JP3643915B2 - 新規なケイ酸カルシウムウィスカー及びその製造方法 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は新規なケイ酸カルシウムウィスカー及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、新素材として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セメント、金属、セラミックス等に各種の繊維状材料を配合した複合材料が種々研究開発されており、該複合材料としては高強度、高剛性、耐摩耗性等の機械特性は勿論のこと、更なる低コスト化とファイン化が要求されている。
【0003】
斯かる目的に用いられる繊維状材料としては、各種のウィスカーが有用であることが知られており、例えば非酸化系ウィスカーとしては窒化ケイ素ウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化チタンウィスカー及び炭化チタンウィスカー等が知られている。また、酸化物系ウィスカーとしては、チタン酸アルカリウィスカー、ホウ酸マグネシウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー、ケイ酸アルミニウムウィスカー、石膏ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及び酸化亜鉛ウィスカー等が知られている。
【0004】
これらの中でもケイ酸カルシウムウィスカーは、天然に繊維状ワラストナイトとして産出される非常に安価な材料であるため、補強性、耐熱性、断熱性等の特性を発現させるフィラーとしてポルトランドセメント原料やプラスチック強化剤等に広く使用されている。
【0005】
しかしながら、天然ワラストナイトは前記の如き特性の向上に寄与する一方で、その粉末中及び結晶中に多くの不純物を含有している。このような不純物としては、産出地や製品種等によって異なるものの、多くの場合、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム等である。例えば、中国産ワラストナイトの場合、比較的低不純物のワラストナイトであるにも拘わらず、全量に対してAl2 O3 、Fe2 O3 及びMgOは、それぞれ約0.4%、約0.3%、約0.6%含まれている。更に、中国産ワラストナイトは、繊維形状の分布幅が大きく、また粒子状物を多量に含有している。このような不純物や粒子状物が含有されていると、これを樹脂等と複合化した場合に、その機械特性を十分高度なものとすることができなくなる。加えて、天然ワラストナイトは、天然物であるが故に、特に高精度の特性が要求される分野においてはロット間でのスペックを十分安定させることは困難である。
【0006】
こうしたことから、ケイ酸カルシウムウィスカーを合成することも試みられており、従来次のような方法が提案されている。
【0007】
第一の方法は、特開昭54−109096号公報に記載されている方法で、予め水熱合成等により高純度のケイ酸カルシウム水和物を合成し、この化合物を加熱処理することにより脱水、結晶転化させ高純度のケイ酸カルシウムを得る方法である。しかしながら、この方法によっては充分な繊維長を有するケイ酸カルシウムウィスカーを得ることはできず、繊維長のバラツキの大きなケイ酸カルシウムウィスカーしか得られなかった。
【0008】
その一つの原因は加熱処理における脱水、結晶転化時に繊維形状の劣化、多結晶化及び繊維間の融着が起きることにある。他の一つの原因は、原料として用いられる現在入手可能な合成繊維状ケイ酸カルシウム水和物が、製造時にその繊維形状において非常に分布の広く、しかも繊維成長方向に対し中央方向に最大直径を有する、先端部の尖った針状の化合物であり、且つ単に加熱処理した場合の目的物の形状が原料の繊維状ケイ酸カルシウム水和物とトポタクティックな関係を有するためである。従って、得られた繊維状ケイ酸カルシウムは繊維集合体や多結晶化の進んだ繊維を多く含み、且つアスペクト比(長径/短径比)が低く、補強性能に劣る繊維状物となるのが避けられない。
【0009】
第二の方法は、特開昭48−41999号公報に開示されたケイ酸質原料と石灰質原料とからなる水性混合物を水熱処理することにより安価なケイ酸カルシウムを得る方法であるが、この方法によっては粒子状のケイ酸カルシウムしか得ることができない。
【0010】
第三の方法として、特開昭58−20714号公報には、直接ケイ酸カルシウムの構成成分である酸化カルシウム成分と酸化ケイ素成分とから焼成反応により結晶化ガラス体中に繊維状ケイ酸カルシウムを生成させ、その後、ガラス相を溶出させて繊維状ワラストナイト結晶を得る技術が開示されている。しかしながら該方法では得られる繊維状物の他に、溶出除去しきれないガラス相が不純物として残ることは否めない。更に、この製造方法には水熱合成法としては比較的高温高圧を必要とするため高価な製造装置を必要とする上、製造に伴う危険性が高い。加えて、反応装置中の温度を均一に保つことは困難であるため、ガラス成分の溶融粘度が相違し、それに伴い一般にガラス表面層付近の繊維の成長性が他の部分よりも高くなり、該部分の繊維が粗大で欠陥を多く含むものになるという不都合を生じる。その結果、得られる繊維状ケイ酸カルシウムの形状は非常に不均一となる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術の欠点に鑑み、繊維長分布が小さく含有不純物の少ないケイ酸カルシウムウィスカー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記の課題の解決するため克明な研究を重ねた結果、極めて優れた方法を見い出し、それにより従来のケイ酸カルシウム繊維に比べて繊維長分布が小さく含有不純物の少ない極めて有用性の高いケイ酸カルシウムウィスカーの製造に成功し、ここに本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明のケイ酸カルシウムウィスカーは、化学式 CaO・SiO2 で示されるケイ酸カルシウムウィスカーにおいて、該ウィスカーの長さの標準偏差値が平均長さに対して60%以内である繊維形状の分布の狭いケイ酸カルシウムウィスカーである。
【0014】
本発明のケイ酸カルシウムウィスカーは、例えば一般式 aCaO・SiO2 ・nH2 O(但し、0.5≦a≦2.0、0<n≦2.0)で示されるケイ酸カルシウム水和物をアルカリ金属の硫酸塩及び/又はアルカリ金属の塩化物の中から選ばれた少なくとも1種の溶融剤の存在下、900〜1200℃の温度で加熱処理することにより製造される。
【0015】
この方法によれば、ケイ酸カルシウム水和物を溶融材の存在下で加熱処理しているので結晶転化及び繊維形状の変化を伴いケイ酸カルシウムウィスカーを育成することができる。これにより、繊維状ケイ酸カルシウムウィスカーが、多結晶化することなく、アスペクト比の高い良好な繊維が得られると同時に、繊維状ケイ酸カルシウム水和物であった際には集合体であったものが一つ一つ単離され、微細な繊維状物は溶融−再結晶化により形状の極めて揃った繊維形状となる。
【0016】
尚、加熱によりCaO 成分となる原料及び加熱によりSiO2 成分となる原料の混合物を、溶融剤の存在下に加熱処理することによってもケイ酸カルシウムウィスカーを得ることができるが、生成物の一部融着により解繊が困難であったり、生成物の繊維長分布が広くなるといった欠点を有しているため好ましくない。
【0017】
本発明において、原料として用いられるケイ酸カルシウム水和物としては、特に制限はなく、一般式 aCaO・SiO2 ・nH2 O(但し、0.5≦a≦2.0、0<n≦2.0)で示されるケイ酸カルシウム水和物である限り製造方法や結晶化度を問わず、従来公知のものを広く使用できる。但し、本発明の目的とするケイ酸カルシウムウィスカーの不純物量は、原料であるケイ酸カルシウム水和物の不純物量に依存するため、ケイ酸カルシウム水和物を合成する際の原料はできるだけ高純度のものが望ましい。ケイ酸カルシウム水和物中の結晶水量は該繊維を合成した後の乾燥条件により異なるものの、結晶構造が無水ケイ酸カルシウムにならない程度の乾燥条件であれば問題なく本発明の製造方法に使用できる。またケイ酸カルシウム水和物を合成した際に起こる繊維集合体の生成は本発明の生成物形状等には何等影響を及ぼすものではない。本発明では、溶融剤との混合の際の混ざりを良くするために、ケイ酸カルシウム水和物を合成後、水溶液中にて有機系表面活性剤等を使用することにより分散性を向上させることもできる。
【0018】
本発明で用いられる溶融剤は、アルカリ金属の硫酸塩及び/又はアルカリ金属の塩化物の中から選ばれた少なくとも1種である。アルカリ金属の硫酸塩としては例えば硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を、アルカリ金属の塩化物としては例えば塩化カリウム、塩化ナトリウム等をそれぞれ挙げることができる。
【0019】
アルカリ金属の硫酸塩及びアルカリ金属の塩化物は、加熱処理時の溶融粘度が低いので、育成するケイ酸カルシウムウィスカーの粗大粒成長を抑えることができる。
【0020】
上記溶融剤は、原料であるケイ酸カルシウム水和物に対して50〜500重量%の範囲で添加するのが好ましく、100〜400重量%の範囲で添加するのがより好ましい。溶融剤の添加量を50重量%以上とすることにより、生成する繊維中に繊維集合体や微細な繊維状物の残存が殆どなく、解繊の容易な目的物を得ることができ、また得られるケイ酸カルシウムウィスカーの繊維長分布も小さくすることができる。また溶融剤の添加量を500重量%未満とすることで粗大粒子の生成を抑えることができ、繊維形状をより均一にすることができると共に、生産効率も向上する。
【0021】
これらの溶融剤は、添加に先立って、予めジェットミル等により粒度を細かくしてから乾式混合してもよい。また繊維状ケイ酸カルシウム水和物を合成した際の水溶液中に溶融剤を溶解し湿式混合した後、噴霧乾燥等の方法により乾燥混合物としてもよい。湿式混合に際しては、必要に応じてマイコロイダーのような砥石の高速回転により液状物と固体状物とを混合する装置を用いることにより、効率の良い原料の製造ができる。
【0022】
加熱処理は通常900〜1200℃、好ましくは950〜1150℃の温度範囲にて通常10分間〜10時間程度行うのがよい。加熱処理温度を900℃以上とすれば、ケイ酸カルシウム水和物、繊維集合体の残存を防ぐことができるので好ましい。また加熱処理温度を1200℃以下にすることで繊維形状の劣化や繊維間の融着、繊維形状の不均一等を防ぐことができる。
【0023】
加熱処理により得られた生成物は、水、アルカリ水溶液の熱水溶液、温水溶液もしくは希薄酸水溶液中に水溶成分を溶出させることができ、濾別、水洗、乾燥、必要に応じて分級して、繊維形状の極めて揃ったケイ酸カルシウムウィスカーを得ることができる。
【0024】
本発明の新規なケイ酸カルシウムウィスカーは極めて狭い範囲の繊維形状分布のフィラーであると共に、含有不純物量が少なく補強性、耐熱性、断熱性及び耐アルカリ性に優れているので、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、セメント、金属、セラミックス等の補強材、耐熱材、断熱材、更には耐食材、フィルター材料として極めて有用である。
【0025】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を掲げて本発明をより一層明らかにする。
【0026】
実施例1〜4
塩化ナトリウム(80g、60g、30g)を水500mlに溶解し、これに繊維状ケイ酸カルシウム水和物(合成ゾノトライト)20gを添加して、マイコロイダーで解繊した後、100℃で乾燥した。この混合物を粉砕し、加圧成形し、表1に示す温度で加熱処理した後、放冷し温水中で解繊してケイ酸カルシウムウィスカーを得た。得られたケイ酸カルシウムウィスカーの物性を表1に示す。
【0027】
尚、平均繊維長及び繊維長標準偏差は、東洋インキ製造(株)製の画像処理装置LUZEX− を用いて測定した。また不純物量は、理学電機工業(株)製の蛍光X線分析装置RIX−3000にて測定した。
【0028】
実施例5
溶融剤として塩化ナトリウムに代えて塩化カリウム80gを用いる以外は実施例1と同様にして、ケイ酸カルシウムウィスカーを得た。得られたケイ酸カルシウムウィスカーの物性を表1に示す。
【0029】
実施例6
塩化カリウム40g及び硫酸カリウム40gを水500mlに溶解し、次いで実施例1と同様にケイ酸カルシウムウィスカーを製造した。得られたケイ酸カルシウムウィスカー物性を表1に示す。
【0030】
実施例7
実施例1と同一配合組成の混合物を1150℃にて5時間加熱処理後に2℃/分で800℃まで徐冷を行なった。得られたケイ酸カルシウムウィスカー物性を表1に示す。
【0031】
【表1】
実施例8
実施例1、実施例6及び実施例7で得られたフィラー及び天然ワラストナイト(PARTEK社製 商品名wicroll 10)をナイロン6,6(旭化成工業(株)製 商品名レオナ1300S)に40重量%の配合組成にて、270℃に設定した45mmφ二軸押出機にて押出造粒化した。その後、シリンダー温度280℃、射出圧力800kg/cm2 、射出時間10秒、金型温度80℃の条件で射出成形を行い、物性測定用テストピースを作成した。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
表2の結果から本発明のフィラーが天然ワラストナイトに比べて機械物性の向上においても極めて優れたフィラーであることがわかる。
【0033】
比較例1
繊維状ケイ酸カルシウム水和物を溶融剤を加えることなく、そのまま1100℃で3時間加熱処理した。得られた生成物の繊維形状は小さく、凝集物の多い繊維集合体であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は原料のケイ酸カルシウム水和物(ゾノトライト)の繊維形状を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】図2は実施例1で得られた生成物のSEM写真である。
【図3】図3は比較例1で得られた生成物のSEM写真である。
【図4】図4は天然ワラストナイトのSEM写真である。
【図5】図5は実施例1で得られた生成物と天然物の粒度分布の比較を示すグラフである。
Claims (1)
- 一般式 aCaO・SiO2 ・nH2 O(但し、0.5≦a≦2.0、0<n≦2.0)で示されるケイ酸カルシウム水和物をアルカリ金属の硫酸塩及び/又はアルカリ金属の塩化物の中から選ばれた少なくとも1種の溶融剤の存在下、900〜1200℃の温度で加熱処理することを特徴とするケイ酸カルシウムウィスカーの製造方法。
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