JP4326962B2 - 動物繊維保護用処理剤 - Google Patents

Description

【０００１】
【技術分野】
本発明はケラチンからなる動物繊維に酸化処理を行う際に生ずる損傷から繊維の保護をはかる動物繊維保護用処理剤及び動物繊維の処理方法に関する。本発明は、特にヒトの毛髪に対するパーマネントウェーブ処理(パーマ処理)や染毛処理において、毛髪の保護をはかる毛髪用処理剤に関する。また、本発明は、羊毛などヒト以外の動物繊維の漂白処理に伴う動物繊維の損傷から繊維を保護する処理剤に関する。
【０００２】
【背景技術】
ヒトの頭髪に対してパーマネントウェーブを施す、いわゆるパーマ処理に際しては、種々の薬剤を用いた処理が伴う。一般的なパーマ処理では、下記のように毛髪組織のシスチン結合をまずパーマ剤の１剤(チオグリコール酸)により還元する。

つぎに、前記の頭髪にウェーブを付与した後、下記のごとく２剤(ブロム酸ナトリウム)を用いて酸化し、シスチン結合を復元し、最後に水洗等の後処理を行いパーマ処理が完了する。

このようなパーマ処理において用いられる前記２剤(ブロム酸ナトリウム)は酸化剤であり、その処理工程において下記のようにしてシステイン酸が生成することがある。

このシステイン酸は毛髪の強度低下をきたし、毛髪の損傷や感触低下、又その退色あるいは脱色を招くものと考えられている。このようなパーマ処理に伴う毛質の低下の防止について従来は有効な方法が知られていなかった。
また、頭髪の染毛処理においても、これに付随する過酸化水素を用いた漂白（酸化処理）により同様にシステイン酸が生じる。さらに、羊毛、カシミア、ラクダ、ウサギなどの動物繊維の漂白処理や染色工程中の酸化処理によっても同様にシステイン酸が生じる。
このようなパーマ処理などに付随する酸化工程においては、発生したシステイン酸が毛髪の損傷に大きな影響を与えると推定される。本発明者は、このようなパーマ処理などにおいて毛髪等の損傷を防止する方法について、鋭意検討した。その結果、システイン酸に二価金属又はその塩、例えばカルシウム又はカルシウム塩を反応させて−ＳＯ_３Ｃａとすることにより、生成物が不活性化し、水に不溶で安定化して損傷を防止し得るとの知見を得て本発明を完成した。
【０００３】
【発明の開示】
すなわち、本発明は、二価金属イオン又は金属塩を含む水性液よりなる動物繊維保護用処理剤を提供するものである。また、本発明はかかる保護処理剤を用いた、毛髪などの動物繊維に対する損傷の少ないパーマ処理法、染毛方法及び、漂白方法を提供するものである。
【０００４】
【発明の詳述】
（二価金属）
本発明の動物繊維保護用処理剤に使用される二価金属イオン及び二価金属塩の金属成分としては、カルシウム、マグネシウム、バリウムが好ましい。これら金属のイオン、金属塩は、種々の形態で処理剤に導入することができ、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムの金属酸化物(例：酸化カルシウム)、水酸化物(例：水酸化カルシウム)、塩化物(例：塩化カルシウム)として配合することができる。
また、カルシウム、マグネシウム、バリウムの有機酸塩(オキシ酸金属塩、脂肪酸金属塩)などとして配合することもできる。このような金属のオキシ酸塩としては、例えば乳酸、グルコン酸、アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、オキシプロピオン酸、酒石酸、グルカル酸等の糖酸類など脂肪族オキシ酸の金属塩；没食子酸、オキシ安息香酸など芳香族オキシ酸の金属塩などが挙げられる。また、メチルビニルエーテル無水マレイン酸及びその共重合体のカルシウム塩などの金属塩も用いられる。
さらに、多糖類及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、ジエランガム、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサンの各カルシウム塩などの金属塩も挙げられる。
【０００５】
（キレート剤）
また、二価金属の溶解を補助するためキレート剤を加えてもよい。かかるキレート剤としては、エチレンジアミンテトラアセテート、ニトリロトリアセテート、ジエチレントリアミンペンタアセテート、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリアセテート、トリエチレントリアミンヘキサアセテート、１,３−プロパンジアミンテトラアセテート、１,３−ジアミノ−２−ヒドロプロパンテトラアセテート、ヒドロキシエチルイミノジアセテート、ジヒドロキシエチルグリシン、グリコールエーテルジアミンテトラアセテート、ジカルボキシメチルグルタミン酸などが挙げられる。
これらのうち特に水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、糖酸カルシウム、塩化カルシウムなどの金属化合物が好ましく、これらと共にエチレンジアミンテトラアセテートなどのキレート剤を併用するのが好ましい。
本発明の動物繊維保護用処理剤中、前記金属又は金属塩の濃度は、金属換算で８０〜５００００ｍｇ／ｌ、好ましくは１００〜２００００ｍｇ／ｌ、更に好ましくは２００〜８０００ｍｇ／ｌである。配合量がこれより少ないと、毛髪など動物繊維への充分な保護効果が得られず、これより多くても効果の向上が見られない。
なお、有効な金属としてはカルシウムのような−ＳＯ_３Ｃａの状態で水に難溶となる金属が好ましく、マグネシウム化合物なども好ましい。カリウム、ナトリウムなどの一価金属は、本発明の効果を阻害するので、純水、イオン交換水など一価金属の少ない、あるいは含まない水を用いるのが好ましい。
【０００６】
(動物繊維保護用処理剤の調製)
本発明の保護用処理剤は、所定の金属塩などを水溶液に充分に溶解して調製することができ、所望によりエタノールなどのアルコールを加えて溶剤の揮散を促進してもよい。処理剤の剤型は、水性液、水溶液やヘアーミストとして、ヘアーローションの形態で使用してもよく、さらに水溶液を噴霧剤と共に用いてヘアスプレーとしたり、フォーム、ゲル剤などの種々の形態とすることができる。
また、本発明の処理剤には、その性能を損なわない範囲でさらに必要に応じて可塑剤(ポリエチレングリコールなど)、酸化防止剤、油分、防腐剤、紫外線吸収剤、増粘剤、香料、色素などの従来公知の成分を適宜配合してよい。
また、界面活性剤やコンディショニング成分と共に処方してシャンプー剤、リンス剤、トリートメント剤の形態として用いてもよい。
本発明の動物繊維保護用処理剤は、パーマ処理などに付随して生ずるシステイン酸に作用し毛髪など動物繊維の損傷、退色を防止し毛質の低下を防止する。システイン酸による動物繊維の損傷を大幅に減少させることができた。
(処理剤の使用法)
本発明の動物繊維保護用処理剤の使用法をヒトの頭髪に対するパーマ処理を例にとり説明する。ウェーブ処理において、頭髪を１剤処理→ウェーブ処理→２剤処理→水洗した後、安定化処理としてカルシウム塩などの二価金属塩を溶解した水溶液を毛髪全体に対し、１０〜２００ml、通常は５０ml程度、噴霧などの適宜の方法により毛髪に適用し、１〜２０分程度、好ましくは２〜１０分程度付着、含浸させた後、水洗により除去する。
【０００７】
【実施例】
つぎに本発明を実施例にもとづき、さらに具体的に説明する。
［参考例１］（毛髪処理剤）
水酸化カルシウム１０ｇ及びエチレンジアミンテトラアセテート２０ｇを、水に加えて１リットルとし、完全に溶解して毛髪処理液を調製した。
(テスト方法)
カットした毛髪１０ｇに、通常のウェーブパーマ処理を行った。すなわち、まず第１剤(チオグリコール酸)にて毛髪の還元処理を行い、つぎに加温等の物理的処理を行いウェーブパーマ加工を行った。さらに、第２剤(臭素酸ナトリウム)にて酸化処理した後、水洗し薬剤を除去した。この毛髪に前記の毛髪用処理剤２０ｍｌを噴霧し、２分間おいた後、毛髪を水洗して処理液を除去し乾燥した。この処理を各々１工程として、同一毛髪に対し、１週間毎に１０回繰り返した。１０回処理後の毛髪の損傷程度をパネラー５名による肉眼で評価した。結果を表１に示す。なお、対照については、パーマ処理後の毛髪(１０g)に対して毛髪用処理剤の代わりに水(２０ｍｌ)を噴霧した以外は同様の処理を行った。
［実施例１及び参考例２〜５］（毛髪処理剤）
表１の成分を用いた以外は、参考例１と同様にして毛髪用処理剤を調製し、評価に供した。結果を表１に示す。
［表１］

【０００８】
［実施例２及び参考例６〜１０］（毛髪処理剤）
下記の表２に示す各組成の成分を水に加えて１リットルとし、完全に溶解して毛髪処理液を調製した。この毛髪処理液を前記と同様に評価した。結果を表２にあわせて示す。
［表２］

【０００９】
［参考例１１〜１２及び比較参考例１］ (毛髪の染色)
下記の表３に示す各組成の成分を、水に加えて１リットルとし、完全に溶解し毛髪保護処理液を調製した。
（テスト方法）
下記の工程により毛髪の染色処理及びパーマ処理の両処理含む工程を５回繰り返した。ついで、テンサイルテスタ（tensile tester）により、この毛髪の引張り強伸度を測定した。得られたチャートのピークの高さより強度を測定すると共に、ピーク面積を算出した。なおピーク面積は繊維の強靱性の指標となる。
（工程）
(1)シャンプー処理 → (2)水洗 → (3)漂白(室温)＋染毛処理 → (4)水洗 →
(5)シャンプー処理 → (6)乾燥 → (7)水で濡らす → (8)パーマ１剤（32℃,10 分）→ (9)水洗 → (10)パーマ２剤（室温,15分） → (11)水洗 → (12)乾燥
上記工程中、(3)の前後及び(12)において、参考例及び比較参考例の処理剤を毛髪に用いた。
［表３］

毛髪の染色処理においては、過酸化水素を使用する。この過酸化水素によりシステイン酸が生じ、毛髪の損傷を招くが、実施例の保護処理剤により毛髪の損傷を防ぐことができた。
【００１０】
［参考例１３〜１５及び比較参考例２］ (羊毛の染色)
下記の表４に示す各組成の成分を、水に加え１リットルとし完全に溶解して保護処理剤を調製した。カットした羊毛各１０ｇに対し、アルカリ(アンモニア水)による脱脂処理、及び過酸化水素処理を行った。これら工程の前後にて、前記保護処理剤を用いて処理した。この羊毛の引張り強伸度を前記と同様に測定した。結果を表４に示す。

［表４］

表４より明らかなように参考例の処理剤にて処理した羊毛は、比較参考例のものに比べ明らかに大きな繊維強度を示す。このように参考例の処理剤を用いた場合は、動物繊維の損傷が少ないと考えられる。
【００１１】
【産業上の利用可能性】
本発明の動物繊維保護用処理剤は、パーマ処理、漂白処理などにともなう毛髪、動物繊維の損傷を防止する。

Claims (5)

1. 繊維保護成分として、水酸化カルシウム及びメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体のみを含有してなる動物繊維保護用処理剤。
2. ケラチンからなる動物繊維の酸化処理を含む過程において繊維保護処理を行うにあたり、当該酸化処理の前及び／又は後に請求項１の処理剤を用いた単一の保護処理を行うことを特徴とする動物繊維処理法。
3. ヒトの毛髪に対するパーマネントウェーブ処理において、ウェーブ処理の前及び／又は後に処理剤を接触させる請求項２の処理法。
4. ヒトの毛髪に対する染毛処理において、染毛処理の前及び／又は後に、毛髪に処理剤を接触させる請求項２の処理法。
5. 羊毛の漂白処理において、漂白処理の前及び／又は後に、処理剤を接触させる請求項２の処理法。