JP2023068855A - 軸部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】塑性曲がりが生じ難い軸部材を提供する。【解決手段】軸部材は、表面を有する鋼製の軸部材である。鋼は、0.10質量%以上0.40質量%以下の炭素と、0.10質量%以上2.50質量%以下のシリコンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のマンガンと、0.40質量%以上3.00質量%以下のクロムと、1.00質量%以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物である。軸部材の表面と鋼の硬さが653Hvとなる第1位置との間の距離は、0.2mm以上1.0mm以下である。表面の窒素濃度が0.2質量%以上1.2質量%以下であり、表面の炭素濃度が0.6質量%以上1.2質量%以下である。X線回折ピークにおいて、前記表面からの深さZ(単位:mm)が前記軸部材の直径D(単位:mm)に対して0.085Dである第2位置での、マルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅が、6.5°以下である。【選択図】図3
Description
本発明は、軸部材に関する。
特開2010-1521号公報(特許文献1)には、軸が記載されている。特許文献1に記載の軸は、遊星歯車機構用のピニオンシャフトである。特許文献1に記載の軸の製造方法では、表面(軌道面)に対して浸炭窒化処理、焼入れ、サブゼロ処理、および焼戻しが順に行われている。これにより、特許文献1に記載の軸では、耐表面疲労性能が改善されているとともに、芯部の残留オーステナイト量が0体積%となるために塑性曲がりが生じ難くされている。
特許文献1に記載の軸では、高温環境下で使用されたときに芯部の残留オーステナイトが熱分解することに伴う軸の塑性変形を抑制すべく、芯部の残留オーステナイト量を0体積%とされている。
しかしながら、特許文献1に記載の軸は、塑性曲がり性能(塑性曲がりの生じ難さ)に改善の余地がある。
本発明の主たる目的は、塑性曲がりが生じ難い軸部材を提供することにある。
本発明に係る軸部材は、表面を有する鋼製の軸部材である。鋼は、0.10質量%以上0.40質量%以下の炭素と、0.10質量%以上2.50質量%以下のシリコンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のマンガンと、0.40質量%以上3.00質量%以下のクロムと、1.00質量%以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物である。鋼の硬さが653Hvとなる第1位置P1と外周面30aとの間の距離が0.2mm以上1.0mm以下である。表面の窒素濃度が0.2質量%以上1.2質量%以下である。表面の炭素濃度が0.6質量%以上1.2質量%以下である。X線回折ピークにおいて、表面からの深さZ(単位:mm)が軸部材の直径D(単位:mm)に対して0.085Dである第2位置での、マルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅が、6.5°以下である。
上記軸部材では、X線回折ピークにおいて、深さZ(単位:mm)が0.017Dである第3位置でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅が、第2位置での半価幅よりも広い。
上記軸部材では、表面の残留オーステナイト量が、25体積%以上40体積%以下であり、第1位置及び第2位置のそれぞれよりも内側に位置する芯部の残留オーステナイト量が、0.5体積%以上3.0体積%以下であるのが好ましい。
上記軸部材では、直径Dが6mm以上30mm以下であってもよい。
上記軸部材は、遊星減速機用の軸部材であってもよい。
本発明によれば、塑性曲がりが生じ難い軸部材を提供できる。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
<遊星歯車装置の構成>
図1及び図2に示されるように、本実施の形態に係る軸部材30は、遊星歯車装置100のピニオンシャフトである。
図1及び図2に示されるように、本実施の形態に係る軸部材30は、遊星歯車装置100のピニオンシャフトである。
遊星歯車装置100は、内歯車10と、軸部材20と、太陽歯車21と、軸部材30と、遊星歯車31と、保持器40とを備える。遊星歯車装置100は、例えば、自動車のトランスミッションの減速機に用いられる。つまり、軸部材30は、例えば、遊星減速機用の軸部材である。
内歯車10は、円環形状を有している。内歯車10は、内周面と、外周面とを有している。内歯車10の内周面には、内歯車10の周方向に沿って複数の歯が形成されている。内歯車10の歯は、内歯車10の径方向内側に向かって、内歯車10の内周面から突出している。
軸部材20は、円柱形状を有している。軸部材20の中心軸の位置は、内歯車10の中心軸の位置に一致している。太陽歯車21は、内周面と、外周面とを有している。太陽歯車21の外周面には、太陽歯車21の周方向に沿って複数の歯が形成されている。太陽歯車21の歯は、太陽歯車21の径方向外側に向かって、太陽歯車21の外周面から突出している。太陽歯車21の中心部には、太陽歯車21を厚さ方向に沿って貫通している中心孔が形成されている。軸部材20は、太陽歯車21の中心孔に嵌め合わされることにより太陽歯車21に取り付けられている。
軸部材30は、円柱形状を有している。軸部材30は、外周面30aを有している。軸部材30の詳細構成は、後述する。遊星歯車31は、内歯車10と太陽歯車21との間に配置されている。
遊星歯車31は、内周面31aと、外周面31bとを有している。遊星歯車31の中心孔の内壁面が、内周面31aである。外周面31bには、遊星歯車31の周方向に沿って複数の歯が形成されている。遊星歯車31の歯は、遊星歯車31の径方向外側に向かって外周面31bから突出している。遊星歯車31の歯は、内歯車10の歯及び太陽歯車21の歯と噛み合っている。遊星歯車31の中心部には、遊星歯車31を厚さ方向に貫通している中心孔が形成されている。
軸部材30は、遊星歯車31の中心孔に嵌め合わされている。すなわち、軸部材30は、ピニオンシャフトである。軸部材30の外径Dは、例えば6.0mm以上30.0mm以下である。軸部材30は、内周面31aにより、回転自在に支持されている。より具体的には、外周面30aと内周面31aとの間には、複数の転動体32が配置されている。
転動体32は、例えば、針状ころである。転動体32は、軸部材30の外周面30a及び遊星歯車31の内周面31aの各々と接触する転動面32aを有している。転動体32の外径は、外径dである。外径dは、外径Dの0.5倍以下である。外径dは、例えば1.5mm以上5.0mm未満である。
転動体32は、鋼製である。転動体32を構成している鋼は、例えば、JIS規格(JIS G 4805:2019)に定められているSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼である。
好ましくは、転動面32aの窒素濃度は、残留オーステナイト量の富化及び焼戻し軟化抵抗の向上により耐表面疲労性能を改善する観点から、0.1質量%以上である。好ましくは、転動面32aの窒素濃度は、残留オーステナイト量が過多になることに伴う表面硬さの低下を抑制する観点から、0.7質量%以下である。
保持器40は、軸部材30と遊星歯車31との間に配置されて、複数の転動体32の各々を保持している。保持器40を構成する材料は、特に制限されない。保持器40を構成する材料には、例えば、JIS規格(JIS G 3141:2017)に定められている冷間圧延鋼板(SPC)、JIS規格(JIS G 4053:2016)に定められているはだ焼き鋼(SCM415、SNCM415等)、JIS規格(JIS G 3445:2016)に定められている機械構造用炭素鋼鋼管(STKM)が適用され得る。
<軸部材の詳細構成>
以下に、軸部材30の詳細構成を説明する。
以下に、軸部材30の詳細構成を説明する。
軸部材30は、鋼製である。軸部材30を構成している鋼は、0.10質量%以上0.40質量%以下の炭素と、0.10質量%以上2.50質量%以下のシリコンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のマンガンと、0.40質量%以上3.00質量%以下のクロムと、1.00質量%以下のモリブデンとを含む。上記鋼が1.00質量%以下のモリブデンを含むとは、上記鋼がモリブデンを含んでいない、あるいは上記鋼が1.00質量%以下のモリブデンを含んでいることを意味する。上記鋼の残部は、鉄及び不可避不純物である。
鋼中の炭素の含有量は、軸部材30内部の転位密度を低く抑えて耐塑性曲がり性能を向上させる観点で、0.4質量%以下である。軸部材30内部の転位密度をより低く抑える観点から、軸部材30を構成する鋼中の炭素の含有量は、0.10質量%以上、0.25質量%以下であるのが好ましい。
鋼中のシリコンの含有量は、焼戻し軟化抵抗の向上及び表層部における窒化物の析出を促進する観点から、0.10質量%以上2.50質量%以下である。鋼中のマンガンの含有量は、焼入れ性の向上及びオーステナイトの安定化を図る観点から、0.30質量%以上1.20質量%以下である。鋼中のクロムの含有量は、焼入れ性の向上及び焼戻し軟化抵抗の向上を図る観点から、0.40質量%以上3.00質量%以下である。鋼中のモリブデンの含有量は、焼入れ性の向上及び焼戻し軟化抵抗の向上を図る観点から、1.00質量%以下である。
軸部材30を構成している鋼は、例えば、JIS規格(JIS G 4053:2016)に定められているSCM420、SCM425、SCM430、SCM435等のクロムモリブデン鋼である。
軸部材30を構成する鋼の上記化学成分は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
図3に示されるように、軸部材30において、鋼のビッカース硬さが653HVとなる位置を第1位置P1とする。硬さが653Hvとなる第1位置P1と外周面30aとの間の距離は、0.2mm以上1.0mm以下である。異なる観点から言えば、軸部材30は、ビッカース硬さが653HV以上である高硬度領域30bを有している。高硬度領域30bは、軸部材30の径方向において第1位置P1と外周面30aとの間に形成されている。
軸部材30を構成する鋼のビッカース硬さは、JIS規格(JIS Z 2245:2009)に定められているビッカース硬さ試験法により測定される。
なお、転動体32と外周面30aとが接触した際の最大接触面圧は、例えば、2000MPa以上4000MPa以下である。この場合、軌道面ところの表面との接触による最大せん断応力は、外周面30aからの深さが0.20mmよりも深くかつ1.0mmよりも浅い位置、すなわち高硬度領域30b内に加わることになる。
軸部材30は、高硬度領域30bよりも内側に位置する芯部30cをさらに有している。芯部30cは、鋼中の窒素の含有量及び炭素の含有量が外周面30aからの深さによらずに一定である領域である。つまり、外周面30aから深さ方向に沿って順次鋼中の窒素の含有量及び炭素の含有量を測定し、測定された窒素の含有量及び炭素の含有量が一定になる位置が、芯部30cの外縁部になる。高硬度領域30bは、芯部30cよりも外側に位置する表層部の一部である。
外周面30aの窒素濃度は、残留オーステナイト量の富化及び焼戻し軟化抵抗の向上により耐表面疲労性能を改善する観点から、0.2質量%以上である。外周面30aの窒素濃度は、残留オーステナイト量が過多になることに伴う表面硬さの低下を抑制する観点から、1.2質量%以下である。好ましくは、外周面30aの窒素濃度は、0.3質量%以上0.7質量%以下である。芯部30cの窒素濃度は、外周面30aの窒素濃度よりも低い。
外周面30aの炭素濃度は、表面硬さを確保する観点から、0.6質量%以上である。外周面30aの炭素濃度は、表層部において網状セメンタイトなどの異常組織の生成を抑制する観点から、1.2質量%以下である。好ましくは、外周面30aの炭素濃度は、0.7質量%以上0.9質量%以下である。芯部30cの炭素濃度は、外周面30aの炭素濃度よりも低い。外周面30aの窒素濃度及び炭素濃度は、EPMAを用いて測定される。
外周面30aからの深さZ(単位:mm)が軸部材30の直径D(単位:mm)に対して0.085Dである位置を、第2位置P2とする。X線回折ピークにおいて、第2位置P2でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅は、6.5°以下である。X線回折ピークは、未使用状態の軸部材30を中心軸に直交する面で切断し、当該断面に対してX線残留応力測定装置を用いたX線回折により得られるものである。ここでの半価幅は、例えば、Cr管球のKα線を用いて、管電圧を30kV、管電流を10mAとし、入射角度(ψ角度)を11.8°、28.9°、40.7°、及び51.8°の各々として測定された、マルテンサイト相の結晶方位(211)に対応するそれぞれ測定した半価幅(測定値)の平均値である。
好ましくは、第2位置P2でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅は、6.0°以下である。
第2位置P2は、芯部30cよりも外側に位置する。第2位置P2は、例えば上記径方向において第1位置P1よりも深い位置である。なお、第2位置P2は、上記径方向において第1位置P1よりも浅い位置であってもよい。
外周面30aからの深さZ(単位:mm)が軸部材30の直径D(単位:mm)に対して0.033Dである位置を、第3位置P3とする。X線回折ピークにおいて、第3位置P3でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅は、第2位置P2でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅よりも広い。第3位置P3でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅は、6.8°以下である。好ましくは、第3位置P3でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅は、6.2°以下である。
外周面30aと第3位置P3との間の上記径方向の距離(単位:mm)に対する、外周面30aから第3位置P3までの間での半価幅(単位:°)の減少量の比率(第1比率)は、第3位置P3と第2位置P2との間の上記径方向の距離(単位:mm)に対する、第3位置P3から第2位置P2までの間での半価幅(単位:°)の減少量の比率(第2比率)と比べて、高い。上記第1比率(単位:°/mm)は、例えば1以上9以下である。上記第2比率(単位:°/mm)は、例えば0.1以上1以下である。
軸部材30の外周面30aの残留オーステナイト量は、硬質異物(摩耗粉等)が噛み込まれたときに外周面30aに形成される圧痕の周囲の盛り上がりの高さを抑制する観点で、25体積%以上であるのが好ましい。上記圧痕の周囲の盛り上がりの高さが抑えられることにより、遊星歯車装置100の寿命が長くなる。外周面30aの残留オーステナイト量は、表面硬さの低下を抑制する観点から、40体積%以下であることが好ましい。
芯部30cの残留オーステナイト量は、0.3体積%以上である。軸部材30は、芯部30cの残留オーステナイト量を0体積%とするための熱処理、例えばサブゼロ処理又は調質処理、が施されることなく、製造されている。芯部30cの残留オーステナイト量は、残留オーステナイトのクリープ変形による軸部材30の塑性曲がりを抑制する観点で、3体積%以下であることが好ましい。
鋼中の残留オーステナイト量は、X線回折法により測定される。より具体的には、鋼中の残留オーステナイト量は、鋼中のオーステナイトのX線回折ピークの積分強度と鋼中のその他の相のX線回折ピークの積分強度とを比較することにより測定される。
軸部材30の直径Dは、例えば6mm以上30mm以下である。転動体32の外径は、例えば1.5mm以上5.0mm以下である。
軸部材30の高硬度領域30bにおける旧オーステナイト結晶粒のJIS規格(JIS G 0551)に定められる粒度番号は、9以上である。粒度番号は、JIS規格(JIS G 0551:2020)に定められた方法により測定される。
軸部材30の外周面30aにおける圧縮残留応力は、600MPa以上である。残留応力は、X線残留応力測定装置を用いたX線回折により得られるものである。
<軸部材の製造方法>
軸部材30の製造方法は、準備工程S1と、浸炭工程S2と、浸炭浸窒工程S3と、焼入れ工程S4と、焼戻し工程S5と、後処理工程S6とを有している。浸炭工程S2は、準備工程S1の後に行われる。浸炭浸窒工程S3は、浸炭工程S2の後に行われる。焼入れ工程S4は、浸炭浸窒工程S3の後に行われる。焼戻し工程S5は、焼入れ工程S4の後に行われる。後処理工程S6は、焼戻し工程S5の後に行われる。
軸部材30の製造方法は、準備工程S1と、浸炭工程S2と、浸炭浸窒工程S3と、焼入れ工程S4と、焼戻し工程S5と、後処理工程S6とを有している。浸炭工程S2は、準備工程S1の後に行われる。浸炭浸窒工程S3は、浸炭工程S2の後に行われる。焼入れ工程S4は、浸炭浸窒工程S3の後に行われる。焼戻し工程S5は、焼入れ工程S4の後に行われる。後処理工程S6は、焼戻し工程S5の後に行われる。
準備工程S1では、加工対象部材が準備される。加工対象部材は、棒状である。加工対象部材は、例えば、鍛造及び旋削等の機械加工を行って素形材を軸部材30に近い形状に成形することにより準備される。
浸炭工程S2では、加工対象部材の表面に対する浸炭処理が行われる。浸炭処理は、熱処理ガス中において、加工対象部材を、加工対象部材を構成している鋼のA1変態点以上の温度に保持することにより行われる。熱処理ガスには、例えば、吸熱型変成ガス(RXガス)に、炭素源となるエンリッチガス(例えば、プロパン(C3H8)ガス、ブタンガス(C4H10))が添加されたものが用いられる。本工程S2での保持温度は、例えば850℃以上940℃以下である。
浸炭浸窒工程S3では、加工対象部材の表面に対する浸炭浸窒処理が行われる。浸炭浸窒処理は、熱処理ガス中において、加工対象部材を、加工対象部材を構成している鋼のA1変態点以上の温度に保持することにより行われる。熱処理ガスには、例えば、吸熱型変成ガス(RXガス)に、炭素源となるエンリッチガス(例えば、プロパン(C3H8)ガス、ブタンガス(C4H10))、及び窒素源となるガス(例えば、アンモニア(NH3)ガス)が添加されたものが用いられる。本工程S3での保持温度は、例えば850℃以上940℃以下である。保持温度が950℃以上となると、アンモニアの分解が促進され、未分解のアンモニアが減少し、外周面30aの窒素濃度が低くなりやすい。好ましくは、浸炭浸窒工程S3での保持温度は、浸炭工程S2での保持温度と同じである。この場合、浸炭工程S2及び浸炭浸窒工程S3での炉内の雰囲気が安定するため、外周面30aの窒素濃度及び炭素濃度が上記数値範囲内に安定しやすい。なお、軸部材30の製造方法では、浸炭工程S2が省略されてもよい。
焼入れ工程S4では、加工対象部材に対する焼入れが行われる。焼入れは、加工対象部材を、加工対象部材を構成している鋼のA1変態点以上の温度で保持した後に加工対象部材を構成している鋼のMS変態点以下の温度に急冷することにより行われる。焼入れは、高周波焼入れではなく、炉加熱による全体焼入れとして行われる。加工対象部材の急冷は、例えば、水冷又は油冷することにより行われる。
焼戻し工程S5では、加工対象部材に対する焼戻しが行われる。焼戻しは、加工対象部材を、加工対象部材を構成している鋼のA1変態点未満の温度で保持することにより行われる。後処理工程S6では、加工対象部材に対する後処理が行われる。本工程S5での保持温度は、例えば160℃以上200℃以下である。この後処理には、加工対象部材の表面への機械加工(研削、研磨等)、洗浄、及び防錆が含まれる。以上により、図1及び図2に示される軸部材30が製造される。
<転動体の製造方法>
転動体32の製造方法は、例えば、転動体32に近い形状に成形された加工対象部材を準備する工程と、加工対象部材に対して全体焼入れを行う工程と、全体焼入れ(ずぶ焼入れ)が行われた加工対象部材に対して焼戻しを行う工程とを含む。軸部材30とは異なり、転動体32には塑性曲がりの問題は無い。上記製造方法によれば、既存の熱処理設備(例えば、連続炉)が使用可能であり、コストアップすることなく転動体32を大量生産することが可能となる。
転動体32の製造方法は、例えば、転動体32に近い形状に成形された加工対象部材を準備する工程と、加工対象部材に対して全体焼入れを行う工程と、全体焼入れ(ずぶ焼入れ)が行われた加工対象部材に対して焼戻しを行う工程とを含む。軸部材30とは異なり、転動体32には塑性曲がりの問題は無い。上記製造方法によれば、既存の熱処理設備(例えば、連続炉)が使用可能であり、コストアップすることなく転動体32を大量生産することが可能となる。
転動体32の製造方法は、全体焼入れ工程に代えて、浸炭浸窒工程が行われてもよい。浸炭浸窒後に焼戻を行い、表層窒素濃度を0.1質量%以上とすることで針状ころの表面損傷対策を図ることができる。
<効果>
軸部材30の効果を、比較例に係る軸部材との対比に基づいて説明する。
軸部材30の効果を、比較例に係る軸部材との対比に基づいて説明する。
比較例に係る軸部材は、上記特許文献1に記載の軸に従ったものであり、炭素の含有量が比較的高い0.3質量%以上0.5質量%以下である鋼に対して浸炭又は浸炭窒化処理とサブゼロ処理とが行われることにより、表面の残留オーステナイト量が20体積%以上であって芯部の残留オーステナイト量が0とされている。このような比較例に係る軸部材では、その表面から芯部にかけて転位密度が高くなる。そのため、高温環境下で使用されたときには、芯部の残留オーステナイトの熱分解を抑制できたとしても、芯部よりも表面に近い転位の移動に伴う塑性曲がりが生じ易い。
これに対し、軸部材30を構成する鋼の炭素含有量は比較的低く、外周面30aの炭素濃度は0.6質量%以上1.2質量%以下である。このような軸部材30では、炭素が浸炭処理及び浸炭浸窒処理により炭素が供給されているため、炭素濃度及び転位密度は外周面30aから芯部30cに近づくほど低下する。さらに、軸部材30では、X線回折ピークにおいて、外周面30aからの深さZ(単位:mm)が軸部材30の直径D(単位:mm)に対して0.085Dである第2位置でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅が6.5°以下である。つまり、軸部材30の第2位置における転位密度が比較的少ない。そのため、軸部材30では、第2位置及びそれよりも深い位置における転位密度が比較的少ないため、比較例に係る軸部材と比べて、高温環境下で使用されたときにも塑性曲がりが生じ難い。
さらに、軸部材30では、鋼の硬さが653Hvとなる第1位置P1と外周面30aとの間の距離が0.2mm以上1.0mm以下である。
軸部材30が自動車の遊星減速機のピニオンシャフトである場合には、軸部材30の外周面30aと転動体32の転動面32aとの最大接触面圧は、通常想定される値として、3000MPa以上4000MPa以下である。この場合、転動中に接触面下に生じる最大せん断応力は、上記径方向において軸部材30の第1位置P1と外周面30aとの間に位置する高硬度領域30bに加わる。つまり、軸部材30では、最大せん断応力が生じる位置の近傍での鋼の硬さが十分に確保されているため、耐表面疲労性能が改善されている。
さらに、軸部材30では、外周面30aの窒素濃度が0.2質量%以上1.2質量%以下であり、外周面30aの炭素濃度が0.6質量%以上1.2質量%以下であるため、焼戻し軟化抵抗を向上しながらも外周面30aの硬さが確保されているため、耐表面疲労性能が改善されている。
軸部材30の芯部30cの残留オーステナイト量は、0.3体積%以上である。本発明者らは、半価幅が上記数値範囲を満足する軸部材30では、芯部の残留オーステナイト量が0.3体積%未満であるが半価幅が上記数値範囲を満足しない軸部材と比べて、耐塑性曲がり性能が改善されていることを確認した(詳細は後述する)。
また、軸部材30は、芯部の残留オーステナイト量を0体積%とするための熱処理、例えばサブゼロ処理又は調質処理、が施されることなく、製造されている。そのため、軸部材30の製造コストは、比較例に係る軸部材の製造コストとの対比において、増加しない。
軸部材30の直径Dは、6mm以上30mm以下であってもよい。軸部材30の直径Dが上記範囲において比較的短い場合、第2位置P2は第1位置P1と外周面30aとの間に配置されてもよい。軸部材30の直径Dが上記範囲において比較的長い場合、第2位置P2は第1位置P1よりも深くに配置される。いずれの場合にも、第2位置P2及びそれよりも深い位置の転位密度は、第2位置P2よりも浅い位置の転位密度よりも、塑性曲がり性能に影響する。そのため、第2位置P2の転位密度が抑えられている軸部材30の耐塑性曲がり性能は、直径Dの値に依らず、向上し得る。
遊星歯車装置100は、ピニオンシャフトとして軸部材30を有しているため、ピニオンシャフトの転動疲労寿命及びピニオンシャフトの塑性曲がりが抑制されている。
(実施例)
本実施の形態に係る軸部材の効果を確認するために、軸部材の試料1~3に対して、静的曲げ試験、及び半価幅の評価試験を行った。
本実施の形態に係る軸部材の効果を確認するために、軸部材の試料1~3に対して、静的曲げ試験、及び半価幅の評価試験を行った。
(試料)
表1に示されるように、試料1はSCM420からなる軸部材とし、試料2はJIS規格(JIS G 4053(2016))に定められているSCr435からなる軸部材とし、試料3はSUJ2からなる軸部材とした。試料1,2は、各鋼種から成る加工対象部材に対し上述した本実施の形態に係る軸部材の製造方法を施すことにより、準備された。試料3は、SUJ2から成る加工対象部材に対し、浸炭処理工程および浸炭浸窒工程に代えて全体焼入れを行うことにより、準備された。試料1に対する焼戻し温度は170℃とした。試料2及び試料3に対する焼戻し温度は180℃とした。各試料1~3の直径Dは18mmとし、軸方向の長さは73.9mmとした。
表1に示されるように、試料1はSCM420からなる軸部材とし、試料2はJIS規格(JIS G 4053(2016))に定められているSCr435からなる軸部材とし、試料3はSUJ2からなる軸部材とした。試料1,2は、各鋼種から成る加工対象部材に対し上述した本実施の形態に係る軸部材の製造方法を施すことにより、準備された。試料3は、SUJ2から成る加工対象部材に対し、浸炭処理工程および浸炭浸窒工程に代えて全体焼入れを行うことにより、準備された。試料1に対する焼戻し温度は170℃とした。試料2及び試料3に対する焼戻し温度は180℃とした。各試料1~3の直径Dは18mmとし、軸方向の長さは73.9mmとした。
表1は、試料1~3に対して測定された、外周面の窒素濃度、炭素濃度、表面の残留オーステナイト量、表面硬さ、芯部の残留オーステナイト量、ビッカース硬さが653HVとなる第1位置P1の外周面からの深さ、残留応力、及び第1位置の半価幅を示す。各パラメータの測定方法は、上記の通りである。
試料1では、外周面30aの窒素の含有量が0.58質量%であり、外周面30aの炭素の含有量が0.75質量%であった。試料2では、外周面30aの窒素の含有量が0.42質量%であり、外周面30aの炭素の含有量が0.80質量%であった。試料3では、外周面30aの窒素の含有量が0.13質量%であり、外周面30aの炭素の含有量が1.00質量%であった。
試料1では、外周面の残留オーステナイト量が31体積%であり、芯部の残留オーステナイト量が2体積%であった。試料2では、外周面の残留オーステナイト量が30体積%であり、芯部の残留オーステナイト量が2体積%であった。試料3では、外周面の残留オーステナイト量が20体積%であり、芯部の残留オーステナイト量が10体積%であった。
試料1では、外周面の残留応力が-815MPaであった。試料2では、外周面の残留応力が-670MPaであった。試料3では、外周面の残留応力が-575MPaであった。
表1及び図4に示されるように、試料1では、第2位置の半価幅が5.2°であり、第3位置の半価幅が5.6°だった。試料2では、第2位置の半価幅が5.9°であり、第3位置の半価幅が6.1°だった。試料3では、第2位置の半価幅が7.0°であり、第3位置の半価幅が6.9°だった。
(静的曲げ試験後の軸曲がり量、及び転動疲労寿命試験後の軸曲がり量の評価)
試料1~3に対して静的曲げ試験を行い、試験後の曲がり量を測定した。
試料1~3に対して静的曲げ試験を行い、試験後の曲がり量を測定した。
静的曲げ試験では、温度が130℃に保持された炉内において、中心軸周りに回転させていない(回転速度0回/分)各試料の軸方向中央部を支持し、軸方向の両端部に合計15000Nのラジアル荷重を200時間加えた。静的曲げ試験後、コントレーサ(輪郭形状測定機)により各試料の軸方向の全長を測定することで、各試料の負荷側および反負荷側の軸曲がり量を算出した。さらに、算出された負荷側および反負荷側の軸曲がり量の平均値として、各試料の軸曲がり量を算出した。測定結果を、表2に示す。
同様に、試料1~3の各々と保持器付き針状ころ軸受と外方部材とを用いて、転動疲労寿命試験を行った。転動疲労寿命試験では、潤滑は120℃の潤滑油(オートマチックトランスミッションフルード)を用い、ラジアル荷重は6670N、モーメント荷重は13.5N・mとし、試験用軸に対する外方部材の相対的な回転速度は9000回/分とした。転動疲労寿命試験後、各試料の軸曲がり量を、上記方法により測定した。測定結果を、表2に示す。
表2に示されるように、試料1及び試料2の各々の軸曲がり量は、相対的に芯部の残留オーステナイト量が多い試料3の軸曲がり量よりも少なかった。また、芯部の残留オーステナイト量が同程度である試料1と試料2との間では、第2位置の半価幅が相対的に狭い試料1の軸曲がり量が、第2位置の半価幅が相対的に広い試料2の軸曲がり量よりも少なかった。この結果から、第2位置の半価幅が狭いほど、塑性曲がりが抑制され得ることが実験的に確認された。
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
10 内歯車、20,30 軸部材、21 太陽歯車、30a,31b 外周面、30b 高硬度領域、30c 芯部、31 遊星歯車、31a 内周面、32 転動体、32a 転動面、40 保持器、100 遊星歯車装置。
Claims (5)
- 表面を有する鋼製の軸部材であって、
前記鋼は、0.10質量%以上0.40質量%以下の炭素と、0.10質量%以上2.50質量%以下のシリコンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のマンガンと、0.40質量%以上3.00質量%以下のクロムと、1.00質量%以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物であり、
前記表面と前記鋼の硬さが653Hvとなる第1位置との間の距離は、0.2mm以上1.0mm以下であり、
前記表面の窒素濃度が0.2質量%以上1.2質量%以下であり、
前記表面の炭素濃度が0.6質量%以上1.2質量%以下であり、
X線回折ピークにおいて、前記表面からの深さZ(単位:mm)が前記軸部材の直径D(単位:mm)に対して0.085Dである第2位置での、マルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅が、6.5°以下である、軸部材。 - 前記X線回折ピークにおいて、前記深さZ(単位:mm)が0.033Dである第3位置でのマルテンサイト結晶(211)面のピークの半価幅が、前記第2位置での前記半価幅よりも広い、請求項1に記載の軸部材。
- 前記表面の残留オーステナイト量が、25体積%以上40体積%以下であり、
前記第1位置及び前記第2位置のそれぞれよりも内側に位置する芯部の残留オーステナイト量が、0.5体積%以上3.0体積%以下である、請求項1または2に記載の軸部材。 - 前記直径Dが、6mm以上30mm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の軸部材。
- 前記軸部材は、遊星減速機用の軸部材である、請求項1~3のいずれか1項に記載の軸部材。
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Applications Claiming Priority (1)
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JP2021180247A Pending JP2023068855A (ja) | 2021-11-04 | 2021-11-04 | 軸部材 |
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-
2021
- 2021-11-04 JP JP2021180247A patent/JP2023068855A/ja active Pending
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