能に設けられ、前記針棒糸掛け部に掛けられると共に前記糸把持部に把持されている糸を回動に伴い水平方向に沿って保つ糸ガイド体と、
回動可能に設けられ、針の目穴に挿入可能なフック部をもち、一方向への回動に伴い前記フック部を針の目穴に挿入して糸に係合可能な係合位置とし、逆方向への回動に伴い、糸を係合した状態の前記フック部を針の目穴から離脱させて糸を針の目穴に通し、且つ、前記一方向および前記逆方向への回動に伴い前記カム従動子を移動させる糸通しフック体と、
前記糸通しフック体の前記フック部が逆方向に回動する際に前記糸把持部の前記挟持部材による糸部分の把持を解除するように前記カム従動子を案内させるカム面をもつワンウェイ式のカム部と、
前記糸ガイド体の回動、前記糸通しフック体の回動、前記糸通しフック体の逆方向の回動、前記カム部の作動を連動させる操作レバー部とを有しており、
前記カム部の前記カム面はエンドレス状をなしており、前記糸通しフック体が前記一方向に移動するとき初期位置の前記カム従動子を案内させる円弧溝部と、前記糸通しフック体が前記逆方向に回動するとき前記円弧溝部を通過した前記カム従動子を案内させる直線溝部と、初期位置にある前記カム従動子を前記直線溝部よりも前記円弧溝部に優先的に案内させる段部とを有しており、
前記直線溝部は、前記糸通しフック体が前記逆方向に回動するとき前記糸把持部の前記挟持部材による糸の把持を解除させる方向に前記カム従動子を案内させる登り坂面と、前記登り坂面に続くと共に前記糸把持部の前記挟持部材による糸の把持を解除している状態に維持させるように前記カム従動子を案内させる上昇面とを有することを特徴とするミシン。 - 請求項1において、軸芯をもち前記針棒腕に軸芯回りで回動可能に設けられ前記糸通しフック体を保持する糸通し棒と、前記糸通し棒の軸芯回りの回動に伴い前記糸通しフック体に連動して前記糸通しフック体と逆方向に前記糸ガイド体を回動させて糸を水平方向に沿って保つ歯車機構とが設けられており、
前記操作レバー部の操作に伴い前記糸通し棒を軸芯回りで回動させることにより、前記糸通しフック体及び前記糸ガイド体を互いに逆方向に回動させることを特徴とするミシン。
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