JP2007084901A - 金属ガラス薄膜積層体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 基材表面に厚さが5μm〜50μmで、被膜を貫通する連続気孔のないアモルファスの金属ガラス溶射被膜が形成されていることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。金属ガラスの過冷却液体温度域の幅が30℃以上であることが好適である。また、溶射被膜の気孔率が2%以下であることが好適である。
【選択図】 なし
Description
基材表面に薄膜を形成する方法としては、スパッタリングやCVD等があるが、これらの方法で5μm以上の被膜を形成しようとすると非常に時間がかかり、現実的でない。また、大面積化も難しい。
メッキなどの湿式系では、合金などの析出条件が難しく組成が安定しない、廃水処理が必要などといった問題がある。
また、基材表面の機能性を改質する場合の経済性、軽量性を考えれば、薄くかつ連続気孔(ピンホール)のない溶射被膜を形成することが望まれる。
しかしながら、一般に金属の溶射被膜では気孔が多いため、ピンホールを塞ぐために溶射被膜をさらに封孔処理したり、非常に厚膜に形成することが必要であり、薄膜でありながらピンホールのない溶射被膜を得ることは現実的には非常に困難であった。
また、一般的に耐食性や強度などの点において結晶質膜よりも非晶質膜(アモルファス膜)であることが望ましい。
すなわち、本発明にかかる金属ガラス薄膜積層体は、基材表面に厚さが5μm〜50μmで、被膜を貫通する連続気孔(ピンホール)のないアモルファスの金属ガラス溶射被膜が形成されていることを特徴とする。
なお、金属ガラス(ガラス合金ともいう)とは、アモルファス合金(アモルファス金属)の一種であるが、明瞭なガラス遷移と広い過冷却液体温度域を示す点で、従来のアモルファス合金とは区別されている。
また、本発明においては、溶射被膜の気孔率が2%以下であることが好適である。通常、溶射被膜の気孔率は数%以上であり、2%以下とすることは困難である。このような気孔率の低い溶射被膜は、耐食性、耐摩耗性、導電性などにおいて有利である。
また、本発明の溶射被膜が25μm以下のアモルファスの金属ガラス粒子から形成されたことが好適である。結晶質金属ガラス粒子や粒径の大きなアモルファス金属ガラス粒子では、本発明の薄膜積層体が得られないことがある。
また、本発明においては、金属ガラスが複数の元素から構成され、構成元素として少なくともFe、Co、Ni、Ti、Zr、Mg、Cu、Pdの何れか一つの元素を含むことが好適である。さらには、金属ガラス構成元素としてFeを30〜80原子%含有することが好適である。このような金属ガラスは耐食性に優れる。
また、本発明においては、基材表面に金属ガラス溶射被膜をパターン化して形成することができる。また、表面に凹凸形状を有する基材表面に金属ガラス溶射被膜を形成することもできる。
従来のアモルファス合金は何れも過冷却液体温度領域の温度幅が非常に狭いため、単ロール法と呼ばれる方法などにより105K/sレベルの冷却速度で急冷しなければ非晶質が形成できず、上記の単ロール法などで急冷して製造されたものは厚さが50μm以下程度の薄帯状のもので、幅広化も困難であった。
金属ガラスは、(1)3元系以上の金属からなる合金で、且つ(2)広い過冷却液体温度領域を有する合金と定義されており、耐食性、耐摩耗性等に極めて高い性能を有し、より緩慢な冷却によってアモルファス固体が得られるなどの特徴を有する。最近では、金属ガラスはナノクリスタルの集合体との見方もされており、金属ガラスのアモルファス状態における微細構造は従来のアモルファス金属のアモルファス状態とは異なると考えられている。
すなわち、金属ガラスをDSC(示差走査熱量計)を用いてその熱的挙動を調べると、温度上昇にともない、ガラス転移温度(Tg)を開始点としてブロードな広い吸熱温度領域が現れ、結晶化開始温度(Tx)でシャープな発熱ピークに転ずる。そしてさらに加熱すると、融点(Tm)で吸熱ピークが現れる。金属ガラスの種類によって、各温度は異なる。TgとTxの間の温度領域△Tx=Tx−Tgが過冷却液体温度領域であり、△Txが10〜130℃と非常に大きいことが金属ガラスの一つの特徴である。△Txが大きい程、結晶化に対する過冷却液体状態の安定性が高いことを意味する。従来のアモルファス合金では、このような熱的挙動は認められず、△Txはほぼ0である。
例えば、特開平3−158446号公報には、過冷却液体温度領域の温度幅が広く、加工性に優れるアモルファス合金として、XaMbAlc(X:Zr,Hf、M:Ni,Cu,Fe,Co,Mn、25≦a≦85、5≦b≦70、0≦c≦35)が記載されている。
また、米国特許第5429725号明細書には水の電解用電極に適した金属ガラス材料として、Ni72−Co(8−x)−Mox−Z20(x=0、2、4又は6原子%、Z=メタロイド元素)が記載されている。
メタル−メタロイド系金属ガラス合金は、△Txが35℃以上、組成によっては50℃以上という大きな温度間隔を有していることが知られている。本発明において、さらには△Txが40℃以上の金属ガラスが好ましい。
メタル−メタル系金属ガラス合金の例としては、Fe、Co、Niのうちの1種又は2種以上の元素を主成分とし、Zr、Nb、Ta、Hf、Mo、Ti、Vのうちの1種又は2種以上の元素とBを含むものが挙げられる。
好ましい組成としては、例えば、Fe43Cr16Mo16C15B10(以下、下付数字は原子%を示す)、Fe75Mo4P12C4B4Si1、Fe52Co20B20Si4Nb4等が挙げられる。
本発明の薄膜積層体は、基材表面にアモルファス相の金属ガラス溶射被膜層が形成されたものであって、金属ガラス溶射被膜は非常に薄膜でありながら被膜を貫通するピンホールがない。このようなアモルファスの金属ガラス層により、優れた耐食性、耐磨耗性等の機能が発揮される。金属ガラス溶射被膜の厚みは5μm〜50μm、好ましくは10μm〜30μmである。厚みが小さすぎるとピンホールを生じやすくなる。一方、厚くなりすぎると経済性や軽量性に劣り、また膜の電気抵抗やガス不透過性も大きくなる。
また、本発明の金属ガラス溶射被膜の気孔率は、2%以下とすることができる。気孔率が2%を超えると、耐食性等に悪影響を及ぼすことがある。気孔率については、金属ガラス層の任意の断面を画像解析し、気孔の最大面積率を気孔率として採用することができる。また、ピンホールがないことも金属ガラス層の任意の断面を画像解析することにより確認することができる。
また、本発明の金属ガラス層の密度は、金属ガラス真密度の80〜100%である。
金属ガラス粒子の形状は特に限定されるものではなく、板状、チップ状、粒状、粉体状などが挙げられるが、好ましくは粒状あるいは粉体状である。金属ガラス粒子の調製方法としては、アトマイズ法、ケミカルアロイング法、メカニカルアロイング法などがあるが、生産性を考慮すればアトマイズ法によって調製されたものが特に好ましい。
このような比較的小さな溶射粒子は、表面積が大きいので酸化を受けやすい。よって、粒径の小さな金属粒子を用いて溶射した場合には通常被膜に酸化物が含まれてしまい、高品位の溶射被膜を得ることは困難である。金属ガラスを用いた本発明の方法によれば、溶射被膜に酸化物が含まれず、均一なアモルファス相の溶射被膜を得ることができる。
また、溶射では通常搬送ガスとしてN2ガスが使用されるが、窒化物の形成により被膜組成や緻密性などに影響を及ぼすことがある。これは、空気(ドライエアー)、酸素、不活性ガス(Ar、He等)などを搬送ガスとして用いることにより改善される。空気や酸素では酸化の懸念があるので、最も好ましくは搬送ガスとして不活性ガスを用いる。
また、本発明において、高品位の接合界面を得るためには通常基材に100℃以上の温度負荷をかけることが好適である。より好適には150℃以上であり、上限は特に規定されるものではないが、通常ガラス遷移温度以下、好ましくは400℃以下である。
また、基材は、金属ガラス溶射被膜の接合性を高めるために、通常はブラスト処理など公知の方法により基材表面の粗面化処理を施して使用する。
過冷却液体状態では、金属ガラスは粘性流動を示し、粘性が低い。このため、過冷却液体状態にある金属ガラスが基材表面に衝突すると、瞬時に薄く潰れて基材表面に広がり、厚みが非常に薄い良好なスプラットを形成することができる。そして、このようなスプラットの堆積により、緻密で連続気孔のない溶射被膜を形成することができる。
また、スプラットは過冷却液体状態のまま冷却されるので、結晶相を生成せず、アモルファス相のみが得られる。
従って、金属ガラス溶射粒子が過冷却液体状態で基材表面において凝固及び積層して溶射被膜を形成すれば、均一な金属ガラスのアモルファス固体相からなり、気孔がほとんどなく連続気孔のない溶射被膜を得るのに有利である。
例えば、基材表面にマスキングをして非マスキング部分にのみ金属ガラス溶射被膜を形成すれば、基材表面に金属ガラス溶射被膜をパターン化して形成することができる。
また、表面に凹凸形状を有する基材表面に金属ガラス溶射被膜を形成することもできる。
また、基材として多孔質体を用いることもできる。
溶射材料として、耐食性に優れる金属ガラスとして知られているFe43Cr16Mo16C15B10のガスアトマイズ粉末を用いて溶射した。DSC分析を行ったところ、該金属ガラス粉末のガラス転移温度(Tg)は611.7℃、結晶化開始温度(Tx)は675.2℃であり、△Txは63.5℃であった。また、融点(Tm)は1094.8℃であった。また、X線回折により粉末がアモルファス相であることを確認した。溶射条件は次の通り。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
基材 SUS304L板
基材表面はブラスト処理仕上げ
溶射原料 Fe43Cr16Mo16C15B10ガスアトマイズ粉末
△Tx:約63℃
粒度:25μm篩下のもの(1〜25μm)
溶射条件 粉末搬送ガス:N2
燃料:灯油、6.0GPH
酸素:2000SCFH
溶射距離(溶射ガン先端から基材表面までの距離):380mm
溶射ガン移動速度:200mm/sec
基材表面温度:200℃
――――――――――――――――――――――――――――――――――
また、得られた溶射被膜には被膜を貫通する連続気孔は認められず、その気孔率は約1%であった。なお、気孔率については、溶射被膜の任意の断面(n=10)について2次元画像解析し、得られた気孔の面積率の最大値を気孔率として採用した。
また、この溶射被膜層について、王水浸漬試験(25℃、2時間)を行ったが、腐食は全く認められず、非常に高い耐食性を示した。
下記表2は、試験例1において金属ガラス粒子の粒度と溶射被膜厚を変えた場合の溶射被膜のピンホールについて調べた結果である。表2のように、膜厚を厚くすることで何れの粒径の金属ガラス粉体でもピンホールのない溶射被膜とすることは可能であったが、50μmの薄膜では、粒径の大きな金属ガラス粉体ではピンホールのない溶射被膜を得ることはできなかった。
――――――――――――――――――――――――――――
金属ガラス粉体 溶射被膜 ピンホールの有無
粒径 厚さ
――――――――――――――――――――――――――――
1〜25μm 50μm なし
500μm なし
25〜38μm 50μm あり
500μm なし
――――――――――――――――――――――――――――
過冷却液体温度領域△Txの異なるアモルファスの金属ガラス粉末を用いて試験例1と同様にして30μmの溶射被膜を形成した。
表3のように、過冷却液体温度領域△Txが30℃以上の金属ガラスを用いた場合には、アモルファス単一相からなるピンホールのない溶射被膜を形成することができるが、△Txが30℃を下回るとピンホール、結晶相の形成が認められ、アモルファス相のみからなるピンホールのない溶射被膜を形成することは困難であった。試験例3−3(△Tx≒0の場合)の溶射被膜のX線回折図は図3に示すとおりである。
結晶相の形成やピンホールの発生は、耐食性に悪影響を及ぼすので、望ましくない。また、△Txが30℃を下回ると気孔率も高くなった。よって、金属ガラスとしては、△Txが30℃以上のものが好適である。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験例 金属ガラス △Tx アモルファス相* ピンホール
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
3−1 Fe43Cr16Mo16C15B10 約63℃ ○ なし
3−2 Fe52Co20B20Si4Nb4 約31℃ ○ なし
3−3 Fe78Si10B12 約 0℃ × あり
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*溶射被膜のアモルファス相形成については、下記の基準により評価した。
○:X線回折で良好なハローパターンが認められる(アモルファス単一相)
△:X線回折でハローパターンと結晶性ピークの両方が認められる(一部結晶相)
×:X線回折でハローパターンが全く認められない(結晶相)
試験例1のアモルファスの金属ガラス粉末を900℃で1時間加熱処理して結晶質粉末とした。この結晶質粉末を用いた以外は試験例1と同様にして30μm厚の溶射被膜を形成したが、得られた溶射被膜は結晶質であった。
12 燃料パイプ
14 酸素パイプ
16 ガスフレーム
18 溶射材料供給パイプ
20 溶射粒子
22 基材
24 溶射被膜
Claims (11)
- 基材表面に厚さが5μm〜50μmで、被膜を貫通する連続気孔(ピンホール)のないアモルファスの金属ガラス溶射被膜が形成されていることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1記載の薄膜積層体において、金属ガラスの過冷却液体温度領域△Txが30℃以上であることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1又は2記載の薄膜積層体において、溶射被膜の気孔率が2%以下であることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1〜3の何れかに記載の薄膜積層体において、溶射被膜が高速フレーム溶射被膜であることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1〜4の何れかに記載の薄膜積層体において、溶射被膜が25μm以下のアモルファスの金属ガラス粒子から形成されたことを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1〜5の何れかに記載の薄膜積層体において、金属ガラスが複数の元素から構成され、構成元素として少なくともFe、Co、Ni、Ti、Zr、Mg、Cu、Pdの何れか一つの元素を含むことを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項6記載の薄膜積層体において、金属ガラス構成元素としてFeを30〜80原子%含有することを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1〜7の何れかに記載の薄膜積層体において、基材が金属またはセラミックスであることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項8記載の薄膜積層体において、基材が比重3.0以下の軽量金属であることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1〜9の何れかに記載の薄膜積層体において、基材表面に金属ガラス溶射被膜がパターン化されて形成されていることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
- 請求項1〜10の何れかに記載の積層体において、その表面に凹凸形状を有する基材表面に金属ガラス溶射被膜が形成されていることを特徴とする金属ガラス薄膜積層体。
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