図1を参照すると、燃料電池システムAは燃料電池スタック10を備える。燃料電池スタック10は積層方向に互いに積層された複数の燃料電池単セル2を含む積層体を備える。積層体の各燃料電池単セル2は膜電極ガス拡散層接合体20と、膜電極ガス拡散層接合体20の両側に配置されたセパレータ(図示せず)とを含む。膜電極ガス拡散層接合体20は、電解質膜と、電解質膜の両側に設けられたアノード極及びカソード極とを備える。
燃料電池単セル2のアノード極は一端側に隣接する他の燃料電池単セル2のカソード極に、カソード極は他端側に隣接する他の燃料電池単セル2のアノード極にそれぞれセパレータを介して電気的に接続される。積層体の一端側の燃料電池単セル2のアノード極と他端側の燃料電池単セル2のカソード極とは燃料電池スタック10の電極を構成する。燃料電池スタック10の電極はDC/DCコンバータ11を介してインバータ12に電気的に接続され、インバータ12はモータジェネレータ13に電気的に接続される。また、燃料電池システムAは蓄電器14を備えており、この蓄電器14はDC/DCコンバータ15を介して上述のインバータ12に電気的に接続される。DC/DCコンバータ11は燃料電池スタック10が出力する出力電流・出力電圧の大きさを制御すると共に、出力された出力電流・出力電圧の大きさを変換してインバータ12に供給するためのものである。インバータ12はDC/DCコンバータ11又は蓄電器14からの直流電流を交流電流に変換するためのものである。DC/DCコンバータ15は燃料電池スタック10又はモータジェネレータ13から蓄電器14への電圧を低くし、又は蓄電器14からモータジェネレータ13への電圧を高くするためのものである。なお、図1に示される燃料電池システムAでは蓄電器14はバッテリから構成される。
また、燃料電池単セル2内には、アノード極に燃料ガスである水素ガスを供給するための燃料ガス流通路と、カソード極に酸化剤ガスである空気を供給するための酸化剤ガス流通路と、燃料電池単セル2に冷却水を供給するための冷却水流通路とがそれぞれ形成される。複数の燃料電池単セル2の燃料ガス流通路を並列に接続し、複数の燃料電池単セル2の酸化剤ガス流通路を並列に接続し、及び、複数の燃料電池単セル2の冷却水流通路を並列に接続することにより、燃料電池スタック10には燃料ガス通路30、酸化剤ガス通路40、及び、冷却水通路50がそれぞれ形成される。燃料ガス通路30、酸化剤ガス通路40、及び、冷却水通路50は、それぞれ燃料ガス用マニホールド、酸化剤ガス用マニホールド、及び、冷却水用マニホールドを含む。
燃料ガス通路30の入口には燃料ガス供給管31が連結され、燃料ガス供給管31は燃料ガス源32に連結される。図1に示される実施例では、燃料ガス源32は水素タンクから形成される。燃料ガス供給管31内には上流側から順に、遮断弁33と、燃料ガス供給管31内の燃料ガスの圧力を調整するレギュレータ34と、燃料ガス源32からの燃料ガスを燃料電池スタック10に供給するための燃料ガスインジェクタ35と、が配置される。一方、燃料ガス通路30の出口にはアノードオフガス管36が連結される。遮断弁33が開弁されかつ燃料ガスインジェクタ35が開弁されると、燃料ガス源32内の燃料ガスが燃料ガス供給管31を介して燃料電池スタック10内の燃料ガス通路30内に供給される。このとき燃料ガス通路30から流出するガス、すなわちアノードオフガスはアノードオフガス管36内に流入する。アノードオフガス管36内には上流側から順に、アノードオフガスを気液分離する気液分離器37と、気液分離器37に蓄積された液体の排出を制御する排出制御弁38が配置される。気液分離器37の上部には燃料ガス循環管81の入口が連通され、燃料ガス供給管31における燃料ガスインジェクタ35よりも上流の箇所には燃料ガス循環管81の出口が連通される。燃料ガス循環管81内には、気液分離器37内の気体、すなわち気液分離されたアノードオフガスを圧送する燃料ガス循環ポンプ39が配置される。燃料ガス循環ポンプ39が駆動されると、気液分離器37に蓄積されたアノードオフガスが燃料ガス供給管31へ循環される。図示しない別の実施例では、アノードオフガス管36内の気液分離器37が省略される。
また、酸化剤ガス通路40の入口には酸化剤ガス供給管41が連結され、酸化剤ガス供給管41は酸化剤ガス源42に連結される。図1に示される実施例では、酸化剤ガス源42は大気から形成される。酸化剤ガス供給管41内には上流側から順に、ガスクリーナ43と、酸化剤ガスを圧送する空気供給器ないしターボコンプレッサ44と、ターボコンプレッサ44から燃料電池スタック10に送られる酸化剤ガスを冷却するためのインタークーラ45と、が配置される。一方、酸化剤ガス通路40の出口にはカソードオフガス管46が連結される。カソードオフガス管46内にはカソードオフガス管46内を流れるカソードオフガスの量又は燃料電池スタック10の酸化剤ガス通路40内の圧力を制御するカソードオフガス制御弁47が配置される。更に、インタークーラ45下流の酸化剤ガス供給管41に酸化剤ガスバイパス管49の入口が連結され、酸化剤ガスバイパス管49の出口がカソードオフガス制御弁47下流のカソードオフガス管46に連結される。酸化剤ガスバイパス管49内には、酸化剤ガスバイパス制御弁48が配置される。酸化剤ガスバイパス制御弁48は、燃料電池スタック10を迂回して酸化剤ガス供給管41からカソードオフガス管46へ流れる空気の流量を制御する。図1に示される燃料電池システムAでは酸化剤ガスバイパス制御弁48は三方弁から形成される。ターボコンプレッサ44が駆動され、酸化剤ガスバイパス制御弁48が、酸化剤ガス供給管41における酸化剤ガスバイパス制御弁48よりも上流側の上流側酸化剤ガス供給管41Uに、酸化剤ガス供給管41における酸化剤ガスバイパス制御弁48よりも下流側の下流側酸化剤ガス供給管41Dを連通すると、酸化剤ガスが燃料電池スタック10内の酸化剤ガス通路40内に供給される。このとき酸化剤ガス通路40から流出するガス、すなわちカソードオフガスはカソードオフガス管46内に流入する。また、酸化剤ガスバイパス制御弁48が上流側酸化剤ガス供給管41Uに酸化剤ガスバイパス管49を連通すると、ターボコンプレッサ44から吐出された空気の一部又は全部が酸化剤ガスバイパス管49を介してカソードオフガス管46に供給される。図1に示される実施例では、ターボコンプレッサ44は遠心式又は軸流式のターボコンプレッサから構成される。小型化などの面から、遠心式のターボコンプレッサが好適に用いられる。
酸化剤ガスバイパス管49の出口下流のカソードオフガス管46内には希釈器80が設けられる。この希釈器80にはアノードオフガス管36の出口が連結される。希釈器80では、希釈器80から大気に排出されるガス中の水素ガス濃度が許容値以下になるように、アノードオフガスに含まれる水素ガスがカソードオフガスにより希釈される。なお、希釈器80に流入するカソードオフガスには、酸化剤ガスバイパス管49からの酸化剤ガスも含まれる。
また、冷却水通路50の入口には冷却水供給管51の一端が連結され、冷却水通路50の出口には冷却水供給管51の他端が連結される。冷却水供給管51内には冷却水を圧送する冷却水ポンプ52と、ラジエータ53とが配置される。ラジエータ53上流の冷却水供給管51と、ラジエータ53下流であってラジエータ53と冷却水ポンプ52間の冷却水供給管51とはラジエータバイパス管54により互いに連結される。また、ラジエータバイパス管54内を流れる冷却水量を制御するラジエータバイパス制御弁55が設けられる。図1に示される燃料電池システムAではラジエータバイパス制御弁55は三方弁から形成され、ラジエータバイパス管54の入口に配置される。冷却水ポンプ52が駆動されると、冷却水ポンプ52から吐出された冷却水は冷却水供給管51を介して燃料電池スタック10内の冷却水通路50内に流入し、次いで冷却水通路50を通って冷却水供給管51内に流入し、ラジエータ53又はラジエータバイパス管54を介して冷却水ポンプ52に戻る。
電子制御ユニット60はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス61によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)62、RAM(ランダムアクセスメモリ)63、CPU(マイクロプロセッサ)64、入力ポート65及び出力ポート66を具備する。燃料電池スタック10の出力電流及び出力電圧を計測する出力センサ16の出力信号、積層体の複数の燃料電池単セル2のそれぞれの出力電流及び出力電圧を計測する出力センサ17の出力信号、燃料電池スタック10の温度を計測する温度センサ18の出力信号、車両のトランスミッションのレンジを検出するレンジセンサ19の出力信号、及び、燃料電池システムA内の圧力センサ(図示せず)等の出力信号は対応するAD変換器67を介して入力ポート65に所定時間間隔(例示:0.1ms)ごとに入力される。入力ポート65に入力された各センサ等からの出力信号は、データとしてRAM63に格納され、運転履歴として記憶される。一方、出力ポート66は対応する駆動回路68を介して遮断弁33、レギュレータ34、燃料ガスインジェクタ35、排出制御弁38、燃料ガス循環ポンプ39、ターボコンプレッサ44、カソードオフガス制御弁47、酸化剤ガスバイパス制御弁48、冷却水ポンプ52、及びラジエータバイパス制御弁55に電気的に接続される。
ところで、燃料電池スタック10で発電すべきときには遮断弁33及び燃料ガスインジェクタ35が開弁され、燃料ガスが燃料電池スタック10に供給される。また、ターボコンプレッサ44が駆動され、酸化剤ガスが燃料電池スタック10に供給される。その結果、燃料電池単セルにおいて電気化学反応(H2→2H++2e−,(1/2)O2+2H++2e−→H2O)が起こり、電気エネルギが発生される。この発生された電気エネルギはモータジェネレータ13に送られる。その結果、モータジェネレータ13が車両駆動用の電気モータとして作動され、電動車両が駆動される。一方、例えば車両制動時にはモータジェネレータ13が回生装置として作動し、このとき回生された電気エネルギは蓄電器14に蓄えられる。
図2に示すように、燃料電池単セル2では、膜電極ガス拡散層接合体20の電解質膜5eの一側に形成されたアノード極5aはアノード電極触媒層5asとアノードガス拡散層5adとを備え、電解質膜5eの他側に形成されたカソード極5cはカソード電極触媒層5csとカソードガス拡散層5cdとを備えている。膜電極ガス拡散層接合体20のアノード極5a側にはアノードセパレータ3aが配置され、カソード極5c側にはカソードセパレータ3cが配置されている。
電解質膜5eの材料、すなわち電解質材料としては、例えばパーフルオロスルホン酸のような陽イオン伝導性を有するフッ素系の陽イオン交換樹脂が挙げられ、具体的にはナフィオン(登録商標)が例示される。アノード電極触媒層5as及びカソード電極触媒層5csの電極触媒の材料としては、例えば白金又は白金合金を担持した触媒担持カーボンが挙げられる。図示しない別の実施例では、電解質膜5eと同様の電解質材料、例えばフッ素系の陽イオン交換樹脂で形成されるアイオノマーが触媒担持カーボンに加えられる。アノードガス拡散層5ad及びカソードガス拡散層5cdの材料としては、導電性を有する多孔体、例えばカーボンペーパー、カーボンクロス、ガラス状カーボンのようなカーボン多孔体や、金属メッシュ、発泡金属のような金属多孔体が挙げられる。アノードセパレータ3a及びカソードセパレータ3cの材料としては、例えばステンレスやTiのような金属が挙げられる。
図1に示される燃料電池システムAでは、発電すべきときには、例えばアクセルペダルの踏み込み量により表されるモータジェネレータ13の負荷及び蓄電器14の蓄電量に応じて燃料電池スタック10の目標電流値が求められる。次いで、燃料電池スタック10の出力電流値を目標電流値にするのに必要な燃料ガス流量及び酸素ガス流量、すなわち目標燃料ガス流量及び目標酸素ガス流量が求められ、目標酸素ガス流量に基づいて目標酸化剤ガス流量が求められる。次いで、燃料電池スタック10に送られる燃料ガス流量が目標燃料ガス流量となるようにレギュレータ34及び燃料ガスインジェクタ35が制御され、燃料電池スタック10に送られる酸化剤ガス流量が目標酸化剤ガス流量となるようにターボコンプレッサ44及びカソードオフガス制御弁47が制御される。
ところで、燃料電池システムAでは、燃料電池システムAの運転中に、燃料電池スタック10における燃料電池単セル2のカソード電極触媒層5csの電極触媒(例示:白金又は白金合金)上に酸化被膜が形成され、それにより電極触媒の性能が低下して、燃料電池単セル2の性能が低下することがある。それに対処するために、燃料電池システムAにおいて、燃料電池システムAの運転中に、カソード極5c側の空気を絞り、燃料電池単セル2のカソード電位を一時的に低下させる活性化処理を行い、電極触媒の性能を向上させることが行われる。ところが、活性化処理を行っても、原因は不明であるが燃料電池単セルの性能が十分に向上しない場合が起こることがある。そこで本発明の発明者は、活性化処理で燃料電池単セル2の性能が十分に向上しない場合の原因を解明するべく、その原因として電解質膜5e内の金属の陽イオン(カチオン)不純物の量に着目した。
ここで、その陽イオンは、燃料電池システムAの運転中に、燃料電池スタック10に供給される空気に同伴されることなどにより、燃料電池スタック10の燃料電池単セル2内に入り込んだ陽イオンである。この陽イオンとしては、融雪剤に含まれるCa、Naなど、及び、燃料電池システムAの部品に含まれるFe、Mo、Cr、Alなどが考えられる。燃料電池単セル2の電解質膜5eとしてはナフィオン(登録商標)に例示される陽イオン交換膜が用いられているため、この陽イオンが燃料電池単セル2内に入ると、陽イオン交換膜内に侵入してそのまま膜内に留まり、膜内のスルホン酸基を置換してしまう。そのため、膜内の陽イオンの量が増加すると、陽イオン交換膜内でH+イオンの伝導に関わるスルホン酸基が減少して、H+イオンが移動し難くなり、すなわちプロトン伝導性が低下して、電池性能が劣化してしまう。したがって、陽イオン不純物の量が多い場合、活性化処理の効果が陽イオン不純物による電池性能の劣化に隠れてしまい、燃料電池単セル2の性能の向上に結び付かない可能性が考えられる。
そして、本発明の発明者が電解質膜5e内の陽イオン不純物量と活性化処理との関係について検討した結果、以下の事実を見出した。すなわち活性化処理を行うとき、陽イオン不純物量が少ないときには、活性化処理の程度が低くても高くても燃料電池単セル2の性能向上の度合いはほぼ同じであるが、陽イオン不純物量が多いときには、活性化処理の程度が低いと燃料電池単セル2の性能向上の度合いは小さく、活性化処理の程度が高いと燃料電池単セル2の性能向上の度合いは大きくなる。すなわち、活性化処理による燃料電池単セル2の性能向上の度合いは陽イオン不純物量の大きさに依存しており、活性化処理を行ったにも拘らず燃料電池単セル2の性能の向上が十分でないのは、電解質膜5e中の陽イオン不純物が多いにも拘らず活性化処理の程度が低いこと、すなわち陽イオン不純物量を考慮した活性化処理を行っていないことが原因である。したがって、活性化処理により燃料電池単セル2の性能を確実に向上させるためには、陽イオン不純物量に応じて活性化処理の程度を変更する必要がある。以下、陽イオン不純物量に応じて活性化処理の程度を変更する、本発明の燃料電池システムAについて詳細に説明する。
まず、燃料電池単セル2中の電解質膜5eに含まれる陽イオン不純物量と活性化処理との関係について説明する。
図3は、電解質膜5eが陽イオン不純物を含んでいない場合での燃料電池単セル2の出力電圧と出力電流との関係、すなわちIV特性を示すグラフである。図4は、電解質膜5eが陽イオン不純物を含んでいる場合での燃料電池単セル2のIV特性を示すグラフである。両図において、横軸は出力電流密度を示し、縦軸は出力電圧を示す。本実施例では、電解質膜5eの陽イオン不純物量を表す指標の一例として、電解質膜5e中のスルホン酸基が陽イオン不純物により置換された割合、すなわちスルホン酸基置換割合を用いる。図3の場合でのスルホン酸基置換割合は0%であり、図4の場合でのスルホン酸基置換割合は30%である。また、燃料電池単セル2としては1cm2セルを用い、燃料ガス/酸化剤ガスとしてはH2/Air(1L/min)を用い、燃料電池単セル2の温度を83℃(相対湿度30%)として実験を行った。
図3及び図4において、曲線EI01及び曲線EI02は、このIV特性を計測する直前に、その燃料電池単セル2のカソード電位を0Vに30分間継続して保持した場合を示す。ただし、本実施例では、直前に保持するカソード電位を前保持電位と称し、したがってこの場合の前保持電位は0Vとなる。一方、図3及び図4において、曲線EI11及び曲線EI12は、このIV特性を計測する直前に、その燃料電池単セル2のカソード電位を0.6Vに30分間継続して保持した場合、すなわち前保持電位が0.6Vの場合を示す。
言い換えると、曲線EI01及び曲線EI02は、カソード極5c側の酸化剤ガス流量は絞っていないが、実質的には、燃料電池単セル2に対して到達電位が0Vで継続時間が30分である活性化処理を実行して、燃料電池単セル2の性能を向上させた後のIV特性を示している。同様に、曲線EI11及び曲線EI12は、カソード極5c側の酸化剤ガス流量は絞っていないが、実質的には、燃料電池単セル2に対して到達電位が0.6Vで継続時間が30分である活性化処理を実行し、燃料電池単セル2の性能を向上させた後のIV特性を示している。
上記の図3に示すように、曲線EI01及び曲線EI11はほぼ重なっている。したがって、陽イオン不純物で汚染されていない燃料電池単セル2の場合、活性化処理の到達電位を0Vにしても、0.6Vにしても、性能(IV特性)の向上の度合いは変わらないことが判明した。言い換えると、燃料電池単セル2の活性化処理の効果は、活性化処理の到達電位に依らずほとんど変わらず、したがって陽イオン不純物で汚染されていない場合、活性化処理の程度が低くても(例示:0.6V)、燃料電池単セル2の性能が向上することが判明した。
一方、上記の図4に示すように、曲線EI02と比較して曲線EI12は大きく低下している。したがって、陽イオンの不純物で汚染されている燃料電池単セル2の場合、活性化処理の到達電位を0.6Vとすると、0Vとする場合と比較して、性能(IV特性)の向上の度合は低いことが判明した。言い換えると、燃料電池単セル2の活性化処理の効果は、活性化処理の到達電位に依り大きく変わり、したがって陽イオン不純物で汚染されている場合、活性化処理の程度が高いほど(例示:0V)、燃料電池単セル2の性能が向上することが判明した。
上記の図3及び図4のような実験結果をまとめたものが図5〜図7である。
図5は、燃料電池単セル2中の電解質膜5eのスルホン酸基置換割合が0%のときの燃料電池単セル2の所定出力電圧における出力電流密度と前保持電圧との関係を示すグラフである。横軸は前保持電位を示し、縦軸は出力電流密度を示す。図5における曲線A01、A02及びA03はカソード極5cに供給される酸化剤ガス中の酸素濃度がそれぞれ16%、5%及び1%の場合であり、曲線が2本ずつあるのは測定を2回ずつ行っていることを示す。また、図5に示す曲線A01、A02及びA03は、燃料電池単セル2のカソード電位を前保持電位で継続して30分間保持した後のIV特性を計測し、所定出力電圧での出力電流密度と前保持電位との関係を示している。なお、そのIV特性は、実質的には、燃料電池単セル2に対して到達電位が前保持電位であり継続時間が30分である活性化処理を実行して、燃料電池単セル2の性能を向上させた後のIV特性である。
図5に示すように、燃料電池単セル2中の電解質膜5eのスルホン酸基置換割合が0%、すなわち陽イオン不純物で汚染されていない場合、出力電流密度は前保持電位に依存せずほぼ一定である。よって燃料電池単セル2の性能の向上の度合いは、活性化処理の到達電位に依存せずほぼ一定である。したがって、陽イオン不純物で汚染されていない場合、活性化処理の程度を相対的に低くしても、燃料電池単セル2の性能の向上には十分であると考えることができる。これは、酸素濃度が異なっても、すなわち出力電流密度が異なっていても同様である。
一方、図6及び図7は、燃料電池単セル2中の電解質膜5eのスルホン酸基置換割合が30%及び70%のときの燃料電池単セル2の所定出力電圧における出力電流密度と前保持電圧との関係を示すグラフである。各図における、横軸、縦軸、曲線A11、A12及びA13並びに曲線A21、A22及びA23については、図5の場合と同様である。
図6や図7に示すように、燃料電池単セル2中の電解質膜5eのスルホン酸基置換割合が30%や70%、すなわち陽イオン不純物で汚染されている場合、同じ出力電圧でも出力電流密度は前保持電位に依存して変化し、前保持電位が小さいほど出力電流密度が高くなる。よって燃料電池単セル2の性能の向上の度合いは、活性化処理の到達電位に依存して変化し、到達電位が小さいほど性能が向上する。そして、この傾向は、陽イオン不純物量が多いほど高くなる。したがって、陽イオン不純物で汚染されている場合、陽イオン不純物量が多いときには、陽イオン不純物量が少ないときと比較して、活性化処理の程度を高くすることで、燃料電池単セル2の性能の向上を適切に行えると考えることができる。これは、酸素濃度が異なっても、すなわち出力電流密度が異なっていても同様である。
上記図5〜図7の現象のメカニズムは、例えば以下の様に考えることができる。図8は、上記図5〜図7の現象の理由を説明する図である。図8(A)は前保持電位を低電位にした場合、すなわち活性化処理の程度を高くした場合を示し、図8(B)は前保持電位を高電位にした場合、すなわち活性化処理を弱くした場合を示し、M+は陽イオンを示し、H+はプロトン(水素イオン)を示す。上記図5〜図7の現象は、電極触媒の酸化被膜の除去だけでは説明できず、以下の様に考えられる。通常運転ではカソード電位が比較的高いため、例えば図8(B)に示されるように陽イオンが偏った状態にあるが、程度を高くして活性化処理を行うと、アノード極5aとカソード極5cとの電位差が小さくなり、陽イオンがカソード極側に偏らなくなって、図8(A)のように陽イオンが分散した状態に改善すると考えられる。一方、程度を低くして活性化処理を行うと、アノード極5aとカソード極5cとの電位差が小さくならないため、陽イオンがカソード極側に偏ったままとなり、図8(B)の状態のままあまり変わらないと考えられる。したがって、活性化処理の直後には、程度の高い場合には図8(A)の状態になり、程度の低い場合には図8(B)の状態になり、これらの状態でIV特性を調べると、図5〜図7のような特性になると考えられる。
また、上述のように、活性化処理によりカソード電位を低電位に保持することは、陽イオンが電解質膜5eのカソード極側に偏在することを解消することになる(図8(A))。したがって、活性化処理は、カソード電極の電極触媒の酸化被膜を除去する効果に加えて、電解質膜5e中の陽イオン不純物の偏りを是正して、陽イオン不純物を均一に分布させる効果があると考えられる。言い換えると、燃料電池単セル2の性能低下の原因は、電極触媒の酸化被膜だけでなく、電解質膜5e中の陽イオン不純物の偏りであると考えられる。しかし、本実施例の活性化処理は、電極触媒の酸化被膜を除去するだけでなく、電解質膜5e中の陽イオン不純物を均一に分布させることができるので、燃料電池単セル2の性能をより向上させることができる。
以上の結果から、本実施例では、カソード電位を単に所定の到達電位に低下させるだけの従来の活性化処理ではなく、陽イオン不純物量に応じて程度を変化させる新規の活性化処理を実施する。すなわち、電解質膜5eの陽イオン不純物量がゼロの場合や非常に少ない場合には、活性化処理としては主に電極触媒の酸化被膜が除去されればよいので、活性化処理の程度を相対的に低くする。この場合、陽イオン不純物の偏りを解消する必要はない。その結果、電極触媒の性能が向上し、それにより燃料電池単セル2の性能が向上する。一方、電解質膜5eの陽イオン不純物量が多い場合には、活性化処理としては電極触媒の酸化被膜が除去され、かつ陽イオン不純物の偏りが解消される必要があるので、活性化処理の程度を相対的に高くする。その結果、電極触媒の性能が向上すると共に陽イオン不純物の偏りが解消し、それにより燃料電池単セル2の性能が向上する。このように、電解質膜5e中の陽イオン不純物量が多いときには活性化処理の程度を高くし、陽イオン不純物量が少ないときには活性化処理の程度を低くすることで、電極触媒の性能が十分に向上し、且つ、電極触媒から金属が溶出する量を抑制することができる。
ここで、活性化処理の程度は、カソード電位の到達電位の高さ、カソード電位の到達電位の継続時間の長さ、又は、活性化処理の頻度で表される。活性化処理の程度の変更は、これらのうち一つの変更によってもよいし、いくつかを組み合わせて変更してもよい。ここで、カソード電位の到達電位の高さを用いる場合、活性化処理の程度を高くするときには到達電位を低く決定する。また、カソード電位の到達電位の継続時間の長さを用いる場合、活性化処理の程度を高くするときには継続時間を長く決定する。また、活性化処理の頻度を用いる場合、活性化処理の程度を高くするときには活性化処理の頻度を多く決定する。電位変化時において陽イオン不純物の移動速度が遅いが、継続時間を長くすれば、陽イオン不純物のカソード極への偏りを是正できると考えられるからである。また頻度を多くすれば、低電位に保持する積算時間が長くなるため、継続時間を長くするのと同様の効果が得られると考えられるからである。
本実施例では、活性化処理の程度として、カソード電位の到達電位の高さ、カソード電位の到達電位の継続時間の長さ、及び、活性化処理の頻度を組み合わせて用いる。到達電位の範囲としては、例えば0.6V〜0.05Vが挙げられる。継続時間の範囲としては、例えば1秒間〜連続が挙げられる。活性化処理の頻度を表すインターバルとしては、例えば1分毎〜連続が挙げられる。本実施例における活性化処理の程度の組み合わせの一例を下記の表1に示す。
表1において、活性化処理の程度が四段階に分かれている。活性化処理の程度が最も低いL4の場合、到達電位は0.6V、継続時間は1秒間、及び、頻度は10分毎である。活性化処理の程度が二番目に低いL3の場合、到達電位は0.4V、継続時間は5秒間、及び、頻度は5分毎である。活性化処理の程度が二番目に高いL2の場合、到達電位は0.2V、継続時間は10秒間、及び、頻度は1分毎である。活性化処理の程度が最も高いL1の場合、到達電位は0.05V、継続時間は条件充足期間中、及び、頻度は連続である。表1で示されるデータは、例えば電子制御ユニット60のROM62に格納されている。
活性化処理の程度を決定する指標として、上述の電解質膜5eの陽イオン不純物量だけでなく、それに加えて他の要素、例えば燃料電池スタック10の温度や運転出力の履歴を用いてもよい。
例えば、燃料電池スタック10の温度は、電解質膜5eの相対湿度、すなわち単位体積当たりの水分濃度(含水率)に対応しており、燃料電池スタック10の温度と電解質膜5eの相対湿度とは相関がある。燃料電池スタック10の温度が相対的に高い場合、電解質膜5eの相対湿度(水分濃度)は低くなるので、電解質膜5e中の陽イオン不純物の影響が大きくなる。そのことは、図9に示すデータからも明らかである。図9は電解質膜の膜抵抗と陽イオン不純物量との関係の一例を示すグラフである。ただし、縦軸は電解質膜5eの膜抵抗、すなわち電解質膜5e中のプロトン(H+)の移動抵抗を示し、横軸はスルホン酸基置換割合を示す。また、曲線B1は電解質膜5eの相対湿度が30%の場合を示し、曲線B2は電解質膜5eの相対湿度が80%の場合を示す。図に示されるように、相対湿度が低いほど(曲線B1)、膜抵抗が高くなる、すなわち電池性能が低下する傾向にあるが(プロトン移動抵抗は発電性能に相関する(負の相関がある))、それに加えてスルホン酸基置換割合(陽イオン不純物量)が高いほどその傾向強くなる。そのため、電解質膜5eの相対湿度が低い、すなわち燃料電池スタック10の温度が高い条件では、同一の陽イオン不純物量でも電池性能の低下が大きく、活性化処理のよる効果が大きくなることが分る。したがって、陽イオン不純物量が同じでも、電解質膜5eの相対湿度が低い、すなわち燃料電池スタック10の温度が相対的に高い場合には、電解質膜5eの相対湿度が高い、すなわち燃料電池スタック10の温度が低いときに比べて活性化処理の程度を高くする。例えば、燃料電池スタック10の温度でいえば、閾値温度(例示:80℃)を設定し、閾値温度以上の場合と閾値温度未満の場合とで活性化処理の程度を変更する方法が考えられる。その場合、閾値温度のデータは、例えば電子制御ユニット60のROM62に格納されている。
図10は、活性化処理の程度を決定するためのグラフである。このグラフは、電解質膜5eの陽イオン不純物量及び燃料電池スタック10の温度と活性化処理の程度である上記表1のL1〜L4の四段階との関係を示している。ここで、横軸は陽イオン不純物量を示し、縦軸は活性化処理の程度を示す。また、直線T01は温度センサ18で示される温度が80℃以上の場合のグラフであり、直線T02は温度センサ18で示される温度が80℃未満の場合のグラフである。グラフは、活性化の程度が高い方から順にR1領域、R2領域、R3領域及びR4領域と区画される。図10で示されるデータは、例えば電子制御ユニット60のROM62に格納されている。
活性化処理の程度は、推定された陽イオン不純物量及び測定された燃料電池スタック10の温度に応じて定まる直線T01又は直線T02上の点で示される活性化処理の程度がR1領域、R2領域、R3領域及びR4領域のうちのどの領域にあるかで決定する。直線上の点で示される活性化処理の程度がR1領域にある場合、活性化処理の程度はL1と決定される。直線上の点で示される活性化処理の程度がR2領域にある場合、活性化処理の程度はL2と決定される。直線上の点で示される活性化処理の程度がR3領域にある場合、活性化処理の程度はL3と決定される。直線上の点で示される活性化処理の程度がR4領域にある場合、活性化処理の程度はL4と決定される。例えば、陽イオン不純物量がCAC1と推定され、燃料電池単セル2の温度が80℃未満の場合、直線T02上の点Q2が特定され、点Q2が領域R3にあるので活性化処理の程度としてL3が選択される。また、例えば、陽イオン不純物量がCAC1と推定され、燃料電池単セル2の温度が80℃以上の場合、直線T01の点Q1が特定され、点Q1が領域R1にあるので活性化処理の程度としてL1が選択される。
以上に基づいて、燃料電池システムAでは、燃料電池システムAの運転中に燃料電池単セル2の性能を向上すべきときには、以下の活性化処理を用いて燃料電池単セル2の性能向上を行う性能向上制御を行う。
図11は、燃料電池単セルの性能向上方法を説明する図である。左縦軸は燃料電池単セル2の出力電圧VOUT、右縦軸は燃料電池単セル2の出力電流IOUT(ただし電流密度で表示)、横軸は時間である。実線の曲線は燃料電池単セル2の出力電圧VOUTを示し、破線の曲線は燃料電池単セル2の出力電流IOUTを示す。アノード電位が0Vであるため、出力電圧VOUTはカソード電位ということができる。また、燃料電池システムAは、運転中に無負荷状態、すなわちアイドル運転になったときでも、燃料電池スタック10に一定の微小な出力電流、すなわちアイドル出力電流を流すことで、アノード極5aとカソード極5cとの間に開放電圧が印加されないようにして、アノード電極触媒層5as及びカソード電極触媒層5csの劣化を防止している。そのときの出力電圧VOUTはアイドル出力電圧となる。
図11に示す実施例では、アイドル出力電流IA0及びアイドル出力電圧VA0でもって燃料電池システムAがアイドル運転されているときに、燃料電池単セル2の性能向上制御が好適に行われる。その理由は、燃料電池単セルの性能向上方法において行われる活性化処理では酸化剤ガスの供給を絞ることにより、燃料電池の出力が低下するが、アイドル運転時には燃料電池に対する要求出力が小さいため、加速性能等の車両の挙動にほとんど影響を与えないからである。本実施例では、P(パーキング)レンジにありかつイグニッションスイッチがオンのときときにはアイドル運転が行われるようになっているので、Pレンジにあるか否かを判断することにより、アイドル運転が行われているか否かが判別できる。図示しない別の実施例では、電子制御ユニット60(CPU64)が、出力センサ17からの出力信号に基づいて、燃料電池スタック10がPレンジでのアイドル運転であるか否を判別する。また、本実施例では、トランスミッションがPレンジに位置するときのアイドル運転時に燃料電池単セルの性能向上方法を実施する。その理由は、トランスミッションがD(ドライブ)レンジのときのアイドル運転時には、アイドル運転から負荷に応じた出力電流及び出力電圧で作動する通常運転に直ちに移行する場合があり、活性化処理で酸化剤ガスの供給が絞られていると、その通常運転に支障がでるおそれがあるためである。あるいは、活性化処理を中断する必要があるからである。これに対し、Pレンジにあるときには、Dレンジにあるときに比べて、長時間にわたるアイドル運転が期待できる。したがって、アイドル出力電流IA0は、燃料電池単セル2の性能向上制御を行っていないPレンジでのアイドル運転時の燃料電池スタック10の目標電流値である。
図11を参照すると、時間ta1において、まず、電子制御ユニット60(CPU64)が、トランスミッションのレンジセンサ19からトランスミッションのレンジを示す出力信号を受信する。トランスミッションがPレンジでないときには、燃料電池単セル2の性能向上制御は終了し、通常運転が行われる。通常運転では燃料電池スタック10が車両からの負荷要求に応じた出力電流及び出力電圧により運転される。
トランスミッションがPレンジになったとき、現在実行すべき燃料電池単セル2の活性化処理制御に関する活性化処理の程度が設定済みになっていないときには、電解質膜5e中の陽イオン不純物量が推定される。すなわち、時間ta1〜ta2において、電子制御ユニット60(CPU64)が、陽イオン不純物量推定制御を実行する。ただし、陽イオン不純物量推定制御については後述される。その結果、時間ta2において、電解質膜5e内の陽イオン不純物量、すなわち本実施例ではスルホン酸基置換割合が推定される。一方、活性化処理の程度が設定済みになったときには、活性化処理を実行する活性化処理制御が実施される。活性化処理制御は後述される。
続いて、電子制御ユニット60(CPU64)が、活性化処理程度決定制御を実行する。まず、燃料電池スタック10の温度が計測される。すなわち、時間ta2において、電子制御ユニット60(CPU64)が、温度センサ18から燃料電池スタック10の温度を取得する。温度センサ18は燃料電池スタック10の温度を計測するように構成された温度計測部と見ることができる。さらに、既述のように燃料電池スタック10の温度は電解質膜5eの相対湿度と相関があり、例えば燃料電池スタック10の温度が相対的に高い場合、電解質膜5eの相対湿度は低くなる。したがって、温度センサ18は、電解質膜5eの相対湿度と相関するパラメータの値を計測する相関パラメータ計測部と見ることができる。
そして、電子制御ユニット60(CPU64)が、電解質膜5eの陽イオン不純物量及び燃料電池スタック10の温度に基づいて、ROM62に格納された図10のグラフを示すデータ及び表1の内容を示すデータを参照して、活性化処理の程度をL1〜L4の中から決定する。この図の例では、活性化処理の程度は、到達電位VA1、処理頻度Δtai毎、及び、継続時間Δtapと決定される。電子制御ユニット60(CPU64)は、陽イオン不純物量等に基づいて活性化処理の程度を決定するように構成された処理程度決定部と見ることができる。
その後、電子制御ユニット60(CPU64)が、決定された活性化処理の程度に基づいて、活性化処理制御を実行する。すなわち、ターボコンプレッサ44によりカソード極5cへの酸化剤ガスの供給を所定の流量に絞りつつ、処理頻度Δtai毎に、継続時間Δtapの間、出力電圧VOUT、すなわちカソード電位を到達電位VA1に維持するという活性化処理を実行する。すなわち、まず時間ta2から時間ta3までの間、電子制御ユニット60からの指令値に基づいて、DC/DCコンバータ11は出力電圧VOUTをアイドル出力電圧VA0に、出力電流IOUTをアイドル出力電流IA0に維持する。その後、時間ta3から時間ta4までの間、電子制御ユニット60からの指令値に基づいて、DC/DCコンバータ11は出力電圧VOUTを到達電位VA1に変更し、それにより活性化処理を実施する。電子制御ユニット60(CPU64)、ターボコンプレッサ44及びDC/DCコンバータ11は、燃料電池単セル中のカソード電位を一時的に処理頻度でもって、継続時間にわたり、到達電位まで低下させる活性化処理を実行するように構成された処理部と見ることができる。
以後、同様にして動作し、例えば時間ta4から時間ta5までの間、出力電圧VOUTはアイドル出力電圧VA0に、出力電流IOUTはアイドル出力電流IA0に維持される。その後、時間ta5から時間ta6までの間、出力電圧VOUTは到達電位VA1に、出力電流IOUTは到達電流IA1に変更され、それにより活性化処理が実施される。なお、処理頻度が「連続」の場合には、図11における出力電圧VOUTをアイドル出力電圧VA0に保持する期間Δtaxは0(ゼロ)となる。
その後、例えば時間ta7において、カソード電極の電極触媒の活性化処理を実行すべきでない、例えば車両のトランスミッションがD(ドライブ)レンジに移動された場合には、電子制御ユニット60(CPU64)が、活性化処理を禁止する。
上記実施例の陽イオン不純物量推定制御はアイドル運転のときに実施されているが、図示しない別の実施例では陽イオン不純物制御はアイドル運転でないときに実施される。
また、上記実施例の活性化処理程度決定制御では、電解質膜5eの陽イオン不純物量及び燃料電池スタック10の温度を参照しているが、図示しない別の実施例では、電解質膜5eの陽イオン不純物量のみを参照する、又は、燃料電池スタック10の温度及び燃料電池スタック10の運転出力のうちの少なくとも一つと電解質膜5eの陽イオン不純物量とを参照する。
また、上記実施例では、活性化処理程度決定制御において、相対湿度と相関するパラメータとして燃料電池スタック10の温度を参照しているが、図示しない別の実施例では燃料電池スタック10の温度の代わりに、燃料電池単セル2の電解質膜5eの相対湿度を推定できる他のパラメータを用いる。相対湿度と相関する他のパラメータとしては、例えば燃料電池単セル2のインピーダンス、燃料電池単セル2の電解質膜5eの近傍のガスの湿度、燃料電池スタック10における冷却水供給管51の燃料電池単セル2近傍の温度が挙げられる。例えば、インピーダンスが高い場合、電解質膜5e中の水分が低くなり導電率が低下していると推定されるので、相対湿度が低いということができる。電解質膜5eの近傍のガスの湿度が低い場合、電解質膜5e中からも水分が蒸発して少なくなっていると推定されるので、相対湿度が低いということができる。冷却水供給管51の燃料電池単セル2近傍の温度が高い場合、電解質膜5e中の水分がより蒸発して少なくなっていると推定されるので、相対湿度が低いということができる。
次に、燃料電池スタック10の燃料電池単セル2の電解質膜5e内における陽イオン不純物量の推定方法について説明する。陽イオン不純物量の推定方法としては、本発明の発明者が開発した以下の方法を用いることができる。すなわち、燃料電池システムAの運転中に燃料電池単セル2の出力電流をステップ状に増加させて保持したときの燃料電池単セル2の出力電圧の挙動を計測する方法である。それは、本発明の発明者が発見した、燃料電池システムAの運転中に、燃料電池単セル2の出力電流をステップ状に増加させて保持したときの燃料電池単セル2の出力電圧の挙動と、電解質膜5e中の陽イオン不純物量とが相関関係を有する、という事実に基づいている。以下、図面を参照して詳細に説明する。
図12は、陽イオン不純物量を推定する方法を説明する図である。この図は、燃料電池単セル2においてステップ状に出力電流IOUTを増加させたときの出力電圧VOUTの挙動を模式的に示している。ただし、左縦軸は燃料電池単セル2の出力電圧VOUT、右縦軸は燃料電池単セル2の出力電流IOUT(ただし電流密度で表示)、横軸は時間である。実線の曲線は燃料電池単セル2の出力電圧VOUTを示し、破線の曲線は燃料電池単セル2の出力電流IOUTを示す。
図12は、燃料電池単セルの出力電流をあらかじめ定められたパターンに従って制御して、陽イオン不純物量を推定する場合を示している。すなわち、時間t0においてベース出力電流IB及びベース出力電圧VBにて燃料電池スタック10が作動(運転)されているとき、時間t1において燃料電池単セル2の出力電流IOUTがベース出力電流IBからあらかじめ定められた増加電流IGにステップ状に増加されて、時間t3までの増加時間Δt0にわたり増加電流IGが保持される場合を示している。ここで、ベース出力電流IBは、陽イオン不純物量の推定方法を行っていない通常運転の時の燃料電池スタック10の目標電流値である。また、図12には、ベース出力電流IBがあらかじめ定められた閾値電流よりも低い出力電流、例えば無負荷状態における燃料電池スタック10の出力電流IOUTの場合が示されている。この陽イオン不純物量を推定する方法を(図12)を上記の性能向上制御(図11)に適用するときには、ベース出力電流IBはアイドル出力電流IA0に対応し、ベース出力電圧VBはアイドル出力電圧VA0に対応する。
この場合、出力電圧VOUTは、時間t1でベース出力電圧VBから極小電圧VMまでステップ状に低下した後に、増加に転じ、増加時間Δt0後の時間t3までにベース出力電圧VBよりも低い定常電圧VCへ増加する。ただし、図12に示す例では増加時間Δt0は、出力電圧VOUTが定常電圧になるのに十分な時間である定常化時間とし、増加時間Δt0経過後は出力電流IOUTを元のベース出力電流IBに戻すものとする。このとき、出力電圧VOUTの挙動に関わる少なくとも以下の3つの値と、電解質膜5e中の陽イオン不純物量とが相関関係を有する。すなわち、(1)時間t1からあらかじめ定められた設定時間Δt1後の時間t2の出力電圧VOUTをVEとしたとき、出力電圧VEに対する極小電圧VMの差である電圧落ち込み量ΔV、(2)ベース出力電圧VBに対する極小電圧VMの差である極小値落ち込み量ΔVm、及び、(3)出力電流IOUTが増加電流IGに増加されてから出力電圧VOUTが定常電圧VCに達する時間t22までの所要時間Δt2、である。それぞれ、電解質膜5e内の陽イオン不純物量が多くなるにつれて、(1)では電圧落ち込み量ΔVが大きくなり、(2)では極小値落ち込み量ΔVmが大きくなり、(3)では所要時間Δt2が大きくなる。本実施例では上記(1)を用いる。
上記(1)に関し、電解質膜5e内の陽イオン不純物量が少ない場合の出力電圧VOUTnと不純物量が多い場合の出力電圧VOUTcとの相違を図13に示し、その部分拡大図を図14に示す。左右の縦軸及び横軸は図12の場合と同様である。時間t0において燃料電池スタック10がベース出力電流IB及びベース出力電圧VBにて作動(運転)されているとき、時間t1において破線で示す燃料電池単セル2の出力電流IOUTがベース出力電流IBからあらかじめ定められた増加電流IGにステップ状に増加される。そして時間t3までの増加時間Δt0にわたり増加電流IGが保持される。ここで、電解質膜5e内の陽イオン不純物量が少ない場合の出力電圧VOUTnは、図13に一点鎖線で示すように、ベース出力電圧VBから極小電圧VMnまでステップ状に低下した後に、増加に転じ、時間t2より後の時間t21でベース出力電圧VBよりも低い定常電圧VCnに増加する。一方、電解質膜5e内の陽イオン不純物量が多い場合の出力電圧VOUTcは、図13に実線で示すように、ベース出力電圧VBから極小電圧VMcまでステップ状に低下した後に、増加に転じ、時間t2より後の時間t22でベース出力電圧VBよりも低い定常電圧VCcに増加する。
このとき、電解質膜5e内の陽イオン不純物量が多くなるにつれて、時間t1から設定時間Δt1後の時間t2の出力電圧VEに対する極小電圧VMの差である電圧落ち込み量ΔVは大きくなる。ただし、設定時間Δt1は増加時間Δt0より小さい任意の値とする。例えば、図14に示すように、電解質膜5e内の陽イオン不純物量が多い場合での出力電圧VEcに対する極小電圧VMcの差である電圧落ち込み量ΔVcは、電解質膜5e内の陽イオン不純物量が少ない場合での出力電圧VEnに対する極小電圧VMnの差である電圧落ち込み量ΔVnよりも大きくなる。
陽イオン不純物量と電圧落ち込み量ΔVとの関係との一例を図15に示す。横軸は電解質膜5e中のスルホン酸基が陽イオン不純物により置換されている割合を示す。縦軸は電圧落ち込み量ΔVを示す。この置換割合は、陽イオン不純物量を示す値の一例である。曲線CLに示されように、電解質膜5e中のスルホン酸基が陽イオン不純物に置換されている割合が増加するほど電圧落ち込み量ΔVが増加しており、スルホン酸基が陽イオンに置換されている割合は、電圧落ち込み量ΔVと相関がある。したがって、あらかじめ定められた増加電流IGおよび増加時間Δt0について、図15に示すデータをあらかじめ計測しておけば、電圧落ち込み量ΔVを計測して、そのデータを参照することで、スルホン酸基の置換割合、すなわち陽イオン不純物量を推定することができる。ここで、陽イオン不純物量の推定のための図15のグラフを示すデータは、あらかじめ求められており、ROM62内にあらかじめ記憶されている。
陽イオン不純物量と電圧落ち込み量ΔVとの関係が図15に示すようになる理由は必ずしも明確ではないが以下のように考えられる。まず、燃料電池スタック10の出力電流IOUTを所定のベース出力電流IBから増加電流IGへステップ状に増加させたとき、出力電圧VOUTが急激に減少してVMになるのは、随伴水の影響でアノード極5aに乾きが生じると共に、陽イオン不純物の移動が遅く、随伴水から遅れて移動するため、一時的に内部抵抗が増加するためであると考えられる。その後、出力電圧VOUTが徐々に回復してVEになるのは、陽イオン不純物の移動がゆっくりであるため、出力電流IOUTの増加の直後には電解質膜5eのアノード極5a側にも陽イオン不純物が多く存在しているが、徐々に陽イオン不純物Qがカソード極5c側に寄り、安定化して、H+イオンの伝導を妨げなくなることで出力電圧VOUTも徐々に回復していくと考えられる。このようにVM及びVEは陽イオン不純物に影響されるため、陽イオン不純物量と電圧落ち込み量ΔV(=ME−VM)との関係が図15のようになると考えられる。
ただし、電圧落ち込み量ΔVの計測にあたっては、計測を容易とするべく電圧落ち込み量ΔVが大きくなるように増加電流IGやベース出力電流IBを設定することが好ましい。それには、ベース出力電流IBがステップ状に増加電流IGへ増加したとき、電圧落ち込み量ΔVが非常に大きくなるように増加電流IGやベース出力電流IBを設定することが考えられる。例えば、増加電流IGは燃料電池システムAの負荷状態が全負荷状態のときの出力電流IOUTに設定する。その場合、出力電流IOUTが非常に大きくなり、それに対応して出力電圧VOUTが非常に小さくなるので、電圧落ち込み量ΔVも非常に大きくすることができる。あるいは、ベース出力電流IBが所定の閾値電流よりも小さいときに、出力電流IOUTをベース出力電流IBから増加電流IGへステップ状に増加させる。その場合、ベース出力電流IBが小さいことに対応して基準となるベース出力電圧VBが大きくなるため、電圧落ち込み量ΔVを非常に大きくできる。
本実施例では上記(1)を用いるが、別の実施例では上記(2)又は(3)を用いる。上記(2)については、陽イオン不純物量と極小値落ち込み量ΔVmとの関係との一例を図16に示す。横軸は電解質膜5e中のスルホン酸基置換割合を示す。縦軸は極小値落ち込み量ΔVmを示す。したがって、極小値落ち込み量ΔVmを計測し、図16を参照することにより、陽イオン不純物量を求めることができる。一方、上記(3)については、陽イオン不純物量と所要時間Δt2との関係との一例を図17に示す。横軸は電解質膜5e中のスルホン酸基置換割合を示す。縦軸は所要時間Δt2を示す。したがって、所要時間Δt2を計測し、図17を参照することにより、陽イオン不純物量を求めることができる。
以上の事実に基づいて、燃料電池システムAでは、性能向上制御(図11)おける燃料電池システムAの電解質膜5e中の陽イオン不純物量を推定すべきときに(時間ta1)、上記(1)の方法を用いた以下の陽イオン不純物量推定制御を行う。ただし、本実施例では、ベース出力電流IBはアイドル出力電流IA0と同じであり、ベース出力電圧VBはアイドル出力電圧VAと同じである。
すなわち、電子制御ユニット60からの指令値(指示)に基づいて、DC/DCコンバータ11は燃料電池スタック10(燃料電池単セル2)が出力する出力電流IOUTを所定のベース出力電流IBから増加電流IGへステップ状に増加させて、所定の増加時間Δt0にわたり増加電流IGを保持する。その後、出力電流IOUTをベース出力電流IBに戻す。ここで、DC/DCコンバータ11は燃料電池単セル2の電流を制御する制御部と見ることができる。
このとき、出力センサ17は燃料電池単セル2の出力電圧VOUTについて、ベース出力電圧VBから極小電圧VMまでステップ状に低下した後に、増加に転じ、増加時間Δt0後にベース出力電圧VBよりも低い定常電圧VCに増加する挙動を計測する。ここで、出力センサ17は燃料電池単セル2の出力電圧VOUTを計測する計測部と見ることができる。計測された出力電圧VOUTの挙動は例えばRAM63に格納される。
続いて、電子制御ユニット60は、RAM63に格納され出力電圧VOUTのデータに基づいて、出力電流IOUTが増加電流IGに増加された時からあらかじめ定められた設定時間Δt1後における電圧落ち込み量ΔVを算出する。続いてその電圧落ち込み量ΔVに基づいて、ROM62内にあらかじめ記憶された図15のグラフを示すデータを参照して、電解質膜5e中の陽イオン不純物量としてスルホン酸基の置換割合を推定する。ここで、電子制御ユニット60は、計測された燃料電池単セル2の出力電圧VOUTに基づいて、陽イオン不純物量を推定する推定部と見ることができる。
以上の陽イオン不純物量推定制御を行うことで、燃料電池システムAは燃料電池システムAの運転中に燃料電池単セル2の電解質膜5e中の陽イオン不純物量を推定することができる。なお、本実施例では陽イオン不純物量推定制御をアイドル運転時に行っているが、アイドル運転でないときに行ってもよい。この場合、陽イオン不純物量推定制御は、性能向上制御と別個に行われる。
また、燃料電池システムAは、制御部としてのDC/DCコンバータ11と、計測部としての出力センサ17と、推定部としての電子制御ユニット60とを含んでいる。したがって、燃料電池システムAは、制御部と計測部と推定部とを含み、燃料電池単セルの電解質膜中に含まれる陽イオン不純物量を推定するように構成された陽イオン不純物量推定部を備えていると見ることができる。
図18は図1の燃料電池システムAにおける燃料電池単セル2の性能向上制御のルーチンを示している。このルーチンは一定時間ごとの割り込みによって実行される。図18を参照すると、ステップ100においてトランスミッションがPレンジに移動されているか否かが判別される。トランスミッションがPレンジに設定されている場合、ステップ101において活性化処理制御の活性化処理の程度が決定済みか否かが判別される。活性化処理制御の活性化処理の程度が決定済みの場合、プロセスはステップ104に進む。DレンジからPレンジに切り換わった直後は、活性化処理の程度が決定されていないので、ステップ102に進み、ステップ102において電解質膜5e中の陽イオン不純物量を推定する陽イオン不純物量制御が実行される。次に、ステップ103において、ステップ102で推定された陽イオン不純物量に基づいて、活性化処理の程度を決定する活性化処理程度決定制御が実行される。続いて、ステップ104において、ステップ103で決定された活性化処理の程度に基づいて、活性化処理制御が実行される。なお、ステップ100においてトランスミッションがPレンジに設定されていない場合、ステップ105において燃料電池システムAにおいて、通常運転が行われる。通常運転では、負荷に応じた出力電流及び出力電圧により燃料電池スタック10が運転される。
図19は図1の燃料電池システムAにおける陽イオン不純物量推定制御ルーチンを示している。このルーチンは図18の性能向上制御ルーチンのステップ102にて実行される。ただし、本実施例ではベース出力電流IBはアイドル出力電流IA0であり、ベース出力電圧VBはアイドル出力電圧VA0である。図19を参照すると、ステップ200では燃料電池スタック10の出力電流IOUTがベース出力電流IBから増加電流IGへステップ状に増加される。増加電流IGは増加時間Δt0にわたり保持される。続くステップ201では、ベース出力電圧VBから極小電圧VMまでステップ状に低下した後にベース出力電圧VBよりも低い定常電圧VCまで増加する出力電圧VOUTの挙動が計測される。次いでステップ202では、出力電流IOUTが増加電流IGにステップ状に増加された時から増加時間Δt0経過後に出力電流IOUTがベース出力電流IBに低減される。次いでステップ203では、計測された出力電圧VOUTの挙動に基づいて、出力電流IOUTが増加電流IGにステップ状に増加された時から設定時間Δt1後の電圧落ち込み量ΔVが算出される。そして、電圧落ち込み量ΔVに基づいて、図15のグラフを示すデータが参照されて、電解質膜5e中の陽イオン不純物量が推定される。
図20は図1の燃料電池システムAにおける活性化処理程度決定制御のルーチンを示している。このルーチンは図18の性能向上制御ルーチンのステップ103にて実行される。図20を参照すると、ステップ300において燃料電池スタック10の温度が計測される。続いて、ステップ301において、ステップ102で推定された電解質膜5eの陽イオン不純物量と、ステップ301において計測された燃料電池スタック10の温度とに基づいて、図10のデータや表1のデータを参照して、活性化処理の程度(到達電位VA1、処理頻度Δtai毎、及び、継続時間Δtap)が決定される。
図21は図1の燃料電池システムAにおける活性化処理制御のルーチンを示している。このルーチンは図18の性能向上制御ルーチンのステップ104にて繰り返し実行される。図21を参照すると、ステップ400において出力電圧VOUTが到達電位VA1に低下しているか否かが判別される。出力電圧VOUTが到達電位VA1に低下している場合、ステップ401において継続時間Δtapが経過したか否かが判別される。継続時間Δtapが経過した場合、続くステップ402において出力電圧VOUTが元の電位、すなわちアイドル出力電圧VA0に復帰される。一方、継続時間Δtapが経過していない場合、プロセスは終了する。また、ステップ400において出力電圧VOUTが到達電位VA1に低下していない場合、ステップ403において処理頻度Δtai、すなわちインターバルが経過したか否かが判別される。インターバルが経過した場合、ステップ404において出力電圧VOUTが到達電位VA1に低下される。一方、インターバルが経過していない場合、プロセスは終了する。
次に、燃料電池システムAの別の実施例について説明する。本実施例では、活性化処理の程度を決定するのに、燃料電池スタック10の運転出力(=出力電圧×出力電流)の履歴を参照する。運転出力の履歴は例えばRAM63に格納される。燃料電池スタック10の運転出力は、例えば燃料電池スタック10の直近の所定時間(例示:5分)内での運転出力であり、車両の置かれた周辺の道路状況に対応している。直近の所定時間内での運転出力が比較的小さい場合、例えば渋滞中の道路など運転出力が小さくて済む道路を車両が走行していたと推定できる。したがって、活性化処理を実施することによる性能回復の効果が少ないと予測できるため、活性化処理を行わない、又は、活性化処理の程度を低くする。逆に、直近の所定時間内での運転出力が相対的に大きい場合、高速道路など運転出力が大きくなければならない道路を車両が走行していたと推定できる。したがって、活性化処理を実施することによる性能回復の効果が大きいと予測できるため、活性化処理の程度を高くする。このとき、運転出力の履歴は、運転履歴を記憶しているRAM63から取得することができる。RAM63は燃料電池スタック10の直近の所定時間内の運転出力の履歴を記憶する直近履歴記憶部と見ることができる。
次に、燃料電池システムAの別の実施例について説明する。この別の実施例では、燃料電池単セル2の電解質膜5e内における陽イオン不純物量の推定方法が上記の実施例と相違している。以下、陽イオン不純物量の推定方法について説明する。
図22は、陽イオン不純物量を推定する方法を説明する図であり、燃料電池単セル2のIV特性を示している。横軸は出力電流密度を示し、縦軸は出力電圧を示す。曲線ExI1及び曲線ExI2は、このIV特性を計測する直前に、その燃料電池単セル2のカソード電位を所定電圧(例示:0.6V)で所定時間(例示:1分間)継続して保持した場合を示す。ただし、曲線ExI1は電解質膜5eが陽イオン不純物を含まない場合、すなわちスルホン酸基置換割合が0%の場合を示す。曲線ExI2は電解質膜5eが陽イオン不純物を含んでいる場合、すなわちスルホン酸基置換割合が0を超える所定量(例示:30%)の場合を示す。この図の例では、所定の出力電圧Exに対して、スルホン酸基置換割合が0%の場合(曲線ExI1)には出力電流密度がIxbとなるが、スルホン酸基置換割合が所定量の場合には出力電流密度がIxaとなる。したがって、所定の出力電圧Exでの出力電流密度とスルホン酸基置換割合との関係をあらかじめ実験等により求めておけば、出力電流密度からスルホン酸基置換割合を把握することができる。具体的には、燃料電池単セル2のカソード電位を所定電圧で所定時間継続して保持した後に、所定の出力電圧Exとなるときの出力電流密度を求め、あらかじめ求めた所定の出力電圧Exでの出力電流密度とスルホン酸基置換割合との関係を参照すればよい。所定の出力電圧Exでの出力電流密度Ixとスルホン酸基置換割合SRとの関係を示す図23のようなテーブルは、ROM62内にあらかじめ記憶される。
あるいは、出力電圧と出力電流密度とを逆にしてもよい。図24は、陽イオン不純物量を推定する方法を説明する図であり、燃料電池単セル2のIV特性を示している。横軸、縦軸、曲線ExI1及び曲線ExI2については、図22と同じである。この図の例では、所定の出力電流密度Ixに対して、スルホン酸基置換割合が0%の場合(曲線ExI1)には出力電圧がExbとなるが、スルホン酸基置換割合が所定量(例示:30%)の場合には出力電圧がExaとなる。したがって、所定の出力電流密度Ixでの出力電圧とスルホン酸基置換割合との関係をあらかじめ実験等により求めておけば、出力電圧からスルホン酸基置換割合を把握することができる。具体的には、燃料電池単セル2のカソード電位を所定電圧(例示:0.6V)で所定時間(例示:1分間)継続して保持した後に、所定の出力電流密度Ixとなるときの出力電圧を求め、あらかじめ求めた所定の出力電流密度Ixでの出力電圧とスルホン酸基置換割合との関係を参照すればよい。所定の出力電流密度Ixでの出力電圧Exとスルホン酸基置換割合SRとの関係を示す図25のようなテーブルは、ROM62内にあらかじめ記憶される。
あるいは、出力電圧と出力電流密度とを組み合わせてもよい。すなわち、出力電流密度Ix及び出力電圧Exとスルホン酸基置換割合SRとの関係を示す図26のようなテーブルをあらかじめ実験で求めておけば、ある任意の出力電流密度Ixのときの出力電圧Exを計測したり、ある任意の出力電圧Exのときの出力電流密度Ixを計測したりすることで、テーブルを参照してスルホン酸基置換割合SRを把握することができる。図26のようなテーブルは、ROM62内にあらかじめ記憶される。
次に、燃料電池システムAの更に別の実施例について説明する。この別の実施例では、燃料電池単セル2の電解質膜5e内における陽イオン不純物量の推定方法が上記の実施例と相違している。陽イオン不純物は、上述のように、融雪剤に含まれるCa、Naなど、及び、燃料電池システムAの部品に含まれるFe、Mo、Cr、Alなどが考えられる。したがって、陽イオン不純物は、燃料電池スタック10の運転時間が長くなるほど多くなると考えられる。よって燃料電池スタック10の運転時間と電解質膜5eの陽イオン不純物量(スルホン酸基置換割合)との関係をあらかじめ実験等により求めておけば、燃料電池スタック10の現在までの総運転時間を取得することで、陽イオン不純物量(スルホン酸基置換割合)を把握することが出来る。燃料電池スタック10の総運転時間tdと電解質膜5eの陽イオン不純物量(スルホン酸基置換割合)SRとの関係を示す図27のようなテーブルは、ROM62内にあらかじめ記憶される。このとき、燃料電池スタック10の現在までの総運転時間は、運転履歴を記憶しているRAM63から取得することができる。なお、陽イオン不純物量を推定するためのパラメータは、上記の燃料電池スタック10の総運転時間に限定されない。例えば燃料電池スタック10を搭載した車両の総走行距離でも良いし、燃料電池スタック10の総発電量(すなわち電力を時間で積分した値)、燃料電池スタック10の総電流量(すなわち電流を時間で積分した値)など、燃料電池スタック10の電流値及び/又は電圧値と運転時間とを組み合わせた関数値などの運転実績を示すパラメータであってもよい。また、燃料電池スタック10内に蓄積された陽イオン不純物を公知の方法により洗浄除去した場合には、燃料電池スタック10の総運転時間の替りに、洗浄除去後の運転時間などの運転実績を使用してもよい。これらのパラメータの値はRAM63に記憶されている。このようにRAM63は燃料電池スタック10の運転実績を示すパラメータを記憶する運転実績記憶部と見ることができる。
次に、燃料電池システムAの更に別の実施例について説明する。上記各実施例では、まず、(A)陽イオン不純物推定部が、燃料電池単セル2の電気特性や運転時間(以下「電気特性等」という。)を計測する。次に、(B)陽イオン不純物推定部が、計測された電気特性等に基づき、あらかじめ取得した電気特性等と陽イオン不純物量との関係を参照して陽イオン不純物量を推定する。そして、(C)活性化処理決定部が、推定された陽イオン不純物量に基づき、あらかじめ設定した陽イオン不純物量と活性化処理の程度との関係を参照して活性化処理の程度を決定する。しかし、本発明はこの例に限定されるものではない。
本実施例では、上記(A)〜(C)のうち、(B)の過程を省略して、まず、(A)陽イオン不純物推定部が、燃料電池単セル2の電気特性等を計測する。そして、(C’)活性化処理決定部が、計測された電気特性等に基づいて、あらかじめ設定しておいた電気特性等と活性化処理の程度との関係を参照して活性化処理の程度を決定する。
例えば、まず、(A)ベース出力電流IB及びベース出力電圧VBでもって燃料電池システムAが作動されているときに、燃料電池単セル2の出力電流IOUTをベース出力電流IBからあらかじめ定められた増加電流IGへステップ状に増加させて増加時間Δt0にわたり保持する。そして、増加時間Δt0における燃料電池単セル2の出力電圧VOUTを計測する。このとき、出力電流IOUTが増加電流IGに増加されてからあらかじめ定められた設定時間Δt1後の出力電圧VEに対する極小電圧VMの差(電圧落ち込み量)ΔV、ベース出力電圧VBに対する極小電圧VMの差(極小値落ち込み量)ΔVm、または、出力電流IOUTが増加電流IGに増加されてから出力電圧VOUTが定常電圧VCに達するまでの所要時間Δt2、が電気特性等として取得される。
その後、(C’)計測された電圧落ち込み量ΔV、極小値落ち込み量ΔVm、または、所要時間Δt2に基づいて、あらかじめ設定しておいた電圧落ち込み量ΔV、極小値落ち込み量ΔVm、または、所要時間Δt2と活性化処理の程度との関係を参照して活性化処理の程度を決定する。例えば、電圧落ち込み量ΔVが大きくなるにつれて、極小値落ち込み量ΔVmが大きくなるにつれて、または、所要時間Δt2が長くなるにつれて、活性化処理の条件を、到逹電位を低くする、継続時間を長くする、および、処理頻度を多くする、のいずれか一つまたはそれらのうちの少なくとも二つを組み合わせることにより、活性化処理の程度を高くするように決定する。
ここで、あらかじめ設定する電圧落ち込み量ΔV、極小値落ち込み量ΔVm、または、所要時間Δt2と活性化処理の程度との関係は、例えば図15のグラフ、図16のグラフ、または、図17のグラフと、図10のグラフと、を組み合わせることで容易に得ることができる。
あるいは、例えば、まず(A)燃料電池単セル2の出力電圧VOUTを所定時間にわたり所定電圧値に保持した後の、所定の出力電圧Exのときの出力電流Ix、または、所定の出力電流Ixのときの出力電圧Exを取得する。その後、(C’)計測された出力電流Ixまたは出力電圧Exに基づいて、あらかじめ設定しておいた出力電流Ixまたは出力電圧Exと活性化処理の程度との関係を参照して活性化処理の程度を決定する。例えば、出力電流Ixまたは出力電圧Exが相対的に小さいときに、相対的に大きいときに比ベて、活性化処理の条件を、到達電位を低くする、継続時間を長くする、および、処理頻度を多くする、のいずれか一つまたはそれらのうちの少なくとも二つを組み合わせることにより、活性化処理の程度を高くするように決定する。
ここで、あらかじめ設定する出力電流Ixまたは出力電圧Exと活性化処理の程度との関係は、例えば図22のグラフと図23のテーブル、または、図24のグラフと図25のテーブルのグラフと、図10のグラフと、を組み合わせることで容易に得ることができる。
これらの場合にも、図1〜図21により説明された実施例と同様の効果を奏することができる。
次に、図28を参照して燃料電池システムAの更に別の実施例について説明する。この実施例では、燃料電池システムAが水素ガス非循環式の燃料電池システムである点が図1に示す実施例と相違する。以下相違点について主に説明する。
図1に示される燃料電池システムAは、燃料ガス通路30の出口と燃料ガス供給管31とがアノードオフガス管36及び燃料ガス循環管81により接続され、燃料ガスを含むアノードオフガスが燃料ガス供給管31へ循環されるシステム、すなわち燃料ガス循環式の燃料電池システムである。一方、図28に示される燃料電池システムAは、燃料ガス循環管81及び燃料ガス循環ポンプ39が除かれている。すなわち、図28示される燃料電池システムAは、燃料ガス通路30の出口と燃料ガス供給管31とが分離され、燃料ガスを含むアノードオフガスが燃料ガス供給管31へ循環されないシステム、すなわち燃料ガス非循環式の燃料電池システムである。
この場合にも、図1に示す燃料電池システムAと同様の効果を奏することができる。