JP4251575B2 - エステル交換反応によるエステルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドなどの原料エステルから、エステル交換反応により脂肪酸エステルなどのエステルを製造する方法に関する。
エステル交換反応は、例えば、脂肪酸とグリセリンのエステルである油脂を原料として、脂肪酸エステルを製造するために用いられる。触媒としては、苛性ソーダなどのアルカリ触媒、亜鉛触媒、リパーゼなどが用いられる。また、触媒を添加せずに超臨界状態で反応行わせることも提案されている(特開平9−235573号公報、特開平7−197047号公報、特開2000−143586号公報)。
苛性ソーダなどのアルカリ触媒を用いた場合には、反応時間が長く、また、反応後に触媒の分離工程が必要となる。また、原料が遊離脂肪酸を大量に含む場合には、それを除去するための前処理が必要である。あるいは、鹸化反応が起こるためエステル交換反応が進まないなどの課題があった。亜鉛触媒を用いた場合や超臨界状態の反応では、一般に、5MPa〜8MPaのような高圧下で反応を行う必要があった。
本発明は、エステル交換反応を、短い反応時間で、かつ、常圧程度の圧力下で反応を進行させることができるエステル交換反応によるエステルの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、原料エステルとアルコールを、(A)非晶質ジルコニウム酸化物と、(B)III族元素の酸化物、V族元素の酸化物、および/またはジルコニウム、ハフニウム以外のIV族元素の酸化物を含む触媒に接触させることによりエステル交換反応が促進されることを見出した。この場合に、液相状態の原料エステルと気相状態のアルコールを、上記の(A)、(B)成分を含む固体酸触媒に接触させること、原料エステルが油脂類であり、アルコールがメタノールまたはエタノールであることが好ましい。(A)成分の非晶質ジルコニウム酸化物の含有量は、触媒重量に対し10〜99重量%、特には40〜99重量%であることが好ましい。(B)成分のジルコニウム、ハフニウム以外のIV族元素酸化物としては、チタン、珪素、ゲルマニウム、スズなどの酸化物が好ましい。また、(B)成分がIII族元素とV族元素の酸化物で構成される場合は、III族元素とV族元素の酸化物の合計の含有量が元素換算でジルコニウム元素重量に対し0.5重量%以上であり、(A)成分の非晶質ジルコニウム酸化物の含有量が触媒重量に対し10〜99重量%であることが好ましい。非晶質ジルコニウム酸化物の結晶化温度は450℃以上であることが好ましい。
触媒中のIII族元素の酸化物がアルミニウムの酸化物であり、その含有量が、ジルコニウム元素重量に対して、元素換算で40〜1重量%であること、または、触媒中のV族元素の酸化物がりん酸化物であり、りん酸化物の含有量が、ジルコニウム元素重量に対して、元素換算で8〜0.8重量%であることが好ましい。
〔原料エステル〕
本発明に用いられる原料エステルは、エステル化合物を主成分とするものであればよく、多価エステルでもよい。特には飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸(カルボン酸の炭素数が8〜24程度)のグリセリドが好ましく用いられる。具体的には油脂類といわれるトリグリセリドが好ましく用いられる。このような油脂類としては、大豆油、ヤシ油、オリーブ油、ラッカセイ油、棉実油、ゴマ油、パーム油、ひまし油などの植物性油脂や、牛脂、豚脂、馬脂、鯨油、イワシ油、サバ油などの動物性油脂があげられる。原料エステル中に遊離脂肪酸を0重量%〜30重量%、特には1重量%〜20重量%含んでいてもよい。
〔アルコール〕
本発明に用いられるアルコールとしては、炭素数が1から3のアルコール、特には、メタノール、エタノールが好ましく用いられるが、多価アルコールでもよい。
〔触媒〕
本発明で用いる触媒は、非晶質のジルコニウム酸化物を主成分とし、ジルコニウム酸化物の含有量は、(B)成分としてIII族元素の酸化物および/またはV族元素の酸化物を含む触媒の場合には10〜99重量%、好ましくは40〜99重量%、さらには80〜98重量%がより好ましい。また、(B)成分の1種としてジルコニウム、ハフニウム以外のIV族元素の酸化物を含む触媒の場合には、ジルコニウム酸化物の含有量は10〜95重量%、特には40〜80重量%がより好ましい。ここで、ジルコニウム酸化物とは、水和酸化物の形態の場合も含む。非晶質であるとは、X線回折(XRD)により、回折ピークが実質的にないことである。具体的には、回折ピークの強度が検出限界以下であるか、または、結晶性ジルコニウム酸化物による回折強度を100とした場合に、2以下のピークしか検出されないことである。
本発明で用いる触媒は、(B)成分としてジルコニウム、ハフニウム以外のIV族元素の酸化物を含むことができるが、このような酸化物としては、酸化チタン、酸化珪素などを用いることができる。酸化チタンの場合、触媒中での含有量は5〜90重量%、特には10〜60重量%が好ましく、また、酸化珪素の場合の含有量は1〜20重量%、特には、2〜10重量%が好ましい。触媒成分としてI〜II族、VI〜VII族の元素の含有量は合計で1重量%以下、特には0.2重量%以下と実質的に含まれていないことが好ましい。また、必要に応じてVIII族元素を触媒100重量部に対して0.1〜5重量部添加してもよく、この他にホウ素、アルミニウム酸化物、イットリウム酸化物、ランタノイド系列元素酸化物などをバインダーとして使用しても構わない。
また、本発明で用いる触媒の(B)成分としては、III元素またはV族元素の酸化物も有効であり、これらをジルコニウム元素重量に対し、元素換算で0.5重量%以上含む。
III族元素の酸化物としては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、イットリウムなどの酸化物を用いることができる。III族元素の酸化物の含有量は、元素重量比として、ジルコニウム元素の1/3以下が好ましく、アルミニウム酸化物の場合には、ジルコニウム元素重量に対して、元素換算で40〜1重量%、望ましくは30〜1重量%、より望ましくは25〜1重量%含むことが好ましい。
含有されているIII族元素の酸化物は、触媒表面上に酸化ジルコニウムと共に露出しており、III族元素酸化物によって酸化ジルコニウムの結晶成長が抑制される形態で触媒に含有されることが好ましい。これにより後述のように酸化ジルコニウムの結晶化温度は450℃以上となることが好ましい。III族元素酸化物が少なすぎると酸化ジルコニウムの結晶成長が促進され、多すぎるとIII族元素によって酸化ジルコニウムの多くの表面が覆われてしまうため、触媒活性は低下すると考えられる。ジルコニウム、ハフニウム以外のIV族元素の酸化物も酸化ジルコニウムに対してIII族元素酸化物について述べたと同様に作用すると考えられる。
V族元素の酸化物としては、りん、砒素、アンチモン、ビスマスなどの酸化物を用いることができる。含有量は、元素重量比として、ジルコニウム元素の1/5以下が好ましく、りん酸化物の場合にはジルコニウム元素重量に対して、元素換算で8〜0.8重量%、特には6〜1重量%含むことが好ましい。
含有されているV族元素の酸化物は、りん酸化物が触媒表面を単分子層で覆うことが好ましい。触媒はIII族元素酸化物、IV族元素酸化物およびV族元素酸化物を組合わせて含有していてもよい。いずれの場合に於いても、酸化ジルコニウムの結晶成長が抑制されており、酸化ジルコニウムの結晶化温度が450℃以上、特には500℃以上、さらには550℃以上であることが好ましい。通常は900℃以下である。結晶化温度は、熱天秤−示差熱(TG−DTA)分析に於いて、室温から加熱し、重量変化は生じないまま生じる発熱ピークのピーク温度として測定することができる。
触媒成分として前記した(A)、(B)成分およびVIII族元素以外の元素の含有量は合計で1重量%以下、特には0.2重量%以下と実質的に含まれていないことが好ましい。必要に応じてVIII族元素を触媒100重量部に対して0.1〜5重量部添加してもよい。
本発明で用いる触媒の平均粒径は2〜200μm、特には4〜40μmが好ましく、比表面積は100〜400m/g、特には150〜400m/gが好ましく、また、中央細孔直径D50は2〜10nm、特には2〜8nmが好ましい。なお、比表面積、中央細孔直径は、窒素吸脱着法により測定できる。
また、触媒を成形する際にはバインダーとしてγ、η等の結晶性を有するアルミナ等を使用しても良い。
本発明で用いる触媒となる(A)成分および(B)成分を含む複合酸化物粉体は、一般に入手可能であり、例えば、第一稀元素化学株式会社から購入することができる。なお、エステル交換反応用触媒となる複合酸化物粉体として、チタン酸化物とシリコン、スズなどのチタン以外のIV族元素酸化物を含む複合酸化物粉体を用いることもできる。
〔エステル交換反応〕
反応温度は、原料エステルが液相状態にあり、アルコールが気相状態となる温度であり、具体的には、100℃以上、特には150〜350℃が好ましい。反応圧力は特に限定されない。0.05〜0.2MPa程度の大気圧においても十分に反応は進行するが、反応圧力としては、0.1〜4MPa、特には0.1〜3MPaが好ましい。いわゆる超臨界状態で反応させてもよい。反応時間も限定されるものではないが、バッチ式反応において0.1〜1時間程度、流通式反応においては、WHSV(重量空間速度)0.5〜5/時程度で生成物を十分に得ることができる。本反応により製造されたエステルは、触媒との分離の容易さから、液相で得られることが好ましい。反応形式は、バッチ式、流動式などを用いることができる。本発明の触媒は、固定床として用いることが好ましく、生成物には含まれることなく、分離回収される。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
触媒として用いた第一稀元素化学株式会社製の複合酸化物の性状を表1にまとめる。また、比較のために、酸化ジルコニウム粉末(英国MEL社製試薬)を400℃で2時間空気中で焼成したもの(Z−1)を用いた。なお、X線回折ピークの有無は、理学電子製RAD−1C(CuKα、管電圧30kV、管電流20mA)でスキャン速度4°/分、スキャン幅0.02°で回折ピークが検出限界を超えるピークが検出されたかの有無で決定した。検出限界を超えるピークがない場合、または、焼成した酸化ジルコニウム粉末(Z−1)のピーク強度を100として、2以下のピークしかない場合は、ピークはないとした。
これらの酸化物を触媒とし触媒4gを、上下方向長さ50cm、内径1cmの固定床流通式反応器中に充填し、原料エステルとして大豆油(関東化学製)とアルコールとしてメタノールを上端から導入し、下端出口での大豆油の転化率をガスクロマトグラフィーにより、実験開始後4時間また20時間の時点で測定した。反応条件は、大気圧下、反応温度:200℃、大豆油の原料流量:3.0g/時、メタノールの原料流量:4.4g/時、WHSV:1.85/時とした。
エステル交換反応の実験結果を表1に示す。実験例1〜6の複合酸化物を触媒として用いた場合に転化率が高く、特に、非晶質ジルコニウム酸化物を含む複合酸化物を触媒として用いた実施例を示す、実験例2〜6の場合にさらに高い転化率であることがわかる。
Figure 0004251575
触媒として用いた第一稀元素化学株式会社製の複合酸化物の性状を表2にまとめる。また、比較のために、酸化ジルコニウム粉末(英国MEL社製試薬)を400℃で2時間空気中で焼成したもの(Z−1)を用いた。なお、X線回折ピークの有無は、理学電子製RAD−1C(CuKα、管電圧30kV、管電流20mA)でスキャン速度4°/分、スキャン幅0.02°で回折ピークが検出限界を超えるピークが検出されたかの有無で決定した。検出限界を超えるピークがない場合、または、焼成した酸化ジルコニウム粉末(Z−1)のピーク強度を100として、2以下のピークしかない場合は、ピークはないとした。また、結晶化温度の測定のための熱天秤−示差熱分析(TG−DTA)は、マックサイエンス製(TG−DTA2000S)で、空気流通下、昇温速度20℃/分、室温から製(TG−DTA2000S)で、空気流通下、昇温速度20℃/分、室温から1500℃まで昇温した。
これらの酸化物を触媒とし触媒4gを、上下方向長さ50cm、内径1cmの固定床流通式反応器中に充填し、原料エステルとして大豆油(関東化学製)とアルコールとしてメタノールを上端から導入し、下端出口での大豆油の転化率をガスクロマトグラフィーにより、実験開始後20時間の時点で測定した。反応条件は、大気圧下、反応温度:200℃または250℃、大豆油の原料流量:3.0g/時、メタノールの原料流量:4.4g/時、WHSV:1.85/時とした。
エステル交換反応の実験結果を表2に示す。非晶質ジルコニウム酸化物を含む複合酸化物触媒を用いた実施例を示す、実験例8〜10の場合に高い転化率であることがわかる。
Figure 0004251575
触媒として用いた第一稀元素化学株式会社製の複合酸化物の性状を表3にまとめる。また、比較のために、酸化ジルコニウム粉末(英国MEL社製試薬)を400℃で2時間空気中で焼成したもの(Z−1)を用いた。なお、X線回折ピークの有無は、理学電子製RAD−1C(CuKα、管電圧30kV、管電流20mA)でスキャン速度4°/分、スキャン幅0.02°で回折ピークが検出限界を超えるピークが検出されたかの有無で決定した。検出限界を超えるピークがない場合、または、焼成した酸化ジルコニウム粉末(Z−1)のピーク強度を100として、2以下のピークしかない場合は、ピークはないとした。また、結晶化温度の測定のための熱天秤−示差熱分析(TG−DTA)は、マックサイエンス製(TG−DTA2000S)で、空気流通下、昇温速度20℃/分、室温から1500℃まで昇温した。
これらの酸化物を触媒とし触媒4gを、上下方向長さ50cm、内径1cmの固定床流通式反応器中に充填し、原料エステルとして大豆油(関東化学製)とアルコールとしてメタノールを上端から導入し、下端出口での大豆油の転化率をガスクロマトグラフィーにより、実験開始後20〜48時間の時点で測定した。反応条件は、反応圧力:大気圧下、1.0MPa、2.0MPa、または3.0MPa、反応温度:200℃〜250℃、大豆油の原料流量:3.0g/時、メタノールの原料流量:4.4g/時、WHSV:1.85/時とした。
エステル交換反応の実験結果を表3に示す。非晶質ジルコニウム酸化物を含む複合酸化物触媒を用いた実施例を示す、実験例11〜23の場合に高い転化率であることがわかる。実験例18〜23のうち、実験例18、22は酸化チタンが他の実験例に比べてやや少ないか、または多いことにより、転化率がやや低い。
Figure 0004251575
本発明によれば、常圧程度の圧力下で、短時間にエステル交換反応を進行することができ、かつ、生成物と触媒の分離も容易である。したがって、目的とするエステルを効率よく生産することが可能となる。

Claims (7)

  1. 原料エステルとアルコールを、(A)非晶質ジルコニウム酸化物と、(B)アルミニウム、チタン、珪素から選ばれる金属の酸化物を含む触媒に接触させることによるエステル交換反応によるエステルの製造方法。
  2. 液相状態の原料エステルと気相状態のアルコールを、前記(A)、(B)成分を含む固体酸触媒に接触させる請求項1記載のエステルの製造方法。
  3. 原料エステルが油脂類であり、アルコールがメタノールまたはエタノールである請求項1記載のエステルの製造方法。
  4. 触媒中の非晶質ジルコニウム酸化物の含有量が40〜90重量%であり、チタンの酸化物の含有量が60〜10重量%である請求項1記載のエステルの製造方法。
  5. 触媒中の非晶質ジルコニウム酸化物の含有量が90〜98重量%であり、珪素の酸化物の含有量が10〜2重量%である請求項1記載のエステルの製造方法。
  6. アルミニウムの酸化物の含有量が元素換算でジルコニウム元素重量に対し40〜1重量%であり、非晶質ジルコニウム酸化物の含有量が触媒重量に対し10〜99重量%である請求項1記載のエステルの製造方法。
  7. 非晶質ジルコニウム酸化物の結晶化温度が450℃以上である請求項1記載のエステルの製造方法。
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