JP4459518B2 - 固体高分子型燃料電池の運転方法および運転システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子型燃料電池の運転方法および運転システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ガスの電気化学反応により電気を発生させる燃料電池は、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ないことから、近年、発電用、低公害の自動車用電源等、種々の用途が期待されている。燃料電池は、その電解質により分類することができ、例えば、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物型燃料電池、固体高分子型燃料電池等が知られている。
【0003】
なかでも、固体高分子型燃料電池は、80℃程度の低温で作動させることができるため、他の種類の燃料電池と比較して取扱いが比較的容易であり、また、出力密度が極めて大きいことから、その利用が期待されるものである。固体高分子型燃料電池は、通常、プロトン導電性のある高分子膜を電解質とする。電解質の両側にそれぞれ燃料極、酸素極となる一対の電極が設けられ電極接合体が構成される。電極接合体をセパレータで挟持した単セルが発電単位となる。そして、水素や炭化水素等の燃料ガスを燃料極に、酸素や空気等の酸化剤ガスを酸素極にそれぞれ供給し、ガスと電解質と電極との3相界面において電気化学的な反応を進行させることにより電気を取り出す。
【0004】
電解質となる高分子膜は、水を含有した状態でプロトン導電性を有する。高分子膜のプロトン導電性を維持するため、一般には、燃料ガスや酸化剤ガスを加湿水により加湿した後、各々の電極に供給する。また、電池反応により、酸素極では水が生成する。このように、固体高分子型燃料電池の内部には、常に水が存在しており、水は電気浸透や拡散によって両電極間を移動する。
【0005】
一方、燃料電池に燃料ガス等を供給する配管には、耐食性の高いステンレス材料等の金属材料が用いられることが多い。また、燃料電池の構成材料であるセパレータ等に金属材料が使用されることもある。したがって、固体高分子型燃料電池を長期間運転した場合には、上記配管やセパレータに用いられる金属材料から加湿水や生成水へ金属イオンが溶出する、いわゆる金属材料の腐食が問題となる。すなわち、溶出した金属イオンは、電解質膜を構成する高分子中のスルホン酸基のプロトンとイオン交換する。その結果、電解質膜のプロトン導電性が阻害され、電池の内部抵抗が増加して、電圧低下等の電池性能の低下を招く。また、溶出した金属イオンが燃料極で還元され金属として析出したり、水酸化物や酸化物となって酸素極に析出するおそれもある。電極に金属等が析出すると、電極面積が減少して電気化学反応を阻害するため、電池の分極が増加し、上記同様に電池性能の低下を招く。
【0006】
金属イオンの溶出により電池性能が低下した固体高分子型燃料電池に対して、その性能を回復させる試みがいくつか報告されている。例えば、電池性能の回復手段として、高負荷での運転や酸性溶液による洗浄等が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、同手段として、キレート剤水溶液による洗浄処理が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、燃料電池の構成部材の腐食を監視する装置として、燃料電池の運転時の電池電圧、温度、圧力、水蒸気圧力を測定し、それらの値から電極の腐食進行速度等を算出する装置がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−85037号公報
【特許文献2】
特開2000−260455号公報
【特許文献3】
特開平9−45352号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に開示された試みは、いずれも電池性能が低下した電池に対して施されるものである。つまり、電池の性能低下を未然に防止するものではない。また、特許文献3に開示された装置は、電極の腐食進行速度を、電池電圧等の運転条件から間接的に算出しているにすぎない。したがって、負荷変動がある場合には誤差が大きくなり、実用的とはいえない。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、電池性能の低下を抑制し、固体高分子型燃料電池を長期間にわたり安定して運転することのできる運転方法を提供することを課題とする。また、そのような固体高分子型燃料電池の運転システムを提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法は、水素を含む燃料ガスが供給される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と、該燃料極と該酸素極との間に挟装された電解質膜とからなる電極接合体がセパレータを介して複数個積層されて構成された固体高分子型燃料電池の運転方法であって、前記燃料ガスを加湿する燃料ガス加湿水、前記酸化剤ガスを加湿する酸化剤ガス加湿水、および電池反応により前記酸素極で生成する生成水の少なくとも一つ以上における不純物イオンの溶出の程度を測定する不純物イオン測定ステップと、前記不純物イオン測定ステップで測定された測定値に基づいて、前記固体高分子型燃料電池が予め設定された電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断を行う判断ステップと、前記固体高分子型燃料電池が前記電池性能低下の予想される領域にあると判断された場合に、該固体高分子型燃料電池を該電池性能低下の予想される領域から回避させるために、電池性能低下の予想される領域にあると判断される以前の通常運転に対して、電池の作動温度を低下させること、酸素のストイキ値を1.5以下にして酸素極の電位を低下させること及び高電流密度運転をすることのうち何れか一つ以上の作業を行う回避ステップとを含んで構成される。
【0011】
上述した金属イオンの溶出は、加湿水や生成水に含まれるフッ化物イオン(F-)や塩化物イオン(Cl-)等の濃度により影響を受ける。例えば、電極の触媒層に含まれる微量の亜硫酸、有機酸、アミン、アンモニア等や、電極の触媒層や電解質膜が熱劣化することにより生成されるフッ酸、硫酸等が加湿水や生成水に溶け込むと、金属イオンの溶出が加速されると考えられる。また、供給される酸化剤ガス等を通じて外部から不純物が混入し、加湿水や生成水中に不純物イオンとして溶出している場合にも、金属イオンの溶出が加速されるおそれがある。本発明者は、これら溶出した金属イオンやフッ化物イオン等の不純物イオンを、電池性能を低下させる原因の一つとして考えた。そして、不純物イオンの加湿水等への溶出の程度を測定し、その測定値に基づいて運転条件を制御等することで、上記金属イオンの溶出を有効に抑制することができると考えた。
【0012】
すなわち、本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法は、所定の水における不純物イオンの溶出の程度を測定することで、固体高分子型燃料電池の状態を判断し、電池性能が低下していると判断された場合には、その状態から固体高分子型燃料電池を回避させるものである。本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法によれば、電池性能の低下を招くことなく、固体高分子型燃料電池を長期間にわたり安定して運転することができる。
【0013】
また、本発明の固体高分子型燃料電池の運転システムは、水素を含む燃料ガスが供給される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と、該燃料極と該酸素極との間に挟装された電解質膜とからなる電極接合体がセパレータを介して複数個積層されて構成された固体高分子型燃料電池の運転システムであって、前記燃料ガスを加湿する燃料ガス加湿水、前記酸化剤ガスを加湿する酸化剤ガス加湿水、および電池反応により前記酸素極で生成する生成水の少なくとも一つ以上における不純物イオンの溶出の程度を測定する不純物イオン測定手段と、前記不純物イオン測定ステップで測定された測定値に基づいて、前記固体高分子型燃料電池が予め設定された電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断を行う判断手段と、前記固体高分子型燃料電池が前記電池性能低下の予想される領域にあると判断された場合に、該固体高分子型燃料電池を該電池性能低下の予想される領域から回避させるために、電池性能低下の予想される領域にあると判断される以前の通常運転に対して、電池の作動温度を低下させること、酸素のストイキ値を1.5以下にして酸素極の電位を低下させること及び高電流密度運転をすることのうち何れか一つ以上の作業を行う回避手段とを備える。
【0014】
本発明の固体高分子型燃料電池の運転システムによれば、上述した本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法を実施することができる。すなわち、本発明の運転システムは、不純物イオン測定手段と、判断手段と、回避手段とを備えることにより、電池性能の低下を抑制しつつ固体高分子型燃料電池を運転することができる。したがって、本発明の固体高分子型燃料電池の運転システムによれば、固体高分子型燃料電池を長期間にわたり安定して運転することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法の実施形態と運転システムの実施形態とを順に説明する。なお、本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法および運転システムは、下記の実施形態に限定されるものではない。本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法および運転システムは、下記実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0016】
〈固体高分子型燃料電池の運転方法〉
本発明の運転方法の運転対象となる固体高分子型燃料電池は、水素を含む燃料ガスが供給される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と、該燃料極と該酸素極との間に挟装された電解質膜とからなる電極接合体がセパレータを介して複数個積層されて構成される。つまり、本発明の運転方法の運転対象となる固体高分子型燃料電池は、燃料極および酸素極からなる一対の電極と電解質膜とセパレータとを備えるという点で、一般に知られている固体高分子型燃料電池の構成に従うものである。
【0017】
燃料極および酸素極は、それぞれ、白金等をカーボン粒子に担持させた触媒を含む触媒層と、カーボンクロス等のガスが拡散可能な多孔質材料からなる拡散層との二層から構成される。この場合、後述する電解質膜の両表面に触媒層と拡散層とを形成して電極接合体とすればよい。例えば、各電極の触媒を、電解質膜となる高分子を含む液に分散し、その分散液を電解質膜の両表面に塗布、乾燥等して触媒層を形成する。そして、形成した各触媒層の表面に、カーボンクロス等を圧着等することで拡散層を形成し、電極接合体とすればよい。
【0018】
電解質膜には、通常、イオン導電性のある高分子膜が用いられる。高分子膜の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、全フッ素系スルホン酸膜、全フッ素系ホスホン酸膜、全フッ素系カルボン酸膜や、含フッ素炭化水素系グラフト膜、全炭化水素系グラフト膜、全芳香族膜等の炭化水素系電解質膜等を用いることができる。特に、耐久性等を考慮した場合には、全フッ素系電解質膜を用いることが望ましい。なかでも、電解質としての性能が高いという理由から、全フッ素系スルホン酸膜を用いることが望ましい。全フッ素系スルホン酸膜の一例として、「ナフィオン」(登録商標、デュポン社製)の商品名で知られる、スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルとテトラフルオロエチレンとの共重合体膜が挙げられる。
【0019】
上記一対の電極および電解質膜からなる電極接合体を挟持するセパレータとしては、集電性能が高く、酸化水蒸気雰囲気下でも比較的安定な焼成カーボン、成形カーボンや、ステンレス材料の表面に貴金属や炭素材料を被覆したもの等を用いればよい。
【0020】
本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法は、不純物イオン測定ステップと、判断ステップと、回避ステップとを含む。以下、各ステップごとに詳しく説明する。
【0021】
(1)不純物イオン測定ステップ
本ステップは、燃料ガスを加湿する燃料ガス加湿水、酸化剤ガスを加湿する酸化剤ガス加湿水、および電池反応により酸素極で生成する生成水の少なくとも一つ以上における不純物イオンの溶出の程度を測定するステップである。不純物イオン溶出の程度の測定箇所は、固体高分子型燃料電池を運転するシステムに応じて、上記三箇所から適宜選択すればよい。一般に、金属材料の腐食は、酸素の存在下で問題となる。したがって、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極側、つまり、酸化剤ガス加湿水や生成水における不純物イオンの溶出の程度を測定することが望ましい。また、燃料ガスや酸化剤ガスを加湿するために、電池反応により生成した生成水を利用しないシステムの場合には、加湿水と生成水との両方にて不純物イオンの溶出の程度を測定することが望ましい。一方、燃料ガスや酸化剤ガスを加湿するために生成水を利用するシステムの場合には、加湿水あるいは生成水のいずれか一方にて測定すれば足りる。
【0022】
溶出の程度が測定される不純物イオンは、電池性能を低下させる原因となるイオンであり、その種類が特に限定されるものではない。例えば、金属イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、塩化物イオンから選ばれる一種以上の溶出の程度を測定することが望ましい。以下(a)〜(c)において、上記各イオンの測定方法等を述べる。
【0023】
(a)金属イオン
上述したように、固体高分子型燃料電池を長期間運転した場合、金属材料の腐食が問題となる。溶出した金属イオンは、電解質膜を構成する高分子中のスルホン酸基のプロトンとイオン交換する。その結果、電解質膜のプロトン導電性が阻害される。また、金属イオンが金属等となり電極に析出することにより、電気化学反応が阻害される。このように、金属イオンの溶出の程度が大きくなると、電池性能は低下する。ここで、中性領域の水中における金属イオンの溶出メカニズムを説明する。
【0024】
例えば、pH値が7程度の水中におけるステンレス材料の酸化反応は、次式(1)で表される。
Fe → Fe2+ + 2e- ・・・(1)
ここで、25℃における式(1)の熱力学的な平衡電位E0は、E0=−0.440(V vs.SHE)と計算される。また、酸素極側では、式(2)で表されるCrの過不働態溶出が生じることもある。
Cr23 + 5H2O → 2CrO4 2- +10H+ + 6e- ・・・(2)
25℃における式(2)の熱力学的な平衡電位E0は、上記式(1)と同様に、E0=−0.579(V vs.SHE)と計算される。
【0025】
一方、還元反応は、式(3)で表されるような溶存酸素の還元反応となる。
2 + 2H2O + 4e- → 4OH- ・・・(3)
25℃における式(3)の熱力学的な平衡電位E0は、E0=0.401−0.0591×pH+0.0148×logP(O2)により計算される。
【0026】
このように、中性領域では、上記式(1)と式(3)との混成電位でステンレス材料の腐食、すなわち金属イオンの溶出が進行する。金属イオンの溶出の程度は、水中の金属イオンの濃度や金属材料の腐食速度を求めることにより測定することができる。水中の金属イオンの濃度は、イオン選択性電極を用いて求めればよい。なお、イオン選択性電極は、測定対象となるイオン以外の他イオンによる検出妨害や、イオン選択性透過膜の汚染により、正確に測定できない場合がある。このため、イオン選択性電極を用いる場合には、適宜生成水等によりイオン選択性電極を洗浄しながら測定することが望ましい。
【0027】
金属材料の腐食速度は、分極抵抗法やガルバニックカップル法等の種々の電気化学的方法で求めることができる。自然浸漬電位近傍の腐食速度を長期間安定して求めるという観点からは、微小な電流を試料に通した場合の電位応答から腐食速度を求める分極抵抗法を採用することが望ましい。この場合、測定に用いる腐食センサは、作用電極と対極と参照電極との三電極系となる。また、腐食速度に対応する微小な電流値の変化を測定することができるという理由から、大気腐食モニター(Atmospheric Corrosion Monitor)等のガルバニックカップルタイプの腐食センサを用いることが望ましい。大気腐食モニターは、作用電極と対極との二種類の電極が至近距離で対向して配置された腐食センサである。電極の結露部における腐食電流を測定するものであるため、測定の際、腐食センサ全体を水没させる必要はないという利点がある。
【0028】
上記各腐食センサにおける作用電極の材料には、配管等に使用され耐食性に優れるステンレス材料を用いればよい。また、対極の材料には、耐食性に優れ、抵抗が小さくそれ自身が分極し難いことから、Pt、Au等の貴金属、Ti、ステンレス材料、黒鉛等の炭素材料等を用いることが望ましい。なかでも、炭素材料は、安価であり、自然浸漬電位近傍では高温下でも比較的安定であるため好適である。参照電極には、高温での安定性に優れる水素電極、塩化銀電極、安定化ジルコニア等の固体電解質を用いた電極等を用いることが望ましい。なお、予め上記水素電極等の標準電極との電位差を検定しておくことで、対極と同様、Pt、Au等の貴金属、Ti、ステンレス材料、黒鉛等の炭素材料等を用いた電極を参照電極とすることもできる。
【0029】
(b)フッ化物イオンおよび硫酸イオン
電極の触媒層や電解質膜の熱劣化により生成されるフッ酸や硫酸が、加湿水や生成水に溶解することにより、それぞれフッ化物イオン、硫酸イオンとなる。つまり、加湿水や生成水中にフッ化物イオンや硫酸イオン(以下、「フッ化物イオン等」と表す。)が多く含まれるということは、電極の触媒層や電解質膜の劣化が進行していることを示す。また、水中にフッ化物イオン等が存在することにより、上記金属イオンの溶出も加速される。このように、フッ化物イオン等の溶出の程度が大きくなると、電池性能の低下を招く。フッ化物イオン等の溶出の程度は、水中のフッ化物イオン等の濃度を求めることにより測定することができる。フッ化物イオン等の濃度は、上記金属イオンと同様、イオン選択性電極を用いて求めればよい。例えば、フッ化物イオン濃度の測定には、LaF3等のフッ化物イオン導電性固体膜をセンサとしたフッ化物イオン選択性電極を用いればよい。また、硫酸イオン濃度の測定には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオンを含むアルミニウム13量体硫酸塩等の沈殿を用いた固体膜型硫酸イオン選択性電極を用いればよい。
【0030】
(c)塩化物イオン
NaCl、CaCl2等の塩化物等の不純物が加湿水に含まれる場合には、加湿水中に塩化物イオンが溶出する。そして、その加湿水により加湿された酸化剤ガス等を通して塩化物イオンが電池系内に混入する。水中に塩化物イオンが存在することにより、上記金属イオンの溶出が加速される。したがって、塩化物イオンの溶出の程度が大きくなると、電池性能の低下を招く。塩化物イオンの溶出の程度は、水中の塩化物イオンの濃度を求めることにより測定することができる。塩化物イオンの濃度は、上記金属イオン等と同様、イオン選択性電極を用いて求めればよい。例えば、銀・塩化銀を参照電極とした固体膜電極や、ポリ塩化ビニル等の高分子支持膜中に第4級アンモニウム塩を感応物質として添加した高分子支持膜型電極等を用いればよい。
【0031】
不純物イオンの溶出の程度は、上述したように、各イオンについて直接測定してもよく、また、不純物イオンの溶出に関係するパラメータに基づいて間接的に測定してもよい。例えば、燃料ガス加湿水、酸化剤ガス加湿水、および生成水の少なくとも一つ以上の電気伝導度、pH値、および電解質膜の電気伝導度のいずれか一つ以上を測定することにより、不純物イオンの溶出の程度を測定することができる。
【0032】
また、生成水等に不純物イオンが溶出すると、生成水等の電気伝導度が上昇する。したがって、生成水等の電気伝導度の変化をモニターすることにより、不純物イオンの溶出の程度を測定することができる。電気伝導度は、生成水等の水が滞留する部分に電気伝導度測定セルを置き、交流ブリッジ法等の既に公知の方法で測定すればよい。
【0033】
生成水等に不純物イオンが溶出するとpH値が変化する。さらに、溶出した不純物イオンが電解質膜のプロトンとイオン交換すると、遊離したプロトンにより生成水等のpH値が低下する。したがって、生成水等のpH値を測定することにより、不純物イオンの溶出の程度を測定することができる。pH値は、ガラス膜をセンサとした水素イオン選択性電極により測定すればよい。また、測定装置に堅牢性が要求される場合には、pH電極としてPt、Au等の貴金属を、参照電極として銀・塩化銀電極または水素電極を用いて、pH電極と参照電極との電位差からpH値を測定すればよい。
【0034】
溶出した金属イオンにより電解質膜のプロトンがイオン交換されると、電解質膜のプロトン導電性が阻害される。したがって、電解質膜の電気伝導度の変化を測定することにより、プロトン導電性の低下の程度、換言すれば、不純物イオンの溶出の程度を測定することができる。この場合、以下の方法で電解質膜の電気伝導度を測定すればよい。まず、電解質膜として使用する高分子膜の両表面にPt等の貴金属からなる電極を形成した膜センサを作製する。そして、膜センサを生成水等の水が滞留する部分に設置して、膜センサの電気伝導度を測定すればよい。
【0035】
(2)判断ステップ
本ステップは、不純物イオン測定ステップで測定された測定値に基づいて、固体高分子型燃料電池が予め設定された電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断を行うステップである。固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断は、例えば、予備実験により、測定する項目に応じて基準値を設定し、所定の測定値がその基準値を超えた場合等に、電池性能低下の予想される領域にあると判断すればよい。設定される基準値は、測定する項目により異なる。以下、測定項目ごとに、基準値の一例を挙げる。
【0036】
不純物イオン測定ステップにおいて、加湿水等における金属イオンの濃度を測定した場合には、金属イオンの濃度が50ppmを超えた場合に、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。また、金属材料の腐食速度を電気化学的方法により測定した場合には、腐食速度が0.1μA/cmを超えた場合に、電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。ここでは、固体高分子型燃料電池を6000時間連続運転した時に、酸素極の触媒層に含まれる高分子のプロトンのうち約20%が失われると予想される電流密度を基準値として採用した。基準値となる電流密度の算出方法を、以下に示す。
【0037】
上記式(1)に示したように、2ファラディ(F)で1モルの鉄(Fe)が酸化され、1モルの鉄イオン(Fe2+)が生成する。例えば、0.1μA/cm2の電流密度で6000時間運転した場合、流れる電気量は、[0.1×10-6×6000×3600/96500=2.24×10-5(F)]となる。Feの1モルは55.85gであり、2Fで1モルが消耗するため、Feの消耗重量は、[2.24×10-5/2×55.85=6.3×10-4(g/cm2)]と計算される。この値を、溶出したFe2+のモル数に換算すると、1.12×10-5mol/cm2となる。ここで、酸素極の触媒層に含まれるプロトン量を、約0.1×10-3mol/cm2とすると、Fe2+と置換したプロトンの割合は、[(1.12×10-5)×2/(0.1×10-3)×100=22(%)]となる。つまり、0.1μA/cm2の電流密度で6000時間運転した場合、約20%のプロトンが失われると予想される。
【0038】
不純物イオン測定ステップにおいて、加湿水等におけるフッ化物イオンの濃度を測定した場合には、フッ化物イオンの濃度が5ppmを超えた場合に、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。フッ化物イオンの濃度が5ppmを超えた場合には、使用したフッ素系電解質膜の劣化が始まっていると推測されるからである。また、加湿水等における硫酸イオンの濃度を測定した場合には、硫酸イオンの濃度が50ppmを超えた場合に、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。硫酸イオンの濃度が50ppmを超えた場合には、上記フッ化物イオンの場合と同様、スルホン酸基を有する電解質膜の劣化が始まっていると推測されるからである。さらに、加湿水等における塩化物イオンの濃度を測定した場合には、塩化物イオンの濃度が2ppmを超えた場合に、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。塩化物イオンの濃度が2ppmを超えると、金属材料の腐食が著しく促進されるからである。
【0039】
また、不純物イオン測定ステップにおいて、加湿水等の電気伝導度を測定した場合には、加湿水等の電気伝導度が100μS/cmを超えた場合に、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。電気伝導度が100μS/cmを超えた場合には、不純物イオンが多く溶出しているため、電池性能の低下が予想されるからである。加湿水等のpH値を測定した場合には、pH値が3未満あるいは9を超えた場合に、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。pH値が3未満の場合には、電解質膜からのプロトンの遊離が進行していると考えられ、さらに、酸性の条件では鉄等の金属材料の腐食が促進されるからである。一方、pH値が9を超えた場合には、アルミニウム等の金属材料の腐食が促進されるからである。電解質膜の電気伝導度を測定した場合には、電解質膜の電気伝導度が25℃下で0.03S/cm未満、あるいは80℃下で0.08S/cm未満の場合に、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断することが望ましい。電解質膜の電気伝導度の低下は、電解質膜の劣化を示すものである。つまり、電気伝導度が上記基準値未満の場合には、不純物イオンの溶出の程度が大きいと考えられる。
【0040】
(3)回避ステップ
本ステップは、判断ステップにて、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断された場合に、固体高分子型燃料電池を電池性能低下の予想される領域から回避させるステップである。例えば、固体高分子型燃料電池の運転条件を制御することにより固体高分子型燃料電池を電池性能低下の予想される領域から回避させればよい。
【0041】
固体高分子型燃料電池の運転条件を制御する場合には、例えば、電池の作動温度、運転スタック数、燃料ガスや酸素ガス等の供給量および分圧等を適宜調整すればよい。例えば、高温下では不純物イオンの溶出が促進されるため、電池の作動温度を低くすることが好適である。具体的には、固体高分子型燃料電池の冷却水流量を増加したり、ラジエータファンにより強制冷却することにより、電池の作動温度を低下させればよい。また、金属材料の浸漬電位が高い場合には腐食速度がより大きくなる。このため、例えば、酸素供給量を減らして、酸素のストイキ値(酸素供給量/発電電流から計算される理論酸素消費量)を1.5以下にすることにより、酸素極の電位を低下させると好適である。
【0042】
さらに、高電流密度にて運転することで、固体高分子型燃料電池を電池性能低下の予想される領域から回避させることも可能である。すなわち、高電流密度で運転すると電池反応により生成する生成水の量が多くなる。生成水を加湿水として利用せず、電池系外に排出するシステムの場合には、多量の生成水により主に酸素極側が洗われるため、電解質膜等に含まれる不純物イオンが電池系外へ除去される。例えば、運転スタック数を減少して運転することにより、高電流密度で運転することができる。また、高電流密度で運転することにより発生する余剰の電力を、二次電池等に貯めておき、別途利用できるようなシステムを構成してもよい。本方法を採用すれば、別途洗浄液を準備する必要がなく、後述するように運転を停止する必要もないため、固体高分子型燃料電池を簡便かつ効率的に電池性能低下の予想される領域から回避させることができる。
【0043】
また、一旦運転を停止して、電池の構成材料や、燃料ガス等を供給する配管等を洗浄することも、電池性能低下の予想される領域から回避させるための有効な方法となる。本方法を採用する場合には、固体高分子型燃料電池の運転システムに別途洗浄ラインを設けて、純水、希硫酸等の酸、キレート剤添加水溶液、オゾン水等により配管等を洗浄すればよい。上記純水等に過酸化水素水を含有させた液にて洗浄してもよい。
【0044】
〈固体高分子型燃料電池の運転システム〉
本発明の一実施形態である固体高分子型燃料電池の運転システムの構成を説明する。図1に、本発明の固体高分子型燃料電池の運転システムの概略を示す。図1に示すように、固体高分子型燃料電池の運転システム1は、運転対象となる固体高分子型燃料電池2と、腐食センサ3と、制御ユニット4とを備える。
【0045】
固体高分子型燃料電池2は、電極接合体がセパレータを介して複数個積層されて構成されている。電極接合体は、電解質とその両側に設けられた燃料極および酸素極とからなる。固体高分子型燃料電池2の上流側には、水素ボンベ8および空気圧縮機9が設けられている。燃料ガスとしての水素ガスは、水素ボンベ8から水素圧力調整バルブ81、水素吸気バルブ82を介して固体高分子型燃料電池2の燃料極に供給される。酸化剤ガスとしての空気は、加湿器91により加湿された後、空気圧縮機9から固体高分子型燃料電池2の酸素極に供給される。燃料極で反応に使用されなかった水素ガスは、固体高分子型燃料電池2の下流側に設けられた水素気液分離器83により、水素と生成水とに分離されて排出される。酸素極で生成した生成水は、酸素極で反応に使用されなかった空気とともに固体高分子型燃料電池2の下流側に設けられた空気気液分離器92に送られる。空気気液分離器92にて空気と分離された生成水の一部は、酸化剤ガスである空気を加湿する加湿水として利用される。空気気液分離器92にて分離された空気は排出される。固体高分子型燃料電池2には、電圧測定装置6および温度測定装置7が設置されている。電圧測定装置6は、固体高分子型燃料電池2のセル電圧を測定する。温度測定装置7は、固体高分子型燃料電池2のセル温度を測定する。
【0046】
腐食センサ3は、空気気液分離器92における生成水の滞留部に設置されている。腐食センサ3は、三電極系の電気化学センサであり、腐食計31に接続されている。腐食計31により金属材料の腐食速度が算出され、算出された腐食速度は制御ユニット4に送られる。図2に、腐食センサ3の構成を模式的に示す。図2に示すように、腐食センサ3は、作用電極32と対極33と参照電極34とがエポキシ樹脂に埋め込まれてなる。ここで、作用電極32はステンレス材料のSUS316Lからなる。対極33と参照電極34とはいずれも黒鉛からなる。腐食計31は、腐食センサ3に接続されている。腐食計31は、腐食センサ3に流した電流値とその際に生じた分極電圧値とから分極抵抗値を求め、その分極抵抗値に基づいて金属材料の腐食速度を算出する。算出された腐食速度は、制御ユニット4へ送られる。本実施形態では、腐食センサ3および腐食計31が不純物イオン測定手段として機能する。また、空気気液分離器92における生成水の滞留部には、pH測定装置5が設置されている。pH測定装置5は、酸素極から排出された生成水のpH値を測定する。
【0047】
制御ユニット4は、判断手段および回避手段として機能する。制御ユニット4は、腐食センサ3等により測定された測定値をデジタル信号に変換するA/D変換器と、コンピュータと、出力された電気信号を処理する駆動回路とを備える。腐食計31、pH測定装置5、電圧測定装置6、および温度測定装置7により測定された測定値は、A/D変換器によりそれぞれデジタル信号に変換される。それらのデジタル信号はインターフェースを介してコンピュータに入力される。コンピュータでは、腐食計31により測定された測定値に基づいて、固体高分子型燃料電池が予め定められた電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断が行われる。そして、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断された場合には、電気信号がインターフェースを介して出力される。出力された電気信号は駆動回路により処理され、運転条件を変更させる等の対象となる装置に送られる。
【0048】
本実施形態では、不純物イオン測定手段として、金属材料の腐食速度を電気化学的方法により測定する電気化学的手段を採用した。しかし、測定対象となる不純物イオンは、金属イオンに限定されるものではない。フッ化物イオン、硫酸イオン、塩化物イオン等を測定対象とする態様を採用してもよい。また、測定手段も、上記電気化学的手段に限定されるものではない。加湿水や生成水中の不純物イオンの濃度を測定する濃度測定手段、加湿水や生成水の電気伝導度を測定する電気伝導度測定手段、加湿水や生成水のpH値を測定するpH値測定手段等、測定対象に応じて、適宜好適な測定手段を採用すればよい。
【0049】
【実施例】
実際に単セルの固体高分子型燃料電池を作製し、上述した本発明の実施形態である運転システムにより運転試験を行って、発電時における電圧低下の程度を調査することにより電池性能を評価した。以下、固体高分子型燃料電池の作製、運転試験および電池性能の評価等について説明する。
【0050】
〈固体高分子型燃料電池の作製〉
酸素極および燃料極の触媒として、白金がカーボンブラックに担持された触媒を用いた。上記触媒を、電解質であるナフィオン115(商品名、デュポン社製)のアルコール分散液に混合してペースト状とした。このペーストを拡散層となるカーボンクロスの表面に塗布、乾燥して、酸素極および燃料極とした。次いで、これら酸素極および燃料極を、ナフィオン115からなる電解質膜(膜厚約50μm)の両表面にそれぞれ120℃でホットプレスして電極接合体を形成し、焼成カーボン製のセパレータで挟持して単セルの固体高分子型燃料電池を作製した。なお、電極接合体にかかる締結圧力を、感圧試験紙で別途測定した結果、最大で8kgf/cm2であった。
〈固体高分子型燃料電池の運転試験〉
上記作製した固体高分子型燃料電池を、上記図1に示した運転システムによって運転した。上記図1に示すように、腐食センサ3は、酸素極の排出ガスラインの空気気液分離器92に設置されている。腐食センサ3および腐食計31により、生成水の不純物イオンの溶出の程度が測定される。本実施例では、腐食計31として、北斗電工社製の腐食計(HK−103)を使用した。
【0051】
固体高分子型燃料電池の運転条件は、作動温度を80℃、水素バブラ温度を85℃、空気バブラ温度を70℃とした。また、燃料極には、燃料ガスとして水素を背圧約0.05MPa、ストイキ値の1.5倍量で供給した。酸素極には、酸化剤ガスとして空気を背圧約0.05MPa、ストイキ値の2倍量で供給した。そして、負荷を調整し、電流密度を10分ごとに0.1A/cm2と1.0A/cm2と変化させるパターン運転を行った(20分で1サイクル)。
【0052】
運転中、腐食センサの出力電流が0.1μA/cmを超えた場合には、固体高分子型燃料電池が電池性能低下の予想される領域にあると判断し、固体高分子型燃料電池を電池性能低下の予想される領域から回避させた。回避させる方法には、運転条件を制御する二通りの方法を採用した。一つは、腐食センサの出力電流が0.1μA/cmを超えた場合に、電流密度を強制的に1.0A/cmに移行させて2時間運転した。すなわち、高電流密度での運転を長くした。なお、過剰な電流はニッケル−水素蓄電池に充電させた。以下、本運転方法を実施例1の運転方法とする。もう一つは、腐食センサの出力電流が0.1μA/cmを超えた場合に、水冷ジャケットの弁を開放し、作動温度を40℃に低下させて運転した。40℃での運転は2時間行った。以下、本運転方法を実施例2の運転方法とする。なお、比較例として、上記本発明の運転システムによらずに、上記作製した固体高分子型燃料電池を運転した。つまり、腐食センサを設けず、電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断を行わない点以外は、上述した運転条件にて運転した。以下、本運転方法を比較例1の運転方法とする。
【0053】
〈電池性能の評価〉
上記実施例1、2および比較例1の三種類の運転方法で、固体高分子型燃料電池のパターン運転を1000時間行った。パターン運転中、24時間ごとに運転を停止して、電池性能の評価を行った。電池性能は、評価対象となる電池を作動温度80℃、負荷0.8A/cm2の条件で運転し、開路電圧(OCV)からの電圧低下量を測定して評価した。
【0054】
実施例1、2の運転方法で運転した固体高分子型燃料電池は、比較例1の運転方法で運転したそれと比較して、電圧低下量は約1/2となった。これは、実施例1の運転方法では、高電流密度による運転で生成水により酸素極側が洗浄され、不純物イオン濃度が減少したためと考えられる。また、実施例2の運転方法では、作動温度の低温化により、不純物イオンの溶出が抑制されたためと考えられる。このように、本発明の運転方法によれば、電池の電圧低下を有効に抑制することができ、固体高分子型燃料電池を長期間にわたり安定して運転できる。
【0055】
〈高電流密度による運転の効果〉
上述したように、固体高分子型燃料電池を電池性能低下の予想される領域から回避させる方法として、高電流密度により運転する方法が挙げられる。ここで、高電流密度による運転の効果を確認するため、上記作製した固体高分子型燃料電池を用いて、上記図1に示した運転システムにより、以下に示す運転試験を行った。本運転試験では、図1における腐食センサ3として、ガルバニックカップルタイプの腐食センサを使用した。また、腐食計31に代えて無抵抗電流計35を使用した。図3に、使用した腐食センサの構成を模式的に示す。図3に示すように、腐食センサ3は、作用電極32と対極33とがエポキシ樹脂に埋め込まれてなる。作用電極32と対極33とは、それぞれ100μmのポリエステルフィルムで覆われ絶縁されている。ここで、作用電極32はステンレス材料のSUS316からなる。対極33はPtからなる。腐食センサ3は無抵抗電流計35に接続されている。無抵抗電流計35は、腐食センサ3に流れた電流値を測定する。測定された電流値は、制御ユニット4へ送られる。
【0056】
本運転試験における固体高分子型燃料電池の運転条件は、上述の運転条件と同様、作動温度を80℃、水素バブラ温度を85℃、空気バブラ温度を70℃とした。また、燃料極には、燃料ガスとして水素を背圧約0.05MPa、ストイキ値の1.5倍量で供給した。酸素極には、酸化剤ガスとして空気を背圧約0.05MPa、ストイキ値の2倍量で供給した。電流密度は0.1A/cm2とした。本運転試験は、以下の二通りの方法で、各々連続して700時間行った。一つは、100時間ごとに、電流密度を1.0A/cm2とする高電流密度運転を1時間行うものとした。以下、本運転方法を実施例3の運転方法とする。もう一つは、電流密度を0.1A/cm2のまま変えずに運転した。以下、本運転方法を比較例2の運転方法とする。
【0057】
実施例3および比較例2の運転方法において、上記腐食センサを流れた電流値を監視した。図4に、実施例3および比較例2の運転方法において腐食センサを流れた電流値の経時変化を示す。図4中、縦軸の電流値は、測定された電流値の初期値を1.0として算出した相対値である。図4より、腐食センサに流れる電流値は、100時間ごとに高電流密度による運転を行った実施例3の運転方法では、あまり増加していないことがわかる。一方、電流密度を変化させずに運転した比較例2の運転方法では、時間の経過とともに電流値が増加している。電流値の増加は、作用電極であるSUS316の腐食が進行したことを示すものである。本運転試験の結果から、高電流密度による運転を適宜行うことにより、金属材料の腐食が抑制され、電池性能の低下が回避できることが確認できた。
【0058】
【発明の効果】
本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法は、加湿水や生成水への不純物イオンの溶出の程度を測定し、電池性能を低下させる状態を回避するよう運転する方法である。加湿水や生成水への金属イオン等の不純物イオンの溶出を監視し、その溶出の程度により適宜運転条件を制御等することで、電池性能の低下を回避することができる。すなわち、本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法によれば、電池性能の低下を招くことなく、固体高分子型燃料電池を長期間にわたり安定して運転することができる。
【0059】
また、本発明の固体高分子型燃料電池の運転システムによれば、上記本発明の固体高分子型燃料電池の運転方法を簡便に実施することができる。したがって、本発明の固体高分子型燃料電池の運転システムによれば、電池性能の低下を招くことなく、固体高分子型燃料電池を長期間にわたり安定して運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態である固体高分子型燃料電池の運転システムの概略を示す。
【図2】 分極抵抗法により金属材料の腐食速度を測定する腐食センサの構成を模式的に示す。
【図3】 ガルバニックカップル法により金属材料の腐食速度を測定する腐食センサの構成を模式的に示す。
【図4】 実施例3および比較例2の運転方法において腐食センサを流れた電流値の経時変化を示す。
【符号の説明】
1:固体高分子型燃料電池の運転システム 2:固体高分子型燃料電池
3:腐食センサ 31:腐食計 4:制御ユニット 5:pH測定装置
6:電圧測定装置 7:温度測定装置 92:空気気液分離器

Claims (5)

  1. 水素を含む燃料ガスが供給される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と、該燃料極と該酸素極との間に挟装された電解質膜とからなる電極接合体がセパレータを介して複数個積層されて構成された固体高分子型燃料電池の運転方法であって、
    前記燃料ガスを加湿する燃料ガス加湿水、前記酸化剤ガスを加湿する酸化剤ガス加湿水、および電池反応により前記酸素極で生成する生成水の少なくとも一つ以上における不純物イオンの溶出の程度を測定する不純物イオン測定ステップと、
    前記不純物イオン測定ステップで測定された測定値に基づいて、前記固体高分子型燃料電池が予め設定された電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断を行う判断ステップと、
    前記固体高分子型燃料電池が前記電池性能低下の予想される領域にあると判断された場合に、該固体高分子型燃料電池を該電池性能低下の予想される領域から回避させるために、電池性能低下の予想される領域にあると判断される以前の通常運転に対して、電池の作動温度を低下させること、酸素のストイキ値を1.5以下にして酸素極の電位を低下させること及び高電流密度運転をすることのうち何れか一つ以上の作業を行う回避ステップと
    を含む固体高分子型燃料電池の運転方法。
  2. 前記不純物イオン測定ステップにおいて溶出の程度が測定される不純物イオンは、金属イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、塩化物イオンから選ばれる一種以上である請求項1に記載の固体高分子型燃料電池の運転方法。
  3. 前記不純物イオン測定ステップにおいて、金属イオンの溶出の程度を電気化学的方法により測定し、
    前記判断ステップにおいて、測定された測定値が予め定められた基準値を超えた場合に前記固体高分子型燃料電池が前記電池性能低下の予想される領域にあると判断する請求項1に記載の固体高分子型燃料電池の運転方法。
  4. 前記不純物イオン測定ステップにおいて、前記燃料ガス加湿水、前記酸化剤ガス加湿水、および前記生成水の少なくとも一つ以上の電気伝導度、pH値、および前記電解質膜の電気伝導度のいずれか一つ以上を測定することにより、前記不純物イオンの溶出の程度を測定する請求項1に記載の固体高分子型燃料電池の運転方法。
  5. 水素を含む燃料ガスが供給される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と、該燃料極と該酸素極との間に挟装された電解質膜とからなる電極接合体がセパレータを介して複数個積層されて構成された固体高分子型燃料電池の運転システムであって、
    前記燃料ガスを加湿する燃料ガス加湿水、前記酸化剤ガスを加湿する酸化剤ガス加湿水、および電池反応により前記酸素極で生成する生成水の少なくとも一つ以上における不純物イオンの溶出の程度を測定する不純物イオン測定手段と、
    前記不純物イオン測定ステップで測定された測定値に基づいて、前記固体高分子型燃料電池が予め設定された電池性能低下の予想される領域にあるかどうかの判断を行う判断手段と、
    前記固体高分子型燃料電池が前記電池性能低下の予想される領域にあると判断された場合に、該固体高分子型燃料電池を該電池性能低下の予想される領域から回避させるために、電池性能低下の予想される領域にあると判断される以前の通常運転に対して、電池の作動温度を低下させること、酸素のストイキ値を1.5以下にして酸素極の電位を低下させること及び高電流密度運転をすることのうち何れか一つ以上の作業を行う回避手段と
    を含む固体高分子型燃料電池の運転システム。
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