JP4447130B2 - 窒化アルミニウム焼結体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ波域での誘電損失が小さい窒化アルミニウム焼結体に関する。
【0002】
【従来の技術】
窒化アルミニウム(AlN)は、熱伝導率が高くプラズマ耐性に優れていることから、例えば、半導体製造装置における電子サイクロトロン共鳴(ECR)装置等に用いられる素材として有望である。ここで、プラズマは所定のガスにマイクロ波等の高周波電圧を印加して励起させることから、マイクロ波透過用の窓部材等にはプラズマ励起波長に対する誘電損失、特に誘電正接が小さいAlN焼結体を用いることが好ましい。
【0003】
AlN焼結体の誘電損失は結晶格子が乱れると増大すると考えられる。また、熱伝導率は粒界成分の量が多くなると低下すると考えられている。さらに、比誘電率も粒界成分の量が多くなると大きくなるが、その依存度は、誘電損失や熱伝導率に比べると小さいものである。
【0004】
AlN焼結体のこれら諸特性に大きな影響を及ぼす粒界は、一般的に焼結助剤として用いられている金属酸化物の成分である陽イオン成分の化合物から構成されていることから、従来は、得られたAlN焼結体を還元雰囲気に晒す等して粒界成分を除去していた。具体的には、カーボン発熱体を用いた炉中に試料をそのまま載置して加熱したり、または、カーボン製治具内に試料を収容して加熱する。これにより、加熱雰囲気中に飛散したカーボンが試料中の粒界成分と反応して粒界成分が焼結体中から除去される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなカーボンを用いた粒界除去方法を用いた場合には、カーボン成分がAlN焼結体内に残留して、低体積抵抗、高誘電損失といった特性を示すようになり、所定の高周波電圧を印加しても、プラズマが発生しない場合がある等の問題を生ずる。
【0006】
本発明はこのような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、カーボン中で粒界成分の除去を行うことなく特定範囲量の粒界成分を残留させることで、低誘電損失、高熱伝導率かつ高い曲げ強度を有するAlN焼結体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明によれば、平均イオン価数がn価である1種以上の陽イオン成分を焼結助剤成分として含み、アルミニウムと前記陽イオン成分の総イオン数を100としたときに、前記アルミニウムが占めるイオン数の割合が100−6/n以上100−0.9/n以下の範囲にあり、かつ、前記陽イオン成分が粒界に存在している窒化アルミニウム焼結体であって、前記焼結助剤を含む窒化アルミニウム粉末を焼結することにより得られた緻密質な窒化アルミニウム焼結体を、主に窒化物からなる部材で囲繞して熱処理装置の構成物に由来するカーボンの付着を防ぎながら、1600℃以上1900℃以下で1時間以上連続してまたは断続的に熱処理することで製造され、商用マイクロ波領域における誘電正接が1×10 −2 未満であり、かつ、比誘電率と誘電正接の積を室温における熱伝導率(W・K −1 ・m −1 )で除した値が、3.0×10 −4 (K・m・W −1 )未満であり、かつ、商用マイクロ波領域における比誘電率と誘電正接の積を室温における熱伝導率(W・K −1 ・m −1 )および4点曲げ強度(MPa)で除した値が、1.5×10 −6 (K・m・W −1 ・MPa −1 )未満であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体、が提供される。
【0008】
さらに、焼結助剤の成分である陽イオン成分としては、イオン価数が3価のものを含むことが好ましく、具体的には希土類元素を挙げることができる。本発明の窒化アルミニウム焼結体は、マイクロ波励起プラズマ装置用部材として特に好適に用いられる。
【0010】
本発明に係る窒化アルミニウム焼結体は、低誘電損失、低誘電正接であり、しかも熱伝導率および機械的強度も高く維持されるという特徴を有する。従って、例えば、プラズマ発生装置におけるマイクロ波透過窓部材として用いた場合にも、マイクロ波による発熱が少なく、また、発生するプラズマに対する耐食性も良好であるので、装置特性の向上、装置寿命の長期化に大きく寄与する。また、高周波領域で用いられる多層配線基板や半導体素子搭載基板として用いた場合にも、良好な放熱性が確保されているので、使用周波数の伝送信号の減衰が抑制される。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の窒化アルミニウム(AlN)焼結体は、平均イオン価数がn価である1種以上の陽イオン成分を焼結助剤成分として含んでいる。この陽イオン成分が1種類のみである場合には、平均イオン価数nは、その陽イオン成分がAlN焼結体中において陽イオンとして最も安定に存在するときのイオン価数と同じとなる。また、焼結助剤が複数種の陽イオン成分を含む場合には、平均イオン価数nは、各陽イオン成分の価数とその存在比率を考慮して決定する。例えば、2価の陽イオンと3価の陽イオンがモル比で50%ずつである場合には、その平均イオン価数nは2.5となる。
【0012】
なお、焼結助剤の陽イオン成分が1種類であっても、混合原子価の形態を取って存在していると考えられる場合には、その存在比を考慮し、前述した複数種の陽イオン成分を含む場合と同様にして平均イオン価数nを算出する。さらに、複数種の陽イオン成分の中に混合原子価を有するものがある場合には、その陽イオン成分についての平均イオン価数を算出した後に、さらに他の陽イオン成分との存在比を考慮して、平均イオン価数nを算出する。
【0013】
本発明においては、AlN焼結体における焼結助剤の陽イオン成分の量は、AlN焼結体中のアルミニウム(Al)の量と対比して定められる。すなわち、AlN焼結体中のAlと焼結助剤の陽イオン成分の総イオン数を100としたときに、本発明のAlN焼結体は、Alのイオン数が占める割合が100−6/n以上100−0.9/n以下の範囲にあり、逆に焼結助剤の陽イオン成分が占める割合は0.9/n以上6/n以下の範囲にあることを特徴とする。
【0014】
ここで、平均イオン価数nは必ず1以上であり、常に(100−6/n)<(100−0.9/n)の関係が成立し、平均イオン価数nが大きい場合に、Alの存在割合を大きくすることができる。つまり、平均イオン価数nが大きい場合には焼結助剤の量は少なくともよいが、平均イオン価数nが小さい場合には多くの焼結助剤を必要とすることとなる。
【0015】
このことは、焼結助剤の陽イオン成分がAlN焼結体中に含まれる固溶酸素を除去する能力と関わっている。つまり、AlN焼結体中に含まれる固溶酸素を除去するためには、固溶酸素の負電荷に応じた正電荷が必要とされるため、平均イオン価数nが大きければ少ない量の焼結助剤で足り、平均イオン価数nが小さい場合にはより多くの焼結助剤が必要とされる。
【0016】
そして、平均イオン価数nが小さい場合には、使用された多量の焼結助剤が粒界に存在することとなるために熱伝導率を低下させる問題を生じ、一方、平均イオン価数nが高い場合には、生成する粒界相の粘性が高くなり、AlN粒子に対する「濡れ性」が低下して、かえって固溶酸素の除去が行われ難くなったり、焼結体の組織が均一でなくなる等の問題を生ずるおそれがある。
【0017】
従って、このような問題を考慮した場合に、平均イオン価数nは2.4以上3.6以下であることが好ましく、この場合に、焼結助剤はイオン価数が3価である陽イオン成分を含んでいることが好ましい。さらに、平均イオン価数nが3であるとさらに好ましい。このような条件を満足する焼結助剤は、十分な固溶酸素除去能力を有しつつ、熱伝導率を低下させることなく、しかも、AlN粒子に対する濡れ性がよく、焼結体の組織を均一なものとすることができる。
【0018】
より具体的には、焼結助剤としては、イオン価数が3価である金属元素を含む化合物もしくはイオン価数が3価である金属元素の化合物またはこれらの混合物を用いることが好ましく、希土類元素を含む化合物もしくは希土類元素の化合物またはこれらの混合物を用いることが、さらに好ましい。このような焼結助剤たる化合物は、主に酸化物の形でAlN粉末に添加され、成形、焼成等されて粒界成分となる。
【0019】
なお、上述したAlN焼結体中におけるAlと焼結助剤の陽イオン成分のイオン数比は、X線分析顕微鏡(堀場製作所製、XGT−2000W)によって得られた半定量分析(スタンダードレス)値(重量比)から原子量を考慮して換算することにより決定したものである。このX線分析顕微鏡は、ロジウム(Rh)をX線源(ターゲット)として、これより発生したX線をX線導管を通して直径10〜100μmの微細X線ビームに収束させてXY走査ステージ上の試料に照射し、試料の表面近傍から発生した蛍光X線をSi−X線検出器で計数するものである。測定は、測定時間:120秒、パルス処理時間:P3(使用機器固有設定値)、XGT径(ビーム収束径):100μm、X線管電圧:30kV、電流1mAで行った。
【0020】
従って、他の分析方法を用いた場合には、上記範囲と異なる範囲によって定義される場合がある。また、AlN焼結体を製造する際に原料等に不可避的に含まれ、得られたAlN焼結体に含まれることとなる微量元素は、焼結助剤の成分とはみなさないこととする。
【0021】
上記X線分析顕微鏡による定量分析では、焼結助剤の陽イオン成分は粒界において検出され、AlN粒子内からは検出されない。つまり、焼結助剤の陽イオン成分は粒界に存在している。
【0022】
上述した組成および微構造を有する本発明に係るAlN焼結体は、所定の焼結助剤を含むAlN粉末を成形、焼結することにより緻密質な焼結体を得た後、引き続いてまたは一度室温に戻した後に、再び所定の温度でカーボンにより粒界を排除する操作を行うことなく熱処理することにより得ることができる。
【0023】
AlN焼結体を得るための焼結や熱処理の条件は、使用される焼結助剤の種類と量によって異なるが、通常は、窒素ガス雰囲気中、1600℃〜1900℃程度の高温で行われる。そのために熱処理炉としては、カーボン製のヒータを用いたものが多用される。そこで、本発明においては、カーボンヒータを用いた熱処理炉を用いて処理する場合において、カーボンを含まない雰囲気での熱処理を行うために、例えば、熱処理試料であるAlN焼結体の周囲をAlN焼結体または窒化硼素焼結体で囲い、ヒータの雰囲気が直接に熱処理試料に当たらないように遮蔽して行う。
【0024】
熱処理の時間は特に制限されるものではないが、例えば、通常の高純度AlN原料粉末を用いて窒素常圧雰囲気中で緻密化させるには、上述の温度において1〜3時間程度を要する。この時点では粒界成分は大部分が焼結体内部に残留しており、同時にAlN結晶中にも多量の格子の乱れが存在していると考えられる。従って、本発明に規定するような組成および微構造ならびに特性を有するAlN焼結体を得るには、例えば1800℃では、緻密化後に焼成温度付近でさらに数時間以上、好ましくは18時間以上、より好ましくは32時間以上の熱処理を行うことが必要である。しかし、あまり長時間となると熱処理装置(主に炉)の運転回転率が低下することや、AlN粒子の粒成長によりAlN焼結体の機械的強度が低下することから、約100時間が実際的な限度となる。
【0025】
熱処理は処理温度が高くなるに従って短時間で行うことが可能であることを利用すれば、炉の運転回転率が向上して生産コストの低減を図ることが可能であるが、この場合、特に大型の部材では、価格面および性能面から使用可能な炉が制約される他、運転中の炉に対する負担が大きくなる問題が生ずる。従って、処理条件は、カーボンが侵入し易くなる等の点をも考慮して適宜適切な条件に設定することが好ましい。
【0026】
また、熱処理温度は緻密化温度(焼結温度)と同じである必要はなく、熱処理中も幾つかの段階に分けて熱処理温度を変えることも可能である。特に、比較的長時間を要する熱処理を幾つかの段階に分けた場合に、段階毎に冷却工程を含めても支障はないので、短時間で終了する他の工程と併せて処理することも可能であり、これにより炉の占有率を下げることが可能になる。
【0027】
このようなカーボンを含まない雰囲気で熱処理を行っても、被処理体であるAlN焼結体の表面近傍では、ある程度の粒界成分の排出は不可避的に起こる。しかしながら、このような一部の粒界成分が排出された後でも、上記本発明の条件を満足する限り、誘電損失や誘電正接、熱伝導率のばらつきは、実使用上、問題とはならない程度に抑えられる。
【0028】
なお、粒界相を排出しないのであれば、AlN粉末に添加する焼結助剤の量を最初から少なくする方法も考えられるが、この場合には、その結果として得られるAlN焼結体中の焼結助剤の量が、Alと焼結助剤の陽イオン成分のイオン数比を規定した上記本発明の条件から外れることとなり、良好な熱伝導率が得られなくなったり、均一な組織を有する焼結体を得ることができなくなる等の問題を生ずる。一方、多量の焼結助剤を含む場合には、粒界成分が多くなることによって熱伝導率が小さくなる問題がある。
【0029】
次に、本発明のAlN焼結体の誘電特性について説明する。AlN焼結体の誘電正接は、主に熱処理の時間と温度に依存しており、熱処理時間が長く、熱処理温度が高くなるに従って低減する。一方で、誘電正接はAlN焼結体中の焼結助剤の量に依存しない。このことは、焼結助剤として、例えば、酸化イットリウム(イットリア:Y2O3)を用いた場合に、粒界を形成していると考えられる化合物の1つであるイットリウムアルミニウムガーネット(YAG)等の定比組成の化合物の誘電特性が、AlN焼結体全体の誘電特性を損なわないものであることを示唆している。
【0030】
例えば、後述する実施例および比較例に示すように、本発明に係るAlN焼結体の3GHzにおける誘電正接は4×10−3程度であり、また、YAGの誘電正接は1×10−4以下であったことからも、粒界相はAlN焼結体の誘電正接には、殆ど影響を及ぼさないことがわかる。
【0031】
本発明に係るAlN焼結体は、マイクロ波領域を利用する各種装置の部材・部品として使用する場合には、商用マイクロ波領域と呼ばれる1.25GHz〜12GHzにおけるAlN焼結体の誘電正接が1×10−2未満であり、かつ、比誘電率と誘電正接の積を熱伝導率(W・K−1・m−1)で除した値が、3.0×10−4(K・m・W−1)未満という優れた特性を示す。これにより、使用するマイクロ波による発熱量が少なくなり、AlN焼結体部品の寿命が長くなり、また、その部品周りの構造や使用する部材の選択幅が広がるという利点が生じる。
【0032】
ここで、比誘電率と誘電正接の積は誘電損失に比例するので、この積の値はAlN焼結体に発生する熱量に比例する。従って、この積の値を熱伝導率で除した値は、AlN焼結体が熱を蓄えやすいかどうかを判断するパラメータである。つまり、(比誘電率)×(誘電正接)/(熱伝導率)の値が小さければ、それだけ良好な熱伝導性、放熱性を有することを示しており、本発明に係るAlN焼結体が、従来のAlN焼結体よりも、良好な熱伝導性、放熱性を有していることを示している。
【0033】
従来の一般的なAlN焼結体の室温における熱伝導率は160W・K−1・m−1程度であり、また、例えば3GHzでの誘電損失は1×10−2程度、比誘電率は8.6程度あることから、この場合の(比誘電率)×(誘電正接)/(熱伝導率)の値は、約5.4×10−4(K・m・W−1)となる。一方、後述する実施例に示すように、本発明に係るAlN焼結体の熱伝導率は200W・K−1・m−1程度あり、3GHzでの誘電損失は4×10−3程度、比誘電率は8.4程度であることから、この場合の(比誘電率)×(誘電正接)/(熱伝導率)の値は、約1.7×10−4(K・m・W−1)となり、従来のAlN焼結体の1/3程度と小さく、優れた熱伝導性、放熱性を有していることがわかる。
【0034】
なお、AlN焼結体の熱伝導率は、直径10mmφ〜11mmφ、厚み0.4mm〜2mmの円板状試料を用い、室温にてレーザフラッシュ法(リング法)にて測定した熱拡散率に、比重3.25、比熱737J・kg−1・K−1を乗じて得られる値である。より詳しくは、熱拡散率は、比熱・熱拡散率測定装置(リガク製、LF/TCM−FA8510B)を用いて、2.5kWの出力で照射したレーザを、レーザの照射範囲を外径8mmφ、内径6.9mmφのリング形状で制限して、カーボンを塗布した試料の一方の表面に照射して、他方の面における温度上昇を開口径3mmφの台座を通してInSbを用いた赤外線検出器で計測し、付属の解析ソフトを用いて求めたものである。従って、他の測定方法を用いた場合やリング形状が異なる場合、解析ソフトが異なる場合には、得られる熱拡散率の値が異なる場合がある。なお、前記測定方法を用いて、後述する実施例および比較例についても熱伝導率を求めている。
【0035】
また、比誘電率および誘電正接は、厚み0.635mm、一辺が50〜52mmの角板状試料を用いて、室温にて、誘電体共振器法にて、3GHz、6GHz、12GHzでそれぞれ測定して得られた値である。より詳しくは、比誘電率および誘電正接は、誘電体共振器法用のテストフィクスチャ(村田製作所製、DRG8820)およびネットワークアナライザ(ヒューレットパッカード製、HP8720B)を使用し、比誘電率および誘電損失が各々アルミナ基板を標準試料として校正して室温にて測定し、付属の解析ソフトによって求めた値である。従って、他の測定方法を用いた場合や標準試料、解析ソフトが異なる場合には、得られる比誘電率および誘電正接の値が異なる場合がある。なお、後述する実施例および比較例の比誘電率および誘電正接の値は、前記方法を用いて測定を行っている。
【0036】
次に、本発明に係るAlN焼結体の機械的強度特性について説明する。AlN焼結体の破壊モードは粒界破壊が支配的であるために、異常粒成長がない限りにおいては、曲げ強度は平均粒径に依存する。つまり、AlN粒子の大きさ相当の欠陥を破壊源とみなせるので、平均粒径が小さいほど曲げ強度は大きくなる。
【0037】
従来の粒界相を排除する熱処理方法では、粒界層の除去とともに粒成長が進行するために、熱処理による機械的強度の低下は避けることができなかった。しかしながら、本発明のAlN焼結体は、含まれる焼結助剤の量が適量であり、しかも粒界相を排出しない熱処理を行うために、適切な温度であれば長時間の熱処理を行っても、AlN粒子の粒成長が抑制され、その結果、機械的強度の低下が抑制される。
【0038】
例えば、高純度AlN粉末を用いて作製された緻密な常圧焼結体は、平均粒径が2μm程度のもので約300MPaの曲げ強度を有する。但し、このようなAlN焼結体は、通常、焼結後(緻密化後)の熱処理を行っておらず、そのために誘電損失が大きい点で本発明と用途を異にする。これに対して本発明に係るAlN焼結体の平均粒径は4μm〜5μm程度であり、約250MPaの曲げ強度を有する。また、熱処理条件を制御してAlN粒子の平均粒径を10μm未満に抑えることにより、200MPaの曲げ強度を維持することが可能である。
【0039】
一方、後述する比較例に示すように、カーボンにより粒界を排除するように熱処理したAlN焼結体では粒成長が進行し易く、また部分的にカーボンが残留するために曲げ強度は200MPa以下となり、部位によるばらつきも大きくなる問題がある。
【0040】
なお、上述したAlN焼結体の平均粒径は、AlN焼結体の破断面をSEM観察して画面中に200個程度の粒子を含むようにして撮影し、そこから単位面積中の粒子個数を求め、等価円直径として得られた値である。
【0041】
ところで、先に述べたパラメータ(比誘電率)×(誘電正接)/(熱伝導率)はAlN焼結体中へ熱が蓄積される度合いを示していることから、これはAlN焼結体の温度上昇の度合い、さらには発生する熱応力の度合いをも示している。従って、このパラメータを機械的強度で除して改めて定義するパラメータ(比誘電率)×(誘電正接)/((熱伝導率)×(機械的強度))は、AlN焼結体中で発生する熱応力に対する機械的強度の許容度合いを示すことになり、同一の使用条件においては、この値が小さいほど破壊に抗する余裕があることになる。なお、機械的強度は、JIS R1601−1995による室温4点曲げ強度である。
【0042】
後述する実施例および比較例に示すように、パラメータ(比誘電率)×(誘電正接)/((熱伝導率)×(機械的強度))の値は、従来のAlN焼結体(比較例2)では2.0×10−6(K・m・W−1・MPa−1)となるが、本発明に係るAlN焼結体(実施例)では、約6.4×10−8(K・m・W−1・MPa−1)と小さく、発生する熱応力に対する機械的強度の余裕が大きい。パラメータ(比誘電率)×(誘電正接)/((熱伝導率)×(機械的強度))の値は、1.5×10−6(K・m・W−1・MPa−1)未満であることが好ましい。
【0043】
【実施例】
(実施例)
平均粒径が0.6μm、酸素量0.7%であり、焼結助剤としてイットリウム(Y)とAlの全イオン数に対するYのイオン数比(Y/(Al+Y))が2.1に調製された高純度AlN粉末をCIP成形し、窒素雰囲気中、1800℃で常圧焼成した。一度、焼成試料を室温に戻した後に焼成試料の周囲をAlN焼結体で囲い、窒素雰囲気中、1800℃で48時間、熱処理した。こうして作製したAlN焼結体試料の誘電損失は、誘電体共振器摂動法を用いて周波数3GHzで測定し、熱伝導率はレーザフラッシュ(リング)法を用いて測定した熱拡散率に比重3.25、比熱737J・kg−1・K−1を乗じて求め、4点曲げ強度をJIS R1601−1995に基づいた試験により測定し、Alと焼結助剤の陽イオン成分の重量比をX線分析顕微鏡(堀場製作所製XGT2000W)を用いて測定し、その値からイオン数比への換算を行った。なお、曲げ強度の測定を除いて、焼結体の内部と表面のそれぞれについて特性を測定した。
【0044】
(比較例1)
焼成までの工程を前記実施例と同じとし、その後の熱処理を行わなかったAlN焼結体試料を比較例1とした。得られたAlN焼結体について、誘電損失、熱伝導率、4点曲げ強度の測定、Alと焼結助剤の陽イオン成分の重量比分析を行い、その値からイオン数比への換算を行った。
【0045】
(比較例2)
焼成までの工程を前記実施例と同じとし、一度、焼成試料を室温に戻した後に焼成試料の周囲をカーボン製の治具で囲い、窒素雰囲気中、1800℃で48時間、熱処理して得たAlN焼結体を比較例2とした。得られたAlN焼結体について、誘電損失、熱伝導率、4点曲げ強度の測定、Alと焼結助剤の陽イオン成分の重量比分析、イオン数比への換算を行った。
【0046】
(試験結果)
試験結果を表1に記す。実施例では、Alと焼結助剤の陽イオン成分の重量比分析から得られたイオン数比の値は、Alの占める割合が98.1〜98.7atom%であり、本発明の条件である98〜99.7atom%の範囲にあるという条件を満足していることが確認された。これに対して、比較例1ではAlの占める割合が97.9atom%、比較例2では99.8atom%であり、ともに本発明の条件である98〜99.7atom%の範囲から外れていることが確認された。
【0047】
【表1】
【0048】
4点曲げ強度と熱伝導率は、比較例1および比較例2と比較して実施例において良好な特性が得られることが確認された。また、誘電正接の値は熱処理を行わない比較例1で最も大きくなり、同時間、同温度での熱処理を行った実施例と比較例2ではほぼ同等であった。さらに、(比誘電率)×(誘電正接)/(熱伝導率)の値は、実施例では1.6×10−4(K・m・W−1)、比較例1では5.4×10−4(K・m・W−1)、比較例2では3.0×10−4(K・m・W−1)となり、実施例において、最も値が小さく、良好な熱伝導性、放熱性を有することが確認された。また、(比誘電率)×(誘電正接)/((熱伝導率)×(機械的強度))の値は、実施例では約6.4×10−8(K・m・W−1・MPa−1)、比較例1では2.8×10−7(K・m・W−1・MPa−1)、比較例2では2.0×10−6(K・m・W−1・MPa−1)となり、実施例において最も値が小さく、良好な機械的特性を有することも確認された。
【0049】
以上の結果に示されるように、本発明の組成条件を満足するAlN焼結体は、(比誘電率)×(誘電正接)/(熱伝導率)および(比誘電率)×(誘電正接)/((熱伝導率)×(機械的強度))の値が小さい、つまり、熱伝導性と放熱性に優れ、機械的強度にも優れる特性を有することが確認された。従って、本発明のAlN焼結体は、例えば、プラズマ発生装置におけるマイクロ波透過窓部材等として好適に用いられ、その他にも、プラズマ内の各種構造部品、マイクロ波領域での信号伝達を行う多層配線基板等として、好適に用いることができる。
【0050】
【発明の効果】
以上の説明の通り、本発明に係るAlN焼結体は、低誘電損失、低誘電正接であり、しかも熱伝導率が高く機械的強度にも優れるという特徴を有する。従って、例えば、プラズマ発生装置におけるマイクロ波透過窓部材として用いた場合には、マイクロ波による発熱が少なく、また、発生するプラズマに対する耐食性も良好であるので、装置特性の向上、装置寿命の長期化に大きく寄与する。また、プラズマ発生装置の内部部材としても有効に用いることができる。さらに、高周波領域で用いられる多層配線基板や半導体素子搭載基板として用いた場合にも、良好な放熱性が確保されていることから、使用周波数の伝送信号の減衰が抑制され、信頼性が向上するという効果を奏する。
Claims (5)
- 平均イオン価数がn価である1種以上の陽イオン成分を焼結助剤成分として含み、アルミニウムと前記陽イオン成分の総イオン数を100としたときに、前記アルミニウムが占めるイオン数の割合が100−6/n以上100−0.9/n以下の範囲にあり、かつ、前記陽イオン成分が粒界に存在している窒化アルミニウム焼結体であって、
前記焼結助剤を含む窒化アルミニウム粉末を焼結することにより得られた緻密質な窒化アルミニウム焼結体を、主に窒化物からなる部材で囲繞して熱処理装置の構成物に由来するカーボンの付着を防ぎながら、1600℃以上1900℃以下で1時間以上連続してまたは断続的に熱処理することで製造され、
商用マイクロ波領域における誘電正接が1×10 −2 未満であり、かつ、比誘電率と誘電正接の積を室温における熱伝導率(W・K −1 ・m −1 )で除した値が、3.0×10 −4 (K・m・W −1 )未満であり、
かつ、商用マイクロ波領域における比誘電率と誘電正接の積を室温における熱伝導率(W・K −1 ・m −1 )および4点曲げ強度(MPa)で除した値が、1.5×10 −6 (K・m・W −1 ・MPa −1 )未満であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。 - 前記陽イオン成分として、イオン価数が3価のものを含むことを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
- 前記3価の陽イオン成分が希土類元素であることを特徴とする請求項2に記載の窒化アルミニウム焼結体。
- マイクロ波励起プラズマ装置用部材として用いられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム焼結体。
- 前記窒化アルミニウム焼結体の平均粒径は4μm〜5μmであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム焼結体。
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