JP4547795B2 - 歯車 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両や産業機械等の各種機械構造物の機械要素のうち歯車として利用される歯車に関し、詳しくは浸炭焼入れ又は浸炭浸窒焼入れにより焼入れ硬化層が形成された歯車に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯車は、一般に、歯面における耐摩耗性等を向上させるべく、浸炭焼入れ又は浸炭浸窒焼入れにより表面硬化処理が施される。
【0003】
例えば、浸炭焼入れでは、浸炭処理により歯車の表面におけるC(炭素)濃度を0.8%程度に高めた後、焼入れ処理によりオーステナイト状態からマルテンサイトに変態させて、表面硬度を向上させる。
【0004】
ところが、歯車に通常の浸炭焼入れ又は浸炭浸窒焼入れを施すと、焼入れ時の熱歪みにより、歯面精度が低下することを避けられない。歯面精度の低下した歯車をそのまま用いると、相手材との歯当たりのずれ等により、振動や騒音の発生源になるという問題がある。このため、焼入れ処理後の歯車は、ホーニングに代表される研磨加工やシェービング等の物理的な仕上げ加工を実施して、熱歪みを修正してから実用に供されている(特開平2−138554号公報等参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したような物理的な仕上げ加工は、生産性の低下やコストアップを招くという問題がある。
【0006】
そこで、物理的な仕上げ加工を不要とすべく、焼入れ時の熱歪みの発生を極力抑えることのできる方策が望まれる。
【0007】
ところで、上記焼入れ時の熱歪みは、マルテンサイト変態に伴う体積膨張に因るものである。このため、浸炭処理によるC拡散量に応じて変態量が多くなれば、それだけ体積膨張に因る熱歪みの度合いも大きくなる。また、マルテンサイト変態自体は焼入れ時の冷却速度による影響を受け、冷却速度が大きければ、変態量も多くなって熱歪みの度合いも大きくなる。
【0008】
このようにマルテンサイト変態に伴う熱歪みは、浸炭処理時のC拡散量や焼入れ時の冷却速度による影響を受け、C拡散量が多いほど、また冷却速度が大きいほど、熱歪みの度合いが大きくなる。
【0009】
一方、浸炭処理時のC拡散量及び焼入れ時の冷却速度は、歯形状による影響を受ける。すなわち、歯面や歯端面等の面部分は、Cの侵入方向や冷却液との接触方向が一方向のみであるのに対し、歯面と歯端面との境界部等のエッジ部分は、Cの侵入方向や冷却液との接触方向が二方向以上となる。このため、歯面と歯端面との境界部等のエッジ部分は、歯面や歯端面等の面部分と比べて、C拡散量が多く、また冷却速度が大きくなり、したがって熱歪みの度合いも大きくなる。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、歯面と歯端面との境界部たるエッジ部分における熱歪みを抑えることにより、歯面精度を向上させた歯車を提供することを解決すべき技術課題とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の歯車は、外周面、内周面、及び該外周面と該内周面との間に挟まれた軸方向端面を有する円筒状のリム部と、該リム部の該外周面に一体に設けられた外歯とを備え、該外歯の歯幅端面全体及び該リム部の該軸方向端面全体に防炭処理又は浸炭抑制処理を施した後に、浸炭焼入れ又は浸炭浸窒焼入れを施すことにより、少なくとも該外歯の歯面、該リム部の該外周面及び該内周面に焼入れ硬化層が形成された歯車であって、前記歯面、前記リム部の前記外周面及び前記内周面における焼入れ硬化層の深さに対する前記歯幅端面及び前記リム部の前記軸方向端面における焼入れ硬化層の深さの比が0〜0.7とされていることを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の歯車は、上述のとおり、浸炭焼入れ又は浸炭浸窒焼入れを施すことにより、少なくとも外歯の歯面、リム部の外周面及び内周面に焼入れ硬化層が形成された歯車であって、歯面、リム部の外周面及び内周面における焼入れ硬化層の深さに対する歯幅端面及びリム部の軸方向端面における焼入れ硬化層の深さの比が0〜0.7とされている。
【0013】
ここに、上記歯幅端面とは、歯幅方向における端面をいう。また、歯面における焼入れ硬化層の深さに対する歯幅端面における焼入れ硬化層の深さの比(以下、適宜「硬化比」という)は、歯面全体における焼入れ硬化層の深さに対する歯幅端面全体における焼入れ硬化層の深さの比を意味する。ただし、この硬化比を算出するための便宜を図るべく、上記硬化比は、ピッチ円上における焼入れ硬化層の深さの比を意味する。すなわち、図7に示すように、上記硬化比(Wt/Pt)が0〜0.7ということは、ピッチ円(P)上の歯面(A)における焼入れ硬化層の深さ(Pt)が1であった場合、ピッチ円(P)上の歯幅端面(B)における焼入れ硬化層の深さ(Wt)が0〜0.7であることを意味する。
【0014】
このように上記硬化比が0〜0.7とされた本発明の歯車では、歯幅端面における焼入れが抑えられている。すなわち、高強度が要求される歯面においては、必要とされる有効焼入れ硬度を得るべく、十分な焼入れが施される一方で、高強度が要求されない歯幅端面においては、極力焼入れが抑えられている。こうして歯幅端面における焼入れを抑えることにより、歯幅端面において、焼入れ時のマルテンサイト変態に伴う体積膨張に因る熱歪みを抑えることができる。このため、該歯幅端面と歯面との境界部たるエッジ部分においても、焼入れ時のマルテンサイト変態に伴う体積膨張に因る熱歪みの度合いを小さくすることができ、もって歯面精度の向上を図ることが可能となる。
【0015】
本発明の歯車は、鋼材を素材として、塑性加工や切削加工等を行うことにより歯車成形体とし、この歯車成形体に対して浸炭処理又は浸炭浸窒処理を施した後に焼入れ処理を施し、必要に応じて焼き戻し処理を施すことにより、製造することができる。
【0016】
上記鋼材の種類としては、特に限定されるものではなく、例えばJIS SCr420H等のクロム鋼、JIS SCM420H等のクロム・モリブデン鋼、JIS SNCM420H等のニッケル・クロム・モリブデン鋼等を用いることができる。
【0017】
上記浸炭処理又は浸炭浸窒処理や焼入れ処理の条件は、特に限定されるものではなく、歯面における必要な強度等を確保すべく適宜設定可能である。なお、歯面における焼入れ硬化層の深さは、0.2〜2.0mm程度とすることができる。
【0018】
ただし、浸炭処理又は浸炭浸窒処理をする際に、歯幅端面に対して防炭処理又は浸炭抑制処理を施すことが必要である。この防炭処理又は浸炭抑制処理の方法は、歯幅端面にCが侵入することを防止又は抑制することにより、上記硬化比を0.7以下となしうる方法であれば、特に限定されない。例えば、歯幅端面に防炭剤を塗布したり、浸炭防止部材で歯幅端面を被覆したり、あるいは銅めっき等の化学処理を歯幅端面に施したりする方法を採用することができる。また、プラズマ浸炭を利用して、部分的にのみ浸炭処理を施す方法も採用することができる。
【0019】
また、浸炭処理又は浸炭浸窒処理をする際に、リム部の端面も防炭処理又は浸炭抑制処理を施すことが必要である。リム部の端面も防炭処理又は浸炭抑制処理すれば、リム部端面におけるマルテンサイト変態に伴う体積膨張を抑えて熱歪みの度合いを小さくすることができるので、歯車全体としての精度を向上させることが可能となる。
【0020】
上記硬化比は、0〜0.7とされるが、歯面精度をより向上させるべく、0.3以下とすることがより好ましく、0(零)とすることが最適である。
【0021】
【実施例】
以下、本発明の歯車の具体的な実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
(実施例1)
図1〜図3に示す本実施例は自動車用トランスミッションギヤに本発明を適用したものである。
【0023】
この歯車は、歯形の部分で軸方向に沿って切った断面図を図1に、正面図を図2に示すように、外歯1が自己の外周面に設けられた円筒状のリム部2と、このリム部2と同軸状に配設されるとともに該リム部2と略同等の軸方向長さを有する内周側のボス部3と、リム部2及びボス部3を一体に結合するリング状の連結部4とから構成されている。
【0024】
そして、上記外歯1の両歯幅端面(軸方向における両端面)1a、1aと、上記リム部2の両軸方向端面2a、2aとを除く歯車の外表面には、0.7mm程度の略均一深さの焼入れ硬化層5が形成されている。すなわち、この歯車においては、外歯1の両歯面1b、1b、外歯1の歯先面1c、外歯1の歯底面(リム部2の外周面)1d、リム部2の内周面2b、連結部4の両軸方向端面4a、4a、ボス部3の外周面3a、ボス部3の内周面3b及びボス部3の両軸方向端面3c、3cに、焼入れ硬化層5が形成されている。
【0025】
ここに、外歯1の両歯面1b、1bにおける焼入れ硬化層5の深さ(Pt)は、ピッチ円(P)上において、0.7mm程度とされている。一方、外歯1の両歯幅端面1a、1aにおける焼入れ硬化層の深さ(Wt)は0である。このため、本実施例の歯車は、前記硬化比(Wt/Pt)が0である。
【0026】
なお、この歯車は、モジュール:2.6、歯数:52、ピッチ円径:172.12mm、歯はけ:5.2mm、リム部2を含む歯先までの高さ:21mm、材質:JIS SCr420のはすば歯車である。
【0027】
上記構成を有する本実施例の歯車は、以下のようにして製造した。
【0028】
まず、鍛造や切削加工等により上記形状を有する歯車成形体を形成した後、外歯1の両歯幅端面1a、1a全体と、リム部の両軸方向端面2a、2a全体に対して、防炭処理を施した。すなわち、図3に示すように、外歯1の両歯幅端面1a、1aと、リム部2の両軸方向端面2a、2aとに、防炭剤(商品名「コンドルサル0090」、ヌスレ(独)社製)6を塗布した。なお、防炭剤6の塗布は、歯面等をマスキングし、部分浸漬することにより行った。そして、950℃の変性ガス中で140分間、浸炭させてから860℃まで放冷してC拡散させる浸炭処理を行った後、850℃から130℃まで油中冷却して焼入れ処理し、最後に150℃×1.5時間の焼もどし処理を実施して、本実施例の歯車を完成した。
【0029】
(実施例2)本実施例の歯車は、外歯1の両歯幅端面1a、1a及びリム部2の両軸方向端面2a、2aに、前記実施例1の焼入れ硬化層5よりも深さの浅い焼入れ硬化層が形成されている。また、外歯1の両歯面1b、1b、外歯1の歯先面1c、外歯1の歯底面(リム部2の外周面)1d、リム部2の内周面2b、連結部4の両軸方向端面4a、4a、ボス部3の外周面3a、ボス部3の内周面3b及びボス部3の両軸方向端面3c、3cには、前記実施例1と同様の焼入れ硬化層5が形成されている。
【0030】
ここに、外歯1の両歯面1b、1bにおける焼入れ硬化層5の深さ(Pt)は、前記実施例1と同様、ピッチ円(P)上において、0.7mm程度とされている。一方、外歯1の両歯幅端面1a、1aにおける焼入れ硬化層の深さ(Wt)は、ピッチ円(P)上において、0.21mm程度とされている。このため、本実施例の歯車は、前記硬化比(Wt/Pt)が0.3とされている。
【0031】
本実施例の歯車は、以下のようにして製造した。
【0032】
まず、前記実施例1と同様に歯車成形体を形成した。そして、図4に示すように、浸炭防止部材としての一対の銅製スペーサ7、7で歯車の両軸方向端面を被覆することにより、外歯1の両歯幅端面1a、1aと、リム部の両軸方向端面2a、2aに対して、浸炭抑制処理を施した。
【0033】
この銅製スペーサ7は、歯車の外径と同等又は若干大きい外径を有するとともに、歯車のボス部3の内周面に嵌合可能なリング状突起部7aを有するリング状部材で、リング状突起部7aをボス部3に嵌合させた状態で、歯車の両軸方向端面全体を完全に覆うことができる形状となされている。
【0034】
本実施例では、各上記銅製スペーサ7をボス部3に嵌合させるとともに、各銅製スペーサ7を歯車の軸方向端面、すなわち外歯1の歯幅端面1a、リム部2の軸方向端面2a、ボス部3の軸方向端面3aに密着させた。そして、この状態で、前記実施例1と同様、浸炭処理、焼入れ処理及び焼もどし処理を施して、本実施例の歯車を完成した。
【0035】
(実施例3)本実施例の歯車は、外歯1の両歯幅端面1a、1a及びリム部2の両軸方向端面2a、2aに、前記実施例1の上記焼入れ硬化層5よりも深さの浅い焼入れ硬化層が形成されている。また、外歯1の両歯面1b、1b、外歯1の歯先面1c、外歯1の歯底面(リム部2の外周面)1d、リム部2の内周面2b、連結部4の両軸方向端面4a、4a、ボス部3の外周面3a、ボス部3の内周面3b及びボス部3の両軸方向端面3c、3cには、前記実施例1と同様の焼入れ硬化層5が形成されている。
【0036】
ここに、外歯1の両歯面1b、1bにおける焼入れ硬化層5の深さ(Pt)は、前記実施例1と同様、ピッチ円(P)上において、0.7mm程度とされている。一方、外歯1の両歯幅端面1a、1aにおける焼入れ硬化層の深さ(Wt)は、ピッチ円(P)上において、0.49mm程度とされている。このため、本実施例の歯車は、前記硬化比(Wt/Pt)が0.7とされている。
【0037】
本実施例の歯車は、前記実施例2において、銅製スペーサ7を歯車の軸方向端面に密着させずに、銅製スペーサ7と歯車の軸方向端面との間に0.3mmのクリアランスを設けること以外は、前記実施例2と同様の方法により製造した。
【0038】
(比較例1)
この歯車は、外歯1の両歯幅端面1a、1a及びリム部2の両軸方向端面2a、2aに防炭処理又は浸炭抑制処理を何ら施さないこと以外は、前記実施例1と同様に製造したもので、外歯1の両歯幅端面1a、1a及びリム部2の両軸方向端面2a、2aにも、他の表面に形成された前記実施例1の焼入れ硬化層5が形成されている。その他の構成は、前記実施例1と同様である。
【0039】
このため、この歯車は、前記硬化比(Wt/Pt)が1.0とされている。
【0040】
(比較例2)
この歯車は、前記比較例1の歯車について、外歯1の両歯面1b、1bをホーニング加工したものである。
【0041】
(評価1)
前記実施例1〜3及び比較例1、2の各歯車について、歯形個内変化量を調べた。すなわち、ひとつの歯車において、焼入れ処理前の外歯の歯面に対する、焼入れ処理及び焼もどし処理後の外歯1の歯面1bの歪み量を、各外歯1について測定し、その歪み量の最大値を歯形個内変化量として評価した。
【0042】
結果を図5に示すように、防炭処理又は浸炭抑制処理を何ら施していない比較例1の歯車の歯形個内変化量が5μm程度であったのに対し、防炭処理を施した本実施例1の歯車、並びに浸炭抑制処理を施した本実施例2及び3の歯車は、いずれも歯形個内変化量が4μm程度以下であり、歯面精度の向上が認められた。
特に、前記硬化比が0である実施例1及び前記硬化比が0.3である実施例2の歯車は、歯形個内変化量が比較例1の歯車の半分以下となっており、ホーニング加工を施した比較例2の歯車と同程度に歯面精度が向上した。
【0043】
(評価2)
前記実施例1及び前記実施例2の各歯車について、ピッチ円上の歯面1bにおける硬さ分布と、ピッチ円上の歯幅端面1aにおける硬さ分布とをそれぞれ調べた。
【0044】
その結果を図6に示す。なお、図6中、実線は、実施例1及び実施例2の歯車の歯面1bにおける硬さ分布を示し、点線は、防炭処理を施した実施例1の歯車の歯幅端面1aにおける硬さ分布を示し、一点鎖線は、浸炭抑制処理を施した実施例2の歯車(硬化比:0.3)の歯幅端面1aにおける硬さ分布を示す。
【0045】
図6から明らかなように、防炭処理を施した実施例1に係る歯幅端面1a及び浸炭抑制処理を施した実施例2に係る歯幅端面1aは、通常の浸炭焼入れ処理を施した歯面1bと比べて、焼入れ処理による表面硬化度合いが少なかった。特に、防炭処理を施した実施例1に係る歯幅端面1aは、最表面においてもほとんど硬化していなかった。
【0046】
(参考例)この歯車は、外歯1の両歯幅端面1a、1a全体にのみ防炭処理を施して外歯1のリム部2の両軸方向端面2a、2a全体には防炭処理を施さないこと以外は、前記実施例1と同様に製造したものである。すなわち、この歯車において、外歯1の両歯幅端面1a、1aには焼入れ硬化層が形成されておらず、他の表面には前記実施例1の焼入れ硬化層5が形成されている。その他の構成は、前記実施例1と同様である。
【0047】
このため、この歯車は、前記硬化比(Wt/Pt)が0とされている。
【0048】
(比較例3)
この歯車は、外歯1の両歯幅端面1a、1aのうち歯たけの1/2の高さから歯先までの範囲(歯先側の1/2の範囲)にのみ防炭処理を施して、両歯幅端面1a、1aのうち歯底から歯たけの1/2の高さまでの範囲及びリム部2の両軸方向端面2a、2a全体には防炭処理を施さないこと以外は、前記実施例1と同様に製造したものである。すなわち、この歯車において、外歯1の両歯幅端面1a、1aのうち歯たけの1/2の高さから歯先までの範囲にのみ焼入れ硬化層が形成されておらず、他の表面には前記実施例1の焼入れ硬化層5が形成されている。その他の構成は、前記実施例1と同様である。
【0049】
(比較例4)
この歯車は、外歯1の両歯幅端面1a、1aのうち歯たけの2/3の高さから歯先までの範囲(歯先側の1/3の範囲)にのみ防炭処理を施して、両歯幅端面1a、1aのうち歯底から歯たけの2/3の高さまでの範囲及びリム部2の両軸方向端面2a、2a全体には防炭処理を施さないこと以外は、前記実施例1と同様に製造したものである。すなわち、この歯車において、外歯1の両歯幅端面1a、1aのうち歯たけの2/3の高さから歯先までの範囲にのみ焼入れ硬化層が形成されておらず、他の表面には前記実施例1の焼入れ硬化層5が形成されている。その他の構成は、前記実施例1と同様である。
【0050】
(評価3)前記実施例1及び前記参考例、並びに前記比較例3及び比較例4の歯車について、歯形個内変化量を測定し、防炭範囲の歯形個内変化量に対する影響を調べた。
【0051】
その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1と参考例とを比較すると明らかなように、歯幅端面1a全体のみならず、リム部2の端面2a全体にも防炭処理することにより、歯面1bにおける歪み量をより低減させることができる。また、参考例、比較例3及び比較例4を比較すると明らかなように、歯幅端面1aのうち防炭処理する範囲を広げるほど、歯面1bにおける歪み低減効果が向上することがわかる。
【0054】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明の歯車は、歯面における焼入れ硬化層の深さに対する歯幅端面における焼入れ硬化層の深さの比が0〜0.7とされており、歯幅端面における焼入れが抑えられていることから、歯幅端面における熱歪みを抑えることができる。このため、歯幅端面と歯面との境界部たるエッジ部分においても、熱歪みの度合いを小さくすることができ、もって歯面精度の向上を図ることが可能となる。本発明の歯車は、さらに、歯幅端面全体のみならず、リム部の軸方向端面全体にも防炭処理又は浸炭抑制処理が施された後に、浸炭焼入れ又は浸炭浸窒焼入れが施されている。これにより、リム部端面における焼入れが抑えられていることから、リム部端面における熱歪みの度合いを小さくすることができる。このため、歯車全体としての精度を向上させることができ、もって歯面精度の向上を図ることが可能となる。
【0055】
したがって、本発明の歯車によれば、ホーニング加工等の物理的な仕上げ加工を施すことなく、高い歯面精度を得ることが可能となり、生産性及びコスト面で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の歯車を示し、歯形部分で軸方向に沿って切断した部分断面図である。
【図2】実施例1の歯車の正面図である。
【図3】実施例1に係り、防炭処理する範囲を説明する図である。
【図4】実施例2の歯車を製造する様子を説明する断面図である。
【図5】歯形個内変化量の評価結果を示す棒グラフである。
【図6】硬さ分布を示す線図である。
【図7】硬化比を説明するための図であり、(a)は歯形の斜視図、(b)は歯形をピッチ円上で切った断面図である。
【符号の説明】
1…歯形 1a…歯幅端面
1b…歯面 2…リム部
2a…軸方向端面 5…焼入れ硬化層
Claims (1)
- 外周面、内周面、及び該外周面と該内周面との間に挟まれた軸方向端面を有する円筒状のリム部と、該リム部の該外周面に一体に設けられた外歯とを備え、該外歯の歯幅端面全体及び該リム部の該軸方向端面全体に防炭処理又は浸炭抑制処理を施した後に、浸炭焼入れ又は浸炭浸窒焼入れを施すことにより、少なくとも該外歯の歯面、該リム部の該外周面及び該内周面に焼入れ硬化層が形成された歯車であって、
前記歯面、前記リム部の前記外周面及び前記内周面における焼入れ硬化層の深さに対する前記歯幅端面及び前記リム部の前記軸方向端面における焼入れ硬化層の深さの比が0〜0.7とされていることを特徴とする歯車。
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