JP4429549B2 - 加熱ローラー装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成繊維の加熱ローラー装置に関するものであり、更に詳しくは加熱ローラーの回転に伴って誘起される随伴気流による糸揺れを抑制することで、品位の良好な熱可塑性合成繊維を得るための加熱ローラー装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、走行中の熱可塑性合成樹脂からなる糸条を加熱ローラーと接触させて加熱するための加熱ローラー装置としては、加熱ローラーと該加熱ローラーに並設されたセパレートローラーとを一対としてこれらローラーに糸条を複数回巻回させて熱処理を行うタイプが用いられている。また、ネルソンローラーと呼ばれる一対の加熱ローラーに糸条を複数回巻回させるタイプもよく知られている。
【0003】
以下、本発明において、“加熱ローラー装置”とは、前記のようなセパレートローラータイプとネルソンローラータイプの両方のタイプを指すものとする。
【0004】
このような加熱ローラー装置においては、加熱ローラーの回転速度が高速になると、加熱ローラーの回転に伴って誘起される随伴気流の影響で糸揺れが生じる事態が生じる。もし、このような事態が生じると、加熱ローラーと糸条との接触が不安定になり、熱処理が均一に行われないという問題が発生する。
【0005】
また、加熱ローラーに多糸条を同時に巻回させる場合には、狭い間隔で糸条を巻回することとなり、隣接する糸条間ピッチが狭くなる。このため、糸揺れが生じると、隣接する糸条同士が接触し、毛羽の発生や、断糸をまねいたりするという問題を生じる。
【0006】
例えば、ポリエステル、ポリアミドなどに代表されるような熱可塑性合成樹脂からなる糸条を直接紡糸延伸工程と呼ばれる工程において製造する場合には、このような問題が生じる。何故ならば、生産効率を向上させるために、多錘(多数本)の糸条を複数の紡糸口金パックから紡出し、使用する加熱ローラーに同時に巻回し、延伸と熱処理とを同時に行うことが一般に行われているからである。
【0007】
一方、加熱ローラーから糸条への伝熱効率保持の目的や加熱ローラーの保温、あるいは、糸条に付与された油剤に起因する油煙の周囲への拡散防止といった目的で加熱ローラーの周囲をボックスで覆うことが一般的に行われている。
【0008】
しかし、このように加熱ローラーの周囲をボックスで囲う場合には、高速回転するローラーや高速走行する糸条によって誘起された随伴気流がこのボックスの壁面と衝突して、乱流を引き起こす。このため、ボックスを設けない場合と比較して、糸揺れの発生がより激しくなる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来技術の現状を背景になされたものである。すなわち、その目的とする所は、加熱ローラーを囲うためのボックスを設けた加熱ローラー装置において、加熱ローラー上を走行する糸条の糸揺れを抑制し、これによって熱処理斑の無い品位のよい合成繊維を効率よく生産する装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、本発明の「糸条を巻回して接触加熱するための加熱ローラーを囲うボックスを設けると共に、該ボックス内には、回転するローラー及び走行する糸条によって惹起される随伴気流を分離するための気流分離手段を設けるとともに、該気流分離手段によって分離された随伴気流を前記ボックス外へ排出する開口部とを設けたことを特徴とする加熱ローラー装置」の提供によって解決される。
【0011】
その際、前記気流分離手段は、加熱ローラーによって誘起される随伴気流を効果的に分離でき、糸揺れを惹起するような乱流が発生しないような位置に走行する糸条に近接して設ける。また、前記開口部は、分離した随伴気流を前記ボックス外へ効果的に排出するために設けられている。
【0012】
また、熱可塑性合成樹脂からなる複数の糸条を溶融紡出し、該紡出された糸条を一旦ガラス転移温度以下に冷却し、引き続いて、少なくとも1個及び/又は少なくとも1対の加熱ローラーで引取り、一旦巻き取る事無く、少なくとも1対の加熱ローラーで連続して加熱延伸を行う直接紡糸延伸工程において、前記加熱ローラーの中少なくともその一つに対して、前記気流分離手段と前記開口部とを有する前記ボックスを設けることが、本発明の装置の使用において極めて効果的であり好ましい。
【0013】
その際、本発明の加熱ローラー装置としては、前記気流分離手段先端と該気流分離手段先端から走行糸条に下ろした仮想垂線が該走行糸条と交差する点(M)との間の最短距離をL1(cm)、前記交差点(M)と直径D(cm)の加熱ローラーから糸条が離れる離点(N)との間の距離をL2(cm)、加熱ローラーから離れた糸条の走行方向と前記気流分離手段とがなす交差角度θとしたとき、これらL1、L2、D、そして、θが下式(1)〜(3)を同時に満足することが好ましい。
0<L1<3 …… (1)
0<L2<D/2 …… (2)
0<θ≦45° …… (3)
【0014】
本発明の加熱ローラー装置がこのような条件を満足すれば、前記気流分離手段と開口部とで随伴気流を前記ボックスの外へ排出させることができ、糸条の揺れを防止する上で好ましい。
【0015】
また、長さW(cm)の加熱ローラーの回転により誘起される随伴気流を排風するために設けた前記開口部の縦横形状L3(cm)×L4(cm)に関しては、下式(4)及び(5)を同時に満足することが加熱ローラーによって誘起された気流を前記ボックスへ良好に排出でき、糸揺れを防止する上から好ましい。
0<L3<5 …… (4)
W<L4<1.5W …… (5)
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。ここで、図1は、本発明の加熱ローラー装置を説明するための説明図であって、図1(A)は模式側面図、図(B)は模式平面図をそれぞれ示す。
【0017】
先ず、この図1において、参照符号Yは走行する糸条を示し、本例の場合は、図1(B)に破線で示したように、4本の糸条Yが一対の加熱ローラー3aと3bとに同時に4ターン巻回された状態にある。なお、これらの糸条Yが巻回される加熱ローラー3a及び3bの直径とその長さに関しては、それぞれD(cm)とW(cm)とする。
【0018】
なお、この図1において、参照符号1aはボックスであって、一対の加熱ローラー3a及び3bの周囲を覆っている。また、参照符号2a及び2bは気流分離手段であって、前記加熱ローラー3a及び3bによって誘起される随伴気流をそれぞれ分離する役割を果たす。
【0019】
更に、参照符号4a及び4bは開口部であって、前記加熱ローラー3a及び3bによって誘起された随伴気流を前記ボックス1aからそれぞれ排出するために設けられている。
【0020】
また、参照符号Mは、参照符号Eで表した前記気流分離手段2aの先端と該先端Eから走行糸条Yに下ろした仮想垂線が該走行糸条Yと交差する点を表している。更に、参照符号Nは、加熱ローラー3aから糸条Yが離れようとする点、すなわち、離点を表している。
【0021】
ここで、前記気流分離手段2a及び2bは、図示されているように板状にすることが、装置構成が単純となり、随伴気流の分離効果も十分得られ、製作コストなどの点で好ましい、また、糸条Yに近接して設けた気流分離手段2a及び2bの先端部は、気流を効率よく分離できるような鋭角な前縁形状を呈していることが好ましい。
【0022】
なお、前記気流分離手段2a及び2bは、ここで分離された気流が前記気流分離手段2a及び2bの表面に沿って前記ボックス内の気流を乱すことなく円滑に流れて、前記開放部4a及び4bから排出されるものであれば、特に板状としなくても良いことは言うまでもない。要するに、効果的に随伴気流を分離でき、これらを円滑にボックス1a外へ誘導できるものであれば良い。
【0023】
更に、前記開口部4a及び4bは、分離排出する随伴気流中に油剤成分などが含まれているような場合には、ダクトを接続してこれら開口部4a及び4bから排出される分離した気流が作業環境中へ拡散することがないようにすることもできる。その際、前記ダクトには、分離した気流を吸引する吸引手段を補助的に設けることもできる。
【0024】
また、L1(cm)は、前記気流分離手段2aの先端Eと点Mとの間の最短距離、L2(cm)は、前記交差点Mと離点Nとの間の距離をそれぞれ表す。更に、θは、図(A)に示したように、加熱ローラー3aから離れる糸条Yの走行方向に対して前記気流分離手段が交差する交差角度である。
【0025】
この時、設置する前記気流分離手段2aは糸条Yに近接して設けられるが、その際、下式(1)〜(3)を同時に満足するように設けることが加熱ローラー3aによって誘起される随伴気流を効率よく分離する上で好ましい。
0<L1<3 …… (1)
0<L2<D/2 …… (2)
0<θ≦45° …… (3)
【0026】
ここで、L1が3cmより、大きい場合、もしくはL2がD/2より大きい場合は、加熱ローラー3aによって誘起された随伴気流を走行糸条Yから十分に分離することができず、糸揺れ抑制効果も十分に発現しない。また、θが45°より大きくなると、気流分離手段2aに跳ね返される随伴気流の寄与が大きくなり、糸揺れ抑制効果が十分に発現しないだけで無く、かえって糸揺れを大きくする場合がある。
【0027】
一方、開口部4aについては下式(4)〜(5)を満足する範囲に設けることが、重要である。
0<L3<5 …… (4)
W<L4<1.5W …… (5)
【0028】
なお、L3(cm)とL4(cm)とは開口部の縦横形状である。つまり、加熱ローラー3a及び3bを囲うボックス1aの前記気流分離手段2a及び/又は2bの気流排出口として設けられた矩形の開口であり、図1(B)に示される寸法である。
【0029】
ここで、(4)式において、L3>5cmより長いと加熱ローラー3aの糸条Yへの伝熱効率が落ちるだけで無く、熱セットが不均一になり、染斑等の品質悪化をまねく危険性があるので開口部4aの大きさは5cmより短くしなければならない。
【0030】
また、(5)式において、L4が加熱ローラー3aの長さWより短い場合は十分な排風効果が得られず、1.5Wより長い場合は、加熱ローラー3aの糸条Yへの伝熱効率が落ちるだけで無く、染斑等の問題が生じ、得られる糸条Yの品質が悪くなる。
【0031】
以上に述べた加熱ローラー装置において、気流分離手段と開口部とは、図1に例示したように上下にそれぞれ設けることがより随伴気流を効率よく分離できることができ好ましい。つまり、本例においては、2枚の気流分離手段2aと2bとが糸条Yに近接して設けられ、これら気流分離手段2a及び2bにそれぞれ対応して開口部4a及び4bがそれぞれ設けることが好ましい。
【0032】
次に、直接紡糸延伸装置の予熱引取りローラー及び熱延伸ローラーとして適用した場合に、均質な熱処理ができ品質に優れた糸条が得られた本発明の加熱ローラ装置の実施例について説明する。図2は、本発明の加熱ローラー装置を適用した直接紡糸延伸装置を模式的に例示した全体装置構成図である。
【0033】
この図2において、36ホールの溶融紡糸口金6より45g/minの吐出量で紡出されたポリエステルマルチフィラメントからなる糸条Yは、該溶融紡糸口金6の下流で糸条冷却装置7から吹き出された冷却風によりガラス転移温度以下に冷却される。
【0034】
ここで、本発明の実施例のポリエステルとは、ポリエチレンテレフタレートを主とするポリエステルであり、本発明の目的を妨げない範囲で、第3成分として、例えば、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのジオール類を共重合したものであってもよい。また、ポリエステルに艶消剤、安定剤、着色剤、難燃剤、表面改質剤などを添加したものでもよい。ついで、冷却された糸条Yには、油剤付与装置8によって油剤が付与される。
【0035】
そして、該油剤付与装置8の下流に、設けられた本発明の加熱ローラー装置によって4000m/minの速度で80℃の予熱処理設置された後、130℃、1.4倍の加熱延伸処理とがされる。すなわち、このような処理をするために、加熱ローラーとセパレートローラー5とからなる予熱引取りローラー対3c及び5が設けられ、これらローラーに続いて、糸条Yを加熱延伸する加熱ローラー対3a及び3b(ネルソンローラー)が設けられている。
【0036】
なお、予熱引取りローラー対3c及び5と加熱ローラー対3a及び3bは、ボックス1aと1bとによってその周囲が囲まれている。更に、該ボックス1aと1bとに対応して、気流分離手段2a及び2bと気流分離手段3cとがそれぞれ設けられている。
【0037】
その際、予熱引取りローラー対3c及び5に設けられたボックス1bには、気流分離手段3cだけしか設けられていないが、これは、セパレートローラー5のローラー直径が小さいために、ボックス内の空気を乱すことに関して比較的影響が少ないためである。したがって、セパレートローラー5の回転に伴う空気の乱れによって、糸条Yの糸揺れが惹起されるような場合には、これを防止するための気流分離手段を設けることは、当然のことである。
【0038】
なお、糸条Yを加熱延伸する加熱ローラー対3a及び3c(ネルソンローラー)の場合は、図1で説明した場合と同様の装置構成である。したがって、ここでは、説明が重複するのを避けて、その詳細な説明を省略する。
【0039】
更に、直接紡糸延伸装置において、本発明の加熱ローラー装置に要求されるL1、L2、L3、L4、D、θ、そして、Wなどのパラメータは、ローラーの回転速度、加熱ローラーの設定温度、処理する糸条の繊度やフィラメント数、処理する糸条の本数、加熱ローラーに巻回する糸条のターン数などによって変化するため、これらの条件に合わせて、既に述べた範囲内で適宜最適な値に設定すればよいことは、言うまでも無い。
【0040】
以上のようにして、延伸された糸条Yは、交絡付与装置9によって、交絡が付与され、巻取機10に巻き取られる。
【0041】
【発明の効果】
本発明の加熱ローラー装置は前述のような構成であって、ローラーの随伴気流による糸揺れを抑制させることができるため、毛羽の発生や断糸を防ぐことができるので生産性が向上する。また、糸揺れ抑制は延伸点の安定化、熱処理の均一化につながるため、得られる延伸糸の品位も向上する。特に、紡糸直接延伸装置の予熱ローラーあるいは延伸熱処理ローラーへ本発明の加熱ローラーを適用した場合にその奏する効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の加熱ローラー装置を説明するための説明図である。なお、図(A)は模式正面図、図(B)は模式平面図をそれぞれ示す。
【図2】本発明の加熱ローラー装置を適用した直接紡糸延伸装置を模式的に例示した概略装置構成図である。
【符号の説明】
1a、1b ボックス
2a〜2c 気流分離手段
3a〜3c 加熱ローラ
4a〜4c 開口部
Y 走行糸条

Claims (4)

  1. 糸条を巻回して接触加熱するための加熱ローラーを囲うボックスを設けると共に、該ボックス内には、回転するローラー及び走行する糸条によって惹起される随伴気流を分離するための気流分離手段を走行する糸条に近接して設けるとともに、該気流分離手段によって分離された随伴気流を前記ボックス外へ排出する開口部とを設けたことを特徴とする加熱ローラー装置。
  2. 熱可塑性合成樹脂からなる複数の糸条を溶融紡出し、該紡出された糸条を一旦ガラス転移温度以下に冷却し、引き続いて、少なくとも1個及び/又は少なくとも1対の加熱ローラーで引取り、一旦巻き取る事無く、少なくとも1対の加熱ローラーで連続して加熱延伸を行う直接紡糸延伸工程において、前記加熱ローラーの中少なくともその一つに対して、前記気流分離手段と前記開口部とを有する前記ボックスを設けた請求項1記載の加熱ローラー装置。
  3. 前記気流分離手段先端と該気流分離手段先端から走行糸条に下ろした仮想垂線が該走行糸条と交差する点(M)との間の最短距離をL1(cm)、前記交差点(M)と直径D(cm)の加熱ローラーから糸条が離れる離点(N)との間の距離をL2(cm)、加熱ローラーから離れた糸条の走行方向と前記気流分離手段とがなす交差角度θとしたとき、これらL1、L2、D、そして、θが下式(1)〜(3)を同時に満足する請求項1又は請求項2記載の加熱ローラー装置。
    0<L1<3 …… (1)
    0<L2<D/2 …… (2)
    0<θ≦45° …… (3)
  4. 長さW(cm)の加熱ローラーの回転により誘起される随伴気流を排風するために設けた前記開口部の縦横形状L3(cm)×L4(cm)が下式(4)及び(5)を同時に満足する請求項1〜3の何れか一項に記載の加熱ローラー装置。
    0<L3<5 …… (4)
    W<L4<1.5W …… (5)
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