JP4303403B2 - バルブスライド - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷凍機、空調機等のヒートポンプシステムにおいて使用される流体の移動方向を切換るための多方弁式の切換弁におけるバルブスライドおよび樹脂製部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ヒートポンプシステムはインバータやマイクロプロセッサによるサイクル制御により機能性が向上し、他の暖房機器に比べて安全性、清浄性に優れていることから冷暖房兼用機器としてその地位を確立しつつある。また、より一層の高機能化、高効率化が図られ、暖房機器としてはより高温での連続運転が行なわれるようになってきているため、このヒートポンプシステムに使用される切換弁のバルブスライドは、シール性を長期間維持できるなどの耐久性が要求されるようになっている。
【0003】
一般的なヒートポンプシステムにおける切換弁は、電磁的に駆動されるパイロットバルブによって、複数のポートにそれぞれ所要圧力の流体を導入し、その流体圧力によってバルブスライドを有する切換弁を駆動し、複数の流体移送パイプの導通と遮断とを行なうものである。図1および図2を利用して以下にその構造を説明する。図1はヒートポンプシステムの概念図であり、図2は切換弁22の一部断面図である。冷房運転では、圧縮機21により圧縮された冷媒は切換弁22を介し室外熱交換器23に送られる。室外熱交換器23にて放熱した冷媒は、絞り機構24を通過することにより体積膨張とともに、さらに冷却される。この冷媒は室内熱交換器25で室内の冷房に使われた後切換弁22を介し圧縮機21に送られる。暖房運転では、圧縮機21より送り出された冷媒は切換弁22を介し室内熱交換器25に送られ、室内の暖房に使われた後、室外熱交換器23に送られる。上記のように切換弁22は冷房と暖房での圧縮機21より送り出された冷媒の流れ方向を切換るためのものである。なお、図1中の切換弁22は冷房運転を表している。
図2に示す切換弁におけるパイロットバルブBは、電磁コイル16と、その磁界により駆動されるプランジャ17および磁界が消失した場合にプランジャ17を元の位置に復帰させるためのスプリング18とから構成されている。
【0004】
初期の状態におけるパイロットバルブBは、プランジャ17が左側に寄っていて、弁部17aはポート5を解放し、高圧流体を流入させるポート2と導通している。この場合、弁本体Aの右側の弁室9aが高圧となり、バルブスライド1はその取付け部材と一体の隔壁19と20とともに左端に移動し、パイプ6とパイプ7とを導通する。なお、弁本体Aには、流体流入管10から高圧の熱媒体(流体)が流入する。
ついで、電磁コイル16に通電し、プランジャ17が矢印の方向にスプリング18に抗して吸引されると、弁部17aがポート3を解放して高圧流体のポート2と導通され、またポート5と低圧側のポート4とが導通する。
すると、弁本体Aの右側の弁室9aの高圧流体は低圧側ポート4から流出して低圧となり、ポート3がポート2と導通するので、高圧流体が弁室9b内に流入して高圧部を形成し、バルブスライド1は隔壁19と20とともに右端に移動してパイプ7とパイプ8とを導通する。
【0005】
ところで、弁室9cに対応する部分には、流体流入管10の流入口と複数本の流体移送パイプ6、7、8の流体流出入口が設けられている。そして、このような弁本体Aでは、バルブスライド1の弁座に対する摺接面12と弁室9c内に開口している流体の出入口6a、7a、8aとを有する弁座11の表面と気密的に接触しながら図2に示す矢印の方向に左右に摺動する。
このような切換弁は、高価な熱媒体をバルブスライド1を摺動させながら所定の入口から所定の出口に流動するように切換て、エネルギーを制御するものであるから、熱媒体(冷媒或いは熱媒のいずれであってもよい)が当該システムから漏洩しないように構成される必要があり、そのためにバルブスライド1の摺接面12と弁座11の表面とを極めて気密に接触させている。
【0006】
従来、このバルブスライド1は、ナイロン樹脂、セラミック、樹脂シートと金属製部品の複合材料などが使用されている。また、少なくとも摺動面がポリアリーレンスルフィド系樹脂とポリテトラフルオロエチレン樹脂および芳香族ポリエステル樹脂とが混合されて成形された樹脂体とから構成されるスライド弁(特開平 5-60254)、ポリフェニレンエーテル樹脂および熱可塑性エラストマーから選ばれた少なくとも一つの成分を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる樹脂体からなり、該樹脂体の曲げ弾性率が 1500 〜4000MPa であるバルブスライドが知られている(特開平 11-201304)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、冷凍サイクルにおける圧縮機の信頼性の向上、システム構成部品の耐熱性耐久性の向上を図るために、バルブスライドは、例えば 150〜200 ℃程度の高温でも十分な強度やシール性を維持する必要が生じた。
【0008】
さらに、近年地球環境を改善するために、冷凍機に用いられる冷媒もR407C、R410等のフッ素系の代替冷媒、あるいは他の新冷媒に移行しつつある。これらの冷媒は、従来の冷媒に比べ冷凍効率が劣るため、冷媒の高圧縮が必要となり、従来の 1.5倍から 2 倍程度と非常に高圧な状態で使用される。このため、従来のバルブスライド材では強度不足になり、バルブスライドの変形や破壊といった現象が生じている。
ポリフェニレンエーテル樹脂および熱可塑性エラストマーから選ばれた少なくとも一つの成分を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であっても、樹脂体の曲げ弾性率が低く、強度不足になるという問題があった。
【0009】
また、冷凍機用圧縮機では、冷凍機油に各種の添加剤(例えば、極圧添加剤、流動点調整、抗乳化性、熱安定性)を加えて回転部分の焼き付きを防止している。このため、バルブスライドは上記添加剤入り冷凍機油に耐える材料で形成する必要性が生じた。特に極圧添加剤の一部には冷凍サイクル内の水分によって高温状態の運転中に加水分解し、ナイロン樹脂などの合成樹脂製のバルブスライドを可溶化するフェノール類を生成する場合がある。この場合、ナイロン樹脂は膨張し、バルブスライドの摺動面に凹凸または泡状面(ブリスター)を形成して気密性の摺動を困難にする。
【0010】
従来の樹脂製バルブスライドは、上述のような環境下において、耐熱耐久性に劣るという問題があった。例えば、表面に微小な発泡が生じるいわゆるブリスター現象などによりシール性を維持することが困難になったり、高温高圧下での強度の低下などが生じやすく耐久性が劣ったりするなどの問題があった。
【0011】
また、セラミック製バルブスライドは、耐衝撃性に劣るため、切換時の衝撃により割れたり欠けが生じたりするおそれがあり、しかも弾力性がないので弁体として使用する場合、弁体および弁座の摺接面を精密に仕上げ加工する必要があり、製造コストの上昇を招くという問題があった。
さらに、複合材料製バルブスライドは、熱膨張係数の違いによる接合面での剥離などが生じる問題があった。
【0012】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、耐熱性に優れ、新冷媒等の高圧条件下での運転においても、変形、破壊しないバルブスライドであり、冷媒および添加剤が含有された冷凍機油に対しても十分な耐性を有して強度やシール性を維持することのできるヒートポンプシステムに使用される切換弁のバルブスライドおよび樹脂製部品を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、地球環境を改善するために用いられるフッ素系の代替冷媒であるR407CまたはR410を使用した冷凍サイクルを有するヒートポンプシステムに使用される切換弁のバルブスライドにおいて、上記バルブスライドが、ポリフェニレンスルフィド樹脂 50〜82 重量%と、炭素繊維、マイカ、タルクおよびウィスカの中から選ばれた少なくとも1種以上の異方性充填材 5〜45 重量%と、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を 3〜35 重量%とからなり、上記異方性充填材および上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂の総量が 18〜50 重量%である、曲げ弾性率が 4100〜19000 MPaであるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする。
ここで、曲げ弾性率とは、ASTM D790によって測定される曲げ弾性率をいい、測定温度は室温( 23 ℃)である。
【0015】
上記切換弁が二方向以上の多方向弁式の切換弁であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る樹脂製部品は、地球環境を改善するために用いられるフッ素系の代替冷媒を使用した冷凍サイクル内で使用され、かつ樹脂組成物を成形してなる樹脂製部品であって、この樹脂製部品は曲げ弾性率が 4100〜19000 MPaのポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の成形体であり、上記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、該樹脂組成物全体に対して、炭素繊維、マイカ、タルクおよびウィスカの中から選ばれた少なくとも1種以上の異方性充填材を 5〜45 重量%、フッ素樹脂を 3〜35 重量%含み、かつ、上記異方性充填材および上記フッ素樹脂の総量が 18〜50 重量%であることを特徴とする。また、上記代替冷媒が、R407CまたはR410であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るバルブスライドは、曲げ弾性率が 4000 MPa を超え、20000 MPa 以下のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を成形してなるので、 150〜200 ℃程度の高温でも十分な強度やシール性を維持することができる。また、冷媒および添加剤が含有された冷凍機油に対しても十分な耐性を有する。
本発明に係る樹脂製部品は、上記バルブスライドと同じ樹脂組成物を成形することにより、上述のバルブスライドの他に冷凍サイクル内の摺動部材や他の部品として使用することができる。ここで、冷凍サイクルとは、冷凍機油共存下において冷媒が圧縮、凝縮、膨張、蒸発を繰り返し、熱の移動を行なう系をいう。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のバルブスライドの一例を図3および図4に示す。図3はバルブスライドの一部切欠き断面図を、図4は該バルブスライドの底面図をそれぞれ示す。
バルブスライド1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形で成形してなる成形体であり、弁座に対する摺接面12を有する本体13より構成されている。なお、14は流体通路を、15は溝をそれぞれ示す。
【0019】
本発明に係るポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPSと略称する)は、周知の重合体であり、周知の重合反応によって合成されるが、反応直後は未架橋品であり、このままでは低分子量で低粘度であるから、押出成形、射出成形に適するように、例えば空気中において融点以下に加熱し、酸化架橋させて分子量を高めて成形に適する溶融粘度にする。このような処理をして市販されているライトンP−4(フィリップスペトローリアム社製商品名)の測定温度 300℃での溶融粘度(オリフィス:穴直径 1mm、長さ 2mm、荷重 0.98MPa)は 150〜 500Pa・s である。
【0020】
上述した架橋型PPSの溶融粘度は、150 〜2000Pa・s であり、好ましくは 160〜1000Pa・s 、より好ましくは 200〜500 Pa・s であればよい。その場合、溶融粘度が 150Pa・s より小さい架橋型PPSは、例えば冷凍サイクル内雰囲気や 150℃以上の高温域で耐クリープ特性などの機械的特性が低下し、変形しやすいので好ましくない。2000Pa・s より大きい架橋型PPSは成形性が劣り、また柔軟性が低下する。耐熱性や耐クリープ特性、バリの発生状態、またコスト等は直鎖型PPSに比べて架橋型PPSの方が優れている。
【0021】
しかしこのような架橋型PPSは、前述したように低分子量のものを酸化架橋させたものであるから、組成によっては脆弱となり、衝撃強度が低く、摺動部に異物が混入した際にも摺動面の一部が欠落して摺動面の摩耗を促進する可能性がある。
これらの脆弱性を改良するために、直鎖状のPPSを使用することができる。
直鎖型PPSは、架橋型PPSが硬質であり若干脆いという特性であることに比較して、特定の方向における引張り強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、伸び等に優れている。直鎖型PPSの市販品として呉羽化学工業社製商品名のKPS−W214が挙げられる。
【0022】
直鎖型PPSの溶融粘度は、 20 〜2000Pa・s であり、好ましくは 30 〜1500Pa・s 、より好ましくは 30 〜1000Pa・s であればよい。その場合、溶融粘度が 20 Pa・s より小さい直鎖型PPSは、例えば冷凍サイクル内雰囲気や 150℃以上の高温域で耐クリープ特性などの機械的特性が低下し、変形しやすいので好ましくない。2000Pa・s より大きい直鎖型PPSは、充填材を添加すると成形性が劣り、また柔軟性が低下する。この場合の溶融粘度の測定条件は、測定温度: 300℃、オリフィス:穴直径 1mm、長さ 10mm 、荷重 1.96MPa、測定機:高化式フローテスタ、予熱時間 6分である。なお、溶融粘度のせん断速度は、102〜104(sec-1) の条件で評価するのが一般的である。
また、上記架橋型および直鎖型の特性を持たせた半架橋型PPSもある。なお、本発明に係るPPSは、架橋型PPS、直鎖型PPSのいずれも使用することができる。
【0023】
本発明に係るバルブスライドは、曲げ弾性率が 4000 MPa を超え、20000 MPa 以下のPPS樹脂組成物の成形体である。なお、好ましくは 6000 〜 15000MPa 、最も好ましくは 8000 〜 12000MPa の範囲のものである。曲げ弾性率が 4000 MPa 以下であると、バルブスライドの摺動面がクリープ変形したり、バルブスライド自体が圧縮圧力により破壊したりするため、切換動作が困難になったり、冷媒がリークしたりする。また20000 MPa を超えると気密的シール性が保てずヒートポンプシステムの能力が低下する。
【0024】
PPS樹脂組成物に配合できる異方性充填材は、例えば球状グラファイトのような等方性充填材とは異なり、形状、膨張率、強度、屈折率などの物性が配向して現れるものをいう。
例えば、平板状、鱗片状、針状、および繊維状充填材が挙げられ、具体的には、炭素繊維、グラファイト繊維、ウィスカ、金属繊維、ガラス繊維、アスベスト、ウォラストナイト等の繊維状充填材、炭素繊維、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ、ガラス板、セリサイト、アルミフレークなどの金属箔、黒鉛などの平板状もしくは鱗片状充填材、芳香族ポリアミド繊維等の有機繊維状充填材が挙げられる。これらの異方性充填材のなかで、曲げ強さ、曲げ弾性率を向上させるのに、特に好ましくは炭素繊維、マイカ、タルク、ウィスカである。
【0025】
本発明に使用できる炭素繊維としてはPAN系およびピッチ系のどちらでもよく、曲げ強さ、曲げ弾性率の向上効果からPAN系が特に好ましい。PAN系炭素繊維の市販品としては東邦レーヨン社製ベスファイトCMF0160NS等が挙げられる。また、ピッチ系炭素繊維の市販品としては、呉羽化学工業社製M107T等が挙げられる。
【0026】
本発明に使用できる具体的なウィスカとしては、チタン酸カリウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ等が挙げられる。チタン酸カリウムウィスカの市販品としては、大塚化学社製ティスモN等が挙げられる。
【0027】
本発明に使用できるタルクとしては、一般的に市販されているタルクでよく、市販品としてはクラウンタルクPP(松村産業社製)が挙げられる。また、マイカも特に限定することなく一般的に市販されているマイカでよく、市販品としてはS325(カナダマイカ社製)が挙げられる。
【0028】
これら異方性充填材は単独でもまた併用してもよい。配合量としては、樹脂組成物全体に対して、異方性充填材を 5〜50重量%配合する。 5重量%未満では、所定の曲げ弾性率が得られず、バルブスライドの変形や破壊が発生しバルブとしての機能をはたさない。また、50重量%以上配合すると曲げ弾性率が 20000MPa を超え、バルブスライドとしてシール性が著しく悪化し冷凍効率が低下するため好ましくない。
【0029】
PPS樹脂組成物は、さらにフッ素樹脂を含むことが好ましい。フッ素樹脂は、特に限定されることなく使用できる。
また、フッ素樹脂を構成するモノマーを、例えば 1: 10 〜 10 :1 のモル比で共重合させた共重合体や 3元共重合体などの固体潤滑特性を示すフッ素化ポリオレフィン樹脂であってもよい。
【0030】
フッ素樹脂の中でも、熱分解開始温度が高く、耐熱特性に優れているパーフルオロ系のポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下PTFEと略称する)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(以下PFAと略称する)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(以下FEPと略称する)等が、PPS樹脂組成物よりバルブスライドなどを製造する過程での熱に耐えるため好ましい。例えば、PFA、FEPの溶融粘度は、約 380℃においてそれぞれ103〜104Pa・s 、約 4×104〜105Pa・s であり、またPTFEの溶融粘度は、約 340〜 380℃において約1010 〜1011Pa ・s であり、このような高温度下において約103〜1011Pa ・s 程度の溶融粘度を有するフッ素樹脂が好ましい。
【0031】
特にPTFEは、PPSの融点( 280〜290 ℃)よりも 100〜200 ℃以上熱分解温度が高いので好ましい。このPTFEは、成形用の粉末であっても、また、いわゆる固体潤滑用の微粉末であってもよい。
PTFEは、再生PTFE粉末も使用することができる。再生PTFE粉末とは、バージン材を一度焼成した後、粉砕して得られる粉末であり、このものは繊維状になり難い性質を有しており、配合した樹脂組成物を良好な溶融粘度に維持するので、成形性を改善する優れた配合材である。
フッ素樹脂としては、例えばテフロン7J、340J(いずれも三井デュポンフロロケミカル社製商品名)、テフゼル200(三井フロロケミカル社製商品名)、フルオンG163、L169、PFA−P63(いずれも旭硝子社製商品名)、ポリフロンM12、ルブロンL5(いずれもダイキン工業社製商品名)、KTL610、KT400H(いずれも喜多村社製商品名)などが例示される。
【0032】
フッ素樹脂は、その形状と大きさとを特に限定することなく用いることができるが、粒状で粒径が 70 μm 以下、好ましくは 1〜 50 μm の粒径が樹脂組成を均一にするため好ましい。
【0033】
フッ素樹脂の配合割合は、樹脂組成物全体に対して 3〜 35 重量部である。フッ素樹脂をこの範囲内で配合することにより、バルブスライドの駆動が低トルクとなり、良好な切換動作が得られる。フッ素樹脂が 35 重量部を超えると、所定の強度、弾性率が得られず、バルブスライドの強度不足により使用時の高圧のため変形が生じ、シール性を保てなくなるおそれがある。
【0034】
本発明では、また本発明の要旨を逸脱しない範囲において水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン等の無機難燃剤、ハロゲン系、リン系等の有機難燃剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、架橋剤、着色剤、可塑剤等の添加剤を添加することができる。
【0035】
本発明に係るヒートポンプシステムの切換弁においては、上述のバルブスライドを使用することにより、少なくとも二方以上の多方切換弁として応用できる。
また、本発明に係る樹脂製部品は、耐熱耐冷媒性に優れているためバルブスライド以外にも冷凍サイクル内での部品に使用できる。
【0036】
【実施例】
実施例1〜実施例8、比較例1〜比較例6
実施例および比較例に用いたバルブスライドの原材料を以下に説明する。
1)PPS:T4AG(トープレン社製商品名)
2)PTFE:KTL610(喜多村社製商品名)
3)炭素繊維:ベスファイトCMF0160NS(東邦レーヨン製商品名)
4)タルク:クラウンタルクPP(松村産業社製商品名)
5)マイカ:S325(カナダマイカ社製商品名)
6)ウィスカ:チタン酸カリウムウィスカ、ティスモ−N(大塚化学社製商品名)
7)等方性充填材:球状黒鉛、ベルパールC2000(鐘紡社製商品名)
これらの材料を表1に示した割合で配合し、二軸押出機を用いてペレット状に造粒し、後述する各試験に用いる試験片を成形した。
【0037】
(1)曲げ弾性率
80×10× 4(mm)の曲げ試験片を成形し、ASTM D790に基いて曲げ弾性率を測定した。得られた結果を表1に示した。
(2)摩擦・摩耗試験
φ17×φ21×10(mm) の円柱状に成形し、試験片とした。相手材は真鍮(表面仕上3s)とし、スラスト型摩擦・摩耗試験機にて評価した。試験条件は油中(PAG)、室温、周速 1.0 m/min、面圧 2 MPa、時間 10hである。得られた結果を表1に示した。
(3)実機耐久試験
射出成形で図3および図4に示したヒートポンプの切換弁用バルブスライド(エアコン 7Kw相当品)を形成した。図1および図2に示したヒートポンプ(新冷媒(R407C)およびこの冷媒と相溶性があり、かつ極圧添加剤を含む冷凍機油を使用)を使用し、切換弁にバルブスライドを取付け、温度 120℃、 3MPa の条件のもとで、初期および耐久運転(10,000回往復運動)後のバルブスライドのシール性、外観調査として変形の有無、発泡およびクラックの有無を目視で評価した。実機でのシール性は、冷凍サイクルからの冷媒等のリークの有無を判定して、リークがない場合を「◎」、リークが少ない場合を「△」、リークが多い場合を「×」と、それぞれ評価した。
(4)高温圧縮破壊試験
実機耐久試験と同様のバルブスライドおよび実機耐久試験と同様のヒートポンプを使用し、切換弁にバルブスライドを取付け、温度 150℃にて、 4MPa の圧力をかけ、 2時間放置し破壊や変形の有無を目視で確認した。結果を表1および表2に示す。
【0038】
【表1】
Figure 0004303403
【表2】
Figure 0004303403
【0039】
表1および表2より明らかなように、曲げ弾性率が 4000 〜 20000 MPaの範囲内にある実施例1〜実施例8は、いずれも外観に異常は認められず、シール性に問題はなく、高温圧縮破壊試験においても変形はみられなかった。
一方、曲げ弾性率が 4000 MPa 未満の比較例1、比較例3、比較例6は耐久試験後にリークがみられ、高温圧縮破壊試験でも破壊が起こった。曲げ弾性率が 20000 MPaを超えている比較例2では初期からシール性が著しく劣り、リークが多かった。比較例4、比較例5は射出成形できなかった。
【0040】
【発明の効果】
本発明に係るバルブスライドは、曲げ弾性率が 4000 MPa を超え、20000 MPa 以下のPPS樹脂組成物の成形体であるので、耐熱性に優れ、かつ新冷媒および各種の添加剤を含む冷凍機油に対して耐久性を有する。その結果、長期間高温下で連続運転が可能となる。
【0041】
また、異方性充填材を 5〜50重量%を含むので、冷凍サイクル内の使用で変形を防止するとともに、耐摩耗性も向上することにより切換弁の耐久性がより向上する。
さらに、上記異方性充填材が炭素繊維、マイカ、タルクおよびウィスカの中から選ばれた少なくとも1種以上の充填材を配合するので、バルブスライドとしての曲げ弾性率に優れ、変形や破壊が発生しない。
さらに異方性充填材とともにフッ素樹脂 1〜35重量%を含むので、異方性充填材の効果をさらに向上させ、特に摺動性が向上する。
【0042】
本発明に係る切換弁は、二方向以上の多方向弁式の切換弁であるので、冷暖房能力に優れた空調機が得られる。
【0043】
本発明に係る樹脂製部品は、冷凍サイクル内で使用され、かつ樹脂組成物を成形してなる樹脂製部品であって、上記樹脂製部品は曲げ弾性率が 4000 MPa を超え、20000 MPa 以下のPPS樹脂組成物の成形体であるので、冷凍サイクル内で使用されても耐熱耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒートポンプシステムの概念図である。
【図2】切換弁の一部断面図である。
【図3】バルブスライドの一部切欠き断面図である。
【図4】バルブスライドの底面図である。
【符号の説明】
A 弁本体
B パイロットバルブ
1 バルブスライド
2、3、4、5 ポート
6、7、8 パイプ
9 弁室
10 流体流入管
11 弁座
12 弁座に対する摺接面
13 バルブスライド主要部
14 流体通路
15 溝
16 電磁コイル
17 プランジャ
18 スプリング
19、20隔壁
21、圧縮機
22、切換弁
23、室外熱交換器
24、絞り機構
25、室内熱交換器

Claims (2)

  1. 地球環境を改善するために用いられるフッ素系の代替冷媒であるR407CまたはR410を使用した冷凍サイクルを有するヒートポンプシステムに使用される切換弁のバルブスライドであって、
    前記バルブスライドは、ポリフェニレンスルフィド樹脂 50〜82 重量%と、炭素繊維、マイカ、タルクおよびウィスカの中から選ばれた少なくとも1種以上の異方性充填材 5〜45 重量%と、ポリテトラフルオロエチレン樹脂 3〜35 重量%とからなり、前記異方性充填材および前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂の総量が 18〜50 重量%である、曲げ弾性率が 4100〜19000 MPaであるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とするバルブスライド。
  2. 前記切換弁が二方向以上の多方向弁式の切換弁であることを特徴とする請求項1記載のバルブスライド。
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