JP5804372B2 - 薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法、及び金属ガラス被膜を有する複合材料 - Google Patents
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例えば、金属などの基材表面に厚み50〜500μm程度の金属被膜を形成する方法として溶射法がある。溶射は、加熱された溶射粒子を高速で基材表面に衝突・積層させて被膜を形成する方法である。そのため、大面積の基材表面に金属及び金属を含むサーメットの被膜を比較的簡便に直接的に形成できること、基材表面にのみ高機能性材料を被覆するので軽量化や経済性に優れていること、ドライプロセスであり廃水処理などの問題がない、などの点で他の金属被膜形成方法に比べて有利な方法である。
特に融点の高い金属を耐熱温度の低い樹脂製の基材に溶射した場合、基材の表面が溶けてしまい、基材が薄いと基材に孔が開いてしまう。また、孔が開くことなく金属溶射できたとしても、溶融した粒子が基材表面で冷却されることで、被膜中には残留応力が発生する。基材が薄いと、基材がこの残留応力の影響を受けてしまい、変形や破壊が生じてしまう。
例えば、プラズマ溶射の場合、短い溶射距離では、基材が高温のプラズマジェットの影響を受け、薄い樹脂基材の場合には基材の変形や破壊を免れない。高速フレーム溶射(HVOF、HVAFなど)は、プラズマ炎に比べ温度の低い燃焼炎中で高速の溶射粒子を衝突させるので、薄い樹脂基材の場合には、高速のジェット噴流となった熱を伴う溶射フレームの衝撃波と、溶融不十分で硬い固体質が残る粒子の強い衝撃力とで基材の破壊は免れないため、適用されなかった。
また、半溶融の金属とセラミックス粒子よりなるサーメットを強度の低い樹脂基材に溶射する場合も、硬いセラミックス粒子が基材に衝突するので基材表面が著しく摩耗して変形や破壊が生じやすく、基材が薄いと基材に孔が開いてしまう。
このように従来の溶射による薄い樹脂基材へ基材を破壊せず、しかも緻密で基材への密着度の高い高品位の金属被膜の形成は非常に困難であった。
上記のような樹脂基材への熱負荷の影響を抑えるため、被膜原料の金属粒子を融点以下の状態で基材表面に吹き付けることにより基材表面に金属被膜を形成する方法が知られている(特許文献1〜3参照)。この方法では、高速で金属粒子を基材表面に衝突させて塑性変形させるとともに、衝突による摩擦熱で金属粒子の一部を溶かして基材表面に密着させている。いわゆるコールドスプレーである。
また、基材の損傷を避けて溶射やコールドスプレーにより形成される被膜は、金属粒子の飛行速度や、金属粒子に与える熱量、溶射距離などが加減された条件となるため、気孔や貫通孔があり緻密性に劣る。このため、被膜特性を充分に発揮させるに封孔処理が溶射やコールドスプレー後に行われるが、封孔処理では耐食性や耐摩耗性などの機能を十分果たすことはできない。また、自溶合金を溶射し、その溶射被膜を再溶融処理することにより貫通孔を塞ぐ方法もあるが、金属の融点以上に加熱する必要があるため、薄い樹脂基材には適用できない。
このように、従来の溶射法やコールドスプレー法では、薄い樹脂基材を変形や破壊することなく密着性に優れた金属被膜を形成することは非常に困難であった。
厚みが30μm〜1mmである樹脂基材の表面へ金属ガラスを貫通孔なしに溶射する方法であって、
フレーム溶射またはプラズマ溶射によって、金属ガラス粉体の少なくとも一部を過冷却液体状態まで加熱して、該金属ガラス粉体を300m/s以上の粒子速度で樹脂基材表面に衝突させて扁平にした金属ガラス粉体を、厚みが10μm〜500μmとなるまで積層することにより、アモルファス相の溶射被膜を形成する溶射工程を備え、
前記溶射被膜が前記樹脂基材に対する高い密着性を有し、かつ、その表面粗さRaが10μm以下であることを特徴とする。
粒子速度300m/s以上のフレーム溶射およびプラズマ溶射を以下、「高速フレーム溶射」および「高速プラズマ溶射」という。
また、本発明は、前記何れかの溶射方法において、前記金属ガラスが、30℃以上の過冷却液体温度領域△Txと、350℃以上、700℃以下のガラス遷移温度Tgと、を有することを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法を提供する。
また、本発明は、前記の樹脂基材が耐熱温度120℃以上であることを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載の溶射方法において、前記金属ガラス粉体が扁平になって積層する時の前記樹脂基材の温度が耐熱温度以下となるように、該樹脂基材を冷却することを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載の溶射方法において、前記金属ガラス粉体の粒径が10μm以上、60μm以下であることを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法を提供する。
前記溶射被膜は、フレーム溶射またはプラズマ溶射によって形成された10μm〜500μmの厚みのアモルファス相の積層体であり、前記樹脂基材に対する高い密着性を有し、その表面粗さRaが10μm以下であることを特徴とする。
また、本発明は、前記何れかに記載の複合材料において、前記溶射被膜が複数の元素から構成され、構成元素として少なくともFeを30〜80原子%含むことを特徴とする金属ガラス被膜を有する複合材料を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載の複合材料において、前記樹脂基材はポリイミド樹脂からなることを特徴とする金属ガラス被膜を有する複合材料を提供する。
本発明で用いる薄い樹脂基材とは、厚みが30μm〜1mmのものを意味する。好ましくは300μm以下である。特に溶射被膜層を有する複合材料として、フレキシブル性(可撓性)を備えたものが好ましい。樹脂は耐熱性のあるものが好ましく、耐熱温度が120℃以上、より好ましくは耐熱温度150℃以上である。樹脂の種類は特に制限されるものではないが、例えば、CFRP、GFRP、テフロングラスシート、ナフロン、ベークライト、ポリイミド等から選択される樹脂材料が好適に用いられる。また、ポリカーボネートのような熱可塑性樹脂でもよい。
樹脂基材には金属ガラスを溶射するためブラスト処理以外の下地処理を必要としないが、複合材料の特性を損なわない限り下地処理を行ったものを使用することもできる。
溶射時の樹脂基材の温度は、樹脂基材の温度がその耐熱温度未満になるように温度管理をすることが肝要である。樹脂の種類に応じて変わるが、300℃以下、さらには150℃以下を確保することが重要であり、より好ましくは120℃以下である。溶射時の樹脂基材の温度測定は公知の方法を適用できる。即ち、裏当て材を熱電対で測定するとか、樹脂基材表面を接触式温度計や非接触式温度計で計測することで管理できる。本発明では、樹脂基材の変形・破壊を防ぐため、樹脂基材の耐熱温度以下となるように、樹脂基材を冷却する。冷却方法は公知の方法を適用できる。即ち、樹脂基材や裏当て材にノズルから衝風(エアーブラスト)を当てるとか、水冷装置を設けた裏当て材を用いるとかを適用できる。
金属ガラスは、加熱すると結晶化前に明瞭なガラス遷移と広い過冷却液体領域を示すことが一つの大きな特徴である。結晶化開始温度(Tx(K))とガラス遷移温度(Tg(K))の間の温度領域△Tx=Tx−Tgで示される過冷却液体温度領域では、粘性流動状態(過冷却液体状態)となって変形抵抗が著しく減少する。通常のアモルファス合金では△Txはほぼ0である。
金属ガラスの種類は特に制限されず、目的とする機能に応じて公知のものを適宜選択して用いればよい。例えば、金属ガラスが複数の元素から構成され、その主成分として少なくともFe、Co、Ni、Ti、Zr、Mg、Cu、Pdのいずれかひとつの原子を30〜80原子%の範囲で含有するものが挙げられる。
また、その他の元素を主成分とする金属ガラスとして、Ni基の金属ガラスとしては、Ni65Cr15P16B4、Cu基の金属ガラスとしては、Cu55Zr40Al5、Zr基の金属ガラスとしては、Zr60Al15Ni7.5Co2.5Cu15などが挙げられる。
何れも、金属ガラスの過冷却液体温度領域△Tx=Tx−Tgが30K以上、ガラス遷移温度Tgが350℃以上(623K以上)、700℃以下(973K以下)であるものが好適に使用される。
本発明においては、上記のような金属ガラスの粉体を用い、その少なくとも一部が過冷却液体状態にまで加熱され、300m/s以上の粒子速度で前記基材表面に凝固及び積層するように溶射する。
粒子速度が300m/s未満では緻密性や密着性が不十分となる。
通常の溶射のように溶射粒子を溶融する溶射方法では酸化により溶射被膜特性が低下してしまう。また、溶射粒子が溶融状態から冷却されて固化する際には冷却速度の影響を受けるので、冷却速度が遅いと結晶化を生じてしまい、アモルファス相溶射被膜を安定的に製造することが困難である。さらに、溶融状態から冷却されて固化する場合には、過冷却液体状態から冷却された場合に比べて凝固収縮が大きい。これに対して、本発明では金属ガラス粉体を溶融せずに過冷却液体状態にして溶射するので、アモルファス相の金属ガラス粉体を溶射した場合には、酸化や結晶化の影響を受けずにアモルファス相の金属ガラス溶射被膜が形成される。
なお、溶射粒子速度を300m/s以上にできる溶射方法としてコールドスプレーもあるが、コールドスプレーは573〜773K程度に加熱したガスで粒子を加速し、粒子の衝突速度を500m/s以上とするもので、金属ガラス粉末粒子が過冷却液体状態となるような熱量を十分与えられ、衝突による摩擦熱の発生が無ければ適用可能であるが、このような条件を満たすことは困難である。
また、溶射では通常搬送ガスとしてN2ガスが使用されるが、窒化物の形成により被膜組成や緻密性などに影響を及ぼすことがある。これは、空気(ドライエアー)、酸素、不活性ガス(Ar、He等)などを搬送ガスとして用いることにより改善される。空気や酸素では酸化の懸念があるので、最も好ましくは搬送ガスとして不活性ガスを用いる。
溶射被膜は、様々な形状の基材上に形成することができ、また、マスキング等によりパターン化して形成することもできる。表面に凹凸形状を有するものや多孔質体を基材として用いることもできる。
均一な金属ガラスのアモルファス固体相からなる溶射被膜を形成するために、アモルファス相の金属ガラス粒子を溶射原料とし、金属ガラス粒子を溶融させず、その少なくとも一部が過冷却液体状態で溶射することが好適である。
また、スプラットは過冷却液体状態のまま冷却される、つまり、衝突による摩擦熱はほとんど生じないので、衝突後に結晶化開始温度(Tx)にまで達して結晶相を生成することは起こらず、アモルファス相のみが得られる。
従って、アモルファス相の金属ガラス粒子を溶射し、金属ガラス溶射粒子が溶融されずに過冷却液体状態で基材表面において凝固及び積層して溶射被膜を形成すれば、均一な金属ガラスのアモルファス固体相からなる溶射被膜を得るのに有利である。
これに対して、金属ガラスが溶融体から固体へ結晶化しない冷却速度で冷却された場合、結晶化による凝固収縮を生じることなく過冷却液体状態となることができ、その体積は過冷却液体領域の熱膨張係数に従って連続的且つ僅かに収縮する。そして、金属ガラスが融点以下で溶融することなく過冷却液体状態から冷却された場合には、溶融体から冷却された場合に比べてさらに収縮量が少なくなる。
よって、金属ガラスを溶融させずに過冷却液体状態で溶射すれば、基材と溶射被膜との接合面に発生する残留応力が非常に小さくなるので、基材の変形や破壊、さらには溶射被膜の剥離の抑制に効果的であり、特に、薄い基材において有効である。また、溶射被膜中の残留応力は膜厚が大きいほど大きくなるが、本発明においては基材厚みと同等以上、さらには2倍以上の厚みの溶射被膜層の形成も可能である。
このような方法により、樹脂基材表面にアモルファス相の金属ガラス溶射被膜層を形成することができる。
また、金属ガラスの磁性を利用して、金属ガラス溶射被膜層を磁性材料として耐熱樹脂シートに形成できる。この場合、常温で強磁性を示す物質(Fe,Co,Ni)を多く含むガラス金属が好適である。金属ガラスの成分元素として、Feを多く含有することで強磁性材料の基本的特性である飽和磁化(Js)は飛躍的に向上する。また、Feを多く含有することは軟磁性材料としても有効である。金属ガラス中のFe含有量としては、30〜80原子%が好適である。Feが30原子%より少ない場合では磁気特性が十分に得られず、また、80原子%より多い場合では金属ガラスの形成は困難である。
また、Coを主体とした軟磁性材料は透磁率が高く、磁気シールドなどへ適用できる。
Niを主体とした耐食材料の場合は、電極材料などへ適用できる。
以下の試験例において、ステンレス(アルミニウム、銅などの伝熱性の良い金属でもよい)製の裏当て材を用いた。裏当て材を台座に動かないよう固定し、裏当て材に樹脂基材の裏面を貼り付けて溶射を行った。なお、基材を冷却するため溶射面には1〜2本のノズルから、裏当て材の後ろには適宜、エアーをあて、溶射を行った。裏当て材温度を熱電対により測定し、耐熱温度が200℃超の基材については200℃以下、耐熱温度が200℃以下の基材については100℃以下となるように温度管理して溶射した。各試験例で用いた測定方法は次の通りである。
金属ガラスの結晶化率等を測定するため、示差走査熱量計DSC8270((株)リガク製)を用いて、昇温速度20.0℃/分の条件下、アルゴン雰囲気中で測定した。
溶射後の基材について、貫通孔、粉砕、破断、分断、割れ、歪みなどの有無を観察した。なお、歪みとは、基材表面にできた起伏が、溶射後の複合材料厚みの5倍を超えるようなものをいう。
(株)リガク製 X線回折装置RAD―3Dにより測定したX線回折図から次の基準で評価した。
アモルファス単一相:ハローパターンが認められ且つ結晶性ピークがない
一部結晶 :ハローパターンと結晶性ピークの両方が認められる
結晶 :ハローパターンが認められず結晶性ピークが認められる
RaはJIS B0601に規定する算術平均粗さであり、その測定は、(株)ミツトヨ製 表面粗さ測定器SV−514(評価長さ:4.0mm、カットオフ値:0.8mm)で行った(n=3)。
密着性試験は、曲げ半径32.5mmの鋼製ロールを使用して、ロール表面に複合材料を巻き付けることで複合材料を90°に曲げて元に戻し、次に反対側に90°に曲げて元に戻すことを5回繰り返す試験とした。試験後に基材に対する溶射被膜の剥離の有無を目視にて確認し、下記のように判定した。
○ 剥離または膨れが無い。 × 剥離または膨れが明らかにある。
溶射被膜断面を樹脂埋め込みして研磨後、画像解析し、気孔の最大面積率を気孔率として測定するとともに、観察により貫通孔の有無を判定した。
磁化特性を測定するため(株)玉川製作所製の振動試料型磁力計(VSM)(型番TM‐VSM2430‐HGC)を用いて、He置換雰囲気にて室温から500℃までの温度変化(10℃/分)に伴う金属ガラス複合材料の磁化特性の変化を測定した。VSMによって複合材料に印加される磁場の最大値を1kOeとし、複合材料を振動させることにより、その磁化特性を測定した。
JIS K6271「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方」の平行端子電極法に準じて、直流4端子法にて測定した溶射被膜層の電気抵抗から比抵抗を求めた。
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記号 樹脂 厚み 耐熱温度
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A020 CFRP 0.2mm 120℃
A500 CFRP 5.0mm 120℃
B007 テフロングラスシート 0.075mm 260℃
C300 ナフロン 3.0mm 250℃
D100 ベークライト 1.0mm 130℃
E006 ポリイミド 0.06mm 350℃
E500 ポリイミド 5.0mm 350℃
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但し、耐熱温度は、JIS K7191−2「プラスチック−荷重たわみ温度の試験方法−第2部」に規定するB法による荷重たわみ温度である。
なお、厚さ0.06mmのポリイミド基材は、ベルト状とする。樹脂の材質を示す記号は、アルファベットと数字の組合せであるが、数字は樹脂基材の厚みを表わす。
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材料記号 組成 Tg Tx ΔTx 粒度
(℃) (℃) (℃) (μm)
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FeCr系 Fe43Cr16Mo16C15B10 597 688 (91) 10〜25
FeSi系 Fe76Si5.7B9.5P5C3.8 484 544 (60) 25〜53
FeP系 Fe78P6B12Nb4 474 521 (47) 25〜53
NiCr系 Ni65Cr15P16B4 390 430 (40) 25〜53
CuZr系 Cu55Zr40Al5 440 515 (75) 25〜53
Zr系 Zr60Al15Ni7.5Co2.5Cu15 416 493 (77) 38〜53
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アモルファス単一相からなるFe43Cr16Mo16C15B10金属ガラスのガスアトマイズ粉末(粉末の粒径:10〜25μm)をCFRP基材(50×50×0.2mm)に高速プラズマ装置により溶射して金属ガラス複合材料を得た(試験例1)。
なお、溶射条件は次の通りであった。
プラズマ溶射装置:Sulzer Metco社製 TriplexPro−200
(高速モード)
電流:450A
電力:57Kw
使用プラズマガス:Ar80(NLM)、He45(NLM)
溶射距離(溶射ガン先端から基材表面までの距離):150mm
溶射ガン移動速度:670mm/sec
また、高速プラズマAの溶射条件を僅かに変えて、使用プラズマガス条件をAr95(NLM)、He25(NLM)として、他の条件は試験例1と同様(この条件を高速プラズマBとする。)にして、金属ガラス複合材料を得た(試験例2)。CFRP基材に対して金属ガラス溶射被膜層が形成され、基材の破壊や変形は全く認められなかった。また、X線回折から、得られた複合材料の金属ガラス溶射被膜層がアモルファス単一相であることを確認した。
また、同じCFRP基材(0.2mm厚)に同じ金属ガラスの溶射粉末を用いて高速フレーム溶射装置にて溶射を行った(試験例3)。得られた複合材料には基材の破壊は全く認められなかった。X線回折から、得られた複合材料の金属ガラス溶射被膜層がアモルファス単一相であることを確認した。
なお、溶射条件は次の通りであった。
(高速フレーム溶射条件:以下、高速フレームCとする。)
HVOF溶射装置:PRAXAIR/TAFA社製 JP−5000
粉末搬送ガス:N2
燃料:灯油、5.1GPH
酸素:1900SCFH
溶射距離:380mm
溶射ガン移動速度:670mm/sec
原料粉末をアモルファス単一相からなるNi65Cr15P16B4に変えて試験例3と同様にCFRP基材へ高速フレームCの溶射条件にて積層をおこなった。得られた複合材料の断面写真を図2に示す。基材の破壊はなく、X線回折からも溶射被膜層がアモルファス単一相であることを確認した。
次に、基材をテフロングラスシート(50×50×0.075mm)に変えて、高速プラズマBの条件にて同様にしてアモルファス単一相からなるFe43Cr16Mo16C15B10粉末(25〜53μm)の溶射を行った。得られた複合材料の断面写真を図3に示す。図3からもわかるように、この場合にも、試験例1と同様に、金属ガラス溶射被膜層が形成され、基材の破壊は全く認められなかった。また、X線回折から、得られた複合材料の金属ガラス溶射被膜層がアモルファス単一相であることを確認した。
以下、同様にして表1に記載の試験条件で試験例6〜11を行った。いずれの場合でも基材の破壊は全く認められなく、X線回折から、得られた複合材料の金属ガラス溶射被膜層がアモルファス単一相であることが確認できた。
原料粉末としてアモルファス単一相からなるNi65Cr15P16B4(25〜53μm)をポリイミド基材(50×50×0.06mm)へ高速プラズマBの溶射条件にて積層をおこなった。得られた複合材料の断面写真を図4に示す。図4は断片を上下のクリップで固定して樹脂埋め込みした試料をSEM観察した断面写真である。基材の破壊はなく、X線回折からも溶射被膜層がアモルファス単一相であることを確認した。
これらの結果を表1に示す。
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試験例 樹脂記号 金属ガラス膜 溶射条件 密着性 粗さ XRD
(厚みμm) (曲げ) Ra
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1 A020 FeCr系(290※) 高速プラズマA ○ 8.25 非晶質
2 A020 FeCr系(310※) 高速プラズマB ○ 8.30 非晶質
3 A020 FeCr系(220※) 高速フレームC ○ 7.25 非晶質
4 A020 NiCr系(70) 高速フレームC ○ 6.95 非晶質
5 B007 FeCr系(180) 高速プラズマB ○ * 非晶質
6 B007 FeSi系(110) 高速プラズマA ○ * 非晶質
7 B007 FeSi系(160) 高速プラズマB ○ * 非晶質
8 D100 FeSi系(200※) 高速プラズマA ○ 8.55 非晶質
9 D100 FeSi系(500※) 高速プラズマA ○ 7.25 非晶質
10 E006 FeP系 (75) 高速プラズマA ○ 6.65 非晶質
11 E006 FeP系 (30) 高速プラズマA ○ 6.30 非晶質
12 E006 NiCr系(40) 高速プラズマB ○ 7.30 非晶質
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但し、※は、基材両面に形成された溶射被膜の合計厚みを示す。
*:テフロングラスシートは織り込まれた繊維が表出して表面が滑らかでないため
、溶射被膜としての表面粗さは測定できない。
比較のため、高速プラズマ溶射と高速フレーム溶射により金属基材(SUS304、アルミニウム等、厚み1mm超)へ金属ガラスFeCr系の粉体25〜53μmを溶射する条件を、樹脂基材(E006及びE500)への溶射条件に適用して溶射を行った。試験条件及び結果を表2に示す。
なお、比較例の溶射条件はつぎの通りである。
(高速プラズマ溶射条件:以下、高速プラズマDという。)
プラズマ溶射装置:Sulzer Metco社製 F4
電流:600A
電圧:70V
使用プラズマガス:Ar41(NLM)、水素12(NLM)
溶射距離(溶射ガン先端から基材表面までの距離):120mm
溶射ガン移動速度:670mm/sec
HVOF溶射装置:PRAXAIR/TAFA社製 JP−5000
粉末搬送ガス:N2
燃料:灯油、6GPH
酸素:2000SCFH
溶射距離:380mm
溶射ガン移動速度:670mm/sec
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試験例 樹脂記号 金属ガラス膜 溶射条件 溶射被膜の状態
(厚みμm)
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13 E006 FeCr系(×) 高速プラズマD 基材が熱により破壊
14 E006 FeCr系(×) 高速フレームE 同上
15 E500 FeCr系(150) 高速プラズマD ※
16 E500 FeCr系(160) 高速フレームE ※
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※ 密着性試験を行ったところ、基材と溶射被膜界面で剥離が見られた。
以上の試験例で得られた複合材料に対して、金属ガラス溶射被膜の表面粗さを測定した。試験の結果を表1に示す。いずれの複合材料も、表面粗さRaが10μm以下となり、厚み1mm以下の樹脂基材に他の溶射プロセスであるアーク溶射による被膜形状とは明確に区別される。
以上の試験例で得られた複合材料に対して、金属ガラス溶射被膜の密着性を試験した。密着性試験の結果を表1に示す。いずれの複合材料も、剥離が認められず、高い密着性を有するものであった。高い密着性により金属ガラス溶射被膜が樹脂基材から簡単に剥離しないので、溶射被膜を有する複合材料の長寿命化を図ることができる。このような高い密着性を示す複合材料で可撓性を示すものを用いれば、複合材料が加圧ローラ等で繰り返しプレスされるような用途にも使える。
アモルファス単一相からなる軟磁性材料のFe76Si5.7B9.5P5C3.8金属ガラスのガスアトマイズ粉末(超音波振動篩による分級後の粒径:25〜53μm)をシート状のポリイミド基材(厚さ0.06mm)に本発明の溶射法で溶射して金属ガラス複合材料を得た。溶射被膜層の厚みは、70μmである。そして、振動試料型磁力計(VSM)を用いて複合材料の温度に対する磁化特性の変化を測定したところ、約410℃で磁化値が略零になった(試験例17)。試験の結果を表3および図5に示す。
これらの結果より、本発明の金属ガラス複合材料が特定の温度にて明確な消磁効果(キュリー点)を示すことが判った。
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試験例 樹脂記号 金属ガラス膜 溶射条件 キュリー点
(厚みμm) (℃)
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17 E006 FeCr系(70) 高速プラズマA 約410
18 E006 FeP系 (75) 高速プラズマA 約235
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その一例として、樹脂製のベルト表面に金属ガラス溶射被膜を形成して、フレキシブル性のある発熱体を形成する場合を説明する。ベルト上の金属ガラス溶射被膜は、誘導加熱により昇温され、発熱体として機能する。このようなベルトを複数のローラで循環させ、ベルトの一部を加熱対象物に接触させるようにすることで、ベルト上の溶射被膜を介して加熱対象物を加熱することができる。そして溶射被膜がキュリー点に達すると、その磁性が消えるので誘導加熱を続けても温度が上がらず、オーバーヒートを効率よく防止することができる。複写機やレーザービームプリンタなどの定着ベルトなどに好適である。
比較例として、アルミニウム基材上に形成された厚さ200μm(バルク体)のFeSi系金属ガラスの溶射被膜層について、直流4端子法にて電気抵抗を測定したところ、溶射被膜層の比抵抗は約3×10−6Ωmであり、従来のリボン状の溶射被膜層における比抵抗の約3倍であった(試験例19)。
本発明に係るシート状のポリイミド基材(0.06mm厚)上に形成された厚さ30μmおよび45μmのFeP系金属ガラスの溶射被膜層について、同様に電気抵抗を測定したところ、その比抵抗は約5×10−6Ωmであり、従来のリボン状の溶射被膜層における比抵抗の約5倍になることが判った(試験例20)。これらの試験結果を表4に示す。
低キュリー点を示す整磁合金(Fe‐Niなど)の比抵抗が0.6〜0.8×10−6Ωm程度であるので、本発明の複合材料は大きな比抵抗を有すると言える。
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試験例 基材 金属ガラス膜 溶射条件 比抵抗
(厚みμm) (Ωm)
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19 アルミニウム FeSi系(200) 高速プラズマB 約3×10−6
20 E006 FeSi系(30,45) 高速プラズマB 約5×10−6
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Claims (9)
- 厚みが30μm〜1mmである樹脂基材の表面へ金属ガラスを貫通孔なしに溶射する方法であって、
フレーム溶射またはプラズマ溶射によって、金属ガラス粉体の少なくとも一部を過冷却液体状態まで加熱して、
該金属ガラス粉体を300m/s以上の粒子速度で、かつ、
前記樹脂基材の耐熱温度を超える過冷却液体状態の温度で、前記樹脂基材表面に衝突させて扁平にして、
厚みが10μm〜500μmとなるまで前記金属ガラス粉体を積層させて、
前記金属ガラス粉体が積層する時の前記樹脂基材の温度が前記耐熱温度以下となるように、該樹脂基材を冷却することにより、
アモルファス相の溶射被膜を形成する溶射工程を備え、
前記溶射被膜が前記樹脂基材に対する高い密着性を有し、かつ、その表面粗さRaが10μm以下であることを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法。 - 請求項1記載の溶射方法において、前記金属ガラスが、30℃以上の過冷却液体温度領域△Txと、350℃以上、700℃以下のガラス遷移温度Tgと、を有することを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法。
- 請求項1または2記載の溶射方法において、前記樹脂基材が耐熱温度120℃以上であることを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法。
- 請求項1〜3の何れかに記載の溶射方法において、
前記溶射工程では、前記樹脂基材表面をマスキングして、溶射被膜のパターニングを行うことを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法。 - 請求項1〜4の何れかに記載の溶射方法において、
前記金属ガラス粉体の粒径が10μm以上、60μm以下であることを特徴とする薄い樹脂へ金属ガラスを溶射する方法。 - 請求項1〜5のいずれかに記載の溶射方法を用いることを特徴とする、樹脂基材および金属ガラス被膜を有する複合材料を製造する方法。
- 請求項6記載の製造方法において、
前記溶射被膜は、前記樹脂基材表面への衝突によって前記金属ガラス粉体が薄くつぶれて広がったスプラットの堆積体であることを特徴とする、
樹脂基材および金属ガラス被膜を有する複合材料を製造する方法。 - 請求項6または7記載の製造方法において、
前記溶射被膜が複数の元素から構成され、構成元素として少なくともFeを30〜80原子%含むことを特徴とする、
樹脂基材および金属ガラス被膜を有する複合材料を製造する方法。 - 請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法において、前記樹脂基材はポリイミド樹脂からなることを特徴とする、
樹脂基材および金属ガラス被膜を有する複合材料を製造する方法。
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