JP4484105B2 - 金属ガラス積層体からなる金型成形体、及びその製造方法 - Google Patents
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Description
すなわち、金属ガラスをDSC(示差走査熱量計)を用いてその熱的挙動を調べると、温度上昇にともない、ガラス転移温度(Tg)を開始点としてブロードな広い吸熱温度領域が現れ、結晶化開始温度(Tx)でシャープな発熱ピークに転ずる。そしてさらに加熱すると、融点(Tm)で吸熱ピークが現れる。金属ガラスの種類によって、各温度は異なる。TgとTxの間の温度領域△Tx=Tx−Tgが過冷却液体領域であり、△Txが10〜130Kと非常に大きいことが金属ガラスの一つの特徴である。△Txが大きい程、結晶化に対する過冷却液体状態の安定性が高いことを意味する。
例えば、特許文献1には、過冷却液体領域の温度幅が広く、加工性に優れる非晶質合金として、XaMbAlc(X:Zr,Hf、M:Ni,Cu,Fe,Co,Mn、25≦a≦85、5≦b≦70、0≦c≦35)が記載されている。
また、特許文献3には水の電解用電極に適した金属ガラス材料として、Ni72−Co(8−x)−Mox−Z20(x=0、2、4又は6原子%、Z=メタロイド元素)が記載されている。
よって、金属ガラスのバルク材を作製してこれを過冷却液体状態で成形加工することが考えられるが、バルク材のサイズが大きくなると冷却に時間を要し、冷却速度が遅くなるため、結晶化させずに大きなバルク材料を得ることは難しい。
これに対し、金属ガラスを任意のサイズの基材上に積層でき、金属ガラス層表面に所望の形状を容易に加工成形することができれば、基材のサイズが制限されることなく金属ガラスの機能性を付与できる。また、積層体の基材に軽量素材や汎用材料を用いれば、軽量化や材料コストの低減化を図ることができる。
しかしながら、この方法では金属ガラス薄膜しか形成できず、その後の加工に十分な膜厚が得られない。また、大面積化も困難である。
また、鍍金などの湿式系では析出条件が難しく、組成が安定しないという問題がある。
特許文献4には、板状金属ガラス(厚み1mm)を他の金属板と重ね合わせた後、過冷却液体状態で押圧することにより両者を接合する方法が記載されているが、このような方法で強固に接合するには新生面の生成が必要であり、両方の板状部材の変形は避けられない。また、前記のように非常に大きな金属ガラスのバルク材を結晶化させずに得ることは難しく、大面積化には向いていない。
すなわち、本発明にかかるプレス成形体は、基材表面にアモルファス相の金属ガラス溶射皮膜層が積層され、前記金属ガラス溶射皮膜層表面には金型によるプレス加工で形成された凹凸形状及び/又は鏡面を呈する平滑面を有することを特徴とする。
本発明のプレス成形体において、金属ガラス溶射皮膜層の肉薄部における厚みが0.1mm以上であることが好適である。
また、本発明のプレス成形体において、基材の比重を3.0以下とすることができる。
本発明にかかるプレス成形体の製造方法は、
アモルファス相の金属ガラス粉末を、溶射により、過冷却液体状態で基材表面に衝突させて凝固及び積層して、基材表面にアモルファス相の金属ガラス溶射皮膜層を積層する工程と、
前記金属ガラス溶射皮膜層の表面に、過冷却液体領域で金型によりプレス加工して、金型の形状を該金属ガラス溶射皮膜層表面に転写する工程と、
を備えることを特徴とする。
また、本発明の方法において、基材表面に金属ガラス溶射皮膜層を積層する工程で金属ガラス溶射皮膜層の厚みを0.1mm以上とすることが好適である。
また、本発明の方法において、転写後の金属ガラス溶射皮膜層の厚みを肉薄部で0.1mm以上とすることが好適である。
図1の成形体10においては、基材12の表面に金属ガラス層14が積層されており、該金属ガラス層14の表面には凹凸形状16が形成されている。
また、本発明のプレス成形体は、図2に示すように、基材12の両面に所定の凹凸形状16a、16bをそれぞれ有する金属ガラス層14a、14bが形成されていてもよい。
本発明の成形体においては、金属ガラス層は基材表面の一部または全部に積層することができる。また、その表面形状は表面によって任意に形成することができる。
本発明においては、基材表面に金属ガラス層を形成して積層体とした後、前記金属ガラス層の表面に、過冷却液体領域で金型によりプレス加工し、金型の形状を転写して成形体を得る。
(i)基材12の表面に金属ガラス層14を形成して積層体18を作製する工程と、
(ii)積層体18の金属ガラス層14の表面に、過冷却液体状態で、所定形状の金型20を用いてプレス加工して金型20の形状を転写し、金属ガラス層14の表面に目的とする凹凸形状16を形成する工程
により、得ることができる。
また、図2のような成形体10も、図4に示すように、
(i)基材12の両面に金属ガラス層14a、14bをそれぞれ形成して積層体18を作製する工程と、
(ii)積層体18の金属ガラス層14a、14bの表面に、過冷却液体状態で、両側からそれぞれ所定形状の金型20a、20bをプレス加工して金型20a、20bの形状を転写し、金属ガラス層14a、14bの表面に目的とする凹凸形状16a、16bを形成する工程
により、得ることができる。
なお、金型として高度な平滑面を有するものを用いてこれを転写すれば、鏡面加工することができる。また、凹凸形状と平滑面とを兼ね備えた金型も使用できる。
本発明のプレス成形体の金属ガラス層は、耐食性などの観点からは、肉薄部での膜厚が0.1mm以上であることが好適である。
なお、本発明においては、特に問題のない限り、加熱処理やプレス処理などその他の公知の工程を必要に応じて組み入れることができる。
メタル−メタロイド系金属ガラス合金は、ΔTxが35K以上、組成によっては40〜50K以上という大きな温度間隔を有していることが知られている。金属元素としてFeを含有するものでは、例えばFe以外の他の金属元素と半金属元素(メタロイド元素)とを含有してなり、金属元素としてAl、Ga、In、Snのうちの1種または2種以上を含有し、半金属元素として、P、C、B、Ge、Siのうちの1種または2種以上を含有するなどが挙げられる。
メタル−メタル系金属ガラス合金の例としては、Fe、Co、Niのうちの1種又は2種以上の元素を主成分とし、Zr、Nb、Ta、Hf、Mo、Ti、Vのうちの1種又は2種以上の元素とBを含むものが挙げられる。
△Txが大きい程、過冷却液体状態が安定であり、積層や転写における制御が容易になるので、本発明においては△Txが20K以上、さらには40K以上の金属ガラスであることが好ましい。
好ましい組成として、例えば、Fe43Cr16Mo16C15B10(以下、下付き数字は全てat%を示す)、Fe75Mo4P12C4B4Si1、Fe52Co20B20Si4Nb4等の鉄基金属ガラスが挙げられる。
金属ガラス層を基材表面に積層するにあたっては、後のプレス加工による転写の際に、所望の凹凸形状や鏡面仕上げを得るに十分な厚みを形成することが必要である。積層体における金属ガラス層の厚み(転写前の金属ガラス層の厚み)は、転写する形状の幅、深さ、密度などのパターンや目的に応じて適宜決定すればよいが、例えば、肉薄部における金属ガラス層の厚みを0.1mm以上としたい場合には、少なくとも0.1mmは必要であり、好ましくは1mm以上とすることが望ましい。積層体における金属ガラス層の厚みの上限は特に制限されるものではないが、厚くなりすぎると不経済であり、通常は5mm以下である。
金属ガラス層を基材上に積層する方法として、溶射が好適に使用できる。金属ガラス粒子を溶射によって過冷却状態で基材表面に衝突させることにより、金属ガラスの均一なアモルファス相の溶射皮膜を基材上に強固に形成することができる。
過冷却液体領域では、金属ガラスは粘性流動を示し、粘性が低い。このため、過冷却液体状態にある金属ガラスが基材表面に衝突すると、瞬時に薄く潰れて基材表面に広がり、厚みが非常に薄い良好なスプラットを形成することができる。そして、このようなスプラットの堆積により、気孔が非常に少ない緻密な膜を形成することができる。
従って、本発明の方法によれば、均一な金属ガラスのアモルファス固体相からなり、且つ気孔がほとんどない緻密な金属皮膜を溶射により得ることができる。
金属ガラス皮膜中の気孔は非常に少なく(気孔率は10容積%以下、好ましくは2容積%以下)、また、気孔径も皮膜の膜厚よりもごく小さく、皮膜を貫通するような連続気孔は存在しない。
図5は、高速フレーム溶射(HVOF)装置の一例の概略図である。同図に示すように、HVOF装置は溶射ガン30を備え、該溶射ガン30の基部(図中左方)から燃料パイプ32及び酸素パイプ34を介してそれぞれ燃料及び酸素が供給され、溶射ガン30のフレーム端(図中右方)には高速の燃焼炎(ガスフレーム)36が形成される。そして、この溶射ガン30のフレーム端に近接して溶射材料供給パイプ38が設けられ、該パイプ38から溶射材料粉末が搬送ガス(N2ガスなど)により圧送供給される。
燃料としては、灯油、アセチレン、水素、プロパン、プロピレン等を用いることができる。
溶射粉末の粒径は、特に問題のない限り制限されないが、10〜80μm、さらには20〜50μmが好適に使用できる。
また、比重が小さな素材として、例えば比重が3.0以下であるアルミニウムやマグネシウム、それらの合金なども使用できる。
本発明において、基材のサイズや形状は任意であり特に制限されない。溶射による積層では、圧延によって接合する場合のような基材の変形がないので、用いた基材の形状はそのままプレス成形体においても維持することができる。
また、アルミニウムなどの基材との積層体では、従来困難であった軽量化や低価格化が可能である。
溶射皮膜の表面は、スプラットの堆積により微視的には平滑面ではないが、上述のように、過冷却液体状態で転写することにより容易に平滑面とすることができる。
本発明によれば、このような溝が転写により容易に形成でき、また、軽量化の問題も解決できる。また、バイポーラプレートには、電気伝導性がよいこと、厳しい腐食環境に耐えること、サイズ変化が小さく精密加工に適していることなども要求されるが、本発明の成形体はこのような点も十分満足することができる。
よって、このような電極において本発明のプレス成形体を用いれば、金属ガラスの使用量が低減できる。また、金属ガラス層に凹凸を形成すれば表面積が増大し、電極の小型化にも寄与できる。
なお、原料であるFe43Cr16V16C15B10金属ガラス粉末をDSC(示差走査熱量計)で測定したところ、ガラス転移温度(Tg)は646.6℃、結晶化開始温度(Tx)は694.8℃、融点(Tm)は約1094.8℃であった。
また、溶射基材としてはSUS304を用いた。
粉末搬送ガスはN2、燃料は灯油、溶射距離(溶射ガンの先端から基材表面までの距離)は200mmであった。
そして、遮断板を用いずに連続的に溶射を行った場合には、溶射密度に応じて基材表面に種々の膜厚の溶射皮膜を形成することができ、0.01mm以上から形成でき、0.1mm以上も、例えば2〜3mmの厚膜も形成可能であった。これら溶射皮膜は基材表面に強固に結合しており、また、溶射皮膜のX線回折により、完全なアモルファス相であることが確認された。また、その断面を電子顕微鏡にて観察したところ、溶射皮膜は非常に緻密で気孔はほとんどなく、連続気孔も認められなかった。また、酸化物層の形成も認められなかった。
これらの結果は、金属ガラスの溶射粒子が過冷却液体状態で基材表面に衝突したことによるものと考えられる。
このようにして得られた積層体は、過冷却液体領域でのプレス加工により、金型形状を金属ガラス表面に高精度に転写することができるものである。
12 基材
14、14a、14b 金属ガラス層
16、16a、16b 凹凸形状
18 積層体
20、20a、20b 金型
30 溶射ガン
32 燃料パイプ
34 酸素パイプ
36 ガスフレーム
38 溶射材料供給パイプ
40 溶射粒子
42 基材
44 溶射皮膜
Claims (9)
- 基材表面にアモルファス相の金属ガラス溶射皮膜層が積層され、前記金属ガラス溶射皮膜層表面には、金型によるプレス加工で形成された凹凸形状及び/又は鏡面を呈する平滑面を有するプレス成形体。
- 請求項1記載のプレス成形体において、金属ガラス溶射皮膜層の肉薄部における厚みが0.1mm以上であることを特徴とするプレス成形体。
- 請求項1又は2記載のプレス成形体において、金属ガラスが鉄基を30〜80原子%含むことを特徴とするプレス成形体。
- 請求項1〜3の何れかに記載のプレス成形体において、基材の比重が3.0以下であることを特徴とするプレス成形体。
- アモルファス相の金属ガラス粉末を、溶射により、過冷却液体状態で基材表面に衝突させて凝固及び積層して、基材表面にアモルファス相の金属ガラス溶射皮膜層を積層する工程と、
前記金属ガラス溶射皮膜層の表面に、過冷却液体領域で金型によりプレス加工して、金型の形状を該金属ガラス溶射皮膜層表面に転写する工程と、
を備えることを特徴とするプレス成形体の製造方法。 - 請求項5記載の方法において、溶射が高速フレーム溶射であることを特徴とするプレス成形体の製造方法。
- 請求項5又は6記載の方法において、基材表面に金属ガラス溶射皮膜層を積層する工程で金属ガラス溶射皮膜層の厚みを0.1mm以上とすることを特徴とするプレス成形体の製造方法。
- 請求項5〜7の何れかに記載の方法において、転写後の金属ガラス溶射皮膜層の厚みを肉薄部で0.1mm以上とすることを特徴とするプレス成形体の製造方法。
- 請求項1〜4の何れかに記載のプレス成形体において、金型でプレス加工される溶射皮膜層が、予め調製されたアモルファス相の金属ガラスを原料として基材表面に積層されたアモルファス相の金属ガラス溶射皮膜層であり、金属ガラスの過冷却液体温度領域△Txが20℃以上であり、金属ガラス溶射皮膜層に連続空孔(ピンホール)が存在せず、金属ガラス溶射皮膜層の気孔率が2容積%以下であり、金属ガラスが複数の元素から構成され、構成元素として少なくともFe、Co、Ni、Ti、Zr、Mg、Cu、Pdの何れか一つの元素を含むことを特徴とするプレス成形体。
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