JP5260878B2 - 溶射によるアモルファス皮膜の形成方法 - Google Patents

溶射によるアモルファス皮膜の形成方法 Download PDF

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Description

請求項に係る発明は、金属等の母材の表面に溶射によってアモルファス(非晶質材料)の皮膜を形成する、溶射によるアモルファス皮膜の形成方法に関するものである。
アモルファス(非晶質)金属は、結晶状態と相違する不規則な原子配列をもつ金属であり、機械的強度や耐食性が高く磁気的特性にもすぐれるため、その製造方法や用途について種々の研究・開発がなされている。物体の表面に溶射によってアモルファス皮膜を形成する技術に関してもさまざまな提案がなされている。アモルファス皮膜がもし溶射によって形成できるなら、しかも簡単な溶射設備を用い、任意の現場で大気中の作業によってそれが行えるなら、当該皮膜の形成を広い面積部分に対して容易に施工できる等というメリットがあるからである。なお、完全なアモルファス金属でなく、一部に結晶質部分を含むものであっても、一般に機械的強度や耐食性、磁気的特性等に関してすぐれた性質を発揮する。
下記の特許文献1では、プラズマ溶射等によって溶解した合金原料を火炎とともに吹き飛ばし、その飛翔方向と直交する方向に高速移動する基体(母材)に吹き付けて冷却することにより非晶質体を得る、という皮膜の形成方法が記載されている。使用する装置は図15に示すとおりであり、ノズル5から噴射する火炎F中に金属粉体を供給し溶融させて基体Mに吹き付け、急冷して基体M上にアモルファス皮膜を作る。基体Mには、その表面の冷却のために冷却ガスが吹き付けられる。こうして、図のような平板状の基体Mの表面上に、厚さが0.3mm以上の非晶質層が得られるとされている。
一方、下記の特許文献2では、母材表面に金属ガラス層を形成する技術が開示されている。1960年代に開発された高耐食性アモルファスFe−P−C系の非晶質合金の多くは、過冷却液体温度領域の温度幅が非常にせまいため、単ロール法と呼ばれる方法などにより10K/sレベルの冷却速度で急冷しなければ非結晶質が形成できなかった。しかも、そうした方法では、厚さが50μm程度以下の薄帯状のものしか製造することができない。これに対して近年、過冷却液体温度幅が比較的広く、金属溶融体を0.1〜100K/s程度のゆっくりした冷却速度で冷却しても過冷却液体状態を経過してガラス層(アモルファス相)に凝固する合金が見出された。これらは、金属ガラスあるいはガラス合金と呼ばれて従来のアモルファス合金と区別されている。特許文献2には、そうした金属ガラス、すなわち冷却速度が遅くてしかも安定した過冷却液相状態の金属ガラスについて、製造方法およびその性能が示されている。
特開昭55−88843号公報 特開2006−214000号公報
母材に対し火炎とともに溶射材料を吹き付けてアモルファスの金属等を得るためには、火炎によって一旦溶融させた溶射材料をきわめて急速に(つまり材料が過冷却状態になるべく短時間に温度降下するように)冷却する必要がある。上記の特許文献1にも、102〜104K/secの速さで合金を急冷する旨が記載されている。
しかし実際には、アモルファスが形成される程度に溶射材料を急冷することは容易ではない。火炎とともに噴射された直後など、2000℃を超える高温状態にある材料なら104K/sec程度かそれ以上の速さで急冷することができても、それが数百℃程度にまで温度降下したのちは、周囲との温度差が小さくなる等の理由により、同様の冷却速度を実現することも最低到達温度を十分に下げることも困難なのである。そのような事情により、特許文献2に述べられているように、一般のアモルファス金属(金属ガラス以外のもの)を非晶質にすることは難しく、したがってアモルファス金属を工業的に量産する溶射方法は現実には確立されていない。
請求項に係る発明は、金属ガラス等には限定されない一般のアモルファス材料の非晶質皮膜(または大部分が非晶質のもの)を溶射によって形成するための方法を提供するものである。
請求項に係る発明の溶射によるアモルファス皮膜の形成方法は、材料粒子を含む火炎を母材に向けてノズルより噴射し、当該材料粒子を火炎によって溶融させたうえ、当該材料粒子および火炎を、母材に達する前から冷却することを特徴とする。「火炎」にはアークまたはプラズマジェットを含む。また「アモルファス皮膜」には、非晶質の金属および非金属、ならびに完全にはアモルファス化していないものを含むものとする。
この溶射方法によれば、噴射される材料粒子と火炎が冷却されるので、火炎によって一旦溶融させられた材料粒子が、火炎の下流側部分等において母材に達する前に相当に温度降下させられる。したがって、上述のように通常なら十分な冷却速度・最低到達温度を実現しがたい後半部分(比較的低い温度域)においても材料粒子を十分に強く冷却することができ、母材を冷却または保温しなくとも当該材料を非晶質の皮膜として母材表面に形成することが可能になる。
上記の冷却(すなわち材料粒子を含む火炎の冷却)は、気体または液体ミスト混合気体(ミスト化した液体を気体中に混入させたもの)を、火炎に接する部分から内部冷却として火炎に吹き付け、または火炎と離れた外側周辺部から外部冷却として火炎に吹き付けることにより行うのがよい。その気体としては、たとえば空気、窒素、アルゴン等を使用し、火炎噴射方向の上流側から下流側へ向けて、次第に火炎の中心線に近づくよう斜めに吹き付けるとよい。
冷却のための気体を火炎に対してこのように吹き付けるなら、当該気体で火炎の温度を下げるとともに、火炎の広がりを抑えてその長さを短くでき、したがって噴射口から遠くない位置で火炎の温度を低くすることが可能になる。噴射口に近い位置で火炎の温度を下げられるということは、火炎中で一旦溶融した材料を急冷できることにほかならない。火炎の下流寄りの箇所にさらに気体を吹き付けるようにすれば、ある程度温度降下したのちの材料粒子の冷却速度を高くすることが可能である。火炎の長さ方向および周方向における複数箇所において当該気体を吹き込むようにするのもよい。なお、ミストを含む気体(たとえば水ミスト)を使用すると、微細な(50μm程度の)液体粒子が有する気化熱のために高い冷却能力が発揮される。またその結果、溶射材料の母材への付着温度を150℃程度まで下げることも可能である。
上記母材は、特別な温度コントロールをすることなく、つまり上記の気体または液体ミスト混合気体を吹き付けること以外には上記母材を冷却等することなく、その温度を50℃以上・350℃以下にするのがよい。
そのようにすれば、母材を別途冷却等しなくとも、吹き付ける気体等の作用で母材温度の上昇が抑制され、非晶質溶射材料がその表面に付着しやすくなる。
上記の材料粒子は、ノズルを出たのち5/1000秒以内に溶融させ、そののち2/1000秒以内に1万K/秒以上・100万K/秒レベルの速度で冷却するようにすべきである。
ノズルを出た材料粒子を5/1000秒以内に溶融させなければ、当該粒子は固体のままの状態(または表面のみが溶融した状態)で母材に達し、均一なアモルファス皮膜となることがない。また溶融した材料粒子を、溶融後2/1000秒以内に1万〜100万K/秒レベル(数百万K/秒まで)の速度で冷却するのでなければ、それが非晶質になることがなく、また、ノズルから適切な距離(300mm程度以下。これを超えると火炎中に酸素が増加して粒子の酸化が進みやすくなる)にある母材までに十分低い温度にすることができない。
上記の材料粒子としては、下記式(1)にしたがう粒径(球形に見立てる場合の直径)Rのものを使用するのが好ましい。
R=(6U)/{ρ・C・(v/v1/2} …(1)
ただしここで、Uは単位表面積当たりの熱量を示す材料特性であって、
U=(材料粒子の熱量(cal/℃))/(材料粒子の表面積(cm2))
=C・ρ・V/A(cal/cm2℃)
0.196/1000 ≦ U ≦ 1.96/1000
V:材料粒子の体積(cm3)、A:材料粒子の表面積(cm2
ρ:材料の比重(g/cm3)、C:材料の比熱(cal/g℃)
v:噴射時の材料粒子の速度(cm/秒)
:標準材料粒子速度(6000cm/秒)
である。Uが上記の範囲の値をとるため、粒径Rにも適切な(つまり溶射によるアモルファス皮膜の形成が可能な)範囲が定まる。
溶射によって安定してアモルファス皮膜を形成するためには、溶射する材料粒子の粒径を適切に定める必要がある。粒径が大きい場合には溶融が不完全になったり溶融後の冷却速度が不十分になったりするほか、粒径が小さすぎる場合には、溶融状態で酸化が進むために好ましいアモルファス皮膜が形成されないからである。
上記の式(1)は、下記のように、実験によって発明者らが得た知見とニュートンの冷却理論とに基づいて材料粒子の適切な粒径の範囲を見出したものである。すなわち、
1) ノズルから噴射された飛行中の材料粒子の形状について、寒天に向けて溶射を行う図9(a)・(b)の実験により確認した。すなわち、本来なら母材を設ける位置(ノズルから約200mm先の位置)に寒天(1.7重量%が寒天であり残りが水であるもの)を置き、それに向けて材料粒子を含む火炎を噴射した。材料粒子は飛行中の形のままで寒天にささり込むが、それを回収して観察すると、飛行中の材料粒子は、噴射前の粉末材料の初期粒径と同様の球形であることが分かった。球形であれば、後述する粉末粒子の体積および表面積がとらえられるのでニュートンの冷却式が適用しやすい。
2) 噴射された材料粒子の速度を、図7のとおり測定した。図7は、外部冷却のためのエアの圧力を変更したうえ、ピトー管方式の流速計を用いて速度を測定したものである。
3) 火炎の温度は、サーマルビジョンを用いて図3の例のように測定した。
以上のような実験データをもとに、下記の式(2)に示すニュートンの冷却式に基づいて材料粒子の冷却速度を予測する。すなわち、時間当たりの熱の移動量q(cal/sec)を考えると、
q=hA(T−T)=−CρV(dT/dt) …(2)
ただし、
時間tが0のときの T=T(初期材料温度)
(T−T)/(T−T)=exp{−(hA/CρV)t}
h:熱伝達係数(cal/cm2・K・sec)、T:材料粒子温度(K)
:雰囲気温度(K)、A:表面積(cm2)、V:体積(cm3
ρ:平均比重(g/cm3 成分系の重量比分配)
C:平均比熱(cal/g・K 成分系の重量比分配)
図3等の実測データに沿うように熱伝達係数hを決め、後述する特定の材料粒子の特定条件下での温度変化を計算すると、図8のようになる。図8によれば、材料粒子の加熱には溶射時間(噴射されてから母材に達するまでの時間)の約3/4が費やされる一方、冷却は、10〜10K/sの高い冷却速度により溶射時間の約1/4で行われることが分かる。また、材料粒子の粒径により、加熱速度や冷却速度に差が生じることも分かる。
材料粒子の適切な粒径Rに関する式(1)は、上記計算結果の粒子径に加熱・冷却速度等を考慮に入れて、下記の観点から作成している。まず、材料粒子の物性(比重・比熱)によって相違があること、および、材料粒子の表面積により溶射温度の影響の受け方が違うことを考慮して、材料粒子の温度の上昇および下降は、その粒子が有する下記のような単位表面積当たりの熱量Uによって決まるものとした。
U=(材料粒子の熱量)/(材料粒子の表面積)=C・ρ・V/A (cal/cm2℃)
ただし、
C:材料の比熱(cal/g℃)、ρ:材料の比重(g/cm3
A:材料の表面積(cm2、4πr)、V:材料の体積(cm3、4πr/3)
上記のU値は、実際のアモルファス皮膜のでき具合を勘案すれば、その可能範囲は、
0.196/1000 ≦ U ≦ 1.96/1000
にある。
溶射の際の溶射ガンの種類による材料噴出速度の影響をつぎのような速度補正項で補正した。
(v/v1/2
v:噴射時の材料粒子の速度(cm/秒)
:標準材料粒子速度(6000cm/秒)
を考慮することとし、上記Uの式を粒径R(=2r)を用いて表したうえRを左辺に出すと、材料粒子の粒径Rは、
R=(6U)/{ρ・C・(v/v1/2} …(1)
によって求められる。
上記の材料粒子として、たとえば平均粒子速度が60m/sのフレーム式溶射ガンを使用した場合、粒径Rが10〜100μmのものを使用するとよい。
また、上記の式(1)におけるU値に上記の数値を入れて、噴射速度が600m/sの高速フレーム式溶射ガンを使用するときは、溶射によってアモルファス皮膜を形成可能な粒径Rは、3.2〜32μmとなる。
上記の火炎として、酸素量が適正量(理論比)より少ないためにCOの体積比率が20〜30%である還元炎(つまり酸素が少なめのもの)を使用するのが好ましい。ただし、燃料として水素を使用する場合はこの限りでない。
母材上に形成されたアモルファス皮膜を顕微鏡にて観察すると、X線分析によるハローピークおよび結晶化度が同程度であっても、酸化物が多数箇所に点在する好ましくないアモルファス皮膜が形成される場合があることが分かる。そのような酸化物の発生は、前記のように材料粒子の粒径が小さくなりすぎないようにすることによっても防止できるが、フレーム式の溶射装置において還元炎を使用することによっても抑制できることが実験により明らかになった。そうして還元炎を使用すると、材料粒子の粒径が小さめである場合や火炎等の噴射口から母材までの距離が長めである場合等にとくに効果的だといえる。
これに関する実験結果は、表2、図10および図11に示している。還元炎の使用によって、ハローピークや結晶化度に差がなくても、酸化物の少ない好ましいアモルファス皮膜の形成が可能であることが分かる。
内部冷却または外部冷却として吹き付ける上記の気体(気体のみ吹き付ける場合の気体、または、液体ミスト混合気体における気体)として、不活性ガス(窒素やアルゴン等)を使用するのも有利である。
実験により、内部冷却または外部冷却として不活性ガスを吹き付けることによっても、材料粒子の酸化を抑制することができ、好ましいアモルファス皮膜を形成できることが明らかになった。実験結果は、上記と同じ表2、図10および図11に示している。材料粒子の粒径が小さめである場合や、火炎等の噴射口から母材までの距離が長めである場合等は、材料粒子の酸化が進みやすいのが通常であるため、この方法がとくに効果的であるともいえる。
上記の材料粒子として、不純物(Mn、S等)を0.1%(総量の0.1重量%)以上・0.6%(総量の0.6重量%)以下の範囲で含有する一般工業用材料を使用するのが商業的に好ましい。
請求項に係る上記の方法によると、不純物を0.1%未満にした特別にピュアな材料粒子を使用しなくとも母材表面にアモルファス皮膜を形成することが可能である。つまり、上記のように不純物を0.1〜0.6%程度含有する一般工業用材料によっても、アモルファス皮膜の形成が可能である。そうした一般工業用材料を使用する場合には、施工コストの面で大幅に有利である。
上記ノズルを有する溶射ガンを大気中において使用し、裏面および内部において冷却を施さない母材の表面に上記の材料粒子を吹き付けることとすれば、さらに好ましい。
発明の方法によると、不純物が0.1%未満の特別ピュアな材料粒子を使用する必要がないばかりか、溶射ガンを真空中もしくは特別の雰囲気下で使用したり、母材を裏面や内部において冷却したりする必要もない。そのような特別な条件下でなくとも母材表面にアモルファス皮膜を形成できる。不純物を0.1〜0.6%程度含有する一般工業用材料を用い、溶射ガンを大気中において使用し、しかも母材に対して特別な冷却を施さないこととすれば、アモルファス皮膜の形成を、どのような現場においても、任意の母材に対し低コストで容易に実施することが可能になり、アモルファス皮膜の形成対象が極めて広範囲に拡大されることになる。
鉄クロム系合金のアモルファス皮膜を形成すべく、上記の材料粒子として、
Fe(r1)−Cr(r2)−P(r3)−C(r4)−不純物
のものを使用するとよい。ただし、riの表示は原子%で、
Σri=r1+r2+r3+r4≒100(%)、および
65<r1<75、4<r2<15、8<r3<17、1<r4<8
とし、不純物は0.1〜0.6重量%とする。
このような鉄クロム系合金のアモルファス皮膜は、耐食性にすぐれることで知られているものの、工業用として形成することが従来は難しかった。請求項に係る発明の方法によってこうしたアモルファス皮膜の形成が可能になった。これにより、簡単な溶射の作業によって当該母材の耐食性を飛躍的に高めることが可能になる。
上記のr1、r2、r3、r4がそれぞれ70、10、13、7であるようにする(不純物は0.1〜0.6重量%)と、とくに好ましい。
そうすると、耐食性がきわめて高いとされる鉄クロム系合金(Fe70Cr10137)のアモルファス皮膜を溶射にて母材上に形成することができる。それにより、母材の耐食性を飛躍的に高めることが可能になる。発明者らが上記方法によって形成したこの合金の被膜を王水に浸漬して行った腐食テストにおいても、図12のように顕著な耐食性(腐食の進行が1.2%/日であった)が確認された。
r1、r2、r3、r4がそれぞれ70、10、13、7である上記の材料粒子として、粒径が38〜63μmのものを使用するのが適切である。実験により、アモルファス皮膜を形成するための適切な粒径がその範囲であることが明らかになった。
そのような材料粒子について物性値等を前記の式(1)に当てはめると、前記のU値は
0.75/1000 ≦ U ≦ 1.23/1000
である。
磁性合金のアモルファス皮膜を形成するために、上記の材料粒子として、
Fe(r1)−B(r2)−Si(r3)−C(r4)−不純物
のものを使用するのもよい。ただし、riの表示は原子%であって、
Σri=r1+r2+r3+r4≒100、および
2<r1<85、11<r2<16、3<r3<12、1<r4<72
とし、不純物は0.6重量%以下(下限はたとえば0.003重量%)とする。
このような材料粒子を使用すれば、あらゆる方向にすぐれた磁性を有していて鉄損の少ない、好ましいアモルファス磁性合金被膜を母材表面に形成することができる。
上記のr1、r2、r3、r4がそれぞれ81、13、4、2である(不純物は0.6重量%以下。また下限はたとえば0.003重量%)ものを使用するのがとくに好ましい。
このような材料粒子を使用することにより、あらゆる方向にすぐれた磁性を発揮する磁性合金(Fe8113Si42)のアモルファス皮膜を溶射によって母材上に形成することができる。これに関する実験結果は図14に示している。
請求項に係る発明である溶射によるアモルファス皮膜の形成方法によれば、噴射される材料粒子と火炎とを十分に強く冷却することができ、当該材料を非晶質の皮膜として母材表面に形成することができる。
火炎に対して気体等を吹き付けることにより上記の冷却をはかり、その気体の種類や吹き付けの態様、材料粒子の粒径、火炎の成分等を適切に設定すれば、非晶質化の割合や酸化物の発生量等に関してさらに改善をはかることが可能である。溶射材料とする材料粒子として低純度のものを使用することも可能であり、その場合には低コストでの商業的実施が容易になる。
鉄クロム系合金のアモルファス皮膜、とくにFe70Cr10137の皮膜を母材上に形成する場合には、簡単な溶射の作業によって当該母材の耐食性を飛躍的に高めることが可能になる。また、磁性合金のアモルファス皮膜を母材上に形成することも可能である。
発明の実施に関する形態を図1〜図14に紹介する。
まず、図1・図2に基づいて溶射装置1の構成を説明する。溶射装置1は市販の溶射ガン2をベースにしたもので、ガス供給管3等より燃料(アセチレンと酸素)を供給するとともに粉末供給管4より金属粉末およびキャリアガスを供給し、溶射材料(供給された金属粉末が溶融したもの)を含む火炎Fを、溶射ガン2の主ノズル(火口)5から図示右方へ噴射することができる。主ノズル5のうち、図2(b)に示す中央部の噴出口5aより溶射材料が噴出し、その周囲にある複数の噴射口5bより、アセチレンと酸素(またはエア)との混合ガスが燃焼してなる火炎Fが噴射される。
実験で使用した溶射装置1は、上記した市販の溶射ガン2に下記a)〜c)のような改変を施している。すなわち、
a) 溶射ガン2の先端付近に支持枠7を設け、図1(a)のようにその支持枠7に複数本の外部ガス噴射ノズル10(11・12・13・14)を取り付けた。ノズル10のそれぞれは内径が5〜10mm程度の金属管であり、いずれも、支持枠7上に取り付けた基部から溶射ガン2の主ノズル5の外側を火炎Fの噴射方向とほぼ並行に延び、先端部を図のように火炎Fの中心線寄りに傾斜させている。先端部の角度によって1次ノズル11、2次ノズル12、3次ノズル13、4次ノズル14と名付けている。1次ノズル11は主ノズル5から60mm程度下流側の位置に先端(開口)を設けて噴射先をさらに20〜30mmだけ下流側の火炎中心に向け、他のノズル12・13・14は、噴射先をこの順にそれぞれやや下流側の火炎中心に向けている。これらにより、火炎Fの下流側部分(主ノズル5から母材Mまでのうち後半の約2分の1の範囲)に外側から、冷却用のガスH(外部ガス。エアや窒素、または水ミスト)を吹き付けるのである。ノズル10としては、上記のように1〜4次の各ノズル11〜14を火炎Fの長さ方向に分けて配置したほか、火炎Fの周囲にも、45°〜72°の間隔をおいて各ノズル11〜14を複数本ずつ設けている。また支持枠7に取り付けた各ノズル10の基部は、支持枠7の背部(火炎Fの噴射向きと逆の側)に設けた継手16aに通じていて、その継手16aによりフレキシブルホース16と接続している。なお、支持枠7は実験用のものであり、それを使用せずにノズル10を配置することも可能である。また、ノズル10(11・12・13・14)の長さや先端の位置、角度、ガスの噴射圧力・噴射量等は、冷却条件等に応じて適宜に変更することが可能である。
b) 外部ガス噴射ノズル10(11〜14)のそれぞれの管の上流側には、上記のフレキシブルホース16を介してミスト発生器15を接続している。ミスト発生器15としては、潤滑油供給に用いる市販のオイルミスト発生器(ルブリケーター)を流用しており、潤滑油に代えて水をその給液部に入れておくことにより、水を霧状(水ミスト)にして空気とともに各ノズル10内に送り込む。溶射装置1は、こうして水ミストを、上記したノズル10の先端から火炎Fに向けて噴射するのである。ミスト発生器15に何の液体も入れないこととすれば、ミストを含まないエア(または窒素等の気体)をノズル10の先から噴射することができる。なお、水ミストを噴射するための手段は、上記に限るものではない。
c) 溶射ガン2としては、図2(a)・(b)のように、火炎Fを吹き出す主ノズル5の周囲にガス噴射筒(エアキャップ)6を有し、溶射ガン2の本体の冷却および火炎Fの温度コントロール等の目的でそれより冷却ガス(たとえば常温エアG)を吹き出せる型式を採用している。この溶射装置1では、そうした噴射筒6の吹出し孔6aを改造して当該ガスの噴射向きに特有の角度をもたせるとともに、主ノズル5における溶射材料の噴出口5aの口径を大きめに設定し直している。すなわち、冷却ガスの噴射角度としては、外周から次第に火炎Fの中心線に近づくように図示のとおり火炎Fの中心線方向と10°(または9〜12°)の角度をもたせ、主ノズル5の噴出口5aの口径(直径)は5.0mm(または4〜6mm)と市販品(口径は3.0mm)より6割程度大きくした。噴出口5aの口径を大きくしたのは、溶射材料が高温度で多量に噴出され得るようにしたもので、また、冷却ガスの噴射角度として中心線寄りへの10°を設定したのは、噴射筒6からのエアGにより火炎Fを上流側部分(主ノズル5に近い位置)で冷却するとともにその広がりを抑えて火炎長さを短くするためである。なお、外部ガス噴射ノズル10による火炎Fの冷却を「外部冷却」と呼び、ガス噴射筒6からのガス(エアG)による冷却を「内部冷却」と呼んで両者を区別することができる。
このように改変を加えた図1・図2の溶射装置1を使用すると、主ノズル5から噴射された火炎F(溶射材料を含む)は、溶射距離とともにたとえば図1(b)のように温度変化する。すなわち、まず主ノズル5を出た直後には、その口径が大きく設定されていること等により火炎Fは2500℃前後の高温度であるが、溶射距離の約半分で1400℃程度となる。主ノズル5を出て約3/1000秒後の金属粉末の飛行スピードは約30m/sで(図7を参照)、この間に金属粉末は完全に溶融する。後半は、外部ガス噴射ノズル10による外部冷却が始まり、それにより噴射される気体(またはミスト含有気体)により、溶融状態の金属粉末は100m/s程度に加速される(図7を参照)。この後半の冷却は10〜10K/秒の速度で行われ、溶融状態にあった金属粉末は高速冷却されながら母材Mの表面に粘着し、そこでアモルファス皮膜となる。こうして被膜が形成されるときの母材Mの温度は、図4に示すとおり300℃前後(50℃以上・350℃以下)である。
以上のような特徴をもつ溶射装置1を用いた試験により、鉄板の表面上に、溶射によって、非晶質の(または大部分が非晶質の)アモルファス皮膜を形成することができた。試験では、図1(a)のように、主ノズル5の先端開口から約150〜200mmの距離に鉄板製の母材Mを置き、溶射材料として各種金属粉末を供給して溶射を行った。以下に、発明者らが行った試験とその結果等を紹介する。
試験中の火炎Fの温度分布を測定すると、たとえば図3(a)〜(c)のとおりであった。図3(a)・(b)は火炎Fの中心線に沿ってその温度の変化を示す線図(各縦軸は温度指標、横軸は左方の主ノズル5からの相対位置を示す)である。図3(a)は高温域の測定結果であり、同(b)は低温域の測定結果である(測定レンジと測定器の表示機能との関係で図3(a)のうち低温域(200℃以下の部分)にはエラーが表れている)。火炎Fの温度が、当初の高温域(2500〜1500℃)から顕著に降下し、母材Mに近い後半部分においては200℃以下にまで温度降下している。200℃以下という温度は、溶射材料である合金の融点をはるかに下回るが、溶射材料はこののち母材Mの表面上に付着して固体となる。
また、図3(c)はサーマルビジョンによる火炎F全体の撮影画像であり、左方に主ノズル5があり右方に母材Mがある。画像では、左右に延びた外部ガス噴射ノズル10によって火炎Fの一部が遮られているが、火炎Fにおける高温度の範囲がかなり短いことが観察される。
なおサーマルビジョンとは、日本アビオニクス株式会社製の赤外線カメラ(商品名「コンパクトサーモ」。「サーモ」とも呼ぶ)をさす。サーマルビジョンによる測定はε(放射率)0.10で行っている。
試験では、母材Mとした鉄板の表面に熱電対を付け(熱電対を裏側より穴に挿入して表面付近に当てる)、溶射ガンおよび母材Mを固定した状態で溶射中の母材Mの温度変化を測定した。図4はその温度測定結果であり、母材Mの温度は350℃以上には上昇していないことが分かる。火炎Fが外部ガスH(図4の例では水ミスト)等で十分に冷却されることが、母材Mの温度上昇が抑制される理由であると考えられる。
図5には、外部ガスとしてエア(外部エア)を吹き付ける場合の、エアの圧力(およびそれとともに変化する流量)によって変わる火炎の温度分布につき、上述のサーマルビジョンにより測定した結果をまとめて示している。図は、溶射距離100mmの位置から母材Mに達するまでの温度履歴である。エアを吹き付けないケース(a)では、母材Mに当たって一部が戻ること等の影響で火炎Fの温度は後半になっても下がらず、むしろ上昇する。エアの圧力を0.1〜0.5MPaに設定したケース(b)〜(f)では火炎Fは母材Mに達する前から温度降下する。
図6(a)〜(f)には、図5中の(a)〜(f)の各ケースで母材上に形成した皮膜についてX線回折測定をした結果を示す(横軸は回折角度2θ、縦軸は強度である)。エアを吹き付けない(a)のケースを除き、(b)〜(f)の各ケースでは、当該皮膜の大部分が非晶質であることを示す明瞭なハローピークが確認できる。(a)〜(f)の各ケースの皮膜の結晶化度は、ぞれぞれ、75.8%、18.8%、16.2%、16.5%、16.3%、16.4%であった。なお、結晶化度の値は測定条件(測定器・測定方法等)によって偏差を有するのが通常であるため、その値をもって絶対評価をするには適していないとされている。ただし、今回の測定条件(下記のRIGAKU製の装置および解析ソフトを使用)による値については、結晶化度が20%以下であれば、光学顕微鏡によっても結晶を見つけることはできなかったため、その皮膜はアモルファス化しているとみてよいと考えられる。また、性能においても、王水での浸漬テスト結果(図12)により実証されている。
図5および図6の試験において使用したX線回折分析(XRD法)の測定器と測定条件は、
分析装置 : RINT2000(RIGAKU製)
分析条件
管球 : Cu
電圧 : 40kV
電流 : 200mA
測定角度(2θ): 5〜120°
スキャンスピード: 4°/min
であり、(a)〜(f)の各ケースに共通する溶射等の条件は、
供給した燃料ガスの種類と量・圧力:
酸素 2.1 m3/h、0.20MPa
アセチレン 1.8 m3/h、0.10〜0.12MPa
還元炎の設定については、オルザット法でCO濃度が体積率20%以上である火 炎になるように、酸素供給量を調整した
供給した金属粉末の種類と使用量 :
Fe70Cr10P13C7粉末(Fe、Cr、P、C以外の不純物成分を0.1〜0.6重量%含む)。
粒径は、38〜63μmが約50g/min、63〜88μmが約160g/min。
火炎Fの噴射速度 : 30〜140 m/sec
火炎Fの最高温度 : 1300 ℃(サーモの測定値による)
である。
また、図5・図6における(a)〜(f)の各ケースごとの外部エア圧力・火炎速度、火炎の平均冷却速度は表1のとおりである。
図7は、図5・図6の例と同様に外部エアの圧力を変更した際の火炎の速度を測定した結果を示す。速度はピトー管を検出器に用いた自動流速計AV-80型(岡野製作所)を用いて測定している。
また図8は、外部エアの圧力を0.30MPaとした場合の、火炎中での金属粒子(粒径が38μmおよび63μm)の温度変化を示す線図である。温度変化は、図5で得た火炎の温度と図7で得た火炎の速度をもとに、ニュートンの冷却の法則にしたがう計算により求めている。金属粒子の粒径が38μmの場合には272万K/sec、粒径が63μmの場合には233万K/secという、Fe70−Cr10−P13−C(数値は原子%。不純物を0.6重量%まで含む)の合金を非晶質化するに十分な冷却速度が得られることが分かる。なお、火炎中の金属粒子の粒径が、原料とした上記溶射粉末の粒径とほぼ等しいことは、噴出口から200mm先の位置に置いた寒天の中に溶射を行って金属粒子を捕捉する、図9のような試験により確認される。
図10(a)〜(e)および図11(a)〜(e)には、火炎の成分、内部冷却・外部冷却の各ガス、および粉末材料の径(したがって金属粒子の粒径)を表2のように変更した場合の、溶射皮膜断面の光学顕微鏡写真(左は400倍、右は1000倍)およびX線回折測定結果を示す。
図10によれば、溶射による場合に特有の気孔は見られるものの、結晶のないアモルファス皮膜が形成されていることが観察される。供給した燃料ガスの種類・量・圧力、金属粉末の種類、火炎Fの噴射速度・最高温度、およびエアG(内部ガス)の噴射量については、上記した図5・図6におけるものと基本的には同様であるが、表2に示す各条件は変更している。
図10によると、通常炎(理論比どおりの酸素量を含む)の火炎を用いるとともに内部冷却・外部冷却をエアにて行う場合(ケース(a))には、酸化物によるスジが多く観察される。しかし、還元炎(COを20〜30体積%としたもの)を用い、または内部冷却・外部冷却を窒素にて行う場合(ケース(b)〜(e))には、そのスジは少なくなる。ケース(c)・(e)においては、とくに酸化物の少ない皮膜が得られた。
図11(a)〜(e)には、図10の各ケース(a)〜(e)で母材上に形成した溶射皮膜についてのX線回折測定結果を示している(横軸は回折角度2θ、縦軸は強度。測定器と測定条件は図6の試験において使用したものと同じ)。いずれのケースでも、明瞭なハローピークが観察されて結晶化度も小さく、大部分が非晶質化されていることが確認される。
図12に、図10および図11のケース(c)で母材上に形成した溶射皮膜(アモルファス皮膜)についての耐食性試験の結果を示す。当該皮膜の表面に封孔剤を被覆したものとしないもの、およびSUS316Lステンレス鋼(ブラスト処理をしたバルク材)を試料として、王水(塩酸と硝酸との混合液)中に連続浸漬させた。SUS316Lが約6時間ですべて溶解したのに対し、溶射皮膜における腐食の進行はきわめて遅く、1日当たりの進行度はわずか1.2%であった。
また、図13には、上記と同様にして得た二種類の溶射皮膜(アモルファス溶射皮膜AおよびB)について行った耐熱試験の結果を示す。この試験では、それぞれの溶射皮膜を各温度の空気中で1時間保持したのち、結晶化度を測定した。発明の溶射方法により形成された溶射皮膜について安定した非晶質状態を維持するためには、300℃以下で使用することが好ましいといえる。
なお、上記では高融点(融点1500℃以上)のFe70Cr10137合金(不純物を0.6重量%まで含む)の溶射について示したが、溶射装置1では、他の鉄クロム系合金またはそれ以外の合金を溶射する場合にも、母材上にアモルファス金属の皮膜を形成することが可能である。
たとえば、磁性特性にすぐれているとされるFe8113Si42合金、またはそれと類似の化学成分を含むFe(r1)−B(r2)−Si(r3)−C(r4)の合金(ただしriの表示は原子%であって、2<r1<85、11<r2<16、3<r3<12、1<r4<72。不純物は0.6重量%以下)についても、溶射装置1を用いて母材表面にアモルファス皮膜を形成することが可能である。実験によって実際に形成したFe8113Si42合金の皮膜についてのX線回折測定結果を図14に示し、当該皮膜の形成に関するデータを表3に示す。
このときのX線回折分析(XRD法)の測定器と測定条件は、
分析装置 : RU−200B型(RIGAKU製)
分析条件
管球 : Cu
電圧 : 40kV
電流 : 200mA
測定条件 : 20〜80°
スキャンスピード: 4°/min
である。
アモルファス皮膜を形成するための手段は、上記で使用した溶射装置1に限るものではない。たとえば、外部冷却のための噴射ノズル10(図1参照)は、各ノズルの位置や向きを図示以外の設定にすることができ、主ノズル5を囲む特定の円上の箇所から、多少の広がり角をもって放射状に水ミスト等を噴射するようにすることも可能である。燃料として、アセチレンのほかにプロパンや一酸化炭素(CO)、水素(H)等を使用することも可能である。また、上記の溶射装置1はいわゆるフレーム式の溶射機をもとに構成したが、高速フレーム溶射、アーク式溶射機またはプラズマ式溶射機によって溶射装置1を構成することも可能である。アーク式溶射機の場合にはアークの一部を冷却し、プラズマ式溶射機の場合にはプラズマジェットの一部を冷却するとよい。溶射材料として、粉末材料に代えて線材等を使用することも可能である(ただしその場合も、火炎中の溶融金属粒子の粒径を上記のような適切な大きさにするのが好ましい)。
発明に使用する溶射装置1を示す図であって、図1(a)は溶射装置1の全体構成図、同(b)はその溶射装置1における火炎温度の分布を示す図である。 溶射ガン2の構造を示す図で、図2(a)は全体図、同(b)は同(a)におけるb部(先端部)の詳細図である。 発明の溶射装置1に関し溶射中の火炎の状態を示す図であって、図3(a)・(b)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図(同(a)は高温部、同(b)は低温部である)、同(c)はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。 母材Mの表面に貼り付けた熱電対による母材Mの温度測定結果である。 図5(a)〜(f)は、火炎の外部から吹き付けるエア(外部ガス)の圧力を変更して、それぞれサーマルビジョンにより測定した火炎の温度分布を示す。 図6(a)〜(f)は、図5(a)〜(f)の各ケースで母材上に形成した皮膜についてのX線回折測定結果を示す。 外部ガスとしてのエアの圧力を変更する際の、各部での火炎の速度を測定した結果を示す。 火炎中での金属粒子の温度変化を示す線図である。 試験において火炎中の金属粒子を捕捉する態様を示す断面写真(図9(a))、および捕捉した粒子のSEM写真(図9(b))である。 図10(a)〜(d)は、金属粒子の径および外部ガスの種類を変更した場合の溶射皮膜断面の顕微鏡写真(左は400倍、右は1000倍)である。 図11(a)〜(d)は、図10(a)〜(d)の各場合について溶射皮膜のX線回折測定結果を示す。 発明の方法で形成したFe70Cr10137合金の溶射皮膜とステンレス鋼(SUS316L)とについての、王水による耐食性試験の結果を示す。 発明の方法で形成した溶射皮膜の耐熱試験結果を示している。 発明の方法で形成したFe8113Si42合金の溶射皮膜についてのX線回折測定結果を示す。 特許文献1に記載された従来の溶射方法を示す断面図である。
符号の説明
1 溶射装置
5 主ノズル
6 ガス噴射筒
10(11・12・13・14) 外部ガス噴射ノズル
F 火炎
G エア(冷却ガス)
M 母材

Claims (13)

  1. 材料粒子を含む火炎を母材に向けてノズルより噴射し、当該材料粒子を火炎によって溶融させたうえ、当該材料粒子および火炎を、母材に達する前から冷却すること、
    上記の冷却は、気体または液体ミスト混合気体を、火炎に接する部分から内部冷却として火炎に吹き付け、または火炎と離れた外側周辺部から外部冷却として火炎に吹き付けることにより行うこと、
    および、上記の気体または液体ミスト混合気体を吹き付けること以外には上記母材を冷却することなく、母材の温度を50℃以上・350℃以下にすること
    を特徴とする溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  2. 材料粒子を含む火炎を母材に向けてノズルより噴射し、当該材料粒子を火炎によって溶融させたうえ、当該材料粒子および火炎を、母材に達する前から冷却すること、
    上記の冷却は、気体または液体ミスト混合気体を、火炎に接する部分から内部冷却として火炎に吹き付け、または火炎と離れた外側周辺部から外部冷却として火炎に吹き付けることにより行うこと、
    上記の気体または液体ミスト混合気体を吹き付けること以外には上記母材を冷却することなく、母材の温度上昇を抑制すること、
    および、上記の材料粒子を、ノズルを出たのち5/1000秒以内に溶融させ、そののち2/1000秒以内に1万K/秒以上・100万K/秒レベルの速度で冷却すること
    を特徴とする溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  3. 材料粒子を含む火炎を母材に向けてノズルより噴射し、当該材料粒子を火炎によって溶融させたうえ、当該材料粒子および火炎を、母材に達する前から冷却すること、
    上記の冷却は、気体または液体ミスト混合気体を、火炎に接する部分から内部冷却として火炎に吹き付け、または火炎と離れた外側周辺部から外部冷却として火炎に吹き付けることにより行うこと、
    上記の気体または液体ミスト混合気体を吹き付けること以外には上記母材を冷却することなく、母材の温度上昇を抑制すること、
    および、上記の材料粒子として、下記式にしたがう粒径Rのものを使用することを特徴とする溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
    R=(6U)/{ρ・C・(v/v 1/2 }(cm)
    ここで、
    Uは単位表面積当たりの熱量を示す材料特性であって、
    U=(材料粒子の熱量(cal/℃))/(材料粒子の表面積(cm 2 ))
    =C・ρ・V/A(cal/cm 2 ℃)
    0.196/1000 ≦ U ≦ 1.96/1000
    Vは材料粒子の体積(cm 3 )、Aは材料粒子の表面積(cm 2
    ρは材料の比重(g/cm 3 )、Cは材料の比熱(cal/g℃)、
    vは噴射時の材料粒子の速度(cm/秒)、v は標準材料粒子速度(6000cm/秒)
    である。
  4. 上記の材料粒子として、その標準材料粒子速度が6000cm/秒では、粒径が10μm以上・100μm以下のものを使用することを特徴とする請求項3に記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  5. 上記の火炎として、酸素量が適正量より少ないためCOの体積比率が20%以上・30%以下である還元炎を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  6. 内部冷却または外部冷却として吹き付ける上記の気体として、不活性ガスを使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  7. 上記の材料粒子として、不純物を0.1%以上・0.6%以下の範囲で含有する一般工業用材料を使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  8. 上記ノズルを有する溶射ガンを大気中において使用し、裏面および内部において冷却を施さない母材の表面に上記の材料粒子を吹き付けることを特徴とする請求項7に記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  9. 鉄クロム系合金のアモルファス皮膜を形成するために、上記の材料粒子として、
    Fe(r1)−Cr(r2)−P(r3)−C(r4)−不純物
    のものを使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
    ただし、riの表示は原子%であって、
    Σri=r1+r2+r3+r4≒100、および
    65<r1<75、4<r2<15、8<r3<17、1<r4<8
    であり、不純物は0.1〜0.6重量%である。
  10. 上記のr1、r2、r3、r4がそれぞれ70、10、13、7であることを特徴とする請求項9に記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  11. 上記の材料粒子として、粒径が38μm以上・63μm以下のものを使用することを特徴とする請求項10に記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
  12. 磁性合金のアモルファス皮膜を形成するために、上記の材料粒子として、
    Fe(r1)−B(r2)−Si(r3)−C(r4)−不純物
    のものを使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
    ここで、riの表示は原子%であって、
    Σri=r1+r2+r3+r4≒100、および
    2<r1<85、11<r2<16、3<r3<12、1<r4<72
    であり、不純物は0.6重量%以下である。
  13. 上記のr1、r2、r3、r4がそれぞれ81、13、4、2であることを特徴とする請求項12に記載した溶射によるアモルファス皮膜の形成方法。
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