JP4236455B2 - チタン酸カルシウム複合多結晶繊維及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ファインセラミックス材料、プラスチック強化材、誘電体組成物、繊維組成物、樹脂組成物用充填材等として有用なチタン酸カルシウム複合多結晶繊維及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般式:RTiO3[式中、Rはアルカリ土類金属]で示されるチタン酸アルカリ土類金属塩は、強度,耐熱性,断熱性,耐摩耗性,誘電特性等を有する合成無機化合物であり、ファインセラミックス材料、樹脂組成物用充填材等として有用である。その工学的応用に関して、従来の単純な粒状粉末に代え、形状異方性による特性の向上や新たな性能の付加等を目的として、繊維形状を有するチタン酸アルカリ土類金属塩結晶の製造法が提案され、またチタン酸アルカリ土類金属塩結晶にチタニア等の他種結晶を複合化することによる物性の改良に関する報告もいくつかなされている
【0003】
チタン酸アルカリ土類金属塩に異種結晶を結合させた複合多結晶繊維の製造法として、例えば、特許文献1には、二酸化チタン水和物繊維に酸化チタンと水酸化バリウムを所定の量比で配合した混合物を水熱条件下に反応させることにより、二酸化チタン繊維の表面にチタン酸バリウムが均一に付着した複合繊維が得られ、繊維径は約0.2-3μm、繊維長は繊維径に対し10倍以上の繊維形態を有することが開示されている。
特許文献2には、繊維状チタニア化合物、無機繊維(ガラス繊維,アルミナ繊維,チタン酸塩ウィスカ,その他)を溶媒(水又は有機溶媒)に分散し、これに金属元素M(Ba,Sr,Ca,Mg,Zn,Pb等)の化合物の2種以上を含む溶液を添加して、溶液反応で金属元素Mの炭酸塩を沈着させた後、加熱処理することにより、チタン酸アルカリ土類金属塩結晶が非結晶質酸化チタンで包み込まれた形態を有する複合多結晶繊維を製造することが開示されている。
特許文献3には、酸化チタンとアルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物の混合物を一次焼成してチタン酸アルカリ土類金属塩とチタン酸アルカリ金属塩とを含む焼成反応物を得、これに酸水溶液処理(チタン酸アルカリ金属塩を水和チタン酸に組成変換)と二次焼成(水和チタン酸の構造変換)を施す工程により、チタン酸アルカリ土類金属塩結晶とチタニア結晶とが結合した複合多結晶繊維を得ることが開示されている。
また特許文献4には、チタン酸アルカリ金属繊維(四チタン酸カリウム繊維等)を高粘性水溶液に分散し粉砕の後、酸処理でチタン酸アルカリ金属をチタニア繊維に組成変換し、更にチタニア繊維の表面をM金属元素(MはMg,Ca,Ba,Zn等)の化合物(炭酸塩,水酸化物等)で被覆した後、加熱処理する工程を経ることにより、チタニア繊維の表面がチタン酸アルカリ土類金属塩で被覆された繊維を得ることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平3-69511号公報(p.2左下欄1-13行,同頁右下欄8-13行)
【特許文献2】
特開平7-309625号公報(p.2-3段落番号[0011][0017][0021)
【特許文献3】
特開平10-287424号公報(第3欄45-48行,段落番号[0014])
【特許文献4】
特許第2992667号公報(p.2-3段落番号[0008][0013][0014])
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
チタン酸アルカリ土類金属塩結晶を異種の結晶相と複合化し、かつ繊維状物として合成される複合多結晶繊維を、樹脂組成物やセラミックス組成物等の充填材として配合し、より有効にその配合効果を発揮させるには、チタン酸アルカリ土類金属塩結晶と異種結晶との結合形態や、繊維形態を適切に制御することが必要であり、またその工学的応用の拡大・多様化を図るには、特殊な装置や煩瑣な処理操作を必要としない処理工程で効率よく製造し得ることが望まれる。
本発明は、かかる要請に応えるためのチタン酸カルシウム複合多結晶繊維およびその製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のチタン酸カルシウム複合多結晶繊維は、粒状のチタン酸カルシウム結晶と粒状ないし棒形状を有するチタニア結晶とが結合してなり、平均繊維長さ/平均繊維幅の比(アスペクト比)が3〜7である板状多結晶繊維からなる。
【0007】
本発明の複合多結晶繊維の主相をなすチタン酸カルシウム結晶は、
式:CaTiO3で示されるペロブスカイト型結晶構造を有し、このものは強度、耐熱性、耐摩耗性等にすぐれた化合物であり、チタニア結晶は、硬質で良好な耐摩耗性を有する化合物である。本発明の複合多結晶繊維は、チタン酸カルシウム結晶の粒子間にチタニア結晶の粒子が分散混在した混相複合構造を有することにより、樹脂組成物やファインセラミックス組成物等を構成する充填材等として使用される場合、それぞれの単相結晶構造の繊維に比し、補強作用、耐熱性、耐摩耗性等の向上に優れた効果を奏する。
【0008】
本発明の複合多結晶繊維は、アスペクト比3〜7の板状形態を有していることにより、樹脂等に配合する場合において、従来の粒状物やウィスカー等のような針状物に比べて少ない配合比率で機能を発揮する。また用途や要求特性により配合比率を高くすることが要求される場合において、高配合比率で均一に配合し、充填密度の高い組成物を形成することができる。しかもウィスカー等の針状物に比べて配向性が低いことにより、樹脂組成物等に配向による異方性の少ない均質な特性が付与される。更に、複合多結晶繊維の板状体の表面は、チタン酸カルシウム結晶とチタニア結晶の粒子からなる微細な凹凸面をなしていることにより、繊維と樹脂との界面に高い結合強度が与えられ、補強作用等が効果的に発揮される。
【0009】
本発明のチタン酸カルシウム複合多結晶繊維の物性は、チタン酸カルシウム結晶とチタニア結晶の混在量比により変化する。補強作用や耐摩耗性、耐熱性等を高めるための充填材として、配合効果をより良く発揮させるには、混相構造に占めるチタニア結晶の量比(モル比)が0.01〜0.40であるのが好ましい。なお、チタニア結晶はアナターゼ型とルチル型との2種があり、両者を対比すると、ルチル型はアナターゼ型に比し、熱転位を起さずかつ硬質であり、耐熱性及び耐摩耗性等に優れている。このため耐熱性,耐摩耗性等が重視される用途では、チタニア結晶はルチル型であるのが好ましい。
【0010】
本発明の複合多結晶繊維は、板状多結晶形態を有し、かつ各繊維(チタン酸カルシウム結晶とチタニア結晶とからなる板状体)が凹凸粗面を呈するという特徴的形態を備えている。その繊維サイズは、好ましくは、平均繊維長30〜200μm、平均繊維幅5〜50μm、平均繊維厚1〜30μmである。この繊維サイズと併せて、各繊維の表面凹凸形態(結晶粒のサイズに依存する)は重要である。結晶粒サイズが微細に過ぎると繊維の表面凹凸効果が希薄化し、他方結晶粒サイズが過度に大きくなると、結晶粒同士の結合力が低下し繊維強度の不足(繊維の崩壊を生じ易い)により補強材等としての機能を十分に発現し得なくなり、また摩擦材用途等では対面損傷性(相手材攻撃性)の悪化等を生じ易くなる。これらの点から、好ましくはチタン酸カルシウム結晶の粒径は5μm以下、チタニア結晶の粒径ないし長軸長は10μm以下であり、より好ましくはチタン酸カルシウム結晶の粒径0.1〜5μm、チタニア結晶の粒径ないし長軸長0.1〜10μmである。このような本発明の複合多結晶繊維の繊維サイズ及び表面凹凸形態は、複合多結晶繊維の製造工程における水和チタン酸繊維の形成及び焼成条件等により制御される(後述)。
【0011】
次に本発明の複合多結晶繊維の製造方法について説明する。
本発明の複合多結晶繊維は、出発原料の加熱溶融と溶融物の冷却凝固により二チタン酸カリウム結晶繊維(K2Ti2O5)を生成する工程、生成した繊維を水和チタン酸繊維(H2Ti2O5・nH2O)に組成変換する工程、水和チタン酸繊維をカルシウム化合物等と混合し焼成反応によりチタン酸カルシウム結晶とチタニア結晶とを析出生成させる工程を経て製造される。
【0012】
[出発原料の調製]
TiO2又は加熱によりTiO2を生成するチタン化合物とK2O又は加熱によりK2Oを生成するカリウム化合物とを混合して出発原料とする。チタン化合物は、精製アナターゼ粉末、精製ルチル粉末、あるいは塩化物[TiCl2,TiCl3等]、硫酸塩[Ti(SO4)2等]、水和物[H4TiO4,H4TiO3等]などである。また天然産のルチルサンドやアナターゼサンド等を使用することもできる。カリウム化合物は、代表的には炭酸カリウム(K2CO3)であり、このほか水酸化物、硝酸塩等が使用される。なお、チタン化合物として、天然産のルチルサンドやアナターゼサンド(これらは不純物としてFe,Si,Al,Cr,V,Zr等を比較的多量に含む)を使用する場合、製品複合多結晶繊維のチタン酸カルシウム結晶及びチタニア結晶はこれらの元素を含有(置換又は浸入固溶)した組成を示すが、その含有量(合計量)が2質量%以下であれば、複合多結晶繊維の特性に実質的な悪影響を及ぼすことはない。
【0013】
チタン化合物とカリウム化合物は、TiO2/K2Oのモル比が約1.5〜2.7となるように配合される。混合量比をこの範囲に限定するのは、これを加熱溶融した後に行なう溶融物の冷却過程で、初生相として二チタン酸カリウム[K2Ti2O5]を効率よく生成させるためである。二チタン酸カリウム繊維は層状の結晶構造を有するので、後工程で行なわれる初生相繊維のKイオン溶出及び解繊処理を効率的に行なうことができる。また、K2O-TiO2二元系における上記モル比の混合物は、低温度域(約1150℃以下)で溶融反応を行なわせることができ、溶解設備のメンテナンスや熱経済性の点で有利である。
【0014】
[初生相繊維(二チタン酸カリウム結晶繊維)の生成]
上記出発原料の溶融生成物を冷却容器に注ぎ出し、一方向凝固を行なわせて塊状物を得る。塊状物は、冷却凝固時の温度勾配に沿って生成・成長した繊維状の二チタン酸カリウム結晶[K2Ti2O5]の束状凝集体である。
【0015】
[カリウム溶出・解繊処理(水和チタン酸多結晶繊維の生成)]
上記塊状物を処理液中に浸漬し、二チタン酸カリウム結晶繊維中のKイオンの全量を溶出し、これを水和チタン酸(TiO2・mH2O)に組成変換すると共に、繊維同士の結合をほぐして解繊する。この脱カリウム・解繊処理は、水を処理液として実施することもできるが、酸水溶液を使用することにより比較的少ない処理液量で効率良く所定の処理を達成することが可能である。そのような酸処理液として、例えば0.8%以上の塩酸水溶液、0.8%以上の硫酸水溶液等が使用される。二チタン酸カリウム結晶(層状構造)のKイオンはH+,H3O+等で置換されると共に、これに伴う膨潤・剥離により解繊が進む。Kイオンの溶出・解繊を促進するために、プロペラ攪拌や高速剪断攪拌等が必要に応じて適宜施される。生成した水和チタン酸繊維を液中から回収し、必要に応じこれを洗浄したうえ、脱水乾燥する。水和チタン酸繊維は、平均長さ約50〜300μm、平均幅約5〜50μm、平均厚さ約1〜30μm、アスペクト比(平均長さ/平均幅)約3〜7の板状繊維形態を有する。この繊維サイズは解繊処理における攪拌条件(攪拌速度,時間等)により調整される。
【0016】
[焼成原料の調整]
上記で得た水和チタン酸繊維(TiO2・mH2O)の粉末に、CaO又は加熱によりCaOを生成するカルシウム化合物粉末を添加し、更にこれにフラックス成分とを混合して焼成原料を調製する。
カルシウム化合物は、酸化物、水酸化物、ハロゲン化合物(塩化物,臭化合物,ふっ化物等)、又は炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、又は酢酸塩、蓚酸塩、ステアリン酸塩等のカルボン酸塩やアルコキシド等の有機化合物等であって、焼成反応温度域で分解しCaOを生成する化合物が適宜使用される。
水和チタン酸繊維に対するカルシウム化合物粉末の配合量比は、CaO/TiO2(モル比)が0.60〜0.99となるように調整する。この配合量比の調整により、製品複合多結晶繊維に、TiO2/(CaTiO3+TiO2)(モル比)が0.01〜0.40である混相構造が付与される。
【0017】
上記混合物(水和チタン酸繊維+カルシウム化合物粉末)に配合されるフラックスは、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs等)のハロゲン化合物(ふっ化物,塩化物,臭化物,よう化物等)であり、その1種の単独添加または2種以上の複合添加とされる。複合添加の場合、例えば塩化ナトリウム(NaCl)と塩化カリウム(KCl)とを、NaCl/KCl(モル比)約0.5/1〜1/0.5の割合で混合使用することは、それらの単独使用に比し、フラックスの融点が低くなり焼成処理を比較的低温域で行なうことを可能とするので熱経済性の面で有利である。
【0018】
フラックスは、焼成工程で融液を生成し、融液を介して水和チタン酸繊維と酸化カルシウムとの反応が進行する。これにより、水和チタン酸の板状繊維形態がほぼそのまま保持される状態のもとで、チタン酸カルシウム結晶(CaTiO3)とチタニア結晶(TiO2)を析出生成することが可能となる。フラックスの配合量比は、上記混合物(水和チタン酸繊維+カルシウム化合物粉末)100重量部に対し5重量部〜100重量部の範囲に調整するのが好ましい。5重量部以上とすることにより、水和チタン酸結晶と酸化カルシウムとの反応を促進させ、チタン酸カルシウム(CaTiO3)の生成効率を高めることができる。他方100重量部を超える多量配合とする利益はなく、焼成処理後に行なわれるフラックス除去処理の負担が大きくなる。
【0019】
[焼成処理]
上記混合物(水和チタン酸繊維+酸化カルシウム+フラックス)の焼成処理は、800〜1200℃に加熱し適当時間(例えば0.5〜5Hr)保持することにより首尾よく達成される。フラックスの量比を多くすれば800℃より低い温度域で焼成反応を行なわせることも可能であるが、低温処理では結晶粒の成長が少なく、結果として繊維の表面凹凸効果を確保し難くなる。また1200℃を超える高温処理では、生成する結晶粒の成長肥大化による結晶粒同士の結合力の低下(繊維強度の低下)を招き、更には板状多結晶繊維形態の保持が困難となる。かかる観点から、本発明はフラックス量比を前記のように規定すると共に、焼成温度を800〜1200℃に規定することにより、水和チタン酸繊維と酸化カルシウムとの反応(TiO2+CaO→CaTiO3)を効率よく進めると共に、析出生成するチタン酸カルシウム及びチタニアの結晶サイズを制御し、好適な繊維サイズ及び凹凸表面形態を確保している。
【0020】
上記焼成反応過程において、酸化カルシウム(CaO)の全量が反応消尽した後に残る水和チタン酸のTiO2分は、チタニア結晶(アナターゼ型又はルチル型)として析出生成する。その析出生成量は、前記焼結原料のCaO/TiO2のモル比により一義的に定まる。このように本発明の複合多結晶繊維を形成するチタン酸カルシウム結晶とチタニア結晶は、焼成反応による析出生成物として形成されるので、結晶粒同士の結合が強固であり、安定な混相構造を形成する。なお、チタニア結晶の構造(アナターゼ相とルチル相)は焼成温度に依存し、比較的低温域(約970℃以下)の焼成処理で生成するチタニア結晶はアナターゼ型、比較的高温域(約1050℃)の焼成処理で生成するチタニア結晶はルチル型であり、その中間温度域ではアナターゼ型とルチル型とが混在したチタニア結晶となる。
【0021】
[焼成反応生成物の洗浄処理(フラックス成分等の分離除去)]
焼成反応を終えた後、反応生成物を含む焼成物を水又は温水で洗浄処理することにより、フラックス成分を除去する。処理効率を高めるために、必要に応じて処理液にプロペラ攪拌機等による攪拌が適宜加えられる。処理液から固形分を回収し、洗浄、脱水・乾燥することにより、目的物であるチタン酸カルシウム複合多結晶繊維を得る。その繊維形態は、前記水和チタン酸繊維の板状形態を受継ぎ、平均繊維長:約30〜200μm、平均繊維幅:約5〜50μm、平均繊維厚:約1〜30μm、アスペクト比(平均長さ/平均幅):約3〜7である。
【0022】
本発明のチタン酸カルシウム複合多結晶繊維は、単独もしくは適宜の結合剤と混合し、または高分子材料と複合化して樹脂組成物を調製し、成形体,塗料,フィルム等として使用され、また他種セラミックスと複合化して繊維強化セラミックス,あるいは誘電体・圧電体材料等として利用される。具体的な適用に当っては、必要に応じて、樹脂等の基材との結着性や分散性を高めるための表面処理、例えばシラン系カップリング剤(アミノシラン,ビニルシラン,エポキシシラン等)、チタネート系カップリング剤(イソプロピルトリイソステアロイルチタネート等)による表面処理が常法に従って施される。
【0023】
自動車用ブレーキパッド等の制動部材として使用される摩擦材を例に挙げると、本発明の複合多結晶繊維を基材とし、これを樹脂成分(例えばフェノール樹脂,ホルムアルデヒド樹脂,エポキシ樹脂,シリコーン樹脂等)に適量(例えば3〜50重量%)配合し、必要に応じて公知の摩擦調整剤(例えば硫酸バリウム等)を適宜添加して組成物を調製し、これを加熱加圧下に結着成形することにより、改良された耐摩耗・耐熱性、摩擦特性を得ることができる。
【0024】
【実施例】
[実施例1]
(1)出発原料の調製:
TiO2源として精製アナターゼ粉末(純度99.8%)およびK2O源として工業用炭酸カリウム粉末(99.5%)を、TiO2/K2Oモル比が2となる割合に混合。
(2)加熱溶融及び冷却固化(初生相繊維の生成):
出発原料を白金るつぼに入れ、1050℃で40分間を要して加熱溶融。
加熱溶融物を、銅製の皿状容器に流し込み、一方向冷却により二チタン酸カリウム繊維の束状集合体を含む塊状物を得る。
【0025】
(3)脱カリウム・解繊処理(水和チタン酸繊維の生成):
上記塊状物を50倍量の水に一夜浸漬した後、塊状物の70重量%に相当する量の工業用硫酸(62.5%)を添加し、プロペラ攪拌機による高速攪拌下、2Hrを要してカリウムの全量溶出及び解繊を行なう。解繊された繊維を、処理液中から回収し、脱水後、乾燥(120℃×12Hr)して板状形態の水和チタン酸繊維(TiO2・nH2O)を得る。
【0026】
(4)焼結原料組成物の調製:
前記工程で得られた水和チタン酸繊維に、炭酸カルシウム(CaCO3)粉末を、CaO/TiO2モル比が0.8/1となる割合に配合する。更にこの配合物100重量部に対し、フラックスとして塩化カリウム(KCl)50重量部を配合し、水50重量部加えて混練する。
【0027】
(5)焼成処理及びフラックス除去処理:
混練組成物をアルミナるつぼに入れ、1100℃に1Hr保持し、焼成反応生成物を得る。焼成反応生成物を20倍量の水(重量比)に投入し、攪拌を加えてフラックス成分を分離したのち、繊維を液中から回収し、脱水乾燥して繊維を得る。
【0028】
得られた複合多結晶繊維の結晶構造(X線回折)及び繊維形態(走査型電子顕微鏡観察)は次のとおりである。
【0029】
[実施例2]
(1)初生相繊維(二チタン酸カリウム繊維)の生成:
出発原料のチタン化合物として、精製アナターゼ粉末に代え、天然ルチルサンド(純度95%)を使用した以外は、実施例1の工程(1)(2)と同一の工程により二チタン酸カリウム繊維の束状集合体を含む塊状物を得る。
【0030】
(2)脱カリウム・解繊処理(水和チタン酸繊維の生成):
塊状物を50倍量の水に一夜浸漬した後、繊維塊の70重量%に相当する量の工業用硫酸(62.5%)を添加し、家庭用ミキサーでの高速攪拌下に30分を要してカリウムの全量溶出と解繊を行なう。解繊された繊維を処理液中から回収し、脱水後、乾燥(120℃×12Hr)し板状形態の水和チタン酸繊維(TiO2・nH2O)を得る。
【0031】
(3)焼成原料組成物の調製:
前記工程で得られた水和チタン酸繊維に、アルカリ土類金属化合物として、炭酸カルシウム(CaCO3)粉末を、CaO/TiO2モル比が0.95/1となる割合に配合する。更にこの配合物100重量部に、フラックスとして塩化カリウム(KCl)20重量部を配合したうえ、水50重量部加えて混練する。
【0032】
(4)焼成処理及びフラックス除去処理:
上記混練された組成物をアルミナるつぼに入れ、950℃に1Hr保持し、焼成反応生成物を得る。焼成反応生成物を40倍量(重量比)の水に投入し、攪拌を加えてフラックス成分を分離したのち、繊維を液中から回収し、脱水乾燥して繊維を得る。
【0033】
得られた複合多結晶繊維の結晶構造(X線回折)及び繊維形態(走査型電子顕微鏡観察)は次のとおりである。なお、蛍光X線による元素分析において、結晶の主構成元素であるCa及びTiのほかに、チタン化合物として使用した天然ルチルサンドの不純分元素であるFe,Si,Al,Cr,Zr等が検出された。これらの不純分元素含有量(合計)は約1.5質量%であった。
【0034】
図1([I][II])は、実施例1で得られた複合多結晶繊維の繊維形態([I]図:倍率×100、[II]図:倍率×2000)を示している。複合多結晶繊維は、粒状のチタン酸カルシウム結晶粒とこれに混在したチタニア結晶粒との混相構造を有し、繊維表面はこれらの結晶粒からなる微細凹凸面をなしている。
なお、図2([I][II])は、前記実施例1における水和チタン酸繊維(焼成処理前である)の繊維形態([I]図:倍率×100、[II]図:倍率×2000)を示している。その繊維表面は水和チタン酸からなる平滑面を呈している。図1(焼成処理後)と図2(焼成処理前)との比較から、本発明の複合多結晶繊維は、水和チタン酸繊維の板状形態(繊維長・繊維幅、厚さ)をほぼそのまま受継ぎながら、焼成処理(チタン酸カルシウム結晶及びチタニア結晶の析出生成反応)による凹凸表面が形成されることがわかる。
【0035】
[参考例-制動部材(ブレーキ・ディスクパッド)とその摩擦特性-]
下記の組成物を調製し、常法に従って予備成形(加圧力:16MPa,時間:1min,温度:常温)、金型による結着成形(加圧力:24MPa,時間:10min,温度:180℃)を行ない、離型後、熱処理(180℃×3Hr)し次いで研磨加工を施して供試ディスクパッドA及びBを得た。
基材繊維 30重量部
結合剤(フェノール樹脂) 20重量部
摩擦調整剤(硫酸バリウム) 50重量部
[ディスクパッドA]
基材繊維:本発明の複合多結晶繊維(「CaTiO3/TiO2(モル比)4/1」=実施例1の生成物)を使用。
[ディスクパッドB]
基材繊維:チタン酸カルシウム(CaTiO3)単相結晶の板状繊維を使用。
【0036】
下記の表は、JIS D4411「自動車用ブレーキライニンギグ」の規定に準拠した定速度摩擦摩耗試験により得られたディスクパッドA及びBの摩擦特性を示している。ディスクパッドA(基材=本発明の複合多結晶繊維使用)は、ディスクパッドB(基材=チタン酸カルシウム単相結晶繊維使用)を凌ぐ摩擦特性を有している。
【0037】
【表1】
【0038】
【発明の効果】
本発明のチタン酸カルシウム複合多結晶繊維は、チタン酸カルシウム結晶とチタニア結晶の混相構造の効果として、チタン酸カルシウム結晶単相繊維を凌ぐ強度,耐摩耗性,耐熱性を有し、また繊維形態の効果として樹脂組成物やセラミックス組成物の調製において高配合・高密度充填を可能とし本発明の複合多結晶繊維の配合効果を最大限に発揮させることができる。本発明の複合多結晶繊維は、特殊な装置や煩瑣な処理条件を必要とせず、経済的に有利に製造することができ、工学的用途の拡大・多様化を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合多結晶繊維の繊維形態を示す顕微鏡像([I]図:倍率×100、[II]図:倍率×2000)である。
【図2】水和チタン酸繊維(焼成処理前)の繊維形態を示す顕微鏡像([I]図:倍率×100、[II]図:倍率×2000)である。
Claims (4)
- 粒状のチタン酸カルシウム結晶と粒状ないし棒形状を有するチタニア結晶とが複数結合してなる多結晶繊維であって、チタン酸カルシウム結晶の粒子間にチタニア結晶の粒子が分散混在した混相複合構造を有し、平均繊維長/平均繊維幅の比が3〜7の板状であるチタン酸カルシウム複合多結晶繊維。
- 複合多結晶繊維に占めるチタニア結晶の量比(モル比)は0.01〜0.40である請求項1に記載のチタン酸カルシウム複合多結晶繊維。
- 板状多結晶繊維は、平均繊維長30〜200μm、平均繊維幅5〜50μm、平均厚さ1〜30μmであり、チタン酸カルシウム結晶の粒径5μm以下、チタニア結晶の粒径もしくは長軸長10μm以下である請求項1又は2に記載のチタン酸カルシウム複合多結晶繊維。
- 粒状のチタン酸カルシウム結晶と粒状ないし棒形状を有するチタニア結晶とが結合してなり、平均繊維長さ/平均繊維幅の比が3〜7である板状多結晶繊維からなるチタン酸カルシウム複合多結晶繊維の製造方法であって、
TiO2又は加熱によりTiO2を生成するチタン化合物と、K2O又は加熱によりK2Oを生成するカリウム化合物とを、TiO2/K2Oモル比が1.5〜2.7となる割合で配合した原料混合物を加熱溶融し、
溶融生成物を冷却凝固して得られる繊維状二チタン酸カリウム結晶を含む塊状物を酸水溶液で処理することにより二チタン酸カリウム結晶中のカリウムの全量を溶出すると共に、繊維サイズを調整された板状形態の水和チタン酸繊維を得た後、上記水和チタン酸繊維に、CaOもしくは加熱によりCaOを生成するカルシウム化合物を、CaO/TiO2のモル比が0.60〜0.99となる比率で混合し、その混合物100重量部に対し、フラックスとしてアルカリ金属ハロゲン化物を5〜100重量部配合して均一に混合したうえ、
上記混合物を800〜1200℃で焼成処理することにより、水和チタン酸繊維を、チタン酸カルシウム結晶とチタニア結晶とが結合した多結晶繊維に変換せしめ、ついで焼成物中に残留するフラックスを水で溶解除去することを特徴とするチタン酸カルシウム複合多結晶繊維の製造方法。
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